臨床でよく出合う
痛みの診療アトラス

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コモンな痛み124疾患の病態生理、徴候、治療方針をイラストとともに簡潔に解説。疾患名や症候群名を明示し、イラストを多用することで、患者の訴えを具体的にイメージできる。鑑別を要する症候群が提示され、診断に必要な画像所見の例も豊富。一般内科、総合診療科といったジェネラリストのみならず、整形外科、麻酔科、神経内科などの痛みを扱う専門診療科医師にもおすすめの1冊。
原著 Steven D. Waldman
太田 光泰 / 川崎 彩子
発行 2014年02月判型:B5頁:464
ISBN 978-4-260-01765-7
定価 10,450円 (本体9,500円+税)

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訳者序

訳者序
 医師であれば誰しも患者の苦しみを解決したいものであろう.医学部を目指す学生も,面接では「患者さんの痛みがわかる医師になりたい」と話す.科学技術の進歩は著しく,一目瞭然たる画像診断は目を見張るものがある.しかし,そこに到達するまでの道のりは実は険しいのではないだろうか.私のもとを訪れる「痛い」患者の多くを画像診断で解決しようとも,謎は深まるばかり.内視鏡医であった私が自分なりに苦しんだ結果,卒後10年たって総合診療医を目指すに至ったきっかけは,「痛みを理解し解決したい」という思いであった.その後,幸いにも生坂政臣先生(千葉大学医学部附属病院総合診療部教授)の門下生となり,問診をつき詰める前向き推論であらゆる症候を解決していく手法を学び続けている.「痛み」の診断もしかりである.師は諭す.「患者の困っていることをイメージできるか」と.さらに「痛みの発生原因はどこなのか? そして病態生理はどうなのか?」と.そう,イメージできなければ,診断など不可能なのである.解剖と病態生理が理解できなければ,イメージすらわかないのである.診断ができなければ治療のスタートラインにも立てない.
 新たな修行の途上,学生以来の不勉強を取り戻そうと,発生学書,解剖学書,生理学書などを読んでいた折,同門の先生から紹介されたのが本書である.イラスト,画像と簡潔な記述により,解剖,病態生理,画像,鑑別診断が示される.疾患のイメージ作りがスムーズにできる.本書は,掲載された疾患を眼前の患者に当てはめるcook bookのような利用法もあるが,むしろ領域別にcommon diseaseが列挙されているため,診断仮説構築のためのanchoringの一助としての利用を勧める.Common diseaseとの違いは何かを意識することで,究極の「引き算診断」により,正確な診断が導かれるのである.いずれにせよ,私と同じ苦しみを持って診療にあたる多くの臨床医の先生方にとって,本書が「何が,どのように辛いのか」を「イメージする」ための福音書となればと思う.
 師の門を叩き10年を迎える.「100年たっても変わらない」ことを一つひとつ学び実践したい気持ちは強まる一方であるが,自らのセンスのなさを嘆き,いまだ勉強の日々である.それゆえに,訳者の経験不足や思い違いによる誤りについては忌憚のないご批判を仰ぎたい.共訳者は横浜時代の後輩の川崎彩子先生にお願いしたが,いつも陰で支えてくれる女史には今回もどれだけ助けられたかわからない.ひたすら感謝である.総合診療科には整形外科,精神科疾患を含め,全科的「痛み」患者が訪れる.「痛み」を学ぶことは「総合診療」を学ぶに等しいといっても過言ではない.総合診療医である私にとっての恩人——総合診療の道を開いて下さった宮本一行先生(神奈川県立足柄上病院),「師」生坂政臣先生,私を常にinspireしてくれる先輩,後輩,友人,そして何よりも私を育ててくれた多くの患者さん——に,この場を借りて心から感謝したい.

 2014年早春
 訳者代表 太田光泰



 「臨床医が一般的な診断概念の制約から解放されるのを手助けする」というのが,本書“Atlas of Common Pain Syndromes”を執筆した動機であった.初版は,疼痛管理の領域では治療よりも診断に焦点を当てた最初の現代的なテキストで,疼痛管理の専門家にとってはある意味,「時代が到来した」テキストであった.実は編集者であるElsevierと私は「注射屋さん」と「薬屋さん」*1 たちが専門領域に焦点を当てた疼痛診断にどれだけ興味をもつか,かなり疑問だった.しかし本書とその姉妹書(Atlas of Uncommon Pain Syndromes)が両方とも疼痛領域書籍のベストセラーになったことで,われわれの不安は払拭された.大幅に改訂された第3版では以下の内容を含めた.
18項目を新規追加
実際の疼痛症候群と解剖学的関係を強調するように,フルカラーの図をすべて改訂
臨床医が正しい疼痛診断をより想起しやすいように新しいフルカラー写真とイラストを追加し身体所見の項目を拡大
疼痛状態の診断で画像診断の役割が広がっていることに鑑み,超音波を含む新しい画像所見をより大規模に使用.

