質的統合法入門
考え方と手順
質的研究のための方法論として、臨床のための問題解決ツールとして
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質的データを統合し、現象の全体像を把握するための方法論である「質的統合法」の入門書。基盤となる考え方にふれながら、具体的な手順をステップごとに詳しく解説し、初学者にも使いやすい構成に。また、質的統合法を用いて研究を進める際のポイントや、パソコンを使って効率的に分析を進めるための方策も紹介。日々の臨床現場での問題解決から、質的研究による論文作成まで幅広く活用することができる1冊。
著 | 山浦 晴男 |
---|---|
発行 | 2012年04月判型:B5頁:160 |
ISBN | 978-4-260-01505-9 |
定価 | 3,080円 (本体2,800円+税) |
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- 序文
- 目次
- 書評
序文
開く
まえがき
看護学の分野では近年,それまで主流を占めてきた量的研究に加え新たな研究領域として質的研究が注目されるようになり,研究論文も数多く登場するようになった.この傾向は看護学にとどまらず,心理学,教育学,社会学,人類学,医学などさまざまな領域に広がっているようだ.たとえば心理学では,質的研究に特化した学会が2004年に組織され,会員は1,000人規模に及んでいる.
こうした動きのなかで,質的研究に携わる研究者の議論は必然的に「質的研究の方法」へと向かい,文化人類学者・川喜田二郎氏が創案した「KJ法」にも関心が向けられ,「質的帰納法」としてすでに多くの研究で活用されている.
筆者は,川喜田氏が主宰していた研究所に20年間(1971~1991年)在籍し,直接指導を受けながらその研究と普及に携わってきた.その後,研究所を離れて20年間,筆者なりにKJ法の理論と技術の両面から探究を深めながら,「質的統合法(KJ法)」という名称のもと,産業界・地域・大学で実践的な問題解決を展開・支援してきた.
質的研究と本格的にかかわるようになったのは,佐藤禮子教授(兵庫医療大学副学長)が千葉大学で看護学部長を務められていた1996年にさかのぼる.当時,佐藤教授からの依頼で大学院生の論文作成を指導したことがきっかけとなって,看護領域における質的研究法の研究開発にも携わることとなった.それから現在まで,大学院生向けの研修と修士論文の作成指導を毎年行っている.
そうした経緯のなかで,正木治恵教授(千葉大学大学院看護学研究科長・看護学部長)と共同で「質的統合法(KJ法)」を用いた質的研究の指導実践を積み上げて,2009年3月にはそこから輩出した人材を中心に広く門戸を開く形で「看護質的統合法(KJ法)研究会」を立ち上げた.現在,正木教授を会長に,筆者はその顧問を仰せつかっている.
本書は,これまでの経験のなかで筆者らが実践的に確立してきた「質的統合法(KJ法)」とそれを使った質的研究法について,初学者を含めた研究者,さらには指導者にその全容を紹介することを目的としている.
本書の構成は以下のようになっている.
第1章では,川喜田氏による「創造的問題解決」という考え方と,それに基づく科学論を筆者なりに整理して解説する.それをふまえて,「質的研究とは何か?」「質的研究と量的研究の関係をどうとらえればよいのか?」といった問題について考え,科学的研究という文脈のなかでの「KJ法」あるいは「質的統合法(KJ法)」の位置づけを示す.
第2章では,質的データを統合するための方法である「質的統合法(KJ法)」について,具体的な手順を解説する.技術的な説明だけでなく,「KJ法」を基礎にしながら,筆者が20年間にわたる実践と指導のなかで開発した「理論モデル」もあわせて解説する.これは,それぞれの手順を進めるうえでのヒントや,背景にある重要な考え方を体系化したものである.手順の説明は,初学者が手引きとして活用しながら作業ができるよう構成している.
第3章では,「質的統合法(KJ法)」を用いた質的研究の進め方について述べる.とくに,1事例の分析による論理の抽出を積み重ね,多数事例を統合して理論化するタイプの研究に焦点を当てている.具体的なプロセスとして,問題意識と先行研究を出発点に,テーマを設定するところから論文を執筆するところまでを詳しく説明し,「質的統合法(KJ法)」のもつデータ統合の技術の活かし方についても述べる.
第4章では,質的研究のIT化の方略を紹介する.初学者が質的統合法を理解するには,最初は手作業を体験することが必須だと考えており,第2章でもそれを前提としている.しかし,現在では質的統合法を使った研究もパソコンソフトを中心に進めており,その簡単な方法を紹介する.筆者としては,機会があれば初学者や研究者の研究の効率化のためにも,改めてIT化に対応した質的統合法の解説書を世に送り出したいと思っている.
本書の主な構成は以上であるが,質的統合法に関連するテーマや補足を要する内容について,いくつかのコラムを使って解説している.
本書で解説する「質的統合法(KJ法)」は,先にもふれたように,その原型は川喜田氏が創案した「KJ法」の基本原理と基本技術に準拠している.「KJ法」が普及し産業界に広がるなかで,創案者の私設機関である川喜田研究所の登録商標が確立している.
