DSM-5 ガイドブック
診断基準を使いこなすための指針

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精神疾患の世界的な診断基準DSM-5の米国精神医学会オフィシャルシリーズの1冊。DSM-5に収載されている各疾患の診断基準の内容を解説するサブテキスト。DSM-IV-TRからの大きな変更点から各診断基準の細項目の詳細説明まで、DSM-5の押さえておくべきポイントを紹介。章末には各章での解説のポイントをまとめたサマリー「Key Points」が設けられており、読者の理解を助ける。
※「DSM-5」は American Psychiatric Publishing により米国で商標登録されています。
シリーズ DSM-5
原著 Black DW / Grant JE
監訳 髙橋 三郎
下田 和孝 / 大曽根 彰
発行 2016年06月判型:B5頁:464
ISBN 978-4-260-02486-0
定価 9,900円 (本体9,000円+税)

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訳者の序

訳者の序
 本書はDonald W. Black,Jon E. Grant書き下ろしの“DSM-5 Guidebook, 2014”の全訳である.米国精神医学会の出版部であるAmerican Psychiatric Publishing社は,米国精神医学会の公式の疾患分類 “Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition, 2013”〔日本精神神経学会(日本語版用語監修),高橋三郎,大野裕(監訳):DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院,2014〕の刊行後,DSM-5の関連書を次々と出版した.このうち,『DSM-5 診断面接ポケットマニュアル』『DSM-5 ケースファイル』『DSM-5 診断トレーニングブック』『DSM-5 鑑別診断ハンドブック』の4冊はすでにわれわれの手によって2015年に医学書院より翻訳出版された.そして今度は,DSM-5の「各精神疾患の診断基準の解説書」がここに上梓された.
 まず2人の著者を紹介しよう.Black氏は現アイオワ大学医学部精神科教授で,研修医教育の責任者である.アイオワ大学で故George Winokur主任教授のもとで研修医教育を受けたが,ここは新クレペリン主義を推進する人達(Neo-Kraepelinians)が集まり,DSM-IIIの原型となるFeighner Criteriaを発表した.これから発展したものがDSM-IIIに初めて導入された操作的診断基準である.もう1人の著者であるGrant氏は現シカゴ大学医学部精神科教授であり,ミネソタ大学精神科で精神科の研修を受けた.ここも同じ新クレペリン主義者のPaula Clayton教授が指導しており,こうした経験が「エビデンスに基づいた操作的基準」(evidence-based operational criteria)を尊重して診療にあたるという方向づけとなった.こうした背景からこの2人の著者はまさに本書にはうってつけの方々である.
 さて,本書の構成は,まず第1章,第2章においては,各疾患群について,DSM-I(1952)から,DSM-II(1968),DSM-III(1980),DSM-III-R(1987),DSM-IV(1994),DSM-IV-TR(2000)を経てDSM-5(2013)に至る間に,どのように命名され,定義され,変更を加えられてきたかを説明している.第3章から第22章では,おのおのの疾患に設定されたDSM-5診断基準ごとに基準A,基準B,基準C…と,順次その基準がもつ意味と目指す方向を解説している.これを『ミニD』〔日本精神神経学会(日本語版用語監修),高橋三郎,大野裕(監訳):DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引.医学書院,2014:Desk Reference to the Diagnostic Criteria from DSM-5. American Psychiatric Association, 2013〕と照らし合わせてみればよくわかるように,ミニDが疾患分類と診断基準だけの小冊子であるのに対して,本書はこれらに簡潔な解説をつけたB5判543ページの大きな本である.こうした意味で,ミニDがDSM-5を一通り勉強した方々が患者の診断をするにあたって,診断基準との整合性を確認するためのものである一方,本書はこれからDSM-5を勉強される方々に適切な入門解説書であるといえる.しかし,ポケットに入れて随時参考にするよう携帯するなら,小さなミニDということになるだろうし,今や,ケータイは時代遅れで,スマートフォンの時代となっており,そのようなソフトウェアがほしいものだ.
