アナトミー・トレイン [Web動画付] 第3版
徒手運動療法のための筋筋膜経線
さあ、筋筋膜経線をたどる旅へ、アナトミー・トレインに乗って出発進行!
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著 | トーマス・W・マイヤース (Thomas W. Myers) |
---|---|
訳 | 板場 英行 / 石井 慎一郎 |
発行 | 2016年05月判型:A4頁:352 |
ISBN | 978-4-260-02496-9 |
定価 | 7,150円 (本体6,500円+税) |
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- 目次
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序文
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訳者まえがき/第3版まえがき
訳者まえがき
本書はAnatomy Trains 第3版の全訳である.第2版同様,石井慎一郎氏と板場が翻訳を担当した.本書の初版訳は2009年1月,第2版訳が2012年5月に発行されており,第3版は4年ぶりの改訂となる.
Anatomy Trainsは,世界各国において統合的ボディワークを講演・実技指導しているトーマス・W・マイヤース氏による,体中に張り巡らされた筋膜の網を通して,ヒトの姿勢や動作の安定がどのように得られるかを解明する理論である.一般的な解剖学では,筋を単独のものとしてとらえ,個々の筋付着間における作用について論じられてきた(分離筋理論).しかし実際には,身体の筋は筋膜連続体としてすべてが複合的につながっている.対象者の姿勢異常や動作障害の治療と改善を行ううえで,筋を連続・複合的にとらえることがAnatomy Trains 理論の着眼点である.
分離筋理論を当然の理として教育指導を行っていた私にとって,マイヤース氏の講習会は衝撃的であった.膨大な新鮮献体解剖に基づく筋膜連結と12本のライン剖出は,認めざるをえない解剖学的革新といえる.この考えは,教育から臨床の場に転身した訳者にとって,様々な運動機能障害を有する対象者に,評価と治療を行う際にたいへん役立っている.肩の機能障害が握力低下に関係する,膝窩部の異常緊張が腰痛を悪化させるなどラインのどこかに歪みがあれば,その歪みの影響が身体の他部位に波及する.この障害の相互連携に対してライン分析を基本とした症状発現の理解と治療的介入は,今まで未解明であった臨床課題の解決につながる.
運動療法の専門家が対象とするのは,病気や診断学に基づく疾患ではなく,目の前の対象者が訴えている運動機能障害と生活活動障害である.運動機能障害の治療では,従来の運動療法に加えて,筋を連続・統合的に,筋膜のネットワークシステムとしてとらえ,ラインに沿った機能障害の発現と障害の相互連携を統合解釈評価し,ラインに関係する関連組織(筋膜)の整復に基づいた身体調整(body adjustment)を行い,生活活動の円滑遂行につなげる視点をもつことが重要である.
第3版では,第1章に組織学の新知見に基づく筋膜の生体力学的調節が盛り込まれ,第10章には筋膜ネットワークを基盤とした歩行分析が増補された.また,全体にわたって,筆者と多くの共同研究者による系統継続的研究,教育指導,および臨床実践から得られた最新情報が随所に修正加筆された.第2版で付録としたDVDはないが,治療手技,解剖,視覚的評価に関する動画やCG画像などの資料が本書Web付録(http://www.igaku-shoin.co.jp/prd/anatomyt3/)およびAnatomy Trainsのウェブサイト(https://www.anatomytrains.com/)で入手できる.
今版でも,マイヤース氏の豊富な学識に基づく比喩や文学的表現,医学用語集にない専門的用語の翻訳に難渋した.必要に応じて[訳注]を付記し,読者が理解しやすい言葉で解説するよう努めた.近年,組織学における発展はめざましく,第1章で述べられた筋膜に関する最新の知見について,この領域の専門家ではない訳者が翻訳するのは苦難の連続であったが,忠実な翻訳となるよう最善の努力をしたつもりである.
第2版からラインの名称にカタカナ表記と略語を用いることにした.この学際領域を学んだ治療者間で,各ラインの名称が認知されるとともに,統合的身体姿勢評価(Body Reading : BR),身体機能障害の連続・統合的治療方略(Myofascial Release Treatment : MRT筋膜リリースとStructural Integration : SI 構造的身体統合)などの用語が浸透している現況は嬉しいかぎりである.