「質的統合法(KJ法)」の命名に関しては,すでに登録商標となっている「KJ法」との混同を避け,研究所や第三者に迷惑が生じないようにすると同時に,筆者の経歴からその出典を明らかにして創案者を尊重したいという主旨から,「質的統合法」という機能名称に加えて,「KJ法」という出典名称を括弧書きで併記する方式をとっている.研究所を離れて後の実践の場で探究を進めた結果,川喜田学の門下生として学んだ内容が筆者流の内容に変化していることもあり,本書で解説する内容は原点である「KJ法」と部分的に異なってしまっていることを先にお断りしておく.
なお読者の煩雑さを避けるため,本書では以下,「質的統合法(KJ法)」を「質的統合法」と簡易の表現で表記する.
読者には本書で質的統合法を体験したのち,「KJ法」の集大成的な解説書であり原典となる『KJ法-渾沌をして語らしめる』(川喜田二郎,1986年,中央公論社)を参照することをすすめたい.
西欧近代科学の発展の屋台骨を担ってきた分析学的な「実験科学」は,物理的に便利で快適な生活をもたらした反面,「文明の病」とでもいうべき環境破壊などのさまざまな弊害を招いてしまった.川喜田氏は,これらの弊害を抜本的に解決するために,主体・客体の二元論に立つ分析的な「西欧近代科学」に対して,総合的な視点から「野外科学」を提唱し,主客未分離のなかから実態の論理を表出する一元論に立つ科学の道筋を示した.加えて,その原理的・実技的な可能性を模索するなかで,基本技術としての「KJ法」を創案したのである.
わたしたちの営みを広くとらえたこの発見と技術化は,「東洋現代科学」とでもいうべき新たな科学の基礎であり,人類への貢献としてきわめて大きな社会的価値をもっていると筆者は考えている.本書で紹介する質的統合法は,その延長線上にある.川喜田氏の業績をより多くの人々が理解できるよう理論モデル化,技術の各論化をはかるとともに,質的研究への定式化を試みたのが,筆者のオリジナルな部分である.本書はその解説書であることを申し添えたい.
質的統合法は,看護領域の大学院生や研究者と積み重ねてきた指導実践のなかから形をなしてきた.しかし,それは看護学分野に限定された質的研究法にとどまるものではないと考えている.人文科学,社会科学,そして読者のなかには意外に思う人もいるかもしれないが,自然科学の領域においても,質的データを扱う研究テーマであれば適応可能な方法なのである.
広く質的研究を志す人たちの座右の書として,本書を役立てていただけたらと願う.
2012年2月
山浦 晴男
看護学の分野では近年,それまで主流を占めてきた量的研究に加え新たな研究領域として質的研究が注目されるようになり,研究論文も数多く登場するようになった.この傾向は看護学にとどまらず,心理学,教育学,社会学,人類学,医学などさまざまな領域に広がっているようだ.たとえば心理学では,質的研究に特化した学会が2004年に組織され,会員は1,000人規模に及んでいる.
こうした動きのなかで,質的研究に携わる研究者の議論は必然的に「質的研究の方法」へと向かい,文化人類学者・川喜田二郎氏が創案した「KJ法」にも関心が向けられ,「質的帰納法」としてすでに多くの研究で活用されている.
筆者は,川喜田氏が主宰していた研究所に20年間(1971~1991年)在籍し,直接指導を受けながらその研究と普及に携わってきた.その後,研究所を離れて20年間,筆者なりにKJ法の理論と技術の両面から探究を深めながら,「質的統合法(KJ法)」という名称のもと,産業界・地域・大学で実践的な問題解決を展開・支援してきた.
質的研究と本格的にかかわるようになったのは,佐藤禮子教授(兵庫医療大学副学長)が千葉大学で看護学部長を務められていた1996年にさかのぼる.当時,佐藤教授からの依頼で大学院生の論文作成を指導したことがきっかけとなって,看護領域における質的研究法の研究開発にも携わることとなった.それから現在まで,大学院生向けの研修と修士論文の作成指導を毎年行っている.
そうした経緯のなかで,正木治恵教授(千葉大学大学院看護学研究科長・看護学部長)と共同で「質的統合法(KJ法)」を用いた質的研究の指導実践を積み上げて,2009年3月にはそこから輩出した人材を中心に広く門戸を開く形で「看護質的統合法(KJ法)研究会」を立ち上げた.現在,正木教授を会長に,筆者はその顧問を仰せつかっている.
本書は,これまでの経験のなかで筆者らが実践的に確立してきた「質的統合法(KJ法)」とそれを使った質的研究法について,初学者を含めた研究者,さらには指導者にその全容を紹介することを目的としている.
本書の構成は以下のようになっている.
第1章では,川喜田氏による「創造的問題解決」という考え方と,それに基づく科学論を筆者なりに整理して解説する.それをふまえて,「質的研究とは何か?」「質的研究と量的研究の関係をどうとらえればよいのか?」といった問題について考え,科学的研究という文脈のなかでの「KJ法」あるいは「質的統合法(KJ法)」の位置づけを示す.
