漢方処方ハンドブック

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漢方が効く病態約50に対する処方を解説。プライマリ診療に簡便な医療用エキス製剤を主としつつ、煎剤処方についてもAdvanced courseで触れており、漢方を使い慣れた読者にも有用な1冊となる。内科系、整形外科を中心に小児・女性・高齢者の診療、鍼灸、生薬をカバーする内容。付録も充実-医療用漢方処方の選び方・使い方(腹証図付き)、エキス製剤情報、薬局向けの患者説明用処方解説、煎剤解説、生薬解説など。
編集 花輪 壽彦
発行 2019年06月判型:B6変頁:488
ISBN 978-4-260-03914-7
定価 4,180円 (本体3,800円+税)

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『漢方処方ハンドブック』の発刊にあたって

 新元号「令和」の最初の第70回日本東洋医学会学術総会(令和元年6月28日~30日)という記念大会が北里大学東洋医学総合研究所(北里東医研)を主管に東京で開催されることが決まり,不肖,花輪が会頭を仰せつかった.
 この時,プログラム委員会の話し合いで,「漢方入門セミナー」「鍼灸入門セミナー」など連続講義(30分のshort lecture)の講師を北里東医研のスタッフやOBの多くが担当することになった.
 そこで医局長と相談して,短時間では説明しきれない入門セミナーの「補助テキスト」を作ろう,という話が起こった.
 別件で医学書院の編集部に会う約束があったので,そのことを話したら,「ぜひ作りましょう」ということになった.
 この時,私の編集方針は
①北里東医研同門会(医局員,OB)に広く声かけして執筆をお願いする.
②扱う処方は保険診療で使える147処方(148品目)すべてを網羅し,かつ北里東医研が,煎じ薬治療を行っていることから,エキス剤にはない処方も参考として入れる.
③一般臨床医,薬局・病院薬剤師,鍼灸師,看護師,と広い対象に漢方の魅力と診療,調剤,服薬指導,患者指導の実際がわかるものにする.
④常時,日常診療・日常業務で携帯して,処方検索や服薬指導の際にすぐに確認・参照できるような,利便性・実用性のあるハンドブックサイズにする.
⑤安易な「病名処方」ではなく,「随証治療」のガイドブックにするが,説明の簡略化や図表を用いて,5分程度で調べたい内容が検索できる簡潔な本にする.
⑥時間のあるとき「column」や「Advanced Course」「Note」「memo」などを読んでいただき,楽しめるもの.北里東医研らしい「蘊蓄」を散りばめること.
およそこのような企画を話したように記憶している.
 随分,贅沢な構想であった.「易きに阿(おもね)ることがないように」と執筆依頼文に書いた記憶がある.
 幸い,多くの北里東医研同門会の諸兄・諸姉の快諾をいただいたが,医学書院編集者の叱咤激励や医局長の奮闘があったものの,肝心の編著者である私の怠慢から,結局,著者初稿がそろったのは平成最後の正月明けになってしまった.しかし,漢方診療部,薬剤部,医史学研究部,鍼灸診療部、EBMセンターの全面協力が得られたことで,生薬や医療用漢方製剤,鍼灸の実際について,医師・鍼灸師のハンドブックとしてだけでなく,薬剤師や看護師の服薬指導の実践参考書ともなりうる本になった.日本漢方の歴史の厚みの一端などを「ギュッ」と盛り込むことができたとの感慨がある.
 単著ではないので,方剤の虚実の位置づけや処方解説において,執筆者による表現の濃淡が見受けられるが,編者としては執筆者の原文の息吹をなるべく尊重し,明らかな誤りの指摘に止めた.
 本書が漢方診療の手引きとして,常に白衣のポケットの中にあり,折に触れて取り出していただければ,編著者として望外の喜びであり,本書が医療用漢方製剤の正しい使い方の一助になれば幸いである.
 医学書院には企画当初から我慢強く,時に微笑みながらも相当なプレッシャーを与えていただき,本書が学術総会にお披露目できたことをここに深く感謝申し上げます.
 校正の時間が短かったために説明不足などあれば,読者の御叱正を仰ぎたいと思います.

