モリソン先生の精神科診断講座
Diagnosis Made Easier
精神科診断の考え方をこれほどわかりやすく解説した本があっただろうか?
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精神疾患の診断をテーマに、その基本的な考え方から個別の精神症状の診方といった実践的なテクニックまでを幅広くまとめた入門者向けテキスト。症例や箇条書きなどを織り交ぜながら、原著者ならではの読者に語りかけるような読みやすい文章で解説を展開する。精神症状から疾患を絞り込むためのフローチャート「ディシジョンツリー」も随所に収載し、臨床場面で役立てられる内容となっている。
原著 | James Morrison |
---|---|
監訳 | 高橋 祥友 |
訳 | 高橋 晶 / 袖山 紀子 |
発行 | 2016年04月判型:B5頁:288 |
ISBN | 978-4-260-02490-7 |
定価 | 4,950円 (本体4,500円+税) |
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- 序文
- 目次
- 書評
序文
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はじめに
私が診断の過程についての本をまとめようと計画した時に,教室での講義を補足するための教科書と,独自に診断法を学ぼうとするための教科書を思い描いた.それは,健康分野の専門家がどのようにして診断について学んでいるのかという点に関して,私がまったく非科学的な調査をする前の出来事であった.そして,調査結果に私は驚いた.
私が調査した臨床家のほとんどが,診断学という精緻な技についてまったく何の訓練も受けていないということが明らかになったのだ.私が面接した人が所属していた専門の大学のほとんどでは診断に関する正式な講義はなかったし,そして,今でもない.医学部においてさえ,医学生や研修医は現在の診断基準について学ばなければならないのだが,どのようにして診断を下すかという方法についてはほとんど教えられていない.被験者の1人は「私は現場で独力で診断の仕方を身につけてきた」と話し,私の意見に個人的に同意してくれた.同様に,臨床家が満足な臨床評価ができるように多くの本や章が書かれてきたのだが,診断の過程に関する情報についてはほとんど無視されてきた.
診断の過程というのは,単純でもなければ,直観的なものでもないし,簡単なものであるとも私は決して言わない.しかし,数十年にわたる経験と数か月にわたる考察から,私はその過程を単刀直入かつ理解しやすく説明できると確信した.要するに,本書の題『Diagnosis Made Easier』が示すように,診断をより簡単にすることができるのである.
本書では,診断の問題点についてどのように考えるべきかを解説する.本書で取り上げる内容は,最新の診断基準やそのコード番号などに依ってはいない.しかし,数十年にわたって認識されてきた精神障害の本質的特徴に焦点を当てていく.患者を評価する科学的方法(そして,一種の技)と,事実に即した論理的な診断を下すことを学ぶ必要がある.
第I部では,診断の過程に焦点を当てる.適切な診断を学ぶには,いくつかの情報源から収集したさまざまなデータに対して論理的で,わかりやすい原則を系統的に適用することである.現実の世界では,多くの診断の問題が一度に生じるのだが,理解しやすいように,私は章ごとに課題を分けることにした.第I部の終わりまでには,経験豊富な臨床家が彼らの経験と新たな情報を統合して作業診断を下していることを,読者は学ぶだろう.
第II部の3つの章では,個々の患者の精神科診断を理解するのに必要な社会的,そして他の背景について解説する.もちろん,これは最初に収集すべき情報であり,それによって診断を下すことができる.しかし,新たなことを学ぶ際には,どこからか始めなければならないので,読者の多く(おそらく,ほとんど)はすでに面接法や情報収集についてよく理解していると,私は考えた.そこで,診断法を最初に取り上げることにしたのである.
最後に,第III部の各章では,第I部の方法や第II部の情報がさまざまな精神障害にどのように当てはまるのか,多くの臨床的情報を篩にかけていく.他の成書が扱っているように〔たとえば,拙著『DSM-5 Made Easy 』(Guilford Press, 2014)〕,本書ではすべての障害,主要な精神障害のすべてを考慮するわけではない.むしろ,精神保健の臨床家が日々出会う問題や疾患に焦点を当てることにする.
