がんのリハビリテーション
卒後臨床でも役に立つ、がんのリハビリテーションの現在を示したテキストが刊行!
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がん患者の増加に伴い、身体機能の維持や改善に欠かすことができないリハビリテーションの必要性が認識されているなか、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の果たす役割は益々大きなものとなっている。本テキストは、養成施設における「がんのリハビリテーション」の授業での使用はもとより、基礎から周術期リハ、合併症、リスク管理、緩和ケアに至るまでをまとめた入門書として、療法士をはじめとした多職種チームの日々の診療に役立つ内容となっている。
シリーズ | 標準理学療法学・作業療法学・言語聴覚障害学 別巻 |
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編集 | 辻 哲也 |
編集協力 | 高倉 保幸 / 高島 千敬 / 安藤 牧子 |
発行 | 2018年04月判型:B5頁:272 |
ISBN | 978-4-260-03440-1 |
定価 | 4,400円 (本体4,000円+税) |
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- 序文
- 目次
- 書評
序文
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序
わが国では,国民の2人に1人が生涯のうちに悪性腫瘍(以下がん)に罹患し,3人に1人ががんで死亡します.人口の高齢化とともにがん罹患者数と死亡者数はさらに増加し,2030年前後にはがん多死社会が到来します.その一方で,早期発見や治療法の進歩により生存率や生存期間は向上しつつあり,がん経験者(サバイバー)は現在の約500万人から,今後,1年で60万人ずつ増えていくといわれており,がんが“不治の病”であった時代から,いわば“がんと共存”する時代になってきています.
がん患者が,がんの経過に合わせた最善な治療やケアを受けるためには,さまざまな職種がチームを組み,“多職種チーム医療”を展開し,治癒を目指した治療からQOLを重視したケアまで切れ目のない支援体制を確立していく必要があります.がん患者にとっては,病としてのがんに対する不安は当然大きいですが,がんの直接的影響や手術・化学療法・放射線療法などによる「身体障害に対する不安」も同じように大きいものです.近年のめざましいがん医療の進歩とともに,障害の軽減,運動機能や生活機能の低下予防・改善,介護予防などを目的として,“がんのリハビリテーション”の必要性は今後さらに増していくと考えられます.
2006年に制定された「がん対策基本法」では,基本的施策として「がん患者の療養生活の質の維持向上」があげられ,症状緩和や心理・身体面のケアから自宅療養や復職・復学支援などの社会的な側面までサポートし(=サポーティブケア),がん患者のQOLをサポートすることが国の方針となりました.さらには,2016年12月に成立したがん対策基本法改正法の第17条では「がん患者の療養生活の質の維持向上に関して,がん患者の状況に応じた良質なリハビリテーションの提供が確保されるようにすること」が新たに盛り込まれました.
2017年度から始まった第3期がん対策基本計画においても,ライフステージやがんの特性を考慮した個別化医療の必要性が重点課題となるなかで,“がんのリハビリテーション”は重要な施策の1つと認識されるようになりました.そのようななか,2007年から厚生労働省委託(現在,後援)事業としてがんのリハビリテーション研修ワークショップ―CAREER研修(実施:財団法人ライフプランニングセンター)が実施されてきましたが,そこでは専門的な知識および技能を有する医師・医療従事者がいまだ十分に育成されていないことが指摘されています.リハビリテーション専門職(理学療法士,作業療法士,言語聴覚士)の養成校の多くでも,“がんのリハビリテーション”に関する授業時間が確保されておらず,十分な卒前教育がなされているとは言いがたいのが現状です.
“がんのリハビリテーション”には,がん医療全般の知識が必要とされると同時に,周術期,化学療法・放射線療法中・後の対応,骨転移,摂食嚥下障害,コミュニケーション障害,リンパ浮腫,緩和ケア,心のケアなど高い専門性が要求されます.しかし,わが国においては,“がんのリハビリテーション”を学んでいくための実践的な入門書がほとんどありません.そこで本書を企画し,前述のCAREER研修の講師経験の豊富な先生がたを中心に,現在,第一線でがんのリハビリテーション診療に携わっている皆様に執筆をしていただきました.