本書により,治療者が筋膜ネットワーク(筋と筋膜による解剖学的連結)を理解し,対象者の身体をみる基本と要点を再学習し,適切な姿勢評価とアライメント分析を背景とした治療技術(筋ストレッチング,筋膜リリースなど)を向上させ,臨床的評価と治療のエビデンス推進に寄与することを望む.
最後に,翻訳にあたり終始適切なご指摘,ご助言をいただいた編集部の金井真由子氏と制作部の大西慎也氏に心からの敬意を表する.
2016年5月
板場 英行
第3版まえがき
初版が2001年に発行されて以来,本書の考え方が広く浸透し,活用されてきたことは私の期待を大きく超えている.我々は南極大陸を除くすべての大陸において,整形外科医,リハビリテーション専門医,理学療法士,カイロプラクター,整骨医,心理学者,アスレチックトレーナー,パーソナルトレーナー,パフォーマンスコーチ,ヨーガ教師,武道家,マッサージセラピスト,ダンサー,および各種の身体教育者をはじめとするあらゆる専門家に対して,本書の考え方とその活用法を紹介してきた.本書は現在12言語に翻訳されている.我々の当初の予測をはるかに超えて,セラピストや教育者が本書を使用して役立てていることから,アナトミー・トレイン(Anatomy Trains)は簡単なGoogle®検索でも約600万件がヒットする.
第3版には,継続的な教育と実践から得た最新情報と修正項目,および筋膜解剖からわかった組織学的知見が含まれる.具体的には,第2版以降の筋膜(fascia)と筋筋膜(myofascia)の世界における最新の発見(大半はFascia, the Tensional Network of the Human Body, 2012, Schleip R, Findley T, Chaitow L, Huijing P; Edinburgh: Churchill Livingstoneに要約されている)を提示するとともに,当時の未知分野に関する最新の知見を含めている.
第3版は,Graeme Chambers,Debbie Maizels,Philip Wilsonによるイラストを加え,第2版を上回るものとなった.新たな対象者の写真は,Michael Frenchmanが撮影したビデオグラフ(Videograf),Pedro Guimaraesの監修によるPamedia Designから引用したものである.
本書は,一般の読者が関連概念を迅速に理解し,興味を持つ読者がより詳細に理解できるようにした.
最近の多くの教科書と同様に,この第3版でも電子メディアを多用している.本書にはさらなる研究のために多くのウェブサイトのアドレスを収載した.我々のウェブサイト www.anatomytrains.com も常に更新しており,そのサイトではアナトミー・トレインの概念を専門的に応用する場合に役立てるように制作した12本以上の一連のDVDを参照することができる.また,本書の付録Web動画(www.igaku-shoin.co.jp/prd/anatomyt3/)では,治療手技,解剖,視覚的評価のDVDビデオクリップ,アナトミー・トレインのCG画像など,本書の理解をさらに深める情報を提供している.
筋膜の役割を背景としたアナトミー・トレインの意義と応用への理解は急速に深まっている.第3版ではウェブサイトと連動し,運動研究では取り上げられることの少ない筋膜に関する最新の見解を提示する.
2014年,メイン州にて
トーマス・W.・マイヤース Thomas W. Myers
訳者まえがき
本書はAnatomy Trains 第3版の全訳である.第2版同様,石井慎一郎氏と板場が翻訳を担当した.本書の初版訳は2009年1月,第2版訳が2012年5月に発行されており,第3版は4年ぶりの改訂となる.
Anatomy Trainsは,世界各国において統合的ボディワークを講演・実技指導しているトーマス・W・マイヤース氏による,体中に張り巡らされた筋膜の網を通して,ヒトの姿勢や動作の安定がどのように得られるかを解明する理論である.一般的な解剖学では,筋を単独のものとしてとらえ,個々の筋付着間における作用について論じられてきた(分離筋理論).しかし実際には,身体の筋は筋膜連続体としてすべてが複合的につながっている.対象者の姿勢異常や動作障害の治療と改善を行ううえで,筋を連続・複合的にとらえることがAnatomy Trains 理論の着眼点である.
分離筋理論を当然の理として教育指導を行っていた私にとって,マイヤース氏の講習会は衝撃的であった.膨大な新鮮献体解剖に基づく筋膜連結と12本のライン剖出は,認めざるをえない解剖学的革新といえる.この考えは,教育から臨床の場に転身した訳者にとって,様々な運動機能障害を有する対象者に,評価と治療を行う際にたいへん役立っている.肩の機能障害が握力低下に関係する,膝窩部の異常緊張が腰痛を悪化させるなどラインのどこかに歪みがあれば,その歪みの影響が身体の他部位に波及する.この障害の相互連携に対してライン分析を基本とした症状発現の理解と治療的介入は,今まで未解明であった臨床課題の解決につながる.
