神経内科ハンドブック 第5版
鑑別診断と治療
神経内科臨床のエンサイクロペディア、待望の改訂
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神経内科専門医をめざす研修医・若手臨床医のための定番書、5年ぶりの改訂。進歩著しい神経学の知識をフォローすべく、各種領域のエキスパートが分担して内容をくまなくアップデート。神経学的診察法などについては従来どおり懇切丁寧に解説しながらも、改訂にあたり目次構成を見直し、ベッドサイドでさらに扱いやすくなることをめざした。まさに神経学の臨床エンサイクロペディアといえる1冊。
編集 | 水野 美邦 |
---|---|
発行 | 2016年09月判型:A5頁:1370 |
ISBN | 978-4-260-02417-4 |
定価 | 14,850円 (本体13,500円+税) |
更新情報
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- 序文
- 目次
- 書評
- 正誤表
序文
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第5版の序
本書も第5版を迎える時期になった.第4版の最初の印刷が2010年3月15日であるから,あれからもう6年以上経過している.もうそろそろ第5版をださないかとのお話をあちこちからいただき,準備を始めたのが今から2年以上前だと思う.やっと原稿が揃い上梓できることとなった.第4版で既に初版の2倍を超え,ますます全体を数名でカバーするのは難しくなり,今回は40名の方々の分担執筆を願った.頁数はできるだけ増やさない方針で臨んだが,それでも仕上がりを見ると1,300頁を超えるものになってしまった.執筆者は今回,望月秀樹教授が大阪大学医学部神経内科の主任教授に就任したことから,大阪大学関連の先生方にも加わっていただいた.
神経内科の領域も大変広くなり,1人ですべてをカバーすることは難しくなっている.外来で患者さんを診る場合でも,専門としていない患者さんが見えた場合には,成書を読まないと最新の診断方法,治療方針がわからない場合がある.神経内科専門医をとるまではどのような患者さんが来られようと知識は十分であるとの自信をもっておられる方が大部分であると思うが,専門医になってからは段々それぞれの専門領域ができはじめ,専門外の診療が不得意になることがある.そのような時のために,本書はできるだけ沢山の事柄に少しは何かが書いてあるように心がけた.足りない分はもっと大きな成書や文献をあたって知識を深めていただきたい.
本書の第1版の序文を見ると,編者がアメリカでレジデント生活を送っていたとき,その時見聞きしたものを忘れないうちに書き留めておきたいということが書いてある.編者は昭和44年から48年までシカゴのノースウエスタン大学でレジデントとして過ごしたが,毎朝早くから教育担当の医師が前日入院した患者さんを中心に,鑑別診断,治療を皆と討論した.その後回診であるが,そこではカルテを持たず全部暗記で病歴,検査所見を述べさせられた記憶がある.午後は神経放射線などの実技に回ることが多かった.一定期間病棟を受けもつと,ベッドを離れて,脳波,筋電図,神経病理,神経放射線,精神科,小児神経などのローテーションがあり,充実した毎日であった.帰国して自治医大,順天堂医院で臨床にあたる機会に恵まれ,できるだけローテーションを組み入れたが,教育スタッフが限られていることで思うに任せなかった点は残念である.
本書はそういうわけで神経学会の専門医の資格をとるまでの間とその後の外来,病棟の主治医になられる頃の医師の参考になることを目指して書いてある.また鑑別診断に相当重きを置いている.局所診断,症候からの鑑別診断,神経学的検査法,診断と治療すべてにわたり,鑑別診断を重視してあるので,そういう目で本書を利用していただきたい.症候からの鑑別診断ではかなり大きな表がでてくるが,表は知識の整理に役立つ.診断と治療の各論では,さらに最新の治療を挙げるようにした.付録の一部にはSnellen Chartがつけてあるが,これはベッドサイドで視力を見る場合に有用である.索引も日本語と英語でできるだけ色々な方向から項目を引けるようにした.
最後に本書の刊行にあたっては,医学書院の方々には大変世話になった.ここに深甚の謝意を表する次第である.
2016年8月
順天堂大学名誉教授 水野美邦
本書も第5版を迎える時期になった.第4版の最初の印刷が2010年3月15日であるから,あれからもう6年以上経過している.もうそろそろ第5版をださないかとのお話をあちこちからいただき,準備を始めたのが今から2年以上前だと思う.やっと原稿が揃い上梓できることとなった.第4版で既に初版の2倍を超え,ますます全体を数名でカバーするのは難しくなり,今回は40名の方々の分担執筆を願った.頁数はできるだけ増やさない方針で臨んだが,それでも仕上がりを見ると1,300頁を超えるものになってしまった.執筆者は今回,望月秀樹教授が大阪大学医学部神経内科の主任教授に就任したことから,大阪大学関連の先生方にも加わっていただいた.
