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看護師のための不穏・暴力対処マニュアル [Web動画付]

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医療現場で起こる不穏・暴力に備える1冊。精神科だけでなく一般診療科でも起こる可能性のある不穏や暴力について、事例とともに、豊富な動画と写真で対処手技をわかりやすく解説。その他、暴力に対する院内体制の構築やリスクアセスメント、身体拘束、薬物療法など、包括的な知識を身につけられる。

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編集 本田 明
発行 2017年12月判型:B5頁:160
ISBN 978-4-260-03236-0
定価 2,860円 (本体2,600円+税)

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 今までの人生で,他人から殴られたり蹴られたりしたことはあるだろうか。殴る・蹴るは明らかに暴力で間違いない。殴る・蹴るという暴力は受けたことがないという人でも,大声で怒鳴られたり,脅されたり,セクシュアルハラスメントを受けたりしたことはあるかもしれない。実はこれらも人としての尊厳を踏みにじる行為で暴力である。自分たちが働く医療機関でこのようなことが起こった場合,職場ではどのように対応しているのであろうか。現実は医療機関によってまちまちといえる。組織的な対策をしていない医療機関では,暴力の対応を当事者に丸投げすることにより従業員を守る義務を果たしていない場合がある。実際に患者からの暴力に関連して従業員から訴訟を起こされたケースもあり,労務管理や医療安全の面からも医療機関として暴力対策を行うことは必須事項なのである。
 一方,組織的にしろ,そうでないにしろ暴力に厳しく対応する医療機関の場合はどうであろう。入院中の患者が暴力を振るった場合,いわゆる「強制退院」させるところは多い。治療契約を患者と結ぶことができない以上,このような措置はやむを得ない場合がほとんどであるが,気を付けなければならないのはそれらのなかに本来保護すべき“精神症状”による暴力が含まれていることである。特に超高齢社会において増加する認知症やせん妄による興奮は,精神科以外の診療科でも避けることができない精神症状である。医療として扱うべきケースが多い精神症状をすべて強制退院させることは,逆に医療機関が治療契約の不履行を許容していることになる。よって,暴力を必ずしも患者と対立する視点でとらえず,法的な対応を行うべきか,医療として保護すべきなのかケースバイケースで判断をしなければならない。
 本書は,総論に暴力の定義,東京武蔵野病院における暴力対策組織の構築経緯,暴力リスクの解説など,他の医療機関でも参考になるような内容を盛り込んだ。各論では実際の臨床で役に立つ,暴力や不穏に対処する手技や身体拘束の手技を提示している。誤解のないように述べておくが,臨床の現場で患者の暴力や不穏があるときにいきなり各論にあるような手技(不穏・暴力対処手技)を使用することはほとんどない。不穏・暴力対処手技を使用する前提としてさまざまなアプローチ(総論で述べられている)があり,それらが無効な場合に初めて手技を使用することになる。
 われわれ医療スタッフは,看護師であれば“白衣の天使”,医師であれば“赤ひげ”など,社会から理想化されてきた面があり,実際そのように無意識に振舞うこともあるが,患者のすべての行為を無条件に受け入れなければならないというわけではない。暴力など患者の好ましくない行為に対しては,決して容認せず粛々と対応する必要がある。そして,患者の不穏や暴力に組織として向き合うことは,患者と医療スタッフ双方を守ることに他ならない。本書を手に取った読者が予防ばかりではなく,「暴力は現実に起こり得ること」として,それぞれの職場で理解と対策を広めていただけたら幸いである。

 2017年12月
 東京武蔵野病院 本田 明

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I 総論
 1 患者の暴力とは,暴力を起こす患者の心理
 2 不穏・暴力の原因となる“認知症”“せん妄”“その他の疾患”
 3 暴力に対する院内体制の構築
 4 暴力リスクのアセスメント法と患者・家族への事前説明
 5 不穏・暴力対処手技使用の前提となるプロセス
 6 精神科と精神科以外の診療科における暴力の類似点と相違点
 7 言葉の暴力・セクシュアルハラスメントへの対応
 8 患者への配慮
 9 不穏・暴力対処手技の限界

