解いてなっとく
使えるバイオメカニクス
もう苦手とは言わせない。本書でバイメカ(生体力学)がきっと身につく
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どうしても苦手意識を持ちがちな生体力学。物理はもう勘弁、とあきらめてしまう前にぜひとも本書をひも解いてほしい。問題を解き解説を読めば、なるほどと生体力学の勘所がわかる、本書はそんなテキスト。分かりやすい図に平易な解説により、臨床に役立つ生体力学の知識がきっと身につく。教科書、副読本、演習書としても最適。
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- 序文
- 目次
- 書評
序文
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序
本書は「読者が観察のみで患者さんの動作を力学的に考察でき,国家試験レベルの生体力学の問題が解けるようになる」ということを目的としています.
この問題集は高校生のとき数学が苦手だったり,物理学を履修していなかったりした大学生や専門学校の学生が,理学療法・作業療法の評価・治療計画作成で用いる生体力学を無理せずに理解できるようになるために作成したものです.もちろん,数学・物理が得意だった学生は生体力学をより深く理解できるようになります.
本書の問題を学生が解くと臨床実習のときの動作分析をより深く考えることができるようになると考えます.学生指導者の先生が本書を参考にすると学生に患者さんの動作をわかりやすく説明することができるようになると思います.
また国家試験では数点の差で不合格になる人が多いと聞いていますが,生体力学に関連する問題は3点問題で1~2問,1点問題で数問出ていますので,本書の問題を解くことで国家試験で確実に得点できる学力の底上げになると考えています.
本書は臨床実習や実際の臨床で運動療法プログラムや機能的作業療法を立案するときに必要な基礎力を自学自習で向上できるように作られています.そのために問題も解説も図で説明し,数式は簡単なものだけにするなど,読者が容易に理解できるように工夫しました.
学生は将来自分が担当する患者さんのために,理学療法士・作業療法士の先生方は現在担当している患者さんのために,本書が自分の臨床能力向上に役立てれば幸いに思います.
2015年7月
著者代表 前田 哲男
本書は「読者が観察のみで患者さんの動作を力学的に考察でき,国家試験レベルの生体力学の問題が解けるようになる」ということを目的としています.
この問題集は高校生のとき数学が苦手だったり,物理学を履修していなかったりした大学生や専門学校の学生が,理学療法・作業療法の評価・治療計画作成で用いる生体力学を無理せずに理解できるようになるために作成したものです.もちろん,数学・物理が得意だった学生は生体力学をより深く理解できるようになります.
本書の問題を学生が解くと臨床実習のときの動作分析をより深く考えることができるようになると考えます.学生指導者の先生が本書を参考にすると学生に患者さんの動作をわかりやすく説明することができるようになると思います.
また国家試験では数点の差で不合格になる人が多いと聞いていますが,生体力学に関連する問題は3点問題で1~2問,1点問題で数問出ていますので,本書の問題を解くことで国家試験で確実に得点できる学力の底上げになると考えています.
本書は臨床実習や実際の臨床で運動療法プログラムや機能的作業療法を立案するときに必要な基礎力を自学自習で向上できるように作られています.そのために問題も解説も図で説明し,数式は簡単なものだけにするなど,読者が容易に理解できるように工夫しました.
学生は将来自分が担当する患者さんのために,理学療法士・作業療法士の先生方は現在担当している患者さんのために,本書が自分の臨床能力向上に役立てれば幸いに思います.
2015年7月
著者代表 前田 哲男
目次
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序
本書の構成と使い方
1 姿勢の制御 重心と支持基底面の関係
1-1 座位で体幹を前屈させたときに活動する筋は?
1-2 座位で体幹を前屈させたときのハムストリングスの活動は?
1-3 支持基底面の広さと安定性の関係は?
1-4 座位で足台を用いる理由は?
1-5 片麻痺患者の座位における支持基底面は?
2 筋力測定と力のモーメント
2-1 重力の影響は?
2-2 てこの原理で考える筋力測定は?
2-3 力のモーメントの計算は?
2-4 膝関節伸展筋力の測定の方法は?
2-5 切断患者の筋力測定で注意することは?
2-6 力の弱い人が行う筋力測定の方法は?
2-7 三角関数で何がわかる?
2-8 斜めの力はどうやって考える?
2-9 筋力測定器が行う重力補正の方法は?
2-10 力学以外に考えなければいけないことは?
3 重心動揺と床反力
3-1 床反力とは?