神経内科の領域も大変広くなり,1人ですべてをカバーすることは難しくなっている.外来で患者さんを診る場合でも,専門としていない患者さんが見えた場合には,成書を読まないと最新の診断方法,治療方針がわからない場合がある.神経内科専門医をとるまではどのような患者さんが来られようと知識は十分であるとの自信をもっておられる方が大部分であると思うが,専門医になってからは段々それぞれの専門領域ができはじめ,専門外の診療が不得意になることがある.そのような時のために,本書はできるだけ沢山の事柄に少しは何かが書いてあるように心がけた.足りない分はもっと大きな成書や文献をあたって知識を深めていただきたい.
本書の第1版の序文を見ると,編者がアメリカでレジデント生活を送っていたとき,その時見聞きしたものを忘れないうちに書き留めておきたいということが書いてある.編者は昭和44年から48年までシカゴのノースウエスタン大学でレジデントとして過ごしたが,毎朝早くから教育担当の医師が前日入院した患者さんを中心に,鑑別診断,治療を皆と討論した.その後回診であるが,そこではカルテを持たず全部暗記で病歴,検査所見を述べさせられた記憶がある.午後は神経放射線などの実技に回ることが多かった.一定期間病棟を受けもつと,ベッドを離れて,脳波,筋電図,神経病理,神経放射線,精神科,小児神経などのローテーションがあり,充実した毎日であった.帰国して自治医大,順天堂医院で臨床にあたる機会に恵まれ,できるだけローテーションを組み入れたが,教育スタッフが限られていることで思うに任せなかった点は残念である.
本書はそういうわけで神経学会の専門医の資格をとるまでの間とその後の外来,病棟の主治医になられる頃の医師の参考になることを目指して書いてある.また鑑別診断に相当重きを置いている.局所診断,症候からの鑑別診断,神経学的検査法,診断と治療すべてにわたり,鑑別診断を重視してあるので,そういう目で本書を利用していただきたい.症候からの鑑別診断ではかなり大きな表がでてくるが,表は知識の整理に役立つ.診断と治療の各論では,さらに最新の治療を挙げるようにした.付録の一部にはSnellen Chartがつけてあるが,これはベッドサイドで視力を見る場合に有用である.索引も日本語と英語でできるだけ色々な方向から項目を引けるようにした.
最後に本書の刊行にあたっては,医学書院の方々には大変世話になった.ここに深甚の謝意を表する次第である.
2016年8月
順天堂大学名誉教授 水野美邦
目次
開く
1章 神経学的診察法
1 精神状態の診かた
2 失語・失行・失認の診かた
3 脳神経の診かた
4 運動機能の診かた
5 反射の診かた
6 感覚系の診かた
7 自律神経系の診かた
8 髄膜症候の診かた
9 血管系の診かた
2章 局所診断
3章 症候から鑑別診断へ
1 意識障害
2 知的機能障害と認知症
3 睡眠障害
4 てんかん
5 頭痛
6 めまい
7 失神
8 視力および視野障害
9 眼球運動障害と瞳孔異常
10 構音障害と嚥下障害
11 歩行障害
12 筋力低下および筋萎縮
13 不随意運動
14 運動失調
15 感覚障害,しびれ,痛み
16 排尿・排便障害,性機能障害
17 急性横断性脊髄障害
4章 神経学的検査法
1 脳脊髄液の検査
2 神経放射線学的検査
A CT
B MRI
C 脳脊髄血管撮影
D 放射線核種を利用した神経放射線学的検査
3 生理学的検査
4 神経眼科・神経耳科学的検査
5 神経病理学的検査
6 自律神経機能検査
5章 診断と治療
1 脳脊髄血管障害
A 脳血管障害の分類と診断・治療
B 虚血性脳血管障害
C 出血性脳血管障害
D 血管炎による脳血管障害
E 非炎症性の脳血管障害
F 遺伝的素因と脳血管障害
G 血栓形成・凝固異常と脳血管障害
H 脊髄血管障害
2 脳腫瘍,脊髄腫瘍
A 脳腫瘍総論
B 脳腫瘍各論
C 脊髄腫瘍
D 脳腫瘍・脊髄腫瘍の放射線治療
3 頭部外傷,脊髄外傷
A 頭部外傷
B 脊髄外傷
4 髄液動態異常
5 先天性疾患
A 先天性疾患の成因・分類
B 単一遺伝疾患;奇形症候群
C 単一遺伝子疾患;神経皮膚症候群
D 多因子疾患
E 染色体異常
