Mother
いのちが生まれる

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二十数年、妊娠・出産の写真を撮りつづけてきた写真家・宮崎雅子氏が厳選した75点をまとめた写真集。巻末に、氏が妊婦と助産師と歩んできた歳月をつづった文章も収載。プライベートな空間に入ることを許された写真家が、その迫力と感動に迫る。いのちの誕生の写真は、一瞬で見る者の心を揺さぶる。妊婦と家族、そして分娩を介助する助産師へのやさしいまなざしが、そのまま写真に投影されている。
写真・文 宮崎 雅子
発行 2011年11月判型:A4変頁:128
ISBN 978-4-260-01444-1
定価 2,860円 (本体2,600円+税)

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はじめに

 お産の場に大きな魅力を感じて,妊婦さんやその家族,生まれてくる赤ちゃんの写真を撮りつづけてきました。
 写真を撮り始めたのは20歳代後半でしたから,かれこれ25年ほどが経ちます。気がつくとお産の写真を撮る時間は,私の日常の中にあたりまえのように存在していました。
 夜明け前であろうが,深夜の時間帯であろうが,何があろうとも産む人のもとに駆けつけてきました。
 いよいよ赤ちゃんが生まれそうになる時にはピンと空気が張りつめ,やがて元気な産声が響く時,みんなの心は1つになり喜びを分かち合う。そんな,家族にとって特別な日を撮影しながら感じてきたことを「いのちの響き」というフォトエッセイにし,1999年から3年間『助産婦雑誌』に連載しました。10年の時を経て再び続編「いのちのささやき」をスタートさせ,これまで撮りためた写真とあわせて1冊にまとめたのがこの写真集です。
 Chaper 1 は写真とエッセイを,Chapter 2 はお産に出会ってから今日までの,お産を取り巻く環境や産む人の移り変わり,そしてこれまでご縁があった助産師さんからお聞きした言葉で構成しました。
 これから子どもを産むカップルや,助産師を目指す方,いのちにかかわる方たちに,子どもを宿した女性たちのエネルギーに満ちた姿やお産に立ち会う家族の表情,生まれたての赤ちゃんの力強さ,産む人に寄り添う助産師や,自然分娩の魅力を知っていただけたらと心から願っています。

 2011年9月
 宮崎雅子

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Chapter 1
 I.月満ちる mother moon
 II.生まれる document of the birth
 III.抱擁 meet my baby
 IV.いのちの響き sound of soul

Chapter 2
 お産の写真を撮りつづけて

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助産師と同じ目線の高さ故の圧倒的な迫力と臨場感
書評者: 島 義雄 (葛飾赤十字産院小児科)
 いわゆるフォトエッセイである。永年にわたって妊娠・出産の現場を撮り続けてきた,このジャンルでは第一人者の女性写真家が,自らライフワークの集大成と位置付けた作品集で,厳選の75葉と自身の軌跡を二部に章立てた構成となっている。第一部に集められた写真たちは,評者の仕事柄関連のある分野の医学・看護系の雑誌で既に見覚えたものも多く,いつもなら“やわらかく”その扉を飾ったり,あるいは専門的な記事の合い間のページにひっそり挟まる構図で記憶していたのだが,ここではひとまとまりとなって強い調子で主張をしているかのようだ。それが何で,それはなぜなのか,第二部まで読み進めば得心がゆく。

 女史は修行時代にやがて本業とする写真のテーマを探しながら,「妊娠していたわけでもないのに参加した」地域の出産準備クラスで,助産婦(当時)という職業の存在を知る。新しいいのちの誕生を助ける仕事,女性ならではの仕事,そしてなんとも美しい「助産婦」という言葉の響きにすっかり魅了される。以来,お産の現場をフィールドと定め,プロフェッショナルの魂を持った誇り高い「助産婦さん」とのいくつもの邂逅を経る。そしていつしか,自ら昼夜を問わず雨風も厭わずお産に駆け付ける,まるで「助産婦さん」そのもののような写真家として現在に至ったようである。