 DSM-5を勉強するには,先に述べたいろいろな関連書が役立つ.例えば,症例から入っていくのが理解しやすいような人には『DSM-5 ケースファイル』〔John W. Barnhill: DSM-5 Clinical Cases. American Psychiatric Publishing, 2014:高橋三郎(監訳),塩入俊樹,市川直樹(訳),2015〕がおすすめであるが,いろいろな疑問点にぶつかると,結局,親の本であるマニュアルをじっくりと読まなければわからないということになる.なぜなら,患者の示す実像は,診断基準に要約された症候群のほか,「診断を支持する関連特徴」「有病率」「症状の発展と経過」「危険要因と予後要因」「文化に関連する診断的事項」「性別に関連する診断的事項」「診断マーカー」「自殺の危険性」「機能的結果」「鑑別診断」「併存症」など,マニュアルに書かれた各項目をよく理解して初めてその実像が浮かび上がってくるからである.こうしたわけで,本書はいわばこれらのマニュアルの本文解説で診断基準の部分だけを要領よくつまみ食いしたようなものになっている.だが,診断基準だけを束ねたミニDよりは各基準の設定された意図がわかるので,入門書として適当であるといえる.
 著者の1人Black教授についてはもう1つぜひともふれておきたいことがある.米国精神医学会の大御所Nancy C. Andreasen教授のもと,アイオワ大学で研修を終えたのち,同大学の教育スタッフの一員となったが,こうした師弟関係から,彼は,Andreasen教授の精神医学教科書“Introductory Textbook of Psychiatry”の第2版からの共著者となった.この教科書は米国精神医学会の公式診断分類であるDSMに準拠しており,したがって,DSM-III以降改訂されるたびに改訂増補を重ねており,現在は第6版が American Psychiatric Publishing社より出版されたばかりである〔澤明(監訳),阿部浩史(訳):DSM-5を使いこなすための臨床精神医学テキスト.医学書院,2015〕.当然,本書と同一の著者による内容の重なりがないか気になるところである.Andreasen教授はその著作“The Broken Brain: The Biological Revolution in Psychiatry”で知られるように,統合失調症のような主な精神疾患を生物科学的に解明しようという旗頭である.この思想は彼女の教科書で,第1部「診断と分類」「面接と評価」「精神疾患の神経生物学と遺伝学」に集約されている.第2部は各疾患について第4章から第17章で,症例,症状,病態生理,治療,鑑別診断などが記述されており,この教科書の60%が充てられている.だから,著者は当然,本書とは内容が重複しないように注意を払ったはずであり,結果的には,本書はミニDを拡大したようなものになっているのであろう.ちなみに,精神科疾患の最も重要な部分である章を分析すると,本書では,第4章「統合失調症スペクトラム障害群」では28ページ中38%,第5章「気分障害」33ページ中54%,第6章「不安症群」23ページ中42%,第7章「強迫症群」21ページ中35%がDSM-5の疾患分類と診断基準のコピーであり,合計して104ページ中45ページ(43%)に上ることがわかった.もう1つ気になるところは,DSM-5では気分障害(Mood Disorders)という用語を廃止して,「双極性障害および関連障害群」と「抑うつ障害群」とに分割したのに,Black教授は本書でもまだ気分障害という用語を残しており,もう1つの教科書と同じままで章が構成されている.
 本書の翻訳作業は2015年夏より獨協医科大学精神神経医学講座の先生方を中心に総勢28名の方々により行われ,下田和孝教授と大曽根彰講師が見直したものに最終的に監訳者が手を入れた.昨年5月,獨協医科大学の翻訳チームは,『DSM-5 鑑別診断ハンドブック』(Michael B. First: DSM-5 Handbook of Differential Diagnosis. American Psychiatric Publishing, 2014)の翻訳という難作業をやってのけたが,何十枚もの複雑な流れ図の日本語訳が,下田教授の強力なリーダーシップのもと見事に完成をみたことは記憶に新しい.本書でも,仕上がりは,きっと読者諸兄姉にご満足いただけるものになったと信じている.
 本書が,DSM-5の勉強を始めることになった研修医諸兄姉の日常の診療のお役に立てばまことに幸いである.

