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外来でよく診る
病気スレスレな症例への生活処方箋
エビデンスとバリューに基づく対応策

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一般内科外来には、ガイドラインでグレー(治療適応かどうかギリギリ)な症例も多く来院し、医師にとっては対応が難しいケースとなっている。しかし、そんなグレーな症例も、エビデンスとバリュー(患者の価値観)を基盤としたアプローチにより診療の幅は広がり、患者の満足度は上がる。外来で多く出会う生活習慣病の症例を中心に、「生活処方箋」というあらたな武器を示しながら、生活習慣病の新しい診療戦略をわかりやすく示す。
*「ジェネラリストBOOKS」は株式会社医学書院の登録商標です。
シリーズ ジェネラリストBOOKS
浦島 充佳
発行 2018年06月判型:A5頁:212
ISBN 978-4-260-03593-4
定価 3,960円 (本体3,600円+税)

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まえがき

 私は30代のとき椎間板ヘルニアを患いました。整形外科医からは手術を薦められましたが,これを断り数年間はコルセット生活でした。体重も増え,BMIも29kg/m2に達し肥満症,家内から睡眠時無呼吸を指摘されました。また病棟で患者さんの具合が悪くなると私のお腹の調子も悪くなり,いま思えば過敏性腸症候群でした。睡眠不足と過労が相まって血圧も180/110mmHg超まで上昇し,血清脂質も総コレステロールは240mg/dL以上,HDL-Cは30mg/dL以下とスタチンを使いはじめてもよいレベルでした。また40代ころから咳が出やすくなり,夜間咳込んで何度も起きてしまう慢性咳嗽の状態でした。父親と祖父は糖尿病で,私の血糖も若干高めです。まずいと思い,40歳ころから運動を始めたら膝を痛めてしまいました。
 しかし,40代より東京マラソンでの完走を目標とし,筋トレやランニングなどを週に3~5回は取り入れ,ダイエットも摂取カロリーは制限せず外食の回数と炭水化物の摂取量を減らし,50代までに体重を10kg以上落としました。椎間板ヘルニアや膝関節症は手術をせずに完治,高血圧と脂質異常症は薬なしで治ってしまいました。睡眠時無呼吸,過敏性腸症候群,慢性咳嗽もいつの間にかなくなりました。病気が治っただけではなく,短い時間でも熟睡するせいか物忘れが減り,ポジティブな思考になるなどメンタルにもよい面が多くなったと感じています。ここ数年で,「生活習慣改善が心筋梗塞や脳卒中をはじめとした重大な疾患の発生を予防するだけではなく,全ての原因による死亡リスクも軽減する」といったランダム化比較試験やそのメタ解析,大規模観察研究に裏付けされたエビデンスが次々と『N Engl J Med』『Lancet』『JAMA』『BMJ』といった有名医学雑誌に報告されるようになりました。「薬や手術に頼らずとも多くの病気は治癒し得る」という個人的な経験が科学的エビデンスで裏づけされた形です。
 私は小児科専門医ですが,10年以上前から出張病院で小児だけではなく,成人の方も診察しています。もちろん重大な病気が疑われれば専門医を紹介します。しかし,多くの患者さんは,私と同じように,咳がなかなかとれない,腰や膝が痛む,血圧や血清脂質,血糖値が高めと健診で指摘された,夜眠れないといった症状で来院されます。しかも,できれば薬を使わないで治したいと考えている方が大多数であることに気付きました。そのようなときに,私の運動や食事の工夫で病気を克服した体験などを交えて,エビデンスを紹介すると,多くの方は目を輝かせて「早速やってみます」と宣言してくれます。
 本書では「まず薬を使わず運動や食事だけで病気をよくしたい」といったバリューを持つ患者さんで,医学的にもまずは生活習慣の改善を優先させた方がよいであろう場合,特に病気スレスレ,あるいは軽症の病気にどのような生活の処方をするか?というテーマでまとめてみました。診察室で繰り広げられる会話は,仮に病名が同じであったとしても,全て違うでしょう。そのため,生活処方箋の内容は患者さんによって異なってしかるべきです。したがって,どれが正しい生活処方箋で,どれが間違いというものではありません。ただ,先生方の外来診療で使えるフレーズやエビデンス,処方内容があれば幸いです。

