看護にいかすインストラクショナルデザイン
効果的・効率的・魅力的な研修企画を目指して
インストラクショナルデザイン(ID)で研修企画の整理整頓をしませんか?
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教育や研修の効果・効率・魅力を高め、学習者の主体的な学びを設計するインストラクショナルデザイン(ID)。本書では、IDの考え方・手法を基盤に、看護師の成長を支援するための研修改善のポイントを解説する。研修企画者・教育担当者・看護管理者の必読書。
*本書は、雑誌 『看護管理』 の好評連載 「実践! インストラクショナル・デザイン」 を大幅に加筆・修正したものです。
著 | 浅香 えみ子 |
---|---|
発行 | 2016年12月判型:B5頁:168 |
ISBN | 978-4-260-02853-0 |
定価 | 3,080円 (本体2,800円+税) |
更新情報
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- 序文
- 目次
- 書評
序文
開く
はじめに
「保健師助産師看護師法(保助看法)」「看護師等の人材確保の促進に関する法律(人確法)」の改正により,2010年4月から新人看護職員の卒後臨床研修が努力義務化となるなど,看護師の卒後教育における研修の重要性はますます高まっています。2016年5月には日本看護協会より看護師のクリニカルラダーが公表され,看護師が能力段階に応じて実践力を高めること,実践ベースで人材育成をすることが期待されています。いずれも,看護師が実践力を身につけるための学びが期待されているといえるでしょう。臨床場面では,看護業務は複雑化し,期待される看護は個別の状況への対応といった応用力が多分に求められるものになっています。このようななかで,看護師は学びを通してその実践力を高めることが求められるため,短時間で確実に実践力を習得することが必要です。
教育の効果は長い目で見ていく必要があると考えていた時代は過ぎました。学びの成果は即実践で活用されていきます。すなわち,成果に直結する,必ず学習目標に到達できる学びが求められているのです。
看護分野では,他の医療職種の比にならないほどの数の院内研修が企画され,研修への期待度の高さをもの語っています。しかし一方で,その実態は思うほどの成果がみえないという声が多くあります。看護師はとにかく真面目で,与えられた研修を放棄することはほとんどありません。多忙ななか,多くの時間を研修に投入しています。その成果が十分でないとするならば,どれだけの損失になるかは計り知れません。研修成果があがらないことは,組織としての損失であるとともに,看護師個々の学習意欲を削ぎ,研修企画者の疲弊を引き起こし,大切な看護師の存在さえ脅かす要因となります。
人は新しいことを知る,できることが増えることに大きな喜びを感じます。学ぶことが楽しい,学んでよかった,がんばってよかったという感想が得られる学びをつくっていきたいと思います。わかりたい,できるようになりたいという看護師のニーズにこたえる研修は単に個々の研修成果のみならず,学ぶこと,学び続けるという専門職者の基本姿勢をつくりあげることでしょう。これは研修を提供する者の役割であるとともに責任であり,本当の意味で教育者としての成果を得ることにつながると考えています。
学べない,意欲がない,成果が出ないことは,学習者の問題ではありません。成果がでる,魅力ある研修をつくることで,人は学びに誘導され,他人事ではなく自分事として課題に向かい,必ず実践に活用してくれるものと考えます。研修の学びをいかしたところ,患者さんが喜んでくれた,納得のいく看護研究がまとまった,先輩にほめられたということであれば,学習者はもっともっと知りたい,学びたいと自然に思うものです。
本書では,インストラクショナルデザインを学びの構造の基盤においています。研修企画の流れをわかりやすくするために,少し遠回りをした手順を示している部分があります。学習者のニーズにこたえ,目標に到達することを外しさえしなければ,省略できるところは省いてもかまいません。例示した手段はあくまでも一手段です。より効果的・効率的・魅力的な改善を目指して工夫していきましょう。