診断法を解説するために,100以上の症例を本書に含めた.各症例に関する私の分析を読む前に,読者自身がディシジョンツリーに沿って考えて,自分自身が考える診断の原則を書き上げてみてほしい.紙に印刷されたものを受動的に読むよりは,問題解決について積極的に考えるほうがより効果的であることが証明されている.病歴について考え,そのヒントからなぜ診断に達したのか考えてみるように練習することで,多くの利益が得られると思われる.
読者は,ディシジョンツリーの行きついた先になぜ「~について考察せよ」と書かれているのだろうと思うかもしれない*.なぜただ診断名だけを書いて,先へ進んでいかないのか? こういった図表についてあれこれ考えてみたら,暫定的な言葉を使うのが安全だろうと私は考えた.あまりにも細かい点について記述するのではなく,必要な情報をすべて手に入れる前に,大慌てで診断を下そうとするといった,臨床家なら誰でも陥りやすい罠を避けるようにしてほしい.
本書の図1-1(p.4,これは表見返しにも掲げてある)は診断的過程を図解したロードマップである.付録(p.253,これも表見返しに掲げてある)は,精神保健の診断を下す際に用いる,私が重要と考える診断の原則をまとめたものである.紙幅の制限があるために,現在認識されている主要な診断に関連する多くの情報を,第3章と第6章の表に含めた.表3-2(p.16)では,各主要診断に関する鑑別診断を挙げている.表6-1(p.56)は,一般的に合併する疾患を一覧にしたものである.
本書を読んだ後で,読者が精神科診断に関して質問がある場合には,私に電子メールを送ってほしい.私が受け取ったメールにはすべて返信をするようにしている.
術語
私は本書ではDSM-5の用語を主として用いるが,数か所でいくつかの理由からDSM-5の術語の使用を控えていることに読者は気づくだろう.(1)新たな術語の中には正直なところ使いづらいものがある.たとえば,私は正式な持続性抑うつ障害(persistent depressive disorder)ではなく,気分変調症(dysthymia)や気分変調性障害(dysthymic disorder)を使い続けている(実際のところ,DSM-5ではこの短い術語を同義語として用いることを正式に許可している).(2)私は,双極性障害(bipolar disorder)と抑うつ障害(depressive disorder)の章でこれらの障害を包含する一般的な術語として気分障害(mood disorder)を用い続けている.これは単に紙幅を省略するためである.双極性うつ病(bipolar depression)は,読者が理解するのに何の問題もない簡略な術語として使うことができるだろう.(3)私は,新たな何ともぎこちない響きのmajor neurocognitive disorderではなく,昔からある,短い認知症(dementia)という術語を使うこともある.しかし,DSM-IVの物質依存(substance dependence)や物質乱用(substance abuse)は削除しようとしてきた.読者がこれらの術語に気づいたら,私はそれをより一般的な意味で用いている.
他の術語も説明が必要だろう.DSM-5では,身体症状症(somatic symptom disorder)となったが,私は個人的に身体化障害(somatization disorder)の基準を使い続けている.該当の箇所(p.92)で,この新旧の診断基準についての私の考えについて説明している.私は単に読者に2種の術語について慎重に関心を払ってほしいのだが,私にはそのうちの1つしか妥当な意味を持たないということである.しかし,混乱を避けるために,私は主にDSM-5の新たな術語を使うようにしてきたのだが,巧妙な表現である身体化障害という術語を使うことがある.
私が診断の過程についての本をまとめようと計画した時に,教室での講義を補足するための教科書と,独自に診断法を学ぼうとするための教科書を思い描いた.それは,健康分野の専門家がどのようにして診断について学んでいるのかという点に関して,私がまったく非科学的な調査をする前の出来事であった.そして,調査結果に私は驚いた.