第2章では,質的データを統合するための方法である「質的統合法(KJ法)」について,具体的な手順を解説する.技術的な説明だけでなく,「KJ法」を基礎にしながら,筆者が20年間にわたる実践と指導のなかで開発した「理論モデル」もあわせて解説する.これは,それぞれの手順を進めるうえでのヒントや,背景にある重要な考え方を体系化したものである.手順の説明は,初学者が手引きとして活用しながら作業ができるよう構成している.
第3章では,「質的統合法(KJ法)」を用いた質的研究の進め方について述べる.とくに,1事例の分析による論理の抽出を積み重ね,多数事例を統合して理論化するタイプの研究に焦点を当てている.具体的なプロセスとして,問題意識と先行研究を出発点に,テーマを設定するところから論文を執筆するところまでを詳しく説明し,「質的統合法(KJ法)」のもつデータ統合の技術の活かし方についても述べる.
第4章では,質的研究のIT化の方略を紹介する.初学者が質的統合法を理解するには,最初は手作業を体験することが必須だと考えており,第2章でもそれを前提としている.しかし,現在では質的統合法を使った研究もパソコンソフトを中心に進めており,その簡単な方法を紹介する.筆者としては,機会があれば初学者や研究者の研究の効率化のためにも,改めてIT化に対応した質的統合法の解説書を世に送り出したいと思っている.
本書の主な構成は以上であるが,質的統合法に関連するテーマや補足を要する内容について,いくつかのコラムを使って解説している.
本書で解説する「質的統合法(KJ法)」は,先にもふれたように,その原型は川喜田氏が創案した「KJ法」の基本原理と基本技術に準拠している.「KJ法」が普及し産業界に広がるなかで,創案者の私設機関である川喜田研究所の登録商標が確立している.
「質的統合法(KJ法)」の命名に関しては,すでに登録商標となっている「KJ法」との混同を避け,研究所や第三者に迷惑が生じないようにすると同時に,筆者の経歴からその出典を明らかにして創案者を尊重したいという主旨から,「質的統合法」という機能名称に加えて,「KJ法」という出典名称を括弧書きで併記する方式をとっている.研究所を離れて後の実践の場で探究を進めた結果,川喜田学の門下生として学んだ内容が筆者流の内容に変化していることもあり,本書で解説する内容は原点である「KJ法」と部分的に異なってしまっていることを先にお断りしておく.
なお読者の煩雑さを避けるため,本書では以下,「質的統合法(KJ法)」を「質的統合法」と簡易の表現で表記する.
読者には本書で質的統合法を体験したのち,「KJ法」の集大成的な解説書であり原典となる『KJ法-渾沌をして語らしめる』(川喜田二郎,1986年,中央公論社)を参照することをすすめたい.
西欧近代科学の発展の屋台骨を担ってきた分析学的な「実験科学」は,物理的に便利で快適な生活をもたらした反面,「文明の病」とでもいうべき環境破壊などのさまざまな弊害を招いてしまった.川喜田氏は,これらの弊害を抜本的に解決するために,主体・客体の二元論に立つ分析的な「西欧近代科学」に対して,総合的な視点から「野外科学」を提唱し,主客未分離のなかから実態の論理を表出する一元論に立つ科学の道筋を示した.加えて,その原理的・実技的な可能性を模索するなかで,基本技術としての「KJ法」を創案したのである.
わたしたちの営みを広くとらえたこの発見と技術化は,「東洋現代科学」とでもいうべき新たな科学の基礎であり,人類への貢献としてきわめて大きな社会的価値をもっていると筆者は考えている.本書で紹介する質的統合法は,その延長線上にある.川喜田氏の業績をより多くの人々が理解できるよう理論モデル化,技術の各論化をはかるとともに,質的研究への定式化を試みたのが,筆者のオリジナルな部分である.本書はその解説書であることを申し添えたい.
質的統合法は,看護領域の大学院生や研究者と積み重ねてきた指導実践のなかから形をなしてきた.しかし,それは看護学分野に限定された質的研究法にとどまるものではないと考えている.人文科学,社会科学,そして読者のなかには意外に思う人もいるかもしれないが,自然科学の領域においても,質的データを扱う研究テーマであれば適応可能な方法なのである.
広く質的研究を志す人たちの座右の書として,本書を役立てていただけたらと願う.
