脊髄損傷リハビリテーションマニュアル 第3版
教科書を超えたリハビリ実践書,待望の全面改訂。脊損リハビリはここまで進化した!
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脊髄損傷リハビリテーションのスタンダードテキスト、約20年ぶりの全面改訂版。オールカラーとなり、より親しみやすいテキストへと進化した。脊損リハの基本事項をおさえたうえで、医療の変化や脊損リハの現況に合わせた内容へとアップデート。20年のブランクをうめ、次の20年へとつながる内容となっている。脊損リハの実際をイラストや写真を交え豊富に紹介し、臨床現場で役立つ実践書でもある。
編集 | 神奈川リハビリテーション病院 脊髄損傷リハビリテーションマニュアル編集委員会 |
---|---|
発行 | 2019年06月判型:B5頁:336 |
ISBN | 978-4-260-03696-2 |
定価 | 5,720円 (本体5,200円+税) |
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- 序文
- 目次
- 書評
序文
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第3版 序
1984年に本書の初版が発刊され,1996年に第2版が発刊されてから約20年が経過し,今回全面的な改訂を行うに至った.今回の第3版は,初版や第2版の首尾一貫した意図が引き継がれた脊髄損傷リハビリテーションの具体的な手順を示す専門的技術書といえる.前版から約20年が経過するが,その間,高齢不全頚髄損傷者の増加,合併症治療の進歩,社会制度の見直しなど脊髄損傷をとりまく環境は大きく変わった.このような変化に対応すべく神奈川リハビリテーション病院ではさまざまな取り組みを行い,今まで以上に技術や経験を蓄積してきた.今版では,これらのノウハウを紹介し,より時代に即したものとなっている.
近年,高齢不全頚髄損傷者の増加が大きな課題となっている.今版では多くの紙幅を費やして,この課題にいかに取り組むべきかを述べている.たとえば脊髄損傷の疫学の項目では,全国脊髄損傷データベースを用いて高齢不全頚髄損傷者が多くを占めるようになった背景について触れ,また動作練習やADL支援,住宅改修の項目でも不全四肢麻痺について扱っている.合併症の治療もここ数年の進歩は著しく,さまざまな治療法が出現している.特に褥瘡治療,排尿障害,疼痛,痙縮などに対する新たな治療について,当院での取り組みとともに書き記した.本書の総論では,まず全体を把握できるよう,動作練習やADL支援をどのように進めていくかまとめている.ほかには,急性期や回復期だけでなく,今版では慢性期にもスポットを当て,慢性期における対応方法も示した.さらに,頚髄損傷者の生活状況をイメージしやすいよう,頚髄損傷者の旅行,単身生活,育児,就労,介助犬に関するコラムを収載した.脊髄損傷治療の未来に向けてというところでは,再生医療とロボティクスについても述べている.特に当院はロボティクスについて積極的に取り組んでおり,さまざまなエビデンスを構築してきた.今後の脊髄損傷医療の指針になればと思う.本書全体を通して図や写真を多く取り入れており,よりわかりやすくなるように心がけた.多くの医療現場や当事者である脊髄損傷者の方々に役立つことができればと期待するところである.
当院に常勤されていた先生方以外の執筆者として,再生医療のリハビリテーションを実際に行っている横浜市立大学大学院医学研究科リハビリテーション科学主任教授の中村 健先生に加わっていただいた.また,社会福祉法人日本介助犬協会専務理事の高柳友子先生に,介助犬についておまとめいただいた.また,当院も参加している全国脊髄損傷データベース委員会からデータ提供をしていただいた.ご協力いただいた先生方に心からお礼を申し上げる.
今回の改訂版は,初版を執筆した安藤徳彦先生,大橋正洋先生,石堂哲郎先生,木下 博先生,第2版を執筆した「脊髄損傷マニュアル編集委員会」の多くの先生方の意図を引き継ぎ,積み重ねてきたものを形にしたものであり,初版,第2版を執筆された先生方に深く敬意を表する.
