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運動学で心が折れる前に読む本

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高校から物理を避けてきた人、どちらかというと数学も苦手な人、それでも理学療法士・作業療法士を目指すには避けて通れない運動学。本書は、運動学に必要な物理や力学の基本を、脱力系対話形式で解説。随所に入るのどかなイラストがくじけそうになる気持ちを支え、「おさらい」と「復習問題」で国試もわかるように。実は臨床にも役立つお得な1冊。これでもう大丈夫。苦手意識よ、サヨウナラ。
松房 利憲
発行 2017年04月判型:A5頁:144
ISBN 978-4-260-02863-9
定価 1,980円 (本体1,800円+税)

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ある日,病院にて-


桃太さんの体験
 “ゴツン”「痛いっ!」
 いったい何が起こったのでしょうか?
 ここは病院のベッドサイド。セラピストの桃太さんは,頸髄損傷の椿(つばき)さんに,肩関節の可動域訓練を行っていました。桃太さんの右手で椿さんの前腕を,桃太さんの左手で上腕を持って,上肢を動かしている途中に,うっかり右手を離してしまったのです。健康な人であれば,前腕を挙上位で保持できます。では,前腕を挙上位に保つのは何筋でしょうか?上腕三頭筋です。しかしながら椿さんには上腕三頭筋の筋力がまったくないので,挙上位を保持できません。前腕は重力によって落下し,手が椿さんの顔にぶつかってしまったのでした。
 筋の作用と運動学がわかっていれば当然予測できることで,十分に注意しなければならないのに……。

小梅さんの体験
 「杉夫さん,立ちますよ(よいしょっと)」。
 杉夫さんは片麻痺。小梅さんは小柄で,杉夫さんは大柄。小梅さんは最近,腰痛に悩まされています。小梅さんは思いました。
 「どうすれば,もっと楽に立ち上がりを介助できるのかしら。てこの原理とかを使えばよさそうなんだけど,よくわからないままきちゃったし……。もっと運動学を勉強しておけばよかったなぁ(イテテ)」。

楓(かえで)さんの体験
 「楓さーん,ちょっと桜子さんのナースコールをみてくれない?桜子さん,指の力が弱くてナースコールのボタンがちゃんと押せないのよ」。看護師から声がかかりました。
 桜子さんをみると,指の可動域は問題ないのですが,筋力が弱く,ナースコールのボタンをしっかりと押す力はありません。
 「そうだ!運動学で習った“第2のてこ”を使ってみよう」。
 楓さんは,少ない力でボタンを下まで押せる自助具(動作をしやすくする工夫をした道具)を作りました。これで桜子さんも看護師もひと安心。
 「ありがとうございます。これで安心して横になれます」。
 楓さんは「てこのしくみを知っていてよかったな」と思いました。


 私たちは,重力に支配される世界で生活しています。重力に逆らう筋力がなければ,自力で座ることもできません。また,物を操作するのに必要な筋力がなければ,人の手を借りなければなりません。自助具を作る際にも,その動作に効果的に働く筋はどれなのか,知らなければなりません。関節可動域訓練を行う際にも,関節の形状を正確に理解していなければ,とんでもない方向に動かして,関節や筋を痛めてしまう恐れだってあるのです。
 運動学をマスターすることによって,対象者の動作や生活を改善につなげることができます。
 本書は,学生から頻繁に聞かれる「よくわからない」部分を中心に,やさしく,嫌にならないよう,またできるだけ数式は使わないよう,心がけて執筆しました。
 臨床実習で,あるいは社会人として臨床に出た際に,「もっと運動学を勉強しておけばよかった」と後悔しないですむように,基礎を固めてほしいと思います。基礎があれば,あとは応用するだけなのですから。
 本書を通して「運動学って,なんか苦手」という意識は変えられると確信しています。
 最後に,原案の構想段階から年単位でお付き合いいただいた編集部の金井真由子氏,そして制作部の成廣美里氏には並々ならぬ力添えをいただきました。この場を借りて感謝申し上げます。