 最近,ある医学生が「数週間診断がつかず,最終的に百日咳だった」と話した.われわれはカンザスシティ*2 にいるのであり,バングラデシュにおける話ではない.私はいくつか質問した.
 「子供のときに予防接種をしたか?」
 はい.
 「最近,海外旅行に行ったか?」
 いいえ.
 「どこが百日咳らしいか?」
 恐ろしい! 百日咳の症例をみたことがないのではないかと思い,私は最も確実な質問をした.
 「それはどのように診断したのか?」
 その学生は初め,小児科のローテーションで悪い気管支炎にかかってしまったと考えた.彼女はZ-pack®(アジスロマイシン),アベロックス®(モキシフロキサシン)を内服した.彼女は学校の診療所を2回受診し,そのいずれも医師は気管支炎ないし肺炎初期であると診断した.続いて受診した地元の救急外来でも同様の診断であった.そして集中治療室入院時の診断は呼吸不全だった.抗菌薬治療と呼吸療法が行われた.医学部2年生だった彼女はついに,「これらすべての咳は微生物学の授業で聞いたばかりの百日咳によるものではないか」と推測した.最初みんなは笑い,眼を白黒させた——鼓動が2拍するくらいの沈黙の後,その正しい診断はなされた.
 なぜ疼痛管理の書籍の序文にこの話を入れたのか不思議に思うかもしれない.臨床医として痛みを伴う状況を診断するときに,われわれは特定の個別化された構成概念にとらわれ続けているように思える.われわれの構成概念の範疇ではひづめの音を聞いたときにシマウマ探しをするのではなく,正規曲線の中心に近づくように,そして根拠に基づいた医療に忠実であるようにと何度も警告される.しかし行き過ぎると,これらの指標はわれわれが患者の病歴や診断を考える過程を制約してしまう.本書“Atlas of Common Pain Syndromes”第3版が臨床医にとって考えつかなかったかもしれない疼痛の状態を認識し,診断し,治療することの手助けになり続けるように,そしてその結果,患者の痛みにより効果的な治療が提供できることを望む.

謝辞
深い理解のもとよいアドバイスをし,意欲的に本書の編集に取り組んでくれたElsevierの編集者,Pamela Hetherington とSabina Borzaに感謝したい.