F 催奇性因子,胎内感染など
6 感染性疾患
A ウイルス感染症
B リケッチア感染症
C 細菌感染症
D スピロヘータ感染症
E 真菌感染症
F 原虫感染症
G 寄生虫感染症
7 自己免疫性疾患
A 膠原病,膠原病類縁疾患と神経障害
B その他の炎症性疾患に伴う神経障害
C 傍腫瘍性神経症候群
D その他の自己抗体による神経筋疾患
8 脱髄性疾患
9 中毒性疾患
A 重金属中毒
B 有機物質による中毒
C 薬物中毒
D 生物毒素
10 代謝性疾患
A 先天性代謝異常症総論
B アミノ酸代謝異常症
C 糖質代謝異常症
D 脂質代謝異常症
E ムコ多糖症
F 糖蛋白質オリゴ糖鎖代謝異常症
G ペルオキシソーム異常症
H ミトコンドリア異常症
I 核酸代謝異常症
J 金属代謝異常症
K その他の代謝異常症
11 内科疾患に伴う神経系障害
A ビタミン欠乏症
B 内分泌疾患に伴う神経障害
C 肝・腎・肺疾患に伴う神経障害
D 血液疾患に伴う神経障害
E Langerhans細胞組織球症
F 髄膜癌症
12 変性疾患
A 認知症症状を主とする疾患
B-1 大脳基底核の障害を主とする疾患(錐体外路系疾患)
B-2 パーキンソニズムを主とする疾患
B-3 不随意運動を主とする疾患
C 運動失調を主とする疾患(脊髄小脳変性症)
D 筋萎縮を主とする疾患
13 脊椎疾患
14 末梢神経障害
A 免疫性ニューロパチー
B 血管炎性ニューロパチー
C 遺伝性ポリニューロパチー
D 中毒性ニューロパチー
E 感染性ニューロパチー
F 全身疾患に伴うニューロパチー
G 栄養欠乏性ニューロパチー
H その他のニューロパチー
15 神経筋接合部疾患
16 筋疾患
A 炎症性筋疾患
B 筋ジストロフィー
C 筋強直性ジストロフィー
D 先天性ミオパチー
E ミトコンドリア病
F 周期性四肢麻痺
G (非ジストロフィー性)筋強直症候群
H 代謝性ミオパチー
I 内科疾患などに伴う筋症状
J 横紋筋融解症・ミオグロビン尿
K 悪性高熱
L 筋攣縮および類縁疾患
付録
索引
1 精神状態の診かた
2 失語・失行・失認の診かた
3 脳神経の診かた
4 運動機能の診かた
5 反射の診かた
6 感覚系の診かた
7 自律神経系の診かた
8 髄膜症候の診かた
9 血管系の診かた
2章 局所診断
3章 症候から鑑別診断へ
1 意識障害
2 知的機能障害と認知症
3 睡眠障害
4 てんかん
5 頭痛
6 めまい
7 失神
8 視力および視野障害
9 眼球運動障害と瞳孔異常
10 構音障害と嚥下障害
11 歩行障害
12 筋力低下および筋萎縮
13 不随意運動
14 運動失調
15 感覚障害,しびれ,痛み
16 排尿・排便障害,性機能障害
17 急性横断性脊髄障害
4章 神経学的検査法
1 脳脊髄液の検査
2 神経放射線学的検査
A CT
B MRI
C 脳脊髄血管撮影
D 放射線核種を利用した神経放射線学的検査
3 生理学的検査
4 神経眼科・神経耳科学的検査
5 神経病理学的検査
6 自律神経機能検査
5章 診断と治療
1 脳脊髄血管障害
A 脳血管障害の分類と診断・治療
B 虚血性脳血管障害
C 出血性脳血管障害
D 血管炎による脳血管障害
E 非炎症性の脳血管障害
F 遺伝的素因と脳血管障害
G 血栓形成・凝固異常と脳血管障害
H 脊髄血管障害
2 脳腫瘍,脊髄腫瘍
A 脳腫瘍総論
B 脳腫瘍各論
C 脊髄腫瘍
D 脳腫瘍・脊髄腫瘍の放射線治療
3 頭部外傷,脊髄外傷
A 頭部外傷
B 脊髄外傷
4 髄液動態異常
5 先天性疾患
A 先天性疾患の成因・分類
B 単一遺伝疾患;奇形症候群
C 単一遺伝子疾患;神経皮膚症候群
D 多因子疾患
E 染色体異常
F 催奇性因子,胎内感染など
6 感染性疾患
A ウイルス感染症
B リケッチア感染症
C 細菌感染症
D スピロヘータ感染症
E 真菌感染症
F 原虫感染症
G 寄生虫感染症
7 自己免疫性疾患
A 膠原病,膠原病類縁疾患と神経障害
B その他の炎症性疾患に伴う神経障害
C 傍腫瘍性神経症候群
D その他の自己抗体による神経筋疾患
8 脱髄性疾患
9 中毒性疾患
A 重金属中毒
B 有機物質による中毒