 出産を命懸けの闘いと言うは易いが,そう語ることができるのは本来当事者でしかないはず。それでも寄り添い遂げた助産師にもその資格があるに違いないと,彼女たちの職業をファインダー代わりに,そこから覗いた景色を撮り続けてきた女史の熱い想いが届く。評者に写真の素養はないが,圧倒的な迫力と臨場感はおそらく介添えするのと同じ目線の高さの故なのだろう。妊娠や出産の自然な姿を捉え,それがひとに与える感動を何としてでも伝えようとしながら,情緒的な賛美に流れることなく,今日の社会や医療の情勢を的確に指摘して,産む側に求められる覚悟にもきちんと触れている。その何もかもを引き受けて傍らに寄り添う助産師という職業に対する深い敬意の溢れるこの作品集は,誰よりもまず,出産の現場に立つことを仕事とする方々に手にとっていただきたいと感じた。
本書で初めて映し出された母性のエネルギー (雑誌『助産雑誌』より)
書評者: 佐藤 秀平 (青森県立中央病院 総合周産期母子医療センター センター長)
 いのちの写真家・宮崎雅子さんの写真集『Mother』を読み終えて,私は,妊娠中の方や出産をされる方々に,このうえもない道標になるであろうと直感した。妊娠や出産の写真集は,これまでも何冊か観て読んできた。しかし『Mother』は,それらの写真集とはまったく異質なものである。多くの写真集は,写真家の個性による産物で,写実性と芸術性の表現のバランスによって,その主体となる被写体を物理的に映し出す。しかし本書は,それだけではなく,母になる女性が自然に獲得した,動物的な母性のエネルギーそのものを映し出し得た最初の写真集なのである。

 本書が,カタイ「医学書業界」のなかでもわが国最前線の医学書院から発刊されたことも大きな意義がある。これは立派な医学書でもある。

 医学の世界では今エビデンスという言葉があらゆるところに埋め尽くされている。お産の世界でも,安全性のためには「物理的・生物学的」な安全性が大切であると産婦人科医師は口にする。しかし,妊娠や出産というのは100人100通りというくらい多種多様な医学現象であり,現代のEvidence Based Medicine(EBM)では到底対応できないことをよく経験する。その多様性を理解していくにつれ,物理的安全性をEBMによって権威づけられる以前に,母子の愛着や家族の絆を含めた心理的・社会的あるいは動物的・感情的な安全性がなければ,真の意味で,いのちを産み,いのちが生まれる「場」の安全性は成り立たないのだ,ということが自ずとよくわかってくる。

 私自身は男性医師で,しかも「医師(いし)ゃ頭」と言われるガチガチの科学頭人間であるが,母性の医療はナラティブな語りを通しての理解も伴って,母子のいのちの安全性が担保されるのであると,この立場と年齢になってようやく気がついた。女性であれば,直感的あるいは体験的に感じることができる真実の科学を,本書『Mother』は見事に表現し実証している。Narrative Based Medicineを観察し,視覚的表現として具現化された立派な医学書なのである。

 本書を観て,そして宮崎さんのエッセイを読むことによって,妊婦さんだけではなく,ご家族,そして,これから母になろうとする世代の女性や,お産に立ち会う医療スタッフが,それぞれの立場で母性のエネルギーを感じ,そして出産のイメージを浮かべ,自らの体験に直に結びつけることができるようになるであろう。

 最後に,1冊の本となって私が気がついたこと。普段は自分を主張せず,温和しくお産に寄り添い撮影している宮崎雅子さん自身,実は母性を最も理解している医療者であり,母性という作品を世に産み出したMotherその人であったのである。

 皆さんが探し求めてきた回答を見つけた満足感を与えてくれる,この本書をお薦めします。

(『助産雑誌』2012年1月号掲載)

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