義肢装具学
PT・OT・STのためのミニマムエッセンスがつまった、義肢装具学の入門テキスト!
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PT・OT・STが臨床にでる際に必要な知識をコンパクトにまとめた、初学者のための義肢装具学テキスト。これまでの国試出題基準を参考に、そのミニマムエッセンスが豊富なイラストや丁寧な用語解説をもとにまとめられている。臨床的かつ科学的思考プロセスを理解し、義肢装具への興味を深めながら学習することができる。国家試験対策もこの1冊できっと大丈夫。
シリーズ | 標準理学療法学・作業療法学・言語聴覚障害学 別巻 |
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編集 | 佐伯 覚 |
発行 | 2018年03月判型:B5頁:256 |
ISBN | 978-4-260-03441-8 |
定価 | 4,620円 (本体4,200円+税) |
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- 序文
- 目次
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序文
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序
このたび,医学書院より理学療法士・作業療法士養成校学生向けの義肢装具テキストを刊行することになり,小生が編集を担うこととなった.小生が担当する産業医科大学リハビリテーション医学講座は開学以来,初代教授故緒方甫先生,2代目教授蜂須賀研二先生が,医師・療法士・義肢装具士との連携による義肢装具の診療および研究体制を構築してきた.また,関連施設である九州労災病院や小倉リハビリテーション病院とも連携し,福岡県ならびに北九州市の補装具交付判定事業にも協力するとともに,理学療法士・作業療法士養成校の学生実習を受け入れている.
近年の義肢装具臨床に関しては,工学技術の進歩に伴う専門性の向上,リハビリテーションの機能分化の流れもあり,一般臨床で携わっている医師や療法士などの臨床家が少なくなった印象がある.義肢装具に関する書籍も数多く出版されているものの,初学者の学生が利用するには内容の専門性が高く,また,義肢装具の個別的解説が中心であり,臨床経験が乏しい学生にとっては,疾患や病態と義肢装具が結びつかず義肢装具アレルギーを起こす原因にもなっている.臨床場面では患者の病態や障害を評価し,そのうえで必要な義肢や装具の処方・製作・適合判定が順番に実施されるわけで,病態から義肢装具への思考プロセスがきわめて重要であり,現在の理学療法士・作業療法士国家試験問題もこの点を重視した出題が多くみられている.
このようななか,理学療法士・作業療法士養成校学生向けに,臨床的な観点から義肢装具の概要を理解できるよう下記の大変欲張った編集方針で本書を刊行することとした:(1)従来の義肢装具の個別的解説から脱却し,学生が臨床的かつ科学的思考プロセスを理解し義肢装具への興味を深めることができること,(2)国家試験対策にも役立つよう過去3年間の義肢装具に関係する国家試験問題を分析し,キーワードをすべて網羅するとともに出題テーマに沿った思考を可能なかぎり本文や図で展開すること,(3)実習も本書のみである程度対応できるよう,関連事項や専門事項(Side memo,Advanced study,Topics)の解説を設け,どこから読んでも理解できるよう内容の重複を厭わないこと.
各執筆者にはこの編集方針にしたがって何度も書き換えをお願いし,大変な労力を強いたことをお詫びしたい.手に取っていただくとわかるが,各頁には講義や実習で書き込みができるよう十分な余白がとってある.本来,書籍には無駄な余白を避けるべきではあるが,利用する学生の立場に立った医学書院の配慮と英断に感謝したい.
理学療法士・作業療法士養成校学生のみならず,医師・義肢装具士など多くの方々の入門用テキストとしても本書が活用できると考えている.本書をボロボロになるまで使っていただくことができれば,編集者としてこれほどうれしいことはない.
2017年12月
佐伯 覚
このたび,医学書院より理学療法士・作業療法士養成校学生向けの義肢装具テキストを刊行することになり,小生が編集を担うこととなった.小生が担当する産業医科大学リハビリテーション医学講座は開学以来,初代教授故緒方甫先生,2代目教授蜂須賀研二先生が,医師・療法士・義肢装具士との連携による義肢装具の診療および研究体制を構築してきた.また,関連施設である九州労災病院や小倉リハビリテーション病院とも連携し,福岡県ならびに北九州市の補装具交付判定事業にも協力するとともに,理学療法士・作業療法士養成校の学生実習を受け入れている.