本書はわが国で数少ない“がんのリハビリテーション”の入門書として,EBM(evidence-based medicine)に配慮しつつ,執筆者の豊富な臨床経験から培われた内容が満載されています.リハビリテーション専門職の養成校における標準テキストとしてはもとより,がん医療に携わる医師や看護師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,管理栄養士,歯科衛生士,臨床心理士,医療ソーシャルワーカーなどの多職種チームの方々の日々の学習や診療に役立つものと自負しています.本書が,がん医療の質の向上に貢献し,がん患者のQOL向上の一助となることを期待しています.
2018年2月
辻 哲也
わが国では,国民の2人に1人が生涯のうちに悪性腫瘍(以下がん)に罹患し,3人に1人ががんで死亡します.人口の高齢化とともにがん罹患者数と死亡者数はさらに増加し,2030年前後にはがん多死社会が到来します.その一方で,早期発見や治療法の進歩により生存率や生存期間は向上しつつあり,がん経験者(サバイバー)は現在の約500万人から,今後,1年で60万人ずつ増えていくといわれており,がんが“不治の病”であった時代から,いわば“がんと共存”する時代になってきています.
がん患者が,がんの経過に合わせた最善な治療やケアを受けるためには,さまざまな職種がチームを組み,“多職種チーム医療”を展開し,治癒を目指した治療からQOLを重視したケアまで切れ目のない支援体制を確立していく必要があります.がん患者にとっては,病としてのがんに対する不安は当然大きいですが,がんの直接的影響や手術・化学療法・放射線療法などによる「身体障害に対する不安」も同じように大きいものです.近年のめざましいがん医療の進歩とともに,障害の軽減,運動機能や生活機能の低下予防・改善,介護予防などを目的として,“がんのリハビリテーション”の必要性は今後さらに増していくと考えられます.
2006年に制定された「がん対策基本法」では,基本的施策として「がん患者の療養生活の質の維持向上」があげられ,症状緩和や心理・身体面のケアから自宅療養や復職・復学支援などの社会的な側面までサポートし(=サポーティブケア),がん患者のQOLをサポートすることが国の方針となりました.さらには,2016年12月に成立したがん対策基本法改正法の第17条では「がん患者の療養生活の質の維持向上に関して,がん患者の状況に応じた良質なリハビリテーションの提供が確保されるようにすること」が新たに盛り込まれました.
2017年度から始まった第3期がん対策基本計画においても,ライフステージやがんの特性を考慮した個別化医療の必要性が重点課題となるなかで,“がんのリハビリテーション”は重要な施策の1つと認識されるようになりました.そのようななか,2007年から厚生労働省委託(現在,後援)事業としてがんのリハビリテーション研修ワークショップ―CAREER研修(実施:財団法人ライフプランニングセンター)が実施されてきましたが,そこでは専門的な知識および技能を有する医師・医療従事者がいまだ十分に育成されていないことが指摘されています.リハビリテーション専門職(理学療法士,作業療法士,言語聴覚士)の養成校の多くでも,“がんのリハビリテーション”に関する授業時間が確保されておらず,十分な卒前教育がなされているとは言いがたいのが現状です.
“がんのリハビリテーション”には,がん医療全般の知識が必要とされると同時に,周術期,化学療法・放射線療法中・後の対応,骨転移,摂食嚥下障害,コミュニケーション障害,リンパ浮腫,緩和ケア,心のケアなど高い専門性が要求されます.しかし,わが国においては,“がんのリハビリテーション”を学んでいくための実践的な入門書がほとんどありません.そこで本書を企画し,前述のCAREER研修の講師経験の豊富な先生がたを中心に,現在,第一線でがんのリハビリテーション診療に携わっている皆様に執筆をしていただきました.
