診療情報学 第2版
学会が総力をあげてまとめたバイブル、待望の改訂版
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診療情報の適正な管理とその活用のための基盤の整備は、医療の質向上に必須の要素として、近年ますますその重要性が認識されている。本書は、日常業務における診療情報の意義、役割、記載方法などについて、日本診療情報管理学会が総力をあげてまとめた、この領域のバイブルとも言えるオフィシャルテキスト。新たな概念・制度、知識・技術を取り入れて、5年ぶりの改訂。
編集 | 日本診療情報管理学会 |
---|---|
発行 | 2015年09月判型:B5頁:488 |
ISBN | 978-4-260-02397-9 |
定価 | 8,800円 (本体8,000円+税) |
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- 序文
- 目次
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序文
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第2版 序
2010年9月に日本診療情報管理学会編集による『診療情報学』が出版され,早くも5年が経過しようとしています.その間に,診療情報をめぐるIT化の動きが加速し,レセプト電算化,電子カルテの普及が進み,さらにDPCデータやナショナルデータベースの活用などがみられるようになりました.一方,情報の管理をめぐる事件が続発し,個人情報の流出など情報管理の倫理性が問題になっています.医療界ではさらに,がん登録やICD-11改訂,災害時診療記録のあり方など,診療情報に関連する新たな動きが展開されていますし,本学会としても「倫理綱領2013」や「診療情報管理士業務指針」なども新たに公表してきました.
こうした流れを受け,昨年秋に,日本診療情報管理学会理事会にて『診療情報学』改訂が論議され,編集委員会を組織し,第2版として再編集することになりました.改訂作業の基本方針は,(1)原則としてページ数を増やさない.(2)最新情報を優先し,時代に合わない内容などは更新して簡潔にまとめる.(3)追加項目については,できるだけ初版の該当項目の中に付け加えるなどの工夫を施すこととしました.具体的には,初版の章・項立てを基本とし,前回の執筆者に修正及び追加内容の記述を依頼.新たな項目については編集委員会より執筆者を選び依頼しました.
各章・項目をご担当いただいた専門家による執筆により,医療従事者が扱う診療情報が体系的に,わかりやすく記述されていて,今後の課題も含めて診療情報の基盤構築に資する内容にまとめることができました.この改訂により,新しい概念,新しい知識・技術を取り入れ,時代に合った学術書としてのクオリティを保持し得たものと確信しています.
今回も,初版同様に多くの執筆者に多大なご労苦ご協力をいただき,また本学会役員はじめ事務局職員,さらに多くの学会員,並びに医学書院関係者の皆様に大変ご尽力をいただきました.編集委員会を代表し,改めて心から御礼を申し上げます.
2015年8月吉日
大井利夫
2010年9月に日本診療情報管理学会編集による『診療情報学』が出版され,早くも5年が経過しようとしています.その間に,診療情報をめぐるIT化の動きが加速し,レセプト電算化,電子カルテの普及が進み,さらにDPCデータやナショナルデータベースの活用などがみられるようになりました.一方,情報の管理をめぐる事件が続発し,個人情報の流出など情報管理の倫理性が問題になっています.医療界ではさらに,がん登録やICD-11改訂,災害時診療記録のあり方など,診療情報に関連する新たな動きが展開されていますし,本学会としても「倫理綱領2013」や「診療情報管理士業務指針」なども新たに公表してきました.
こうした流れを受け,昨年秋に,日本診療情報管理学会理事会にて『診療情報学』改訂が論議され,編集委員会を組織し,第2版として再編集することになりました.改訂作業の基本方針は,(1)原則としてページ数を増やさない.(2)最新情報を優先し,時代に合わない内容などは更新して簡潔にまとめる.(3)追加項目については,できるだけ初版の該当項目の中に付け加えるなどの工夫を施すこととしました.具体的には,初版の章・項立てを基本とし,前回の執筆者に修正及び追加内容の記述を依頼.新たな項目については編集委員会より執筆者を選び依頼しました.
各章・項目をご担当いただいた専門家による執筆により,医療従事者が扱う診療情報が体系的に,わかりやすく記述されていて,今後の課題も含めて診療情報の基盤構築に資する内容にまとめることができました.この改訂により,新しい概念,新しい知識・技術を取り入れ,時代に合った学術書としてのクオリティを保持し得たものと確信しています.
