ケースで学ぶ 日常みる角膜疾患
眼科医の日常診療に即役立つ角膜疾患ケーススタディ!
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本書は眼科医が日常よく出会う角膜疾患について、著者の施設における症例検討会でのディスカッションを踏まえ、各疾患の定義、概念、自覚症状、他覚所見、診断・鑑別診断、治療・予後のそれぞれについて詳細に解説した、角膜疾患の実践書。1つ1つの症例をどう考えるか-著者の哲学に裏打ちされた山口大流角膜の診かた、堂々の刊行。
著 | 西田 輝夫 |
---|---|
発行 | 2010年03月判型:B5頁:320 |
ISBN | 978-4-260-01017-7 |
定価 | 17,600円 (本体16,000円+税) |
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序文
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推薦の序(木下 茂)/はじめに(西田輝夫)
推薦の序
『ケースで学ぶ 日常みる角膜疾患』が,西田輝夫先生の単著として医学書院から発刊される運びとなりました.本書は,西田輝夫先生ならびに山口大学医学部眼科学講座の俊英が6年の歳月と精魂を傾けて集めてこられた角膜症例を土台にしています.それぞれの症例の詳細については,雑誌 「臨床眼科」 に毎月掲載されてきており,実に綿密な計画に基づいてでき上がった角膜臨床の教科書であるといえます.角膜に関する教科書といえば,欧米では,Graysonの『Diseases of the Cornea』,Smolin and Thoftの『The Cornea』,Leibowitzの『Corneal Disorders』,Kaufmanらの『The Cornea』,Krachmerらの『Cornea Atlas』,国内では眞鍋禮三先生らの『角膜クリニック』などが有名ですが,多くの教科書は編著であり,単著は極めて稀であるといえます.その意味するところは,多忙を極める日々のなかで単著を仕上げることがいかに難しいことであるかを示していると思われます.一方で,単著本には著者の見かた考え方が明瞭に示され,個々の疾患に対する著者の概念的な捉え方が自ずと浮かび上がってきます.本書からも,西田先生の角膜疾患に対する哲学が興味深く拝見できます.
さて,著者の西田輝夫先生は,大阪大学の蛋白質研究所,愛媛大学医学部の生化学教室,米国ボストン市のRetina Foundationで優れた基礎研究を行い,その後に卓越した臨床能力を発揮した異色の眼科医ともいえます.1980年から大阪大学眼科の眞鍋禮三先生門下で角膜疾患の研究と臨床を行い,フィブロネクチン点眼による角膜上皮欠損治療という画期的な治療方法の開発で世界を席巻し,昨今はサブスタンスPとIGF-1の作用を合わせた素晴らしい新薬を開発しつつあります.本書は,角膜疾患を内科的治療方法の立場から常に見つめてきた,そして国際派であり若者に熱い思いを寄せる西田輝夫先生から次世代眼科医へ送るメッセージです.
本書は,角膜疾患の症例提示と論理的な疾患の説明という記載方法で統一されています.角膜上皮,感染・免疫,角膜変性・内皮,形状異常・外傷,腫瘍・全身,角膜移植そして検査の7部門で構成されており,症例提示には,臨床現場から学ぶという著者の姿勢が明瞭に示されています.単なる教科書にはおさまらない眼科医必携の書とその著者に改めて敬意を表し,推薦の序とさせていただきます.
2010年1月
京都にて
木下 茂
はじめに
雑誌 『臨床眼科』 に「Corneal Diseases 日常みる角膜疾患」を2003年4月号から2009年12月号まで,私と山口大学眼科の教室員とで連載してきました.今日では角膜疾患やオキュラーサーフェスに関する素晴らしい教科書が国内外を問わず沢山発刊されており,今さら角膜疾患の教科書を新しくする必要は感じません.しかし現実には,診断や治療法の選択に苦慮して私たちの専門外来に紹介してくださる症例を診せていただいていると,教科書のような記載ではなく,実際の症例検討会のような書物が必要なのではないかと感じるようになりました.そんな思いを『臨床眼科』の編集会議の折りにもらしたところ,教室の中で行われている症例検討会の雰囲気を伝えながら,毎月1症例を紹介する欄を設けてはどうかということになりました.爾来6年以上にわたり,山口大学の眼科で経験した症例をまず提示し,その確定診断に至る道筋や治療法選択の根拠あるいは経過を述べながら,その症例の概要を説明するというスタイルで連載を続けてまいりました.