 令和元年(2019年)6月吉日
 第70回日本東洋医学会学術総会会頭
 北里大学名誉教授・北里大学東洋医学総合研究所名誉所長
 花輪 壽彦

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漢方の基本知識
 I 漢方の基本概念
  ① 漢方とは何か
  ② 「証」の論理
  ③ 陰陽・虚実
  ④ 六病位
  ⑤ 治療大綱
  ⑥ 五臓
  ⑦ 病因としての三因
  ⑧ 気・血・水
 II 漢方薬
  ① 生薬概論
  ② 漢方薬の分類
  ③ 誤治・瞑眩
 III 漢方の診察法
  ① 四診
  ② 漢方診察のまとめ
 IV 全身症状のとらえかた
  発熱・熱感
  悪寒・悪風
  食欲
  睡眠
  排尿
  排便
  疲れやすい・身体が重い
  季肋部の不快
  物忘れ
  イライラ
  発汗・寝汗
  頭痛・頭重・頭揺・頭冒
  耳鳴・難聴・耳漏
  めまい・のぼせ・立ちくらみ
  視力低下・目が疲れる・目がかすむ・目がショボショボする・目のクマができやすい
  のどのつかえ
  口渇・口乾・唇が乾く
  咳
  口が苦い
  生唾
  ゲップ・胸やけ・みぞおちがつかえる・嘔気・嘔吐
  腹痛・腹が張る・腹が鳴る・ガスがよく出る
  性欲の減退・性欲の抑制
  爪がもろい・髪が抜けやすい・皮膚がカサカサする
  皮膚の痒み
  しもやけ
  首や肩のこり
  痛み
  冷え
  ほてり
 V 漢方薬の使用上の諸注意
  ① 注意すべき生薬
  ② 妊婦に対する注意

処方の実際
 1 呼吸器
  1 かぜ,喘息,COPD
  2 非結核性抗酸菌症,肺MAC症
 2 循環器
  3 高血圧
  4 不整脈,動悸
  5 胸痛,狭心症
 3 消化器
  6 便秘・下痢
  7 上腹部の愁訴(主に機能性ディスペプシア)
  8 下腹部の愁訴(腹痛など)
 4 代謝
  9 肥満,糖尿病,脂質代謝異常症
 5 自己免疫
  10 自己免疫疾患
 6 冷えとほてり
  11 冷えとほてり
 7 むくみ
  12 むくみ
 8 貧血
  13 貧血
 9 神経
  14 頭痛
  15 認知症
 10 精神
  16 不眠症
  17 うつ病
  18 神経症性障害(神経症・パニック障害)
 11 関節痛
  19 関節痛(肩,膝)
 12 腰痛
  20 腰痛および下肢症状を伴う腰椎疾患
 13 皮膚
  21 アトピー性皮膚炎
 14 耳鼻
  22 めまい
  23 アレルギー性鼻炎
  24 副鼻腔炎
 15 眼
  25 ドライアイ,眼精疲労,緑内障
 16 小児
  26 小児の漢方診療(成人との違い)
  27 虚弱体質
  28 疳の虫,チック,夜尿症,てんかん,心因性発熱
  29 小児の食欲不振,アトピー性皮膚炎,気管支喘息,かぜ
  30 成長障害,周期性嘔吐,思春期の起立性障害,不登校
 17 女性
  31 月経困難症
  32 月経不順
  33 月経前症候群(PMS),月経前不快気分障害(PMDD)
  34 不妊症
  35 更年期障害
  36 閉経後のトラブル
  37 妊娠中・産後
 18 高齢者
  38 高齢者の疲労
 19 がん
  39 がん
 20 在宅
  40 在宅医療

生薬,鍼灸,EBM,医史学
 臨床に生きる生薬学
 鍼灸
 EBM
 医史学 その1 東洋医学の形成と発展
 医史学 その2 現代へ漢方をつないだ名医 浅田宗伯
 医史学 その3 養生の思想と治病の技術

 あとがきにかえて 半夏厚朴湯の口訣~処方の学び方

付録
 1 医療用漢方148処方解説
 2 薬局用患者説明に用いる処方解説
 3 漢方エキス製剤情報
 4 煎剤の構成生薬と出典
 5 医療用漢方製剤に用いる124生薬解説