本書はわが国で数少ない“がんのリハビリテーション”の入門書として,EBM(evidence-based medicine)に配慮しつつ,執筆者の豊富な臨床経験から培われた内容が満載されています.リハビリテーション専門職の養成校における標準テキストとしてはもとより,がん医療に携わる医師や看護師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,管理栄養士,歯科衛生士,臨床心理士,医療ソーシャルワーカーなどの多職種チームの方々の日々の学習や診療に役立つものと自負しています.本書が,がん医療の質の向上に貢献し,がん患者のQOL向上の一助となることを期待しています.
2018年2月
辻 哲也
目次
開く
第1章 がんのリハビリテーション概論
1 がんの基礎知識
(1)がん=悪性腫瘍とは何か
(2)がんの治療
(3)がんの疫学
2 がんのリハビリテーションの基礎知識
(1)がんと共存する時代へ
(2)がんのリハビリテーションの目的と定義
(3)わが国におけるがんのリハビリテーションの動向
(4)病期別分類
(5)対象となる障害
(6)評価
(7)がんのリハビリテーション実施のポイント
(8)がんのリハビリテーションの実際
(9)リスク管理
第2章 周術期リハビリテーション
1 開胸開腹術
(1)開胸開腹術の対象となる疾患・術式
(2)リハビリテーションの目的
(3)周術期リハビリテーションの効果
(4)術後呼吸器合併症の定義,リスクを高める要因
(5)周術期リハビリテーションの実際
2 乳がん
(1)疫学
(2)リハビリテーションの目的
(3)治療法
(4)術後に生じる問題
(5)術後のリハビリテーションの効果
(6)周術期リハビリテーションの実際
3 脳腫瘍
(1)脳腫瘍による神経脱落症状の発生頻度
(2)生命予後
(3)治療
(4)リハビリテーションの目的
(5)周術期リハビリテーションの実際
4 頸部リンパ節郭清術(頭頸部がん)
(1)術式と対象となる疾患
(2)術後の症状とリスク管理
(3)副神経麻痺(僧帽筋麻痺)による肩の症状と機能予後
(4)術後のリハビリテーションの目的
(5)リハビリテーションの効果
(6)リハビリテーションの実際
5 原発性骨軟部腫瘍・脊髄腫瘍
(1)疫学
(2)基本的な治療体系
(3)リハビリテーションの目的
(4)手術症例に対するリハビリテーションの実際
(5)リハビリテーションの効果・エビデンス
第3章 化学療法・放射線療法
1 化学療法・放射線療法中・後のリハビリテーション
(1)リハビリテーションのポイント
(2)化学療法・放射線療法に伴う患者の負担や障害
(3)リハビリテーションの効果
(4)有害反応
(5)血球減少とリスク,対応のポイント
(6)がん治療に伴い生じる心合併症とその対応
(7)進行がん患者のリスク管理
(8)リハビリテーションの実際
2 造血幹細胞移植前後のリハビリテーション
(1)移植の対象となる疾患とその治療法
(2)移植患者に対するリハビリテーションの目的
(3)移植治療と生じうる機能障害(筋力,運動耐容能など廃用症候群)
(4)リハビリテーションの効果
(5)リハビリテーションプログラムの立案(リスク管理)
(6)リハビリテーションの実際
3 骨転移
(1)疫学
(2)骨転移により生じる問題
(3)画像評価
(4)骨関連事象の予測方法
(5)治療
(6)リハビリテーションの目的
(7)リハビリテーションの実際
第4章 摂食嚥下障害,コミュニケーション障害
1 頭頸部がんの病態と治療
2 摂食嚥下障害
(1)摂食嚥下に関与する構造・領域
(2)周術期の対応(舌がん,食道がん,脳腫瘍)
(3)頭頸部がんに対する放射線療法中・後の病態
(4)緩和ケア主体の時期の病態
(5)評価
(6)リハビリテーションの実際
3 頭頸部がん術後の発声障害と構音障害
(1)発声と構音
(2)喉頭・下咽頭がんの治療法
(3)リハビリテーションの目的
(4)口腔咽頭がん術後の構音障害
4 高次脳機能障害
(1)高次脳機能障害を生じる疾患や治療
(2)リハビリテーションの実際
(3)失語症の評価・介入
第5章 リンパ浮腫
1 リンパ浮腫へのアプローチ
(1)リンパ浮腫とは?
