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子宮頸部細胞診ベセスダシステム運用の実際

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従来のパパニコロウクラス分類(日母分類)にかわり、日本にも本格的に導入された、子宮頸部細胞診の新しい報告様式である“ベセスダシステム2001”に関する解説書。日本の実情に合わせ、細胞診に携わる方々の疑問点を端的に捉え、分かりやすく解説している。豊富な写真にきめの細かい説明を加え、多くの初学者にとって新報告様式が平易に理解できる内容となっている。
編集 坂本 穆彦
執筆 坂本 穆彦 / 今野 良 / 小松 京子 / 大塚 重則 / 古田 則行
発行 2010年06月判型:B5頁:224
ISBN 978-4-260-01051-1
定価 8,800円 (本体8,000円+税)
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 わが国の子宮頸部領域の細胞診の報告様式であった日母分類は,2009年(平成21年)にその作成母体である日本産婦人科医会によって廃止されました。今日では,それに変わって“ベセスダシステム2001”の使用が推奨されています。この動きはわが国の約半世紀にわたる細胞診の歴史の中では画期的な出来事といえましょう。
 “ベセスダシステム2001”は,文字通り2001年にすでに提起されていたものですが,その初版は1988年にまでさかのぼります。その時点ですでに日母分類の原形であるパパニコロウ分類からの脱却が宣言されていたのでした。したがって,国際的な流れとわが国の対応は約20年の開きがあったことになります。その是非はともかくとして,パパニコロウ分類にかわる新しい報告様式の導入が,今後婦人科病変にとどまらず各領域にひろがってゆくであろうことは十分予想されます。現に,2008年にはベセスダシステム第2弾ともいうべきベセスダシステム甲状腺細胞診が公にされています。
 “ベセスダシステム2001”の普及に関して,日本産婦人科医会では早々にその解説冊子を作り,現在ではホームページで閲覧可能となっています。研修会や企業作成のパンフレットやモノグラフ,米国版アトラスの翻訳本も出版されています。しかしながら,わが国の著者による書籍としての出版はこれまでになく,本書が初めてのものと思われます。本書は“ベセスダシステム2001”導入による試行過程での経験をもとに,第一線の病理,産婦人科,細胞診の専門家が分担して執筆したものです。簡潔な解説とわかりやすい図説に意をそそいだつもりですので,日常の細胞診業務のガイドとして折に触れて手にしていただければ幸いです。
 文末ながら,本書の企画の段階から完成までの間,親身にお手助けをいただいた医学書院の大野智志氏には執筆者一同を代表して厚くお礼申しあげます。

 2010年4月
 坂本穆彦

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I.ベセスダシステムの概容
 1 日母分類からベセスダシステムへ
  a.ベセスダシステムとは何か
  b.ベセスダシステム提唱の背景
  c.ベセスダシステムの改訂
  d.“ベセスダシステム2001”へのわが国の対応
 2 日母分類の問題点
 3 ベセスダシステムの要点
 4 ベセスダシステムのわが国での運用

II.判定の実際
A.検体の適・不適の評価
 1 移行帯細胞
 2 不適正検体
  a.上皮細胞の数の不足について
  b.不明瞭検体について
 3 標本作製
  a.採取器具について
  b.処理方法について
 4 液状処理法の種類
B.非腫瘍性所見
  a.微生物
  b.反応性細胞変化
C.扁平上皮系異型病変
 1 扁平上皮内病変(SIL)
  a.軽度扁平上皮内病変(LSIL)
  b.高度扁平上皮内病変(HSIL)
 2 異型扁平上皮細胞(ASC)
  a.ASCの解釈
  b.ASCの所見と注意点
  c.ASC-US
  d.ASC-H
 3 扁平上皮癌(SCC)
D.腺系異型病変
 1 異型腺細胞(AGC)
  a.AGCの実際
  b.AGCの分類
  c.AGCの臨床的取り扱い
 2 内頸部上皮内腺癌(AIS)
  a.AISの細胞像
 3 腺癌
  a.腺癌細胞の一般的な特徴
  b.組織型別にみた細胞像
E.その他の所見
  a.判定困難例(細胞の質的,数的困難例)
  b.腺扁平上皮癌
  c.異型修復
  d.由来不明細胞

III.報告の実際
 1 子宮頸部細胞診報告様式としての日母分類とベセスダシステム2001
 2 標本の種類および検体の適否
  a.標本の種類
  b.検体の適否
 3 細胞診判定
  a.基本的な概念
  b.ASC-US,ASC-H,AGCについて
  c.扁平上皮病変について
  d.腺系病変について
 4 報告の実際例
 5 報告を受ける側
  a.臨床(結果の解釈と取り扱い)
  b.行政(集計)