 Note
  ・人生100年時代の女性の人生設計
  ・補中益気湯の方意と口訣
  ・漢方治療の現在

 memo
  ① 漢方医学にもエビデンスあり
  ② CONSORTを活用してRCTのレベルアップ
  ③ 漢方臨床研究の高いハードル
  ④ 「症例報告」は,倫理審査が必要なの?
  ⑤ 幸運を運ぶSTORK
  ⑥ 「カルテ調査」は,どの指針に従えばよいの?
  ⑦ 漢方処方は,どうやって英語表記するの?
  ⑧ 困った時のCRC

 生薬の名前
  ・菊花と野菊花
  ・地黄(乾地黄,生地黄)と熟地黄
  ・生姜・乾姜

 事項索引
 処方索引

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初心者向けに丁寧でありながら上級者でも飽きない深さ
書評者: 田原 英一 (飯塚病院東洋医学センター漢方診療科部長)
 漢方界で北里大東洋医学総合研究所の花輪壽彦先生を知らない人はいない。いわゆる「レッスン」書註)で漢方に引き込まれた者は枚挙にいとまがない。その花輪先生が日本東洋医学会学術総会の初学者向け「漢方入門セミナー」の「補助テキスト」にと企画されたのが本書であるという。否,これは「補助」などという手ぬるいものではない。北里東医研の,花輪流の奥義書である,と私は感じた。以下にどうしてそのように感じたかを記す。

 漢方の基本概念が極めて簡潔に記載されているその直後に,いきなり「Advanced Course」として,切診の極意が記されている。続いて畳み掛けるように「全身症状のとらえかた」が記されているが,私は個々の症状・症候をどのように解釈するかを,ここまで丁寧に記した臨床主体の本をほとんど知らない。しかも八味丸で食欲改善なんて……知らなかった。初学者には難しい面もあるが,中級者から上級者は大いにうなずくであろう。

 「処方の実際」が本書の中心であり,40の項目に関して,全身,全年齢の症状・症候に対応している。入門書であればエキス剤にあるものが中心になりそうだが,レアな処方まで当たり前のように鑑別に挙げられ,こんなに鑑別があったら混乱するのではという心配を持ったが,虚実の証で分類し丁寧に解説している。その一方,小児の「『証』を考慮しなくてもよく効く処方」には度肝を抜かれた。この柔軟さは何なんだ? また,そこまで書くのだ,と驚いたのが「婦人科三大処方が無効なとき,副作用が出たときの対応」である。基本と応用が変幻自在にちりばめられている,この懐の深さも本書の特徴ではないだろうか。

 本書の各所にちりばめられた「column」にも注目したい。私が特に感心したのは,「漢方治療における上級者」「消化器と不眠」「慢性副鼻腔炎の寒熱」などである。時には症例報告,時には臨床のこつ,時にはEBM,時には主張。「column」は少なくとも40以上。漢方上級者をめざすには全項目読破をめざすのが捷径であろう。上級者向けの「Advanced Course」も20以上。エキス剤にない処方をエキス剤を組み合わせて作る方法は参考になる。上級者でも飽きない。

 後半に生薬に関連するドーピングや副作用のまとめ,ミニマムな鍼灸があり,コンパクトな医史学は専門医をめざす人たちの勉強の材料として,多すぎず,少なすぎず,ちょうど良い量と質である。裏表紙を開くと漢方関連年表があり,専門医受験には大いに重宝するであろう。

 実は本書の「キモ」は最後に鎮座する「あとがきにかえて」である。ここには「あの処方」が全方向から詳述されている。「ボランティア活動ができない」には笑った。しかし,あとがきなのに一度くらい立ち読みしても頭に入らないくらいの分量だ。

 一つ二つ,本書へ不満を述べたい。まず,文字が小さい! その上500ページ近いボリュームは50を超えたおじさんの眼では読破に10日を要した。次に,われわれが実践している飯塚病院風のところがない! 当たり前だ。王道が記載されている。よほどの寒冷地でなければ附子の使用は少なめにと,学んだ。少なめにと記載しておきながら,この『漢方処方ハンドブック』は「漢方の臨床を極めようとする者には,量,質ともに十分すぎる!!」と私は声を大にして申し上げたい。