近年の義肢装具臨床に関しては,工学技術の進歩に伴う専門性の向上,リハビリテーションの機能分化の流れもあり,一般臨床で携わっている医師や療法士などの臨床家が少なくなった印象がある.義肢装具に関する書籍も数多く出版されているものの,初学者の学生が利用するには内容の専門性が高く,また,義肢装具の個別的解説が中心であり,臨床経験が乏しい学生にとっては,疾患や病態と義肢装具が結びつかず義肢装具アレルギーを起こす原因にもなっている.臨床場面では患者の病態や障害を評価し,そのうえで必要な義肢や装具の処方・製作・適合判定が順番に実施されるわけで,病態から義肢装具への思考プロセスがきわめて重要であり,現在の理学療法士・作業療法士国家試験問題もこの点を重視した出題が多くみられている.
このようななか,理学療法士・作業療法士養成校学生向けに,臨床的な観点から義肢装具の概要を理解できるよう下記の大変欲張った編集方針で本書を刊行することとした:(1)従来の義肢装具の個別的解説から脱却し,学生が臨床的かつ科学的思考プロセスを理解し義肢装具への興味を深めることができること,(2)国家試験対策にも役立つよう過去3年間の義肢装具に関係する国家試験問題を分析し,キーワードをすべて網羅するとともに出題テーマに沿った思考を可能なかぎり本文や図で展開すること,(3)実習も本書のみである程度対応できるよう,関連事項や専門事項(Side memo,Advanced study,Topics)の解説を設け,どこから読んでも理解できるよう内容の重複を厭わないこと.
各執筆者にはこの編集方針にしたがって何度も書き換えをお願いし,大変な労力を強いたことをお詫びしたい.手に取っていただくとわかるが,各頁には講義や実習で書き込みができるよう十分な余白がとってある.本来,書籍には無駄な余白を避けるべきではあるが,利用する学生の立場に立った医学書院の配慮と英断に感謝したい.
理学療法士・作業療法士養成校学生のみならず,医師・義肢装具士など多くの方々の入門用テキストとしても本書が活用できると考えている.本書をボロボロになるまで使っていただくことができれば,編集者としてこれほどうれしいことはない.
2017年12月
佐伯 覚
目次
開く
第1章 義肢装具の基礎知識
1 義肢装具療法の流れ
(1)義肢装具外来
(2)処方箋・意見書
2 歩行のバイオメカニクス
(1)運動学とは
(2)姿勢制御
(3)歩行制御
(4)異常歩行
3 支給体系
(1)治療用装具と更生用装具
(2)支給システム
第2章 装具
1 装具総論
(1)装具の目的,役割,分類
(2)装具の基本構造
(3)材料力学
(4)代表的な継手の種類と特徴
2 脳卒中片麻痺の装具
(1)下肢装具の処方と適合
(2)長下肢装具
(3)短下肢装具
3 整形外科治療装具
(1)上肢装具
(2)下肢装具
(3)脊椎疾患装具(体幹装具)
4 脊髄損傷(四肢麻痺,対麻痺)の装具
(1)損傷高位と残存機能
(2)上肢障害
(3)下肢障害
5 関節リウマチの装具
(1)関節リウマチに対する装具療法の注意点
(2)頸椎・脊椎病変
(3)上肢病変
(4)下肢病変
6 末梢神経障害の装具
(1)正中神経麻痺
(2)尺骨神経麻痺
(3)橈骨神経麻痺
(4)下肢末梢神経障害
7 小児用装具
(1)脳性麻痺(CP)
(2)発育性股関節形成不全(DDH)
第3章 切断
1 切断総論
(1)切断の疫学
(2)切断・離断の部位と名称
(3)上肢切断部位と機能
(4)下肢切断部位と機能
2 切断のリハビリテーション
(1)術前・術後管理
(2)断端ケア・弾力包帯装着
(3)義肢装着前訓練
(4)義肢処方・義肢装着訓練
第4章 義肢
1 義肢総論
(1)義肢の種類
(2)構成要素
(3)適合判定
(4)幻肢・幻肢痛
2 大腿義足
(1)ソケットの特徴と選択
(2)膝継手の特性と選択
(3)大腿義足歩行の特徴
(4)適合判定
(5)異常歩行の原因と対応
3 下腿義足
(1)ソケットの特徴と選択
(2)異常歩行の原因と対応
4 股,膝,サイム,足部切断用義足
(1)各義足の特徴と適合
5 義手
(1)義手の構成要素とパーツ
(2)義手の分類と特徴
(3)能動義手の制御システム
(4)適合検査
(5)筋電義手
第5章 そのほかの補装具,福祉用具
1 車椅子
