トライ! 看護にTBL
チーム基盤型学習の基礎のキソ

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看護教育にTBL(Team-Based Learning:チーム基盤型学習)を取り入れる際の準備、授業設計の流れなど、TBLを用いた授業のノウハウがこの1冊に。教材作成の工夫やファシリーテーションのコツ、ガイダンスで使える資料まで、実践に役立つ情報が満載。さらに、海外研究や受講した学生の声も紹介し、TBL学習の効果もわかる。 ●TBLガイダンス 説明動画 配信中
TBL(Team-Based Learning)を用いた授業の構成、全体の流れを解説するガイダンス動画です。学生への説明を行う際にもご利用いただけます。
動画作成:五十嵐ゆかり(聖路加国際大学) イラストレーション:Igloo*dining* / いらすとや

編著 五十嵐 ゆかり
飯田 真理子 / 新福 洋子
発行 2016年01月判型:B5頁:160
ISBN 978-4-260-02426-6
定価 2,420円 (本体2,200円+税)

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本書の使い方

 アクティブ・ラーニングが推進されている中で,能動的な学習方法の解説書は数多く出版されています。しかし,Team-Based Learning(TBL)に関しては,学習方法を基礎から解説する和書は非常に少なく,看護教育への導入の手引書は本書が初めてです。
 実際,「TBLという名前は聞いたことはあるが学習方法の進め方や利点がよくわからない」という方が多いと思います。本書は,その疑問を解決しつつTBLを理解するための手がかりを提供し,さらに,TBLの導入を手助けする実践的な専門書であるといえます。

 本書は大きく5つの章で構成されています。
 第1章「TBLを知る」では,学習方法の基本的な流れを詳細に解説しつつTBLの全体像も示していきます。さらに,アクティブ・ラーニングの中で,なぜTBLが医療系の教育において適するのかも述べていきます。
 第2章「TBLを科目に取り入れる」では,実際にTBLを導入する際に,どんな準備が必要であるのか,各項目において詳細に説明していきます。とくに,「2.TBL導入の手がかり」では,TBLへの考え方を柔軟にできるように「おでん」を使用して,考え方を説明していきます。また,「10.TBLの噂と真実 -Myths & Facts-」では,TBL導入におけるよくある質問に答える形で,皆さんの疑問を解消していきます。
 第3章「TBLの実際」では,聖路加国際大学におけるTBLの状況を解説していきます。準備期間から科目運営までの流れを示し,さらに,使用している教材を紹介しながら,科目の中での学びの結びつきを示していきます。実際の授業の内容を用いながら解説しているので,イメージしやすいと思います。第2章の「3.TBLユニットを設計する」を参考にしながら読み進めていただくと,より理解が深まるでしょう。
 第4章「TBLにおける評価」は,みなさんが一番疑問に思われるTBLの効果にスポットを当てています。海外の実践例を紹介しつつ,使用されている評価尺度も解説していきます。TBLの学習効果をいろいろな側面から評価していることがおわかりいただけると思います。さらに,聖路加国際大学でTBLを終えた学生へのインタビュー調査の結果をご紹介しています。
 第5章「TBLに取り組むあなたへ」は,TBLで科目を学んでいる学生さん,そしてTBLで科目を運営している教員に向けたエールです。この章は,なぜTBLで科目を学ばなくてはいけないのか,と疑問に思っている学生の皆さんにぜひ読んでいただきたいと思います。TBLがいかに考えられた学習方法であるのか,そして,TBLで学ぶことによってどんな結果が期待できるかを知っていただく機会になればうれしいです。また,教員のみなさんには,準備や科目運営などが大変で辛い気持ちになったときに,ほっとできる章であってほしい,と願っています。
 各章を通して,特に頭に留めてもらいたい用語やTBLのコツを太字で示しています。加えて,TBLを科目に取り入れていく中で私たちが直面したことや,試行錯誤の末にみつけた運営のヒント,TBLに役立つツールなどを「Coffee Break」で紹介しています。

 チームワークを教えながら,科目を担当している私たちもチームワークを学びました。学ぶ者も教える者も,TBLは1人ではできません。だからこそ難しく,そして,チームワークによって,何かうまくできたときはこのうえない達成感があります。
 学生が楽しみながら学習に取り組む姿をみるのは心からうれしいものです。一生懸命に予習をし,チームで意見を出し合っている姿をみることは,彼らのこの先に必ず役立つことがわかっているだけに,非常にワクワクします。また,ときに,苦しみながら取り組む姿をみると,心の中ではがんばれとつぶやき,そして,やはりその後につながる未来を,ウキウキしながら想像せずにはいられません。
 学生とともに学ぶみなさん流のTBLを作り上げてください。看護教育の中でたくさんのTBLが生まれることを楽しみにしています。