(2)疫学
(3)がん治療後の病態
(4)診断
(5)予防指導
(6)リンパ浮腫複合的治療
(7)まとめ
第6章 緩和ケアが主体となる時期
1 緩和ケアが主体となる時期のリハビリテーション
(1)緩和ケアとは
(2)リハビリテーションのポイント
(3)症状・病態に合わせたリハビリテーションアプローチ
(4)在宅支援とリハビリテーション
第7章 心のケアとリハビリテーション
1 がん患者の精神的負担とコミュニケーションスキル
(1)留意すべき精神的負担(適応障害,うつ病,せん妄)
(2)がん医療におけるコミュニケーション
参考図書
Check Sheet
索引
Advanced Study
・人工物による乳房再建術
・柔軟なリハビリテーション計画の変更
・「有害反応」と「副作用」
・最大心拍数を予測するGellishの式
・1日1万歩の根拠
・IPAQ日本版とPASE日本版
・造血幹細胞移植における合併症
・多職種チームによる介入
・気管切開のチューブの種類
・嚥下障害に対する手術
・間歇的口腔食道経管栄養法
・口渇について
・せん妄と認知症の違い
・リンパ浮腫の手術治療
・リハビリテーション前のレスキュー使用
Topics
・個別化医療
・ICU-AW
・ICU-ASD
・乳がん検診
・介護保険の活用
・ERASプロトコル
・CRF(がん関連疲労)
・がん患者の就労状況
・FITT
・造血幹細胞移植患者に対するリハビリテーションの介入効果
・舌接触補助床(PAP)
・胸部食道がん患者に対する頸部屈曲位嚥下の有効性
・化学放射線療法中の嚥下リハビリテーション「Pharyngocise」
・嗅覚リハビリテーション
・ケモブレイン
・リンパ浮腫複合的治療料
・むくみの原因
1 がんの基礎知識
(1)がん=悪性腫瘍とは何か
(2)がんの治療
(3)がんの疫学
2 がんのリハビリテーションの基礎知識
(1)がんと共存する時代へ
(2)がんのリハビリテーションの目的と定義
(3)わが国におけるがんのリハビリテーションの動向
(4)病期別分類
(5)対象となる障害
(6)評価
(7)がんのリハビリテーション実施のポイント
(8)がんのリハビリテーションの実際
(9)リスク管理
第2章 周術期リハビリテーション
1 開胸開腹術
(1)開胸開腹術の対象となる疾患・術式
(2)リハビリテーションの目的
(3)周術期リハビリテーションの効果
(4)術後呼吸器合併症の定義,リスクを高める要因
(5)周術期リハビリテーションの実際
2 乳がん
(1)疫学
(2)リハビリテーションの目的
(3)治療法
(4)術後に生じる問題
(5)術後のリハビリテーションの効果
(6)周術期リハビリテーションの実際
3 脳腫瘍
(1)脳腫瘍による神経脱落症状の発生頻度
(2)生命予後
(3)治療
(4)リハビリテーションの目的
(5)周術期リハビリテーションの実際
4 頸部リンパ節郭清術(頭頸部がん)
(1)術式と対象となる疾患
(2)術後の症状とリスク管理
(3)副神経麻痺(僧帽筋麻痺)による肩の症状と機能予後
(4)術後のリハビリテーションの目的
(5)リハビリテーションの効果
(6)リハビリテーションの実際
5 原発性骨軟部腫瘍・脊髄腫瘍
(1)疫学
(2)基本的な治療体系
(3)リハビリテーションの目的
(4)手術症例に対するリハビリテーションの実際
(5)リハビリテーションの効果・エビデンス
第3章 化学療法・放射線療法
1 化学療法・放射線療法中・後のリハビリテーション
(1)リハビリテーションのポイント
(2)化学療法・放射線療法に伴う患者の負担や障害
(3)リハビリテーションの効果
(4)有害反応
(5)血球減少とリスク,対応のポイント
(6)がん治療に伴い生じる心合併症とその対応
(7)進行がん患者のリスク管理
(8)リハビリテーションの実際
2 造血幹細胞移植前後のリハビリテーション
(1)移植の対象となる疾患とその治療法