参考文献
索引

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ベセスダシステム導入が急がれる現場で有用な手引書
書評者: 長村 義之 (国際医療福祉大病理診断センター長)
 本書は,わが国にも本格的に導入された,子宮頸部細胞診の新しい報告様式である“ベセスダシステム2001”に関する解説・手引書である。

 広く知られるように,1980年代にその頃用いられていたパパニコロウクラス分類やDysplasiaのグレードなどにおいて,不一致あるいは検体の適正などが医療訴訟にも直結する問題点としてあげられていたが,ベセスダシステムThe Bethesda Systemは,その解決策として考案され普及してきた分類法である。(1)検体の適・不適を明確化する,(2)パパニコロウクラス分類を廃し,新しい診断システムを導入する,(3)細胞診の報告はmedical consultationと位置づける,などがキーポイントである。2001年の改訂版では,骨子は大きく変わらないものの,(1)判定困難な症例に対するカテゴリーの用語に変更が加えられたこと,(2)ヒト乳頭腫ウイルス(human papilloma virus : HPV)に対する研究成果を取り入れたことなどが主な変更点である。これにより,HPV・DNAテストと細胞診の関連がクローズアップされた。

 ベセスダシステムは,わが国にとってはいわば“輸入品”であるが,昨今の医療現場からのニーズに答えるべく,積極的な導入が決定されている。日本臨床細胞学会でも,数多くの議論を経て,導入を決定している。婦人科から提出される細胞診標本は,現場では,検査士が鏡検し,細胞診専門医,病理専門医が確認して報告することとなる。この際の,検査士,専門医へのベセスダシステムの普及が極めて重要といえる。その意味で,本書は“日本人による日本人のための新しい報告様式の手引書”として重要なものである。

 本書の組み立ては,「I.ベセスダシステムの概容」「II.判定の実際」「III.報告の実際」から構成されている。紙面を多く割いているのは「II.判定の実際」である。ここには,ベセスダシステムの項目に合わせて,「A.検体の適・不適の評価」「B.非腫瘍性所見」「C.扁平上皮系異型病変」「D.腺系異型病変」「E.その他の所見」について詳しい記述とカラーの図が適材適所に示されていて理解しやすい。

 特に,扁平上皮系の異型病変では,[1]扁平上皮内病変(SIL):軽度LSIL/高度HSIL,[2]異型扁平上皮細胞(ASC),[3]扁平上皮癌(SCC),腺系異型病変では,[1]異型腺細胞(AGC),[2]内頸部上皮内腺癌(AIS),[3]腺癌などに分類される。それぞれ代表的な細胞像のまとめが“所見”の項にリストアップされていて,極めてわかりやすい。

 「III.報告の実際」では,まず厚生労働省からの通達によれば,(1)細胞診結果の分類には,日本母性保護産婦人科医会の分類およびベセスダシステムによる分類のどちらを用いたかを明記すること,(2)日本母性保護産婦人科医会の分類を用いた場合は,検体の状態において「判定可能」もしくは「判定不可能」(ベセスダシステムによる分類の「適正・不適正」に相当)を明記すること,となっている。また,報告書に関しても,検診での実例が添えられていてわかりやすい。

 日常の細胞診の現場で,検査士,病理医,産婦人科医にベセスダシステムの導入が急がれているが,本書は極めて有用な「手引書」といえる。すでに,細胞診に従事しているわれわれはもとより,これから検査士資格,専門医資格をめざす諸氏にも,わかりやすいガイドラインとしてお薦めしたい“一冊”である。
日本人による日本人のための新しい報告様式の手引書
書評者: 石井 保吉 (こころとからだの元氣プラザ臨床検査部長)
 細胞学会創立から50年余り,近年に至るまで日本の子宮頸部上皮内病変の細胞診判定基準は,パパニコロウのクラス分類が日母分類においても採用され,各施設独自の表現方法で行う報告様式が用いられてきた。施設によっては,クラス0というカテゴリーを作り,あるいは数個の細胞のみでも異型細胞を認めなければクラスIと判定するなど,各施設間で統一性の無い結果報告がされ,検体の適正・不適正判定の記載項目も対応していなかった。その結果,従来の分類は2007年に廃止を決定し,2009年4月より日本産婦人科医会が推奨する“ベセスダシステム2001”が日本にも本格的に導入された。

 ベセスダシステムの利点は以下の3点にある。

 (1)検体の適・不適の判断には,乾燥や血液混入などによる細胞判定が難しい検体が含まれる。また,保存状態の良好な扁平上皮細胞が,直接塗抹である従来法では8,000個以下,液状処理法では5,000個以下の検体は,不適正検体とされる。不適正の理由が報告書に記載されるシステムになっており,われわれ細胞診判定を行う者の側に立った報告様式となっていること。