(1)分類と基本構造
(2)パーツの種類と名称
(3)処方と適合判定
(4)病態に応じた処方
(5)介助方法
2 座位保持装置
(1)目的と役割
(2)基本構成と適合判定
(3)病態別留意点
3 歩行補助具(杖,歩行器)
(1)杖の種類と適応
(2)歩行器の種類と適応
4 移乗用具
(1)リフト
(2)トランスファーボード
5 自立生活支援用具
(1)食事関連用具
(2)排泄関連用具
(3)入浴関連用具
(4)整容関連用具
(5)更衣関連用具
(6)コミュニケーション関連用具
6 環境制御装置
(1)環境制御装置(ECS)機器
(2)対象疾患
付録 模擬シラバス
Check sheet
索引
Advanced Study
・足部の内反と外反
・AFOを観察する必要性
・変形性股関節症に対する装具療法
・膝関節マルアライメントに対する装具療法
・OMC型装具
・装具脱の条件
・前腕の回旋運動
・断端神経腫の診断
・シリコーンライナーを用いた断端ケア
・義肢の処方に至らなくてもリハは必要
・義足歩行に必要なエネルギー
・鏡療法(ミラーセラピー)
・MAS®(Marlo Anatomical Socket)デザイン
・膝継手の構造と制御機構
・筋電義手の訓練指導のポイント
・クッション素材
・ブレーキのかけ忘れと転倒
・両松葉杖と両ロフストランド杖の適応
・最新の環境制御装置
Topics
・下肢痙縮に対するボツリヌス治療
・先駆的な装具について
・ACL再建術後の装具の効果
・足底板
・LCSの定義
・RA患者に対する薬物治療の進歩
・RAに対する人工関節置換術
・装具の材質の進歩
・糖尿病合併症と下肢切断発症率の変化
・切断者との信頼関係の構築
・弾力包帯に代わるsoft dressing
・筋電義手の義肢装着訓練
・骨直結義肢
・歩速応答(cadence responsible)
・ノーリフティングポリシー(No lifting policy)
1 義肢装具療法の流れ
(1)義肢装具外来
(2)処方箋・意見書
2 歩行のバイオメカニクス
(1)運動学とは
(2)姿勢制御
(3)歩行制御
(4)異常歩行
3 支給体系
(1)治療用装具と更生用装具
(2)支給システム
第2章 装具
1 装具総論
(1)装具の目的,役割,分類
(2)装具の基本構造
(3)材料力学
(4)代表的な継手の種類と特徴
2 脳卒中片麻痺の装具
(1)下肢装具の処方と適合
(2)長下肢装具
(3)短下肢装具
3 整形外科治療装具
(1)上肢装具
(2)下肢装具
(3)脊椎疾患装具(体幹装具)
4 脊髄損傷(四肢麻痺,対麻痺)の装具
(1)損傷高位と残存機能
(2)上肢障害
(3)下肢障害
5 関節リウマチの装具
(1)関節リウマチに対する装具療法の注意点
(2)頸椎・脊椎病変
(3)上肢病変
(4)下肢病変
6 末梢神経障害の装具
(1)正中神経麻痺
(2)尺骨神経麻痺
(3)橈骨神経麻痺
(4)下肢末梢神経障害
7 小児用装具
(1)脳性麻痺(CP)
(2)発育性股関節形成不全(DDH)
第3章 切断
1 切断総論
(1)切断の疫学
(2)切断・離断の部位と名称
(3)上肢切断部位と機能
(4)下肢切断部位と機能
2 切断のリハビリテーション
(1)術前・術後管理
(2)断端ケア・弾力包帯装着
(3)義肢装着前訓練
(4)義肢処方・義肢装着訓練
第4章 義肢
1 義肢総論
(1)義肢の種類
(2)構成要素
(3)適合判定
(4)幻肢・幻肢痛
2 大腿義足
(1)ソケットの特徴と選択
(2)膝継手の特性と選択
(3)大腿義足歩行の特徴
(4)適合判定
(5)異常歩行の原因と対応
3 下腿義足
(1)ソケットの特徴と選択
(2)異常歩行の原因と対応
4 股,膝,サイム,足部切断用義足
(1)各義足の特徴と適合
5 義手
(1)義手の構成要素とパーツ
(2)義手の分類と特徴
(3)能動義手の制御システム
(4)適合検査
(5)筋電義手
第5章 そのほかの補装具,福祉用具
1 車椅子
(1)分類と基本構造
(2)パーツの種類と名称
(3)処方と適合判定
(4)病態に応じた処方
(5)介助方法
2 座位保持装置
(1)目的と役割
(2)基本構成と適合判定
(3)病態別留意点
3 歩行補助具(杖,歩行器)
(1)杖の種類と適応
(2)歩行器の種類と適応