(2)移植患者に対するリハビリテーションの目的
(3)移植治療と生じうる機能障害(筋力,運動耐容能など廃用症候群)
(4)リハビリテーションの効果
(5)リハビリテーションプログラムの立案(リスク管理)
(6)リハビリテーションの実際
3 骨転移
(1)疫学
(2)骨転移により生じる問題
(3)画像評価
(4)骨関連事象の予測方法
(5)治療
(6)リハビリテーションの目的
(7)リハビリテーションの実際
第4章 摂食嚥下障害,コミュニケーション障害
1 頭頸部がんの病態と治療
2 摂食嚥下障害
(1)摂食嚥下に関与する構造・領域
(2)周術期の対応(舌がん,食道がん,脳腫瘍)
(3)頭頸部がんに対する放射線療法中・後の病態
(4)緩和ケア主体の時期の病態
(5)評価
(6)リハビリテーションの実際
3 頭頸部がん術後の発声障害と構音障害
(1)発声と構音
(2)喉頭・下咽頭がんの治療法
(3)リハビリテーションの目的
(4)口腔咽頭がん術後の構音障害
4 高次脳機能障害
(1)高次脳機能障害を生じる疾患や治療
(2)リハビリテーションの実際
(3)失語症の評価・介入
第5章 リンパ浮腫
1 リンパ浮腫へのアプローチ
(1)リンパ浮腫とは?
(2)疫学
(3)がん治療後の病態
(4)診断
(5)予防指導
(6)リンパ浮腫複合的治療
(7)まとめ
第6章 緩和ケアが主体となる時期
1 緩和ケアが主体となる時期のリハビリテーション
(1)緩和ケアとは
(2)リハビリテーションのポイント
(3)症状・病態に合わせたリハビリテーションアプローチ
(4)在宅支援とリハビリテーション
第7章 心のケアとリハビリテーション
1 がん患者の精神的負担とコミュニケーションスキル
(1)留意すべき精神的負担(適応障害,うつ病,せん妄)
(2)がん医療におけるコミュニケーション
参考図書
Check Sheet
索引
Advanced Study
・人工物による乳房再建術
・柔軟なリハビリテーション計画の変更
・「有害反応」と「副作用」
・最大心拍数を予測するGellishの式
・1日1万歩の根拠
・IPAQ日本版とPASE日本版
・造血幹細胞移植における合併症
・多職種チームによる介入
・気管切開のチューブの種類
・嚥下障害に対する手術
・間歇的口腔食道経管栄養法
・口渇について
・せん妄と認知症の違い
・リンパ浮腫の手術治療
・リハビリテーション前のレスキュー使用
Topics
・個別化医療
・ICU-AW
・ICU-ASD
・乳がん検診
・介護保険の活用
・ERASプロトコル
・CRF(がん関連疲労)
・がん患者の就労状況
・FITT
・造血幹細胞移植患者に対するリハビリテーションの介入効果
・舌接触補助床(PAP)
・胸部食道がん患者に対する頸部屈曲位嚥下の有効性
・化学放射線療法中の嚥下リハビリテーション「Pharyngocise」
・嗅覚リハビリテーション
・ケモブレイン
・リンパ浮腫複合的治療料
・むくみの原因
書評
開く
豊富な臨床経験から培われた実践的な入門書
書評者: 中村 春基 (日本作業療法士協会会長)
「がんのリハビリテーション」の入門書が,辻哲也氏ご編集のもと医学書院から発刊された。本書の序で辻氏は,わが国では,国民の2人に1人は生涯のうちにがんに罹患し3人に1人はがんで死亡する一方,がん経験者(サバイバー)は現在の約500万人から,今後,1年で60万人ずつ増え,「不治の病」であった時代から「がんと共存」する時代になったと述べている。国を挙げてがん対策が進められているゆえんであり,そこにはリハビリテーションの必要性があると思う。続いて辻氏は,「がんのリハビリテーション」には,がん医療全般の知識が必要とされると同時に,周術期,化学療法・放射線療法中・後の対応,骨転移,摂食嚥下障害,コミュニケーション障害,リンパ浮腫,緩和ケア,心のケアなど高度な専門性が要求されることを示し,高い専門知識と多職種協働の必要性を説いている。このようにがんのリハビリテーションが必要とされる現在にあって,わが国においては「がんのリハビリテーション」を学ぶための実践的な入門書がほとんどなかった。