 (2)細胞診判定の推定病変名の記述は,組織診の診断と同じプロセスを採用している。LSILはCIN分類ではCIN1に,取扱い規約分類では,軽度異形成が含まれる。HSILにはCIN2とCIN3が含まれ,CIN2は中等度異形成,CIN3には高度異形成およびCISが含まれること。

 (3)ベセスダシステムで新しく採用された扁平上皮内病変(squamous intraepithelial lesion : SIL)は,HPV感染と発癌に関する分子生物学的研究成果を取り入れて設定されたものであること。

 子宮頸部細胞診を診ていての私見であるが,癌は主に移行帯領域に発生する。HPV感染所見の一つであるKoilocytotic atypiaは,LSILに分類する。また,扁平上皮化生細胞に由来した核異型細胞で細胞像に分化傾向がみられるSILは中等度異形成に,未熟な扁平上皮化生細胞に由来した核異型細胞で細胞像に分化傾向がみられないSILは高度異形成,あるいは上皮内癌としてHSILに分類される。これらと移行帯領域から発癌する事実が,ベセスダシステム2001で提唱する判定基準に形態学と分子生物学的融合の結果に一致するようになるのではと考えている。したがって,LSILでは発癌し難いが,HSILでは発癌する可能性が高いため,中等度異形成が持続するケースは厳重フォローアップが必要と思われる。

 日常のスクリーニング業務を行いながら書籍『子宮頸部細胞診ベセスダシステム運用の実際』の書評を書かせていただく機会を得たことにより,私自身も学ばせていただいた。ASC-USからHSIL,AGCまで網羅され細胞像も豊富で,しかも,簡潔で理解しやすい説明が満載された「日本人による日本人のための新しい報告様式の手引書」である。細胞検査士,専門医だけでなくこれから細胞診を学ぶ方々,また,検診者の指導方針を決定する婦人科医にもぜひお薦めしたい一冊である。
現場で困惑している関係者のための書
書評者: 半藤 保 (日本細胞診断学推進協会理事長)
 子宮頸部細胞診をめぐる最近の動きは目まぐるしいほど急速である。それは以下の理由によっている。

 分子生物学の進歩によって,ここ30年余の間にHPV感染による子宮頸がんの発がん機構の一部が明らかになり,これを細胞診断学に採り入れる必要性が生じた。1988年12月以来,数回にわたるNCI(米国国立がん研究所)主催のベセスダ国際会議の成果をベセスダシステム(2001)として,子宮頸部細胞診に活用することになった。本来この会議は細胞診の解釈を臨床医に明確,かつ適切に伝えることのできる細胞診報告システムの作成を目的とするものであった。

 日本では,1997年のパパニコロー分類を改良した細胞診日母分類が広く利用されてきたが,日母分類にも不合理性な点があった.そのため,2007年12月には,日本産婦人科医会(旧日母)が従来の日母分類を廃止して,2001ベセスダシステムによる報告様式を採用することを決定した。その背景には,国際化の波に乗り遅れることは学問的進歩を阻害しかねないため,欧米基準との整合性を図る必要もあった。

 日本では早くから問題とされながら放置されてきたことであるが,ベセスダシステムの採用によって標本の適・不適を明確に臨床家に伝える報告書が作成されることになった。しかしながら,HPV感染と関連した新しい病名であるSIL(扁平上皮内病変HSIL/LSIL),ならびに明確にSILと判定できないASC(異型扁平上皮細胞)症例や,わが国で検討が不十分な異型腺病変AGCなど新しい概念も登場し,診療の現場では,いち早く解決しなくてはならない問題が生じた。さらに,最近,各細胞診検査機関で多用されている液状処理検体や,HPVワクチンの問題とも複雑に絡んで混乱に拍車をかけていた。

 本書は,このような変革期にあって,現場で困惑している多くの関係者の悩みを解決するために企画されたといえる。ベセスダ国際会議に日本臨床細胞学会を代表する委員の一人として参加された坂本穆彦先生が中心となり,この方面では名実ともにご高名な仲間たちとともに,問題点を明確に整理したことは誠に時宜を得たものである。比較的短期間にこのような新しい子宮頸部の細胞診に関する報告様式をまとめ上げたことは,変革の兆しが見え始めた当初から国際的潮流をしっかりと見つめ,その合理性を思索した上で,しかも豊富な細胞診の実務経験と膨大な資料を持ち合わせ,かつ,多くの専門書出版を手掛けたものでしかなしえないことである。本書は豊富な写真が要点つきで,わかりやすく解説されている。多くの初学者にとっても容易に理解できる内容になっていることが特徴である。

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