私が調査した臨床家のほとんどが,診断学という精緻な技についてまったく何の訓練も受けていないということが明らかになったのだ.私が面接した人が所属していた専門の大学のほとんどでは診断に関する正式な講義はなかったし,そして,今でもない.医学部においてさえ,医学生や研修医は現在の診断基準について学ばなければならないのだが,どのようにして診断を下すかという方法についてはほとんど教えられていない.被験者の1人は「私は現場で独力で診断の仕方を身につけてきた」と話し,私の意見に個人的に同意してくれた.同様に,臨床家が満足な臨床評価ができるように多くの本や章が書かれてきたのだが,診断の過程に関する情報についてはほとんど無視されてきた.
診断の過程というのは,単純でもなければ,直観的なものでもないし,簡単なものであるとも私は決して言わない.しかし,数十年にわたる経験と数か月にわたる考察から,私はその過程を単刀直入かつ理解しやすく説明できると確信した.要するに,本書の題『Diagnosis Made Easier』が示すように,診断をより簡単にすることができるのである.
本書では,診断の問題点についてどのように考えるべきかを解説する.本書で取り上げる内容は,最新の診断基準やそのコード番号などに依ってはいない.しかし,数十年にわたって認識されてきた精神障害の本質的特徴に焦点を当てていく.患者を評価する科学的方法(そして,一種の技)と,事実に即した論理的な診断を下すことを学ぶ必要がある.
第I部では,診断の過程に焦点を当てる.適切な診断を学ぶには,いくつかの情報源から収集したさまざまなデータに対して論理的で,わかりやすい原則を系統的に適用することである.現実の世界では,多くの診断の問題が一度に生じるのだが,理解しやすいように,私は章ごとに課題を分けることにした.第I部の終わりまでには,経験豊富な臨床家が彼らの経験と新たな情報を統合して作業診断を下していることを,読者は学ぶだろう.
第II部の3つの章では,個々の患者の精神科診断を理解するのに必要な社会的,そして他の背景について解説する.もちろん,これは最初に収集すべき情報であり,それによって診断を下すことができる.しかし,新たなことを学ぶ際には,どこからか始めなければならないので,読者の多く(おそらく,ほとんど)はすでに面接法や情報収集についてよく理解していると,私は考えた.そこで,診断法を最初に取り上げることにしたのである.
最後に,第III部の各章では,第I部の方法や第II部の情報がさまざまな精神障害にどのように当てはまるのか,多くの臨床的情報を篩にかけていく.他の成書が扱っているように〔たとえば,拙著『DSM-5 Made Easy 』(Guilford Press, 2014)〕,本書ではすべての障害,主要な精神障害のすべてを考慮するわけではない.むしろ,精神保健の臨床家が日々出会う問題や疾患に焦点を当てることにする.
診断法を解説するために,100以上の症例を本書に含めた.各症例に関する私の分析を読む前に,読者自身がディシジョンツリーに沿って考えて,自分自身が考える診断の原則を書き上げてみてほしい.紙に印刷されたものを受動的に読むよりは,問題解決について積極的に考えるほうがより効果的であることが証明されている.病歴について考え,そのヒントからなぜ診断に達したのか考えてみるように練習することで,多くの利益が得られると思われる.
読者は,ディシジョンツリーの行きついた先になぜ「~について考察せよ」と書かれているのだろうと思うかもしれない*.なぜただ診断名だけを書いて,先へ進んでいかないのか? こういった図表についてあれこれ考えてみたら,暫定的な言葉を使うのが安全だろうと私は考えた.あまりにも細かい点について記述するのではなく,必要な情報をすべて手に入れる前に,大慌てで診断を下そうとするといった,臨床家なら誰でも陥りやすい罠を避けるようにしてほしい.
