臨床決断のエッセンス
不確実な臨床現場で最善の選択をするために

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どんなに医学が進歩しても,医療から不確実性を取り除くことはできない。不確実ななかで,患者に最良の助言をするためには,どうしたらよいか。本書は「わからないこと」があっても,安心して自信をもって決断を下すための本である。訳書ではあるが,読者の理解を助けるために42のサイドメモを補った。医学生・研修医必読。
今井 裕一
協力 秋田大学医学部EBM研究会
発行 2002年03月判型:A5頁:152
ISBN 978-4-260-13892-5
定価 2,420円 (本体2,200円+税)
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序論
第1章 臨床医のための決定分析
第2章 物事の起こりやすさとは?
第3章 治療:有害事象,改善,利益
第4章 治療と治療閾値
第5章 病気のlikelihoodと検査
第6章 臨床での決断:概念の統一
第7章 臨床における決断の事例
第8章 デシジョン・ツリー
エピローグ
付録
参考文献

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臨床現場における決断を助けるツールを身につけるために
書評者: 玉腰 暁子 (名大大学院助教授・医学推計・判断学)
◆医療現場でのEBM

 EBM(Evidence-Based Medicine)流行の昨今,医学生,医師であれば,EBMあるいは臨床疫学という言葉はよく耳にされるであろう。しかし,EBMは論文を批判的に読むことだと誤解したり,臨床疫学は研究だから普通の臨床現場では関係がないと思われることも少なくないようである。
 医療の現場では,日々刻々と判断を迫られる。患者が受診する都度,ゆっくり教科書を開き,論文を検索している余裕はないのが現状であろう。
 何らかの症状を訴えて受診した患者に対して必要な究極の判断は,どのような治療が必要か(不必要か)である。その判断を下すために確実に診断をつけたいと考え,多くの検査がオーダーされる。しかし,そもそも医療現場で確実なことはあまり多く存在しない。人という存在そのものがファジーだとも言えるかもしれないし,検査をすることで不確実性がむしろ増すこともあろう。

◆医師にとって必要な臨床決断――無意識下の作業の意識化

 確実ではなくても,患者に対して何らかの判断を迫られるのが臨床である。目の前の患者がある疾患に罹患している可能性はどの程度か,どのような状況下でどのような検査が求められるのか,どのような治療が必要かを,常に意識をしている医師を受診した患者は幸せである。本書は何故そのような判断が求められるのか,どのようなプロセスで判断にたどりつけばよいのか,わかりやすい言葉,事例を用いて書かれている。
 もちろん当然のことながら,この本を読んだからといって,目の前の患者がある疾患にかかっている確率はわからない。また必要な検査について述べられているわけでもない。しかし,多くの臨床の教科書にはそれぞれの疾患の頻度や分布が示されているし,感染症であればIT化の進んだ現在,流行状況は簡単に調べることができる。また,ある検査の感度,特異度(→陽性尤度比,陰性尤度比)も教科書や論文にあたることで得ることができる。そのような情報に加え,医師としての経験,患者の背景などを考慮して,いかに判断を下すのか,その流れを理解し,臨床現場における判断を助けるツールを身につけるために本書をお勧めしたい。
 多くの医師は特に意識することなく,毎日の臨床においてそのようなプロセスを経ているであろう。それでもあえて本書を読まれることで,無意識下の作業を意識していただくことは,決して無駄にはならないと信じる。また,用語集はEBM,臨床疫学について書かれた教科書,論文を今後新たに読み進む助けになろう。
きわめて基本的かつ明確な臨床決断解説書
書評者: 小林 哲郎 (山梨医大教授・内科学)
◆臨床の場に登場するようになったEBM

 Evidencc-based Medicine(EBM)という言葉が,臨床の場で頻回に使用されるようになってから,われわれ臨床家は,診断や治療の根拠と出現する確率を意識しないわけにはいかなくなった。
 本書は,臨床の現場における決断(臨床決断)をどのような根拠にもとづいて行なうかを,わかりやすい実例を持って示してあるきわめて基本的かつ明解な解説書である。