2012年2月
山浦 晴男
目次
開く
第1章 質的研究の特徴と意義
1 研究とはなんだろうか
A 仕事は呼吸
B W型問題解決モデルと「ひと仕事」
C 創造的問題解決としての研究
2 科学とはなんだろうか
A 3つの科学-実験科学・書斎科学・野外科学
B 3つの論理-演繹法・帰納法・アブダクション(発想法)
C 実践科学としての看護学
3 量的研究と質的研究
A 情報処理としての量的研究と質的研究
B 量的研究者からみた質的研究
C 量的研究と質的研究の連携
D W型問題解決モデルによる研究の類型
4 質的研究の意義と質的統合法
A KJ法と質的統合法
B 質的統合法による実態把握と論理の発見
C 実態把握の方法としての質的研究
第2章 質的統合法によるデータ統合の進め方
はじめに
A 質的統合法のイメージ
B 質的統合法の仕組み
C 手順と道具
D 教材事例と理論モデル
Step 1 ラベルづくり
A 基本要領
B 教材事例
C 単位化の基準としての問題意識
D 構成要素から考える1単位-04理論
Step 2 ラベル広げ
A 基本要領
B 教材事例
C ラベル広げは渾沌からの出発
Step 3 ラベル集め
A 基本要領
B 教材事例
C 類似性は相対的な問題-鍋釜理論モデル
D ラベル集めと「場の全体感」-曲尺理論モデル
E 意味の分節化によるラベル集め-意味の手理論モデル
Step 4 表札づくり
A 基本要領
B 教材事例
C 表札づくりの練習問題
D 04理論に基づく表札づくり
E 表札づくりの2つの思考ルート-離陸ルートと跳躍ルート
F 意味の震源地としての表札-震源地測定理論モデル
G 表札づくりと語彙の不足感
Step 5 グループ編成
A 基本要領
B 教材事例
C グループ編成とラベルの抽象度-意味の鳥瞰図理論モデル
D 類似したラベルがない感覚-意味のレンズ理論モデル
Step 6 見取図の作成
A 基本要領
B 教材事例
C もう1つの空間配置の方法
D 関係思考への転換-鍋釜理論モデルふたたび
E 意味の分節化による空間配置-意味の手理論モデルふたたび
F ラベルを動かすことの意義-ルービックキューブ理論モデル
G 空間配置で浮上する新たな意味-群盲象を撫ず理論モデル
H 空間配置とラベルの相互関係
I シンボルマークの考え方
Step 7 本図解の作成
A 基本要領
B 教材事例
Step 8 シンボルモデル図の作成
A 基本要領
B 教材事例
C シンボルモデルの考え方
Step 9 叙述化
A 基本要領
B 教材事例
C 論理の抽出と文書化
おわりに
第3章 質的統合法を用いた質的研究の展開
1 はじめに
A 質的研究のプロセス
B 教材事例と重要ポイント
2 問題意識の発掘・形成
A 基本要領
B 教材事例
C 幸運は問題意識に宿る
3 先行研究の探査・把握
A 基本要領
B 教材事例
C 研究力を発揮するために
4 研究テーマの設定
A 基本要領
B 教材事例
C テーマ設定の2大戦略
5 フィールド調査の計画
A 基本要領
B 教材事例
C データのバラエティと飽和化
6 フィールド調査
A 基本要領
B 教材事例
C フィールド調査の心得
D 意見や思いの背景を取材する
7 データの単位化
A 基本要領
B 教材事例
C ラベルの精選法
8 個別分析
A 基本要領
B 教材事例
9 総合分析
A 基本要領
B 教材事例
C 04理論からみた理論化
10 個別分析比較
A 基本要領
B 教材事例
11 考察
A 基本要領
B 教材事例
C 考察の意義
12 論文執筆
A 基本要領
B 教材事例
C データ処理プロセスの追認・検証
13 研究発表
A 基本要領
第4章 質的統合法のIT化
1 はじめに
A 質的研究のIT化
B パソコン上で行う質的統合法
2 データの記録と単位化
A Wordによる逐語録と単位化
B Excelによるデータカードシステム
3 データ統合
A Inspirationによるデータ統合
B 基本要領
C 見取図・本図解・概要図・細部図
4 プレゼンテーション
A PowerPointによるプレゼンテーション
B 図解の効果的な見せ方
あとがき
さらに研鑽を深めたい人のために
索引
1 研究とはなんだろうか
A 仕事は呼吸
B W型問題解決モデルと「ひと仕事」
C 創造的問題解決としての研究
2 科学とはなんだろうか
A 3つの科学-実験科学・書斎科学・野外科学
B 3つの論理-演繹法・帰納法・アブダクション(発想法)
C 実践科学としての看護学
3 量的研究と質的研究
A 情報処理としての量的研究と質的研究
B 量的研究者からみた質的研究
C 量的研究と質的研究の連携
D W型問題解決モデルによる研究の類型
4 質的研究の意義と質的統合法
A KJ法と質的統合法
B 質的統合法による実態把握と論理の発見
C 実態把握の方法としての質的研究
第2章 質的統合法によるデータ統合の進め方
はじめに
A 質的統合法のイメージ
B 質的統合法の仕組み
C 手順と道具
D 教材事例と理論モデル
Step 1 ラベルづくり
A 基本要領
B 教材事例
C 単位化の基準としての問題意識
D 構成要素から考える1単位-04理論
Step 2 ラベル広げ
A 基本要領