3-2 重心の位置を計算する方法は?
3-3 支持基底面の広さと床反力の関係は?
3-4 重心と床反力の関係は?(側方への重心移動)
3-5 重心と床反力の関係は?(側方への重心移動2)
3-6 重心動揺計の軌跡長はどのように計算しているのか?
3-7 運動失調症患者の重心動揺計軌跡長は?
3-8 左右に動いたときの運動失調症患者の重心動揺計軌跡長は?
4 リーチ動作のバイオメカニクス
4-1 側方リーチ時の脊柱起立筋の収縮は?
4-2 片麻痺患者の座位バランスが低下する理由は?
4-3 片麻痺患者はなぜ,非麻痺側へリーチしにくいか?
4-4 片麻痺患者はなぜ,麻痺側へリーチしにくいか?
4-5 上肢挙上時になぜ肘関節を屈曲するか?
5 距離,速度,加速度の関係
5-1 加速度と力の関係は?
5-2 歩行速度を測定するときに注意することは?
5-3 歩行中の速度は一定か?
5-4 ステップレングスとケイデンスの関係は?
6 床反力
6-1 物を持ち上げるときの床反力の変化は?
6-2 椅子から立ち上がるときの床反力の変化は?
6-3 スクワットでしゃがむときの床反力の変化は?
6-4 スクワットで立ち上がるときの床反力の変化は?
6-5 ジャンプ時の初速度を床反力から考えるとどうなるか?
6-6 着地するときに膝や股関節を屈曲する理由は?
7 動作中の関節モーメントの理解
7-1 作業中の姿勢と筋疲労の関係は?
7-2 スクワット時の体幹前傾と膝関節伸筋群の関係は?
7-3 立位における前脛骨筋の活動と支持基底面の関係は?
7-4 腰掛け座位において足で踏みつけたときに働く筋は?
7-5 立位バランス練習で外力を加える位置の影響は?
7-6 立位バランス練習で後方への外力に反応する筋は?
7-7 膝立ち位でのバランス練習で前方への外力に反応する筋は?
7-8 中腰が腰部の負荷に与える影響は?
7-9 回旋を伴うリフト動作時に働く腰部の筋は?
8 椅子からの立ち上がり
8-1 体幹の前傾開始時に働く股関節周囲筋は?
8-2 立ち上がり時の重心の移動は?
8-3 体幹前傾と重心移動の関係は?
8-4 両手を組んで体幹の前方で保持する利点は?
8-5 浅く腰掛けて両足を手前に引く利点は?
8-6 立ち上がり時の殿部床反力の前後成分は?
8-7 重心を前方へ移動する方法は?
8-8 殿部離床時の足部床反力は?
8-9 足部が前方にあるときの足部床反力は?
8-10 殿部離床時の足関節背屈筋群による作用は?
8-11 殿部離床時の足関節背屈による床反力の変化は?
8-12 立ち上がり時の床反力垂直成分の変化は?
8-13 腕の振りが立ち上がりに与える影響は?
9 歩行
9-1 支持基底面が変化しつつ移動する動作は?
9-2 歩行時の鉛直方向の床反力の変化は?
9-3 歩行時の前後方向の床反力の変化は?
9-4 矢状面におけるイニシャルコンタクト時の足関節モーメントは?
9-5 矢状面におけるローディングレスポンス時の股関節・膝関節の関節モーメントは?
9-6 ミッドスタンス時の股関節・膝関節の関節モーメントは?
9-7 矢状面におけるプレスウィング時の股関節・膝関節モーメントは?
9-8 足関節による膝関節伸展の代償は?
9-9 歩き始めのCOPはどのように移動するか?
9-10 歩行速度が床反力の鉛直成分に与える影響は?
9-11 平行棒内歩行時に平行棒を引く力の作用は?
9-12 平行棒内歩行時の姿勢から状態を推測できるか?
9-13 プッシャー症候群の平行棒内での立位姿勢は?
9-14 T字杖を使用するメリットは?
9-15 横歩き時の体幹側屈による代償は?
10 起き上がり動作
10-1 徒手抵抗による関節モーメント-単関節筋を選択的に収縮させるには?
10-2 起き上がり時に下肢の肢位が上肢の負荷へ与える影響は?
10-3 起き上がり時に下肢挙上で働く筋群は?
10-4 背臥位で体幹を屈曲したときに大腿四頭筋は活動するか?
10-5 背臥位からの起き上がりで両下肢をなぜ降ろして止めるのか?