 2016年5月 埼玉江南病院にて
訳者を代表して 高橋三郎



 このガイドブックは『精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版』(DSM-5)(米国精神医学会, 2013)に対する役に立つ必携書である.DSMは米国および他の国々において,長年,精神科診断体系として用いられてきたもので,DSM-5はこれまでの版のすばらしい伝統を踏襲している.とはいえ,多くの精神保健従事者にとって,精神科診断分類の方法は手強いものである.DSM-5は膨大で,総計947ページ(分類リストおよび序文を含まない)であり,多くの使用者を威圧する.使用者の多数の方々は「どこから始めるのか.一体どうやって基準を理解し,用いることができるのか」と考えるだろう.また,DSM-IV-TR(米国精神医学会, 2000)の使用者はDSM-5はどこが違うのかと思うであろう.これらのことは本書で取り組むいくつかの基本問題に含まれる.
 本書でのわれわれの目標はDSM-5を要約することではない.むしろ,仲間の精神科医,心理士,およびその他の精神保健従事者のみならずその他関心をもつ人々に対して利用しやすい指針を与えることを目指している.われわれは使用者が何よりもまず,DSM-5がすぐ前の版のDSM-IV-TRと,全体的な構成,多くの診断カテゴリー,およびその診断基準そのものに関してどのように違っているかを知りたがっているという前提から始める.これらの問題に応える場合,われわれはその再構成と診断基準に対する多くの変更点の背後にある根拠について記述する.DSM-5は非常に膨大で,人によってはかさばり扱いにくいというが,容易に学んだり消化したりできない本であることは理解しながらも,われわれは読者にDSM-5を1冊購入して,診療上の必要性,特に関連する診断カテゴリーを勉強することを強くすすめたい.
 いろいろな面で,本書は開業医が診療にDSM-5を取り入れるのを助ける“オーナーズマニュアル”である.本書は臨床家に改訂された診断基準をどのように使用するかを教えるためのものである.われわれはDSM-5の全体的なメタ構造(すなわち,構成),多くの診断カテゴリー(いくつかの新しいものを含む),および主要な疾患に対する診断基準について説明する.われわれは最も重要な診断に焦点を絞って,その基準の詳細な記述を提供する.その際に,基準をその背景とともに位置づけ,以前の版との対比を提供する.われわれは,本書『DSM-5 ガイドブック』がマニュアルの多くの変更点に対する青写真と,多くの診断カテゴリーおよびそのコードの使用に関する実践的情報を提供すると確信している.
 要約すると,本書におけるわれわれの目標は,
1.DSM-5とその前の版を歴史的立場からみるように診断分類の全体像を提供する.
2.DSM-5の発展,その革新,その全体的構造,およびDSM-IV(およびDSM-IV-TR)からの主要な変更点を概説する.
3.主要診断カテゴリーそれぞれの,関連する診断および診断基準を解説して,それぞれの意味を明確にし,また,鑑別診断過程の理解を容易にする.
4.第III部で述べられているディメンション的尺度の使用を含む,完全なDSM-5診断を構成するさまざまな要素を説明する.
 診断は精神医学,心理学の実務では基本的なものである.多くの臨床家にとって,診断を明確にする過程を習得するには何年もかかる.しかしながら,それは精神保健従事者が学ぶべき必要不可欠な過程であり,その中で専門技術を得る.DSM-III(米国精神医学会, 1980)の操作的診断基準の導入により,それ以前よりはるかに信頼性のある診断を下す過程が著しく進歩して,臨床家特有の見方や偏向にさらされることがずっと少なくなった.われわれ著者は,DSM-III以降の時代に教育された.われわれにとって,基準に基づく診断の使用は習慣となっている.
 DSM-5はいくつかの点で変化していくものである(Kupfer and Regier, 2011;Kupfer et al., 2013).DSM-5への道は1999年に始まり,2013年の出版は,長い,膨大な労力をかけた過程の結果であり,第1章「DSM-5への歩み」で総括されている.その道のりは,注意深い文献の再検討,新しいデータの収集,すでに存在するデータの目標を定めた分析を行った多くの専門家の努力を伴った.DSM-5の前版であるDSM-IVは1994年に出版され(米国精神医学会, 1994),記述の改訂が2000年に行われた(DSM-IV-TR, 2000).事実上,DSM-5診断基準の作成には19年かかっている.診断基準が改訂され更新されただけでなく,章の配置も変更されている.新しいカテゴリーが導入され,統合されたものもある.多くの新しい疾患が含まれ,多軸診断体系は削除された.臨床家が患者の症状および機能をうまく記述できるように多くのディメンション的評価が加えられた.