本書は入門書として,EBMに配慮しつつ,執筆者の豊富な臨床経験から培われた内容が盛り込まれており,多職種協働を前提として,がんのリハビリテーションに関する基本的な医学的知識,各専門職の取り組みを具体的に紹介した内容となっている。学生においては臨床実習前に,また,臨床においては,がん患者と接する前にまず読むべき本であるといえる。
全体は7章からなる。第1章のがんのリハビリテーション概論に始まり,第2章からは,周術期リハビリテーション,化学療法・放射線療法,摂食嚥下障害,リンパ浮腫,と疾患や病態ごとに治療とリハビリテーションの実際について述べており,第6章では緩和ケアが主体となる時期,第7章では心のケアとリハビリテーションまでをも取り上げている。
全体を通して,基本的な内容とともに図表の用いかたが的確で実に的を射ており,紹介されている評価やプログラムは各職種間の共通事項として活用できると思う。加えて,乳がんや脳腫瘍,頸部リンパ節郭清術など要所要所の項目に症例とそのポイントが紹介されており,本文の理解と各章間の知識の統合を助けている。各節の冒頭には,「Essence」として,その節の概要が示され,また,巻末のCheck Sheetでは,章ごとに重要ポイントについての中抜き問題が設けられており,読者自身により理解の度合いを確認できるようになっている。
本書の読者への配慮をあと2つ紹介したい。1つ目は,Advanced Studyである。「最大心拍数を予測するGellishの式」「1日1万歩の根拠」など15項目を取り上げ,理解を深められるようになっている。2つ目がTopicsであり,「ICU-AW」「ICU-ASD」「CRF」「嗅覚リハビリテーション」など,近年の治療や制度など17項目について解説し,理解の幅を広げられるようになっている。
冒頭に述べたようにがんのリハビリテーションは国策である。ぜひとも多くの養成校で活用されることを願っている。また,臨床においては,本書ががん医療の質の向上に貢献し,がん患者のQOL向上の一助となることを祈念している。
多職種連携・チーム医療の本質が具現化されたテキスト
書評者: 内山 靖 (名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学理学療法学講座・教授)
リハビリテーション科医,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士の編集体制によって,2018年4月に『がんのリハビリテーション』が発刊されました。がん対策基本法が2006年6月に成立し,がん患者の状況に応じた良質なリハビリテーションの提供が求められました。2007年から,がんのリハビリテーション研修ワークショップ(CAREER)が開始され,医師,看護師,リハビリテーション専門職によるチーム医療の普及啓発が進められています。
本書は7章272ページと比較的コンパクトですが,病期ごとの実践を念頭に置きつつ代表的ながん種の症状やリスク管理を踏まえて,運動耐容能,摂食嚥下,浮腫に対する具体的な対応に言及し,さらに心のケアについて取り上げた充実した内容となっています。