本書の図1-1(p.4,これは表見返しにも掲げてある)は診断的過程を図解したロードマップである.付録(p.253,これも表見返しに掲げてある)は,精神保健の診断を下す際に用いる,私が重要と考える診断の原則をまとめたものである.紙幅の制限があるために,現在認識されている主要な診断に関連する多くの情報を,第3章と第6章の表に含めた.表3-2(p.16)では,各主要診断に関する鑑別診断を挙げている.表6-1(p.56)は,一般的に合併する疾患を一覧にしたものである.
本書を読んだ後で,読者が精神科診断に関して質問がある場合には,私に電子メールを送ってほしい.私が受け取ったメールにはすべて返信をするようにしている.
*訳者注:原書ではConsider+(疾患名)という形になっているが,本書では割愛した.
術語
私は本書ではDSM-5の用語を主として用いるが,数か所でいくつかの理由からDSM-5の術語の使用を控えていることに読者は気づくだろう.(1)新たな術語の中には正直なところ使いづらいものがある.たとえば,私は正式な持続性抑うつ障害(persistent depressive disorder)ではなく,気分変調症(dysthymia)や気分変調性障害(dysthymic disorder)を使い続けている(実際のところ,DSM-5ではこの短い術語を同義語として用いることを正式に許可している).(2)私は,双極性障害(bipolar disorder)と抑うつ障害(depressive disorder)の章でこれらの障害を包含する一般的な術語として気分障害(mood disorder)を用い続けている.これは単に紙幅を省略するためである.双極性うつ病(bipolar depression)は,読者が理解するのに何の問題もない簡略な術語として使うことができるだろう.(3)私は,新たな何ともぎこちない響きのmajor neurocognitive disorderではなく,昔からある,短い認知症(dementia)という術語を使うこともある.しかし,DSM-IVの物質依存(substance dependence)や物質乱用(substance abuse)は削除しようとしてきた.読者がこれらの術語に気づいたら,私はそれをより一般的な意味で用いている.
他の術語も説明が必要だろう.DSM-5では,身体症状症(somatic symptom disorder)となったが,私は個人的に身体化障害(somatization disorder)の基準を使い続けている.該当の箇所(p.92)で,この新旧の診断基準についての私の考えについて説明している.私は単に読者に2種の術語について慎重に関心を払ってほしいのだが,私にはそのうちの1つしか妥当な意味を持たないということである.しかし,混乱を避けるために,私は主にDSM-5の新たな術語を使うようにしてきたのだが,巧妙な表現である身体化障害という術語を使うことがある.
[図表,メールアドレスは本サイトでは省略]
目次
開く
はじめに
第I部 診断の基礎
第1章 診断への道
診断へのロードマップ
第2章 ロードマップに取りかかる
症状と兆候/なぜ症候群が必要なのだろうか?
第3章 診断の方法
鑑別診断/安全の階層/カーソンについてもう少し詳しく/ディシジョンツリー
第4章 情報の統合
異なる情報源からのデータが一致しない時の対処法/
データを評価して鑑別診断をする/矛盾する情報への対処
第5章 不確実性への対処
なぜ確実ではないのだろうか?/不確実な診断を解決する/
診断未確定という術語の意義/なぜ診断を下せないのだろうか?