 2018年5月
 浦島充佳

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まえがき

イントロダクション
 病気スレスレな症例への生活処方箋─エビデンスとバリューに基づく対応策

外来でよく診る病気スレスレな症例への生活処方箋
 ─エビデンスとバリューに基づく対応策
 第1章【高血圧症】
  血圧が高めなので薬を飲んだほうがいいですか?
 第2章【脂質異常症】
  健診で血清脂質の異常を指摘されました。心筋梗塞や脳卒中が心配です。
   検査値をよくする方法はありますか?
 第3章【肥満症】
  体重を減らしても,すぐにリバウンドしてしまいます
 第4章【糖尿病】
  健診で血糖値がやや高いことを指摘されました。糖尿病は予防できますか?
 第5章【慢性閉塞性肺疾患(COPD)】
  階段を昇るときや歩いているとき,息が上がります
 第6章【閉塞性睡眠時無呼吸(睡眠時無呼吸症候群)】
  寝ているとき「いびきがうるさく,時々息が止まる」と妻に指摘されました
 第7章【過敏性腸症候群】
  左下腹部の痛みと,軟便が数カ月続いています
 第8章【一過性脳虚血発作】
  軽い脳卒中を起こしましたが無事に退院できました
 第9章【安定狭心症】
  運動時に胸骨の下あたりに違和感があります
 第10章【骨粗鬆症】
  保健所で骨の検診を受けたら骨粗鬆症と言われました
 第11章【椎間板ヘルニア】
  重いものを持ち上げたとき腰を痛めました
 第12章【肩痛(肩インピンジメント症候群)】
  お皿を棚の高いところに戻すとき肩が痛みます
 第13章【膝痛(膝の骨関節炎)】
  階段の昇り降りをする際,膝が痛みます
 第14章【軽度認知症(認知症)】
  最近よく物忘れをするんです
 第15章【がん】
  大腸がんを予防したいのですが,スクリーニング検査を受ければ十分ですか?

索引

Theエビデンス
 [第1章]
  血圧がさほど高くない患者さんに降圧薬は不要(HOPE 3)
  1日3gの減塩は,降圧薬使用に匹敵する
  DASHが降圧には最も効果的
  それほど厳しい塩分制限は必要ない
  過剰摂取を減らすのは効果的,しかし厳しい塩分制限は効果薄
  DASH+運動が最強の降圧効果
 [第2章]
  座っている時間が長い人の運動不足は,どれくらい運動すれば解消されるのか?
  ゆっくり長い時間ジョギングするのと,速く短い時間走るのとではどちらがよいか?
  運動しすぎもよくないのでは?
 [第3章]
  低脂肪・低炭水化物・地中海料理ダイエット,それぞれのダイエットの特徴は?
  本当にアトキンスダイエットがいちばんよいのか?
  リバウンドしにくいダイエット法とは?
 [第4章]
  メトホルミンと減量,どちらが糖尿病発症予防効果があるのか?
  脂質は量ではなく質である
  散歩は糖尿病発症を予防する!
 [第5章]
  定期的運動はCOPD4年生存率を延長する
  定期的運動はCOPD患者の入院・死亡リスクを約30%下げる
  PM2.5やオゾンにみる大気汚染もCOPDを増やしている
 [第6章]
  睡眠時無呼吸の診断に専門医による終夜睡眠ポリグラフが必要か?
  CPAPは心血管イベントを防がない
  運動と食生活での症状改善
  口腔,下咽頭筋のトレーニング
  ディジュリドゥ
 [第7章]
  FODMAPの少ない食事とは?
  FODMAPの少ない食事でIBSの症状は改善
  グルテンフリー食でIBSの症状は改善
  プラセボでもIBSの症状は改善
 [第8章]
  いまだに抗血小板薬(アスピリン,モカグレロール)(+ジピリダモール)の
   脳梗塞予防効果は大きい
  TIAあるいは脳卒中後の適正血圧とは?
  週に3回以上の激しい運動または週5回以上の中等度の運動が有効
  野菜,果物,玄米,減塩が基本
  ロカボが有効
  過労は脳梗塞のリスクである
 [第9章]
  野菜,果物,豆は心血管疾患以外の疾患による死亡率を抑制する
  高脂肪,低炭水化物が死亡率を減らす
  毎日運動することが大切→休日まとめて運動し過ぎは逆効果
 [第10章]
  日常的身体運動の効果
  筋トレの効果
  減量+有酸素運動はかえって骨密度を下げる
  転倒予防には,バランス練習が最も効果的
  転倒予防には,ビタミンDも有効
 [第11章]
  坐骨神経痛を伴う椎間板ヘルニアに手術は有効か?
  急性腰痛時はベッド上安静か,それとも身体を動かしたほうがよいのか?
  急性の椎間板ヘルニアでは安静にするべきか?
  慢性腰痛に対する鍼治療は有効か?
  慢性腰痛でストレッチや筋トレは禁忌か,奨励か?
  慢性腰痛に対するマインドフルネス・ストレス軽減法,認知行動療法,
   一般診療の効果比較
  再発予防
 [第12章]
  肩関節へのステロイド局所注射は有効か?
  慢性インピンジメントに肩の運動療法は有効か?
 [第13章]
  半月板変性断裂に対して手術するべきか?
  膝の骨関節炎に対して食事療法,運動療法,どちらが有効か?
 [第14章]
  アルコールは海馬を萎縮させる
  運動不足が先か,認知機能低下が先か?
  最近注目の食事療法:MINDとは?
 [第15章]
  便潜血検査による大腸がんスクリーニングは有効か?
  S状結腸内視鏡検査を受ければ長生きできるか?
  赤身肉,加工肉,レバーは大腸がんの発症リスクである
  運動で大腸がん発症を予防できる
  大腸がんになった場合でも再発・死亡を予防できる

