強迫性障害
病態と治療

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強迫は古くて新しい問題である。強迫性障害は決して稀ではなく,脳の機能障害,さらには器質的障害とみなされるようになり,薬物によって治りうる疾患となった。本書は30年以上,強迫性障害に取り組んできた著者の,現時点における理解と,患者と関わりつつ,様々な理論を学ぶ中からおのずと形成されてきたという治療法のまとめである。
成田 善弘
発行 2002年03月判型:A5頁:168
ISBN 978-4-260-11865-1
定価 3,080円 (本体2,800円+税)
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  • 目次
  • 書評

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I 強迫性障害の概念
II 強迫性障害の臨床
III 強迫性障害の関連疾患
IV 病前性格
V 強迫性障害の成因
VI 現代の青年期患者と強迫
VII 強迫性障害の治療

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強迫性障害に取り組んできた著者30年の治療の道標
書評者: 川谷 大治 (川谷医院長)
◆豊富な経験による強迫性障害治療のすべてを開陳

 評者が,この数年間もっとも関心があるのが「強迫」である。その理由は,精神科診療所には強迫患者の受診が多いからである。年間に平均10名は,新患として診ている。しかし,新来患者数400で割るとわずか2.5%に過ぎない数である。当院から徒歩で10分のところには,行動療法で有名なN先生も精神科クリニックを開業している。N先生(年間新来患者数約40名)に比べると,年間10名は少ないかもしれない。にもかかわらず彼らの存在感は大きい。それは私がうつ病,分裂病,ボーダーライン,家庭内暴力や引きこもり青年,摂食障害,アルコール依存症,病的浪費(借金)の患者たちの中に強迫を見ているからかもしれない。それとも強迫者と肌が合うから?
 必要に迫られて強迫の治療を模索している時に,成田先生のこれまでの強迫に関す論文は治療の道標となった。その成田先生の約30年間の強迫の研究を,コンパクトに収めたのが本書である。そのため診療の合間に手にすることができる。しかも文献紹介も約200編にもおよび原典に当たれてうれしいし,強迫について知りたいことがすべて網羅されている。治療の項目には約30%もの紙面を割き,わかりやすく説いてある。はじめて強迫性障害と出会うであろう研修医から,時々彼らの対応を迫られる開業医まで十分に満足させてくれる内容である。受診しない患者や家族への援助は欠かせないし,初回面接の大切さを重視しているのは臨床家だからこそ書ける構成である。精神療法のストラテジーと薬物療法の項目は,実践的で成田先生の経験の豊富さと人柄を反映している。

◆現代の若者の理解にもつながる見解

 これは私の関心ごとの1つであるが,強迫性障害やその関連疾患の治療をしていると,強迫の中核を想定したくなってくる。行動療法は,精神分析と違って症状には意味がないと考えるが,成田先生は強迫の成因を一臨床家の立場,それは実に治療過程でもある,から以下のように考えている。強迫の中核に「尊大な自己像」を仮定し,彼らの自己愛を脅かす状況で「彼らは強迫的防衛機制を発動させ,自分がすべてをコントロールしうるという幻想を存続させ,尊大な自己像を保とうとする」と述べている。非常に臨床的かつ現代の若者の理解の糸口にもつながる見解である。
 最後に,本書は精神療法をめざす精神科医の必読書である土井健郎の『方法としての面接』(医学書院)に匹敵する良書である。診察室にふさわしい本である。
すぐれた臨床家が培った強迫性障害臨床の英知
書評者: 上島 国利 (昭和大教授・精神医学)
 強迫神経症は,その特異な症状や,治療の困難さゆえ長く精神科医の興味と関心をひいてきた。近年,漠然と推測されていた生物学的な病態生理学がしだいに明らかになるにしたがい,新たな観点からの治療的接近が行なわれ,一定の成果が得られるところから再び脚光を浴びている。名称もDSMによるObsessive Compulsive Disorder(以下OCD)「強迫性障害」が一般的となっている。

◆強迫性障害の研究の到達点と臨床

 本書は,長年にわたりOCDの研究と治療に従事されている成田善弘氏によるもので,過去から現在までのOCD概念の変遷,成因,治療法の進歩などが要領よく,明解にまとめられている。その論述は,科学的厳密さの中に,著者の人柄を彷彿とさせるような誠実さ,謙虚さ,人間的なやさしさに溢れている。OCD研究の現在における到達点が明らかにされていると同時に,明日からの臨床に役立つ実践的な治療法が具体的に解説されており,有用な情報が数多く提供されている。
 その内容を順を追って紹介すると,以下のようになる。I章は,「OCDの概念」であるが,この章の最後に,「強迫は人間存在の本質に由来する現象であり,不安定な世界に無力で有限な存在としての人間の実存的状況が反映されている」と述べられているのが印象深い。II章は,「OCDの臨床」であるが,著者らがすでに1974年に提唱した「巻込み型」の解説がある。治療にも関与する類型であり,臨床的にも有用である。III章は,「OCDの関連疾患」であり,うつ病,分裂病や他疾患とのcomorbidityやスペクトラムとしてのとらえ方の紹介がある。OCDが分裂病に移行するかという疑問にも否定的見解が述べられている。
 IV章は,「病前性格」であり,著者のOCDの病前性格を層構造としてとらえ,強迫症状は,強迫的性格が中核の葛藤を防衛しきれなくなった時に発症するという考え方が主張されている。V章は,「OCDの成因」である。生物学的研究の最前線が明解に紹介されており,双璧をなす精神分析的研究の歴史もわかりやすい。臨床家としての著者の見解は,折衷的に考えざるを得ないと述べられており,公平でバランスのとれた考え方と言えよう。
 VI章の「現代の青年期患者と強迫」では,青年の持つ強迫的な特性は消失しつつあり,「強迫」の時代は終わりつつあるかという記載がある。VII章の「OCDの治療」では,精神分析的理解を根底に据えてはいるが,行動療法,認知行動療法,森田療法などの影響を受け,さらに薬物療法も併用する折衷的な著者の治療姿勢が解説されている。また家族への援助,初回面接,精神療法のストラテジーも臨床現場での実践が十分書き込まれている。

◆強迫性障害のすべてが丹念に

 以上紹介したように,本書はOCDのすべてが丹念に公平に多数の引用文献とともに解説されているが,各章の終わりには著者自身の見解が明解に述べられており,OCDに対する著者の考え方や臨床実践が実感される。
 本書は,OCD研究や治療に携わる多くの臨床医にとり,きわめて有益な良書であり,一読をお勧めしたい。

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