ADLとその周辺 第2版
評価・指導・介護の実際

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ADLの視点から疾患や障害を捉え、評価の方法や指導・介護の実際をイラストや写真を用いてわかりやすく解説する教科書。すでに定評があった初版に昨今の制度的変遷も踏まえて内容を充実させ、各章の項目立ても読者が理解しやすいよう大幅な改訂を行った。リハビリテーションの世界に漕ぎ出していく学生はもちろん、経験を積んだ臨床家にも役立つ、ADLとその周辺を網羅した基本の1冊。
編集 伊藤 利之 / 鎌倉 矩子
発行 2008年06月判型:B5頁:336
ISBN 978-4-260-00568-5
定価 6,600円 (本体6,000円+税)
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  • 目次
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第2版 序

 本書の初版は,1994年,主に理学療法士・作業療法士を目指す学生向けの教科書,実習書として発刊された.それから14年が経過,この間にわが国のリハビリテーションの世界は大きな発展を遂げ,障害者・高齢者の生活を支援する技術や社会保障制度も拡充した.
 とりわけ,2000年に公的介護保険制度が導入されて以来,ハートビル法の改正やバリアフリー新法の影響もあり,彼らの日常生活や社会参加を支援する福祉用具の開発と環境整備の状況は大きく様変わりした.それはリハビリテーション関係者にとって喜ばしいことではあるが,発症から地域生活に至るリハビリテーション過程において,何を,何時,どのように使うのが適当か,その判断には根拠となる理論や技術だけでなく,関係する法制度についても一定の知識をもつことが必須の時代となった.さらに,ADL評価は政策的にも医療と介護を結ぶツールとして重要視され,診療報酬制度に係る厚生労働省通知にもBIやFIMによる評価が求められるようになってきた.
 本書の構成や特徴は基本的に初版と変わらないが,以上のような社会情勢を踏まえ,この間に変遷のあった利用者の障害像やニーズをはじめ,国際障害分類の改定,福祉用具の開発,社会保障制度の改革などに対応して,総論部分は大幅に書き換えた.また,各論では市民ニーズが高まっている高次脳機能障害や認知症などのADL指導について一層の充実を図るとともに,新たに開発されたADL支援のための福祉用具についても,イラストを多用して分かりやすく紹介した.
 初版の「序」にも記したように,ADL評価は人間として日常的に行う活動を表すものであり,医学的リハビリテーションのゴールを特定するうえで核となる重要なツールである.近年,ADL評価をめぐっては多くの関心が集まり,安易な使い方が横行する傾向も否めないが,それだけにADL評価にあたっては十分な研修と臨床経験が必要であり,評価に基づくADL指導では,それ以上に多様な視点からのチームアプローチが求められている.
 今回の改訂にあたってはこのような点にも留意し,学生の教科書,実習書としての域を超え,臨床現場で働く医師,作業療法士,理学療法士の実践書としても役立つようにバージョンアップしたつもりである.改訂の企画から2年半のときを経て,ようやく出版の日を迎えることができたことは大変喜ばしく,ご執筆いただいた先生方をはじめ,ご尽力いただいた医学書院の皆様方に心より感謝申し上げる.また本書が,リハビリテーション医学の発展と普及に少しでも役立つことを祈念するものである.

 2008年4月
 伊藤利之 鎌倉矩子

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総論
1.日常生活活動(ADL)の概念とその範囲
2.ADLの評価
3.ADLの支援システム
 
各論
1.脳卒中(片麻痺)
2.脊髄小脳変性症
3.筋萎縮性側索硬化症(ALS)
4.頸髄損傷
5.胸腰髄損傷
6.関節リウマチ(RA)
7.上肢切断
8.下肢切断
9.筋ジストロフィー ― Duchenne(デュシェンヌ)型を中心に
10.脳性麻痺(乳幼児期)
11.脳性麻痺(学童期)
12.重症心身障害
13.コミュニケーション障害―失語症を中心に
14.高次脳機能障害
 半側無視
 視覚失認
 Balint症候群
 Gerstmann症候群
 失行症
 前頭葉性の動作障害
15.認知症(老年期)

索引

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ADLの概念を理路整然と説明
書評者: 清水 一 (広島大大学院教授・作業機能制御科学)
 本書の初版は「国連障害者の十年」を継承した時代のリハビリテーションの道標としての役割を果たしてきた。新しい世紀になり,公的介護保険制度の導入やWHOの国際障害分類が改定され,国際生活機能分類(ICF)の発表など,リハ理念の広がりや変化で思想と技術としてのリハビリテーションに変化が起こっている。この変化を受けて,改訂第2版が世に出たと思う。

 新版は内容の量で旧版の約2割増である。総論と各論の構造は変わっていないが大きく加わった項目がある。総論では,ADLとQOLとの関係の解説,国際生活機能分類とADLの関係,健康関連QOLの評価の説明がこの改訂の必要に応えている。各論には,13名(6割強)の新たな執筆者が加わり,すべて書き直され,変性疾患である脊髄小脳変性症と筋萎縮性側索硬化症の2章が新たに加えられた。パーキンソン症候群は扱われていないが,リハビリテーションで対応する疾患の90%はカバーされて教科書の妥当性がさらに高くなっている。

