看護教育学研究 第2版
発見・創造・証明の過程

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看護教育学に関わる研究に取り組むすべての研究者に必要な知識、技術、姿勢を解説。第2版では、先行研究分析や内容分析など、看護学教育研究に必要となる方法論の記述が充実。また、これまで蓄積されてきた研究が、看護教育学の体系全体の中でどのように位置づくかが整理されている。
舟島 なをみ
発行 2010年11月判型:B5頁:344
ISBN 978-4-260-01132-7
定価 4,180円 (本体3,800円+税)

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第2版の序

 本書の初版は,2002年4月であり,そこから8年が経過し,第2版の出版は実現した。筆者は,これまで看護教育学に関連した著書数冊を単著者もしくは監修者として出版した経験を持ち,そのうち,本書も含めて3冊は第2版の出版を実現している。
 第2版の出版は,改訂とも表現できるが,改訂という用語を辞書で引いてみると,書物や文書などの欠点を直すなど,内容を改めることとある。改訂をこのようにとらえたとき,第2版の出版を実現した著書3冊に改訂という用語を用いるのは不適切なように思う。いずれも欠点を直すなど,内容を改めるというよりは,むしろ,新たな内容を加筆しているためである。また,加筆は,すべて研究を通して明らかになった新たな内容を反映している。決して第2版の出版を意図して研究を継続してきたわけではないが,このような現実に直面し,改めて,研究の力とそれを継続していく意義を実感せざるを得ない。
 本書は「看護教育学研究の体系」,「看護教育学研究のための方法論」の2部から構成される。細部にわたり,初版を基盤に累積された研究成果を反映した内容へと加筆,修正をしたが,次の3点に関しては,特に充実できたと実感している。
 第1は,第1部第3章「看護教育学研究の体系」である。初版は,看護教育学研究が基盤研究,基盤研究発展型応用研究,研究課題確定型応用研究,社会要請対応型応用研究,統合研究により体系化されることを示した。また,基盤研究,基盤研究発展型応用研究,研究課題確定型応用研究,社会要請対応型応用研究については,その具体例を例示できた。しかし,統合研究については,統合研究とは何かに関し概説するにとどまり,具体例を例示していない。それは,次の理由による。
 2002年時点,漠然とではあるが,将来の研究の方向性として看護教育学研究が基盤研究と基盤研究発展型応用研究にとどまることなく,それらをさらに発展させた研究へと向かう必要性を感じていた。それは,看護が実践の科学であり,研究成果も看護実践,教育に活用できなければならないにもかかわらず,活用可能性という観点から基盤研究と基盤研究発展型応用研究では十分とはいえないと感じていたためである。また,研究成果の活用可能性を向上させるためには,経験的に複数の成果を整理・統合し,実践への適用が容易な形態へと整え提示する必要があるとも感じており,初版はこの時点における出版であった。
 その後,研究成果を累積し,第2版は,複数の具体例を紹介しつつ統合研究の詳細を論述できた。千葉大学大学院看護学研究科は,2003年,21世紀COEプログラムの拠点の採択を受けた。筆者もメンバーの1人としてこのプログラムに参加した。この活動が統合研究の推進と本書への論述を後押しした。
 充実できた点の第2は,第2部第6章「看護教育学における先行研究分析─方法論と研究の実際」の書き下ろしである。筆者らは1988年より看護学教育研究を対象として何がどのように研究されているのか,すなわち先行研究分析に着手している。第2部第6章は,その分析結果に基づく論述である。1988年当時,これが研究か否かについて論議があり,研究として成立するよう方法論を確立する必然性に直面した。このような経験を基に,方法を整理しつつ,それに沿って先行研究の分析を推進した結果,同様の方法を用いた多数の研究が学会発表や原著論文としても公表されるようになった。また,複数の研究者からこれを研究方法論として論述してほしいという要請を受け,本書初版出版の際にはすでに執筆に着手した。しかし,着手したものの,「文献研究」とどのように異なるのかという問いを乗り越えることに数年間を要した。筆者がこの問いに悩まされている間も研究成果は累積し,それがこの問いに対する筆者なりの回答と「看護教育学における先行研究分析─方法論と研究の実際」として本書への論述を後押しした。
 充実できた点の第3は,第2部第7章II Berelson, B.の方法論を参考にした看護教育学における内容分析の執筆である。これは,すでに2007年に出版した『質的研究への挑戦 第2版』(医学書院)にその概略を掲載済みである。しかし,第2部第7章は「看護教育学における理論開発に必要な研究方法論」と章立てしたため,このような観点からBerelson, B.の方法論を参考にした看護教育学における内容分析の再掲は必須であった。他の方法論と同様に,具体例を提示しつつその詳細を論述した。

