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ペーパー・ペイシェントで学ぶ教える 第2版
精選18の事例演習

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看護師2年課程通信制の設置と同時に発行した初版から6年。第2版は、いっそうの「学びやすさ・教えやすさ」をめざしてブラッシュアップ。事例を28から18へ精選するとともにレイアウトを刷新し、随所にイラストを挿入した。視覚的にも知識が得やすくなり、ペーパー・ペイシェント(紙上患者)ならではの臨場感をさらに増して事例展開。通信制に限らず、看護を学ぶ・教える多くの人のための「精選事例集」として活用していただきたい。
編集 坪倉 繁美
発行 2010年01月判型:B5頁:192
ISBN 978-4-260-00982-9
定価 2,420円 (本体2,200円+税)

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第2版の序

 看護上の問題解決の能力を高めるために,学ぶもの,教えるもの双方で様々なかたちの能力開発が行われていることと思われる.初版は,就業経験の長い准看護師が看護師になるために2004(平成16)年4月から実施された看護師2年課程通信制における実習代替用教材として活用されることを動機として発刊されたものである.実習や実践活動での体験は,個人的・主観的な体験であり,ばらばらで無秩序な状況でもある.それを客観的で秩序ある価値あるものへと学び直す過程で問題解決の能力を向上させる.具象から抽象へと思考し発展させるために「帰納的学習」を導入した教材を作成したものである.
 この教材は,就業経験の長い准看護師が看護師になるための学習だけではなく,大学や看護学校等で看護学を学ぶ多くの学生や教師に活用されていた.初版に盛り込んだ趣旨を貫きながらも,活用した方々の意見を受けて,学ぶもの,教えるものにとって使いやすく改訂した.事例は厳選したため数を減らし,さらには事例の状況がイメージできるよう,また理解が進むように図やイラストを加え改訂した.
 自分で「よく考えて」看護上の問題・看護目標・看護の具体策を導きだすためには,一定の知識が必要である.知識や情報をつなげながら結論を出すためには,関連や因果を考え,発展的に思考することが必要である.前者は活用する既有知識であるため,本書では「必要な知識」とし,後者の思考を「関連思考」「因果思考」「発展思考」とし,これらの思考をどう使って問題を解決するかを総じて「問題解決思考を鍛える教育をするための指針」とした.
 自分でよく考えて,学習する立場にあるものは,「必要な知識」を整理し,事例ごとに示された思考を使ってみてほしい.また,教える立場にあるものは,学習者個々がつまずいたり行き詰まっているときには,個人の能力や学習過程の困難性の評価・判断や学習支援に活用してほしい.このように本書は,ペーパー・ペイシェントで学び,教えることによって,個々人の問題解決能力の向上に役立つような構成にしているので,本書の趣旨が,1人でも多くの方の参考になれば幸いである.

 2009年12月
 執筆者を代表して
 坪倉 繁美

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はじめに
 1 帰納的学習のために
 2 ペーパー・ペイシェントによる学習

基礎看護学
 事例1 活動制限のある青年期男性の清潔援助 [特発性右自然気胸]
 事例2 左片麻痺のある人の日常生活自立への援助 [脳梗塞]
 事例3 初老期にある患者の排泄援助と環境調整 [前立腺肥大]

在宅看護論
 事例1 一家の大黒柱としての役割を最後まで果たそうとする
   筋萎縮性側索硬化症療養者と家族への看護 [筋萎縮性側索硬化症]
 事例2 長期の肺結核から在宅酸素療法が必要となり
   先行きを案じる療養者への看護 [陳旧性肺結核]

成人看護学
 事例1 手術によるボディイメージの変化を伴う患者の看護 [大腸がん]
 事例2 長期にわたり自己管理を要する患者の看護 [糖尿病]
 事例3 苦痛を伴う終末期患者の看護 [肺がん]

