摂食障害治療ガイドライン
わが国の摂食障害治療のスタンダードとなるガイドライン
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日本摂食障害学会の監修によるわが国の摂食障害治療のスタンダードとなるガイドライン。わが国で実際に行われている「診断から治療への流れ」を中心とした内容で、実際の臨床に導入しやすい。他の治療法との組み合わせ方を解説し、治療効果判定や転帰にも言及。参考文献はそれぞれエビデンスレベルを5段階で記載した。
監修 | 日本摂食障害学会 |
---|---|
編集 | 「摂食障害治療ガイドライン」作成委員会 |
発行 | 2012年02月判型:B5頁:320 |
ISBN | 978-4-260-01443-4 |
定価 | 4,400円 (本体4,000円+税) |
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- 序文
- 目次
- 書評
序文
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序
日本では摂食障害の患者数が増加していますが,治療施設や治療者は極度に不足しているため,治療者の育成が必要です.また,摂食障害はその病態や症状が多様であり,治療法も数多く存在します.そのため摂食障害の治療に関連のある人々にとって,治療ガイドラインのニーズが高まっています.
欧米ではエビデンスのある優れた治療ガイドラインが作成されていますが,これを医療体制や文化の異なる日本にそのまま導入することは困難です.わが国でもすでに個別の治療法やガイドラインが出版されていますが,治療効果に関するエビデンスに欠けるようです.また,診断から治療への流れと治療法の選択,組み合わせを解説した本が少ない,といった問題があります.また治療目標,治癒判定に言及したガイドラインは日本では少ないようです.
そのため,日本摂食障害学会は摂食障害の治療ガイドラインを策定しました.本学会が作成するガイドラインとしては初めてのものです.本ガイドラインでは,摂食障害学会治療ガイドライン作成委員会で,日本で実際行われている摂食障害の治療について,現状を整理し,これをもとに委員長がガイドライン構成表を作成し,学会員を中心に多くの専門家に分担執筆していただきました.
読者対象は,精神科医,心療内科医,内科医,小児科医,産婦人科医,救急医,心理士,看護師,栄養士,社会福祉士,養護教諭などで,摂食障害治療の初心者および関心のある人たちも含んでいます.
このガイドラインでは,初診時の見立てから治療の導入について詳しく記述しています.動機づけを含めた初期対応が重要なためです.各治療法に治療目標,治療導入時の注意事項,治療概要,経過中の評価事項などの内容を盛り込んでいます.また,治療効果判定,転帰,再発について,日本におけるエビデンスを中心に詳しく記述しています.摂食障害への医療や社会のサポートシステムが日本では立ち遅れているため,医療行政も含めました.文献にエビデンスレベルを入れましたが,いかなる臨床研究のエビデンスにも限界があることを知ったうえで参考にして下さい.
本ガイドラインの執筆者は心療内科医,精神科医,内科医,小児科医,心理士など多彩です.従って,各執筆者が用いる用語も微妙にその内容が異なります.本ガイドラインでは,編集代表の3名(中井義勝,永田利彦,西園マーハ文)が,用語,内容について,幾度となく目を通し,執筆者の意向を尊重しつつ,内容の統一を図りました.
ガイドラインの適切な使用は,診療の質の標準化と向上により無駄がなくなり,診療の効率化が期待されます.また医療経済的にも資するところ大です.
出版に際しては医学書院の方々に,一方ならずお世話になりました.心より御礼申し上げます.
2012年1月
編者を代表して
中井 義勝
日本では摂食障害の患者数が増加していますが,治療施設や治療者は極度に不足しているため,治療者の育成が必要です.また,摂食障害はその病態や症状が多様であり,治療法も数多く存在します.そのため摂食障害の治療に関連のある人々にとって,治療ガイドラインのニーズが高まっています.
欧米ではエビデンスのある優れた治療ガイドラインが作成されていますが,これを医療体制や文化の異なる日本にそのまま導入することは困難です.わが国でもすでに個別の治療法やガイドラインが出版されていますが,治療効果に関するエビデンスに欠けるようです.また,診断から治療への流れと治療法の選択,組み合わせを解説した本が少ない,といった問題があります.また治療目標,治癒判定に言及したガイドラインは日本では少ないようです.