運動療法の専門家が対象とするのは,病気や診断学に基づく疾患ではなく,目の前の対象者が訴えている運動機能障害と生活活動障害である.運動機能障害の治療では,従来の運動療法に加えて,筋を連続・統合的に,筋膜のネットワークシステムとしてとらえ,ラインに沿った機能障害の発現と障害の相互連携を統合解釈評価し,ラインに関係する関連組織(筋膜)の整復に基づいた身体調整(body adjustment)を行い,生活活動の円滑遂行につなげる視点をもつことが重要である.
第3版では,第1章に組織学の新知見に基づく筋膜の生体力学的調節が盛り込まれ,第10章には筋膜ネットワークを基盤とした歩行分析が増補された.また,全体にわたって,筆者と多くの共同研究者による系統継続的研究,教育指導,および臨床実践から得られた最新情報が随所に修正加筆された.第2版で付録としたDVDはないが,治療手技,解剖,視覚的評価に関する動画やCG画像などの資料が本書Web付録(http://www.igaku-shoin.co.jp/prd/anatomyt3/)およびAnatomy Trainsのウェブサイト(https://www.anatomytrains.com/)で入手できる.
今版でも,マイヤース氏の豊富な学識に基づく比喩や文学的表現,医学用語集にない専門的用語の翻訳に難渋した.必要に応じて[訳注]を付記し,読者が理解しやすい言葉で解説するよう努めた.近年,組織学における発展はめざましく,第1章で述べられた筋膜に関する最新の知見について,この領域の専門家ではない訳者が翻訳するのは苦難の連続であったが,忠実な翻訳となるよう最善の努力をしたつもりである.
第2版からラインの名称にカタカナ表記と略語を用いることにした.この学際領域を学んだ治療者間で,各ラインの名称が認知されるとともに,統合的身体姿勢評価(Body Reading : BR),身体機能障害の連続・統合的治療方略(Myofascial Release Treatment : MRT筋膜リリースとStructural Integration : SI 構造的身体統合)などの用語が浸透している現況は嬉しいかぎりである.
本書により,治療者が筋膜ネットワーク(筋と筋膜による解剖学的連結)を理解し,対象者の身体をみる基本と要点を再学習し,適切な姿勢評価とアライメント分析を背景とした治療技術(筋ストレッチング,筋膜リリースなど)を向上させ,臨床的評価と治療のエビデンス推進に寄与することを望む.
最後に,翻訳にあたり終始適切なご指摘,ご助言をいただいた編集部の金井真由子氏と制作部の大西慎也氏に心からの敬意を表する.
2016年5月
板場 英行
第3版まえがき
初版が2001年に発行されて以来,本書の考え方が広く浸透し,活用されてきたことは私の期待を大きく超えている.我々は南極大陸を除くすべての大陸において,整形外科医,リハビリテーション専門医,理学療法士,カイロプラクター,整骨医,心理学者,アスレチックトレーナー,パーソナルトレーナー,パフォーマンスコーチ,ヨーガ教師,武道家,マッサージセラピスト,ダンサー,および各種の身体教育者をはじめとするあらゆる専門家に対して,本書の考え方とその活用法を紹介してきた.本書は現在12言語に翻訳されている.我々の当初の予測をはるかに超えて,セラピストや教育者が本書を使用して役立てていることから,アナトミー・トレイン(Anatomy Trains)は簡単なGoogle®検索でも約600万件がヒットする.
第3版には,継続的な教育と実践から得た最新情報と修正項目,および筋膜解剖からわかった組織学的知見が含まれる.具体的には,第2版以降の筋膜(fascia)と筋筋膜(myofascia)の世界における最新の発見(大半はFascia, the Tensional Network of the Human Body, 2012, Schleip R, Findley T, Chaitow L, Huijing P; Edinburgh: Churchill Livingstoneに要約されている)を提示するとともに,当時の未知分野に関する最新の知見を含めている.