註)『漢方診療のレッスン』のこと。増補版が2003年に金原出版から刊行されている。
いかなる診療科の専門医にも薦める座右の解説書
書評者: 松田 隆秀 (聖マリアンナ医大教授・総合診療内科学)
 西洋医学の知恵では十分に対応できない患者さんに対し,漢方の知恵を加えることができればどれだけ素晴らしいことだろうか――私が日常診療で感じていることの一つである。これまで漢方の解説書を手にする時には,これから漢方の世界に入ることに対しての気持ちの切り換えが必要であった。このような現象は私だけであろうか? 電車の中で本書を手にしてパラパラと数ページを眺めてみたが,本書に吸い込まれるように自然体で全ページを速読することとなった。漢方専門医ではない私にとって,心構えなしで目を通せる漢方解説書との初めての出合いであった。

 本書を薦める理由として,以下の点を挙げてみたい。
(1)北里大東洋医学総合研究所のスタッフおよび同門会メンバーが執筆しているため,漢方の概念と用語が一貫して統一されている。
(2)編集者の花輪壽彦氏が執筆されている「漢方の基本知識」の章はコンパクトな解説文でありながら,漢方の概念が自然に身につくような工夫がなされている。
(3)非漢方専門医である読み手でも違和感なく漢方の世界に入っていくことができるように熟考された,熱意のこもった力作である。
(4)症状や疾患の項では,まず西洋医学に基づいたそれぞれの病態や疾患概念,治療が示され,その後に東西両医学の長所を生かした漢方処方が解説されている。いきなり漢方を全面に押しつけない構成がお見事である。
(5)本文に加えてcolumn,memo,Advanced Courseの項目があり,漢方のさまざまな豆知識,うんちくが紹介されている。ここでは漢方専門医である執筆者の日常診療での工夫に触れることができる。
(6)付録として医療用漢方148方剤の処方解説が掲載され,日常診療で手軽に処方の再確認ができる。

 以上,本書は「西洋医学に漢方の知恵を加えること」を願う医師,薬剤師に向けた実用書である。ポケットサイズであり個人での携帯はもちろん,総合病院においては各診療科ブースにも常備されることをお薦めする。いかなる診療科の専門医からも重宝される座右の漢方解説書になるであろう。
臨床での実用性の高い専門書 (雑誌『月刊薬事』61巻16号(2019年12月号)p88(通巻p3046)より)
書評者: 三卷 祥浩 (東京薬科大薬学部長/研究科長/教授・漢方資源応用学)
 現在,医師の約9割が日常診療で漢方薬を処方した経験を持つといわれており,薬剤師は医師の処方意図を理解し,患者に対して適切な情報提供を行う必要がある。今日,漢方薬が幅広く使用されている現状を背景に,医学部,薬学部では漢方診療や漢方薬に関する講義が行われているが,講義で使用した教科書や資料は臨床現場における実用性という観点からは限定的であろう。

 本書は,広く内科,婦人科,小児科,精神科などの医師,漢方診療外来に携わる医師,漢方薬を調剤し情報提供をする薬剤師を対象に,漢方診療と漢方薬に関するエッセンスをコンパクトにまとめたハンドブックである。ハンドブックとはいえ内容は大変充実しており,ポケットサイズ500ページ弱に,大判の専門書に匹敵する内容を盛り込んでいるといえる。

 まず,「漢方の基本知識」として,漢方の基本概念,漢方薬に関する総論,診察法,漢方における全身症状のとらえかた,漢方薬の使用上の注意を簡潔に述べているが,漢方の総論としては必要十分な内容である。本論ともいえる「処方の実際」の章では,40の疾患あるいは症候を取り上げ,診療のこつを概説したのち,病態,西洋医学的な一般的治療法,漢方治療を示している。そこには文献のほか,コラム,アドバンストコースなど漢方を使用する際のポイントや発展的な内容がふんだんに盛り込まれており,読者の漢方に対するより深い理解につながることが期待される。さらに,生薬,鍼灸,EBM,医史学についても必要最小限言及している。付録の項にはなっているが,「医療用漢方148処方解説」では,医師向けとして各漢方薬を処方する際の虚実の目安や腹証が示されており,また,薬剤師向けとしては「薬局用 患者説明に用いる処方解説」がまとめられており,本書の臨床での実用性を高めている。

 本書は,北里大東洋医学総合研究所の漢方の専門家を中心に30名を超える著者による著作であるが,表現や構成はよく統一されており,全体を通して違和感はない。日本における漢方診療,漢方薬のスタンダードな専門書として,医師,薬剤師,あるいは看護師はもとより,医学生や薬学生にもぜひ薦めたい一冊である。

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