 2015年12月
 五十嵐ゆかり

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本書の使い方

第1章 TBLを知る
 1.TBLとはどんな学習方法でしょうか?
 2.医療系教育のアクティブ・ラーニング
 3.TBLが医療系の教育に適する理由
 4.TBLにおける基本的な用語
 5.TBLの学習の流れを知ろう

第2章 TBLを科目に取り入れる
 1.TBLの必須4原則
 2.TBL導入の手がかり
 3.TBLユニットを設計する
 4.必要な物品/環境を用意する
 5.チームを編成する
 6.アピールの時間について
 7.ピア評価の考え方
 8.ファシリテーターの準備とファシリテーション
 9.TBLを開始するときの大切なポイント
 10.TBLの噂と真実 -Myths & Facts-

第3章 TBLの実際
 1.科目構成
 2.ステップの組み合わせ例
 3.TBLの実例紹介
 4.実習につながる演習

第4章 TBLにおける評価
 1.TBLの評価に役立つさまざまなツール
 2.TBLの効果を多面的に評価する尺度
 3.学生の声から考察するTBLの効果(聖路加国際大学における調査結果から)

第5章 TBLに取り組むあなたへ
 1.TBLに取り組む学生のあなたへ
 2.TBLに取り組む教員のあなたへ

巻末付録
 TBLガイド
 TBL事例集

おわりに
索引

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いますぐ試してみたくなる! 使える実践書
書評者: 瀬尾 宏美 (高知大教授・総合診療部)
 医療系大学や専門学校の教員の多くは,その道のエキスパートであっても教育学のエキスパートはほとんどいないでしょう。自分の受けた教育を思い出しながら先輩として教壇に立ったものの,何だかうまくいかなくて挫折感を味わった経験をお持ちの方も少なくないと思います。さらに最近では,卒業時のコンピテンシー,すなわち「○○ができるようになる」という能力目標を学生が獲得することを期待されるようになり,医療教育のハードルはますます高くなっています。このため能動的学習が推奨され,PBL(Problem-Based Learning)を導入されている教育機関も少なくありません。確かにPBLは素晴らしい学習法ですが,手間をかけた割にグループや学生それぞれがどのような能力を獲得したのかが見えにくいのも事実です。

 このような中で注目されているチーム基盤型学習(TBL:Team-Based Learning)ですが,2008年に日本で初めての教育ワークショップが開催され,2009年に米国TBLC(Team-Based Learning Collaborative)編集テキストの日本語版が出版されました。その後,日本オリジナルのテキストが待ち望まれていましたが,このたび,五十嵐ゆかり先生たち聖路加国際大学チームが素晴らしいテキストを出版されました。「学生がやる気を出したくなる授業がしてみたい」「朝から教室に熱気が溢れる授業がしてみたい」,そして「教員にとっても『やってよかった』と思える授業がしてみたい」。そんなあなたにぴったりの指南書が『トライ! 看護にTBL』なのです。そして本書は看護だけでなく,医学,歯学,薬学をはじめ,さまざまな医療系教員にとっても「すぐに使える実践書」といえます。

 本書のサブタイトルには「基礎のキソ」と銘打たれていますが,コンパクトながら,TBLの概念,講義からの移行方法,実践のこつまで,これからTBLを導入してみようと考えている教員にとって「痒い所に手が届く」内容となっています。さらにTBLに関する研究成果についても紙面が割かれており,導入前の不安にも答えてくれます。何より,少し読み進めていただければ,うずうずして早く試してみたくなるはずです。TBLの価値は実際にやってみて実感できるものです。まさに「トライ!」につながる一冊といえるでしょう。
TBLを「本気」で知りたい,使いたい人への一冊 (雑誌『看護教育』より)
書評者: 栗田 佳代子 (東京大学大学総合教育研究センター准教授)
 みなさんは「TBL」という学習方法をご存知でしょうか。Team Based Learningの略称で,日本語では本書の副題にもあるように「チーム基盤型学習」と訳されます。本書は,まだあまりなじみのないTBLという方法を基礎から解説し,看護教育に導入するために書かれた初めての和書です。