 この変化を象徴するものは,以前の版と異なり,DSM-5が“生きた文書”として議論されていることである.将来の長期的な目標は科学の進歩に逐一対応してDSM-5を更新していくことである.これはタイトルにローマ数字でなくアラビア数字を使ったということに反映されている——DSM-VではなくDSM-5——,つまり,将来的な変更が容易に行えるようになっている(例:DSM-5.1,DSM-5.2).
 確かに,DSM-5に誤りがないわけではない.診断的過程に慣れていない人々は——それに慣れている人でさえ——聖書またはタルムード〔訳注:モーセが伝えた律法とされる「口伝律法」を収めた文書群.ユダヤ教徒の生活・信仰の基となっている〕のような書物の一節に当てはめるのと同じような畏敬の念をもって基準について考えている.診断過程を料理本のようにみて,それぞれの原料(すなわち,基準)が必須で,そこから逸脱すれば必ずスフレは膨らまないと考える人もいる.われわれはDSM-5は——ないしはどの診断マニュアルの内容に対しても——臨床的判断なしに適用することができないということを読者に注意しておく.これはどのマニュアルにもみられない重要な要素であり,訓練と実践なしには容易には修得できないものである.精神科医は患者に,診断閾値に達していないからうつ病ではないと告げるだろうか.統合失調症の各診断基準を満たさない精神病患者は病状が軽いということか.過剰に厳格に規則(すなわち,基準)に従うことは適切な臨床的ケアを妨げるものであるので,臨床家は,時として恣意的な診断コード体系の要件ではなく,それぞれの患者のニーズに注意を払わなければならない.
 われわれは日々の臨床家および研究者としての仕事を通じて学びながら,本書に取り組んできた.われわれはDSM-5作成実行チームまたは多数の作業部会内の作業の詳細については提供しない.われわれはその人達を個人的には知らないからである.この観点から,われわれは基準群を臨床および研究の場でどのように適切に使用するか説明することを課されている部外者として記述している.ここで記述したことはわれわれの見解を反映したものであり,DSM-5作成実行チームまたは米国精神医学会の見解を反映したものではないことを申し述べておく.われわれの誰もいずれかの作業部会の委員とはなっていない.われわれはDSM-5の内容を編集していないし,DSM-5の内容に対しても責任はない.それにもかかわらず,それぞれが主要な学術的な精神医学講座で教員として勤務しているので,精神医学的診断を知らないわけではなく,開業医あるいは訓練を受ける人のニーズに関しても知らないわけではない.われわれそれぞれが,われわれからみれば決まりきった(面白いことさえある)と思えるのだが,精神医学的診断の難解な規則,初心者にとっては神秘的で極端に難解な過程について,研修医,医学生,および他の初学者への教育に関する広範な経験をもっている.
 展望してみると,DSM-IIIおよびDSM-IVはあらゆる方面からの批判にさらされたが,健全で影響力のある文書となっている.DSM-5は2012年11月,米国精神医学会の総会で変更なしに承認され,後にその原稿は米国精神医学会の評議員会で満場一致で承諾された.DSM-5作成実行チームの委員長であるDavid J. Kupfer, M.D. および arrel A. Regier, M.D., M.P.H. は,予定どおりではなかったとしても,その過程を導き,作業を維持してきたことに対して多大な功績がある.「はじめに」の章でわれわれはDSM-5へ導く過程の概観を示しているが,その過程の詳細な歴史を提供しようとはしていない.これは他者に譲ることとしたい.すでに,DSM-5の目標および目的と同様に,改訂への早期の見解を示した多くの書物が出版されている.
 本書の構成について概説してみよう.「はじめに」では,精神医学的診断分類の歴史について簡単に総括する.そして,第1章では,DSM-5への歩みに焦点を絞る.第2章では,多数の細かい点ではなく,主要な変更点に焦点を絞り,DSM-IVとDSM-5との対応点を示す.第3章から第19章までは,主要な診断カテゴリーおよび特定の診断,およびそれらの基準を概説して,それらが評価できる明確さについて示す.DSM-5に組み込まれた次元的尺度については第20章で解説され,パーソナリティ障害の代替モデルについては第21章で示されている.「今後の研究のための病態」については第22章で解説されている.その後に参考文献とDSM-5分類の付録が続く〔訳注:日本語版では割愛〕.
 われわれは本書がそれぞれの現場でDSM-5をどのように実践するかを知りたい精神科開業医,心理士,精神科看護師,ソーシャルワーカーおよび精神保健の専門職といった幅広い読者に訴えかけると確信している.組織内の読者層としては,個人および小規模の開業医,健康維持のための組織,保険会社,病院,図書館,学術機関,医学部教育課程および研修医教育プログラムが含まれると期待している.学生,研修医,事務職もまた本書の恩恵を受け,現行の精神保健業務にどのようにDSM-5診断が適合するかをよりよく理解するであろう.多くの方々に,この本がDSM-5の使用についてあらゆる層の保健専門職の訓練に有用であることをわかっていただきたいと思っている.
(原著者記す)