2019年4月
編集代表 横山 修
1984年に本書の初版が発刊され,1996年に第2版が発刊されてから約20年が経過し,今回全面的な改訂を行うに至った.今回の第3版は,初版や第2版の首尾一貫した意図が引き継がれた脊髄損傷リハビリテーションの具体的な手順を示す専門的技術書といえる.前版から約20年が経過するが,その間,高齢不全頚髄損傷者の増加,合併症治療の進歩,社会制度の見直しなど脊髄損傷をとりまく環境は大きく変わった.このような変化に対応すべく神奈川リハビリテーション病院ではさまざまな取り組みを行い,今まで以上に技術や経験を蓄積してきた.今版では,これらのノウハウを紹介し,より時代に即したものとなっている.
近年,高齢不全頚髄損傷者の増加が大きな課題となっている.今版では多くの紙幅を費やして,この課題にいかに取り組むべきかを述べている.たとえば脊髄損傷の疫学の項目では,全国脊髄損傷データベースを用いて高齢不全頚髄損傷者が多くを占めるようになった背景について触れ,また動作練習やADL支援,住宅改修の項目でも不全四肢麻痺について扱っている.合併症の治療もここ数年の進歩は著しく,さまざまな治療法が出現している.特に褥瘡治療,排尿障害,疼痛,痙縮などに対する新たな治療について,当院での取り組みとともに書き記した.本書の総論では,まず全体を把握できるよう,動作練習やADL支援をどのように進めていくかまとめている.ほかには,急性期や回復期だけでなく,今版では慢性期にもスポットを当て,慢性期における対応方法も示した.さらに,頚髄損傷者の生活状況をイメージしやすいよう,頚髄損傷者の旅行,単身生活,育児,就労,介助犬に関するコラムを収載した.脊髄損傷治療の未来に向けてというところでは,再生医療とロボティクスについても述べている.特に当院はロボティクスについて積極的に取り組んでおり,さまざまなエビデンスを構築してきた.今後の脊髄損傷医療の指針になればと思う.本書全体を通して図や写真を多く取り入れており,よりわかりやすくなるように心がけた.多くの医療現場や当事者である脊髄損傷者の方々に役立つことができればと期待するところである.
当院に常勤されていた先生方以外の執筆者として,再生医療のリハビリテーションを実際に行っている横浜市立大学大学院医学研究科リハビリテーション科学主任教授の中村 健先生に加わっていただいた.また,社会福祉法人日本介助犬協会専務理事の高柳友子先生に,介助犬についておまとめいただいた.また,当院も参加している全国脊髄損傷データベース委員会からデータ提供をしていただいた.ご協力いただいた先生方に心からお礼を申し上げる.
今回の改訂版は,初版を執筆した安藤徳彦先生,大橋正洋先生,石堂哲郎先生,木下 博先生,第2版を執筆した「脊髄損傷マニュアル編集委員会」の多くの先生方の意図を引き継ぎ,積み重ねてきたものを形にしたものであり,初版,第2版を執筆された先生方に深く敬意を表する.