◆期待される本書による柔軟かつ強靱な臨床活動の展開

 医療の現場で用いられる決断のプロセスをデシジョン・ツリーとして表現し,それぞれの起こりやすさ(likelihood)とは,どのようなものであるかを多面的に表現している。残念なことに,日常診療の場においては,このような考え方を100%臨床決断に活かすことはできないかもしれない。これは,いまだバックアップを行なう医学的なデータが欠如している,という現状があるからである。しかし,多くの臨床的な文献を読み解く際に,文献の記載が縦糸だとすれば,本書の考え方は横糸であり,本書で紹介されている手法を思考に導入することにより,より柔軟かつ強靱な臨床活動ができるものと期待される。
 本書を読み終えた後には,EBMという無媒介的な言葉を,より身近な媒介とするためのヒントが得られたという爽快感を味わうことができるであろう。また随所に,翻訳者今井裕一博士の「ガイドラインすなわちEBM」という風潮への醒めた目を感じる。さらに巻末には,臨床決断の際に有用なlikelihood ratio,oddsなど基本的な用語の説明,さらにそれを利用したポケットガイドやコンピュータプログラムに関する解説もつけられており,臨床現場でのきわめて有用な情報源となり得るものと確信する。
患者のための最善の臨床決断とは何かに答える1冊
書評者: 大生 定義 (横浜市民病院部長・神経内科)
◆不確実な臨床現場での臨床決断を実例を通してわかりやすく解説

 このたび,秋田大学第3内科今井裕一助教授の手によって,『臨床決断のエッセンス-不確実な臨床現場で最善の選択をするために』が翻訳出版された。この原著者のRichard Gross先生のセミナーは,私が昨年米国内科学会に出席した折に受講し,原著である『Making Medical Decisions-An approach to clinical decision making for practicing physicians』(American College of Physicians-American Society of Internal Medicine)もすでに数年前に購入して一読しており,この方面については一定の理解はしていたつもりではあった。しかし,今井先生のこの本はまさに訳書を超えている。原著とあるいはGross先生との共著と呼んでもよいと私は考える。初心者や日本の読者にとってわかりにくいところ,もう読むのを止めようかと思うところに,ちょうど今井先生の注釈やサイドメモがあり,興味をつなぐ工夫がある。
 本書を読ませていただき,おかげさまで私自身も頭の中が整理されてきたことを実感する。「臨床決断(あるいは判断,今井先生はこの本では決定と訳されているが)分析」は,大変重要とは思うものの,一般臨床医にはとっつきにくい分野である。今井先生は,Gross先生との見事な共同作業でこの難問を解決されている。今井先生とは,『臨床指導医ガイド』(医学書院)などの出版の前からも,内科専門医会での卓越した発言・提言に個人的にも心からの尊敬を感じていたが,この本の中にもその一端がちりばめられ,読者の方々にも随所できっと私に共感していただけると確信する。

◆臨床疫学や医学診断学の最適教科書

 本書の要点は,「はじめに」に書かれている。一部を引用しよう。
 「……本書のテーマは不確実性である。(中略,決定分析の基礎を理解してからは)不確実性は一緒にいて心地よい同伴者のように思える。つまり,たとえ不確実性が存在していても,患者に対して自信を持って助言するにはどのようにすればよいか知っている。また,不確実性を少なくしようとして積極的に検査を行なったり,治療法を選択している時も,それが患者を助けることになるであろうと考えて行なっているのであって,決して医師である自分自身の安心のために行なっているのではない,とわかっているのだ……」
 このテーマについて実例を通しながら,わかりやすく説いているのがこの本である。中には,表や図も多い。私のまわりの研修医にも,英語はどうも,計算はどうもと尻込みする先生が多く,臨床疫学や医学判断学のよい教科書がなくて困っていた。医学生,研修医,指導医など医療の決定に関わる人々,さらにこの方面に関心を持っている方々に大変すばらしい贈り物が誕生したことを喜びたい。

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