 総論の内容で特によい点は,リハビリテーション創設期において,ADLの必要性やリハビリテーションの進展とともに発展してきたADL概念と,健康政策研究領域の中で発展してきたQOLの概念との源流の違いの解説と,近年ADLとQOLが接点を持つようになり,その共通言語としてのICFの機能との関係を論理的に解説して全体が捉えられるように工夫されている点である。ADLに関する多くの教科書の中で,最も理路整然と概念が説明されたものであると判断できる。これら貴重な概念であるが抽象的で扱いに当惑しがちであったものを全体として捉えることができて心地よい。立体パズルがうまく組み上がって安堵したときの感じに通じるものがある。ADLの評価に関する総説では正確な文献の読み込みと落ち着いた説明がなされているので,評価の全体像や特性を正しく理解でき臨床応用や,研究で役立つ内容である。ただ,患者やクライアントの個別性が多い分野であるADLの側面のすべてを一度でカバーする方法論はないので,目的やケースごとに使い分ける部分とリハビリテーションの成果を横断的に知ることができるものについての区分の必要性についてもう少し触れてほしかった。ADLの支援システムと題した,ADL介入の部分では,概説的だが全体像が得られる。具体的な説明は,各論がその内容を引き受けてうまく対応できている。今後の課題では,制度が抱える理念追求の漠然さが時代の雰囲気を反映しているように感じた。

 各論のほとんどの章で内容の更新と充実と整理が進められ,臨床に通じた知識,技術,工夫,重点が要領よく説明されている。診断名にかかわらず,各章は,「障害の概要」,「指導と介護」,「住環境の整備」,「留意事項」,「課題」の5項目に統一された構造で説明されているので障害の全体像や特性が捉えやすい。この点でも教科書として優れている。要点を示す挿絵や写真の多用やリハビリテーション介入のコツをコラム欄で示し実用書としての使い勝手を高めている。各論の内容は,最も基本的な介入法や指導法をコンパクトに示すことに共通して成功している。整理の成功度は執筆者によって多少の違いがあるが,概して必要にして十分な説明が示されている。臨床経験の豊かな実践者にしか書けない内容と整理ができている。個人差があまりにも多い障害では個別的になりすぎないように記述が基本的なものに絞られているが,指導の要点は大変的確に示されている。
活動制限の縮小と社会参加の促進において,大きな力を発揮
書評者: 江藤 文夫 (国立障害者リハビリテーションセンター更生訓練所長)
 わが国のリハビリテーション医療の活力を反映して,教科書類の出版が盛んである。こうした時代に広く読まれてきたテキストの1つが本書である。本書の初版は,1994年,主に理学療法士,作業療法士を目指す学生向けの教科書,実習書として発行された。この間に高齢社会に対応すべく介護保険制度が導入され,障害者福祉においても支援費制度の導入を経て障害者自立支援法が施行された。こうした時代の底流にわれわれが目指すべき方向性として西洋近代の個人主義がある。ここに来てようやく,パターナリズムが批判され,措置から契約へ,患者・利用者中心の医療や福祉サービス提供体制の整備が急速に展開し始めたところである。この時代に,日常生活における活動の評価・指導・介護の実際に関するテキストの重要性はますます拡大する。

 ADLはリハビリテーション医学の領域で生まれた用語である。しかし,医学・医療の標的としてLifeの持つ「生活」の意味の比率の高まりを背景として活動(activities)が重視されるようになったのはさらに1世紀をさかのぼる。特に,高齢者の医療では1930年代の英国のM. Warrenの仕事に代表されるように,活動性を高めることが最重要課題として認識された。そして,米国においてH. Ruskらの努力で医療においてリハビリテーションという言葉が定着する間に,1945年にADLの概念が生まれたという。

 医療におけるリハビリテーションでは機能回復への期待が高く,治療対象としてADLが取り上げられるようになると,ADLの指導(訓練)も体系化されていく。Ruskによる教科書の中で,RTのBuchwald(E.B.Lawton)らによる身体障害におけるADL指導の要点では,まず必要とされるADLを単純な動作(motion)に分割し,これらの特異的動作を患者が実行しうるように選択して訓練することから始められる。この動作訓練は医学モデルで理解されやすいことから,わが国ではADLは長く「日常生活動作」と訳され,普及した。かつて,PTの訳語としては機能療法士が優勢であったころ,同じく職能療法士と訳されもしたOTがかかわる動作の指導・訓練では活動を自立して実行するための工夫(device),すなわち自助具の使用も含まれる。

 死亡統計の共通言語を目指して展開してきた国際疾病分類の作業において,死亡以外にも疾病の及ぼす問題の分類への関心が高まり,ICIDHが提案され,ICFへと改定された。ICFの枠組みで示された中核はLifeにおけるactivitiesである。このことは生活活動の充実が健康関連サービスでの主要目標に位置づけられてきたことの反映であり,介護付きでの活動の実行も視野に入れられる。活動制限をいかに縮小し,社会参加をいかに促進するかの視点から本書を利用するとき,非常に有用なことが実感されよう。

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