仮想気管支鏡作成マニュアル
迅速な診断とVAL-MAPのために
カーナビが進むべき道を教えてくれるように、仮想気管支鏡は枝読みを助けてくれる!
もっと見る
「気管支鏡は難しい」呼吸器専門医ですらそのように感じる人は多い。既に多くの病院で導入されている多列CTにプレインストールされているCTworkstationを活用すれば、簡単に仮想気管支鏡が作成でき、その仮想気管支鏡でシミュレーションを行うことにより、もっと効率よく、安全・正確な検査を提供できる。さらに本書では、現在先進医療として行われている肺癌の縮小手術のためのVAL-MAPについても解説。
更新情報
-
更新情報はありません。
お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。
- 序文
- 目次
- 書評
序文
開く
推薦の辞(玉置 淳)/序(出雲雄大・佐藤雅昭)
推薦の辞
気管支鏡を用いた診断と治療は,現在の呼吸器領域の診療になくてはならないものとなっている.1966年にわが国で池田茂人先生が開発された軟性気管支鏡は先端技術を有する医工学と連携し様々な発展を遂げてきた.特に,肺末梢病変に対する気管支鏡診断がわが国を中心として発展してきたのは周知の事実であり,近年その進歩は著しい.肺末梢病変に到達するためには関与気管支をCTにより丁寧に確認する必要があるが,そのスキルは必ずしも容易なものではなく熟練が必要である.そこで,かかる問題解決のために,仮想気管支鏡としてBf-Navi®,DirectPath®,LungPoint®といった専用機が2006年より順次発売されている.しかしながら,高価であることや仮想気管支鏡作成のみにしか使用できないという制限もあり,期待されたほどの普及には至っていない.
本書で取り上げられている画像処理ワークステーションは多くの施設において多列CTの付属品として導入されている.しかしながら画像処理ワークステーションは主に放射線科で管轄されており,これまで呼吸器科医にとって馴染みが少なく気管支鏡にはあまり使用されていなかった.近年では,操作が簡便であることや導入に追加コストが不要であるというメリットから気管支鏡検査へ応用されてきている.
本書には出雲雄大先生,佐藤雅昭先生の編集により,呼吸器科の臨床現場において画像処理ワークステーションを導入し活用してゆくうえでのノウハウ“How we do it”がふんだんに盛り込まれている.執筆者は画像処理ワークステーションを日常的に使用し,実臨床に役立てている新進気鋭の現役リーダーたちであり,最新の情報についても披露されている.本書をご覧いただければ,初めて画像処理ワークステーションを使用する方でも問題なく仮想気管支鏡が作成でき,臨床に応用できるものと思われる.
本書は肺末梢病変により適切にアプローチしたい呼吸器科医に対して有用な情報を提供するとともに,多忙な臨床現場において気管支鏡技術のさらなるレベルアップに必ずお役立てていただけるものと考え,ここに強く推薦するものである.
2017年5月
東京女子医科大学内科学(第一)教授・講座主任
玉置 淳
序
気管支鏡は,呼吸器疾患の診断・治療に重要な手技です.近年では検診などで低線量CTの普及が進み,以前では発見されなかったような小型の肺がんやすりガラス影を呈する肺がんが多数発見されています.しかしながら,CTで発見された異常な影はすべてが肺がんというわけではなく,結核などの感染症や器質化肺炎などの非悪性病変のこともあり,それらは外科切除が第一選択の治療法ではないことから,胸部異常影の術前診断が重要であることは自明の理であります.CTで発見されるような小さい,または淡い胸部異常影は気管支鏡で可視範囲内に病変そのものを観察できることはほとんどなく,本邦ではX線透視やラジアル走査式気管支腔内超音波断層法(R-EBUS)を用いて病変の最終位置を確認しています.
気管支は消化管とは違い一本の管ではないことから,気管支鏡では直接見えない病変に到達する気管支(関与気管支)を,気管支鏡検査前にCTなどの画像を用いて同定しておくことは非常に重要です.しかしながら,CTで見られる断層のイメージと気管支鏡で得られる内視鏡のイメージの乖離は大きく,正しい関与気管支が検査前に同定されずに漠然と気管支鏡検査が行われていることも実際の臨床現場では多く見受けられます.CTから関与気管支を同定していく作業は職人芸的なところもあり,かなりの時間を要する場合もあります.