4 移乗用具
(1)リフト
(2)トランスファーボード
5 自立生活支援用具
(1)食事関連用具
(2)排泄関連用具
(3)入浴関連用具
(4)整容関連用具
(5)更衣関連用具
(6)コミュニケーション関連用具
6 環境制御装置
(1)環境制御装置(ECS)機器
(2)対象疾患
付録 模擬シラバス
Check sheet
索引
Advanced Study
・足部の内反と外反
・AFOを観察する必要性
・変形性股関節症に対する装具療法
・膝関節マルアライメントに対する装具療法
・OMC型装具
・装具脱の条件
・前腕の回旋運動
・断端神経腫の診断
・シリコーンライナーを用いた断端ケア
・義肢の処方に至らなくてもリハは必要
・義足歩行に必要なエネルギー
・鏡療法(ミラーセラピー)
・MAS®(Marlo Anatomical Socket)デザイン
・膝継手の構造と制御機構
・筋電義手の訓練指導のポイント
・クッション素材
・ブレーキのかけ忘れと転倒
・両松葉杖と両ロフストランド杖の適応
・最新の環境制御装置
Topics
・下肢痙縮に対するボツリヌス治療
・先駆的な装具について
・ACL再建術後の装具の効果
・足底板
・LCSの定義
・RA患者に対する薬物治療の進歩
・RAに対する人工関節置換術
・装具の材質の進歩
・糖尿病合併症と下肢切断発症率の変化
・切断者との信頼関係の構築
・弾力包帯に代わるsoft dressing
・筋電義手の義肢装着訓練
・骨直結義肢
・歩速応答(cadence responsible)
・ノーリフティングポリシー(No lifting policy)
書評
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理学療法士の現状に適した臨床業務の友となる書
書評者: 半田 一登 (日本理学療法士協会会長)
理学療法士の業務は,法的には基本的動作能力の回復が中心となっています。その基本的動作の中でも,二足歩行こそが理学療法士が担うべき役割です。人間は二足歩行を獲得したことで前足が「手」として機能を果たすようになり,道具を使うことが可能になったのです。この「二足歩行」こそが生活の基盤を構成し,その成否によって生活の質は決定付けられます。
私事になって恐縮ですが,1970年(今から約50年前)に九州労災病院に臨床実習に行ったとき,義肢装具に関するペーパーテストがあり,何と15点(100点満点)という恐るべき結果でした。その後の実習期間は,歩行用装具,大腿義足,下腿義足,義手について学ぶため,毎日のように義肢課(当時は義肢装具士の身分法はなし)を訪ね,採型や製作過程を見学させてもらいました。それらのおかげで実習終了時は義肢装具には並々ならぬ自信を持てるようになりました。そして,71年にはその九州労災病院に就職したのですが,初めてのブレイスカンファレンスで当時リハビリテーション科部長であった原武郎先生に言われた言葉は今でもしっかりと覚えています。それは「義肢や装具を考えるときに長さの1 mm,角度の1度にこだわりなさい。もしかするとその1 mm,1度のせいで歩行困難になるかもしれないぞ」というものでした。その言葉は私に決定的な影響を与えました。
ところが最近では,理学療法士が歩行用装具について何もわかっていないという指摘を処々方々でされるようになりました。若い理学療法士たちの言い分は「医師が処方をし,義肢装具士が製作したものにけちはつけられない」というものです。医療専門職としての知識や責任,そしてチーム医療を考えると頭を抱えてしまいます。その背景として,学校教育および総合臨床実習などが十分に機能していないことが考えられます。
本書では,編集方針として「学生が臨床的かつ科学的思考プロセスを理解し義肢装具への興味を深めること」「実習も本書のみである程度対応できる」ことなどが挙げられており,理学療法士の現状に適した方針になっています。その上で読み進めると,冒頭で「義肢装具療法の流れ」として支給制度などにも説明が及んでいることはいかにも臨床的と言え,素晴らしいことです。続いて,「歩行のバイオメカニクス」となり,歩行そのものの理解を深めるという手順となっています。正常歩行および異常歩行をまずはしっかりと理解させることは非常に重要なことであり,臨床業務にあって本書は大切な友となるでしょう。そして,義肢装具の具体論になりますが,義肢や装具の関連情報などまでが多彩に盛り込まれ,非常に有益な作りを感じました。また,最後にシラバスまで付けたことは面白い試みです。