がむしゃらにたくさんの研修を行ってきましたが,ここで肩の力を抜いてみませんか。学びの構造をロジカルに活用し,効果的・効率的・魅力的な研修をデザインし,受講者と研修企画者がともに有意義な時間を共有できるようになることを願っています。
2016年10月
浅香えみ子
「保健師助産師看護師法(保助看法)」「看護師等の人材確保の促進に関する法律(人確法)」の改正により,2010年4月から新人看護職員の卒後臨床研修が努力義務化となるなど,看護師の卒後教育における研修の重要性はますます高まっています。2016年5月には日本看護協会より看護師のクリニカルラダーが公表され,看護師が能力段階に応じて実践力を高めること,実践ベースで人材育成をすることが期待されています。いずれも,看護師が実践力を身につけるための学びが期待されているといえるでしょう。臨床場面では,看護業務は複雑化し,期待される看護は個別の状況への対応といった応用力が多分に求められるものになっています。このようななかで,看護師は学びを通してその実践力を高めることが求められるため,短時間で確実に実践力を習得することが必要です。
教育の効果は長い目で見ていく必要があると考えていた時代は過ぎました。学びの成果は即実践で活用されていきます。すなわち,成果に直結する,必ず学習目標に到達できる学びが求められているのです。
看護分野では,他の医療職種の比にならないほどの数の院内研修が企画され,研修への期待度の高さをもの語っています。しかし一方で,その実態は思うほどの成果がみえないという声が多くあります。看護師はとにかく真面目で,与えられた研修を放棄することはほとんどありません。多忙ななか,多くの時間を研修に投入しています。その成果が十分でないとするならば,どれだけの損失になるかは計り知れません。研修成果があがらないことは,組織としての損失であるとともに,看護師個々の学習意欲を削ぎ,研修企画者の疲弊を引き起こし,大切な看護師の存在さえ脅かす要因となります。
人は新しいことを知る,できることが増えることに大きな喜びを感じます。学ぶことが楽しい,学んでよかった,がんばってよかったという感想が得られる学びをつくっていきたいと思います。わかりたい,できるようになりたいという看護師のニーズにこたえる研修は単に個々の研修成果のみならず,学ぶこと,学び続けるという専門職者の基本姿勢をつくりあげることでしょう。これは研修を提供する者の役割であるとともに責任であり,本当の意味で教育者としての成果を得ることにつながると考えています。
学べない,意欲がない,成果が出ないことは,学習者の問題ではありません。成果がでる,魅力ある研修をつくることで,人は学びに誘導され,他人事ではなく自分事として課題に向かい,必ず実践に活用してくれるものと考えます。研修の学びをいかしたところ,患者さんが喜んでくれた,納得のいく看護研究がまとまった,先輩にほめられたということであれば,学習者はもっともっと知りたい,学びたいと自然に思うものです。
本書では,インストラクショナルデザインを学びの構造の基盤においています。研修企画の流れをわかりやすくするために,少し遠回りをした手順を示している部分があります。学習者のニーズにこたえ,目標に到達することを外しさえしなければ,省略できるところは省いてもかまいません。例示した手段はあくまでも一手段です。より効果的・効率的・魅力的な改善を目指して工夫していきましょう。
がむしゃらにたくさんの研修を行ってきましたが,ここで肩の力を抜いてみませんか。学びの構造をロジカルに活用し,効果的・効率的・魅力的な研修をデザインし,受講者と研修企画者がともに有意義な時間を共有できるようになることを願っています。
2016年10月
浅香えみ子
目次
開く
はじめに
イントロダクション
Part 1 インストラクショナルデザインとは
Chapter 1 インストラクショナルデザイン(ID)を看護師の成長にいかす
はじめに
改善……その前にみんなで考えよう
パフォーマンス・コンサルティング
ID:インストラクショナルデザイン(教授設計)とは
IDを看護教育にいかす
IDを活用することで広まる周辺リソース
Chapter 2 インストラクションとは/IDの基盤となる理論