第6章 複数の診断
重複罹患とは何か?/なぜ重複罹患について探らなければならないのか?/
重複罹患の同定/複数の診断のうちで優先順位をつける/複数診断間の関連
第7章 確認
ヴェロニカに関する考察/見逃されやすい問題/過度に用いられる診断/
定式化の検討/その後の対応/診断変更の問題
第II部 診断の構成要素
第8章 患者の全体像の理解
小児期/成人期の人生と生活状況/家族歴
第9章 身体疾患と精神科診断
身体障害と精神障害の関連/精神症状の原因となる身体疾患の手がかり/
身体化障害:特殊な症例/身体症状を活用して診断を下す/物質使用と精神障害
第10章 診断と精神機能評価
外見/気分・感情/会話の流れ/思考の内容/認知と知的能力/病識と判断力
第III部 診断技法の適用
第11章 うつ病と躁病の診断
うつ病の症候群/躁病とその亜型/重複罹患/境界領域
第12章 不安,恐怖,強迫,悩みの診断
パニック症と恐怖症/GAD,PTSD,OCDと重複罹患/急性ストレス障害
第13章 精神病の診断
統合失調症の亜型/器質性精神病/物質関連精神病/
他の精神病性障害と重複罹患/短期精神病性障害/共有精神病性障害/
統合失調症と精神病の他の原因との鑑別診断
第14章 記憶と思考の問題の診断
せん妄と認知症/他の認知障害と重複罹患/障害ではない認知の問題/
健忘と解離
第15章 物質の誤用と他の嗜癖の診断
物質使用障害/物質誤用に関連する障害/その他の嗜癖
第16章 パーソナリティと対人関係の問題の診断
パーソナリティ障害の診断の定義/対人関係の診断/障害と正常の識別
第17章 診断を超えて-コンプライアンス,自殺,暴力
コンプライアンス/自殺/暴力
第18章 患者,そして患者
付録 診断の原則
文献と推薦図書
監訳者あとがき
索引
サイドバー一覧
第I部 診断の基礎
第1章 診断への道
診断へのロードマップ
第2章 ロードマップに取りかかる
症状と兆候/なぜ症候群が必要なのだろうか?
第3章 診断の方法
鑑別診断/安全の階層/カーソンについてもう少し詳しく/ディシジョンツリー
第4章 情報の統合
異なる情報源からのデータが一致しない時の対処法/
データを評価して鑑別診断をする/矛盾する情報への対処
第5章 不確実性への対処
なぜ確実ではないのだろうか?/不確実な診断を解決する/
診断未確定という術語の意義/なぜ診断を下せないのだろうか?
第6章 複数の診断
重複罹患とは何か?/なぜ重複罹患について探らなければならないのか?/
重複罹患の同定/複数の診断のうちで優先順位をつける/複数診断間の関連
第7章 確認
ヴェロニカに関する考察/見逃されやすい問題/過度に用いられる診断/
定式化の検討/その後の対応/診断変更の問題
第II部 診断の構成要素
第8章 患者の全体像の理解
小児期/成人期の人生と生活状況/家族歴
第9章 身体疾患と精神科診断
身体障害と精神障害の関連/精神症状の原因となる身体疾患の手がかり/
身体化障害:特殊な症例/身体症状を活用して診断を下す/物質使用と精神障害
第10章 診断と精神機能評価
外見/気分・感情/会話の流れ/思考の内容/認知と知的能力/病識と判断力
第III部 診断技法の適用
第11章 うつ病と躁病の診断
うつ病の症候群/躁病とその亜型/重複罹患/境界領域
第12章 不安,恐怖,強迫,悩みの診断
パニック症と恐怖症/GAD,PTSD,OCDと重複罹患/急性ストレス障害
第13章 精神病の診断
統合失調症の亜型/器質性精神病/物質関連精神病/
他の精神病性障害と重複罹患/短期精神病性障害/共有精神病性障害/
統合失調症と精神病の他の原因との鑑別診断
第14章 記憶と思考の問題の診断
せん妄と認知症/他の認知障害と重複罹患/障害ではない認知の問題/
健忘と解離
第15章 物質の誤用と他の嗜癖の診断
物質使用障害/物質誤用に関連する障害/その他の嗜癖
第16章 パーソナリティと対人関係の問題の診断
パーソナリティ障害の診断の定義/対人関係の診断/障害と正常の識別
第17章 診断を超えて-コンプライアンス,自殺,暴力
コンプライアンス/自殺/暴力
第18章 患者,そして患者
付録 診断の原則
文献と推薦図書
監訳者あとがき
索引
サイドバー一覧
症状と兆候
妥当性と信頼性
レッドフラッグ情報を認識する
何が正常か?