ところが,最近ではテクノロジーの進歩によりCTデータから,短時間で簡単に仮想気管支鏡を作成することができるようになってきています.これは自動車のカーナビゲーションシステム(カーナビ)の進歩と同じように思われます.カーナビがなかったころは地図を片手に運転されていた方も多数おられると思いますが,カーナビが使用できる現在,地図を片手に運転している方を見かけることはほとんどなくなりました.CTから自分の力で(頭で)関与気管支を同定していくことは学習として非常に重要で,不要になることはありませんが,忙しい臨床の現場では,なかなか関与気管支の同定に時間を費やすことができず,とりあえず気管支鏡検査をしておくといったことはないでしょうか.
本書では多列CTがすでに導入されている多くの病院にプレインストールされているCT workstationによる仮想気管支鏡の実際の活用法について,気管支鏡診療にCT workstationを活用されている第一人者の方々に執筆をお願いいたしました.本書が発行される時点において本邦では仮想気管支鏡を使用しても保険請求はできないため,仮想気管支鏡専用機の導入をためらわれている施設も多いと聞きます.しかしながら,本書でご紹介するすでにプレインストールされているCT workstationであれば,新たな導入コストは不要であり,多くの施設で活用できる可能性を秘めています.
また,外科治療においても微小肺病変に対する縮小手術の際には病変位置の術前マーキングは重要です.本書では現在わが国で先進医療として行われている,仮想気管支鏡をガイドとして術前マーキングを行うvirtual assisted lung mapping(VAL-MAP)についても具体的な方法やそのコツなどについて詳述しています.
最後に,本書の刊行にあたり出版にご尽力いただいた医学書院の安藤恵さん,川口純子さんに感謝いたします.
2017年5月
出雲雄大・佐藤雅昭
推薦の辞
気管支鏡を用いた診断と治療は,現在の呼吸器領域の診療になくてはならないものとなっている.1966年にわが国で池田茂人先生が開発された軟性気管支鏡は先端技術を有する医工学と連携し様々な発展を遂げてきた.特に,肺末梢病変に対する気管支鏡診断がわが国を中心として発展してきたのは周知の事実であり,近年その進歩は著しい.肺末梢病変に到達するためには関与気管支をCTにより丁寧に確認する必要があるが,そのスキルは必ずしも容易なものではなく熟練が必要である.そこで,かかる問題解決のために,仮想気管支鏡としてBf-Navi®,DirectPath®,LungPoint®といった専用機が2006年より順次発売されている.しかしながら,高価であることや仮想気管支鏡作成のみにしか使用できないという制限もあり,期待されたほどの普及には至っていない.
本書で取り上げられている画像処理ワークステーションは多くの施設において多列CTの付属品として導入されている.しかしながら画像処理ワークステーションは主に放射線科で管轄されており,これまで呼吸器科医にとって馴染みが少なく気管支鏡にはあまり使用されていなかった.近年では,操作が簡便であることや導入に追加コストが不要であるというメリットから気管支鏡検査へ応用されてきている.
本書には出雲雄大先生,佐藤雅昭先生の編集により,呼吸器科の臨床現場において画像処理ワークステーションを導入し活用してゆくうえでのノウハウ“How we do it”がふんだんに盛り込まれている.執筆者は画像処理ワークステーションを日常的に使用し,実臨床に役立てている新進気鋭の現役リーダーたちであり,最新の情報についても披露されている.本書をご覧いただければ,初めて画像処理ワークステーションを使用する方でも問題なく仮想気管支鏡が作成でき,臨床に応用できるものと思われる.
本書は肺末梢病変により適切にアプローチしたい呼吸器科医に対して有用な情報を提供するとともに,多忙な臨床現場において気管支鏡技術のさらなるレベルアップに必ずお役立てていただけるものと考え,ここに強く推薦するものである.
