標準形成外科学　第6版

第6版 序

　わが国の専門医制度も，ここにきてようやくその形が見えてきた感がある．
　日本専門医制評価・認定機構は，“医学部を卒業した医師が，必ずその中の1つを選択して専門的研修を行うべき，基本的領域診療科の専門医（基本領域専門医）”と，“さらにその上において，細分化された医療を担う専門医（subspecialty領域専門医）”の2つからなる，二階建て専門医制度を提唱し，その体制作りを始めた．形成外科はそこで基本的領域診療科18科の1つと位置付けられており，日本形成外科学会もそれに応じるべく改革を急いでいる．すなわち，これまで外科の一分野として手術を中心に進歩発展してきた形成外科であるが，今後は手術に限らず，組織工学，再生医療などの手法を駆使して，主として体表面に生じたあらゆる変形，組織損傷，腫瘍性疾患を総合的に治療する，基本的領域にふさわしい診療科となるべく整備を始めた．
　土台となるのは，手術で蓄積されてきた“体表面解剖に関する知見”であり，瘢痕やケロイドの治療・研究で得られた“創傷治癒に関する知見”である．これらに基づき，前述したような手法を用い，各種体表先天異常，外傷および瘢痕，皮膚・皮下腫瘍，腫瘍切除後の組織欠損，難治性皮膚潰瘍といった，広範囲にわたる疾患の診療を担うべく準備に入った．今回の改訂にあたっては，学術的進歩に伴う記載内容の更新に加え，そのような変化を十分反映させることに留意した．具体的には，1章「形成外科総論」に「損傷・創傷治癒」の項を追加した．2章「形成手術手技」では，手術に関する項を整理縮小する一方，「組織工学と再生医療」の項を新たに設けた．さらに，4章「外傷」に「プライマリケア」の項を追加した．
　読者対象も，前版までは初期研修医を加えていたが，今版からは医学生に絞った．すなわち，医師国家試験に必要となるような基本的内容を網羅してわかりやすく解説し，これに最近脚光を浴びている分野における最新の知見を簡単に加えることにより，教科書としてより活用しやすいものになるよう心がけた．
　本書は1975年の初版発行以来第4版までを鬼塚卓彌先生に，また第4版以降は秦 維郎先生，野崎幹弘先生に監修，編集いただいてきたが，今版はわれわれ2名がこれを受け継ぎ編集を担当した．鬼塚先生，秦先生，野崎先生，そして第5版までに執筆をいただいた先生方，また今版より新たに執筆に加わっていただいた先生方に厚く御礼申し上げるとともに，本書刊行にあたって多大なご努力をいただいた医学書院の関係各位に深甚なる謝意を表する．

　2011年10月
　平林慎一
　鈴木茂彦

第I編　総論
　第1章　形成外科総論
　　形成外科の概念
　　形成外科と形態学
　　形成外科患者の精神病理と患者対応
　　損傷・創傷治癒
　第2章　形成手術手技
　　皮膚外科基本手技
　　皮膚表面形成術
　　組織移植術
　　組織工学と再生医療
　　ティッシュエキスパンダー法（組織拡張法）
　　マイクロサージャリー（微小外科）
　　クラニオフェイシャル・サージャリー（頭蓋顔面外科）
第II編　先天性疾患
　第3章　先天異常
　　先天異常概論
　　頭蓋・顔面
　　眼瞼
　　耳介
　　口唇・口蓋
　　頚部
　　躯幹
　　四肢先天異常
第III編　後天性疾患
　第4章　外傷
　　損傷および創傷
　　熱傷
　　その他の外傷
　第5章　皮膚および皮下疾患
　　皮膚皮下腫瘍
　　瘢痕とケロイド
　　脈管系疾患
　　炎症性疾患，その他
　第6章　難治性潰瘍・変性疾患・膠原病
　　難治性潰瘍
　　褥瘡
　　糖尿病性足潰瘍
　　膠原病・変性疾患
　第7章　再建外科
　　頭頚部
　　顔面神経麻痺
　　躯幹
　　殿部・陰部
　　性同一性障害
　　四肢
第IV編　美容外科
　第8章　美容外科
　　皮膚の美容外科
　　顔面の美容外科
　　躯幹，四肢の美容外科

付録・医師国家試験出題基準対照表
和文索引
欧文索引