数年の間にがんのリハビリテーションに関する複数の書籍が編集・出版されていますので,この機会にあらためて読み比べてみました。本書では,従来の各職種の専門性からみた知識や役割を並列的に整理するのではなく,対象者の病期と症状を基軸として,そこに多くの専門家がいかにかかわるのかについて,職種を主語にすることなく記載が進められている点は特筆されます。多職種連携・チーム医療の本質が見事に具現化されており,病期,主たる症状を踏まえた対象者の主な課題やニーズに応じて各職種のイニシアティブや役割が自在に変わり得る必然性が表現されています。がんのリハビリテーションでは,がんの直接的・間接(遠隔)的影響に加えて,治療の過程において起こり得る制限や制約,そしてがんを有する対象者の心理・生活といった側面に,適切な時期に速やかかつ柔軟に対応することが不可欠であることが特に明確な領域です。この点から,がんのリハビリテーションはリハビリテーションそのものの中核モデルともいえ,リハビリテーション概論や多職種連携・チーム医療を教授する上でのテキストとしても適しています。
1980年代のがんに対する理学療法は,原発性悪性骨・軟部腫瘍もしくは転移性骨腫瘍における切断,脳腫瘍・脳転移に対するものが主体でした。さらに,転移性脊椎腫瘍,乳がん,肺がん・縦隔腫瘍,造血器悪性腫瘍へと適用を拡大し,ハイリスク・体力消耗状態への介入を含めて消化器系のがんを含めた系統的な取り組みが充実してきました。評者自身,編集協力者の高倉保幸先生ががん研究所で取り組まれていた理学療法のあり様や,近隣の大学病院における移植片対宿主病を念頭に置いたリハビリテーション,食道発声に取り組む同僚の言語聴覚士の姿を目の当たりにし,私自身が関心を持っていた神経難病の理学療法・リハビリテーションにも大きな影響を与えられたことを昨日のことのように思い返しています。
今後,地域の中での予防,治療,生活,緩和においてもがんを有する対象者への対応は一層重要になると思われ,本書を多くの関係者が手に取られることをお薦めする次第です。
書評者: 中村 春基 (日本作業療法士協会会長)
「がんのリハビリテーション」の入門書が,辻哲也氏ご編集のもと医学書院から発刊された。本書の序で辻氏は,わが国では,国民の2人に1人は生涯のうちにがんに罹患し3人に1人はがんで死亡する一方,がん経験者(サバイバー)は現在の約500万人から,今後,1年で60万人ずつ増え,「不治の病」であった時代から「がんと共存」する時代になったと述べている。国を挙げてがん対策が進められているゆえんであり,そこにはリハビリテーションの必要性があると思う。続いて辻氏は,「がんのリハビリテーション」には,がん医療全般の知識が必要とされると同時に,周術期,化学療法・放射線療法中・後の対応,骨転移,摂食嚥下障害,コミュニケーション障害,リンパ浮腫,緩和ケア,心のケアなど高度な専門性が要求されることを示し,高い専門知識と多職種協働の必要性を説いている。このようにがんのリハビリテーションが必要とされる現在にあって,わが国においては「がんのリハビリテーション」を学ぶための実践的な入門書がほとんどなかった。
本書は入門書として,EBMに配慮しつつ,執筆者の豊富な臨床経験から培われた内容が盛り込まれており,多職種協働を前提として,がんのリハビリテーションに関する基本的な医学的知識,各専門職の取り組みを具体的に紹介した内容となっている。学生においては臨床実習前に,また,臨床においては,がん患者と接する前にまず読むべき本であるといえる。
全体は7章からなる。第1章のがんのリハビリテーション概論に始まり,第2章からは,周術期リハビリテーション,化学療法・放射線療法,摂食嚥下障害,リンパ浮腫,と疾患や病態ごとに治療とリハビリテーションの実際について述べており,第6章では緩和ケアが主体となる時期,第7章では心のケアとリハビリテーションまでをも取り上げている。
全体を通して,基本的な内容とともに図表の用いかたが的確で実に的を射ており,紹介されている評価やプログラムは各職種間の共通事項として活用できると思う。加えて,乳がんや脳腫瘍,頸部リンパ節郭清術など要所要所の項目に症例とそのポイントが紹介されており,本文の理解と各章間の知識の統合を助けている。各節の冒頭には,「Essence」として,その節の概要が示され,また,巻末のCheck Sheetでは,章ごとに重要ポイントについての中抜き問題が設けられており,読者自身により理解の度合いを確認できるようになっている。