B 教材事例
C ラベル広げは渾沌からの出発
Step 3 ラベル集め
A 基本要領
B 教材事例
C 類似性は相対的な問題-鍋釜理論モデル
D ラベル集めと「場の全体感」-曲尺理論モデル
E 意味の分節化によるラベル集め-意味の手理論モデル
Step 4 表札づくり
A 基本要領
B 教材事例
C 表札づくりの練習問題
D 04理論に基づく表札づくり
E 表札づくりの2つの思考ルート-離陸ルートと跳躍ルート
F 意味の震源地としての表札-震源地測定理論モデル
G 表札づくりと語彙の不足感
Step 5 グループ編成
A 基本要領
B 教材事例
C グループ編成とラベルの抽象度-意味の鳥瞰図理論モデル
D 類似したラベルがない感覚-意味のレンズ理論モデル
Step 6 見取図の作成
A 基本要領
B 教材事例
C もう1つの空間配置の方法
D 関係思考への転換-鍋釜理論モデルふたたび
E 意味の分節化による空間配置-意味の手理論モデルふたたび
F ラベルを動かすことの意義-ルービックキューブ理論モデル
G 空間配置で浮上する新たな意味-群盲象を撫ず理論モデル
H 空間配置とラベルの相互関係
I シンボルマークの考え方
Step 7 本図解の作成
A 基本要領
B 教材事例
Step 8 シンボルモデル図の作成
A 基本要領
B 教材事例
C シンボルモデルの考え方
Step 9 叙述化
A 基本要領
B 教材事例
C 論理の抽出と文書化
おわりに
第3章 質的統合法を用いた質的研究の展開
1 はじめに
A 質的研究のプロセス
B 教材事例と重要ポイント
2 問題意識の発掘・形成
A 基本要領
B 教材事例
C 幸運は問題意識に宿る
3 先行研究の探査・把握
A 基本要領
B 教材事例
C 研究力を発揮するために
4 研究テーマの設定
A 基本要領
B 教材事例
C テーマ設定の2大戦略
5 フィールド調査の計画
A 基本要領
B 教材事例
C データのバラエティと飽和化
6 フィールド調査
A 基本要領
B 教材事例
C フィールド調査の心得
D 意見や思いの背景を取材する
7 データの単位化
A 基本要領
B 教材事例
C ラベルの精選法
8 個別分析
A 基本要領
B 教材事例
9 総合分析
A 基本要領
B 教材事例
C 04理論からみた理論化
10 個別分析比較
A 基本要領
B 教材事例
11 考察
A 基本要領
B 教材事例
C 考察の意義
12 論文執筆
A 基本要領
B 教材事例
C データ処理プロセスの追認・検証
13 研究発表
A 基本要領
第4章 質的統合法のIT化
1 はじめに
A 質的研究のIT化
B パソコン上で行う質的統合法
2 データの記録と単位化
A Wordによる逐語録と単位化
B Excelによるデータカードシステム
3 データ統合
A Inspirationによるデータ統合
B 基本要領
C 見取図・本図解・概要図・細部図
4 プレゼンテーション
A PowerPointによるプレゼンテーション
B 図解の効果的な見せ方
あとがき
さらに研鑽を深めたい人のために
索引
書評
開く
メイド・イン・ジャパンの質的研究法
書評者: 丸山 晋 (ルーテル学院大学総合人間学部教授)
評者にとって待望の書である。またこの内容で一書をものすることができるのはこの著者をおいてほかにないのではないかと考えている。
近年注目されている質的研究の歴史は,実は学問研究の歴史とともにあると思う。評者は長らく自然科学の分野に身を置いてきたせいか,これまで数量的研究を目にすることが圧倒的に多かった。分析的な学問研究で数量的研究が盛んなのは,確かにもっともなことだ。しかし,しかしである。質的研究はそれに劣らず重要なのではないかとずっと考えてきた。それは「総合の学」のための方法論であり,臨床を一つの「野外」としてみる考え方である。評者はかつてこの視点を川喜田二郎から教わり,目からうろこが落ちる経験をした。
川喜田二郎は,評者が長らく関心を抱いてきた今西錦司学派の一人で,地理学者にして文化人類学者である。彼は「野外科学」という学問研究のあり方を提唱し,その方法論として「KJ法」を提示した。本書のタイトルである質的統合法は,KJ法と別名ではあるがほとんど同じものであると感じる。著者は長らく川喜田研究所の所員として,川喜田二郎の片腕として,KJ法の開発と教育研修に従事してきた。また川喜田の著書『KJ法-混沌をして語らしめる』(中央公論社,1986年)を読めばところどころに著者の名が出てくる。また著者は,地域開発や看護研究(指導)にこの方法を十二分に活用して来た実践歴がある。この本にふさわしい著者はほかにはないといったわけはここにある。
本書は,第1章:質的研究の特徴と意義,第2章:質的統合法によるデータ統合の進め方,第3章:質的統合法を用いた質的研究の展開,第4章:質的統合法のIT化という構成になっている。