今回も,初版同様に多くの執筆者に多大なご労苦ご協力をいただき,また本学会役員はじめ事務局職員,さらに多くの学会員,並びに医学書院関係者の皆様に大変ご尽力をいただきました.編集委員会を代表し,改めて心から御礼を申し上げます.
2015年8月吉日
大井利夫
目次
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I.診療情報学総論
I-1 序論
I-2 医療における診療情報の意義と役割
I-3 診療情報管理と倫理
I-4 患者情報としての診療情報
I-5 医療機能と診療情報
I-6 医学研究のための診療情報
A.医学・医療の進歩と診療情報
B.死因分類と診療情報
C.病理診断と診療情報
D.診療情報とがん登録
I-7 診療ガイドラインと診療情報
I-8 医療における説明責任と診療情報
I-9 高度情報社会における診療情報
I-10 診療録の用字・用語の使い方
I-11 診療情報に関連した用語について
II.診療情報の価値を高めるためのシステムと評価(診療情報学と応用)
II-1 医療制度のなかの診療情報
II-2 分類体系と疾病・傷害登録
A.WHO国際統計分類
B.脳卒中
C.その他の疾病・傷害登録
II-3 IT化
A.電子カルテの普及と診療録への影響
II-4 医療の評価と診療情報
II-5 経営分析システム
II-6 DPC
II-7 診療情報と支払方法
III.診療記録の種類と記載法
III-1 診療録
A.様式第一号用紙
B.診療申込書
C.入院診療記録:POMR
D.説明と同意書
E.カンファレンス記録
F.手術記録
G.麻酔記録
H.処置記録
I.指示記録
J.対診記録
K.パス記録
L.検査記録・検査報告書
M.病理記録
N.要約書(サマリー)
O.退院療養計画書
P.その他の記録
Q.有害事象報告
R.救急記録
S.災害時の診療
T.緩和ケア
U.ターミナルケア
III-2 看護記録
III-3 リハビリテーションの診療記録
III-4 薬剤記録
III-5 栄養記録
III-6 院外における診療記録
A.地域連携における診療情報
B.在宅記録
C.救急記録(救急救命処置録,トリアージタグ)
III-7 医療事故調査に求められる診療情報による事後的検証能力
III-8 諸制度と実務-各種診断書・意見書
III-9 死亡診断書(死体検案書を含む)
巻末資料
1.世界医師会 患者の権利に関するリスボン宣言
2.世界医師会 ヘルシンキ宣言:人間を対象とする医学研究の倫理的原則
3-1.日本診療情報管理学会「利益相反(COI)マネージメントに関する指針」
3-2.日本診療情報管理学会「利益相反(COI)マネージメントに関する指針」の細則
4.日本診療情報管理学会「診療記録記載指針」
5.医療機関の医療機能に関する情報【病院】
6.医療機関の医療機能に関する情報【診療所】
7.医療機関の医療機能に関する情報【歯科診療所】
8.医療機関の医療機能に関する情報【助産所】
9.別表【病院・診療所・助産所用】
索引
I-1 序論
I-2 医療における診療情報の意義と役割
I-3 診療情報管理と倫理
I-4 患者情報としての診療情報
I-5 医療機能と診療情報
I-6 医学研究のための診療情報
A.医学・医療の進歩と診療情報
B.死因分類と診療情報
C.病理診断と診療情報
D.診療情報とがん登録
I-7 診療ガイドラインと診療情報
I-8 医療における説明責任と診療情報
I-9 高度情報社会における診療情報
I-10 診療録の用字・用語の使い方
I-11 診療情報に関連した用語について
II.診療情報の価値を高めるためのシステムと評価(診療情報学と応用)
II-1 医療制度のなかの診療情報
II-2 分類体系と疾病・傷害登録
A.WHO国際統計分類
B.脳卒中
C.その他の疾病・傷害登録
II-3 IT化
A.電子カルテの普及と診療録への影響
II-4 医療の評価と診療情報
II-5 経営分析システム
II-6 DPC
II-7 診療情報と支払方法
III.診療記録の種類と記載法
III-1 診療録
A.様式第一号用紙
B.診療申込書
C.入院診療記録:POMR
D.説明と同意書
E.カンファレンス記録
F.手術記録
G.麻酔記録
H.処置記録
I.指示記録
J.対診記録
K.パス記録
L.検査記録・検査報告書
M.病理記録
N.要約書(サマリー)
O.退院療養計画書
P.その他の記録
Q.有害事象報告
R.救急記録
S.災害時の診療
T.緩和ケア
U.ターミナルケア