そのため,日本摂食障害学会は摂食障害の治療ガイドラインを策定しました.本学会が作成するガイドラインとしては初めてのものです.本ガイドラインでは,摂食障害学会治療ガイドライン作成委員会で,日本で実際行われている摂食障害の治療について,現状を整理し,これをもとに委員長がガイドライン構成表を作成し,学会員を中心に多くの専門家に分担執筆していただきました.
読者対象は,精神科医,心療内科医,内科医,小児科医,産婦人科医,救急医,心理士,看護師,栄養士,社会福祉士,養護教諭などで,摂食障害治療の初心者および関心のある人たちも含んでいます.
このガイドラインでは,初診時の見立てから治療の導入について詳しく記述しています.動機づけを含めた初期対応が重要なためです.各治療法に治療目標,治療導入時の注意事項,治療概要,経過中の評価事項などの内容を盛り込んでいます.また,治療効果判定,転帰,再発について,日本におけるエビデンスを中心に詳しく記述しています.摂食障害への医療や社会のサポートシステムが日本では立ち遅れているため,医療行政も含めました.文献にエビデンスレベルを入れましたが,いかなる臨床研究のエビデンスにも限界があることを知ったうえで参考にして下さい.
本ガイドラインの執筆者は心療内科医,精神科医,内科医,小児科医,心理士など多彩です.従って,各執筆者が用いる用語も微妙にその内容が異なります.本ガイドラインでは,編集代表の3名(中井義勝,永田利彦,西園マーハ文)が,用語,内容について,幾度となく目を通し,執筆者の意向を尊重しつつ,内容の統一を図りました.
ガイドラインの適切な使用は,診療の質の標準化と向上により無駄がなくなり,診療の効率化が期待されます.また医療経済的にも資するところ大です.
出版に際しては医学書院の方々に,一方ならずお世話になりました.心より御礼申し上げます.
2012年1月
編者を代表して
中井 義勝
目次
開く
A.はじめに
第1章 本ガイドラインについて
1.ガイドライン作成について
2.ガイドラインの使用について
第2章 摂食障害について
1.概念と歴史
2.病理と病態
3.疫学
B.診断から治療導入へ
第3章 初診時の診断
1.行動面の異常
2.精神・心理面の異常
3.身体面の異常
4.診断方法とまとめ
5.小児の摂食障害の診断
第4章 初診時の見立てとケースフォーミュレーション
1.緊急度
2.重症度
3.治療に対する動機づけ
4.発症要因
5.持続要因
6.初期対応
C.治療導入から終結まで
第5章 治療選択の基準と手順
第6章 救急治療
第7章 さまざまな治療
1.セルフヘルプ援助
2.支持的精神療法
3.身体治療と栄養指導
4.感想文を用いた記述式自己表出法
5.個人に対する認知行動療法
6.集団療法
7.対人関係療法
8.力動的精神療法
9.薬物療法
10.芸術療法
11.再養育療法
第8章 入院治療
1.一般内科病棟での入院治療
2.行動制限を用いた入院治療
3.精神科入院治療
4.短期(2か月)と長期入院治療
第9章 退院後の外来治療
第10章 小児の摂食障害の治療
第11章 再発
第12章 合併症や併存症への対応
1.気分障害
2.不安障害
3.パーソナリティ障害
4.発達障害
5.アルコール・薬物乱用と摂食障害の併存
6.問題行動(万引きと自己破壊活動)
7.糖尿病
第13章 リハビリテーション
第14章 家族への対応
第15章 チーム医療と各治療者の役割
第16章 地域医療ネットワーク
D.治療効果判定,転帰,予防
第17章 治療効果判定
1.身体面の治療効果判定
2.精神・心理面の治療効果判定
3.行動面の治療効果判定
4.総合的治療効果判定
第18章 転帰
1.転帰調査の治癒判定基準
2.転帰調査結果
3.予後と併存症
第19章 予防
1.一次予防
2.二次予防
第20章 医療行政
文献
索引
第1章 本ガイドラインについて
1.ガイドライン作成について
2.ガイドラインの使用について
第2章 摂食障害について
1.概念と歴史
2.病理と病態
3.疫学
B.診断から治療導入へ
第3章 初診時の診断
1.行動面の異常
2.精神・心理面の異常
3.身体面の異常
4.診断方法とまとめ