C 薬物中毒
D 生物毒素
10 代謝性疾患
A 先天性代謝異常症総論
B アミノ酸代謝異常症
C 糖質代謝異常症
D 脂質代謝異常症
E ムコ多糖症
F 糖蛋白質オリゴ糖鎖代謝異常症
G ペルオキシソーム異常症
H ミトコンドリア異常症
I 核酸代謝異常症
J 金属代謝異常症
K その他の代謝異常症
11 内科疾患に伴う神経系障害
A ビタミン欠乏症
B 内分泌疾患に伴う神経障害
C 肝・腎・肺疾患に伴う神経障害
D 血液疾患に伴う神経障害
E Langerhans細胞組織球症
F 髄膜癌症
12 変性疾患
A 認知症症状を主とする疾患
B-1 大脳基底核の障害を主とする疾患(錐体外路系疾患)
B-2 パーキンソニズムを主とする疾患
B-3 不随意運動を主とする疾患
C 運動失調を主とする疾患(脊髄小脳変性症)
D 筋萎縮を主とする疾患
13 脊椎疾患
14 末梢神経障害
A 免疫性ニューロパチー
B 血管炎性ニューロパチー
C 遺伝性ポリニューロパチー
D 中毒性ニューロパチー
E 感染性ニューロパチー
F 全身疾患に伴うニューロパチー
G 栄養欠乏性ニューロパチー
H その他のニューロパチー
15 神経筋接合部疾患
16 筋疾患
A 炎症性筋疾患
B 筋ジストロフィー
C 筋強直性ジストロフィー
D 先天性ミオパチー
E ミトコンドリア病
F 周期性四肢麻痺
G (非ジストロフィー性)筋強直症候群
H 代謝性ミオパチー
I 内科疾患などに伴う筋症状
J 横紋筋融解症・ミオグロビン尿
K 悪性高熱
L 筋攣縮および類縁疾患
付録
索引
書評
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日本で書かれた最高の神経内科学教科書
書評者: 野元 正弘 (愛媛大大学院教授・薬物療法・神経内科)
『神経内科ハンドブック』第5版が刊行された。『神経内科ハンドブック』は水野美邦先生を中心として順大脳神経内科のスタッフで執筆され,初版の出版時から,わが国で最もよく用いられている神経内科学の臨床書である。神経内科学を専攻し専門医を取得する時期の医師および,その後,外来や病棟で診療に当たる医師を対象に執筆されているが,血管障害,認知症などのcommon diseaseから希少疾患まで,広い分野に対応できるように編纂されており,専門医取得後も常に復習にも用いることができるので,神経内科学を専攻する医師の教科書となっている。数年ごとに改版されて内容が一層充実しており,今回からは順大出身の望月秀樹先生が阪大神経内科学講座を担当されるようになったことから,阪大関連の先生方も執筆に参加されている。
構成はよく吟味されて項目が設けてられており,神経学的診察法から局所診断,鑑別診断さらに神経学的検査法が詳述され,解剖学,生理学の基本を振り返りながら勉強できる内容となっている。特に「症候から鑑別診断」は日常の診療で課題となる訴えや症候から,実施すべき検査や鑑別すべき疾患への道筋が詳述されており,素晴らしい項目である。その考え方をぜひ学んでいただきたい。各論ではcommon diseaseから希少疾患まで,いずれの項目も詳細に検討されて執筆されており,内容は正確で神経内科学を勉強する医師にとって,最高の教科書となっている。また,新しい内容がタイムリーに更新されており,大きな発展を遂げて開発が今も盛んな抗腫瘍薬による神経障害の項目でも,新しい薬が十分に追加されているなど,日本で書かれた神経内科学教科書で,最高の書といってよい。その分,前版からのページ数の増加はやむを得ないと思うが,大きさはA5判とコンパクトであり,日常の診療の中でも使いやすく,神経内科学を専攻する医師にとって必須の教科書と言ってよい。紙面も2色刷りになっており,基本として記憶すべき英語名は色文字としている点など,専門医などの受験には特に有用である。
以上のことから,この『神経内科ハンドブック 第5版』を神経内科医の素晴らしい教科書として推薦する。本書は今後さらに広く用いられて神経内科診療の一層の充実に貢献することを確信している。
レジデントだけでなく専門医にも知識源となる書