2017年5月
東京女子医科大学内科学(第一)教授・講座主任
玉置 淳
序
気管支鏡は,呼吸器疾患の診断・治療に重要な手技です.近年では検診などで低線量CTの普及が進み,以前では発見されなかったような小型の肺がんやすりガラス影を呈する肺がんが多数発見されています.しかしながら,CTで発見された異常な影はすべてが肺がんというわけではなく,結核などの感染症や器質化肺炎などの非悪性病変のこともあり,それらは外科切除が第一選択の治療法ではないことから,胸部異常影の術前診断が重要であることは自明の理であります.CTで発見されるような小さい,または淡い胸部異常影は気管支鏡で可視範囲内に病変そのものを観察できることはほとんどなく,本邦ではX線透視やラジアル走査式気管支腔内超音波断層法(R-EBUS)を用いて病変の最終位置を確認しています.
気管支は消化管とは違い一本の管ではないことから,気管支鏡では直接見えない病変に到達する気管支(関与気管支)を,気管支鏡検査前にCTなどの画像を用いて同定しておくことは非常に重要です.しかしながら,CTで見られる断層のイメージと気管支鏡で得られる内視鏡のイメージの乖離は大きく,正しい関与気管支が検査前に同定されずに漠然と気管支鏡検査が行われていることも実際の臨床現場では多く見受けられます.CTから関与気管支を同定していく作業は職人芸的なところもあり,かなりの時間を要する場合もあります.
ところが,最近ではテクノロジーの進歩によりCTデータから,短時間で簡単に仮想気管支鏡を作成することができるようになってきています.これは自動車のカーナビゲーションシステム(カーナビ)の進歩と同じように思われます.カーナビがなかったころは地図を片手に運転されていた方も多数おられると思いますが,カーナビが使用できる現在,地図を片手に運転している方を見かけることはほとんどなくなりました.CTから自分の力で(頭で)関与気管支を同定していくことは学習として非常に重要で,不要になることはありませんが,忙しい臨床の現場では,なかなか関与気管支の同定に時間を費やすことができず,とりあえず気管支鏡検査をしておくといったことはないでしょうか.
本書では多列CTがすでに導入されている多くの病院にプレインストールされているCT workstationによる仮想気管支鏡の実際の活用法について,気管支鏡診療にCT workstationを活用されている第一人者の方々に執筆をお願いいたしました.本書が発行される時点において本邦では仮想気管支鏡を使用しても保険請求はできないため,仮想気管支鏡専用機の導入をためらわれている施設も多いと聞きます.しかしながら,本書でご紹介するすでにプレインストールされているCT workstationであれば,新たな導入コストは不要であり,多くの施設で活用できる可能性を秘めています.
また,外科治療においても微小肺病変に対する縮小手術の際には病変位置の術前マーキングは重要です.本書では現在わが国で先進医療として行われている,仮想気管支鏡をガイドとして術前マーキングを行うvirtual assisted lung mapping(VAL-MAP)についても具体的な方法やそのコツなどについて詳述しています.
最後に,本書の刊行にあたり出版にご尽力いただいた医学書院の安藤恵さん,川口純子さんに感謝いたします.
2017年5月
出雲雄大・佐藤雅昭
目次
開く
推薦の辞
序
1 仮想気管支鏡とは
[1]はじめに
[2]気管支鏡による肺末梢病変診断の難しさ
[3]仮想気管支鏡の応用
[4]気管支鏡の基本手技とは
[5]今後の展望
2 CT workstationとは
[1]はじめに
[2]必要条件
[3]実際の手順
[4]おわりに
3 主な3Dワークステーションの種類
[1]はじめに
[2]Ziostation®/Ziostation2®
[3]SYNAPSE VINCENT®
4 仮想気管支鏡作成のための至適条件設定
[1]はじめに
[2]必要条件
[3]各種パラメータ設定
[4]おわりに
5 院内にあるCT workstationの活用法
[1]はじめに
[2]必要条件
[3]実際の手順
[4]おわりに
6 Ziostation®を用いた仮想気管支鏡作成
[1]必要条件
[2]実際の作成手順