2019年4月
編集代表 横山 修
目次
開く
1章 脊髄損傷の疫学
1 外傷性脊髄損傷の疫学
2 非外傷性脊髄損傷の疫学
3 疫学からみた予防と展望
2章 評価と予後予測
1 評価
2 予後予測
3章 急性期のマネジメント
1 局所管理
2 全身管理
3 急性期のリハビリテーション治療
4章 合併症
1 呼吸機能障害と理学療法
2 褥瘡
3 排尿障害
4 排便障害
5 自律神経機能障害
6 異所性骨化
7 痙縮
8 疼痛
9 骨代謝と骨折
10 深部静脈血栓症
11 脊髄・延髄空洞症に対する外科治療
12 脊髄損傷患者への心理学的支援
5章 動作練習
1 動作練習の考えかた・進めかた
2 ベッド上ポジショニング
3 寝返り動作
4 座位姿勢・バランス練習
5 起き上がり動作
6 プッシュアップ・床上移動動作
7 移乗動作(トランスファー)
8 車椅子駆動
9 歩行
10 移乗介助
11 不全麻痺の動作練習
6章 ADL支援,上肢機能
1 ADL支援の進めかた
2 ベッド周辺機器操作
3 食事・整容
4 書字・パソコン操作
5 更衣
6 対象物への移乗(ベッド・便座・入浴台)
7 排泄
8 入浴
9 自動車運転
10 公共交通機関の利用(外出支援)
11 日常生活関連動作
12 不全四肢麻痺者へのADL支援
13 上肢機能
7章 脊髄損傷の看護
1 日常の看護手順
2 退院に向けた看護・介護指導
3 地域支援
8章 脊髄損傷者の体育・スポーツ
1 体育・スポーツ訓練
2 体育・スポーツ訓練種目
3 体育・スポーツ訓練の効果
4 障害者スポーツ
9章 車椅子・クッション/ベッド・マットレス/福祉機器
1 車椅子・クッション
2 ベッド・マットレス
3 移乗支援の機器
4 環境制御装置(ECS)
5 その他
10章 家庭復帰
1 住宅改修総論
2 住宅改修① 四肢麻痺介助ベース
3 住宅改修② 四肢麻痺自立ベース
4 住宅改修③ 高齢不全四肢麻痺(立位歩行ベース)
11章 社会資源制度および活用
1 在宅サービスの活用制度―介護保険法と障害者総合支援法
2 在宅サービス活用の視点
3 その他の制度
4 脊髄損傷者の社会資源活用の現状
12章 就労支援
13章 小児の脊髄損傷・復学支援
14章 慢性期の健康増進
1 健康管理
2 身体機能維持
15章 脊髄損傷の再生医療とロボティクス
1 再生医療
2 ロボティクス
索引
Note
サーファーズミエロパチー
頚髄損傷者の嚥下障害
排尿筋括約筋協調不全
膀胱機能の評価方法
神奈川リハビリテーション病院で開発した機器
①曲がるキーボードスタンド「カーヴィー」
頚髄損傷者の旅行
神奈川リハビリテーション病院で開発した機器
②3Dプリンタを活用した自助具「“すらら”と“ぱっくん”」
頚髄損傷者の単身生活
神奈川リハビリテーション病院で開発した機器
③世界をリードするチェアスキー
介助犬
高齢化への対応
頚髄損傷者の就労
脊髄損傷者の育児
1 外傷性脊髄損傷の疫学
2 非外傷性脊髄損傷の疫学
3 疫学からみた予防と展望
2章 評価と予後予測
1 評価
2 予後予測
3章 急性期のマネジメント
1 局所管理
2 全身管理
3 急性期のリハビリテーション治療
4章 合併症
1 呼吸機能障害と理学療法
2 褥瘡
3 排尿障害
4 排便障害
5 自律神経機能障害
6 異所性骨化
7 痙縮
8 疼痛
9 骨代謝と骨折
10 深部静脈血栓症
11 脊髄・延髄空洞症に対する外科治療
12 脊髄損傷患者への心理学的支援
5章 動作練習
1 動作練習の考えかた・進めかた
2 ベッド上ポジショニング
3 寝返り動作
4 座位姿勢・バランス練習
5 起き上がり動作
6 プッシュアップ・床上移動動作
7 移乗動作(トランスファー)
8 車椅子駆動
9 歩行
10 移乗介助
11 不全麻痺の動作練習
6章 ADL支援,上肢機能
1 ADL支援の進めかた
2 ベッド周辺機器操作
3 食事・整容
4 書字・パソコン操作
5 更衣
6 対象物への移乗(ベッド・便座・入浴台)
7 排泄
8 入浴
9 自動車運転
10 公共交通機関の利用(外出支援)