 2017年2月
 松房利憲

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序 ある日,病院にて-

1 運動のしくみ
 1.筋の構造と収縮
 2.運動の司令塔:脳
 3.運動の大きさ
 4.運動軸
 5.運動自由度
 6.運動方向
 7.関節の構造と種類

2 力学のキホン
 1.ベクトル
 2.ベクトルを体に応用してみよう
 3.力のつりあい
 4.モーメント
 5.てこ
 6.変位と速度と加速度
 7.仕事量と仕事率
 8.運動の法則
 9.エネルギー
 10.質量と重量と重心
 11.床反力と歩行

解答と解説
参考文献
索引

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学生はもちろん,教員にもお薦めしたい一冊
書評者: 中田 眞由美 (埼玉県立大教授・作業療法学)
 ヒトの身体とその運動について学ぶ運動学は,学び方によっては非常に興味深く,またそれをマスターすることは理学療法士・作業療法士をめざす学生にとって必須である。しかし残念ながら,苦手意識を持っている学生は少なくない。その原因を作っているのが,「ベクトル」「モーメント」「てこ」などの力学用語である。これらが出てくると,結構な数の学生が頭を抱えてしまう。

 著者の松房氏(長野保健医療大)は,運動学の授業を30年間にわたって担当しているだけあって,学生がつまずきやすい箇所,苦手とする理由を熟知している。本書は,そうした学生の弱点をあらかじめ見越して執筆されており,学生がつまずかない(=心が折れない)工夫が随所に溢れている。

 本書は,運動学を学ぶ「学生」とそれを教える「先生」の対話形式で,わかりやすく話が進んでいく。そのため学生であれば,ここに出てくる「学生」を自身に重ねながら,「そうそう,そこがわからないの」などというふうに,すっと読み進めていけるだろう。それに対して「先生」は,ときどき冗談を交じえながら,的確な例を挙げて丁寧に解説してくれる。

 例えば,学生が苦手なものの一つに「ベクトル」があるが,それについての2人のやりとりはこんなふうに進んでいく(p.48)。
 「あのー,ベクトルがよくわからないんですけど」という「学生」からの質問に,「先生」は「ベクトルはね,大きさと方向をもつんだ。大きさっていうのは量だよね。方向をもつ量はベクトル量という」と説明する。さらに学生は「方向って?」と聞いてくるが,それに対してライフルで弾を撃った時の例を上げ,弾が飛んでいく方向と速さを学生に考えさせながら解説し,大きさと方向を持つものがベクトル量であり,方向を持たないものがスカラー量であることを説明していく。さらに学生からの「ベクトル量が合成できたり,分解できたりするって,どういうことですか?」という質問にも丁寧に答えてくれる。

 各解説の最後に「本日のおさらい」があり,穴埋め形式の設問が用意されている。これによって,自身の理解の程度が確認できるように工夫されている。さらに「復習問題」が用意され,学習内容が復習できるという念の入れようである。もちろん,巻末には「本日のおさらい」や「復習問題」について解説と解答が用意されている。

 次の項に進むと,今度はベクトルがヒトの体に応用されて,説明が進んでいく。随所に挿入されているイラストがとてもわかりやすく,ユーモラスに描かれているので,これも理解を深めるのに一役買っている。

 本書は,運動学を学ぶ学生だけでなく,運動学を担当している教員にとっても,教え方のヒントが散りばめられている。学生はもちろん,教員にもお薦めしたい一冊である。
「心が折れそうな」学生に,そうなる前に薦めてほしい
書評者: 高嶋 孝倫 (長野保健医療大学教授・リハビリテーション学)
 運動学は,ヒトの体の動きに関する学問です。「運動」とは,この地球上という時空間での重力に抗したさまざまな動きであることから,運動学を理解するには,物理学や数学の素養が求められます。そのせいか,途中で理解が及ばなくなり,あるいは拒否反応のようなものを感じてしまい,「心が折れてしまう」学生もいます。本書は,そうなりそうな人に,そうなる前に読んでもらいたい参考書です。