毎月この欄を担当する教室員は,どの症例を紹介するのが最も典型的であるかを先ず検討し,私と共に検査成績や症例の転帰を中心に討論し,この欄で紹介すべきかどうか,もし紹介するのであればどの点を最も伝えたいメッセージとするかについて討論を繰り返しました.私自身にとっても,様々な角結膜疾患を改めて整理し直すのに大切な機会となりました.しかし何よりも,この連載は症例に対する考え方,適切な検査法の選択と鑑別診断の要点,それに治療法の選択とその効果の評価など,たった1つの症例からでも教室員が実に多くのことを学ばせていただける大切な訓練の場でもあったと考えます.たった1つの症例をめぐって,何回も,何時間にもわたり互いに疑問や質問をぶつけ合い議論をするうちに,このような訓練が実際の診察や検査あるいは手術の訓練と同等に,臨床能力を涵養する上で極めて重要であり有用であることを教室員が自覚してくれるようになり,大変嬉しく思ったものです.
このように症例をていねいに検討していくことの意義を改めて認識したことから,書籍を通して若い先生方にこうした体験をしていただけないものかと考えるようになりました.また,私たちの教室で出会った多種多様な症例を私たちの教室だけのものとせず,全国の眼科医の先生方と共有したいとも思うようになりました.雑誌連載を終わるにあたり,これを一冊の書物としてまとめたいと相談したところ,医学書院の渡辺一氏のご尽力のお陰で刊行することをお許しいただけました.
連載をまとめるにあたり,最初の原稿から6年以上経ち,一部には少し記載が時代に合わないところも出てきましたので,原文をできるだけ残しながら,改めて全文にわたり加筆修正を行いました.この作業には,柳井亮二講師が加わってくれました.ここに深く感謝の意を表します.その他,ここですべての先生方のお名前を挙げることはできませんが,特に山口大学医学部附属病院検査部の日野田裕治教授には多大なるお力添えをいただきました.心より御礼申し上げます.毎月の原稿が遅れ,時にはそのために発行が遅れるなど大変ご迷惑をおかけしながらも何とか6年以上にわたり連載が続いたのは,『臨床眼科』編集部の皆さまと,特別態勢で対応してくださった印刷所の方々のおかげです.ここに改めて御礼とお詫びを申し上げます.
多くの貴重な症例をご紹介いただき,診察と治療の機会を私たちに与えてくださいました先生方に深く感謝の念を捧げたく存じます.次の世代を背負う眼科医を育ててくださったのは,私たちを信頼してご紹介いただいた先生方のお陰であると思います.1993年10月に山口大学医学部眼科学教室を主宰させていただくことになって以来,地域に役立つ眼科医療の実践を行いながらも,世界に新しい眼科学の情報を発信できる教室を目指してきました.現在の医学ではまだ治癒せしめ得ない眼疾患の長い長いリストは残っていますが,いずれの日にか,これらの難治疾患が克服できる日が来ることを夢見ています.本書が眼科医の先生方に広くお役に立てれば,望外の喜びであります.
2010年1月
宇部市にて
西田輝夫
推薦の序
『ケースで学ぶ 日常みる角膜疾患』が,西田輝夫先生の単著として医学書院から発刊される運びとなりました.本書は,西田輝夫先生ならびに山口大学医学部眼科学講座の俊英が6年の歳月と精魂を傾けて集めてこられた角膜症例を土台にしています.それぞれの症例の詳細については,雑誌 「臨床眼科」 に毎月掲載されてきており,実に綿密な計画に基づいてでき上がった角膜臨床の教科書であるといえます.角膜に関する教科書といえば,欧米では,Graysonの『Diseases of the Cornea』,Smolin and Thoftの『The Cornea』,Leibowitzの『Corneal Disorders』,Kaufmanらの『The Cornea』,Krachmerらの『Cornea Atlas』,国内では眞鍋禮三先生らの『角膜クリニック』などが有名ですが,多くの教科書は編著であり,単著は極めて稀であるといえます.その意味するところは,多忙を極める日々のなかで単著を仕上げることがいかに難しいことであるかを示していると思われます.一方で,単著本には著者の見かた考え方が明瞭に示され,個々の疾患に対する著者の概念的な捉え方が自ずと浮かび上がってきます.本書からも,西田先生の角膜疾患に対する哲学が興味深く拝見できます.