語意から考える「インストラクション」
教育工学からの解説
看護教育とインストラクション
IDの中核を成す2つの理論
自らの学習経験から振り返るインストラクションの価値
折衷主義で進めるために知っておくと便利な知識
IDの示すメッセージをキーワードに研修を見直す
Part 2 分析|analytics
Chapter 3 ニーズ分析-教育目標を明確にするためのニーズアセスメント
施設状況の把握
前年度の参加者アンケートから期待度・満足度を探る
ニーズとは
「理想の姿」を期待する立場とは
研究参加者の「理想の姿」とは
研究参加者の「今の姿」とは
学習ニーズの把握
ニーズのない研修は成果を生まない
[ワークシート 1] 研修目標と組織理念とのつながり
[ワークシート 2] パフォーマンスギャップ
[ワークシート 3] ニーズ情報の収集
Chapter 4 教育のゴール分析
教育のゴール分析とは
「何ができれば」よいかを行動を表す表現で記述する
学習成果分類を活用し,教育のゴールを記述する
ガニェの「学習成果の5分類」
何ができれば,説明できるのか
Chapter 5 学習者分析・コンテクスト分析
学習課題に取り組む学習者の状況
学習者個々が抱える「状況」とは
学習者分析
コンテクスト分析
分析に必要な情報を収集する
[ワークシート 4] 学習者・学習コンテクスト・パフォーマンスコンテクストの分析
[ワークシート 5] 情報収集できなかったときのためのニーズ収集手段
Part 3 設計|design
Chapter 6 パフォーマンス目標
教育計画の「設計」とは
「教育ゴール」と「学習・パフォーマンスコンテクスト分析」を統合する
パフォーマンス目標とは
パフォーマンス目標の立案手順
パフォーマンス目標の立案-看護研究の進め方を事例に
パフォーマンス目標と1つのインストラクション(1つの研修)
パフォーマンスコンテクストによるパフォーマンス目標
看護技術を用いた看護実践に関する教授設計
Chapter 7 評価基準の作成
分析の過程こそが研修計画の根幹を成す
研修(1回のインストラクション)における評価
実際の研修計画にあてはめて考えてみる
評価の基準を設定する
評価基準の設定による効果
Part 4 開発|development
Chapter 8 教授方法の選択と開発
研修企画を効果的に機能させるために
研修の枠組みの確認
効果的・効率的に目標達成! 魅力を感じる方法を!
入口の条件を満たせるようにする計画
Chapter 9 教材の選択と開発
効果的・効率的・魅力的な教材とは
教授事象に応じた工夫
教材の選択と開発
[ワークシート 6] 研修企画シート
Part 5 実施/評価|implementation/evaluation
Chapter 10 「実施」と「評価」
研修の実施
評価をする
評価とは
形成評価と総括評価
事例で考える「評価」のプロセス
評価に必要なデータ収集
「看護研究の進め方」研修の評価
IDのプロセス全体の振り返り
[ワークシート 7] 期待する行動・パフォーマンス達成の学習課題分析
Part 6 IDを用いた人材育成
Chapter 11 参加したくなる研修
研修改善のポイント
参加したくなる研修をつくる
動機づけを行う対象者
研修のPR方法
魅力ある研修づくり
研修受講の動機づけとIDの過程
Chapter 12 専門職者育成の強化と自律した学習者の育成
“学び方を学ぶ”ことの必要性
「学習行動」を人材育成につなげる
専門職者として看護師が学ぶべきことと学び方
人材育成につながる学習デザイン
学習方法
経験学習をIDにいかす
Chapter 13 院内研修の見直しと現場の学習支援
よりよい成果をあげるために
IDを使って変わったこと(1):研修で扱う内容が明確に
IDを使って変わったこと(2):明確な評価でモチベーションアップ
IDを使って変わったこと(3):学習者を分析し興味のある教材を用意
IDを使って変わったこと(4):動機づけで効果アップ
ID導入1年後のリフレクション
[ワークシート 8] 研修の改善ポイント
実践事例
1 がん看護領域のエキスパートナースが熱い思いで企画した
「疼痛コントロール」に関する研修
2 「研修終了時に満足度の高い研修」=「ニーズの高い研修」?