重複罹患の率
偽陽性
精神症状にしばしば合併する身体症状
MSEを重視しすぎていないか?
躁病や軽躁病の身体的原因を認識する
二次性のうつ病を認識する
自殺ははたして合理的な行動とみなすことができるだろうか?
予後と統合失調症様精神病
統合失調症と他の精神病の鑑別
評価尺度は必要だろうか?
どのくらいの数の方法で正常といえるのだろうか?
独立した精神障害か物質関連の障害か?
なぜ治療の効果が上がらないのか?
妥当性と信頼性
レッドフラッグ情報を認識する
何が正常か?
重複罹患の率
偽陽性
精神症状にしばしば合併する身体症状
MSEを重視しすぎていないか?
躁病や軽躁病の身体的原因を認識する
二次性のうつ病を認識する
自殺ははたして合理的な行動とみなすことができるだろうか?
予後と統合失調症様精神病
統合失調症と他の精神病の鑑別
評価尺度は必要だろうか?
どのくらいの数の方法で正常といえるのだろうか?
独立した精神障害か物質関連の障害か?
なぜ治療の効果が上がらないのか?
書評
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掛け値なしに面白く,しかもためになる本
書評者: 石丸 昌彦 (放送大教授・精神医学)
掛け値なしに面白く,しかもためになる本というものはそう多くないが,本書はそのまれな一冊であること請け合いである。自分の志した精神医学は,こんなふうに豊かで魅力的であったのだと思い出させてくれる。
多言を弄することによってかえって薄っぺらく見せてしまうのは本意ではないが,あえて言語化するなら以下のようなことである。
本書は三部構成で,順に「診断の基礎」「診断の構成要素」「診断技法の適用」から成る。
第Ⅰ部「診断の基礎」は,臨床的思考の筋道を丹念に示す。症状・兆候・症候論といった基礎概念が明確な定義とともに順次導入され,ディシジョンツリーへと組み立てられていく。同時に「兆候は症状に勝る」「直観に頼るという誘惑に負けてはならない」といった金言・箴言が次々と示され,それらがページごとにふんだんに提示される症例にことよせて解説されることで,生き生き躍動しながら頭に入ってくる。方法論的基礎を叩き込む第Ⅰ部である。
第Ⅱ部「診断の構成要素」は原題が“building blocks”とある通り,生育歴・家族歴・身体疾患・精神機能評価といった情報のブロックから,いかに患者の全体像を再構成するかを論じる。そのような内容ゆえに症例はアメリカ社会の諸相を広く点描し,読み物としても相当に豊かなものになっている。イメージを立体化する第Ⅱ部である。
第Ⅲ部「診断技法の適用」は全体のほぼ6割を占め,Ⅰ・Ⅱ部で提示された思考法のおびただしい実践例が紙面を埋めている。豊穣の第Ⅲ部である。
意想外の指摘もあれば同感共鳴する主張もありで,大部ながら飽きることがない。例えばDSMで見かけ上斉一化された「うつ病」に実際は多くの原因があることを喝破し,その鑑別診断について説き進める11章などは圧巻で,臨床知とはこういうものかと感嘆する。強いて難を言うなら内容が豊かすぎることで,十分消化して批判的に検討することができるまでには,二読三読を要するであろう。
教科書作りを得意とするアメリカ人の本領発揮の一冊であるが,むろん翻訳者らの貢献が大きい。格調を保ちつつこなれた日本語に落とし込んだ力量は見事であり,英語のみならずアメリカ文化に通じた人々の労作であることがうかがわれる。
一点だけ,13章でdisorganizedをことさら「解体された」と受け身に訳しているが,では解体した犯人は誰(何)かと妙な方向に連想を動かす点でかえって拙くないだろうか。それよりも,以前から「解体」の語に疑問があった。disorganizedは「ちぐはぐ」「てんでんばらばら」というほどの意味であり,ビルや自動車の粉砕のごとき「解体」は明らかに不適切で,患者への配慮をも欠いている。どうせこの語に注目するなら,せっかくの機会に訳者らの手で別の語を編み出してほしかったと,ファンの心理でお伝えしておく。