[3]応用テクニック
[4]おわりに
症例提示(Ziostation®)
7 SYNAPSE VINCENT®を用いた仮想気管支鏡作成
[1]はじめに
[2]必要条件
[3]実際の作成手順
[4]気管支鏡シミュレータに関して
[5]おわりに
症例提示(SYNAPSE VINCENT®)
8 SYNAPSE VINCENT®によるVAL-MAP作成手順
[1]はじめに
[2]必要条件
[3]VAL-MAPの適応
[4]実際の手順
[5]VAL-MAPの合併症と成績・今後の展望
[6]おわりに
症例提示(VAL-MAP)
索引
序
1 仮想気管支鏡とは
[1]はじめに
[2]気管支鏡による肺末梢病変診断の難しさ
[3]仮想気管支鏡の応用
[4]気管支鏡の基本手技とは
[5]今後の展望
2 CT workstationとは
[1]はじめに
[2]必要条件
[3]実際の手順
[4]おわりに
3 主な3Dワークステーションの種類
[1]はじめに
[2]Ziostation®/Ziostation2®
[3]SYNAPSE VINCENT®
4 仮想気管支鏡作成のための至適条件設定
[1]はじめに
[2]必要条件
[3]各種パラメータ設定
[4]おわりに
5 院内にあるCT workstationの活用法
[1]はじめに
[2]必要条件
[3]実際の手順
[4]おわりに
6 Ziostation®を用いた仮想気管支鏡作成
[1]必要条件
[2]実際の作成手順
[3]応用テクニック
[4]おわりに
症例提示(Ziostation®)
7 SYNAPSE VINCENT®を用いた仮想気管支鏡作成
[1]はじめに
[2]必要条件
[3]実際の作成手順
[4]気管支鏡シミュレータに関して
[5]おわりに
症例提示(SYNAPSE VINCENT®)
8 SYNAPSE VINCENT®によるVAL-MAP作成手順
[1]はじめに
[2]必要条件
[3]VAL-MAPの適応
[4]実際の手順
[5]VAL-MAPの合併症と成績・今後の展望
[6]おわりに
症例提示(VAL-MAP)
索引
書評
開く
入門書としてもお薦めの一冊
書評者: 永安 武 (長崎大大学院教授・腫瘍外科)
人体を構成する全ての臓器は立体である。その中でも肺は気管支,肺動脈,肺静脈が5つに分かれた肺葉内で立体的に絡み合う複雑立体臓器である。気管支鏡に携わる気管支鏡専門医や呼吸器外科医にとって,気管支や脈管の立体的構築を念頭に置きながら肺野病変の診断,治療を行うことに,これまではいわば直観的で職人芸的な要素が必要であった。
近年,高解像度CTの普及により小型の末梢肺病変に対する気管支腔内超音波断層法(endobronchial ultrasound : EBUS)などの新技術や,末梢小型早期肺癌に対する肺部分切除や区域切除などのいわゆる縮小手術が標準治療として一般化しつつある。このような診断,治療の多様化と普及により,手技の普遍性の維持や教育という観点からも既存の技術に加えてこれを補助し精度を高めるような新技術導入が望まれてきた。
本書は,高解像度CTデータを基に3D画像を作成することで,患者の肺内のどのあたりに病変があるかを立体的にイメージし,そこに到達するためには気管支鏡をどのように操作していけばよいかを事前にシミュレーションすることができるいわゆる“仮想気管支鏡”のための作成マニュアルである。さらにこの仮想気管支鏡と3D画像を利用して術前に気管支鏡下に肺に色素マーキングを行うことで,肺の切除ライン設定を容易にするVAL-MAP(virtual assisted lung mapping)と呼ばれる新たな手術支援法が紹介されている点も見逃せない。
本書の秀逸な点は,使用する3D医用画像処理ワークステーションを一つに絞らずに現在汎用されているZiostation®シリーズ(Ziosoft)とSYNAPSE VINCENT®(富士フィルム)の両方に対応している点である。それぞれに画面上のアイコン選択など詳細な手順や使用法が美しいカラー写真とともに記載されており,実際の取り扱いで悩むようなポイントを具体的な症例を用いてわかりやすく説明している。気管支鏡診断に携わる者にとって肺末梢病変診断の難しさは日常感じていると思われるが,本書を読むと仮想気管支鏡を用いることで未確診の肺末梢病変の診断率が向上する理由が納得できる。