 第1章では,「運動のしくみ」について整理されています。この部分は,用語の定義と説明が中心で,言葉の丸暗記になりがちですが,ラテン語の語源なども交えて,記憶に残る解説が施されています。先生と生徒の対話形式で記述される本文には,随所にユーモアが散りばめられて読者を飽きさせず,無理のない自主学習につながります。

 この本は「参考書」に位置付けられています。参考書は,理解を初学者自身によって助けるもので,自分で読んで理解できることが必要だと思います。他方,教科書は,その分野のエッセンスが集約されたもので,専門用語やキーワードが最大限に収載され,整理されていますが,初学者が理解できるとは思えません。そのため授業での解説が必要で,事例を挙げたり,一般論に置き換えて説明したりすることによって,学生の理解が生まれると考えています。繰り返しになりますが,この本は参考書であり,学生が自習して「なるほど」と思える一冊です。

 第2章は,運動学の基礎となる物理学的な内容が解説されます。ベクトルの意味に始まり,エネルギーとは何か,歩行中の床反力はなぜ生じるか,など,それらが「なぜ」という観点で記述されているので,記憶に残る理解が得られます。しかもこうした記述が非常に短い文章なので,高校で物理を履修していない方でもシンプルに頭に入ります。シンプルでありながら,内容に過不足なく文言化された著者に敬意を表します。

 これまで,運動学などの理数系の基礎知識を必要とする学問で「心が折れてしまう」学生を,幾度も目にしてきました。本稿を学生が目にする機会は少ないかもしれません。周りに「心が折れそうな」学生がいたらぜひとも本書をご推薦いただければと思います。
運動学の勉強を避けている学生さんにオススメします!
書評者: 目須田 知果 (児童発達支援センターにじいろキッズらいふ/作業療法士)
 私は学生時代,物理がとても苦手でした。運動学を勉強しようとしても,どこから勉強してよいのかわからず,理屈を理解できないまま,授業で配られたプリントや教科書にある公式や図を,ただただ丸暗記していたように思います。そのせいか,臨床現場に出て,運動学の考え方を応用して使っていくことの必要性と難しさを,日々痛感しています。

 本書は,物理や数学が苦手な学生が,運動学の授業でつまずかないように,その基礎となる力学の知識が,対話形式で解説されています。とても読みやすく,なおかつ簡潔に説明されているので,物理学が苦手な私でも抵抗なく,最後まで楽しみながら読むことができました。本書に出てくる「先生」の例えが,日常生活で私たちがよく知っているもの(そうめんやビールの飲み方など)なので,難しい内容も簡単にイメージでき,覚えやすく,なおかつ忘れにくいです。

 項目ごとに「本日のおさらい」と「復習問題」があるため,自分が読んだ内容を理解できているかどうか,すぐに確認できます。また,できない問題があると,理解できていなかった部分が明らかになり,どこをもう一度勉強すればよいかがわかるため,効率よく運動学を学んでいくことができます。

 自分が学生時代に本書を読んでいれば,ただの暗記にならず,理解しながら学ぶことができ,今頃は運動学の知識を臨床現場に活かすことができていたのではないでしょうか。

 もちろん,臨床現場に出てから本書を読んでも大丈夫です。気になる項目から読めますので,疑問点をすぐに確認できます。そういう意味では,臨床に出てからも役に立つ本です。

 今回,私は本書を読んでみて,「苦手というだけで嫌っていた物理や運動学だけど,実は面白い教科だったのかもしれない」と感じました。運動学でくじけそうになっても,本書を手に取れば,再びやる気を出して取り組むことができます。

 運動学の基本を理解し,国試に挑み,そして毎日の臨床現場でその知識を活かしていくことができるよう,物理や数学に苦手意識があり,運動学の勉強を避けている学生さんに,本書をお薦めします。

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