統合失調症

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日本統合失調症学会監修の決定版テキスト、ついに完成。統合失調症の概念、基礎研究、診断、治療その他の関連知識を75章の圧倒的なボリュームで網羅した、最新最高のリファレンスブック。基本学説とその歴史的発展、診療のエビデンスと実践的知識、関連病態、臨床上の諸問題や最新トピックスなど、新進気鋭の執筆陣が存分に筆を揮う。当事者支援を中心とした統合失調症診療の新時代に呼応し、当事者や家族にも寄稿していただいた。
監修 日本統合失調症学会
編集 福田 正人 / 糸川 昌成 / 村井 俊哉 / 笠井 清登
発行 2013年05月判型:B5頁:768
ISBN 978-4-260-01733-6
定価 17,600円 (本体16,000円+税)

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 本書『統合失調症』は,日本統合失調症学会の監修による専門家向けの教科書です.数多くの書籍が刊行されるなか,岡崎祐士理事長の方針のもと,こうした大部の教科書を企画した背景には,統合失調症の生活と脳をめぐる近年の変化があります.

 生活についての変化は,社会のなかでの統合失調症のあり方についてです.精神分裂病からの名称変更に代表されるように,当事者の希望にもとづいて社会のなかでの生活を支援することが回復の基本であるという認識が広がり,そのためのサービスが少しずつ実現してきています.専門家には,そうした方向性を促進する役割が今後ますます求められていくと考えられます.
 脳についての変化は,神経科学・脳科学の進歩により病因・病態の解明が大幅に進んだことです.統合失調症の病態において重要な対人関係や自我機能を支える脳の仕組みが徐々に明らかになるとともに,背景にある分子の変化やさらにその原因についての手がかりがつかめるようになってきました.そうした新しい成果を多くの専門家が共有し,より画期的な治療の可能性を考えることが必要になってきています.
 こうした幅広い分野における急速な進歩は,専門家であってもその全体像を見通すことが難しいものです.総合的な理解をすすめるうえで基本となる知見を,1冊の書籍にまとめて手近に参照できるようにしておきたいという願いが,こうした教科書という形になりました.

 75にのぼる章について,各分野で活躍しておられる第一人者の先生に,確かな知見をまとめていただけるようお願いしました.実践の現場における実感とのバランスをとりつつ,エビデンスの形で確かな知見を明らかにし,専門家としてのコンセンサスを提示していただきました.とくに第2部では,その要点を各章の冒頭に「Facts」として示していただきました.その点がこの書籍の大きな特徴になっています.日々の仕事でお忙しいなか,充実した原稿をお書きいただき,場合によっては編者からの要望にもとづいて修正に応じ,本書の完成にご貢献くださった執筆者の先生方に,深くお礼を申しあげます.
 本書の企画が始まったのは3年前でした.最終の編集会議を第6回日本統合失調症学会に合わせて2011年3月に福島で予定していた2週間前に,東日本大震災が起こりました.支援を優先させて会議や作業を遅らせたのは当然でしたが,もっとも逡巡したのは東北地域の先生方への原稿依頼でした.迷いつつお願いした原稿を無理を押して完成してくださった,被災地の先生方や支援に関わられた先生方に,格別のお礼を申しあげたいと思います.
 7月に延期して札幌で開催された学会は,福島で予定されていたプログラムがほとんど変更されることなく行われました.どなたも口にはされませんでしたが,それぞれの方が最優先でスケジュールをやりくりされたのだろうと思います.現地での支援だけでなく,そうした形のささやかな支援の輪が統合失調症の関係者のなかに広がったことを,記しておきたいと思います.