最後になりましたが,本書の出現によって,理学療法士養成課程で学生の理解度と関心が高まり,義肢装具の長さ1 mm,1度にこだわる理学療法士が増えることを期待します。
現場の療法士にとっても大いに役立つ優れた図書
書評者: 坂井 一浩 (日本義肢装具士協会会長)
私自身,義肢装具士職能団体の代表としてだけでなく臨床家として,また,養成教育においても理学療法士・作業療法士(以下,療法士)の方々と接点がある。この中で,よく耳にする「療法士の義肢装具離れ」が事実であるならば,義肢装具の利用者や義肢装具を必要とする人たちにとって憂慮すべきことである。リハビリテーションにおけるチームアプローチの必要性は言うまでもないが,義肢や装具に関してもまさに,医師による適切な処方と療法士による正しい活用があって初めてその効果が発揮される。
実際に理学療法士の養成課程において義肢装具学教育に携わってみると,到達目標の設定や具体的なコンテンツの構築に際し,何を基準に考えたらよいか逡巡する。参考にすべきはやはり国家試験の出題傾向であろうか。一方で,それだけに囚われてしまうと授業は無味乾燥になり,学生の義肢装具への興味付けを高めることは難しくなろう。先に述べた「療法士の義肢装具離れ」が学生時代に始まってしまわないよう,教育者側には注意が必要である。義肢装具といっても,定義,分類,機能的な特徴や適応/禁忌を含めれば情報量は膨大なものとなる。加えて,新しい概念やテクノロジーの進歩をどのタイミングで教育コンテンツに反映させるべきか,悩ましいところである。
本書は,療法士の養成において「義肢装具学教育」が抱えるこれらのチャレンジの解決に役立つものである。多くの情報が,装具に関しては疾患/障害,義肢については切断レベルで方向付けされており,理解しやすい。また,付録に示されている模擬シラバスに従えば,本書を教科書として授業を進めていく上で必要事項をもれなくカバーすることができるであろう。このように,本書は義肢装具の基礎知識を学ぶ者にとって有用なガイドであるだけでなく,TopicsやAdvanced Studyの欄では臨床に役立つヒントや最新のエビデンスが紹介されており,現場の療法士の方々にとっても大いに役立つ内容となっている。
最後に私事で恐縮であるが,私が勤務する大学の理学療法士学科の学生へ向けた義肢装具学実習の授業では,切断者や脳卒中片麻痺者を被験者として招き,学生が機能評価を行い,その結果に基づいて義肢/装具を提案し,提案に基づいて製作された義肢/装具の適合評価までを行わせている。ご存じのとおり,義肢装具の適合の良否は,そのまま装着者の動作や運動に目に見える形で現れる。療法士の方々の義肢装具への興味や関心をさらに高めるために,今後,本書のような優れた図書に視覚教材が付録されることを願っている。
書評者: 半田 一登 (日本理学療法士協会会長)
理学療法士の業務は,法的には基本的動作能力の回復が中心となっています。その基本的動作の中でも,二足歩行こそが理学療法士が担うべき役割です。人間は二足歩行を獲得したことで前足が「手」として機能を果たすようになり,道具を使うことが可能になったのです。この「二足歩行」こそが生活の基盤を構成し,その成否によって生活の質は決定付けられます。
私事になって恐縮ですが,1970年(今から約50年前)に九州労災病院に臨床実習に行ったとき,義肢装具に関するペーパーテストがあり,何と15点(100点満点)という恐るべき結果でした。その後の実習期間は,歩行用装具,大腿義足,下腿義足,義手について学ぶため,毎日のように義肢課(当時は義肢装具士の身分法はなし)を訪ね,採型や製作過程を見学させてもらいました。それらのおかげで実習終了時は義肢装具には並々ならぬ自信を持てるようになりました。そして,71年にはその九州労災病院に就職したのですが,初めてのブレイスカンファレンスで当時リハビリテーション科部長であった原武郎先生に言われた言葉は今でもしっかりと覚えています。それは「義肢や装具を考えるときに長さの1 mm,角度の1度にこだわりなさい。もしかするとその1 mm,1度のせいで歩行困難になるかもしれないぞ」というものでした。その言葉は私に決定的な影響を与えました。
