作業療法 臨床実習とケーススタディ 第3版
臨床実習を通して学ぶ評価や治療の解説に加え、レジメ作成に役立つ情報を提示
もっと見る
臨床実習は養成校の学生にとって、これまで学んできた知識と技術を実際の臨床場面で体験できる貴重な時間である。本書は、臨床実習を通して学ぶことのできる評価や治療の方法などをわかりやすく解説するとともに、対象者の予後を予測したうえで練習計画を立てることができる道筋を示すことに重点を置いている。また、臨床実習の手本となるような厳選された各領域のケーススタディを紹介することで、レジメの作成をサポートする。
*「標準作業療法学」は株式会社医学書院の登録商標です。
シリーズ | 標準作業療法学 専門分野 |
---|---|
シリーズ監修 | 矢谷 令子 |
編集 | 濱口 豊太 |
編集協力 | 鈴木 誠 |
発行 | 2020年03月判型:B5頁:228 |
ISBN | 978-4-260-04126-3 |
定価 | 4,620円 (本体4,200円+税) |
更新情報
-
更新情報はありません。
お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。
- 序文
- 目次
序文
開く
第3版 序
人間が健康と幸福を維持するための行動は,時として,病気と障害に影響されて器質的または機能的な制限が生じる.作業療法の目標の1つは,対象者が欲する行動の実行能力を向上・維持・代替させることである.作業療法のサービスには,対象者の評価,治療,適応技術と環境適応への支援が含まれている.
日本の医療保険が適用できる作業療法は,他の医療サービスと同じように個人別仕立て(テーラーメイド)で行われる.リハビリテーションは対象者の多様な生活状況に対応するため,作業療法も同様に対象者固有の事象に対してサービスがなされる.系統的な人体解剖学から学びうる事象には,人間の脳に標準形があるように例外のほうが少なく,それらは学ぶ者にとって安定した情報であり,拠り所となりやすい.しかし,作業療法の対象者から学ぶ事象には,ほとんど同じものがないと言ってよいだろう.固有の事象を他に転用することは,初学者には難解な課題である.
学生が臨床実習に赴く前に養成校で行われるガイダンスは,全国どこでも同じような内容で行われていることだろう.実習施設特有の情報も当然あるが,実習で学ぶべき事項と対処すべき課題としてガイドされる情報は,共通して系統立てられている.作業療法学生が実習前に準備するように要求されるものや,実習後に提出すべき書類などはそれに当たる.しかし,臨床で作業療法について学ばせていただく対象者は,誰1人として同じではない.個々に異なる学びの対象があるのに,実習のガイドが同じなのはなぜだろうか.また,この疑問と同じことだが,対象者固有の作業療法を行うのに,ケーススタディから学ぶということはどういうことなのだろうか.
医療で用いられる治療法は,まず臨床試験が行われ,効果の再現性と妥当性,安全性が保障されたとみなされたのちに臨床に適用される.作業療法では人体への侵襲性の高い手法が用いられることはあまりない.しかし,対象者の生活様式にかかわり,人間の健康行動に作用する部分では,作業療法は常に安全な手法というわけではない.他の医療と同じように,集団と個人の共通項を見つけて標準化された作業療法を提供するメリットは,効果をある程度の精度で予測できる点にある.集団の効果検証に始まる治療法の標準化は,医療経済効率からみても合理的だ.養成校で行われている作業療法教育もこの観点では同じ形態と言えるだろう.
本書では「個別」の作業療法を基調とした「ケーススタディ」を収載している.学生が体験する臨床実習は,対象者と作業療法士がともに取り組んでいる作業療法を見学し,模倣し,部分的に実践を再現できることが学習目標である.ケーススタディは臨床実習において最も重要な学習課題の1つであるため,本書はこれを最初にまとめた.ケーススタディでは学ぶためのリソースに限りがある.作業療法では1つか2つの例示から,論理や定理に照合して「Aさんに効きました」「だからBさんにも効くはずです」とはなりにくい.ある治療法が集団に効くことを理由に個人に適用してもよいが,その治療法が個人に効果を発揮するかは確率の問題である.本書を読み解くときには,この点にも留意していただきたい.