本書の読者への配慮をあと2つ紹介したい。1つ目は,Advanced Studyである。「最大心拍数を予測するGellishの式」「1日1万歩の根拠」など15項目を取り上げ,理解を深められるようになっている。2つ目がTopicsであり,「ICU-AW」「ICU-ASD」「CRF」「嗅覚リハビリテーション」など,近年の治療や制度など17項目について解説し,理解の幅を広げられるようになっている。
冒頭に述べたようにがんのリハビリテーションは国策である。ぜひとも多くの養成校で活用されることを願っている。また,臨床においては,本書ががん医療の質の向上に貢献し,がん患者のQOL向上の一助となることを祈念している。
多職種連携・チーム医療の本質が具現化されたテキスト
書評者: 内山 靖 (名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学理学療法学講座・教授)
リハビリテーション科医,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士の編集体制によって,2018年4月に『がんのリハビリテーション』が発刊されました。がん対策基本法が2006年6月に成立し,がん患者の状況に応じた良質なリハビリテーションの提供が求められました。2007年から,がんのリハビリテーション研修ワークショップ(CAREER)が開始され,医師,看護師,リハビリテーション専門職によるチーム医療の普及啓発が進められています。
本書は7章272ページと比較的コンパクトですが,病期ごとの実践を念頭に置きつつ代表的ながん種の症状やリスク管理を踏まえて,運動耐容能,摂食嚥下,浮腫に対する具体的な対応に言及し,さらに心のケアについて取り上げた充実した内容となっています。
数年の間にがんのリハビリテーションに関する複数の書籍が編集・出版されていますので,この機会にあらためて読み比べてみました。本書では,従来の各職種の専門性からみた知識や役割を並列的に整理するのではなく,対象者の病期と症状を基軸として,そこに多くの専門家がいかにかかわるのかについて,職種を主語にすることなく記載が進められている点は特筆されます。多職種連携・チーム医療の本質が見事に具現化されており,病期,主たる症状を踏まえた対象者の主な課題やニーズに応じて各職種のイニシアティブや役割が自在に変わり得る必然性が表現されています。がんのリハビリテーションでは,がんの直接的・間接(遠隔)的影響に加えて,治療の過程において起こり得る制限や制約,そしてがんを有する対象者の心理・生活といった側面に,適切な時期に速やかかつ柔軟に対応することが不可欠であることが特に明確な領域です。この点から,がんのリハビリテーションはリハビリテーションそのものの中核モデルともいえ,リハビリテーション概論や多職種連携・チーム医療を教授する上でのテキストとしても適しています。
1980年代のがんに対する理学療法は,原発性悪性骨・軟部腫瘍もしくは転移性骨腫瘍における切断,脳腫瘍・脳転移に対するものが主体でした。さらに,転移性脊椎腫瘍,乳がん,肺がん・縦隔腫瘍,造血器悪性腫瘍へと適用を拡大し,ハイリスク・体力消耗状態への介入を含めて消化器系のがんを含めた系統的な取り組みが充実してきました。評者自身,編集協力者の高倉保幸先生ががん研究所で取り組まれていた理学療法のあり様や,近隣の大学病院における移植片対宿主病を念頭に置いたリハビリテーション,食道発声に取り組む同僚の言語聴覚士の姿を目の当たりにし,私自身が関心を持っていた神経難病の理学療法・リハビリテーションにも大きな影響を与えられたことを昨日のことのように思い返しています。
今後,地域の中での予防,治療,生活,緩和においてもがんを有する対象者への対応は一層重要になると思われ,本書を多くの関係者が手に取られることをお薦めする次第です。