 昨今,教育現場では「いかに教えたのか?」から「いかに学んだのか?」への転換が求められ,その流れにおいてアクティブ・ラーニング(以下,AL)が大きく注目を集めています。ALは「一方向的な知識伝達型講義を聴くという(受動的)学習を乗り越える意味での,あらゆる能動的な学習のこと。能動的な学習には,書く・話す・発表する等の活動への関与と,そこで生じる認知プロセスの外化を伴う」 1) と定義されます。TBLは,このALの一方法として位置づけられます。

 現在,ALは政策誘導的な面もあいまって,誤解や過信を伴った拙速な導入が生じやすい状況にあります。しかしながら,というか,だからこそ,ALの方法を取り入れる際,「手段が目的化しないこと」,そして「学習目標の達成に適った方法であるかの吟味」が非常に重要です。学生のよりよい学びのために,正しい手法を知り,正しく判断して最適なALの方法を適用する,そうした行動が私たちには必要です。その点において本書には,TBLを正しく適用できるに足りる情報と姿勢が示されています。

 TBLは授業内外の個人学習あるいはグループ活動により,知識獲得とその応用を教員主導で系統的に進める学習方法であり,看護教育のように理論と実践の往還が必要な学問領域の学びに適しています。本書では,TBL自体の全体像を把握した後に,予習資料,予習状況の確認テスト,応用演習問題などの作成方法と,その一連の授業進行のデザインの仕方,グループ編成,グループ活動のファシリテーションなど,TBLの実施の際の必須要素について学びます。また,たとえば「TBL導入時の必須4原則」,実際の授業「周産期看護学」の実例などを交え掲載されており,ステップバイステップで学んでいくことができます。

 また,本書には,授業初回時に学生への配付を想定した「TBLガイド」が巻末資料として添付されています。学生にTBLの目的や価値の理解を促すしかけは,手法がまだ目新しく学生側も慣れていない段階において重要です。このようにTBLを「本気で」授業に取り入れ,よりよい学びにつなげようとする姿勢自体もまた,本書から学べることだと思います。ぜひみなさんもトライしてみてください。
引用文献
1)溝上慎一 : アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換, 7, 東信堂, 2014.
(『看護教育』2016年6月号掲載)
本当のアクティブラーニングを実現するためのTBL (雑誌『助産雑誌』より)
書評者: 吉田 塁 (東京大学)
 今,日本の教育は変わりつつあります。授業というと,教員が一方向的に話し,学生は眠そうにその話を聞く,というイメージがあるのではないでしょうか? それが,今は,学生同士や学生と教員が対話して理解を深める双方向な授業に変わりつつあります。そのような,学生が受動的ではなく能動的に行なう学習はアクティブラーニングと呼ばれており,適切に導入されれば高い効果を示すため,注目されています。ただ,アクティブラーニングという言葉が先行してしまい,無目的に話し合うだけ,発表するだけ,といった見た目がアクティブなだけの授業が少なからずあるのが現状です。

 そのようななか,本書は,本当の意味でのアクティブラーニングを実現するための方法であるTBL(Team-Based Learning)に関する情報を提供しています。TBLとは文字通り,チームを中心とした学習方法であり,授業前にはテーマに沿った知識を自習し,授業内では,まず事前学習の内容に関するテストをして知識の確認をした後,実際の看護現場における応用問題に5~7名のチームで取り組む方法です。例えば,妊娠に影響を及ぼす疾患のある女性へのケアに関する基礎知識を授業前に学び,授業内では,まずその知識に関するテストをした後,具体的なケースにおいてどのようなケアをするべきかをチームで知識を活用して考えます。このように,具体的な事例をベースにしていることで,ただ知識を漠然と覚えるのではなく,実際の看護と知識を結び付けることができます。また,チームで問題に取り組むことで,医療現場では重要な協働する力が身につきます。

 本書は,現場に活きる知識および力が身につくTBLの効果的な授業への導入方法を丁寧に伝えてくれます。事前課題,テスト,応用問題のつくり方,授業設計の方法,学生の対話を促進する方法など,実際の問題や分単位の授業スケジュールといった具体例を交えつつ,ポイントを押さえて提示してくれます。さらに,聖路加国際大学に組織的にTBLを導入した数年にわたるタイムスケジュールや研修会の配置など,参考になる情報が盛り込まれており,TBLを取り入れた授業づくりをしたい人にとって,かゆいところまで手が届く良書です。

 数多くの示唆に富んだ本書が,知識と現場をつなぎ,協働する力を育む素晴らしい授業づくりに,ひいてはよりよい看護につながることを期待しています。

(『助産雑誌』2016年6月号掲載)

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