第4章「臨床実習」では,作業療法教育で位置づけられている臨床実習という必修の課題に学生と実習指導者ならびに教員が万全の体制で臨めるように,スケジュールや役割などをまとめた.臨床実習は,対象者とその関係者を支援する現場で学ぶことができる厳粛な機会である.それは作業療法学生のすべてに課せられた教育課題であり,実習を指導する作業療法士と養成校の教員は,対象者と学生に対し,法的にも倫理的にも配慮しなければならない困難な業を行っている.学生も作業療法士になるための権利と義務を認識して行動できるようにこの章を読んでいただきたい.
作業療法の教育カリキュラムの変更と改善は,他の医療職のそれと同調しながら現在も進んでいる.臨床実習とケーススタディは,これまでの経験知とともに,実習の手法を批判的に評価することで改善されていくだろう.本書もまた,読者にEBMの基本原則を紹介し,EBMを臨床業務に統合する方法を示しつつ,作業療法教育の重要なカリキュラムの1つとして,学習ニーズを満たすために考案された手法を紹介している.多くの臨床経験ある作業療法士の皆様においては,後進のために本書にご意見をいただければ幸甚である.筆者らは,本書が臨床実習で学ぶ読者の傍らにあって,実りある体験へとつながることを願っている.
2019年12月
濱口豊太
人間が健康と幸福を維持するための行動は,時として,病気と障害に影響されて器質的または機能的な制限が生じる.作業療法の目標の1つは,対象者が欲する行動の実行能力を向上・維持・代替させることである.作業療法のサービスには,対象者の評価,治療,適応技術と環境適応への支援が含まれている.
日本の医療保険が適用できる作業療法は,他の医療サービスと同じように個人別仕立て(テーラーメイド)で行われる.リハビリテーションは対象者の多様な生活状況に対応するため,作業療法も同様に対象者固有の事象に対してサービスがなされる.系統的な人体解剖学から学びうる事象には,人間の脳に標準形があるように例外のほうが少なく,それらは学ぶ者にとって安定した情報であり,拠り所となりやすい.しかし,作業療法の対象者から学ぶ事象には,ほとんど同じものがないと言ってよいだろう.固有の事象を他に転用することは,初学者には難解な課題である.
学生が臨床実習に赴く前に養成校で行われるガイダンスは,全国どこでも同じような内容で行われていることだろう.実習施設特有の情報も当然あるが,実習で学ぶべき事項と対処すべき課題としてガイドされる情報は,共通して系統立てられている.作業療法学生が実習前に準備するように要求されるものや,実習後に提出すべき書類などはそれに当たる.しかし,臨床で作業療法について学ばせていただく対象者は,誰1人として同じではない.個々に異なる学びの対象があるのに,実習のガイドが同じなのはなぜだろうか.また,この疑問と同じことだが,対象者固有の作業療法を行うのに,ケーススタディから学ぶということはどういうことなのだろうか.
医療で用いられる治療法は,まず臨床試験が行われ,効果の再現性と妥当性,安全性が保障されたとみなされたのちに臨床に適用される.作業療法では人体への侵襲性の高い手法が用いられることはあまりない.しかし,対象者の生活様式にかかわり,人間の健康行動に作用する部分では,作業療法は常に安全な手法というわけではない.他の医療と同じように,集団と個人の共通項を見つけて標準化された作業療法を提供するメリットは,効果をある程度の精度で予測できる点にある.集団の効果検証に始まる治療法の標準化は,医療経済効率からみても合理的だ.養成校で行われている作業療法教育もこの観点では同じ形態と言えるだろう.
本書では「個別」の作業療法を基調とした「ケーススタディ」を収載している.学生が体験する臨床実習は,対象者と作業療法士がともに取り組んでいる作業療法を見学し,模倣し,部分的に実践を再現できることが学習目標である.ケーススタディは臨床実習において最も重要な学習課題の1つであるため,本書はこれを最初にまとめた.ケーススタディでは学ぶためのリソースに限りがある.作業療法では1つか2つの例示から,論理や定理に照合して「Aさんに効きました」「だからBさんにも効くはずです」とはなりにくい.ある治療法が集団に効くことを理由に個人に適用してもよいが,その治療法が個人に効果を発揮するかは確率の問題である.本書を読み解くときには,この点にも留意していただきたい.