さて,著者の西田輝夫先生は,大阪大学の蛋白質研究所,愛媛大学医学部の生化学教室,米国ボストン市のRetina Foundationで優れた基礎研究を行い,その後に卓越した臨床能力を発揮した異色の眼科医ともいえます.1980年から大阪大学眼科の眞鍋禮三先生門下で角膜疾患の研究と臨床を行い,フィブロネクチン点眼による角膜上皮欠損治療という画期的な治療方法の開発で世界を席巻し,昨今はサブスタンスPとIGF-1の作用を合わせた素晴らしい新薬を開発しつつあります.本書は,角膜疾患を内科的治療方法の立場から常に見つめてきた,そして国際派であり若者に熱い思いを寄せる西田輝夫先生から次世代眼科医へ送るメッセージです.
本書は,角膜疾患の症例提示と論理的な疾患の説明という記載方法で統一されています.角膜上皮,感染・免疫,角膜変性・内皮,形状異常・外傷,腫瘍・全身,角膜移植そして検査の7部門で構成されており,症例提示には,臨床現場から学ぶという著者の姿勢が明瞭に示されています.単なる教科書にはおさまらない眼科医必携の書とその著者に改めて敬意を表し,推薦の序とさせていただきます.
2010年1月
京都にて
木下 茂
はじめに
雑誌 『臨床眼科』 に「Corneal Diseases 日常みる角膜疾患」を2003年4月号から2009年12月号まで,私と山口大学眼科の教室員とで連載してきました.今日では角膜疾患やオキュラーサーフェスに関する素晴らしい教科書が国内外を問わず沢山発刊されており,今さら角膜疾患の教科書を新しくする必要は感じません.しかし現実には,診断や治療法の選択に苦慮して私たちの専門外来に紹介してくださる症例を診せていただいていると,教科書のような記載ではなく,実際の症例検討会のような書物が必要なのではないかと感じるようになりました.そんな思いを『臨床眼科』の編集会議の折りにもらしたところ,教室の中で行われている症例検討会の雰囲気を伝えながら,毎月1症例を紹介する欄を設けてはどうかということになりました.爾来6年以上にわたり,山口大学の眼科で経験した症例をまず提示し,その確定診断に至る道筋や治療法選択の根拠あるいは経過を述べながら,その症例の概要を説明するというスタイルで連載を続けてまいりました.
毎月この欄を担当する教室員は,どの症例を紹介するのが最も典型的であるかを先ず検討し,私と共に検査成績や症例の転帰を中心に討論し,この欄で紹介すべきかどうか,もし紹介するのであればどの点を最も伝えたいメッセージとするかについて討論を繰り返しました.私自身にとっても,様々な角結膜疾患を改めて整理し直すのに大切な機会となりました.しかし何よりも,この連載は症例に対する考え方,適切な検査法の選択と鑑別診断の要点,それに治療法の選択とその効果の評価など,たった1つの症例からでも教室員が実に多くのことを学ばせていただける大切な訓練の場でもあったと考えます.たった1つの症例をめぐって,何回も,何時間にもわたり互いに疑問や質問をぶつけ合い議論をするうちに,このような訓練が実際の診察や検査あるいは手術の訓練と同等に,臨床能力を涵養する上で極めて重要であり有用であることを教室員が自覚してくれるようになり,大変嬉しく思ったものです.
このように症例をていねいに検討していくことの意義を改めて認識したことから,書籍を通して若い先生方にこうした体験をしていただけないものかと考えるようになりました.また,私たちの教室で出会った多種多様な症例を私たちの教室だけのものとせず,全国の眼科医の先生方と共有したいとも思うようになりました.雑誌連載を終わるにあたり,これを一冊の書物としてまとめたいと相談したところ,医学書院の渡辺一氏のご尽力のお陰で刊行することをお許しいただけました.