11 日常生活関連動作
12 不全四肢麻痺者へのADL支援
13 上肢機能
7章 脊髄損傷の看護
1 日常の看護手順
2 退院に向けた看護・介護指導
3 地域支援
8章 脊髄損傷者の体育・スポーツ
1 体育・スポーツ訓練
2 体育・スポーツ訓練種目
3 体育・スポーツ訓練の効果
4 障害者スポーツ
9章 車椅子・クッション/ベッド・マットレス/福祉機器
1 車椅子・クッション
2 ベッド・マットレス
3 移乗支援の機器
4 環境制御装置(ECS)
5 その他
10章 家庭復帰
1 住宅改修総論
2 住宅改修① 四肢麻痺介助ベース
3 住宅改修② 四肢麻痺自立ベース
4 住宅改修③ 高齢不全四肢麻痺(立位歩行ベース)
11章 社会資源制度および活用
1 在宅サービスの活用制度―介護保険法と障害者総合支援法
2 在宅サービス活用の視点
3 その他の制度
4 脊髄損傷者の社会資源活用の現状
12章 就労支援
13章 小児の脊髄損傷・復学支援
14章 慢性期の健康増進
1 健康管理
2 身体機能維持
15章 脊髄損傷の再生医療とロボティクス
1 再生医療
2 ロボティクス
索引
Note
サーファーズミエロパチー
頚髄損傷者の嚥下障害
排尿筋括約筋協調不全
膀胱機能の評価方法
神奈川リハビリテーション病院で開発した機器
①曲がるキーボードスタンド「カーヴィー」
頚髄損傷者の旅行
神奈川リハビリテーション病院で開発した機器
②3Dプリンタを活用した自助具「“すらら”と“ぱっくん”」
頚髄損傷者の単身生活
神奈川リハビリテーション病院で開発した機器
③世界をリードするチェアスキー
介助犬
高齢化への対応
頚髄損傷者の就労
脊髄損傷者の育児
書評
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技術・知識・経験が全領域にわたり記述された優れた技術書
書評者: 德弘 昭博 (吉備高原医療リハビリテーションセンター院長)
脊髄損傷(以下,脊損)は本人・家族,さらに周囲の人々にもその後の人生に多大な影響を与える重要なリハビリテーション(以下,リハ)の対象障害である。その障害は多面的で,初期のリハから生涯にわたる包括的ケアが必要となる。リハにかかわる医療者はチームで対応するが,障害は重く,対応の範囲は広く,要する知識は膨大で,医療現場での身体的・精神的負担は大きい。わが国で専門的リハ医療を展開できるリハ施設は限られている。
神奈川リハビリテーション病院は脊損リハの長い歴史と多くの経験があり,高度な技術と知識を持つわが国有数の施設である。本書にはその技術・知識・経験が全ての領域にわたって記述されている。本書は優れた現場の技術書であり,同時に脊損リハの全貌を知ろうとする者にとっては絶好の教科書である。
本書の初版の序の冒頭には「この本は実践の技術書である」と編集者の志が示されているが,今回の第3版もこの姿勢が貫かれると同時に,新たな技術・知見が盛り込まれた最新の内容になっている。写真・図を多用しビジュアルに理解を促進するという配慮がなされており,読者は脊損リハ全般の知識とその全貌が理解できると同時に,リハ医療が対応する分野の広がりと深さに気付かされる。医療現場の医療文化やリハに向かう姿勢をも発信されているように思える。
脊損の発生状況は変化しつつあり,現在は高齢者の四肢不全麻痺が多数を占める状況となっている。高齢者に対しては各地域の施設でリハ治療が行われることが多いが,脊損に対する経験があまりない医療者は心理的な負担を感じていると聞く。そのようなときも本書は高齢脊損者のリハ医療にも触れられているので絶好の技術書となり,各施設の脊損リハ技術・知識の普及・向上に役立つだろう。
また脊損医療の現在の関心は再生医療にあるが,それが本格的に開始された後も社会復帰には地道なリハ訓練を経なければならない。その際にも本書に記述された内容は有用であり続けると思われる。
脊損リハの現場では医学的エビデンスを明らかにできない医療も実際行われている。本書は医療者が抱くそうした疑問に合理性のある記述で応えている。