11 車椅子動作
11-1 車椅子駆動時の床反力は?
11-2 車椅子の安定性と車軸の位置の関係は?
11-3 フロントキャスターアップを介助するコツは?
11-4 車椅子ウィリー時のバランスをとる方法は?
11-5 車椅子ウィリーの仕方と動作の理由は?
索引
コラム1 重力加速度
コラム2 最大モーメントは関節角度に依存する
コラム3 床反力と足圧中心点
コラム4 人の運動と床反力
コラム5 なぜ床反力のベクトルは重心の近くを通るのか?
コラム6 床反力の力積
コラム7 筋活動と筋力
コラム8 関節モーメントと関節反力
コラム9 関節モーメントと筋張力
コラム10 偶力(force couple)
コラム11 歩行中の加速度
本書の構成と使い方
1 姿勢の制御 重心と支持基底面の関係
1-1 座位で体幹を前屈させたときに活動する筋は?
1-2 座位で体幹を前屈させたときのハムストリングスの活動は?
1-3 支持基底面の広さと安定性の関係は?
1-4 座位で足台を用いる理由は?
1-5 片麻痺患者の座位における支持基底面は?
2 筋力測定と力のモーメント
2-1 重力の影響は?
2-2 てこの原理で考える筋力測定は?
2-3 力のモーメントの計算は?
2-4 膝関節伸展筋力の測定の方法は?
2-5 切断患者の筋力測定で注意することは?
2-6 力の弱い人が行う筋力測定の方法は?
2-7 三角関数で何がわかる?
2-8 斜めの力はどうやって考える?
2-9 筋力測定器が行う重力補正の方法は?
2-10 力学以外に考えなければいけないことは?
3 重心動揺と床反力
3-1 床反力とは?
3-2 重心の位置を計算する方法は?
3-3 支持基底面の広さと床反力の関係は?
3-4 重心と床反力の関係は?(側方への重心移動)
3-5 重心と床反力の関係は?(側方への重心移動2)
3-6 重心動揺計の軌跡長はどのように計算しているのか?
3-7 運動失調症患者の重心動揺計軌跡長は?
3-8 左右に動いたときの運動失調症患者の重心動揺計軌跡長は?
4 リーチ動作のバイオメカニクス
4-1 側方リーチ時の脊柱起立筋の収縮は?
4-2 片麻痺患者の座位バランスが低下する理由は?
4-3 片麻痺患者はなぜ,非麻痺側へリーチしにくいか?
4-4 片麻痺患者はなぜ,麻痺側へリーチしにくいか?
4-5 上肢挙上時になぜ肘関節を屈曲するか?
5 距離,速度,加速度の関係
5-1 加速度と力の関係は?
5-2 歩行速度を測定するときに注意することは?
5-3 歩行中の速度は一定か?
5-4 ステップレングスとケイデンスの関係は?
6 床反力
6-1 物を持ち上げるときの床反力の変化は?
6-2 椅子から立ち上がるときの床反力の変化は?
6-3 スクワットでしゃがむときの床反力の変化は?
6-4 スクワットで立ち上がるときの床反力の変化は?
6-5 ジャンプ時の初速度を床反力から考えるとどうなるか?
6-6 着地するときに膝や股関節を屈曲する理由は?
7 動作中の関節モーメントの理解
7-1 作業中の姿勢と筋疲労の関係は?
7-2 スクワット時の体幹前傾と膝関節伸筋群の関係は?
7-3 立位における前脛骨筋の活動と支持基底面の関係は?
7-4 腰掛け座位において足で踏みつけたときに働く筋は?
7-5 立位バランス練習で外力を加える位置の影響は?
7-6 立位バランス練習で後方への外力に反応する筋は?
7-7 膝立ち位でのバランス練習で前方への外力に反応する筋は?
7-8 中腰が腰部の負荷に与える影響は?
7-9 回旋を伴うリフト動作時に働く腰部の筋は?
8 椅子からの立ち上がり
8-1 体幹の前傾開始時に働く股関節周囲筋は?
8-2 立ち上がり時の重心の移動は?
8-3 体幹前傾と重心移動の関係は?
8-4 両手を組んで体幹の前方で保持する利点は?
8-5 浅く腰掛けて両足を手前に引く利点は?
8-6 立ち上がり時の殿部床反力の前後成分は?
8-7 重心を前方へ移動する方法は?
8-8 殿部離床時の足部床反力は?