 教科書は,その内容が統合失調症の当事者や支援者に向けたサービスに役立つことを,最終的な目標としています.専門家向けの書籍であっても誰もが容易に入手できる時代ですので,読者として専門家ばかりでなく当事者やご家族や一般市民を考えることが求められるようになってきています.教科書は,専門家だけで作りあげるものではないはずです.
 こうした考えから,冒頭の第2章の執筆を当事者や家族や行政の方,また家族と専門家の立場をともに経験した方にお願いし,さらに当事者やご家族へ病気の説明をする際の参考となる資料も付け加えました.専門家向けの教科書としては異例かもしれませんが,今後こうした構成が常識になっていくだろうと考えています.さらに,こうした方々に編集の段階から加わっていただくことが,次の取り組みとなっていくと思います.
 この第2章に執筆していただいた原稿には,それぞれの方が人生を賭けた想いがこめられています.その一部をご紹介させていただきます.「当事者は体験だけ語っていればいいという風潮には辟易としている.当事者の立場だからこそ言える問題提起や価値観があるはずだ」(I.統合失調症患者から),「統合失調症の回復と再発防止で最も大切なのは環境である.家族全体を診る医療を行って欲しい」(II.統合失調症の母親をもって),「どの分野の職種においても共通して必要な要素が患者に真摯に向き合うこと,あくまでも,その人のありのままの気持ちに寄り添う姿勢である」(IV.災害の現場から見えた統合失調症の保健・医療・福祉のあるべき姿),「当事者であっても家族であっても,その人がその人の手で人生を選ぶことのできる社会になることを,心から願う」(V.家族と精神科医の双方の立場を経験して).

 本書の紹介の最後として,ご家族の言葉をもう1つご紹介します.専門家を励ますこうした言葉に当事者やご家族がどのような想いをこめられているのかを,読者の多くである専門家の皆さんと繰り返し考えていきたいと願っています.
 「回復が難しいと言われる統合失調症になったとしても,当事者も家族も『より良く生きたい』と願っている.精神科医療は,患者であるその人自身とその複数の家族の人生を左右する重要な医療である.人間にとって一番重要な医療だという誇りを持って,治療・研究にあたっていただけることを切に願う」(III.統合失調症になってもだいじょうぶな社会を願って)

 2013年春
 編者一同

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序論
 第1章 統合失調症の過去・現在・未来
 第2章 当事者・家族から見た統合失調症
  I 統合失調症患者から
  II 統合失調症の母親をもって
  III 統合失調症になってもだいじょうぶな社会を願って
  IV 災害の現場から見えた統合失調症の保健・医療・福祉のあるべき姿
  V 家族と精神科医の双方の立場を経験して
    -統合失調症治療の在り方について考える
  VI 統合失調症の基礎知識-診断と治療についての説明用資料
 第3章 統合失調症の多様な側面
  I 対人関係の病としての統合失調症
  II 臨床から出発する病因探索
  III 統合失調症:脳と生活と思春期発達の交点
  IV 発達精神病理としての統合失調症-脳と生活と言葉

第1部 統合失調症の概念
 第4章 歴史と概念の変遷
 第5章 症候学
 第6章 診断分類と統合失調症の異種性
 第7章 病因と病態モデル
 第8章 疫学
 第9章 経過と予後
 第10章 回復過程論
 第11章 統合失調症の関連病態
  I 非定型精神病
  II 小児の統合失調症
  III 遅発性統合失調症
  IV 緊張病

第2部 統合失調症の基礎と研究
 第12章 脳の発生と発達
 第13章 遺伝学,分子遺伝学
 第14章 神経病理学
 第15章 死後脳研究
 第16章 ブレインバンク
 第17章 神経生理学
 第18章 神経化学
 第19章 精神薬理学
 第20章 動物モデル
 第21章 脳構造画像研究
 第22章 脳機能画像研究
 第23章 神経心理学
 第24章 統合失調症の自我障害の認知科学
 第25章 精神病理学
 第26章 力動精神医学
 第27章 社会精神医学
 第28章 コホート研究
 第29章 早期精神病の研究
 第30章 統合失調症と病跡学-創造性との関連
 第31章 障害論-障害概念と地域福祉システム
 第32章 統合失調症の臨床研究のあり方