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  著者について
  序
  謝意
  はじめに

CHAPTER 1 DSM-5への歩み
CHAPTER 2 DSM-5の使用法と DSM-IVからの主要な変更点
CHAPTER 3 神経発達症群/神経発達障害群
 知的能力障害群
 コミュニケーション症群/コミュニケーション障害群
 自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害
 注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害
 限局性学習症/限局性学習障害
 運動症群/運動障害群
 他の神経発達症群/他の神経発達障害群
CHAPTER 4 統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群
CHAPTER 5 気分障害
 双極性障害および関連障害群
 抑うつ障害群
CHAPTER 6 不安症群/不安障害群
CHAPTER 7 強迫症および関連症群/強迫性障害および関連障害群
CHAPTER 8 心的外傷およびストレス因関連障害群
CHAPTER 9 解離症群/解離性障害群
CHAPTER 10 身体症状症および関連症群
CHAPTER 11 食行動障害および摂食障害群
CHAPTER 12 排泄症群
CHAPTER 13 睡眠-覚醒障害群
 呼吸関連睡眠障害群
 概日リズム睡眠-覚醒障害群
 睡眠時随伴症群
CHAPTER 14 性機能不全群,性別違和,パラフィリア障害群
 性機能不全群
 性別違和
 パラフィリア障害群
CHAPTER 15 秩序破壊的・衝動制御・素行症群
CHAPTER 16 物質関連障害および嗜癖性障害群
 アルコール関連障害群
 カフェイン関連障害群
 大麻関連障害群
 幻覚薬関連障害群
 吸入剤関連障害群
 オピオイド関連障害群
 鎮静薬,睡眠薬,または抗不安薬関連障害群
 精神刺激薬関連障害群
 タバコ関連障害群
 他の(または不明の)物質関連障害群
 非物質関連障害群
CHAPTER 17 神経認知障害群
 せん妄
 認知症(DSM-5)および軽度認知障害(DSM-5)
CHAPTER 18 パーソナリティ障害群
 パーソナリティ障害全般
 A群パーソナリティ障害
 B群パーソナリティ障害
 C群パーソナリティ障害
 他のパーソナリティ障害
CHAPTER 19 医薬品誘発性運動症群および臨床的関与の対象となることのある他の状態
 医薬品誘発性運動症群および他の医薬品有害作用
 臨床的関与の対象となることのある他の状態
CHAPTER 20 評価尺度
CHAPTER 21 パーソナリティ障害群の代替DSM-5モデル
 パーソナリティ障害の全般的基準
 特定のパーソナリティ障害群
CHAPTER 22 今後の研究のための病態