8-9 足部が前方にあるときの足部床反力は?
8-10 殿部離床時の足関節背屈筋群による作用は?
8-11 殿部離床時の足関節背屈による床反力の変化は?
8-12 立ち上がり時の床反力垂直成分の変化は?
8-13 腕の振りが立ち上がりに与える影響は?
9 歩行
9-1 支持基底面が変化しつつ移動する動作は?
9-2 歩行時の鉛直方向の床反力の変化は?
9-3 歩行時の前後方向の床反力の変化は?
9-4 矢状面におけるイニシャルコンタクト時の足関節モーメントは?
9-5 矢状面におけるローディングレスポンス時の股関節・膝関節の関節モーメントは?
9-6 ミッドスタンス時の股関節・膝関節の関節モーメントは?
9-7 矢状面におけるプレスウィング時の股関節・膝関節モーメントは?
9-8 足関節による膝関節伸展の代償は?
9-9 歩き始めのCOPはどのように移動するか?
9-10 歩行速度が床反力の鉛直成分に与える影響は?
9-11 平行棒内歩行時に平行棒を引く力の作用は?
9-12 平行棒内歩行時の姿勢から状態を推測できるか?
9-13 プッシャー症候群の平行棒内での立位姿勢は?
9-14 T字杖を使用するメリットは?
9-15 横歩き時の体幹側屈による代償は?
10 起き上がり動作
10-1 徒手抵抗による関節モーメント-単関節筋を選択的に収縮させるには?
10-2 起き上がり時に下肢の肢位が上肢の負荷へ与える影響は?
10-3 起き上がり時に下肢挙上で働く筋群は?
10-4 背臥位で体幹を屈曲したときに大腿四頭筋は活動するか?
10-5 背臥位からの起き上がりで両下肢をなぜ降ろして止めるのか?
11 車椅子動作
11-1 車椅子駆動時の床反力は?
11-2 車椅子の安定性と車軸の位置の関係は?
11-3 フロントキャスターアップを介助するコツは?
11-4 車椅子ウィリー時のバランスをとる方法は?
11-5 車椅子ウィリーの仕方と動作の理由は?
索引
コラム1 重力加速度
コラム2 最大モーメントは関節角度に依存する
コラム3 床反力と足圧中心点
コラム4 人の運動と床反力
コラム5 なぜ床反力のベクトルは重心の近くを通るのか?
コラム6 床反力の力積
コラム7 筋活動と筋力
コラム8 関節モーメントと関節反力
コラム9 関節モーメントと筋張力
コラム10 偶力(force couple)
コラム11 歩行中の加速度
書評
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バイオメカニクスの重い扉を解き放つテキスト
書評者: 鶴見 隆正 (湘南医療大リハビリテーション学科長)
理学療法の臨床現場では,骨・関節系疾患や脳卒中などによって歩行や階段昇降などの基本動作が困難となった方に対する運動療法とADL指導は大きなウエイトを占めている。ヒトが椅子からスムーズに立ち上がったり,不整地な道でも安定して歩いたり,階段昇降ができるのは,抗重力下における動的姿勢制御と生力学的制御が相互に関与し合っているからである。それだけに基本動作に関するバイオメカニクスの知識は重要となる。
このため理学療法士・作業療法士を目指す学生にとって,臨床運動学や運動学実習でのバイオメカニクスの学習は必須となるが,これがなかなか難解な教科となっている。それは一つの基本動作を遂行するには,関節運動がどのように生じ,どの筋群がどのタイミングで活動し,連鎖的な筋収縮がどのように生じているのか,またベクトルはどの方向に作用しているのか,などバイオメカニクスの分析力と演算的な理解力が求められるからであろう。
本書のオレンジ色の帯に記された「バイメカをあきらめない!」「なんだ,バイオメカニクスって,こういうことだったのか」の文言には,バイオメカニクスを繙く喜びと,同時に長年,大学で運動学の教育に携われてこられた著者の前田哲男先生はじめお三方の教育マインドと教授力が込められている。
本書は全11章から構成され,「椅子からの立ち上がり」「歩行」「起き上がり動作」「車椅子動作」を軸に,これらの動作遂行に必要不可欠なバイオメカ的視点の姿勢制御,重心と支持基底面,筋力測定と力のモーメント,重心動揺と床反力,関節モーメントなどを章立てし,各章ごとに4~15項目の生力学的な設問と解答・解説が,各1ページに統一されて計85問配置されている。全ての設問と解答・解説には,キーポイントとなるイラスト,図表が組み込まれ,また各章の初めには,学習目標と重要語句の解説一覧が提示され,さらに最新の力学的な情報コラムを随所に配置するなど,理解度を高め,やる気を促通するような工夫がなされている。そこには苦手意識のあるバイオメカニクスの重い扉を解き放ち,自学自習に誘うような学習者本位の構成となっており,本書を手にして,設問と解答を見比べながら,「そうなんだ!」と納得する姿が透けてくる。