第3部 統合失調症の診断と評価
 第33章 診断と症状評価
 第34章 鑑別診断の進め方
 第35章 構造化面接
 第36章 精神症状の層的評価-人間学的精神病理学の立場から
 第37章 症状評価尺度
 第38章 身体所見の評価
 第39章 脳画像評価
 第40章 認知機能の評価
 第41章 生活機能,QOL,作業・労働能力の評価
 第42章 ハイリスク・病前特徴・パーソナリティ評価
 第43章 自殺リスクの評価

第4部 統合失調症の治療
4-1 治療計画策定
 第44章 治療計画の立て方
 第45章 病期ごとの治療の進め方
4-2 統合失調症の治療総論
 第46章 EBMと治療ガイドライン
 第47章 薬物療法
 第48章 電気けいれん療法とその他の身体療法
 第49章 精神療法
 第50章 対話のための工夫と守るべきこと
 第51章 心理社会的治療・社会資源
 第52章 認知行動療法
 第53章 生活臨床-指向する課題の達成支援を中心とした働きかけ
 第54章 多職種チーム医療
 第55章 患者家族への見方の変遷と家族支援
 第56章 サービスモデル-各国での取り組み
 第57章 サービスモデル-日本での取り組み
 第58章 病名告知
 第59章 リカバリー
 第60章 スティグマと啓発活動-インターネットにみる現状と対応
 第61章 当事者研究
4-3 早期診断と早期介入
 第62章 病期モデル
 第63章 前駆期
 第64章 初回エピソード統合失調症
 第65章 DUP短縮のための方法論
4-4 臨床上の諸問題
 第66章 精神科救急-マクロ救急を中心に
 第67章 身体合併症
 第68章 退院支援と地域移行
 第69章 治療抵抗性
 第70章 高齢期の統合失調症患者の問題
 第71章 妊娠・出産
 第72章 患者の攻撃性・暴力への対応

第5部 法と精神医学
 第73章 司法精神医学
 第74章 関連法規
 第75章 触法行為と精神鑑定

索引

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心理社会的治療法も詳述した統合失調症の実践的教科書
書評者: 大森 哲郎 (徳島大大学院教授・精神医学)
 統合失調症学会が総力を結集して作成した全75章700ページを超える浩瀚な全書である。多士済々の執筆者が専門領域を記述する文章は平易明解で精彩に富んでいる。

 全書的な教科書でありながら,いくつもの点で新しい。統合失調症はもはや遺伝的に発症不可避でもなければ,心理的に了解不能でもなく,病的過程が進行する疾患でもない。それは発達の過程で素因と環境が応答しつつ形成され,前駆期での介入が発症を阻止する可能性があり,未治療期間が短縮されれば病態の進行は抑えられ,初発エピソードをうまく乗り切れば安定期に至り,経過は治療介入と生活環境の影響を受けていかようにも可変的である,そのような疾患なのである。諸条件によっては未病に終始する可能性を考えれば,非疾患との境界は連続的ともなる。もはやかつての精神分裂病ではない。

 実際には私たち精神科医療者が関与を始めるのは,早くて前駆期であり,多くの場合は初発エピソードとなる。この段階での最適な治療介入が予後を大きく左右するかもしれないことを考えれば,この時期に関して章立てが手厚いのもうなずける。将来的には発症阻止を視野に入れる意図があるのかもしれない。

 しかし,現実には私たちは発症後の患者に長く付き合い,症状の完全消失に至るのは一部の症例であることを知っている。本書は実践的でもあって,現場の治療目標としては,疾患を抱えながらも地域社会において有意義な生活を送ること,すなわちリカバリーが強調されている。そのための支援方法として,薬物療法はもちろんだが,「精神療法」「対話のための工夫と守るべきこと」「心理社会的治療・社会資源」「認知行動療法」「生活臨床」「多職種チーム医療」「患者家族への見方の変遷と家族支援」などにわたり心理社会的治療法の紹介に相当の紙幅が割かれている。

 当事者と家族が執筆しているのも斬新だ。教科書としては意表を突くが,考えてみれば患者から学ぶのは臨床医学の鉄則である。最も痛切に疾患に直面している方々の声を聞かずしては,すべてが机上の空論に終わる恐れさえある。