第3版は,Graeme Chambers,Debbie Maizels,Philip Wilsonによるイラストを加え,第2版を上回るものとなった.新たな対象者の写真は,Michael Frenchmanが撮影したビデオグラフ(Videograf),Pedro Guimaraesの監修によるPamedia Designから引用したものである.
本書は,一般の読者が関連概念を迅速に理解し,興味を持つ読者がより詳細に理解できるようにした.
最近の多くの教科書と同様に,この第3版でも電子メディアを多用している.本書にはさらなる研究のために多くのウェブサイトのアドレスを収載した.我々のウェブサイト www.anatomytrains.com も常に更新しており,そのサイトではアナトミー・トレインの概念を専門的に応用する場合に役立てるように制作した12本以上の一連のDVDを参照することができる.また,本書の付録Web動画(www.igaku-shoin.co.jp/prd/anatomyt3/)では,治療手技,解剖,視覚的評価のDVDビデオクリップ,アナトミー・トレインのCG画像など,本書の理解をさらに深める情報を提供している.
筋膜の役割を背景としたアナトミー・トレインの意義と応用への理解は急速に深まっている.第3版ではウェブサイトと連動し,運動研究では取り上げられることの少ない筋膜に関する最新の見解を提示する.
2014年,メイン州にて
トーマス・W.・マイヤース Thomas W. Myers
目次
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訳者まえがき
第3版まえがき
初版のまえがき
謝辞
本書の使い方
本書の付録Web動画について
序章:レールを敷く
1 筋膜と生体力学的調節
2 アナトミー・トレインのルール
3 スーパーフィシャル・バック・ライン(SBL)
4 スーパーフィシャル・フロント・ライン(SFL)
5 ラテラル・ライン(LL)
6 スパイラル・ライン(SPL)
7 アーム・ライン(AL)
8 ファンクショナル・ライン(FL)
9 ディープ・フロント・ライン(DFL)
10 トレーニング中のアナトミー・トレイン
ジェームス・アールズの寄稿を追記
11 構造的分析
付録1:経線に関する覚書
付録2:構造的身体統合
付録3:筋筋膜経線とアジア医学
アナトミー・トレイン用語集
参考文献
索引
▼動画一覧
第3版まえがき
初版のまえがき
謝辞
本書の使い方
本書の付録Web動画について
序章:レールを敷く
1 筋膜と生体力学的調節
2 アナトミー・トレインのルール
3 スーパーフィシャル・バック・ライン(SBL)
4 スーパーフィシャル・フロント・ライン(SFL)
5 ラテラル・ライン(LL)
6 スパイラル・ライン(SPL)
7 アーム・ライン(AL)
8 ファンクショナル・ライン(FL)
9 ディープ・フロント・ライン(DFL)
10 トレーニング中のアナトミー・トレイン
ジェームス・アールズの寄稿を追記
11 構造的分析
付録1:経線に関する覚書
付録2:構造的身体統合
付録3:筋筋膜経線とアジア医学
アナトミー・トレイン用語集
参考文献
索引
▼動画一覧
書評
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身体運動における筋筋膜経線の機能についても紹介
書評者: 木藤 伸宏 (広島国際大准教授・総合リハビリテーション学)
大学院時代に医学部の人体解剖学実習に参加し,献体を解剖する機会を得た。学生時代にも参加したが,その時は明確な目的意識もなく,教員に言われるままに取り組むしかなかった記憶がある。大学院生のときは社会人学生であり,日々悩みながら臨床を行っており,人体の筋や関節周囲の構造をしっかり観察したいという目的で取り組んだ。その当時の大学の解剖実習は,昼から夜20時まで休みなく行う実習が4か月続くものであり,学部生はかなり疲弊していた。私は目的が明確であったために,時間も忘れて夢中に取り組んだ。皮膚剥ぎから行い,自分が観察したい部位にたどり着くまでには,丁寧な作業とかなりの時間を要した。しかしその過程において,決して解剖学書や解剖模型では見ることができない,皮膚の下に存在する結合組織の多さ,その巧みな構造を自分の目で見て,自分の手で触れることができた。本書6ページの「図6 筋筋膜の拡大写真」は,まさしく私が解剖実習中に観察したものである。筋よりも,それを取り巻く結合組織である筋膜が極めて重要な役割をしているという印象を受けたのを思い出す。