III-2 看護記録
III-3 リハビリテーションの診療記録
III-4 薬剤記録
III-5 栄養記録
III-6 院外における診療記録
A.地域連携における診療情報
B.在宅記録
C.救急記録(救急救命処置録,トリアージタグ)
III-7 医療事故調査に求められる診療情報による事後的検証能力
III-8 諸制度と実務-各種診断書・意見書
III-9 死亡診断書(死体検案書を含む)
巻末資料
1.世界医師会 患者の権利に関するリスボン宣言
2.世界医師会 ヘルシンキ宣言:人間を対象とする医学研究の倫理的原則
3-1.日本診療情報管理学会「利益相反(COI)マネージメントに関する指針」
3-2.日本診療情報管理学会「利益相反(COI)マネージメントに関する指針」の細則
4.日本診療情報管理学会「診療記録記載指針」
5.医療機関の医療機能に関する情報【病院】
6.医療機関の医療機能に関する情報【診療所】
7.医療機関の医療機能に関する情報【歯科診療所】
8.医療機関の医療機能に関する情報【助産所】
9.別表【病院・診療所・助産所用】
索引
書評
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診療情報管理士が日常的に使える“座右の書”
書評者: 岩崎 榮 (NPO法人卒後臨床研修評価機構専務理事)
5年前に初版が発刊され,このたび5年目にして全面改訂とまでは至らないにしても,今回の改訂が編集委員会の代表者であり日本診療情報管理学会の前理事長大井利夫氏の言う新しい概念,新しい知識・技術を取り入れ,時代に合った学術書としてのクオリティを保持し得たものと確信していると語らしめているほどに素晴らしい意欲的編纂の第2版出版である。
随所に新しい記述が加筆され目を引く。例えば第Ⅰ編第6章「D.診療情報とがん登録」の項に,2016年1月から施行される予定のがん登録推進法「がん登録等の推進に関する法律」(平成25年法律第111号)の記載が新しく追加されていて,さらにこのことは,第Ⅱ編第2章「6.がん登録」の「D.臓器がん登録」の中でも触れられている。また同じ章の中に,「A.WHO国際統計分類(WHO-FIC)」が全く新しく加えられている。これはWHOが作成した医療・保健に関する国際統計分類の集まり(ICD,ICF,その他開発中のICHIを中心分類とし,派生分類と関連分類を加えたもので構成される)なのであり,ことにICFはICDとの相互補完的利用により,患者個人の付加情報を豊かにするものであり,医療,介護のスタッフと患者,家族との共通言語としての活用への期待が大きいと強調されている。また,それらの関係性がわかる図が示されていて読者の理解を容易にしていることも,この項だけに限らないが親切さが目を引く。
恐らく,本書を教科書的に利用する診療情報管理士にとってはバイブル的なものであり,机の上の飾り物ではなく日常的に座右の書として利用できるものとなっているところからも,管理士諸氏に本書の活用を推奨したい。毎日目を通しても本文407頁,巻末資料35頁を加えてもそんなに時間はかからない。読破可能である。
話は元に戻るが,特記すべきは,第Ⅲ編第1章の「S.災害時の診療」において,大災害を経験した日本においてしか提案できない災害時の診療記録の在り方や法的な問題等に触れ,さらには第6章の「C.救急記録(救急救命処置録,トリアージタグ)」で,「4.災害発生時の医療記録と事業継続計画(BCP : Business Continuity Plan)」を取り上げている点である。また,第7章「医療事故調査に求められる診療情報による事後的検証能力」の記述では,「医療事故の医学的な原因究明が事故調査の目的であって,責任を追及し当事者を罰することではない」とし,「この調査は裁判など,法的な判断とは関連せずに行われ,中立・公正性と専門性の担保の下でなされる必要がある」(p. 385)とした上で,改めて,診療記録の重要性が述べられている。全ての医療関係者必読の項である。
大井氏は序論で,本書刊行の目的についてこう述べている。「診療情報が患者を中心とする多職種参加のチーム医療の下で正しく活用され,医療の質の向上に寄与することを願うためで,それが医療界全体の知識を深め,真の知恵の創生に役立つための一助になることを望みとしている」(p. 4)と。全く同感である。
わが国の医療の質向上のために極めて重要な書籍の刊行
書評者: 武田 隆久 (武田病院グループ理事長)
