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胸部大動脈瘤ステントグラフト内挿術の実際

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2008年から保険適用となった胸部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術(TEVAR)を紹介する本格的テキスト。基本編から応用編、トラブルシューティング、症例呈示など、これまで多くの手術を経験してきた術者が実際の手術を意識した目次立てでTEVAR実施の際のポイントを具体的に解説する。いま注目を集めている胸部大動脈瘤ステントグラフト内挿術の実際がこの1冊に。
編集 大木 隆生
発行 2009年09月判型:B5頁:168
ISBN 978-4-260-00940-9
定価 13,200円 (本体12,000円+税)

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 本邦で初めての胸部大動脈瘤ステントグラフトが2008年4月に薬事承認を受けました.しかし,それに先立つこと6年も前にステントグラフト内挿術という術式は保険収載されていました.術式は承認されているのにそれを行う器具がないという異例の事態が長らく続いていたのです.WL Gore社のTAGステントグラフトが日本でも使用できるようになったことは患者はもとより,これまで夜なべして,多大なリスクを負いながら自作ステントグラフトを作成・使用せざるを得なかった多くの医師にとっても福音といえます.
 2001年,まだ私が米国で外科医をしていた時のことです.当時Guidant社(その後Boston Scientific Corpに買収)がAncureという腹部大動脈瘤用ステントグラフトを販売していましたが,米国司法省から約100億円に及ぶ罰金を含む懲罰を受けAncureは製造中止に追い込まれました.製品そのものには何ら問題がなかったどころか,長期耐久性に優れていたことから多くの血管外科医の支持を得ていました.これほどの懲罰を受けるに至った原因はGuidant社のクリニカルスペシャリスト達(手術に立ち会う社員)がAncureの「取り扱い説明書」に記載されていなかったトラブルシューティングや「裏技」を医師に教えていたからです.製品その物の欠陥ではなく,こうした理由でよい製品が使えなくなったことは残念でした.
 本書にも詳細を記述してありますが,TAGステントグラフトを使用するにあたっては,一定の基礎経験を有していることに加えて,メーカーと指導医が共催する2日間の講習会に参加しなくてはなりません.この講習会でTAGの使用法の実際を学ぶわけですが,限られた時間のなかでは十分にその使用方法を伝えきれないうえに,メーカーは厚生労働省から薬事承認を得た際の「解剖学的適応」や「TAGの正規の使用方法」しか教えることができません.それは皆さんの手術に立ち会うクリニカルスペシャリストも同じです.しかしながら,TAGを含めた多くの医療器具において,「正規の使用方法」や「正規の適応」は極限られたいわゆるドリームケース(理想的症例)を想定しています.実際の医療現場では理想的なケースから外れた患者がたくさん存在しますが,Guidant社の前例もあって,メーカーがこうしたテクニックや使用方法を教えることはできません.慈恵医大では全国の4分の1にあたる5名の指導医を擁していますので,幾度もTAGの講習会を開催し,多くの施設の立ち上げに立ち会って参りました.そしてその場で多くの医師から胸部ステントグラフト内挿術の「コツ」や「トラブルシューティング」をまとめた本を望む声が聞かれました.
 慈恵医大では,2006年より個人輸入の形でTAGを入手し,薬事承認に先立つこと2年の間に100例を超えるTAG挿入術を施行しました.保険収載される前の時期でデバイス代金は研究費から捻出しておりましたので,われわれが適切と判断すれば,堂々と「適応外使用(off label use)」することもできました.そのなかには成功例もあれば,必ずしも期待どおりの結果が得られなかった症例もあります.いくつかの裏技やデバイスの「癖」も分かりました.
 以上の経緯を踏まえて,東京慈恵会医科大学血管外科スタッフが総力をあげて,本書にわれわれのよい経験も悪い経験も凝縮しました.本書は初歩的な「正規の使用法」から「トラブルシューティング」に至るまでをカバーしていますので,これから胸部大動脈瘤ステントグラフト内挿術を始めようとするビギナーにも,また,相当数経験した医師にもお役立ていただけるのではないかと期待しています.本書を執筆している段階では薬事承認を得ているステントグラフトはWL Gore社のTAGのみでしたのでTAG中心の記述となっていますが,これから他社製品も市販されるようになれば第2版以降に順次追加してまいりたいと思います.
 本書が本邦における胸部大動脈瘤ステントグラフト内挿術のより安全な普及に役立てられれば幸いです.