連載をまとめるにあたり,最初の原稿から6年以上経ち,一部には少し記載が時代に合わないところも出てきましたので,原文をできるだけ残しながら,改めて全文にわたり加筆修正を行いました.この作業には,柳井亮二講師が加わってくれました.ここに深く感謝の意を表します.その他,ここですべての先生方のお名前を挙げることはできませんが,特に山口大学医学部附属病院検査部の日野田裕治教授には多大なるお力添えをいただきました.心より御礼申し上げます.毎月の原稿が遅れ,時にはそのために発行が遅れるなど大変ご迷惑をおかけしながらも何とか6年以上にわたり連載が続いたのは,『臨床眼科』編集部の皆さまと,特別態勢で対応してくださった印刷所の方々のおかげです.ここに改めて御礼とお詫びを申し上げます.
多くの貴重な症例をご紹介いただき,診察と治療の機会を私たちに与えてくださいました先生方に深く感謝の念を捧げたく存じます.次の世代を背負う眼科医を育ててくださったのは,私たちを信頼してご紹介いただいた先生方のお陰であると思います.1993年10月に山口大学医学部眼科学教室を主宰させていただくことになって以来,地域に役立つ眼科医療の実践を行いながらも,世界に新しい眼科学の情報を発信できる教室を目指してきました.現在の医学ではまだ治癒せしめ得ない眼疾患の長い長いリストは残っていますが,いずれの日にか,これらの難治疾患が克服できる日が来ることを夢見ています.本書が眼科医の先生方に広くお役に立てれば,望外の喜びであります.
2010年1月
宇部市にて
西田輝夫
目次
開く
序章 角膜疾患 診断と治療への道
I 角膜上皮
第1章 角膜上皮障害
II 感染・免疫
第2章 細菌感染
第3章 真菌感染
第4章 ウイルス・原虫感染
第5章 アレルギー性疾患
第6章 非感染症性角膜潰瘍
第7章 周辺部角膜疾患
III 角膜変性・内皮
第8章 角膜ジストロフィ
第9章 角膜変性症
第10章 角膜内皮疾患
IV 形状異常・外傷
第11章 角膜形状異常
第12章 角膜外傷
V 腫瘍・全身
第13章 腫瘍性病変
第14章 全身と角膜疾患
VI 角膜移植
第15章 角膜移植後の問題点
VII 検査
第16章 角膜疾患の検査法
付録 本書に掲載の薬剤一覧
和文索引
欧文索引
I 角膜上皮
第1章 角膜上皮障害
II 感染・免疫
第2章 細菌感染
第3章 真菌感染
第4章 ウイルス・原虫感染
第5章 アレルギー性疾患
第6章 非感染症性角膜潰瘍
第7章 周辺部角膜疾患
III 角膜変性・内皮
第8章 角膜ジストロフィ
第9章 角膜変性症
第10章 角膜内皮疾患
IV 形状異常・外傷
第11章 角膜形状異常
第12章 角膜外傷
V 腫瘍・全身
第13章 腫瘍性病変
第14章 全身と角膜疾患
VI 角膜移植
第15章 角膜移植後の問題点
VII 検査
第16章 角膜疾患の検査法
付録 本書に掲載の薬剤一覧
和文索引
欧文索引
書評
開く
原理的であり,非常に実践的でもある
書評者: 井上 幸次 (鳥取大教授・眼科学)
本書は,著者が長年たずさわってこられた角膜疾患診療について症例を中心にまとめられており,一般臨床医にもわかりやすい内容となっている。
著者は生化学者としてそのキャリアを始められ,その後研究の素材としての眼球に魅せられて眼科臨床へと歩んでこられた方で,われわれ一般の眼科医とは違う異色の経歴を持っておられる。基礎研究者としての確固たる地盤をもとにして,著者が角膜研究の世界のトップを走ってこられたことは,読者の皆さんもよくご存知であろう。ただ,基礎研究者は物事の本質を究めようとするあまり,常に原理から入ろうとする性癖があり,実地臨床からは少しかけ離れてしまう危険性がある。