第4章「臨床実習」では,作業療法教育で位置づけられている臨床実習という必修の課題に学生と実習指導者ならびに教員が万全の体制で臨めるように,スケジュールや役割などをまとめた.臨床実習は,対象者とその関係者を支援する現場で学ぶことができる厳粛な機会である.それは作業療法学生のすべてに課せられた教育課題であり,実習を指導する作業療法士と養成校の教員は,対象者と学生に対し,法的にも倫理的にも配慮しなければならない困難な業を行っている.学生も作業療法士になるための権利と義務を認識して行動できるようにこの章を読んでいただきたい.
作業療法の教育カリキュラムの変更と改善は,他の医療職のそれと同調しながら現在も進んでいる.臨床実習とケーススタディは,これまでの経験知とともに,実習の手法を批判的に評価することで改善されていくだろう.本書もまた,読者にEBMの基本原則を紹介し,EBMを臨床業務に統合する方法を示しつつ,作業療法教育の重要なカリキュラムの1つとして,学習ニーズを満たすために考案された手法を紹介している.多くの臨床経験ある作業療法士の皆様においては,後進のために本書にご意見をいただければ幸甚である.筆者らは,本書が臨床実習で学ぶ読者の傍らにあって,実りある体験へとつながることを願っている.
2019年12月
濱口豊太
目次
開く
1 作業療法の評価と実施計画
GIO,SBO,修得チェックリスト
I 評価計画
A 情報収集——処方を受けて対象者に会うまでになすべきこと
B 情報分析——評価計画を立案するために
C 評価計画——評価項目の選択とスケジュールについて
II 評価の実施
A 記録方法
B 目標設定
C 評価の解釈:結果の階層性
D 評価の解釈:予後予測
III 練習計画と実施
A 作業療法計画(練習計画)
B 練習方法
C 練習計画終了の判断
本章のキーワード
2 事例の書き方
GIO,SBO,修得チェックリスト
I 対象者の情報
II 評価結果の統合とその根拠
A 評価結果を統合して標的行動を設定する
B 行動に必要な機能水準と比較する
C 予後予測に基づいて支援計画を立案する
III 評価と分析
A 障害の程度を測定する尺度
B 時系列データから判断する
C 効果判定のための観察デザイン
D 傾向線と統計学的検定
E 今後の予測と目標の変更
本章のキーワード
3 ケーススタディ
GIO,SBO,修得チェックリスト
I 脳・神経機能障害
A 脳卒中急性期——手指の伸展が出現せず,予後不良と疑われた左片麻痺の例
B 脳卒中回復期——左片麻痺および左半側空間無視を呈した症例に対する
復学を見据えた作業療法例
C 脊髄損傷回復期——ADL拡大を目的とした頸髄損傷患者に対する作業療法
D 神経難病——パーキンソン病の高齢男性に対する作業療法例
II 運動器障害
A 前腕切断——非切断肢に機能障害のある右前腕切断者のADLと家事動作練習
B 手外科——橈骨遠位端骨折術後からIADLが獲得できた作業療法例
III がん
A 血液がん治療期——急性骨髄性白血病患者の陰性情動を低減して
運動療法効果を高める
B 消化器がん——終末期消化器がん患者に対する作業療法
IV 精神障害
A 統合失調症回復期——遂行機能障害にアプローチすることで家庭内での役割を
獲得した症例
B アルコール依存症——対処スキルの獲得を目指したかかわり
V 発達過程と高齢期の障害
A 発達障害——読み書きが困難な学習障害児への支援
B アルツハイマー型認知症——BPSDの軽減に向けた
通所リハビリテーションでのかかわり
本章のキーワード
4 臨床実習
GIO,SBO,修得チェックリスト
I 臨床技能習得の準備
A 作業療法士養成の基準
B 臨床実習の目的
C 臨床実習のスケジュール
D 臨床実習の準備
II 学習者の臨床技能
A OSCE
B CBT
III 指導者の臨床実習への準備
A 臨床実習の教育方法
B クリニカル・クラークシップ