監訳者があとがきで述べている通り,姉妹編 『精神科初回面接』(医学書院,2015年)と合わせてじっくり読み込むことを全ての精神科医に勧めたい。DSMの副作用を予防するためにも一押しの好著である。
書評者: 石丸 昌彦 (放送大教授・精神医学)
掛け値なしに面白く,しかもためになる本というものはそう多くないが,本書はそのまれな一冊であること請け合いである。自分の志した精神医学は,こんなふうに豊かで魅力的であったのだと思い出させてくれる。
多言を弄することによってかえって薄っぺらく見せてしまうのは本意ではないが,あえて言語化するなら以下のようなことである。
本書は三部構成で,順に「診断の基礎」「診断の構成要素」「診断技法の適用」から成る。
第Ⅰ部「診断の基礎」は,臨床的思考の筋道を丹念に示す。症状・兆候・症候論といった基礎概念が明確な定義とともに順次導入され,ディシジョンツリーへと組み立てられていく。同時に「兆候は症状に勝る」「直観に頼るという誘惑に負けてはならない」といった金言・箴言が次々と示され,それらがページごとにふんだんに提示される症例にことよせて解説されることで,生き生き躍動しながら頭に入ってくる。方法論的基礎を叩き込む第Ⅰ部である。
第Ⅱ部「診断の構成要素」は原題が“building blocks”とある通り,生育歴・家族歴・身体疾患・精神機能評価といった情報のブロックから,いかに患者の全体像を再構成するかを論じる。そのような内容ゆえに症例はアメリカ社会の諸相を広く点描し,読み物としても相当に豊かなものになっている。イメージを立体化する第Ⅱ部である。
第Ⅲ部「診断技法の適用」は全体のほぼ6割を占め,Ⅰ・Ⅱ部で提示された思考法のおびただしい実践例が紙面を埋めている。豊穣の第Ⅲ部である。
意想外の指摘もあれば同感共鳴する主張もありで,大部ながら飽きることがない。例えばDSMで見かけ上斉一化された「うつ病」に実際は多くの原因があることを喝破し,その鑑別診断について説き進める11章などは圧巻で,臨床知とはこういうものかと感嘆する。強いて難を言うなら内容が豊かすぎることで,十分消化して批判的に検討することができるまでには,二読三読を要するであろう。
教科書作りを得意とするアメリカ人の本領発揮の一冊であるが,むろん翻訳者らの貢献が大きい。格調を保ちつつこなれた日本語に落とし込んだ力量は見事であり,英語のみならずアメリカ文化に通じた人々の労作であることがうかがわれる。
一点だけ,13章でdisorganizedをことさら「解体された」と受け身に訳しているが,では解体した犯人は誰(何)かと妙な方向に連想を動かす点でかえって拙くないだろうか。それよりも,以前から「解体」の語に疑問があった。disorganizedは「ちぐはぐ」「てんでんばらばら」というほどの意味であり,ビルや自動車の粉砕のごとき「解体」は明らかに不適切で,患者への配慮をも欠いている。どうせこの語に注目するなら,せっかくの機会に訳者らの手で別の語を編み出してほしかったと,ファンの心理でお伝えしておく。
監訳者があとがきで述べている通り,姉妹編 『精神科初回面接』(医学書院,2015年)と合わせてじっくり読み込むことを全ての精神科医に勧めたい。DSMの副作用を予防するためにも一押しの好著である。
更新情報
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更新情報はありません。
お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。