5.小児の摂食障害の診断
第4章 初診時の見立てとケースフォーミュレーション
1.緊急度
2.重症度
3.治療に対する動機づけ
4.発症要因
5.持続要因
6.初期対応
C.治療導入から終結まで
第5章 治療選択の基準と手順
第6章 救急治療
第7章 さまざまな治療
1.セルフヘルプ援助
2.支持的精神療法
3.身体治療と栄養指導
4.感想文を用いた記述式自己表出法
5.個人に対する認知行動療法
6.集団療法
7.対人関係療法
8.力動的精神療法
9.薬物療法
10.芸術療法
11.再養育療法
第8章 入院治療
1.一般内科病棟での入院治療
2.行動制限を用いた入院治療
3.精神科入院治療
4.短期(2か月)と長期入院治療
第9章 退院後の外来治療
第10章 小児の摂食障害の治療
第11章 再発
第12章 合併症や併存症への対応
1.気分障害
2.不安障害
3.パーソナリティ障害
4.発達障害
5.アルコール・薬物乱用と摂食障害の併存
6.問題行動(万引きと自己破壊活動)
7.糖尿病
第13章 リハビリテーション
第14章 家族への対応
第15章 チーム医療と各治療者の役割
第16章 地域医療ネットワーク
D.治療効果判定,転帰,予防
第17章 治療効果判定
1.身体面の治療効果判定
2.精神・心理面の治療効果判定
3.行動面の治療効果判定
4.総合的治療効果判定
第18章 転帰
1.転帰調査の治癒判定基準
2.転帰調査結果
3.予後と併存症
第19章 予防
1.一次予防
2.二次予防
第20章 医療行政
文献
索引
書評
開く
客観的な情報に,臨床家の経験や熱い思いが加わったガイドライン
書評者: 青木 省三 (川崎医大教授・精神科学)
摂食障害は心身両面を巻き込む疾患である。身体を診る内科医や婦人科医などからすると,説得に応じずに身体的治療に抵抗する難しい患者であり,逆に心を診る精神科医からすれば,極度に痩せた状態の身体を目の当たりにして「しばしば自分たちの診療能力を越える」と思わせる,やはり難しい患者なのである。それだけでなく,患者自身は自分の痩せた身体の危険性を薄々は感じてはいるものの,「今の身体で大丈夫」「体重が増えるのが恐い」などという思いもあり,医療に助けを求めない傾向にある。家族や学校・職場の多くの人に心配されながらも,医療にうまく結びつかない。これが関係者の感じている困惑であり,摂食障害という病気の難しさなのだと思う。
本書は,このような混乱した現状に対して事態を整理し,有効な治療を提供することを目的に,日本摂食障害学会がわが国の摂食障害患者のために総力を結集して作成したガイドラインである。
本書の特徴は,第一に,重要な情報が簡潔に平易に記されているところにある。文章の読みやすさだけでなく,一つ一つの章や項が適切な分量で記されている。情報は幅広い視野で検討され,臨床的エビデンスを基本に記されており,偏りがなく公平である。また,それだけでなく多くの臨床家の経験が踏まえられており,わが国の臨床家の記した治療ガイドラインであるということを実感させられるのである。
第二に,摂食障害は心身両面を巻き込むので,一つの治療法で完結させるよりは,さまざまな治療法を折衷したり,統合したりすることが求められる。また,治療についても複数の立場の人が連携する多職種のチームという発想が重要であり,本書はこの基本的な考え方を踏まえて記されている。
第三に,治療ガイドラインというとしばしば骨組みだけでできている味気ないものを想像しやすいが,本書からは多数の患者を診ている臨床家の苦労や工夫や知恵が,随所から伝わってくる。例えば,「第4章3.治療に対する動機づけ(執筆:切池信夫氏)」の項で,「患者がかなり痩せ,親が入院を騒ぎ立てていても,外来で治療を継続するという危険を冒すときにのみ,患者の治療の動機づけを形成し,患者を精神療法的関係に引き寄せることができることをしばしば経験します」というさりげない一文がある。評者はこの部分を読んで,氏がこれまで自身の身体を張りながらギリギリの臨床をされてきたことを感じ,感動するのである。この項はすべての臨床家にとって必読だと思う。