「バイオメカニクス」を自学自習できる本書を,理学療法士・作業療法士を志す学生はもちろんのこと,臨床現場で日々,身体機能評価や運動指導に携わっている理学療法士,作業療法士,言語聴覚士にも最適なテキストとして推薦する。
生体力学の入り口に立った初学者への入門書
書評者: 高橋 正明 (群馬パース大教授・運動・動作学)
初学者のための,日常生活での身体運動や姿勢・動作の力学的理解を深める学習書が著された。『解いてなっとく 使えるバイオメカニクス』である。理学療法(PT)学科や作業療法(OT)学科で力学になじんでいない学生を対象に,限られた時間内で,姿勢や動作のメカニズムを理解・納得させるのは想像以上に難しい。しかもそこまで対象をはっきりさせたまとまった教材がなく,本書は貴重な一冊といえる。
本書には大きく二つの狙いが見て取れる。一つは日常生活動作や姿勢のメカニズムを床反力で明らかにする解説書としての役割だ。床反力とは人が立ち,移動するときの床を圧する力を床から反力として逆向き受けたときの力で,唯一計測できるものである。コンピュータのおかげでその大きさ,方向,圧中心が瞬時にわかるので重力下で行われる動作を理解するには便利な道具となっている。
もう一つの狙いは,動作の観察や分析に必要な生体力学的素養が身につく学習書である。素養を身につける過程では,一つの知識や理解を他の状況でも応用できる認識のレベルにまで高めることが必要となる。本書は目的達成のために,その素養を程良い大きさに分解し,表ページに一つの質問(課題),裏ページでその解説という体裁を採っている。力学の基本知識や理解を少しずつかつ順序良く学べれば,納得のレベルにまで達するという考えである。タイトルの「解いてなっとく」の意味はここにある。
このチャレンジは高く評価したい。多くの初学者が救われると思う。また同業者として多くの示唆をいただいた。しかしそれでもまだ人の動作を力学的に理解できるようになるのは大変だとの印象は強い。本書は人形を用いて基本的理解を求めている。複雑なものを簡単なもので置き換えて説明するのは常套手段だ。しかし人形は動かない。静力学で扱われる。人は動くことが宿命付けられた身体を持つ。人は転倒しやすく,それだけ動きやすい。安定と不安定の繰り返しで身体を移動させる。これは動力学の分野であるが,明らかなことは静力学の基礎がないと動力学はうまく扱えない。その意味で静力学の要素が強い本書はまさに生体力学の入り口に立った初学者の入門書と言える。
しかし,本書を読み終わって心配事がないわけではない。人形から学んだ基本法則だけでは人の動作を誤って解釈する危険性が高いからである。学生は納得するのに自分の身体を使って人形をまねる。そのときその動きあるいは姿勢は人と同じではないことに気が付いてくれるとありがたい。それに気が付かないときは他者からのコメント等,人形から人への橋渡しをしてくれる何かが必要である。
本書は自学のための学習書として有用ではあるが,教師の説明と共に使われる教材としてのほうが力を発揮するように思う。
書評者: 鶴見 隆正 (湘南医療大リハビリテーション学科長)
理学療法の臨床現場では,骨・関節系疾患や脳卒中などによって歩行や階段昇降などの基本動作が困難となった方に対する運動療法とADL指導は大きなウエイトを占めている。ヒトが椅子からスムーズに立ち上がったり,不整地な道でも安定して歩いたり,階段昇降ができるのは,抗重力下における動的姿勢制御と生力学的制御が相互に関与し合っているからである。それだけに基本動作に関するバイオメカニクスの知識は重要となる。
このため理学療法士・作業療法士を目指す学生にとって,臨床運動学や運動学実習でのバイオメカニクスの学習は必須となるが,これがなかなか難解な教科となっている。それは一つの基本動作を遂行するには,関節運動がどのように生じ,どの筋群がどのタイミングで活動し,連鎖的な筋収縮がどのように生じているのか,またベクトルはどの方向に作用しているのか,などバイオメカニクスの分析力と演算的な理解力が求められるからであろう。