ずいぶん前になるが,石井美和子氏(Physiolink代表)と福井勉氏(文京学院大大学院教授)より,『アナトミー・トレイン』の原書第1版を紹介された。トーマス・マイヤース氏による,人体を走る「筋筋膜経線」を鉄道路線に見立てた斬新な考えに興味を持ちながらも,その解剖学・組織学的裏付けにやや疑問を抱いた。また,筋筋膜経線に焦点が当てられていたため,理学療法にどのように応用すればよいのか,特に評価にどう応用していくかについて,わからないままであった。つまり,「筋筋膜経線」を理解するための自分の準備が,臨床的にも学術的にも不十分な状態であった。日本で開催されるトーマス・マイヤース氏の研修会にも誘われたが,あまり参加する気持ちになれず,参加しなかった。
その後,筋膜に関する書籍が数多く出版され,『アナトミー・トレイン』も改訂された。第2版では,筋膜の組織学的見解が豊富に記述されていることに驚いた。今回の第3版では,組織学的な記述がさらに追記されると同時に,身体運動における筋筋膜経線の機能についても紹介されている。実際のエクササイズも豊富に紹介されているが,私にはまだ評価に応用する明確なアイデアが浮かばない。本書に書かれている筋筋膜経線が,運動学的観点から人の運動・活動・生活に関わる医療専門職にとって重要な理論であるということは,感覚的に理解できる。しかし,本書に書かれている内容を,どのように評価や治療に応用できるのか。多くの医療専門職の英知を集めることを目的に議論する場を持つことができれば,本書の内容をさらに深く知ることができるのではないだろうか。
書評者: 木藤 伸宏 (広島国際大准教授・総合リハビリテーション学)
大学院時代に医学部の人体解剖学実習に参加し,献体を解剖する機会を得た。学生時代にも参加したが,その時は明確な目的意識もなく,教員に言われるままに取り組むしかなかった記憶がある。大学院生のときは社会人学生であり,日々悩みながら臨床を行っており,人体の筋や関節周囲の構造をしっかり観察したいという目的で取り組んだ。その当時の大学の解剖実習は,昼から夜20時まで休みなく行う実習が4か月続くものであり,学部生はかなり疲弊していた。私は目的が明確であったために,時間も忘れて夢中に取り組んだ。皮膚剥ぎから行い,自分が観察したい部位にたどり着くまでには,丁寧な作業とかなりの時間を要した。しかしその過程において,決して解剖学書や解剖模型では見ることができない,皮膚の下に存在する結合組織の多さ,その巧みな構造を自分の目で見て,自分の手で触れることができた。本書6ページの「図6 筋筋膜の拡大写真」は,まさしく私が解剖実習中に観察したものである。筋よりも,それを取り巻く結合組織である筋膜が極めて重要な役割をしているという印象を受けたのを思い出す。
ずいぶん前になるが,石井美和子氏(Physiolink代表)と福井勉氏(文京学院大大学院教授)より,『アナトミー・トレイン』の原書第1版を紹介された。トーマス・マイヤース氏による,人体を走る「筋筋膜経線」を鉄道路線に見立てた斬新な考えに興味を持ちながらも,その解剖学・組織学的裏付けにやや疑問を抱いた。また,筋筋膜経線に焦点が当てられていたため,理学療法にどのように応用すればよいのか,特に評価にどう応用していくかについて,わからないままであった。つまり,「筋筋膜経線」を理解するための自分の準備が,臨床的にも学術的にも不十分な状態であった。日本で開催されるトーマス・マイヤース氏の研修会にも誘われたが,あまり参加する気持ちになれず,参加しなかった。
その後,筋膜に関する書籍が数多く出版され,『アナトミー・トレイン』も改訂された。第2版では,筋膜の組織学的見解が豊富に記述されていることに驚いた。今回の第3版では,組織学的な記述がさらに追記されると同時に,身体運動における筋筋膜経線の機能についても紹介されている。実際のエクササイズも豊富に紹介されているが,私にはまだ評価に応用する明確なアイデアが浮かばない。本書に書かれている筋筋膜経線が,運動学的観点から人の運動・活動・生活に関わる医療専門職にとって重要な理論であるということは,感覚的に理解できる。しかし,本書に書かれている内容を,どのように評価や治療に応用できるのか。多くの医療専門職の英知を集めることを目的に議論する場を持つことができれば,本書の内容をさらに深く知ることができるのではないだろうか。
正誤表
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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。