第1章はいわば総論である。川喜田の理論をかみ砕いて説明した著者の記述はわかりやすく,独自性があり,とてもフレッシュに感じた。第2章は技法そのものである。しかし単なる技法解説ではなく,著者の研修体験からにじみ出たノウハウが詰まっている。研修でいかにKJ法をうまく伝えるかということに苦慮した経験や,看護研究のスーパーバイザーとしての経験が形になったものといえよう。第3章は,本書の一番重要な部分である。第2章で説明した技法を質的研究の文脈に当てはめ,研究テーマの設定から論文執筆までのプロセスを概説している。この部分は著者のオリジナリティの部分であるし,師匠の川喜田を超えている部分と評することができよう。第4章は質的統合法のIT化で,プレゼンテーションの方式に触れている。いってみれば実践の学の方法論として知の探究のプロセスが述べられている。読者は,本書を読むことにより,自分でも「質的研究」ができそうだという気がするに違いない。ことほど左様に,至れり尽くせりの書なのである。
精神科リハビリテーション学を研究する評者の周辺には「質的研究」というとすぐに「グラウンデッド・セオリー」を連想する人が多く,まるでグラウンデッド・セオリーが質的研究の代名詞のように扱われている。しかし,「日本発」の質的研究法を紹介した本書は,そんな風潮に一矢を報いた書であるといえよう。
混沌から本質を探り,高い専門性を養うために (雑誌『保健師ジャーナル』より)
書評者: 三輪 眞知子 (梅花女子大学看護学部)
保健師の役割は,公衆衛生行政の最先端で地域住民と関わり,住民の生活や生き方に何が起きているのかを見極めながら,疾病予防や健康づくりを支援することにある。そのためには,地域の的確なアセスメントを行い,健康課題の把握・介入計画の立案・評価までを自律的に推進しなければならない。つまり,保健師の専門性は,混沌としてとらえどころのない住民の日常生活からその本質を見抜き,健康課題の解決を導くことにあるといっても過言ではないだろう。
本書で紹介されている質的統合法は,そうした保健師の専門性を高めるために大いに活用することができる。質的統合法はその名のとおり,さまざまな「質的データ」を「統合」して理解するための方法である。第1章でも書かれているように,この方法は川喜田二郎氏が創案した「KJ法」や「創造的問題解決」といった考え方をベースにしていることもあって,保健師の日々の実践的な実態把握や問題解決によくフィットする。
データ集めから統合までの具体的な手順は第2章で説明されている。無数のデータ群を整然とした構造図へとまとめるこの方法は,住民の日常生活という混沌から,本質をとらえるというプロセスに重なる。実際,地域住民の生活意識・感情・行動といった実態の把握にはそのまま利用することができ,手順どおりに進めていくことで,出来事の意味が自ずと整理され,住民の生活をより掘り下げて理解することができる。
一方で保健師は,住民の健康状態だけでなく,労働問題や経済状況の悪化,自然環境の破壊,高齢者世帯や生活保護世帯の増加といった社会的・経済的・環境的要因と関連させて健康課題を捉え,施策を計画しなければならない。こうした複合的な要因を考えなければならない地域診断においても,質的統合法が威力を発揮する。質的統合法は個別事例の把握だけでなく,それらをボトムアップ的に積み上げるため用いることもでき(総合分析),それによって地域の事情に即した総合的な実態把握が可能となる。
筆者はこれまで,地域診断ツールとしてさまざまなモデルを活用してきたが,「地域づくり」にまで発展させるには限界があるというのが実感である。なぜなら,平均化されたモデルに依存するだけでは,さまざまな背景をもつ住民の実態を反映した施策を実行することは難しいからである。地域をつくり,健康をつくるのは,住民と協働した試行錯誤の取り組みである。地域性を把握し,住民の実態を反映した施策化へとつなげるためには,地域住民に潜在している実態を掘り起こし,それらをさらに統合していくアプローチが不可欠なのではないだろうか。
本書を片手に,住民の声を整理し,混沌から本質を探り,健康課題を明確にしていくことで,個々の実態把握から,広く地域全体の把握までが可能となる。保健師として力量形成していくうえで,お薦めの一冊である。
(『保健師ジャーナル』2012年8月号掲載)
問題解決を深めながら「臨床の知」を可視化する (雑誌『看護管理』より)
書評者: 陣田 泰子 (済生会横浜市南部病院病院長補佐)
◆質的統合法との出会い
私が前職だったとき,ある研修から戻った副部長が興奮しながら話しかけてきた。「思考の方法は3つあるんですよ! 陣田さんがいつも言ってる帰納法と,演繹法と発想法ですって!」
さっそく見せてもらった研修資料には,家のような形の図が描かれていた。「W型問題解決モデル」とよばれるそれは,私たちの問題解決における思考過程を示したモデルだった。臨床現場での体験から看護を考える「帰納的アプローチ」にこだわってきた私は,それがこのモデルで整理されたように思えて,「もっと知りたい!」と一気に資料を読み進めた。この研修の指導者が,本書の著者である山浦氏だった。「知の発見」が,これほど人を興奮させるのかとあらためて感じた出会いであった。
タイトルにもある「質的統合法」は,山浦氏の師である川喜田二郎氏が創案した「KJ法」を受け継いだ技法である。KJ法の名称は,ほとんどの看護師が一度は耳にしたことがあるだろう。そのKJ法を川喜田氏のもとで20年間追究した山浦氏は,師の亡くなった後も独自に探求を続け,質的統合法へと発展させたのである。
◆現場での問題解決を深める