II 各論
 1 不穏・暴力対処手技を学ぶにあたって
 2 理論
[実践的対処法]
 3 チューブ類に噛みついたとき
 4 カテーテル類を自己抜去しようとしているとき
 5 物をつかんで離さないとき
 6 腕をつかんで離さないとき
 7 服をつかまれたとき
 8 両方の肩を前から押されたとき
 9 身体に噛みつかれたとき
 10 後ろから抱きつかれたとき
 11 髪の毛や耳をつかまれたとき
 12 叩かれる,殴られるとき
 13 立位の状態から蹴られるとき
 14 ベッドサイドから蹴られるとき
 15 首を絞められたとき
 16 刃物を持っているとき
[患者への働きかけ]
 17 身体拘束
 18 興奮している臥床者の四肢を徒手で押さえる方法
 19 興奮している患者を2人がかりで両脇から制するとき
 20 興奮している患者の採血・末梢静脈確保
 21 興奮している患者への膀胱留置カテーテル挿入
 22 不穏患者への薬物療法
 23 薬を飲まない患者への対応

索引

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怯えるのではなく,予防し軽減するための手引き書(雑誌『看護教育』より)
書評者: 佐居 由美 (聖路加国際大学看護学部)
 私が長年取り組んでいるテーマは,看護における「安楽」なケアである。不穏や暴力は患者の安楽と対極にあるが,どのような内容なのだろうかと思いつつ,本書のページをめくった。すると,「まえがき」には,「殴る・蹴るのみならず,怒鳴ったり,ハラスメントも,人としての尊厳を踏みにじる行為で暴力であり,医療従事者は守られるべきである。患者の暴力は精神症状によるものがあり,認知症やせん妄による興奮は,精神科以外の診療科でも避けられない精神症状である」といった記述があり,本書の対象が精神科ナースに限定していないことが読み取れた。
 本書では,総論として「暴力を起こす患者の心理」「不穏・暴力の対処手技使用の前提となるプロセス」などが述べられ,各論では,事例をあげて暴力と不穏時の対処方法を紹介している。「カテーテル類を自己抜去しようとしているとき」など,精神科に限らず一般病棟でも遭遇する場面への対応が具体的に紹介され,Webで動画を観ることもできる。
 だが,何より本書を通読して印象的だったのは,著者が繰り返し,「いきなり各論にあるような手技を使用することはほとんどない。さまざまなアプローチを行い,それらが無効な場合に初めて手技を使用する」と述べていることである。そして,「暴力は予防できる」と強調し,「暴力や攻撃性への対応の第一選択はディエスカレーション(言語的・非言語的なコミュニケーション技法にて攻撃性や怒りなどの軽減をはかる技術)であり,身体的介入は最終手段」「暴力が発生したとき,ほとんどはディエスカレーションや人手を呼ぶことによりおさまる」と,患者の暴力や不穏を,予防し軽減する対応の必要性をていねいに説明している。各論には,「身体拘束」についての記述もある。だが,「身体拘束」については,「身体拘束の弊害は重大であり,まずは不穏・暴力の原因を明らかにし,可能な限り原因の除去に努め,代替方法を試みることが原則。代替方法は,環境調整,心理的介入,苦痛を伴う治療法の見直し,薬物投与による科学的鎮静などの検討が優先されるべきである」「他に代替方法がない場合にのみ,最小限の実施とする」と,慎重に用いる必要があることが強調されている。
 暴力や不穏,その強い攻撃性に怯えるのではなく,予防し軽減する。本書にて,看護の原則ともいうべき,「患者をていねいにアセスメントし,いかに,苦痛で不快な状況を回避するか」をあらためて考えた。そして,それこそが患者への安楽へとつながることなのである。本書は精神科看護に携わる方のみならず,看護教員を含め広く看護職に手に取ってほしい一冊である。

(『看護教育』2018年5月号掲載)

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