Steven D. Waldman, MD, JD

*1 :疼痛管理の専門家への皮肉
*2 :米国中西部にあるミズーリ州最大の都市

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第1章 頭痛
 1 三叉神経第一枝の急性帯状疱疹
 2 片頭痛
 3 緊張型頭痛
 4 群発頭痛
 5 水泳時頭痛
 6 鎮痛薬反跳性頭痛
 7 後頭神経痛
 8 偽脳腫瘍
 9 頭蓋内くも膜下出血
第2章 顔面痛症候群
 10 三叉神経痛
 11 顎関節症
 12 非定型顔面痛
 13 舌骨症候群
 14 顔面の反射性交感神経性ジストロフィー
第3章 頸部と腕神経叢の痛み
 15 頸部椎間関節症候群
 16 頸部神経根症
 17 頸部線維筋痛症
 18 頸部筋筋膜症
 19 頸長筋腱炎
 20 咽後膿瘍
 21 頸胸椎棘間滑液包炎
 22 腕神経叢障害
 23 Pancoast腫瘍症候群
 24 胸郭出口症候群
第4章 肩の痛み
 25 肩関節炎の痛み
 26 肩鎖関節痛
 27 三角筋下滑液包炎
 28 二頭筋腱炎
 29 肩関節の無血管性壊死
 30 癒着性関節包炎
 31 二頭筋腱裂傷
 32 棘上筋症候群
 33 肩腱板断裂
 34 三角筋症候群
 35 大円筋症候群
 36 肩甲肋骨症候群
第5章 肘の痛み
 37 肘の関節炎の痛み
 38 テニス肘
 39 ゴルフ肘
 40 上腕二頭筋腱遠位断裂
 41 野球肘
 42 肘筋症候群
 43 回外筋症候群
 44 腕橈骨筋症候群
 45 肘部尺骨神経の絞扼性神経障害
 46 肘部外側前腕皮神経の絞扼性神経障害
 47 肘部離断性骨軟骨症
 48 肘頭滑液包炎
第6章 手首の痛み
 49 手首の関節炎の痛み
 50 手根管症候群
 51 de Quervain 腱鞘炎
 52 手根中手関節炎の痛み
 53 手首のガングリオン
第7章 手の痛み
 54 母指ばね指
 55 ばね指
 56 手の種子骨炎
 57 レジ袋麻痺
 58 手根隆起症候群
 59 Dupuytren 拘縮
第8章 胸壁の痛み
 60 胸肋症候群
 61 胸骨柄症候群
 62 肋間神経痛
 63 糖尿病性体幹部神経障害
 64 Tietze 症候群
 65 Precordial catch 症候群
 66 肋骨骨折
 67 開胸後疼痛症候群
第9章 胸椎疼痛症候群
 68 胸髄デルマトームの急性帯状疱疹
 69 肋椎関節症候群
 70 帯状疱疹後神経痛
 71 胸椎圧迫骨折
第10章 腹部と鼠径部の疼痛症候群
 72 急性膵炎
 73 慢性膵炎
 74 腸骨鼠径神経痛
 75 陰部大腿神経痛
第11章 腰椎と仙腸関節の痛み
 76 腰部神経根症
 77 広背筋症候群
 78 脊柱管狭窄症
 79 くも膜炎
 80 椎間板炎
 81 仙腸関節痛
第12章 骨盤の痛み
 82 恥骨骨炎
 83 大殿筋症候群
 84 梨状筋症候群
 85 坐骨滑液包炎
 86 肛門挙筋症候群
 87 尾骨痛
第13章 腰と下肢の痛み
 88 股関節炎の痛み
 89 弾発股症候群
 90 腸恥包炎
 91 坐骨滑液包炎
 92 感覚異常性大腿神経痛
 93 幻肢痛
 94 大転子滑液包炎
第14章 膝や下肢末端の痛み
 95 膝関節炎の痛み
 96 膝関節の虚血性壊死
 97 内側側副靱帯症候群
 98 内側半月板断裂
 99 前十字靱帯症候群
 100 跳躍膝
 101 ランナー膝
 102 上膝蓋滑液包炎
 103 前膝蓋滑液包炎
 104 浅下膝蓋滑液包炎
 105 深下膝蓋滑液包炎
 106 Osgood-Schlatter 病
 107 膝のBaker嚢胞
 108 鵞足滑液包炎
 109 テニス脚
第15章 足首の痛み
 110 足関節炎の痛み
 111 横足根関節炎の痛み
 112 三角靱帯損傷
 113 前足根管症候群
 114 後足根管症候群
 115 アキレス腱炎
 116 アキレス腱断裂
第16章 足の痛み
 117 足趾関節炎の痛み
 118 バニオンの痛み
 119 Morton神経腫
 120 Freiberg 病
 121 足底筋膜炎
 122 踵骨骨棘症候群
 123 マレット趾
 124 槌趾〈ついし〉

索引

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Common diseasesの痛みをカラー図解でわかりやすく網羅
書評者: 仲田 和正 (西伊豆病院院長・整形外科)
 この本は運動器の痛みを網羅的に集大成した大変美しい本です。特に筋筋膜疾患や絞扼性神経障害に重点が置かれています。ほぼ全ページにカラー図解があり大変わかりやすい本です。私自身,今まで知らなかった病気がたくさんあるのに大変驚き,愛用のポケット解剖書にせっせと書き写した次第です。他にこのような類書を私は知りません。

 舌骨症候群とか,ゴーグルの眼窩上神経圧迫で起こる前頭部痛(Swimmer’s headache),スーパーでもらうビニール袋に商品を詰め込んで2,3本の指で提げることによる指の麻痺(plastic bag palsy)など「こんな疾患があるのか!」と大変驚きました。その多くは知識として知っているだけで診断できる(snap diagnosis)疾患ですが,知らなければ診断できません。一通り読んで,こんな疾患があるんだと知っているだけでも良いと思います。

 国内の教科書ではテニス肘として一括される上腕骨外側上顆炎も肘筋症候群,回外筋症候群,腕橈骨筋症候群と細分化されています。一般の整形外科書では,ここまでの疾患は到底網羅できていません。

 以前,ある都市の外科開業医の集まりで整形外科救急の講演を依頼されたことがありました。なぜ整形疾患の知識が必要なのかお聞きしたところ,外科で開業しても外来に来る疾患のほとんどは整形疾患であり腹部疾患はたいてい病院に行ってしまいほとんど診ることがないとのことでした。整形疾患は診療所レベルでは大変多いcommon diseasesであり総合診療には必須の科目です。私のへき地の経験では,内科,小児科,整形外科を研修しておけばへき地で遭遇する疾患の8,9割くらいに対応できると思っています。

 Common diseasesを広く深く知って知識を網羅しておくことは重要です。この『臨床でよく出合う痛みの診療アトラス』は,日本の臨床レベルの底上げに大変役立つ本だと思いました。ぜひ,ご購読をお薦めします。

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