書評者: 廣瀬 源二郎 (浅ノ川総合病院顧問・脳神経センター長/金沢医大名誉教授)
水野美邦先生の編集された神経内科臨床のエンサイクロペディアと称されるスタンダード教科書がついに6年ぶりに改訂され,待望の第5版が上梓された。
初版で米国流のレジデント向けマニュアルの日本版を意図して編集された本書が29年を経て新たな神経学教科書として登場したと言えよう。順大教授を退職されて以降も臨床を続けられ,その間も神経学教育のあるべき姿を考えて熟慮された中から生まれた書である。
私は第3版の出版時に本書の書評を書かせていただいているが,今回のハンドブックは重みも中身も重量化され,執筆者は倍増の40名,ページ数1368頁で発刊された。本書の項目数は実に500を超え,最新の診断と治療法が記載された膨大な教科書となった。世界で『神経学のバイブル』と称されるWilliam Gowersの教科書“A Manual of Diseases of the Nervous System”は1886-87年の発刊で疾患項目数132であるが,本書では実に467となり,項目ごとに適切な執筆者を得て内容が豊富となり,百科事典的な標準教科書がさらに充実したものとなった。編集者の初期のねらいである神経学のレジデント向けマニュアルの域を超えて,今や神経内科専門医が生涯教育として新たな神経疾患に取り組むときの座右の書として使える参考書である。
編者の意図はさらに鑑別診断に重きを置いて組まれており,症候から鑑別診断への項では17項目の症候についての鑑別が250ページ以上となり,読者の整理のため,沢山の鑑別診断のための表が挙げられている。これらを利用すれば混乱せずに正しい診断に導かれる訳である。
米国でのレジデント教育を経験された編者が,わが国での研修教育にも標準化が不可欠と考えて日本版のレジデント向けマニュアル初版がコンパクトに組まれた訳である。しかし今やわが国での卒後の神経学教育のレベルは欧米と遜色のない所に到達してきており,内容としてレジデント向けマニュアルの基準を残しつつ,さらなる神経専門医のレベル向上をめざして一人でカバーすることの難しくなった各神経疾患の病態,治療法を編者の意図を十分に把握した多数の専門医を得て分担執筆で編まれたものである。近年著しく発達した神経学全般の中でとりわけ分子病態,遺伝学,免疫学,放射線診断学,疾患治療学はその知識の整理が大変となってきており,臨床の現場で現在での立ち位置,いわゆる標準的な診断・治療を常に確認しておく必要があろう。
神経内科の初心者の専門医試験への準備段階でも有用なマニュアル的教科書であるとともに,専門医となった後もそのレベルを保つため臨床現場で患者に合わせてひもとくことで疾患概念を再把握して,新たな治療へと進める重要な知識源となる書であり,自信を持ってお薦めしたい。
書評者: 野元 正弘 (愛媛大大学院教授・薬物療法・神経内科)
『神経内科ハンドブック』第5版が刊行された。『神経内科ハンドブック』は水野美邦先生を中心として順大脳神経内科のスタッフで執筆され,初版の出版時から,わが国で最もよく用いられている神経内科学の臨床書である。神経内科学を専攻し専門医を取得する時期の医師および,その後,外来や病棟で診療に当たる医師を対象に執筆されているが,血管障害,認知症などのcommon diseaseから希少疾患まで,広い分野に対応できるように編纂されており,専門医取得後も常に復習にも用いることができるので,神経内科学を専攻する医師の教科書となっている。数年ごとに改版されて内容が一層充実しており,今回からは順大出身の望月秀樹先生が阪大神経内科学講座を担当されるようになったことから,阪大関連の先生方も執筆に参加されている。