以上,記してきたように,本書はエビデンスという客観的な情報に,臨床家の経験や思索,そして熱い思いが加わっているガイドラインで,それが本書を血の通うものにしている。机の傍らに置き,折々に開いて読むことをお勧めしたい。たくさんの示唆を得ることができると思う。
摂食障害医療の現時点での到達点を示す一冊
書評者: 野村 総一郎 (防衛医大病院病院長/防衛医大教授・精神科学)
摂食障害の患者数は著しく増大し,しかも治療に困惑するようなケースも少なくない。心療内科や精神科の現場では,これに対応するための方法論を確立することが喫緊の課題といえよう。このタイミングで本書が出版されたことは,まさに渡りに船,しかもかゆい所に手が届くような内容である。臨床家が知りたい情報がうまく整理され,網羅的にわかりやすく記述されている。それもそのはず,本書は日本摂食障害学会の主要メンバーにより企画されており,現時点での到達点を示し,今後の展開も見据えた心意気も感じられる完成度の高いガイドラインである。
本書には多くの特徴があるが,エビデンスレベル付きで391編もの論文がリストアップされていることは,学会が作成した本書の立ち位置を明確に示している。摂食障害についてこのようなエビデンスが示されたことはこれまでなかったのではないか? ただ,ガイドラインというと,えてして機械的,マニュアル的な記述に陥りがちだが,本書は決してそうではない。摂食障害について知識の薄い初学者にとっての読み物という色彩も十分に感じられる。特に,摂食障害医療では併発症の扱いが非常に重要であるが,うつ病,不安障害,発達障害,アルコール依存など各障害などの項目別に解説されているのもありがたい。
本書は「治療ガイドライン」であるから,当然力点は具体的な治療に置かれている。実は摂食障害に関する生物学的なアプローチも結構盛んであり,神経内分泌学や,画像研究など,少なくとも研究レベルでは成果が上がっているかと思われるが,本書ではそのあたりについてはごくあっさりとした記述に留まっている。やや物足りないと感じる読者もいるかもしれないが,これも治療ガイドラインとして,当然のスタンスであろう。特に「治療選択の基準」から入り,救急対応や各論的な治療に進んでいるのはガイドラインとして適切であろう。薬物療法についての記載は少なく,セルフヘルプを含めた精神療法的な方法,退院後のマネジメントに多くのページが割かれているのは,摂食障害医療の現状を反映している。精神療法の各論については,本書の白眉である。実にわかりやすく多くの治療技法が示され,摂食障害を抜きにしても,おのおのの精神療法の考え方を知る上にも役立つと感じられた。
以上,本書は摂食障害医療の現時点での到達点を示した,現場にとって有用な一冊であり,研修医,プライマリ・ケア医,心療内科医,精神科医,看護師,臨床心理士など,多くの現場人に薦めたいと思う。
書評者: 青木 省三 (川崎医大教授・精神科学)
摂食障害は心身両面を巻き込む疾患である。身体を診る内科医や婦人科医などからすると,説得に応じずに身体的治療に抵抗する難しい患者であり,逆に心を診る精神科医からすれば,極度に痩せた状態の身体を目の当たりにして「しばしば自分たちの診療能力を越える」と思わせる,やはり難しい患者なのである。それだけでなく,患者自身は自分の痩せた身体の危険性を薄々は感じてはいるものの,「今の身体で大丈夫」「体重が増えるのが恐い」などという思いもあり,医療に助けを求めない傾向にある。家族や学校・職場の多くの人に心配されながらも,医療にうまく結びつかない。これが関係者の感じている困惑であり,摂食障害という病気の難しさなのだと思う。
本書は,このような混乱した現状に対して事態を整理し,有効な治療を提供することを目的に,日本摂食障害学会がわが国の摂食障害患者のために総力を結集して作成したガイドラインである。
本書の特徴は,第一に,重要な情報が簡潔に平易に記されているところにある。文章の読みやすさだけでなく,一つ一つの章や項が適切な分量で記されている。情報は幅広い視野で検討され,臨床的エビデンスを基本に記されており,偏りがなく公平である。また,それだけでなく多くの臨床家の経験が踏まえられており,わが国の臨床家の記した治療ガイドラインであるということを実感させられるのである。