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日常診療で使えるVBM(価値に基づく医療)の指南書
書評者: 今村 英仁 (公益財団法人慈愛会理事長)
 「Value-based Medicine(VBM)とは何か?」この本を手に取った方はまずこの疑問を持たれることだろう。そもそも著者は,EBM(科学的根拠に基づく医学)の大家であり,「いかにしてエビデンスを作り,利用するか」を著した書籍や,その基本となる臨床統計学の教科書など,多数のEBM関連著書を出版している。

 一見,エビデンス(科学的根拠)とバリュー(価値観)では正反対の概念のように思われる。とうとうEBMに愛想を尽かしてVBMに寝返ったのかなと言うと然にあらず。この本を読むとVBMはしっかりしたEBMの基盤の上に成立することがよくわかる。“治療”の際にはEBMが大きな力を発揮する。“予防”の際もエビデンスはしっかりと蓄積されてきている。ただ,「馬を水辺に連れていくことはできても,水を飲ませることはできない」。エビデンスを振りかざしてもなかなか実行してもらえないのが予防の世界である。そこで出てくるのがVBMである。

 この著書は,How to make ValueからHow to use ValueまでVBMとは何かを理解し,さらに実行するための教科書にして実用書である。筆者自身の体験を踏まえているのでより説得力が高い。後は,ぜひ本書を読み下してやさしく「水を飲んでもらう」ようにしていただきたい。
患者の生活習慣を改善させる技術を解き明かす一冊
書評者: 小泉 泰郎 (FiNC代表取締役副社長CFO兼CIO)
 本書が伝えるのは,来院者の健康のために,食事や運動などについての生活習慣を処方する「生活処方箋」という考え方です。診察に来る患者さんはそれぞれ別個の悩みや身体症状を抱えていますが,実に大部分の人が共通して,薬に頼らず治したいという要望を持っています。生活習慣を改め病因を根本から絶つアプローチは,服薬と違い副作用の恐れや費用の負担もなく,理想的な治療法だといえます。

 このような方々の希望を実現するために,薬の処方一辺倒の治療では求められてこなかった,患者さんの行動変容を促す医師の腕前が問われるようになります。決して簡単なことではありませんが,本書の助けがあれば,個々の症状や価値観に応じ,適切な食習慣や運動習慣を身につけてもらうための道筋が見えてくるはずです。本書には「生活処方箋」の裏付けとなる有用なエビデンスから,患者さんをモチベートするためのフレーズに至るまで,当事者の納得とやる気を引き出し,より良い生活習慣の継続を実現する術が豊富に掲載されています。これは薬に頼らず病気を治したい人に,大きな希望を与えることでしょう。

 本書では,生活習慣の改善を通じて,さまざまな症状を回復に導くまでの好事例が多数収録されています。まるで,診察室に同席しているかのようなリアリティがあり,すぐに実用できる知恵ばかりです。医師にも,健康に関心がある一般の方にも多くの発見がある,珠玉の一冊です。

 「全ての人の健康のためにパーソナルAIを」という,弊社FiNCの掲げるミッションとも一致する本書と,浦島充佳先生に敬意を表したいと思います。
人生100年時代を見据えた新時代の医療
書評者: 大谷 泰夫 (神奈川県立保健福祉大理事長)
 これまでは人間の健康状態を健康か病気かという二分法で区分して対処してきた。しかし,その両者は連続した変化の中で存在している。特に生活習慣病の分野では,人はある日突然病気に陥るのではなく,予兆段階を経て発症し,重篤化していく。こうした流れを念頭に置いて,従来型の健康観とは異なった,個人の自立的意思や予防・回復努力を重視した新しい健康観「未病」が提唱されている。

 本書でいう「グレーな症例」への対応策は,まさしくこの未病的な健康観に符合するものと思われる。これはわが国で通例行われている医療スタイル,すなわち公的医療保険が想定する医薬品や手術に依拠する典型的な治療方法に一石を投じる新時代のスタイルである。治療の手段として,運動や食事療法を重要な選択肢に加えた「生活処方箋」という考え方は,健康寿命の延伸をめざす人生100年時代という人生の健康サイクルに目を向けた注目すべき方法論である。

 こうした治療方針に際しては,これまではエビデンスという側面からの不安や不信がつきまといがちであったが,本書においては医学的根拠に基づく治療の実例とアドバイスが,個別の症例に即して具体的かつ豊富に展開されていることが画期的である。

 今後の医療現場において,本書の提唱する新時代の医療に理解と共感が広がることを心から期待する。

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