3 看護倫理・看護理論などの「王道の研修」ってアンタッチャブル?
4 いつ活用の機会があるかわからない人工呼吸器の管理の研修,
必要なことはわかっていますが,やる気になれないです……
5 いろいろな研修をやっているけれど,
現場の実践が改善された感じがしないのはなぜ?
6 ステップアップを目指した創傷管理の研修のはずが……
いつもイチからスタート?
研修がうまくいく!!20のリフレクション
索引
イントロダクション
Part 1 インストラクショナルデザインとは
Chapter 1 インストラクショナルデザイン(ID)を看護師の成長にいかす
はじめに
改善……その前にみんなで考えよう
パフォーマンス・コンサルティング
ID:インストラクショナルデザイン(教授設計)とは
IDを看護教育にいかす
IDを活用することで広まる周辺リソース
Chapter 2 インストラクションとは/IDの基盤となる理論
語意から考える「インストラクション」
教育工学からの解説
看護教育とインストラクション
IDの中核を成す2つの理論
自らの学習経験から振り返るインストラクションの価値
折衷主義で進めるために知っておくと便利な知識
IDの示すメッセージをキーワードに研修を見直す
Part 2 分析|analytics
Chapter 3 ニーズ分析-教育目標を明確にするためのニーズアセスメント
施設状況の把握
前年度の参加者アンケートから期待度・満足度を探る
ニーズとは
「理想の姿」を期待する立場とは
研究参加者の「理想の姿」とは
研究参加者の「今の姿」とは
学習ニーズの把握
ニーズのない研修は成果を生まない
[ワークシート 1] 研修目標と組織理念とのつながり
[ワークシート 2] パフォーマンスギャップ
[ワークシート 3] ニーズ情報の収集
Chapter 4 教育のゴール分析
教育のゴール分析とは
「何ができれば」よいかを行動を表す表現で記述する
学習成果分類を活用し,教育のゴールを記述する
ガニェの「学習成果の5分類」
何ができれば,説明できるのか
Chapter 5 学習者分析・コンテクスト分析
学習課題に取り組む学習者の状況
学習者個々が抱える「状況」とは
学習者分析
コンテクスト分析
分析に必要な情報を収集する
[ワークシート 4] 学習者・学習コンテクスト・パフォーマンスコンテクストの分析
[ワークシート 5] 情報収集できなかったときのためのニーズ収集手段
Part 3 設計|design
Chapter 6 パフォーマンス目標
教育計画の「設計」とは
「教育ゴール」と「学習・パフォーマンスコンテクスト分析」を統合する
パフォーマンス目標とは
パフォーマンス目標の立案手順
パフォーマンス目標の立案-看護研究の進め方を事例に
パフォーマンス目標と1つのインストラクション(1つの研修)
パフォーマンスコンテクストによるパフォーマンス目標
看護技術を用いた看護実践に関する教授設計
Chapter 7 評価基準の作成
分析の過程こそが研修計画の根幹を成す
研修(1回のインストラクション)における評価
実際の研修計画にあてはめて考えてみる
評価の基準を設定する
評価基準の設定による効果
Part 4 開発|development
Chapter 8 教授方法の選択と開発
研修企画を効果的に機能させるために
研修の枠組みの確認
効果的・効率的に目標達成! 魅力を感じる方法を!