また,VAL-MAPは現在進行中の先進医療を経て近い将来保険収載が期待されているが,本書では胸部CTと仮想内視鏡画像を用いて術前からの手順が詳細に説明されている。触知不可能な小結節に対する部分切除や立体的把握が難しい区域切除時の切離ラインを正確にマーキングできる新技術であり,まさに縮小手術時代の手術ナビゲーションシステムの草分けとなる可能性を秘めている。
本書は,これから仮想気管支鏡やVAL-MAPを導入したいと考えておられる熟達した気管支鏡専門医や呼吸器外科医のベッドサイドマニュアルという位置付けだけでなく,これから気管支鏡や区域切除を始める若手の先生方にとって仮想気管支鏡やVAL-MAPを理解するための入門書としても,お薦めの一冊である。
必須とされる新技術の均てん化に有益な書
書評者: 池田 徳彦 (東京医科大 主任教授・呼吸器・甲状腺外科)
近年,あらゆる領域においてCTが汎用され,一般的な検査としての意味合いが強くなってきたと感じている。呼吸器領域においては小型肺癌,特にすりガラス状の陰影は胸部単純X線では描出されず,CTが発見の契機になることが多々経験される。このようなことが早期肺癌増加の最大の原因であり,日常で遭遇する「肺癌像」は明らかに異なってきた。早期肺癌は予後良好であるが,気管支鏡で確定診断するためには腫瘍径が小さいほど苦労を伴う。手術に際しても根治と機能温存を両立することが期待されるため,胸腔鏡手術や縮小手術など高度な技術が要求される。また,CTですりガラスを呈する症例は術中に局在診断が困難な場合さえある。
CTで腫瘍の局在や性状,周囲への浸潤などを評価しつつも,最近では3次元画像を作成して種々の用途に用いるようになった。3次元画像で肺血管を描出することにより症例ごとの血管の走行が明らかになり,手術のシミュレーションに用いることが可能となった。手術ナビゲーションにも利用すれば手術安全に寄与すると確信する。小型陰影に対する気管支鏡診断の際には3次元画像による仮想気管支鏡画像を作成し,ナビゲーションとして利用することが必須であろう。小腫瘤の術中の局在同定にも術前のナビゲーションを併用した気管支鏡によりマーキングを行うことが有用である。
上記の内容は呼吸器を専門とする医師が強く認識していることであり,これを明快に解説したのが『仮想気管支鏡作成マニュアル-迅速な診断とVAL-MAPのために』である。従来の診療方法では早期肺癌に対する質の高い診断,治療を行っているとは言い難い時代となってきた。通常のCT画像から3次元画像を作成することは短時間かつ容易であり,即刻に日常診療に導入すべき技術である。
本書は仮想気管支鏡を中心に,原理,適応,画像の作成法,応用技術など必要事項をくまなく網羅し,理解しやすく解説してある。技術の導入から熟練まで最短の時間で到達することができるであろう。必須とされる新技術の均てん化に有益な書を執筆いただいた出雲雄大先生,佐藤雅昭先生に心より敬服する次第である。本書を多くの呼吸器を専門とする医師に熟読いただきたいと強く願うものである。
書評者: 永安 武 (長崎大大学院教授・腫瘍外科)
人体を構成する全ての臓器は立体である。その中でも肺は気管支,肺動脈,肺静脈が5つに分かれた肺葉内で立体的に絡み合う複雑立体臓器である。気管支鏡に携わる気管支鏡専門医や呼吸器外科医にとって,気管支や脈管の立体的構築を念頭に置きながら肺野病変の診断,治療を行うことに,これまではいわば直観的で職人芸的な要素が必要であった。
近年,高解像度CTの普及により小型の末梢肺病変に対する気管支腔内超音波断層法(endobronchial ultrasound : EBUS)などの新技術や,末梢小型早期肺癌に対する肺部分切除や区域切除などのいわゆる縮小手術が標準治療として一般化しつつある。このような診断,治療の多様化と普及により,手技の普遍性の維持や教育という観点からも既存の技術に加えてこれを補助し精度を高めるような新技術導入が望まれてきた。