索引

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臨床現場での使用に即したDSM-5解説書の決定版
書評者: 須田 史朗 (自治医大教授・精神医学)
 本書はDonald W. BlackとJon E. Grantによる“DSM-5 Guidebook”の全訳であり,数あるDSM-5解説書の中でもAmerican Psychiatric Association(APA)が出版した本家本元の“公式ガイドブック”である。

 1990年代以降,科学は目覚ましい発展を遂げ,さまざまな技術革新が多くの生命現象を可視化することに成功した。精神医学もその恩恵を受け,分子生物学や神経画像,疫学研究によるデータの蓄積が新たな知見と洞察を生み,なおも発展を続けている。ことに臨床研究においては,DSMによる疾病分類が果たしてきた役割は計り知れない。2013年5月,APAはおよそ20年の時を経てDSMを全面改訂し,DSM-5を世に送り出した。DSM-5では作成の基本指針に「DSM-IV出版以来蓄積されたエビデンスを,変更を行う指針として用いる」という項目が含まれており,これまでの研究成果により提唱,あるいは変革された新たな疾病概念が反映されている。本書の冒頭は「科学とは経験を体系的に分類することである」というイギリスの哲学者George Henry Lewesの言葉の引用に始まり,「新しい知識に応じて精神疾患の分類——そして,その診断基準——は進化していかなければならない」という一文で締めくくられており(「はじめに」より),このガイドブックを記した筆者のDSMに対する考えと科学的姿勢が示されている。

 DSM-5は現代精神医学の発展を反映したいわば「正常進化」の形を取ってはいるが,とりわけDSM-IIIから続いていた多軸診断システムの廃止とディメンション方式による評価の新たな導入や,児童精神医学領域,神経症性障害における変更箇所の多さなどが臨床現場の混乱を招いたことは記憶に新しい。本書はそのような臨床家の疑問や戸惑いに答えるべく構成されており,Chapter 1ではDSM開発の歴史や変遷,Chapter 2ではDSM-5の使用法とDSM-IVからの変更点のまとめ,Chapter 3~19では各疾患,症候群におけるDSM-5診断基準の解説とtips,Chapter 20ではディメンション方式で使用される評価尺度,Chapter 21~22ではパーソナリティ障害群の代替モデル,今後の研究のための診断基準案の解説が要領よく記載されている。