 2009年7月
 大木隆生

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1.胸部大動脈瘤ステントグラフトの実施基準
2.TEVAR 過去と現状(米国・本邦)
3.TAGの実力 米国での臨床治験の結果から
4.TEVARの実際[基礎編]
 1 Gore社TAG胸部大動脈用ステントグラフトについて
 2 TAGの適応
 3 ケースプランニング
 4 TAGの留置の実際
 5 TAG留置後のフォローアップ
5.対麻痺予防
6.トラブルシューティング
 1 デバイスが目的位置に上がらない
 2 頸部分枝の閉塞
 3 エンドリーク
 4 TAGのひしゃげ(infolding)
 5 アクセスルートの損傷・破裂
 6 TAGの回収・交換
 7 腹腔内分枝の閉塞
7.TEVARの実際[応用編]
 1 弓部大動脈瘤
 2 胸腹部大動脈瘤(TAAA)
 3 大動脈解離および慢性解離性大動脈瘤(CAAD)
 4 まとめ
8.当院におけるTAGの成績
 1 胸部下行大動脈瘤
 2 弓部および弓部を含む胸部大動脈瘤
9.症例呈示
 1-1 胸部下行シンプルケース-成功例
 1-2 胸部下行シンプルケース-失敗例
 2 遠位弓部,鎖骨下カバー・コイル塞栓
 3-1 頸動脈-頸動脈バイパス+TEVAR
 3-2 頸動脈-頸動脈-鎖骨下動脈バイパス+TEVAR
 3-3 上行-debranching TEVAR(Hybrid治療)
 3-4 上行-debranching,アクセス不良で上行からTAG挿入
 4 胸部解離性大動脈瘤(Stanford A型大動脈解離術後)
 5 胸部解離性大動脈瘤(Stanford A型急性解離~偽腔閉塞型)
 6 腹部内臓分枝のdebranching+ステントグラフト内挿術
 7-1 Island状肋間動脈再建部の瘤化
 7-2 大動脈縮窄症に対するバイパス術後,解離性大動脈瘤を呈した症例
 7-3 胸腹部慢性解離性大動脈瘤(CAAD)
 7-4 胸部解離に対してTAG挿入後,新たな解離
 7-5 自作ステントグラフト後のエンドリークに対するTAG
 7-6 感染性胸部大動脈瘤
 7-7 食道癌による大動脈-食道瘻
 7-8 医原性胸部大動脈損傷
 7-9 外傷性胸部大動脈瘤
 7-10 アクセス不良な多発性胸部大動脈瘤に対する開胸アプローチ
 7-11 腹腔動脈を巻き込む胸腹部大動脈瘤:腹腔動脈coverテクニック

索引

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ステントグラフトに関する本格的な技術解説書
書評者: 石丸 新 (戸田中央総合病院副院長)
 本書の編者である大木隆生氏は,米国アルバートアインシュタイン医科大学血管外科学教授にして,東京慈恵会医科大学外科学講座教授・統括責任者の要職にある気鋭の外科医として知られている。米国での豊富な臨床経験を携え2006年に帰国。以来わが国の血管外科医の育成と血管内治療を中心とした先端医療の実践に日々奮迅する中で,やがてそれらの成果が編纂されることは必然であったといえよう。今回,胸部大動脈用ステントグラフトの国内導入時期に合わせ,満を持して本書を上梓した先見性と実行力には氏の面目躍如たるものがある。

 欧米では1990年代後半に腹部大動脈瘤を対象として企業製ステントグラフトの臨床応用が開始されたが,わが国では専ら胸部大動脈瘤あるいは動脈解離について,手作りのステントグラフトによる治療が行われ,今日まで多数の治療経験がある。しかし,個々に手作りされたデバイスが使用されている限り,その治療手法に普遍性を見いだすことは困難であった。

 大木隆生編『胸部大動脈瘤ステントグラフト内挿術の実際』は,わが国に初めて導入された企業製ステントグラフトに関する本格的な技術解説書である。そのコンテンツを見ると,胸部大動脈瘤ステントグラフトの実施基準に始まり,当該治療法の過去と現況,TAGの米国臨床治験結果,治療の実際(基礎編),対麻痺予防,トラブルシューティング,治療の実際(応用編)で構成され,これに経験例の成績および症例呈示が加えられていて,どこまでも実践の書であろうとする執筆者の趣意が読み取れる。実際に本書の扉を開くと,平易かつ必要にして十分な表現に徹した説明文,これを補填すべく随所に配置されたイラスト,そして血管内治療の命ともいえるX線画像の鮮明さにその真骨頂を見ることができる。

 編者は序文において,「われわれの経験のなかには成功例もあれば,必ずしも期待どおりの結果が得られなかった症例もあり,いくつかの裏技やデバイスの“癖”も分かりました。よい経験も悪い経験も本書に凝縮し,初歩的な使用法からトラブルシューティングに至るまでをカバーし,ビギナーにも,また相当数経験した医師にも役に立つことを期待している」という主旨のことを述べている。

 本書は,日常の診療や学会・講演会活動に多忙を極めるなか,大木教授率いる東京慈恵会医科大学血管外科学教室の総力によって結実をみた血管内治療医必携の書であり,その完成度は見事と言うほかない。
この一冊でTEVARのすべてが理解できる
書評者: 古森 公浩 (名大大学院教授・血管外科)
 大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術が日本でも盛んに行われるようになった。腹部大動脈瘤の市販のステントは2006年に認可され,現在3種類が使用されている。これまでに約4,000例が施行されており,腹部大動脈治療の約30~40%を占めている。胸部大動脈瘤の市販のステントは2008年に認可され,現在2種類が使用可能である。これまでに約1,000例が施行されている。

 日本では日本血管外科学会を含む関連10学会により構成された「ステントグラフト実施基準管理委員会」により施設基準,実施医基準および指導医基準が定められ,書類審査の上認定される。2009年9月現在腹部の3種類のステント指導医の合計は延べ約300人に対し,胸部の指導医は約30人とまだ少なく,実施施設も多くないのが現状である。そのような状況にあって,胸部大動脈瘤ステントグラフト内挿術(thoracic endovascular aneurysmal repair : TEVAR)の手技を解説した,非常にわかりやすいテキストブックが東京慈恵会医科大学グループにより,このたび発刊された。

 本テキストは著者らのこれまでの豊富な経験を基に,TEVARの基本的な適応,留置手技からTEVARの実際として,応用編ならびにトラブルシューティング,さらには個々の症例を提示してそれぞれの治療手技やポイントが述べられている。今からTEVARを始めようとする初心者から,これから少し応用編に取り組もうとする医師,また,ある程度の経験を持つ医師にとっても非常に有意義な,わが国初のTEVARにおける系統的なテキストである。実際の術中写真やイラストが多数掲載されており,このテキスト一つでTEVARのすべてが理解できるといっても過言ではなく,明日からの治療にすぐに役立つ基本から応用編まで網羅されたテキストである。

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