本章のキーワード
臨床実習とケーススタディの今後の発展に向けて
A 疫学により検証された作業療法効果を対象者個人に適用する
B テーラーメイド作業療法の重要性
さらに深く学ぶために
巻末資料
【資料1】対象者の現在と予後を推定するための資料
A 行動に必要な機能レベル
B 作業療法の参考とすべき診療記録および臨床検査の所見
【資料2】作業療法OSCEの課題と演習例
A 作業療法における面接
B 認知機能評価
C 片麻痺機能検査
D 基本動作の評価(姿勢反応)
E ADLの評価と練習(更衣動作)
索引
GIO,SBO,修得チェックリスト
I 評価計画
A 情報収集——処方を受けて対象者に会うまでになすべきこと
B 情報分析——評価計画を立案するために
C 評価計画——評価項目の選択とスケジュールについて
II 評価の実施
A 記録方法
B 目標設定
C 評価の解釈:結果の階層性
D 評価の解釈:予後予測
III 練習計画と実施
A 作業療法計画(練習計画)
B 練習方法
C 練習計画終了の判断
本章のキーワード
2 事例の書き方
GIO,SBO,修得チェックリスト
I 対象者の情報
II 評価結果の統合とその根拠
A 評価結果を統合して標的行動を設定する
B 行動に必要な機能水準と比較する
C 予後予測に基づいて支援計画を立案する
III 評価と分析
A 障害の程度を測定する尺度
B 時系列データから判断する
C 効果判定のための観察デザイン
D 傾向線と統計学的検定
E 今後の予測と目標の変更
本章のキーワード
3 ケーススタディ
GIO,SBO,修得チェックリスト
I 脳・神経機能障害
A 脳卒中急性期——手指の伸展が出現せず,予後不良と疑われた左片麻痺の例
B 脳卒中回復期——左片麻痺および左半側空間無視を呈した症例に対する
復学を見据えた作業療法例
C 脊髄損傷回復期——ADL拡大を目的とした頸髄損傷患者に対する作業療法
D 神経難病——パーキンソン病の高齢男性に対する作業療法例
II 運動器障害
A 前腕切断——非切断肢に機能障害のある右前腕切断者のADLと家事動作練習
B 手外科——橈骨遠位端骨折術後からIADLが獲得できた作業療法例
III がん
A 血液がん治療期——急性骨髄性白血病患者の陰性情動を低減して
運動療法効果を高める
B 消化器がん——終末期消化器がん患者に対する作業療法
IV 精神障害
A 統合失調症回復期——遂行機能障害にアプローチすることで家庭内での役割を
獲得した症例
B アルコール依存症——対処スキルの獲得を目指したかかわり
V 発達過程と高齢期の障害
A 発達障害——読み書きが困難な学習障害児への支援
B アルツハイマー型認知症——BPSDの軽減に向けた
通所リハビリテーションでのかかわり
本章のキーワード
4 臨床実習
GIO,SBO,修得チェックリスト
I 臨床技能習得の準備
A 作業療法士養成の基準
B 臨床実習の目的
C 臨床実習のスケジュール
D 臨床実習の準備
II 学習者の臨床技能
A OSCE
B CBT
III 指導者の臨床実習への準備
A 臨床実習の教育方法
B クリニカル・クラークシップ
本章のキーワード
臨床実習とケーススタディの今後の発展に向けて
A 疫学により検証された作業療法効果を対象者個人に適用する
B テーラーメイド作業療法の重要性
さらに深く学ぶために
巻末資料
【資料1】対象者の現在と予後を推定するための資料
A 行動に必要な機能レベル
B 作業療法の参考とすべき診療記録および臨床検査の所見
【資料2】作業療法OSCEの課題と演習例
A 作業療法における面接
B 認知機能評価
C 片麻痺機能検査
D 基本動作の評価(姿勢反応)
E ADLの評価と練習(更衣動作)
索引
更新情報
-
更新情報はありません。
お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。