入口の条件を満たせるようにする計画
Chapter 9 教材の選択と開発
効果的・効率的・魅力的な教材とは
教授事象に応じた工夫
教材の選択と開発
[ワークシート 6] 研修企画シート
Part 5 実施/評価|implementation/evaluation
Chapter 10 「実施」と「評価」
研修の実施
評価をする
評価とは
形成評価と総括評価
事例で考える「評価」のプロセス
評価に必要なデータ収集
「看護研究の進め方」研修の評価
IDのプロセス全体の振り返り
[ワークシート 7] 期待する行動・パフォーマンス達成の学習課題分析
Part 6 IDを用いた人材育成
Chapter 11 参加したくなる研修
研修改善のポイント
参加したくなる研修をつくる
動機づけを行う対象者
研修のPR方法
魅力ある研修づくり
研修受講の動機づけとIDの過程
Chapter 12 専門職者育成の強化と自律した学習者の育成
“学び方を学ぶ”ことの必要性
「学習行動」を人材育成につなげる
専門職者として看護師が学ぶべきことと学び方
人材育成につながる学習デザイン
学習方法
経験学習をIDにいかす
Chapter 13 院内研修の見直しと現場の学習支援
よりよい成果をあげるために
IDを使って変わったこと(1):研修で扱う内容が明確に
IDを使って変わったこと(2):明確な評価でモチベーションアップ
IDを使って変わったこと(3):学習者を分析し興味のある教材を用意
IDを使って変わったこと(4):動機づけで効果アップ
ID導入1年後のリフレクション
[ワークシート 8] 研修の改善ポイント
実践事例
1 がん看護領域のエキスパートナースが熱い思いで企画した
「疼痛コントロール」に関する研修
2 「研修終了時に満足度の高い研修」=「ニーズの高い研修」?
3 看護倫理・看護理論などの「王道の研修」ってアンタッチャブル?
4 いつ活用の機会があるかわからない人工呼吸器の管理の研修,
必要なことはわかっていますが,やる気になれないです……
5 いろいろな研修をやっているけれど,
現場の実践が改善された感じがしないのはなぜ?
6 ステップアップを目指した創傷管理の研修のはずが……
いつもイチからスタート?
研修がうまくいく!!20のリフレクション
索引
書評
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臨床の教育担当者の悩みに応える,研修改善の道しるべ(雑誌『看護管理』より)
書評者: 川原 千香子 (愛知医科大学医学部シミュレーションセンター講師 急性・重症患者看護専門看護師)
書店に並んでいたら,きっと手に取りたくなるインパクトのあるオレンジ色の本です。この色にも著者の教育への熱意と研修企画者,受講者への温かさが表れていると思います。
◆何をポイントに企画を準備し,評価すると効果的な研修が行えるか
さて,インストラクショナル・デザイン(以下,ID)とは,「教授設計」のことですが,ここ10年くらいの間に注目されるようになったのではないでしょうか。その主たる要因は,医療安全に着目した能動的な教育(シミュレーションをはじめとするアクティブラーニング)の広がりや,実践者育成のための研修をどうやって組み立てるとよいか,効果をどのように測ればよいか,といった臨床の教育担当者のさまざまな悩みによるものだと思います。評者自身,臨床で専任教育担当者として悩み,何か解決策はないかと思っていたときにIDに出会い,学んだことが思い出されます。
本書は,そのような研修を企画する医療従事者の悩みに対して,とても分かりやすく解説されています。ただ,著者も述べていますが,この書籍は,決してIDの解説書ではありません。何をポイントに企画を準備し,どのような評価をすると効果的な研修が行えるかが学べる,特に臨床の指導者や研修企画者にとっての道しるべとなる書籍です。
一方的に企画者が考えた学習目標で研修を実施するのではなく,どのような対象者に何ができるようになってほしいのかをしっかり考えて企画し,その効果をどのように測定するかまでを考えることができるようになります。そして,企画者も企画を振り返り,改善のポイントを整理することができるようになると思います。
臨床指導,研修の企画の際に本書を手に取っていただけると,研修を受ける人のみならず,企画者にも実りの多い指導,研修が実践されると思います。
◆IDを正しく理解し,活用するために
近年,医療者教育関連の報告や研究に,「IDを用いた○○」というタイトルが増えています。これは,IDを用いて研修を企画した結果,以前に比べて,教育効果を測定できるようになった,より効果的な研修を企画できたなどの,よい結果を紹介するものだと思います。