このほど,日本診療情報管理学会による『診療情報学』の第2版が発刊された。同書は2010年9月に医学書院から初版が刊行されて以来,多くの関係者に親しまれてきた。初版刊行から5年目を迎え,急速な時代の変化に合わせて,新たな概念,知識,技術を取り入れ,清新な内容とすることで学術書としての質を維持し,医療の質向上と情報活用の基盤整備に資するものにしたいと同学会により第2版がまとめられた。
本書の「序」の中で,編集委員長の大井利夫氏は,最新情報を優先し,時代に合わない内容などは更新して簡潔にまとめ,追加項目は,できるだけ初版の該当項目の中に付け加えるなどの工夫を施したと解説している。
その基本方針に沿って,本書は初版を引き継ぎ,「I.診療情報学総論」「II.診療情報の価値の高めるためのシステムと評価(診療情報学と応用)」と「III.診療記録の種類と記載法」の三部構成となっている。今回新たに,がん登録推進法に係る内容,WHO国際統計分類の動向,JCI(Joint Commission International)と救急・災害医療に係る診療情報などが加筆されている。その内容は極めて密度が高く,その意味で本書は正しく診療情報に関する大著の最新版と言える。
今回の本書の出版に当たって大井氏は,「序論」の中で,「ともすると,データは多いが,真に伝えるべき情報の少ないDRIP Syndrome(筆者註:Data-Rich-Information-Poor Syndrome)に陥っていることはないだろうか」と初版同様,指摘している(p. 3)。医療関係者として,これは常に重要な示唆として胸にとどめておかなければならない。その上で,「患者の医療への有用性とデータベース化された情報の活用は,診療情報の必要性を表しているとまとめることができるであろう。(中略)『診療情報』の諸問題について現時点における統一した見解をまとめることは意義深いことであり,長年の念願でもあった。その意味では,本書は日本診療情報管理学会にとって夢の実現といえなくもない」と改めて感慨深げに述べており,本書は,まさに夢の実現,そして夢の継続にふさわしいものとなっている。
執筆者の方々は日本診療情報管理学会の役員を含めいずれも診療情報分野の専門家,あるいは実務の担当者であり,診療情報に関する最新の知見が体系的に,わかりやすくまとめられている。したがって本書の刊行はわが国の医療の質の向上にとって極めて重要なことであると言って間違いない。医師,看護師など医療従事者,医療関係者はもちろんのこと,診療情報に取り組む大学生,専門学校生など,これからの時代を担う方々にも本書を参照されることをお薦めする。
医療の質向上に大きく寄与する一冊
書評者: 高久 史麿 (日本医学会会長)
平成17年4月に施行された個人情報保護法によって,患者の個人情報は原則として患者自身に帰属するものであることが明示された。一方,病院医療の現場では,チーム医療の推進のために,診療に関する情報の一元化と共有化が強く求められるようになった。そのような状況下にあって個人情報をどのように保護するかが大きな課題となった。
このような問題への対応として,2010年9月に,日本診療情報管理学会の編集による『診療情報学』が医学書院から刊行された。
本書は,わが国の診療情報分野の専門家,実務の担当者によって編集・執筆された,診療情報に関して医療の現場が直面する諸問題をまとめたわが国初の大著であり,医療の管理者から現場の従事者に至る,全ての医療関係者にとって必読の本となった。その意味で本書はわが国の医療の質の向上に大きく寄与したと言っても過言ではないであろう。
本書の初版は,発売2年目の2012年3月に第2刷となっており,このことも本書がいかに医療の現場で広く利用されてきたかを示す事実と言えよう。
しかし,本書の初版が刊行された2010年から2015年の5年間に,診療情報をめぐる環境は大きく変化した。その例としてレセプトの電算化,急速な電子カルテの普及,DPCデータやナショナルデータベースの活用など,診療情報のIT化の動きの加速が挙げられる。さらにICD-11改定,災害時診療記録のあり方など,診療情報の内容に関してもさまざまな新しい動きがみられている。
また,地域包括ケアシステムの導入によって,診療情報の取り扱いには,より一層慎重な対応が求められるようになっている。
このような状況の変化を受けて,日本診療情報管理学会は,本書の第2版を刊行することとなった。第2版は初版と同様に,I.診療情報学総論,II.診療情報の価値を高めるためのシステムと評価(診療情報学と応用),III.診療記録の種類と記載法,の3部によって構成されており,上記に例示した診療情報をめぐる最近の環境の変化に対応した新しい概念,知識,技術が診療情報の専門家によってわかりやすく,かつ詳細に記述されており,初版と同様に医療従事者にとって必読の書となっている。