本書は,高解像度CTデータを基に3D画像を作成することで,患者の肺内のどのあたりに病変があるかを立体的にイメージし,そこに到達するためには気管支鏡をどのように操作していけばよいかを事前にシミュレーションすることができるいわゆる“仮想気管支鏡”のための作成マニュアルである。さらにこの仮想気管支鏡と3D画像を利用して術前に気管支鏡下に肺に色素マーキングを行うことで,肺の切除ライン設定を容易にするVAL-MAP(virtual assisted lung mapping)と呼ばれる新たな手術支援法が紹介されている点も見逃せない。
本書の秀逸な点は,使用する3D医用画像処理ワークステーションを一つに絞らずに現在汎用されているZiostation®シリーズ(Ziosoft)とSYNAPSE VINCENT®(富士フィルム)の両方に対応している点である。それぞれに画面上のアイコン選択など詳細な手順や使用法が美しいカラー写真とともに記載されており,実際の取り扱いで悩むようなポイントを具体的な症例を用いてわかりやすく説明している。気管支鏡診断に携わる者にとって肺末梢病変診断の難しさは日常感じていると思われるが,本書を読むと仮想気管支鏡を用いることで未確診の肺末梢病変の診断率が向上する理由が納得できる。
また,VAL-MAPは現在進行中の先進医療を経て近い将来保険収載が期待されているが,本書では胸部CTと仮想内視鏡画像を用いて術前からの手順が詳細に説明されている。触知不可能な小結節に対する部分切除や立体的把握が難しい区域切除時の切離ラインを正確にマーキングできる新技術であり,まさに縮小手術時代の手術ナビゲーションシステムの草分けとなる可能性を秘めている。
本書は,これから仮想気管支鏡やVAL-MAPを導入したいと考えておられる熟達した気管支鏡専門医や呼吸器外科医のベッドサイドマニュアルという位置付けだけでなく,これから気管支鏡や区域切除を始める若手の先生方にとって仮想気管支鏡やVAL-MAPを理解するための入門書としても,お薦めの一冊である。
必須とされる新技術の均てん化に有益な書
書評者: 池田 徳彦 (東京医科大 主任教授・呼吸器・甲状腺外科)
近年,あらゆる領域においてCTが汎用され,一般的な検査としての意味合いが強くなってきたと感じている。呼吸器領域においては小型肺癌,特にすりガラス状の陰影は胸部単純X線では描出されず,CTが発見の契機になることが多々経験される。このようなことが早期肺癌増加の最大の原因であり,日常で遭遇する「肺癌像」は明らかに異なってきた。早期肺癌は予後良好であるが,気管支鏡で確定診断するためには腫瘍径が小さいほど苦労を伴う。手術に際しても根治と機能温存を両立することが期待されるため,胸腔鏡手術や縮小手術など高度な技術が要求される。また,CTですりガラスを呈する症例は術中に局在診断が困難な場合さえある。
CTで腫瘍の局在や性状,周囲への浸潤などを評価しつつも,最近では3次元画像を作成して種々の用途に用いるようになった。3次元画像で肺血管を描出することにより症例ごとの血管の走行が明らかになり,手術のシミュレーションに用いることが可能となった。手術ナビゲーションにも利用すれば手術安全に寄与すると確信する。小型陰影に対する気管支鏡診断の際には3次元画像による仮想気管支鏡画像を作成し,ナビゲーションとして利用することが必須であろう。小腫瘤の術中の局在同定にも術前のナビゲーションを併用した気管支鏡によりマーキングを行うことが有用である。
上記の内容は呼吸器を専門とする医師が強く認識していることであり,これを明快に解説したのが『仮想気管支鏡作成マニュアル-迅速な診断とVAL-MAPのために』である。従来の診療方法では早期肺癌に対する質の高い診断,治療を行っているとは言い難い時代となってきた。通常のCT画像から3次元画像を作成することは短時間かつ容易であり,即刻に日常診療に導入すべき技術である。
本書は仮想気管支鏡を中心に,原理,適応,画像の作成法,応用技術など必要事項をくまなく網羅し,理解しやすく解説してある。技術の導入から熟練まで最短の時間で到達することができるであろう。必須とされる新技術の均てん化に有益な書を執筆いただいた出雲雄大先生,佐藤雅昭先生に心より敬服する次第である。本書を多くの呼吸器を専門とする医師に熟読いただきたいと強く願うものである。
更新情報
-
更新情報はありません。
お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。