老年看護学
 事例1 生活史を尊重し,活動意欲を高める老年期の看護
   [大腿骨転子部骨折・高血圧症]
 事例2 「家に帰ります」と訴え,徘徊する老年期の看護
   [認知症・高血圧症・変形性膝関節症]

小児看護学
 事例1 身体的苦痛の強い乳児の看護 [川崎病(MCLS)]
 事例2 化学療法の副作用で苦痛の強い白血病学童の看護
   [急性リンパ性白血病(ALL)]

母性看護学
 事例1 不妊治療後で分娩に対する不安が大きい高齢初産婦の看護
 事例2 仕事と育児を両立させようとしている初産の褥婦の看護

精神看護学
 事例1 急性症状を呈する患者の対人関係づくりの看護 [統合失調症]
 事例2 初老期の抑うつ状態にある患者の看護 [うつ病]

看護倫理
 事例1 カルテの改ざんを命じられた事例
 事例2 褥瘡のリスク評価の高い患者に褥瘡を発生させてしまった事例

 文献一覧
 索引

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考えることの楽しさ・手応えを引き出す問いの宝庫 (雑誌『看護教育』より)
書評者: 植田 久美 (弥富看護学校(2年課程通信制))
 この本には,ペーパー・ペイシェントで“考えるための手がかり”が凝縮されている。紙上に示された対象を把握し,アセスメントから看護計画を立案するプロセスにおいて,何を,どう考えればよいかという「問い」を投げかけ,問題解決思考を導いてくれる。主要疾患の病態生理から看護展開まで順を追って詳述する模範的ケーススタディとは一線を画する。

 “手がかり”は前版から精選された18事例に盛り込まれている。まず「必要な知識」を携え,次に「イメージ化」で対象の体験世界に寄り添い,さらに「因果・関連・発展思考」により問題解決の糸口をつかむという構造だ。そしてこの指針は,体験的知識を活かし安定した知識として再構築する「帰納的学習」の視点で貫かれている。

 准看護師として10年以上のキャリアをもつ2年課程通信制の学生は,帰納的学習を行なうための看護体験を豊富にもっている。それにもかかわらず,彼/彼女らは「考えること」の前で萎縮してしまいがちである。事例を前に,何をどう展開すればよいのかわからないと途方に暮れる者,模範事例集に答えを求め,部分だけを抜き取り,パズルのようにはめ込む者もいる。

 そうした中で「イメージ化」は,彼/彼女らの強みを引き出す有効な問いだ。例えば,成人看護学の事例1「腹部から便が出るというボディイメージの変化を受け入れること」から,これまでの体験と知識を総動員し,姿の見えない患者の気持ちを推し測ることができる。10年のキャリアが,患者の体験世界に寄り添うことを容易にする。このイメージ化によって,「この人の疾患や看護についてもっと知りたい」という知的好奇心が触発されると「因果・関連・発展思考」の問いは効力を一層増す。例えば「手術(マイルズ法)による神経損傷と排尿障害との関係」から因果関係がわかれば,膀胱内留置カテーテルの固定の工夫や,長期留置に伴う注意点へと関連づけて考えることができる。これは,看護の根拠や理由をそれまであまり自覚しないまま行なってきて得られた知識が,こうした問いを受けて考えることで意味として形を成し,安定した知識へと変化していくことを表わしている。「自分がやってきたことにはちゃんと意味があった。根拠に裏づけられていた」という発見や感動は,帰納的学習の原動力になる。

 看護体験を豊富にもつ2年課程通信制の学生だからこそ,帰納的学習を取り入れることには意義がある。学生が,アセスメントの模倣やパズルに終始せず,自分で考えることの楽しさや手応えを実感できるように,そして教員は「指針」を活用して学生の問題解決思考を鍛えることができるように,ペーパー・ペイシェントで学ぶ・教えることの奥深さを,この本は教えてくれる。

(『看護教育』2010年4月号掲載)

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