構成はよく吟味されて項目が設けてられており,神経学的診察法から局所診断,鑑別診断さらに神経学的検査法が詳述され,解剖学,生理学の基本を振り返りながら勉強できる内容となっている。特に「症候から鑑別診断」は日常の診療で課題となる訴えや症候から,実施すべき検査や鑑別すべき疾患への道筋が詳述されており,素晴らしい項目である。その考え方をぜひ学んでいただきたい。各論ではcommon diseaseから希少疾患まで,いずれの項目も詳細に検討されて執筆されており,内容は正確で神経内科学を勉強する医師にとって,最高の教科書となっている。また,新しい内容がタイムリーに更新されており,大きな発展を遂げて開発が今も盛んな抗腫瘍薬による神経障害の項目でも,新しい薬が十分に追加されているなど,日本で書かれた神経内科学教科書で,最高の書といってよい。その分,前版からのページ数の増加はやむを得ないと思うが,大きさはA5判とコンパクトであり,日常の診療の中でも使いやすく,神経内科学を専攻する医師にとって必須の教科書と言ってよい。紙面も2色刷りになっており,基本として記憶すべき英語名は色文字としている点など,専門医などの受験には特に有用である。
以上のことから,この『神経内科ハンドブック 第5版』を神経内科医の素晴らしい教科書として推薦する。本書は今後さらに広く用いられて神経内科診療の一層の充実に貢献することを確信している。
レジデントだけでなく専門医にも知識源となる書
書評者: 廣瀬 源二郎 (浅ノ川総合病院顧問・脳神経センター長/金沢医大名誉教授)
水野美邦先生の編集された神経内科臨床のエンサイクロペディアと称されるスタンダード教科書がついに6年ぶりに改訂され,待望の第5版が上梓された。
初版で米国流のレジデント向けマニュアルの日本版を意図して編集された本書が29年を経て新たな神経学教科書として登場したと言えよう。順大教授を退職されて以降も臨床を続けられ,その間も神経学教育のあるべき姿を考えて熟慮された中から生まれた書である。
私は第3版の出版時に本書の書評を書かせていただいているが,今回のハンドブックは重みも中身も重量化され,執筆者は倍増の40名,ページ数1368頁で発刊された。本書の項目数は実に500を超え,最新の診断と治療法が記載された膨大な教科書となった。世界で『神経学のバイブル』と称されるWilliam Gowersの教科書“A Manual of Diseases of the Nervous System”は1886-87年の発刊で疾患項目数132であるが,本書では実に467となり,項目ごとに適切な執筆者を得て内容が豊富となり,百科事典的な標準教科書がさらに充実したものとなった。編集者の初期のねらいである神経学のレジデント向けマニュアルの域を超えて,今や神経内科専門医が生涯教育として新たな神経疾患に取り組むときの座右の書として使える参考書である。
編者の意図はさらに鑑別診断に重きを置いて組まれており,症候から鑑別診断への項では17項目の症候についての鑑別が250ページ以上となり,読者の整理のため,沢山の鑑別診断のための表が挙げられている。これらを利用すれば混乱せずに正しい診断に導かれる訳である。
米国でのレジデント教育を経験された編者が,わが国での研修教育にも標準化が不可欠と考えて日本版のレジデント向けマニュアル初版がコンパクトに組まれた訳である。しかし今やわが国での卒後の神経学教育のレベルは欧米と遜色のない所に到達してきており,内容としてレジデント向けマニュアルの基準を残しつつ,さらなる神経専門医のレベル向上をめざして一人でカバーすることの難しくなった各神経疾患の病態,治療法を編者の意図を十分に把握した多数の専門医を得て分担執筆で編まれたものである。近年著しく発達した神経学全般の中でとりわけ分子病態,遺伝学,免疫学,放射線診断学,疾患治療学はその知識の整理が大変となってきており,臨床の現場で現在での立ち位置,いわゆる標準的な診断・治療を常に確認しておく必要があろう。
神経内科の初心者の専門医試験への準備段階でも有用なマニュアル的教科書であるとともに,専門医となった後もそのレベルを保つため臨床現場で患者に合わせてひもとくことで疾患概念を再把握して,新たな治療へと進める重要な知識源となる書であり,自信を持ってお薦めしたい。
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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。
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