山浦氏はしばしば恩師の話をされる。「KJ法は科学的人間学である」「現場で起きている1つひとつの問題を協議し,問題解決する過程こそ科学である」,そうしたエッセンスは本書の第1章で丁寧に説明されている。先述したW型のモデルと思考法の関係もここで解き明かされている。初学者にとっては難解かもしれないが,臨床現場でいつも「科学とは?」と自問自答している看護師にとって重要な部分である。
第2章からは,初心者でも質的統合法を使いこなせるよう,手順を要領よく解説している。そこでは山浦氏が実際に指導した事例も示されており,これがまた面白い。無数の逐語録の断片が深められた結果,最終的に見出される「知」に,思わずうなってしまう。
昨今の臨床現場のスピード化は目覚しく,日々の問題解決も表層的になりがちである。しかし,こうしてじっくり掘り下げていくことで,混沌とした現場の課題をクリアにするだけでなく,「臨床の知」を見える形にすることができるのである。医療人教育のなかで避けて通れない学びのプロセスである。
現在,私は,「チーム医療推進委員会」の委員長を担っている。会議では,委員が付箋に書き出したことを集め,共通性を見出し決定するという,質的統合法のエッセンスを取り入れている。チーム医療・多職種協働の時代の共有ツールとして,この技法は今後さらにその可能性を発揮することは間違いない。本書を理解し,日常的に使いこなすことができれば,現場で複雑に絡んだ糸を,携わる人々がみずからの手で解きほぐしていく醍醐味を味わうことができる。
(『看護管理』2012年8月号掲載)
書評者: 丸山 晋 (ルーテル学院大学総合人間学部教授)
評者にとって待望の書である。またこの内容で一書をものすることができるのはこの著者をおいてほかにないのではないかと考えている。
近年注目されている質的研究の歴史は,実は学問研究の歴史とともにあると思う。評者は長らく自然科学の分野に身を置いてきたせいか,これまで数量的研究を目にすることが圧倒的に多かった。分析的な学問研究で数量的研究が盛んなのは,確かにもっともなことだ。しかし,しかしである。質的研究はそれに劣らず重要なのではないかとずっと考えてきた。それは「総合の学」のための方法論であり,臨床を一つの「野外」としてみる考え方である。評者はかつてこの視点を川喜田二郎から教わり,目からうろこが落ちる経験をした。
川喜田二郎は,評者が長らく関心を抱いてきた今西錦司学派の一人で,地理学者にして文化人類学者である。彼は「野外科学」という学問研究のあり方を提唱し,その方法論として「KJ法」を提示した。本書のタイトルである質的統合法は,KJ法と別名ではあるがほとんど同じものであると感じる。著者は長らく川喜田研究所の所員として,川喜田二郎の片腕として,KJ法の開発と教育研修に従事してきた。また川喜田の著書『KJ法-混沌をして語らしめる』(中央公論社,1986年)を読めばところどころに著者の名が出てくる。また著者は,地域開発や看護研究(指導)にこの方法を十二分に活用して来た実践歴がある。この本にふさわしい著者はほかにはないといったわけはここにある。
本書は,第1章:質的研究の特徴と意義,第2章:質的統合法によるデータ統合の進め方,第3章:質的統合法を用いた質的研究の展開,第4章:質的統合法のIT化という構成になっている。
第1章はいわば総論である。川喜田の理論をかみ砕いて説明した著者の記述はわかりやすく,独自性があり,とてもフレッシュに感じた。第2章は技法そのものである。しかし単なる技法解説ではなく,著者の研修体験からにじみ出たノウハウが詰まっている。研修でいかにKJ法をうまく伝えるかということに苦慮した経験や,看護研究のスーパーバイザーとしての経験が形になったものといえよう。第3章は,本書の一番重要な部分である。第2章で説明した技法を質的研究の文脈に当てはめ,研究テーマの設定から論文執筆までのプロセスを概説している。この部分は著者のオリジナリティの部分であるし,師匠の川喜田を超えている部分と評することができよう。第4章は質的統合法のIT化で,プレゼンテーションの方式に触れている。いってみれば実践の学の方法論として知の探究のプロセスが述べられている。読者は,本書を読むことにより,自分でも「質的研究」ができそうだという気がするに違いない。ことほど左様に,至れり尽くせりの書なのである。
精神科リハビリテーション学を研究する評者の周辺には「質的研究」というとすぐに「グラウンデッド・セオリー」を連想する人が多く,まるでグラウンデッド・セオリーが質的研究の代名詞のように扱われている。しかし,「日本発」の質的研究法を紹介した本書は,そんな風潮に一矢を報いた書であるといえよう。
混沌から本質を探り,高い専門性を養うために (雑誌『保健師ジャーナル』より)
書評者: 三輪 眞知子 (梅花女子大学看護学部)
保健師の役割は,公衆衛生行政の最先端で地域住民と関わり,住民の生活や生き方に何が起きているのかを見極めながら,疾病予防や健康づくりを支援することにある。そのためには,地域の的確なアセスメントを行い,健康課題の把握・介入計画の立案・評価までを自律的に推進しなければならない。つまり,保健師の専門性は,混沌としてとらえどころのない住民の日常生活からその本質を見抜き,健康課題の解決を導くことにあるといっても過言ではないだろう。