第二に,摂食障害は心身両面を巻き込むので,一つの治療法で完結させるよりは,さまざまな治療法を折衷したり,統合したりすることが求められる。また,治療についても複数の立場の人が連携する多職種のチームという発想が重要であり,本書はこの基本的な考え方を踏まえて記されている。
第三に,治療ガイドラインというとしばしば骨組みだけでできている味気ないものを想像しやすいが,本書からは多数の患者を診ている臨床家の苦労や工夫や知恵が,随所から伝わってくる。例えば,「第4章3.治療に対する動機づけ(執筆:切池信夫氏)」の項で,「患者がかなり痩せ,親が入院を騒ぎ立てていても,外来で治療を継続するという危険を冒すときにのみ,患者の治療の動機づけを形成し,患者を精神療法的関係に引き寄せることができることをしばしば経験します」というさりげない一文がある。評者はこの部分を読んで,氏がこれまで自身の身体を張りながらギリギリの臨床をされてきたことを感じ,感動するのである。この項はすべての臨床家にとって必読だと思う。
以上,記してきたように,本書はエビデンスという客観的な情報に,臨床家の経験や思索,そして熱い思いが加わっているガイドラインで,それが本書を血の通うものにしている。机の傍らに置き,折々に開いて読むことをお勧めしたい。たくさんの示唆を得ることができると思う。
摂食障害医療の現時点での到達点を示す一冊
書評者: 野村 総一郎 (防衛医大病院病院長/防衛医大教授・精神科学)
摂食障害の患者数は著しく増大し,しかも治療に困惑するようなケースも少なくない。心療内科や精神科の現場では,これに対応するための方法論を確立することが喫緊の課題といえよう。このタイミングで本書が出版されたことは,まさに渡りに船,しかもかゆい所に手が届くような内容である。臨床家が知りたい情報がうまく整理され,網羅的にわかりやすく記述されている。それもそのはず,本書は日本摂食障害学会の主要メンバーにより企画されており,現時点での到達点を示し,今後の展開も見据えた心意気も感じられる完成度の高いガイドラインである。
本書には多くの特徴があるが,エビデンスレベル付きで391編もの論文がリストアップされていることは,学会が作成した本書の立ち位置を明確に示している。摂食障害についてこのようなエビデンスが示されたことはこれまでなかったのではないか? ただ,ガイドラインというと,えてして機械的,マニュアル的な記述に陥りがちだが,本書は決してそうではない。摂食障害について知識の薄い初学者にとっての読み物という色彩も十分に感じられる。特に,摂食障害医療では併発症の扱いが非常に重要であるが,うつ病,不安障害,発達障害,アルコール依存など各障害などの項目別に解説されているのもありがたい。
本書は「治療ガイドライン」であるから,当然力点は具体的な治療に置かれている。実は摂食障害に関する生物学的なアプローチも結構盛んであり,神経内分泌学や,画像研究など,少なくとも研究レベルでは成果が上がっているかと思われるが,本書ではそのあたりについてはごくあっさりとした記述に留まっている。やや物足りないと感じる読者もいるかもしれないが,これも治療ガイドラインとして,当然のスタンスであろう。特に「治療選択の基準」から入り,救急対応や各論的な治療に進んでいるのはガイドラインとして適切であろう。薬物療法についての記載は少なく,セルフヘルプを含めた精神療法的な方法,退院後のマネジメントに多くのページが割かれているのは,摂食障害医療の現状を反映している。精神療法の各論については,本書の白眉である。実にわかりやすく多くの治療技法が示され,摂食障害を抜きにしても,おのおのの精神療法の考え方を知る上にも役立つと感じられた。
以上,本書は摂食障害医療の現時点での到達点を示した,現場にとって有用な一冊であり,研修医,プライマリ・ケア医,心療内科医,精神科医,看護師,臨床心理士など,多くの現場人に薦めたいと思う。
更新情報
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更新情報はありません。
お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。