 本書は滋賀医大髙橋三郎名誉教授の監訳のもと,獨協医大精神神経医学講座の下田和孝主任教授を中心としたグループにより翻訳が行われた。Chapter 1~2のDSM開発の経緯やDSM-IV-TRからの主要な変更点の記述は近代精神医学の発展の歴史を理解する上で大変興味深く,読み物としても面白い。Chapter 3以降の診断基準の解説では日本語版 『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』『DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引』 の該当項目の記載ページが参照できるようになっており,症例検討会などの現場での使用にも配慮されたものとなっている。文章は平易で大変読みやすく,かなりuser-friendlyな内容である。タイトル通り,まさに「診断基準を使いこなすための指針」であり,臨床現場での使用に即したDSM-5解説書の決定版として,研修医・コメディカルスタッフからベテランの精神科専門医まで多くの諸氏に自信を持ってお薦めしたい。今からでも遅くありませんよ。
DSM-5のエッセンスを凝縮した一冊
書評者: 明智 龍男 (名市大大学院教授・精神・認知・行動医学)
 精神現象は可視化できるものではなく,ここにこのように存在するといった明示的な形で示すことはできない。それでは,精神の病を「診断」するというのはどういうことであろうか? 一般的には,患者の経験している精神現象を正確に把握し,症状として記述することがその第一歩となる。一方,ベテランの精神科医なら,診断をすることの難しさをよくご存知のことと思う。

 それでは,そもそもなぜ,私たちはこのとっつきにくい精神疾患を診断しようとするのであろうか? 精神疾患が,全ての患者と共通の特徴やその患者固有の特徴のみで構成されているのであれば,診断をする意味はなく,あるいは不可能である。しかし,一部の患者とは共通だが他とは異なる特徴が存在し,特徴的な単位として認識することができるのであればどうであろうか? これが,そもそも疾病分類と言われるものであり,これら単位に固有の名称を与えたものがいわゆる診断である。このような作業を行って,初めて精神疾患を共通言語として語ることができるようになるのであり,DSMもその一例にすぎない。一方,この共通言語が存在しなければ,私たちは自身の経験から学ぶこともできなければ,共通の土俵で疾患について語ることもできず,それ故,精神医療を良いものに深化させることができない。

 2013年5月に19年ぶりにDSM-5が刊行され,翌2014年6月に日本語版が上梓された。さまざまな批判もある中,大著であるDSM-5を手に取っている方も少なくないであろう。私は大学に籍があり,普段から若手医師のトレーニングに当たっているが,そこで最も苦労する点の一つがDSMの「正しい使い方」を伝えることである。ややもすると,症状を並べてみてどれに一番近いかといった表層的な作業にもなりかねない。加えて,治療に際しては,このDSM診断のみでは不十分であり,この共通言語を出発点として,患者固有の特徴を評価し,診断を定式化したうえで個別的に行う必要がある。また,治療のエビデンスに関しては当然DSM-IV-TRまでに蓄積されたものであるから,目の前にいる患者さんの診断,治療のためにも,しばらくはDSM-IV-TRとDSM-5の共通点と差異をよく理解しておくことは極めて重要である。

 前置きが長くなったが,本書の内容を紹介したい。第1章がDSM-5に至るまでの歴史や変遷,第2章はDSM-IV-TRからの主要な変更点,第3~19章まではDSM-5の診断基準の骨子,そして第20章以降には評価尺度,パーソナリティ障害のモデル,今後の研究のための病態(例:減弱精神病症候群など)が簡潔に記されており,現時点における精神医学の操作的診断基準の入門書としてエッセンスを凝縮した内容となっている。DSM-5が刊行されて以降,多くの医学関連雑誌がその特徴を診断別に特集号で扱っているが,本書にはこれらの内容も系統的かつコンパクトにまとめられており大変読みやすい。診断基準の概要を知りたいとき,DSM診断の歴史的な変遷を知りたいとき,DSM-IV-TRとDSM-5との異同について知りたいとき,まず手に取っていただきたい一冊である。私はカンファレンスの際には,本書とDSM-5の双方を机に置き,まず本書を眺め,必要に応じてDSM-5を調べるようにしていて大変重宝している。

 最後に,待たれていた本書を送りだしてくださった獨協医科大学精神神経医学講座の下田和孝教授はじめ諸先生方に感謝したい。

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