非行精神医学
青少年の問題行動への実践的アプローチ

もっと見る

犯罪精神医学の研究成果を踏まえ、医学的治療の領域と教育的働きかけの境界を明確にした非行臨床の指針。臨床の最前線で奮闘する著者による50例を超える事例を駆使した具体的で分かりやすい内容。行為障害、ADHD、薬物乱用、ひきこもり、不登校、家庭内暴力など、今日的な青少年の問題行動への精神医学的アプローチについて解説。精神科医・心理士などの医療者はもちろん、教育・司法関係者にも好適の書。
奥村 雄介 / 野村 俊明
発行 2006年02月判型:A5頁:208
ISBN 978-4-260-00081-9
定価 3,740円 (本体3,400円+税)

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 目次
  • 書評

開く

はじめに-精神医学の体系と本書の構成
第1部 青少年の問題行動と精神医学
 I. 反社会的行動
  A. 行為障害診断基準による行動分類
  B. 少年法による行動分類
 II. 非社会的行動と自己破壊的行動
  A. 不登校とひきこもり
  B. 家庭内暴力
  C. 自己破壊的行動
第2部 精神障害と少年非行
 I. 心因性精神障害
  A. パーソナリティ障害
  B. 衝動制御の障害,性嗜好異常その他
  C. 神経症性障害と適応障害
  D. 摂食障害
  E. 児童虐待とPTSD
  F. 拘禁反応
 II. 内因性精神障害
  A. 統合失調症
  B. 気分障害
 III. 薬物乱用と薬物起因性精神障害
  A. 覚せい剤乱用
  B. 有機溶剤乱用
  C. アルコール乱用その他
 IV. 器質性精神障害・症状性精神障害
  A. 脳器質性の障害
  B. 症状性精神障害
 V. 発達障害と行動障害
  A. 注意欠陥・多動性障害(ADHD)
  B. 広汎性発達障害
  C. その他の発達上の障害
第3部 治療と矯正教育
 I. 保護観察制度とは
 II. 触法事例の施設治療
 III. 社会での治療・教育の基本
 IV. 家族への対応
おわりに
索引

開く

新分野「非行精神医学」を開拓する意欲的な書
書評者: 藤縄 昭 (京大名誉教授)
 近年,「医療少年院」という施設のあることが,日常的に知られるようになったのは,青少年の思いがけない了解困難な,つまり『病的』と思われる犯罪(非行)が新聞紙上を賑わせるようになったことと無縁ではない。もちろん医療を必要と判断される青少年が,皆がみな世間を騒がせた人達でないことは確かである。犯罪の精神病理を扱う学問としては,古くから司法精神医学の研究分野があり,そこでは主として被疑者の責任能力の精神鑑定をめぐって議論され,医療,教育などが主題になることは少なかった。著者たちがあえて『非行精神医学』という造語を必要としたのは,今日まであまり注目されなかった非行少年たちの「あえて行動症状に着目し,(中略)犯罪・非行など社会規範からの明らかな逸脱から,家庭,学校,職場などで不適応に至るような問題行動まで視野に入れ」て,臨床精神医学的視点からの展望を試みることであった。そういう意味で,新分野を開拓する意欲的な著作である。

 本書は3部から成り立ち,第1部は「青少年の問題行動と精神医学」,第2部は「精神障害と少年非行」,そして第3部は「治療と矯正教育」となっている。54の事例が詳しく記述されており,具体的に理解できるよう配慮されている。第1部ではDSM-IIIによってはじめて導入された『行為障害』というカテゴリーの検討がなされ,議論の多いこの概念に著者らの考え方を示し,事例を挙げて説明してある。行為障害の診断基準に従うと,行為障害は疾患単位ではなく,客観的に捉えられる問題行動によって診断されるが,基礎疾患(例えば統合失調症)のある場合には,精神病理学的な鑑別診断の必要を重視する。第2部では内因精神病から発達障害に至るまで,あらゆる精神障害のすべてを順次説明し,それぞれの事例を丁寧に提示してある。教科書的な構成であるが,文体はやわらかく流暢で読みやすい。第3部は医療少年院の紹介から,保護観察制度と社会復帰,そのための少年に対する心理的アプローチ,また家族への対応まで細やかに解説してある。