では,IDがこのように取り上げられる前は,何を道しるべにしていたのでしょうか。看護教員養成課程など,従来から教育に関しては,企画に必要な「指導案」「授業案」などがありました。「学習者観」「教材観」などのアセスメントも含まれています。しかし,従来の指導案の考え方は,基礎教育を対象にしたものが中心で,成人教育に基づくさまざまな臨床での教育ニーズに対応するためには,工夫が必要でした。また,私たち医療者は,プリセプターシップが導入される以前から,先輩が後輩を指導する「教育」の能力を求められていたにもかかわらず,教員を志す人以外は,特に系統立てた「教育」を学ぶ機会が少なかったと思います。
今回取り上げられているIDは,従来の授業案の内容を,より具体的に整理し,学習者のニーズ分析から,教育内容,方法,評価,再構築までの工程を,ロジスティックに示したものであり,分かりやすく,活用しやすいものだといえます。本書は,臨床の医療者にとって,教育研修を企画する上で,IDの考え方に則ることによって,より効果的な研修が行えることを示しています。IDとは,「教授設計」の方法論であり,単独の魔法の道具ではないとご理解の上,読んでいただくことをお勧めしたいと思います。
(『看護管理』2017年6月号掲載)
インストラクショナルデザインを体験しながら研修改善が目指せる本(雑誌『看護管理』より)
書評者: 菊内 由貴 (がん看護専門看護師/インストラクショナルデザイナー/四国がんセンター 臨床研究センター研究員/熊本大学 教授システム学研究センター連携研究員)
◆臨床看護師教育の現場で活用できる
医療の進歩に伴い臨床看護師に研修すべき内容は膨大な量に及ぶ一方,教育について専門的に学ぶことができる機会はほとんどない。教育担当者は,たとえ教育の専門的な知識がなくても,とにかく研修を企画運営しなければならず,研修方法や研修効果に疑問を抱きながら悪戦苦闘している現状がある。
私自身,がん看護専門看護師として,教育を通じた臨床現場の質向上に貢献したいと考え,自施設内外の教育企画に携わってきた。この中で,学習到達度が不十分であっても,研修時間数をクリアすれば一律に修了となることに大いに疑問を持った。研修で獲得できる能力や合格基準が不明確であるために,明らかに能力不足の研修生でも,不合格にできないという研修設計上の問題である。このような現状を何とかしなければと試行錯誤したが,どれも焼け石に水であった。
そんな折に教育設計を専門的に学ぶことができる熊本大学大学院(教授システム学)の存在を知り,すぐさま受験を決めた。インストラクショナルデザイン(Instructional Design:以下,ID)を中心とした大学院での学びはどれも私の困りごとを解決する道しるべとなるものばかりであった。現在も医療者教育分野の独自性をふまえたID理論活用のために,さらなる研究に取り組んでいる。臨床看護師教育の現場で具体的に活用できる本書が出版されたことは,非常に嬉しいことである。
◆効率的に学べる本書の魅力
IDとは,教育活動の効果・効率・魅力を高めるための手法を集大成したモデルや研究分野,またはそれらを応用して学習支援環境を実現するプロセスのことを指す1)。
本書は6つのPartから構成され,IDの理論を基盤として,看護師に対する研修の構造を見直し,学びを促進させるため研修改善のポイントを解説している。
本書の魅力を2点あげたい。1つは,実際に研修企画に奔走してきた筆者だからこそ,現場での困りごとの生々しさを再現し,読者の現実的な学びを促進させている点である。もう1つは,豊富なツールの提供により,単にIDの知識を得るだけでなく,読者がIDの理論を活用して研修改善に向かうための具体的なスキル獲得を促している点である。読者は,実際にID理論の1つADDIEモデルのプロセスを,自らの研修を材料に体験できる。またワークシートやリフレクションのための筆者の問いかけを前に,読者は自らの経験を振り返り,さらなる改善に向け自問自答することで自然な学びが得られていく。これは本書自体が,ID理論を踏まえ読者の学びを促進させるようデザインされた成果であろう。
人の学びを効果的・効率的・魅力的にするたくさんのID理論を学び取り入れるには,大きな労力を要する。本書は,多くのID理論の中から,看護師教育にすぐに役立ちそうなものを厳選しているため,読者は効率的に学べるメリットがある。本書により,教育担当者だけではなく,管理者やリソースナースなど教育的役割を持つ看護師,実践者としての看護師など,さまざまな立場から専門職としての「学び」について改めて考える機会となることを心より期待している。
引用・参考文献
1)鈴木克明:総説 e-Learning実践のためのインストラクショナル・デザイン.日本教育工学会誌,28(3),2005.