 本書は,多数の研究事例を包含している。それらは,亀岡智美さん,中山登志子さん,松田安弘さん,三浦弘恵さん,山下暢子さん,吉富美佐江さん,阿部ケエ子さん,大井千鶴さんを筆頭著者とする研究であり,その意義に共感し,多くの資料を提供してくださった。また,山澄直美さん,服部美香さん,森山美香さんには,先行研究分析に関する論述を関心を持って丁寧に読んでいただき,貴重な意見を多数頂いた。望月美知代さんには,本書完成に向け多種多様な役割を担っていただいた。さらに,医学書院の杉之尾成一氏,北原拓也氏には,出版の機会を獲得していただくと共に,完成に向けた適確な支援と激励を賜った。これら多くの皆様に支えられつつ『看護教育学研究 第2版』の出版が実現したことを再確認し,あらためて支えてくださった皆様に心より感謝申し上げる。

 2010年夏
 舟島なをみ

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第1部 看護教育学研究の体系
第1章 看護教育学の定義と理念
 I.看護教育学の定義
 II.看護教育学の理念
 III.看護教育学の定義・理念と看護教育学研究
第2章 看護学教育研究の動向と看護教育学研究の課題
 I.看護学教育研究数の増加と看護職養成教育制度の整備
  1.看護学教育研究数・研究者の所属に関する結果とその解釈
  2.看護職養成教育の大学化に向けた看護教育学の取り組み
 II.多数の類似した研究と看護学生理解のために必要な知識の産出
 III.研究における倫理的問題と看護学教員の倫理的行動に関する研究
  1.看護学教育研究における倫理的問題
  2.看護学教員の倫理的行動の重要性とその研究
  3.看護学教員の倫理的行動と指針
第3章 看護教育学研究の体系
 I.基盤研究
  1.基盤研究として看護現象を解明する必要性
  2.基盤研究の実際例
 II.応用研究
  1.基盤研究発展型応用研究
  2.社会要請対応型応用研究
  3.研究課題確定型応用研究
 III.統合研究
  1.意義と特徴
  2.統合研究により開発された知識体系
  3.看護における性の異なる少数者の経験
   ─男子看護学生と男性看護師の経験の統合
  4.看護学実習における学生の行動と経験の関連
   ─行動概念と経験概念のメタ統合を通して
第4章 看護教育学研究に必要な倫理的配慮
 I.看護教育学研究における人権擁護の指針
  1.危険から自由である権利とその権利の擁護
  2.プライバシーと尊厳の権利とその権利の擁護
  3.匿名の権利とその擁護
 II.対象者擁護に必要な手続きと留意点
  1.説明と同意(インフォームドコンセント)
  2.看護教育学研究における対象者擁護に必要な手続き
 III.看護教育学に関わる研究における倫理的問題
  1.対象者の同意に関する問題
  2.対象者の匿名性に関する問題
  3.研究対象者の負担に関わる問題
  4.データ提供の強制に関わる問題
第5章 看護教育学の研究者が貢献できること