 研究諸領域の最前線は全21章にわたって記述されている。診断や治療を扱う部分にも共通することだが,内容は最新かつ簡潔で,その領域の核心部分をやさしく伝えようとする意図を感じる。興味を引かれた読者はおのずと章末の参考文献に向かうことになるだろう。

 統合失調症はもはや鵺のように正体不明な疾患ではない。しかし,編者と執筆者の英知を結集した本書を読んでもそのすべてを知ることはできない。それはまだ誰も知らないことなのだ。しかし,統合失調症のすべてを知るために現時点で何が必要かは本書にすべて書いてあると思う。参考書として机上に置くもよし,通読を楽しむもよし,拾い読みでもよいだろう。読めば精神医学がいかに豊かな領域であるか実感させられる。
統合失調症には精神医学のすべてが凝縮されている
書評者: 山内 俊雄 (埼玉医大名誉学長/埼玉医大かわごえクリニック)
 統合失調症には,精神医学の基本のすべてが含まれている。統合失調症の症状を上手に把握できれば,すべての精神疾患の症状把握が可能になる。患者さんの心に寄り添って,なぞることができれば,他の精神疾患でも通用する。治療にしても家族支援にしても,しかり。統合失調症には,精神医学のすべてが凝縮されているといえよう。

 だからこそ,これまでにも数えきれないほどの教科書が出版されてきた。例えば1960年代に出された『精神分裂病』1)では病因論や研究の進展の現状が語られており,オーソドックスな教科書の体裁をとっている。「統合失調症」と呼称が変わってから発刊された『統合失調症の診療学』2)では,医師だけでなく,コメディカルスタッフも視野に入れたものになっている。このように,統合失調症の教科書には,その時代の精神疾患に対する考え方が反映されている。

 それでは,このたび発刊された『統合失調症』にはどんなコンセプトが盛り込まれているのであろうか?

 この本の姿勢は,「序論」「当事者・家族から見た統合失調症」という章に明示されている。そこには,“統合失調症患者から”“統合失調者の母親をもって”“統合失調症になってもだいじょうぶな社会を願って”“統合失調症の保健・医療・福祉のあるべき姿”“統合失調症治療の在り方について考える”などのタイトルでそれぞれ当事者や家族の立場から書かれている。本の最初の章にこのような患者・当事者の立場からの文章が置かれることは,これまでの「医学書」にはなかったことである。しかもその内容が,統合失調症を考えるにあたっての新たな視点をわれわれに突き付けているという意味でも,インパクトが強い。

 そこには編集者の深い意図があることが「序」を読むとわかる。“教科書は,その内容が統合失調症の当事者や支援者に向けたサービスに役立つことを,最終的な目標としています”“専門家向けの教科書としては異例かもしれませんが,今後こうした構成が常識になっていくだろうと考えています”と述べている。

 この序文を読んで,これこそまさに編集者の卓見であると感動を覚えたのである。と同時に,すべての精神科医や精神医療に携わる人に,ここに書かれた患者・当事者の文章と,それに続く,編集者によって作られた「統合失調症の基礎知識-診断と治療についての説明資料」を併せて読み,これらの重い問いかけを受け止めてほしいと思う。

 もちろん教科書であるから,「統合失調症の概念」「基礎と研究」「診断と評価」「治療」「法と精神医学」といった項目立てのもと75にも上る章に,最新のデータや考え方,具体的な技法などが記述されている。しかも,それぞれの章が程よい長さにまとめられており,小見出しが簡潔なキーワードとなっているので,一つのキーワードを選び,知識を確かめ,新しい知見を得,そして診療や研究・教育の場に生かす,そんな読み方のできる,斬新なアイデアのもとに編集された新しい教科書である。

文献
1)猪瀬 正,臺 弘,島崎敏樹(編).精神分裂病.医学書院;1966.
2)松下正明(総編集),岡崎祐士(担当編集).統合失調症の診療学.中山書店;2002.

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