読みやすく考慮されており脊損リハの入門者にはもちろん,脊損リハに現在かかわっている医療者にとっても技術や知識の確認・整理に最適の書である。
新たな内容も加わった全面改訂版。ベテランにもお薦め
書評者: 吉川 憲一 (茨城県立医療大学付属病院・理学療法士)
このたび,横山修先生編集代表の下,神奈川リハビリテーション病院で脊髄損傷者のリハビリテーションを第一線で支えている医師,理学療法士,作業療法士,看護師,リハビリテーション工学技士らを執筆者に配した『脊髄損傷リハビリテーションマニュアル 第3版』が上梓された。神奈川リハビリテーション病院は,半世紀にわたり脊髄損傷者に対するリハビリテーション分野でわが国をリードしてきた医療機関である。本書の前版(第2版)は20年以上前に出版されたが,脊髄損傷のリハビリテーションに携わる者の必携の書となっており,“脊損リハの赤本”とも呼ばれ親しまれている。今回のリニューアルでは100ページ近くのボリュームアップとなっている。
全15章からなる本書は,脊髄損傷者が急性期から社会復帰に至るまでの流れをわかりやすく章立てされている。各章の内容も第2版の上書きにとどまらず,ほぼ全ての章において最新知見を加えた全面改訂となっている。読み進めていくと,フルカラーの写真とイラストが多用されていることに気付く。脊髄損傷者がリハビリテーションによって獲得すべき日常生活動作,重症度に応じた環境設定の提案の例など,細部にわたり豊富な写真・イラストを用いて解説されている。実際の症例の写真を用いた動作手順の説明などは非常にわかりやすい。理学療法士による介入例として,執筆メンバーであり脊髄損傷理学療法研究会会長を務める藤縄光留氏の介入場面の写真も多く用いられており,セラピスト諸氏は必見である。
合併症の章では,脊髄損傷のリハビリテーションでみられる特有の病態から介入・予防に至るまで詳しく解説されている。ここでも多くの写真やイラストを用い,臨床上の留意点が丁寧に解説されており,初学者も理解しやすい内容となっている。
「脊髄損傷の疫学」「評価と予後予測」「慢性期の健康増進」「脊髄損傷の再生医療とロボティクス」などの新たな内容も加わった。最新の科学的知見にも触れられており,ベテランの医療従事者にとっても刺激の多い内容となっている。再生医療については,横浜市大主任教授の中村健先生により,リハビリテーションの方法が具体的に述べられている。
量・質ともにバージョンアップした本書は,脊髄損傷のリハビリテーションに携わる全ての医療従事者・介護従事者のサポートになるに違いない。本書を通じ,多くの脊髄損傷者のリハビリテーションが円滑に進み,より良い生活への一助となることを切に祈る。
学生の導入書にも,経験者の知識のアップデートにもお薦め
書評者: 柴田 八衣子 (兵庫県立リハビリテーション中央病院リハビリ療法部・作業療法士)
日々の臨床で,脊髄損傷の患者さんを初めて担当し,悪戦苦闘している若手スタッフを見ながら,彼らに役立つ良い教科書はないかと探していたところ,本書に出合いました。
前版に当たる第2版は,院内書庫にも蔵書しており,薦めることが多かったのですが,改訂された本書は,医療者の思考や悩みやすい部分を解決するためにさらに配慮された内容で,まさに“実践書”となっていました。医師・看護師・理学療法士・作業療法士などの医療職種だけでなく,脊髄損傷者の生活にかかわる多くの職種の方々が執筆されており,多角的な視点に触れることができます。
私は,総合リハビリテーションセンターに勤務しており,ここでは障害者病棟や障害者施設で脊髄損傷者の回復期から在宅復帰までの支援を担っています。脊髄損傷者に対するリハビリテーションを行うためには,疾患の特徴やさまざまな合併症とその対処方法など基礎的な知識が必要不可欠であり,評価や訓練方法も疾患特有のものが多くあります。
現在,脊髄損傷者の専門的治療やリハビリテーションを行っている施設は限られているため,回復期リハビリテーション病棟や在宅などで初めて脊髄損傷者とかかわり,悩んでいるという話をよく聞きます。これは,養成校で疾患について学習しても,病院での実習などで実際の患者さんと出会うことが大変少なく,脊髄損傷者の病態や生活のイメージが持ちにくいからではないでしょうか。