第2部 看護教育学研究のための方法論
第6章 看護教育学における先行研究分析─方法論と研究の実際
 I.看護教育学における先行研究分析の意義と特徴
  1.看護教育学における先行研究分析の必要性
  2.先行研究分析の意義と特徴
  3.文献検討と先行研究分析の類似点・相違点
 II.先行研究分析の展開
  1.研究課題の焦点化
  2.分析対象とする研究の検索と収集
  3.収集した研究のデータ化
  4.分析方法
 III.先行研究分析の実際
  1.新人看護師の教育体制としてのプリセプターシップに関する先行研究分析
  2.看護学実習における学生経験を解明するために用いられた
   面接方法に関する先行研究分析
第7章 看護教育学における理論開発に必要な研究方法論
 I.看護概念創出法─方法論と研究の実際
  1.看護概念創出法が立脚するパラダイム
  2.看護概念創出法の目的と機能
  3.看護概念創出法における研究対象者の人権擁護とその方法
  4.看護概念創出法における信用性(Trustworthiness)の確保
  5.看護概念創出法の展開
  6.看護概念創出法を適用した研究の実際
 II.看護教育学における内容分析─方法論と研究の実際
  1.内容分析の歴史と特徴
  2.看護教育学研究と内容分析
  3.Berelson, B.の方法論を参考にした看護教育学における内容分析
  4.Berelson, B.の方法論を参考にした看護教育学における内容分析の実際
 III.看護教育学における測定用具開発─方法論と研究の実際
  1.測定用具開発の理念
  2.測定用具の開発過程
  3.開発された測定用具の特徴
  4.看護教育学における測定用具開発の実際
 IV.看護における理論検証─方法論と研究の実際
  1.看護教育学と理論検証
  2.看護における理論検証概論
  3.看護における理論検証各論

索引

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初版後9年間の研究成果が盛り込まれた教育研究者必携の書 (雑誌『看護教育』より)
書評者: 川本 利恵子 (九州大学大学院医学研究院 保健学部門看護学分野長)
 本書の初版が出版されたのは2002年,今から9年前である。当時は,高齢化社会の到来に向けて国民の健康を守るための重要な専門職として,大学教育による看護職育成が推進され,看護系大学が100大学,大学院が54研究科へと増設された社会情勢であった。この社会ニーズに応えるため,看護教育者らによって新たなる看護学教育の理念,目的,教育課程の検討が行われるようになった。2002年9月に大学基準協会から「21世紀の看護学教育」が発表され,注目を浴びたが,その直前に看護学教育に携わる者が日々どのような姿勢で看護教育を探求していくべきかというバイブルともいえる本書の初版が出版されたのである。

 内容構成の核は「看護教育学研究の体系」「看護教育学研究のための方法論」である。そして,看護教育学研究の膨大な研究成果から,看護教育学研究を体系化し,看護学教育の理論を開発していくために必要な研究方法とは何かを,また看護教学育研究を行ううえで重要な方法論を述べている本書の骨格は,初版も第2版も変わっていない。また,9年前に出版された当時に多くの方が称賛した膨大な研究成果および緻密な整理および構築の素晴らしさは今も息づいており,改めて初版を読み直しても色あせていない。第2版は初版のすばらしさを失うことなく,むしろ多くの発展した内容を加えた書といえる。

 初版では看護教育学研究が基盤研究,基盤研究発展型応用研究,研究課題確定型応用研究,社会要請対応型応用研究,統合研究という体系化と内容が研究の具体例をもとに解説されていたが,統合研究の具体例は例示されていなかった。研究成果の活用可能性という視点からの具体例の提示を行うには,初版の時期では十分でないという判断から見送られたようである。しかし,今回の第2版では,複数の研究成果を整理・統合し,実践への適用を意識した,まさに看護実践の研究とはこれであるというような複数の具体例を提示し,統合研究の内容が追加されている。さらに,「看護教育学研究のための方法論」では,「看護教育学における先行研究分析一方法論と研究の実際」という章立てで,先行研究の分析の意義と分析の展開の仕方が加筆されているが,ここでも,わかりやすい具体例が例示されている。また,Berelson, B. の方法論を基盤にした看護教育学における内容分析が詳細に論述されているのも魅力的な内容である。このように,本書は,初版後の9年間に著者が粘り強く根気よく継続し,蓄積してきた研究成果がたくさん詰まった書である。

 看護教育携わっている者,これから携わる者,また研究の具体例が詳細に例示されているので,若手研究者にとっても役立つ書である。

(『看護教育』2011年4月号掲載)

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