ところが(案に相違してと言うと失礼かもしれないが)本書はどの項目もまず症例から始める体裁をとっており,しかも中には従来の書籍ではあまり取り上げられなかった非典型的な症例や複合的な症例(56頁の起炎菌不明の角膜感染症や97頁のアトピー性角結膜炎のMRSA感染合併など)も取り上げている。確かに実地臨床で多いのはまさにそのような症例であり,本書でこれらの症例を取り上げることによって本書の実践的なアプローチがより明確になっている。
また,本書には「ステロイド関連角膜障害」や「角膜蜂刺症」「甲状腺眼症」「ティーエスワン®による角膜上皮障害」など他の角膜関連の書籍ではこれまで取り上げられてこなかった項目があるのもユニークであり,これも実地臨床重視の表れであろう。
ただ,そうはいっても本書では原理的なこともきちんと押さえられていることは言うまでもなく,症例に続いて疾患の定義や疾患概念が遺漏なく明確に記載されており,その疾患の歴史的な由来もわかるようになっている。引用文献も原著論文を中心にしっかり成されており,多数掲載されている鑑別のための表やフローチャートも原理的であるのと同時に非常に実践的な内容で役に立つ。
本書は著者の教室の若い方たちの執筆協力を得ているとはいえ,単著で出版されており,多くの類書が網羅的ながら個性のないマニュアル的なものとなりがちな昨今,随所に著者の角膜診療に対する哲学を垣間見ることができる。特に著者がその治療法の開発に心血を注いできた「遷延性角膜上皮欠損」「神経麻痺性角膜症」などの角膜上皮障害については,フィブロネクチン点眼やFGLM‐アミド+SSSR点眼などの上皮障害の原理を見据えた治療がわかりやすく紹介されており,対症療法ではなく病態を見据えた治療の重要性が改めて認識される。
また,角膜のみならず涙液・眼瞼・結膜などの角膜を取り巻く環境の異常に目を向けることの大切さも強く印象付けられる。そして,新しい検査法であるレーザー生体共焦点顕微鏡やScheimpflugカメラなどの美しい画像が随所に配され,角膜の構造を細胞レベルから形状まで多面的に理解することの重要さが強調されている一方で,古い検査である角膜知覚検査や塗抹検鏡検査の重要性もきっちりと書かれている点も著者の角膜検査についての考え方を反映しているものと思われる。
角膜ジストロフィーや角膜移植後の問題点の章などで,少し内容に重複があるのは単著としては惜しいところであるが,著者が別に上梓した『角膜テキスト』(エルゼビア・ジャパン刊)とともに,本書を角膜専門医あるいは広く眼科臨床医の座右の書とし,本書の序章でも述べられているように「究極の目的は透明性の確保と形状の維持」を達成していくのに大いに活用したいものである。
日常出会う角膜疾患を科学的・論理的にとらえた実践書
書評者: 天野 史郎 (東大大学院教授・眼科学)
山口大学眼科学教室教授の西田輝夫先生と山口大学眼科の教室員の先生方が執筆された『ケースで学ぶ 日常みる角膜疾患』が医学書院より発刊された。西田先生は世界的な業績を挙げた角膜研究者に贈られるカストロビエホ賞を受賞された日本を代表する角膜研究家であり,フィブロネクチン点眼による再発性角膜上皮びらんの治療,サブスタンスPとinsulin-like growth factorの部分ペプチドの点眼による遷延性角膜上皮欠損の治療などの研究でLancet誌に論文を数本発表されるなど,輝かしい業績を残されてきた。その西田先生がこれまでの長い診療経験において蓄積された多くの症例から,日常みる角膜疾患を抽出しまとめ上げられたのが本書である。
その内容は,角膜疾患および関連事項を大きく「角膜上皮」「感染・免疫」「角膜変性・内皮」「形状異常・外傷」「腫瘍・全身」「角膜移植」「検査」の7つに分け,それぞれの中で代表的な疾患や討論点などの小項目を全体で80項目掲げ,詳細な解説が述べられている。各項目においてはまず典型的な症例が提示され,いずれの項目の症例も初診時所見から最終的な転帰までが詳細に記述されており,教室員の先生方が精魂込めて症例をまとめられた様子がうかがえる。そして症例の提示に引き続き,各疾患の説明が,疾患の定義,疾患概念,自覚症状,他覚所見,診断・鑑別診断,治療・予後の順に述べられており,本書の最も読み応えのある部分となっている。