 精神障害の分類などはDSM-IVに準拠しながら,著者達の姿勢にはドイツの基礎的な精神病理学の教養が貫かれ,また臨床心理学的配慮も底辺には読み取られて,著者達の経歴をみても納得できるところである。今日,精神病理学研究の低迷がいわれているとき,非行少年の精神病理が新しい分野を提供しているように思われる。本書は教科書の体裁をとり,議論,考察を深めることができなかった点は残念であったが,事例記述を読みながら精神病理学的空想をはせる楽しみがあった。多くの読者を得ることを願いたい。

本邦初の本格テキスト 非行精神医学の必読書
書評者: 松下 正明 (東京大学名誉教授)
 時代や社会の動きはわれわれが想像する以上に早く,旧来の常識がまったく通用しない社会状況がめまぐるしく出現している。特に,青少年の世界,とりわけ彼らの非行や犯罪の世界において目立つ。この書評を執筆している時期をとっても,母親をタリウムで殺害しようとした少女,殺人をしてみたかったからといって写真館主を殺害した高校生,交際相手の女子中学生を殺した高校1年生などマスコミを賑わす事件が相次いでいる。いまや,かつての常識では理解できない殺人が日常茶飯事化してきているのが青少年の世界である。

 そのような,事例そのものがかつての常識では捉えることができない状況になっている現代,その背景にある問題を従来の精神医学の考え方で理解することが一体可能なのかというのが評者の疑問とするところであった。非行や犯罪を行った青少年のための独自の新しい精神医学が樹立される必要があるのではないかとかねがね考えていたのだが,このたび,まさに評者が願っているような非行や犯罪にはしる青少年を対象とした精神医学書が刊行された。それが本書『非行精神医学』である。

 本書は3部構成からなる。第1部は,「青少年の問題行動と精神医学」として,少年非行や行為障害の理論的分析がなされるが,それと同時に本書全体の理論編ともなっている。第1部はさらに,反社会的行動と非社会的行動・自己破壊的行動の2章に分けられ,前者では,DSM―IIIによって初めて採用された行為障害と少年法による行動分類について,その定義や診断基準,分類などが詳しく説明される。さらに,後者では,不登校,ひきこもり,家庭内暴力,自己破壊的行動についての分析がなされる。

 第2部では,現今の精神医学における疾患概念と少年非行との関連が逐一説明される。しかし,従来の精神医学教科書にみるようなステレオタイプの記述ではなく,あくまでも青少年の非行と犯罪との関連で記されている。その内容は,まず心因性精神障害(パーソナリティ障害,衝動制御障害,神経症性障害と適応障害,摂食障害,児童虐待とPTSD,拘禁反応)にもっとも多くの頁数が割り振られ,続いて,内因性精神障害(統合失調症,気分障害),薬物乱用と薬物起因性精神障害,器質性精神障害・症状性精神障害,発達障害と行動障害という順序で構成される。

 第3部は,治療と矯正教育の項で,そこでは,まず保護観察制度についての説明がなされ,次いで,触法事例の施設治療,社会での治療・教育の基本,家族への対応について,具体的な方法が語られる。

 このような3部からなる本書の構成をみても本書がいかにユニークかつ新しいものであるかがわかるであろう。

 本書の最大の特徴は,豊富な事例をもとに非行精神医学が述べられていることにある。事例の総数は54,1例を除きすべて10代の少年,少女の事例であり,それらの事例を通して非行精神医学の実態を明らかにするという著者らの強い姿勢が窺われる。著者らは長年にわたって,関東医療少年院,八王子医療刑務所,八王子少年鑑別所,東京拘置所に勤務し,そこでの経験が本書に集約されており,事例もすべて著者らの自験例であることが本書の主張を一層説得力あるものとしている。

 本書は,200頁たらずの小冊子であるが,事例を中心にして青少年の非行や犯罪と精神医学との関連を包括的に記述し,さらに,「非行精神医学」という現代的な独自の分野を日本で最初に提唱したことをもって,きわめて画期的な著書であるといっていいだろう。

 おそらく,今後この分野に携わる医師,看護師,臨床心理士,ケースワーカー,あるいは,学校,警察,裁判所,矯正施設,福祉施設などの関係者たちは,本書を読まずして非行精神医学は語れないのではあるまいか。

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。