初版と同様に,第2版がわが国の医療情報のハンドブックとして医療の現場で広く利用されることによって,医療の質の向上に大きく寄与することを強く期待している。第2版を編集された日本診療情報管理学会,特に学会員をはじめとする執筆者の方々に心からの敬意を表して本書の書評の締めくくりとしたい。
書評者: 岩崎 榮 (NPO法人卒後臨床研修評価機構専務理事)
5年前に初版が発刊され,このたび5年目にして全面改訂とまでは至らないにしても,今回の改訂が編集委員会の代表者であり日本診療情報管理学会の前理事長大井利夫氏の言う新しい概念,新しい知識・技術を取り入れ,時代に合った学術書としてのクオリティを保持し得たものと確信していると語らしめているほどに素晴らしい意欲的編纂の第2版出版である。
随所に新しい記述が加筆され目を引く。例えば第Ⅰ編第6章「D.診療情報とがん登録」の項に,2016年1月から施行される予定のがん登録推進法「がん登録等の推進に関する法律」(平成25年法律第111号)の記載が新しく追加されていて,さらにこのことは,第Ⅱ編第2章「6.がん登録」の「D.臓器がん登録」の中でも触れられている。また同じ章の中に,「A.WHO国際統計分類(WHO-FIC)」が全く新しく加えられている。これはWHOが作成した医療・保健に関する国際統計分類の集まり(ICD,ICF,その他開発中のICHIを中心分類とし,派生分類と関連分類を加えたもので構成される)なのであり,ことにICFはICDとの相互補完的利用により,患者個人の付加情報を豊かにするものであり,医療,介護のスタッフと患者,家族との共通言語としての活用への期待が大きいと強調されている。また,それらの関係性がわかる図が示されていて読者の理解を容易にしていることも,この項だけに限らないが親切さが目を引く。
恐らく,本書を教科書的に利用する診療情報管理士にとってはバイブル的なものであり,机の上の飾り物ではなく日常的に座右の書として利用できるものとなっているところからも,管理士諸氏に本書の活用を推奨したい。毎日目を通しても本文407頁,巻末資料35頁を加えてもそんなに時間はかからない。読破可能である。
話は元に戻るが,特記すべきは,第Ⅲ編第1章の「S.災害時の診療」において,大災害を経験した日本においてしか提案できない災害時の診療記録の在り方や法的な問題等に触れ,さらには第6章の「C.救急記録(救急救命処置録,トリアージタグ)」で,「4.災害発生時の医療記録と事業継続計画(BCP : Business Continuity Plan)」を取り上げている点である。また,第7章「医療事故調査に求められる診療情報による事後的検証能力」の記述では,「医療事故の医学的な原因究明が事故調査の目的であって,責任を追及し当事者を罰することではない」とし,「この調査は裁判など,法的な判断とは関連せずに行われ,中立・公正性と専門性の担保の下でなされる必要がある」(p. 385)とした上で,改めて,診療記録の重要性が述べられている。全ての医療関係者必読の項である。
大井氏は序論で,本書刊行の目的についてこう述べている。「診療情報が患者を中心とする多職種参加のチーム医療の下で正しく活用され,医療の質の向上に寄与することを願うためで,それが医療界全体の知識を深め,真の知恵の創生に役立つための一助になることを望みとしている」(p. 4)と。全く同感である。
わが国の医療の質向上のために極めて重要な書籍の刊行
書評者: 武田 隆久 (武田病院グループ理事長)
このほど,日本診療情報管理学会による『診療情報学』の第2版が発刊された。同書は2010年9月に医学書院から初版が刊行されて以来,多くの関係者に親しまれてきた。初版刊行から5年目を迎え,急速な時代の変化に合わせて,新たな概念,知識,技術を取り入れ,清新な内容とすることで学術書としての質を維持し,医療の質向上と情報活用の基盤整備に資するものにしたいと同学会により第2版がまとめられた。
本書の「序」の中で,編集委員長の大井利夫氏は,最新情報を優先し,時代に合わない内容などは更新して簡潔にまとめ,追加項目は,できるだけ初版の該当項目の中に付け加えるなどの工夫を施したと解説している。