本書では,急性期から家庭復帰・就労支援までのリハビリテーションの流れが体系的に,かつ幅広く解説されています。また,医学的知識から福祉用具・住宅改修,スポーツ,社会資源制度など生活支援に必須の内容が網羅されており,患者さんへの紹介にも役立てることができます。実際のリハビリテーションの場面がカラー写真やイラストで紹介されており,臨床の参考にとどまらず,担当患者さんの受傷時からの治療や今後の流れを把握するには最適だと感じました。また,近年増加している高齢不全頚髄損傷者への対応や再生医療・ロボットを使ったリハビリテーションなど最新の知見も載せられており,学生さんへの導入書としてはもちろん,経験を積み重ねた方の知識のアップデートにも活用できる本当にお薦めできる一冊です。
書評者: 德弘 昭博 (吉備高原医療リハビリテーションセンター院長)
脊髄損傷(以下,脊損)は本人・家族,さらに周囲の人々にもその後の人生に多大な影響を与える重要なリハビリテーション(以下,リハ)の対象障害である。その障害は多面的で,初期のリハから生涯にわたる包括的ケアが必要となる。リハにかかわる医療者はチームで対応するが,障害は重く,対応の範囲は広く,要する知識は膨大で,医療現場での身体的・精神的負担は大きい。わが国で専門的リハ医療を展開できるリハ施設は限られている。
神奈川リハビリテーション病院は脊損リハの長い歴史と多くの経験があり,高度な技術と知識を持つわが国有数の施設である。本書にはその技術・知識・経験が全ての領域にわたって記述されている。本書は優れた現場の技術書であり,同時に脊損リハの全貌を知ろうとする者にとっては絶好の教科書である。
本書の初版の序の冒頭には「この本は実践の技術書である」と編集者の志が示されているが,今回の第3版もこの姿勢が貫かれると同時に,新たな技術・知見が盛り込まれた最新の内容になっている。写真・図を多用しビジュアルに理解を促進するという配慮がなされており,読者は脊損リハ全般の知識とその全貌が理解できると同時に,リハ医療が対応する分野の広がりと深さに気付かされる。医療現場の医療文化やリハに向かう姿勢をも発信されているように思える。
脊損の発生状況は変化しつつあり,現在は高齢者の四肢不全麻痺が多数を占める状況となっている。高齢者に対しては各地域の施設でリハ治療が行われることが多いが,脊損に対する経験があまりない医療者は心理的な負担を感じていると聞く。そのようなときも本書は高齢脊損者のリハ医療にも触れられているので絶好の技術書となり,各施設の脊損リハ技術・知識の普及・向上に役立つだろう。
また脊損医療の現在の関心は再生医療にあるが,それが本格的に開始された後も社会復帰には地道なリハ訓練を経なければならない。その際にも本書に記述された内容は有用であり続けると思われる。
脊損リハの現場では医学的エビデンスを明らかにできない医療も実際行われている。本書は医療者が抱くそうした疑問に合理性のある記述で応えている。
読みやすく考慮されており脊損リハの入門者にはもちろん,脊損リハに現在かかわっている医療者にとっても技術や知識の確認・整理に最適の書である。
新たな内容も加わった全面改訂版。ベテランにもお薦め
書評者: 吉川 憲一 (茨城県立医療大学付属病院・理学療法士)
このたび,横山修先生編集代表の下,神奈川リハビリテーション病院で脊髄損傷者のリハビリテーションを第一線で支えている医師,理学療法士,作業療法士,看護師,リハビリテーション工学技士らを執筆者に配した『脊髄損傷リハビリテーションマニュアル 第3版』が上梓された。神奈川リハビリテーション病院は,半世紀にわたり脊髄損傷者に対するリハビリテーション分野でわが国をリードしてきた医療機関である。本書の前版(第2版)は20年以上前に出版されたが,脊髄損傷のリハビリテーションに携わる者の必携の書となっており,“脊損リハの赤本”とも呼ばれ親しまれている。今回のリニューアルでは100ページ近くのボリュームアップとなっている。