本書を読んで感じる西田先生の診療の根底に流れる一貫した方針は,診断においても治療においても,科学的,論理的に考え,判断することのように思われる。西田先生の診察は残念ながら見学させていただいたことはないが,西田先生の書かれたカルテ所見は何度か拝見する機会があり,その達筆な文字で書かれたカルテでは,各症例において存在する問題因子間の相関関係や因果関係を矢印で結び,その中から診断や治療の方針を打ち立てていくという,論理的な記述がなされていたのを記憶している。西田先生のご講演でしばしば拝見するブロック図が,本書でも「糖尿病角膜症の病態」や「角膜実質融解メカニズムにおけるステロイドの位置づけ」などの複雑な病態や事象を解きほぐしてわかりやすく解説するために使用されており,読者の頭の中を整理してくれるものと思う。
日常臨床で巡り合う各症例において,西田先生が本書で示されているような,科学的,論理的に診療するこだわりを常に持って,診療を実践していきたいものだと思う。本書は日常診療での頻度の高い代表的な角膜疾患のほとんどを網羅し,それらに対する診療の最新の考え方を述べると同時に,未解決の問題に対する自教室での研究成果も多数盛り込まれている。研修医の先生方はもちろんのこと,角膜専門医,一般眼科臨床家,研究者の皆様など,多くの方々に推薦したい1冊である。
書評者: 井上 幸次 (鳥取大教授・眼科学)
本書は,著者が長年たずさわってこられた角膜疾患診療について症例を中心にまとめられており,一般臨床医にもわかりやすい内容となっている。
著者は生化学者としてそのキャリアを始められ,その後研究の素材としての眼球に魅せられて眼科臨床へと歩んでこられた方で,われわれ一般の眼科医とは違う異色の経歴を持っておられる。基礎研究者としての確固たる地盤をもとにして,著者が角膜研究の世界のトップを走ってこられたことは,読者の皆さんもよくご存知であろう。ただ,基礎研究者は物事の本質を究めようとするあまり,常に原理から入ろうとする性癖があり,実地臨床からは少しかけ離れてしまう危険性がある。
ところが(案に相違してと言うと失礼かもしれないが)本書はどの項目もまず症例から始める体裁をとっており,しかも中には従来の書籍ではあまり取り上げられなかった非典型的な症例や複合的な症例(56頁の起炎菌不明の角膜感染症や97頁のアトピー性角結膜炎のMRSA感染合併など)も取り上げている。確かに実地臨床で多いのはまさにそのような症例であり,本書でこれらの症例を取り上げることによって本書の実践的なアプローチがより明確になっている。
また,本書には「ステロイド関連角膜障害」や「角膜蜂刺症」「甲状腺眼症」「ティーエスワン®による角膜上皮障害」など他の角膜関連の書籍ではこれまで取り上げられてこなかった項目があるのもユニークであり,これも実地臨床重視の表れであろう。
ただ,そうはいっても本書では原理的なこともきちんと押さえられていることは言うまでもなく,症例に続いて疾患の定義や疾患概念が遺漏なく明確に記載されており,その疾患の歴史的な由来もわかるようになっている。引用文献も原著論文を中心にしっかり成されており,多数掲載されている鑑別のための表やフローチャートも原理的であるのと同時に非常に実践的な内容で役に立つ。
本書は著者の教室の若い方たちの執筆協力を得ているとはいえ,単著で出版されており,多くの類書が網羅的ながら個性のないマニュアル的なものとなりがちな昨今,随所に著者の角膜診療に対する哲学を垣間見ることができる。特に著者がその治療法の開発に心血を注いできた「遷延性角膜上皮欠損」「神経麻痺性角膜症」などの角膜上皮障害については,フィブロネクチン点眼やFGLM‐アミド+SSSR点眼などの上皮障害の原理を見据えた治療がわかりやすく紹介されており,対症療法ではなく病態を見据えた治療の重要性が改めて認識される。