その基本方針に沿って,本書は初版を引き継ぎ,「I.診療情報学総論」「II.診療情報の価値の高めるためのシステムと評価(診療情報学と応用)」と「III.診療記録の種類と記載法」の三部構成となっている。今回新たに,がん登録推進法に係る内容,WHO国際統計分類の動向,JCI(Joint Commission International)と救急・災害医療に係る診療情報などが加筆されている。その内容は極めて密度が高く,その意味で本書は正しく診療情報に関する大著の最新版と言える。
今回の本書の出版に当たって大井氏は,「序論」の中で,「ともすると,データは多いが,真に伝えるべき情報の少ないDRIP Syndrome(筆者註:Data-Rich-Information-Poor Syndrome)に陥っていることはないだろうか」と初版同様,指摘している(p. 3)。医療関係者として,これは常に重要な示唆として胸にとどめておかなければならない。その上で,「患者の医療への有用性とデータベース化された情報の活用は,診療情報の必要性を表しているとまとめることができるであろう。(中略)『診療情報』の諸問題について現時点における統一した見解をまとめることは意義深いことであり,長年の念願でもあった。その意味では,本書は日本診療情報管理学会にとって夢の実現といえなくもない」と改めて感慨深げに述べており,本書は,まさに夢の実現,そして夢の継続にふさわしいものとなっている。
執筆者の方々は日本診療情報管理学会の役員を含めいずれも診療情報分野の専門家,あるいは実務の担当者であり,診療情報に関する最新の知見が体系的に,わかりやすくまとめられている。したがって本書の刊行はわが国の医療の質の向上にとって極めて重要なことであると言って間違いない。医師,看護師など医療従事者,医療関係者はもちろんのこと,診療情報に取り組む大学生,専門学校生など,これからの時代を担う方々にも本書を参照されることをお薦めする。
医療の質向上に大きく寄与する一冊
書評者: 高久 史麿 (日本医学会会長)
平成17年4月に施行された個人情報保護法によって,患者の個人情報は原則として患者自身に帰属するものであることが明示された。一方,病院医療の現場では,チーム医療の推進のために,診療に関する情報の一元化と共有化が強く求められるようになった。そのような状況下にあって個人情報をどのように保護するかが大きな課題となった。
このような問題への対応として,2010年9月に,日本診療情報管理学会の編集による『診療情報学』が医学書院から刊行された。
本書は,わが国の診療情報分野の専門家,実務の担当者によって編集・執筆された,診療情報に関して医療の現場が直面する諸問題をまとめたわが国初の大著であり,医療の管理者から現場の従事者に至る,全ての医療関係者にとって必読の本となった。その意味で本書はわが国の医療の質の向上に大きく寄与したと言っても過言ではないであろう。
本書の初版は,発売2年目の2012年3月に第2刷となっており,このことも本書がいかに医療の現場で広く利用されてきたかを示す事実と言えよう。
しかし,本書の初版が刊行された2010年から2015年の5年間に,診療情報をめぐる環境は大きく変化した。その例としてレセプトの電算化,急速な電子カルテの普及,DPCデータやナショナルデータベースの活用など,診療情報のIT化の動きの加速が挙げられる。さらにICD-11改定,災害時診療記録のあり方など,診療情報の内容に関してもさまざまな新しい動きがみられている。
また,地域包括ケアシステムの導入によって,診療情報の取り扱いには,より一層慎重な対応が求められるようになっている。
このような状況の変化を受けて,日本診療情報管理学会は,本書の第2版を刊行することとなった。第2版は初版と同様に,I.診療情報学総論,II.診療情報の価値を高めるためのシステムと評価(診療情報学と応用),III.診療記録の種類と記載法,の3部によって構成されており,上記に例示した診療情報をめぐる最近の環境の変化に対応した新しい概念,知識,技術が診療情報の専門家によってわかりやすく,かつ詳細に記述されており,初版と同様に医療従事者にとって必読の書となっている。
初版と同様に,第2版がわが国の医療情報のハンドブックとして医療の現場で広く利用されることによって,医療の質の向上に大きく寄与することを強く期待している。第2版を編集された日本診療情報管理学会,特に学会員をはじめとする執筆者の方々に心からの敬意を表して本書の書評の締めくくりとしたい。
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