(『看護管理』2017年10月号掲載)
書評者: 川原 千香子 (愛知医科大学医学部シミュレーションセンター講師 急性・重症患者看護専門看護師)
書店に並んでいたら,きっと手に取りたくなるインパクトのあるオレンジ色の本です。この色にも著者の教育への熱意と研修企画者,受講者への温かさが表れていると思います。
◆何をポイントに企画を準備し,評価すると効果的な研修が行えるか
さて,インストラクショナル・デザイン(以下,ID)とは,「教授設計」のことですが,ここ10年くらいの間に注目されるようになったのではないでしょうか。その主たる要因は,医療安全に着目した能動的な教育(シミュレーションをはじめとするアクティブラーニング)の広がりや,実践者育成のための研修をどうやって組み立てるとよいか,効果をどのように測ればよいか,といった臨床の教育担当者のさまざまな悩みによるものだと思います。評者自身,臨床で専任教育担当者として悩み,何か解決策はないかと思っていたときにIDに出会い,学んだことが思い出されます。
本書は,そのような研修を企画する医療従事者の悩みに対して,とても分かりやすく解説されています。ただ,著者も述べていますが,この書籍は,決してIDの解説書ではありません。何をポイントに企画を準備し,どのような評価をすると効果的な研修が行えるかが学べる,特に臨床の指導者や研修企画者にとっての道しるべとなる書籍です。
一方的に企画者が考えた学習目標で研修を実施するのではなく,どのような対象者に何ができるようになってほしいのかをしっかり考えて企画し,その効果をどのように測定するかまでを考えることができるようになります。そして,企画者も企画を振り返り,改善のポイントを整理することができるようになると思います。
臨床指導,研修の企画の際に本書を手に取っていただけると,研修を受ける人のみならず,企画者にも実りの多い指導,研修が実践されると思います。
◆IDを正しく理解し,活用するために
近年,医療者教育関連の報告や研究に,「IDを用いた○○」というタイトルが増えています。これは,IDを用いて研修を企画した結果,以前に比べて,教育効果を測定できるようになった,より効果的な研修を企画できたなどの,よい結果を紹介するものだと思います。
では,IDがこのように取り上げられる前は,何を道しるべにしていたのでしょうか。看護教員養成課程など,従来から教育に関しては,企画に必要な「指導案」「授業案」などがありました。「学習者観」「教材観」などのアセスメントも含まれています。しかし,従来の指導案の考え方は,基礎教育を対象にしたものが中心で,成人教育に基づくさまざまな臨床での教育ニーズに対応するためには,工夫が必要でした。また,私たち医療者は,プリセプターシップが導入される以前から,先輩が後輩を指導する「教育」の能力を求められていたにもかかわらず,教員を志す人以外は,特に系統立てた「教育」を学ぶ機会が少なかったと思います。
今回取り上げられているIDは,従来の授業案の内容を,より具体的に整理し,学習者のニーズ分析から,教育内容,方法,評価,再構築までの工程を,ロジスティックに示したものであり,分かりやすく,活用しやすいものだといえます。本書は,臨床の医療者にとって,教育研修を企画する上で,IDの考え方に則ることによって,より効果的な研修が行えることを示しています。IDとは,「教授設計」の方法論であり,単独の魔法の道具ではないとご理解の上,読んでいただくことをお勧めしたいと思います。
(『看護管理』2017年6月号掲載)
インストラクショナルデザインを体験しながら研修改善が目指せる本(雑誌『看護管理』より)