全15章からなる本書は,脊髄損傷者が急性期から社会復帰に至るまでの流れをわかりやすく章立てされている。各章の内容も第2版の上書きにとどまらず,ほぼ全ての章において最新知見を加えた全面改訂となっている。読み進めていくと,フルカラーの写真とイラストが多用されていることに気付く。脊髄損傷者がリハビリテーションによって獲得すべき日常生活動作,重症度に応じた環境設定の提案の例など,細部にわたり豊富な写真・イラストを用いて解説されている。実際の症例の写真を用いた動作手順の説明などは非常にわかりやすい。理学療法士による介入例として,執筆メンバーであり脊髄損傷理学療法研究会会長を務める藤縄光留氏の介入場面の写真も多く用いられており,セラピスト諸氏は必見である。
合併症の章では,脊髄損傷のリハビリテーションでみられる特有の病態から介入・予防に至るまで詳しく解説されている。ここでも多くの写真やイラストを用い,臨床上の留意点が丁寧に解説されており,初学者も理解しやすい内容となっている。
「脊髄損傷の疫学」「評価と予後予測」「慢性期の健康増進」「脊髄損傷の再生医療とロボティクス」などの新たな内容も加わった。最新の科学的知見にも触れられており,ベテランの医療従事者にとっても刺激の多い内容となっている。再生医療については,横浜市大主任教授の中村健先生により,リハビリテーションの方法が具体的に述べられている。
量・質ともにバージョンアップした本書は,脊髄損傷のリハビリテーションに携わる全ての医療従事者・介護従事者のサポートになるに違いない。本書を通じ,多くの脊髄損傷者のリハビリテーションが円滑に進み,より良い生活への一助となることを切に祈る。
学生の導入書にも,経験者の知識のアップデートにもお薦め
書評者: 柴田 八衣子 (兵庫県立リハビリテーション中央病院リハビリ療法部・作業療法士)
日々の臨床で,脊髄損傷の患者さんを初めて担当し,悪戦苦闘している若手スタッフを見ながら,彼らに役立つ良い教科書はないかと探していたところ,本書に出合いました。
前版に当たる第2版は,院内書庫にも蔵書しており,薦めることが多かったのですが,改訂された本書は,医療者の思考や悩みやすい部分を解決するためにさらに配慮された内容で,まさに“実践書”となっていました。医師・看護師・理学療法士・作業療法士などの医療職種だけでなく,脊髄損傷者の生活にかかわる多くの職種の方々が執筆されており,多角的な視点に触れることができます。
私は,総合リハビリテーションセンターに勤務しており,ここでは障害者病棟や障害者施設で脊髄損傷者の回復期から在宅復帰までの支援を担っています。脊髄損傷者に対するリハビリテーションを行うためには,疾患の特徴やさまざまな合併症とその対処方法など基礎的な知識が必要不可欠であり,評価や訓練方法も疾患特有のものが多くあります。
現在,脊髄損傷者の専門的治療やリハビリテーションを行っている施設は限られているため,回復期リハビリテーション病棟や在宅などで初めて脊髄損傷者とかかわり,悩んでいるという話をよく聞きます。これは,養成校で疾患について学習しても,病院での実習などで実際の患者さんと出会うことが大変少なく,脊髄損傷者の病態や生活のイメージが持ちにくいからではないでしょうか。
本書では,急性期から家庭復帰・就労支援までのリハビリテーションの流れが体系的に,かつ幅広く解説されています。また,医学的知識から福祉用具・住宅改修,スポーツ,社会資源制度など生活支援に必須の内容が網羅されており,患者さんへの紹介にも役立てることができます。実際のリハビリテーションの場面がカラー写真やイラストで紹介されており,臨床の参考にとどまらず,担当患者さんの受傷時からの治療や今後の流れを把握するには最適だと感じました。また,近年増加している高齢不全頚髄損傷者への対応や再生医療・ロボットを使ったリハビリテーションなど最新の知見も載せられており,学生さんへの導入書としてはもちろん,経験を積み重ねた方の知識のアップデートにも活用できる本当にお薦めできる一冊です。
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