本書のオレンジ色の帯に記された「バイメカをあきらめない!」「なんだ,バイオメカニクスって,こういうことだったのか」の文言には,バイオメカニクスを繙く喜びと,同時に長年,大学で運動学の教育に携われてこられた著者の前田哲男先生はじめお三方の教育マインドと教授力が込められている。
本書は全11章から構成され,「椅子からの立ち上がり」「歩行」「起き上がり動作」「車椅子動作」を軸に,これらの動作遂行に必要不可欠なバイオメカ的視点の姿勢制御,重心と支持基底面,筋力測定と力のモーメント,重心動揺と床反力,関節モーメントなどを章立てし,各章ごとに4~15項目の生力学的な設問と解答・解説が,各1ページに統一されて計85問配置されている。全ての設問と解答・解説には,キーポイントとなるイラスト,図表が組み込まれ,また各章の初めには,学習目標と重要語句の解説一覧が提示され,さらに最新の力学的な情報コラムを随所に配置するなど,理解度を高め,やる気を促通するような工夫がなされている。そこには苦手意識のあるバイオメカニクスの重い扉を解き放ち,自学自習に誘うような学習者本位の構成となっており,本書を手にして,設問と解答を見比べながら,「そうなんだ!」と納得する姿が透けてくる。
「バイオメカニクス」を自学自習できる本書を,理学療法士・作業療法士を志す学生はもちろんのこと,臨床現場で日々,身体機能評価や運動指導に携わっている理学療法士,作業療法士,言語聴覚士にも最適なテキストとして推薦する。
生体力学の入り口に立った初学者への入門書
書評者: 高橋 正明 (群馬パース大教授・運動・動作学)
初学者のための,日常生活での身体運動や姿勢・動作の力学的理解を深める学習書が著された。『解いてなっとく 使えるバイオメカニクス』である。理学療法(PT)学科や作業療法(OT)学科で力学になじんでいない学生を対象に,限られた時間内で,姿勢や動作のメカニズムを理解・納得させるのは想像以上に難しい。しかもそこまで対象をはっきりさせたまとまった教材がなく,本書は貴重な一冊といえる。
本書には大きく二つの狙いが見て取れる。一つは日常生活動作や姿勢のメカニズムを床反力で明らかにする解説書としての役割だ。床反力とは人が立ち,移動するときの床を圧する力を床から反力として逆向き受けたときの力で,唯一計測できるものである。コンピュータのおかげでその大きさ,方向,圧中心が瞬時にわかるので重力下で行われる動作を理解するには便利な道具となっている。
もう一つの狙いは,動作の観察や分析に必要な生体力学的素養が身につく学習書である。素養を身につける過程では,一つの知識や理解を他の状況でも応用できる認識のレベルにまで高めることが必要となる。本書は目的達成のために,その素養を程良い大きさに分解し,表ページに一つの質問(課題),裏ページでその解説という体裁を採っている。力学の基本知識や理解を少しずつかつ順序良く学べれば,納得のレベルにまで達するという考えである。タイトルの「解いてなっとく」の意味はここにある。
このチャレンジは高く評価したい。多くの初学者が救われると思う。また同業者として多くの示唆をいただいた。しかしそれでもまだ人の動作を力学的に理解できるようになるのは大変だとの印象は強い。本書は人形を用いて基本的理解を求めている。複雑なものを簡単なもので置き換えて説明するのは常套手段だ。しかし人形は動かない。静力学で扱われる。人は動くことが宿命付けられた身体を持つ。人は転倒しやすく,それだけ動きやすい。安定と不安定の繰り返しで身体を移動させる。これは動力学の分野であるが,明らかなことは静力学の基礎がないと動力学はうまく扱えない。その意味で静力学の要素が強い本書はまさに生体力学の入り口に立った初学者の入門書と言える。
しかし,本書を読み終わって心配事がないわけではない。人形から学んだ基本法則だけでは人の動作を誤って解釈する危険性が高いからである。学生は納得するのに自分の身体を使って人形をまねる。そのときその動きあるいは姿勢は人と同じではないことに気が付いてくれるとありがたい。それに気が付かないときは他者からのコメント等,人形から人への橋渡しをしてくれる何かが必要である。
本書は自学のための学習書として有用ではあるが,教師の説明と共に使われる教材としてのほうが力を発揮するように思う。