また,角膜のみならず涙液・眼瞼・結膜などの角膜を取り巻く環境の異常に目を向けることの大切さも強く印象付けられる。そして,新しい検査法であるレーザー生体共焦点顕微鏡やScheimpflugカメラなどの美しい画像が随所に配され,角膜の構造を細胞レベルから形状まで多面的に理解することの重要さが強調されている一方で,古い検査である角膜知覚検査や塗抹検鏡検査の重要性もきっちりと書かれている点も著者の角膜検査についての考え方を反映しているものと思われる。
角膜ジストロフィーや角膜移植後の問題点の章などで,少し内容に重複があるのは単著としては惜しいところであるが,著者が別に上梓した『角膜テキスト』(エルゼビア・ジャパン刊)とともに,本書を角膜専門医あるいは広く眼科臨床医の座右の書とし,本書の序章でも述べられているように「究極の目的は透明性の確保と形状の維持」を達成していくのに大いに活用したいものである。
日常出会う角膜疾患を科学的・論理的にとらえた実践書
書評者: 天野 史郎 (東大大学院教授・眼科学)
山口大学眼科学教室教授の西田輝夫先生と山口大学眼科の教室員の先生方が執筆された『ケースで学ぶ 日常みる角膜疾患』が医学書院より発刊された。西田先生は世界的な業績を挙げた角膜研究者に贈られるカストロビエホ賞を受賞された日本を代表する角膜研究家であり,フィブロネクチン点眼による再発性角膜上皮びらんの治療,サブスタンスPとinsulin-like growth factorの部分ペプチドの点眼による遷延性角膜上皮欠損の治療などの研究でLancet誌に論文を数本発表されるなど,輝かしい業績を残されてきた。その西田先生がこれまでの長い診療経験において蓄積された多くの症例から,日常みる角膜疾患を抽出しまとめ上げられたのが本書である。
その内容は,角膜疾患および関連事項を大きく「角膜上皮」「感染・免疫」「角膜変性・内皮」「形状異常・外傷」「腫瘍・全身」「角膜移植」「検査」の7つに分け,それぞれの中で代表的な疾患や討論点などの小項目を全体で80項目掲げ,詳細な解説が述べられている。各項目においてはまず典型的な症例が提示され,いずれの項目の症例も初診時所見から最終的な転帰までが詳細に記述されており,教室員の先生方が精魂込めて症例をまとめられた様子がうかがえる。そして症例の提示に引き続き,各疾患の説明が,疾患の定義,疾患概念,自覚症状,他覚所見,診断・鑑別診断,治療・予後の順に述べられており,本書の最も読み応えのある部分となっている。
本書を読んで感じる西田先生の診療の根底に流れる一貫した方針は,診断においても治療においても,科学的,論理的に考え,判断することのように思われる。西田先生の診察は残念ながら見学させていただいたことはないが,西田先生の書かれたカルテ所見は何度か拝見する機会があり,その達筆な文字で書かれたカルテでは,各症例において存在する問題因子間の相関関係や因果関係を矢印で結び,その中から診断や治療の方針を打ち立てていくという,論理的な記述がなされていたのを記憶している。西田先生のご講演でしばしば拝見するブロック図が,本書でも「糖尿病角膜症の病態」や「角膜実質融解メカニズムにおけるステロイドの位置づけ」などの複雑な病態や事象を解きほぐしてわかりやすく解説するために使用されており,読者の頭の中を整理してくれるものと思う。
日常臨床で巡り合う各症例において,西田先生が本書で示されているような,科学的,論理的に診療するこだわりを常に持って,診療を実践していきたいものだと思う。本書は日常診療での頻度の高い代表的な角膜疾患のほとんどを網羅し,それらに対する診療の最新の考え方を述べると同時に,未解決の問題に対する自教室での研究成果も多数盛り込まれている。研修医の先生方はもちろんのこと,角膜専門医,一般眼科臨床家,研究者の皆様など,多くの方々に推薦したい1冊である。