書評者: 菊内 由貴 (がん看護専門看護師/インストラクショナルデザイナー/四国がんセンター 臨床研究センター研究員/熊本大学 教授システム学研究センター連携研究員)
◆臨床看護師教育の現場で活用できる
医療の進歩に伴い臨床看護師に研修すべき内容は膨大な量に及ぶ一方,教育について専門的に学ぶことができる機会はほとんどない。教育担当者は,たとえ教育の専門的な知識がなくても,とにかく研修を企画運営しなければならず,研修方法や研修効果に疑問を抱きながら悪戦苦闘している現状がある。
私自身,がん看護専門看護師として,教育を通じた臨床現場の質向上に貢献したいと考え,自施設内外の教育企画に携わってきた。この中で,学習到達度が不十分であっても,研修時間数をクリアすれば一律に修了となることに大いに疑問を持った。研修で獲得できる能力や合格基準が不明確であるために,明らかに能力不足の研修生でも,不合格にできないという研修設計上の問題である。このような現状を何とかしなければと試行錯誤したが,どれも焼け石に水であった。
そんな折に教育設計を専門的に学ぶことができる熊本大学大学院(教授システム学)の存在を知り,すぐさま受験を決めた。インストラクショナルデザイン(Instructional Design:以下,ID)を中心とした大学院での学びはどれも私の困りごとを解決する道しるべとなるものばかりであった。現在も医療者教育分野の独自性をふまえたID理論活用のために,さらなる研究に取り組んでいる。臨床看護師教育の現場で具体的に活用できる本書が出版されたことは,非常に嬉しいことである。
◆効率的に学べる本書の魅力
IDとは,教育活動の効果・効率・魅力を高めるための手法を集大成したモデルや研究分野,またはそれらを応用して学習支援環境を実現するプロセスのことを指す1)。
本書は6つのPartから構成され,IDの理論を基盤として,看護師に対する研修の構造を見直し,学びを促進させるため研修改善のポイントを解説している。
本書の魅力を2点あげたい。1つは,実際に研修企画に奔走してきた筆者だからこそ,現場での困りごとの生々しさを再現し,読者の現実的な学びを促進させている点である。もう1つは,豊富なツールの提供により,単にIDの知識を得るだけでなく,読者がIDの理論を活用して研修改善に向かうための具体的なスキル獲得を促している点である。読者は,実際にID理論の1つADDIEモデルのプロセスを,自らの研修を材料に体験できる。またワークシートやリフレクションのための筆者の問いかけを前に,読者は自らの経験を振り返り,さらなる改善に向け自問自答することで自然な学びが得られていく。これは本書自体が,ID理論を踏まえ読者の学びを促進させるようデザインされた成果であろう。
人の学びを効果的・効率的・魅力的にするたくさんのID理論を学び取り入れるには,大きな労力を要する。本書は,多くのID理論の中から,看護師教育にすぐに役立ちそうなものを厳選しているため,読者は効率的に学べるメリットがある。本書により,教育担当者だけではなく,管理者やリソースナースなど教育的役割を持つ看護師,実践者としての看護師など,さまざまな立場から専門職としての「学び」について改めて考える機会となることを心より期待している。
引用・参考文献
1)鈴木克明:総説 e-Learning実践のためのインストラクショナル・デザイン.日本教育工学会誌,28(3),2005.
(『看護管理』2017年10月号掲載)
更新情報
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更新情報はありません。
お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。