ところが最近では,理学療法士が歩行用装具について何もわかっていないという指摘を処々方々でされるようになりました。若い理学療法士たちの言い分は「医師が処方をし,義肢装具士が製作したものにけちはつけられない」というものです。医療専門職としての知識や責任,そしてチーム医療を考えると頭を抱えてしまいます。その背景として,学校教育および総合臨床実習などが十分に機能していないことが考えられます。
本書では,編集方針として「学生が臨床的かつ科学的思考プロセスを理解し義肢装具への興味を深めること」「実習も本書のみである程度対応できる」ことなどが挙げられており,理学療法士の現状に適した方針になっています。その上で読み進めると,冒頭で「義肢装具療法の流れ」として支給制度などにも説明が及んでいることはいかにも臨床的と言え,素晴らしいことです。続いて,「歩行のバイオメカニクス」となり,歩行そのものの理解を深めるという手順となっています。正常歩行および異常歩行をまずはしっかりと理解させることは非常に重要なことであり,臨床業務にあって本書は大切な友となるでしょう。そして,義肢装具の具体論になりますが,義肢や装具の関連情報などまでが多彩に盛り込まれ,非常に有益な作りを感じました。また,最後にシラバスまで付けたことは面白い試みです。
最後になりましたが,本書の出現によって,理学療法士養成課程で学生の理解度と関心が高まり,義肢装具の長さ1 mm,1度にこだわる理学療法士が増えることを期待します。
現場の療法士にとっても大いに役立つ優れた図書
書評者: 坂井 一浩 (日本義肢装具士協会会長)
私自身,義肢装具士職能団体の代表としてだけでなく臨床家として,また,養成教育においても理学療法士・作業療法士(以下,療法士)の方々と接点がある。この中で,よく耳にする「療法士の義肢装具離れ」が事実であるならば,義肢装具の利用者や義肢装具を必要とする人たちにとって憂慮すべきことである。リハビリテーションにおけるチームアプローチの必要性は言うまでもないが,義肢や装具に関してもまさに,医師による適切な処方と療法士による正しい活用があって初めてその効果が発揮される。
実際に理学療法士の養成課程において義肢装具学教育に携わってみると,到達目標の設定や具体的なコンテンツの構築に際し,何を基準に考えたらよいか逡巡する。参考にすべきはやはり国家試験の出題傾向であろうか。一方で,それだけに囚われてしまうと授業は無味乾燥になり,学生の義肢装具への興味付けを高めることは難しくなろう。先に述べた「療法士の義肢装具離れ」が学生時代に始まってしまわないよう,教育者側には注意が必要である。義肢装具といっても,定義,分類,機能的な特徴や適応/禁忌を含めれば情報量は膨大なものとなる。加えて,新しい概念やテクノロジーの進歩をどのタイミングで教育コンテンツに反映させるべきか,悩ましいところである。
本書は,療法士の養成において「義肢装具学教育」が抱えるこれらのチャレンジの解決に役立つものである。多くの情報が,装具に関しては疾患/障害,義肢については切断レベルで方向付けされており,理解しやすい。また,付録に示されている模擬シラバスに従えば,本書を教科書として授業を進めていく上で必要事項をもれなくカバーすることができるであろう。このように,本書は義肢装具の基礎知識を学ぶ者にとって有用なガイドであるだけでなく,TopicsやAdvanced Studyの欄では臨床に役立つヒントや最新のエビデンスが紹介されており,現場の療法士の方々にとっても大いに役立つ内容となっている。
最後に私事で恐縮であるが,私が勤務する大学の理学療法士学科の学生へ向けた義肢装具学実習の授業では,切断者や脳卒中片麻痺者を被験者として招き,学生が機能評価を行い,その結果に基づいて義肢/装具を提案し,提案に基づいて製作された義肢/装具の適合評価までを行わせている。ご存じのとおり,義肢装具の適合の良否は,そのまま装着者の動作や運動に目に見える形で現れる。療法士の方々の義肢装具への興味や関心をさらに高めるために,今後,本書のような優れた図書に視覚教材が付録されることを願っている。