本書で紹介されている質的統合法は,そうした保健師の専門性を高めるために大いに活用することができる。質的統合法はその名のとおり,さまざまな「質的データ」を「統合」して理解するための方法である。第1章でも書かれているように,この方法は川喜田二郎氏が創案した「KJ法」や「創造的問題解決」といった考え方をベースにしていることもあって,保健師の日々の実践的な実態把握や問題解決によくフィットする。
データ集めから統合までの具体的な手順は第2章で説明されている。無数のデータ群を整然とした構造図へとまとめるこの方法は,住民の日常生活という混沌から,本質をとらえるというプロセスに重なる。実際,地域住民の生活意識・感情・行動といった実態の把握にはそのまま利用することができ,手順どおりに進めていくことで,出来事の意味が自ずと整理され,住民の生活をより掘り下げて理解することができる。
一方で保健師は,住民の健康状態だけでなく,労働問題や経済状況の悪化,自然環境の破壊,高齢者世帯や生活保護世帯の増加といった社会的・経済的・環境的要因と関連させて健康課題を捉え,施策を計画しなければならない。こうした複合的な要因を考えなければならない地域診断においても,質的統合法が威力を発揮する。質的統合法は個別事例の把握だけでなく,それらをボトムアップ的に積み上げるため用いることもでき(総合分析),それによって地域の事情に即した総合的な実態把握が可能となる。
筆者はこれまで,地域診断ツールとしてさまざまなモデルを活用してきたが,「地域づくり」にまで発展させるには限界があるというのが実感である。なぜなら,平均化されたモデルに依存するだけでは,さまざまな背景をもつ住民の実態を反映した施策を実行することは難しいからである。地域をつくり,健康をつくるのは,住民と協働した試行錯誤の取り組みである。地域性を把握し,住民の実態を反映した施策化へとつなげるためには,地域住民に潜在している実態を掘り起こし,それらをさらに統合していくアプローチが不可欠なのではないだろうか。
本書を片手に,住民の声を整理し,混沌から本質を探り,健康課題を明確にしていくことで,個々の実態把握から,広く地域全体の把握までが可能となる。保健師として力量形成していくうえで,お薦めの一冊である。
(『保健師ジャーナル』2012年8月号掲載)
問題解決を深めながら「臨床の知」を可視化する (雑誌『看護管理』より)
書評者: 陣田 泰子 (済生会横浜市南部病院病院長補佐)
◆質的統合法との出会い
私が前職だったとき,ある研修から戻った副部長が興奮しながら話しかけてきた。「思考の方法は3つあるんですよ! 陣田さんがいつも言ってる帰納法と,演繹法と発想法ですって!」
さっそく見せてもらった研修資料には,家のような形の図が描かれていた。「W型問題解決モデル」とよばれるそれは,私たちの問題解決における思考過程を示したモデルだった。臨床現場での体験から看護を考える「帰納的アプローチ」にこだわってきた私は,それがこのモデルで整理されたように思えて,「もっと知りたい!」と一気に資料を読み進めた。この研修の指導者が,本書の著者である山浦氏だった。「知の発見」が,これほど人を興奮させるのかとあらためて感じた出会いであった。
タイトルにもある「質的統合法」は,山浦氏の師である川喜田二郎氏が創案した「KJ法」を受け継いだ技法である。KJ法の名称は,ほとんどの看護師が一度は耳にしたことがあるだろう。そのKJ法を川喜田氏のもとで20年間追究した山浦氏は,師の亡くなった後も独自に探求を続け,質的統合法へと発展させたのである。
◆現場での問題解決を深める
山浦氏はしばしば恩師の話をされる。「KJ法は科学的人間学である」「現場で起きている1つひとつの問題を協議し,問題解決する過程こそ科学である」,そうしたエッセンスは本書の第1章で丁寧に説明されている。先述したW型のモデルと思考法の関係もここで解き明かされている。初学者にとっては難解かもしれないが,臨床現場でいつも「科学とは?」と自問自答している看護師にとって重要な部分である。
第2章からは,初心者でも質的統合法を使いこなせるよう,手順を要領よく解説している。そこでは山浦氏が実際に指導した事例も示されており,これがまた面白い。無数の逐語録の断片が深められた結果,最終的に見出される「知」に,思わずうなってしまう。
昨今の臨床現場のスピード化は目覚しく,日々の問題解決も表層的になりがちである。しかし,こうしてじっくり掘り下げていくことで,混沌とした現場の課題をクリアにするだけでなく,「臨床の知」を見える形にすることができるのである。医療人教育のなかで避けて通れない学びのプロセスである。
現在,私は,「チーム医療推進委員会」の委員長を担っている。会議では,委員が付箋に書き出したことを集め,共通性を見出し決定するという,質的統合法のエッセンスを取り入れている。チーム医療・多職種協働の時代の共有ツールとして,この技法は今後さらにその可能性を発揮することは間違いない。本書を理解し,日常的に使いこなすことができれば,現場で複雑に絡んだ糸を,携わる人々がみずからの手で解きほぐしていく醍醐味を味わうことができる。
(『看護管理』2012年8月号掲載)