膵癌診療ポケットガイド

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日々、第一線で膵癌を診ている臨床医らがまとめた診療マニュアル。むずかしい診断のポイントやコツから、治療の適応の考え方、実際の治療の進め方、その他膵癌に関するあらゆる最新情報、患者サポートの知識までが、1冊で容易に手に入るよう工夫されている。膵癌は癌の死因別で第5位と、実に身近な癌である。ポケットにぜひ備えておきたいガイドブック。
編集 奥坂 拓志 / 羽鳥 隆
発行 2010年03月判型:B6変頁:320
ISBN 978-4-260-00951-5
定価 5,500円 (本体5,000円+税)

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推薦の序(田中雅夫)/(奥坂拓志・羽鳥 隆)

推薦の序
 本書は,研修医およびこれから肝胆膵専門を目指そうという若手の医師らに,膵癌の診療のポイント,コツを要領よくマスターすることができるように工夫されている.それぞれの項目は第一線で活躍しておいでの第一人者,それも実際の診療で指示を出したり化学療法のレジメンを考えたりしている方々の執筆によるので具体策に富み,特に化学療法などは投与法,副作用とその対策,休薬の判断などが具体的に記されていて実際の役に立つ.
 検査の項目では,各検査法の限界も余すところなく語られ,処置の項目では処置後の患者に対するケアの仕方までが詳細かつ簡潔に記載されていて日々の苦労がにじみ出ているように思う.全体的に文章も簡潔で無駄がなく,読み進みやすい.各所に配置されたMEMOが,多少本筋を離れたポイント,執筆者の感想や思い出などを補完しているのも面白い.
 一般的なマニュアル本と異なり,日本でも活動し始めたがん患者に対する相談支援センター,ソーシャルワーカーや,日本でも増えてきているがん看護専門看護師やがん領域の認定看護師の紹介,そして我が国でもようやく活躍するようになってきた患者支援団体など,まだこれから充実させていかなければならない局面についても述べられていて,本書を読んで膵癌専門医を目指そうという医師らに,将来に向かっての方向性まで示している.
 最後にTOPICSとしてあげられているのは,臨床研究,一次抗癌剤が無効となった場合の二次治療薬,分子標的治療薬,悪液質症候群の治療,遺伝子治療,免疫療法,発癌因子や腫瘍マーカーについての研究などに関しての専門家の将来への展望である.膵癌診療ガイドラインをまとめたときにも感じたことであるが,膵癌の診療について語るときにはこの将来への展望が欠かせないように思われる.膵癌診療ガイドラインでは「明日への提言」と銘打ったが,執筆している専門家も日々の現実をもどかしく思っていて,それがここに表現されている.裏を返せば,それほど膵癌診療の現実はまだまだ低迷しているといえる.若い医師諸君は本書から膵癌診療現場でのコツを学ぶとともに,今後目指すべき方向性を読み取っていただき,一人でも多くの諸君ががん診療の難関である膵癌に立ち向かうようになって欲しいと願っている.

 2010年3月
 九州大学大学院医学研究院教授・臨床/腫瘍外科
 田中雅夫



 膵癌は最も予後不良ながんの一つであり,その罹患者のほとんどは本疾患により死亡しています.我が国の年間死亡者数はがん死亡数の第5 位に位置付けられており,依然増加傾向にあります.予防,診断,治療のいずれにおいても有効な方法が少ないとされる一方,我が国においてはこの疾患に多くの研究者が精力的に取り組んできた歴史があり,世界をリードする多くの知見が蓄積しています.しかし残念なことに,これまでに膵癌について総括的に記述した教科書はほとんど出版されておらず,この疾患に携わる医療者は体系的な知識を十分に得ることなくこの厳しい疾患と対峙しているといっても過言ではありません.このような現状にあって膵癌に携わる我々医療者は,より確かな情報を求めており,類書のない現在,本書の果たす役割は大きいと考えます.
 本書は,膵癌診療に第一線で携わる医師を始め,看護師,薬剤師,ソーシャルワーカー,患者会の方々によって執筆され,現場で活躍するそれぞれの職種の方々に即戦力となる情報がなるべくわかりやすく記載され,盛り込まれています.ポケットガイドという名前に反してその内容は教科書といってもよいほどの詳細な記載となっており,各執筆者のこの疾患に対する情熱が伝わってくるようです.また,この疾患に関する最新情報など,教科書には掲載されないような知見についてもTOPICSやMEMO といった形で要所ごとに挿入されて,読みやすく工夫が凝らされています.
 がんをめぐる多くの問題がマスコミなどでも大きく取り上げられ,予後の不良な膵癌患者には他の疾患以上に質の高い医療を提供することが必要な時代になっているように感じます.しかし膵癌診療に携わる医療者は,その疾患が厳しいがゆえに非常に多忙な毎日にあり,まとまった知識・情報を入手することは容易ではありません.本書は膵癌患者のために日々格闘されている医療者の方々になるべく短い時間で多くの知識・情報を得る手段として活用していただくことを目指して編集されました.皆さんの日々の診療や活動に少しでも貢献することを心から願っています.
 最後に医学書院の安藤恵さん,大西慎也さんに大変お世話になりましたことをこの場を借りてお礼申し上げます.

 2010年3月
 国立がんセンター中央病院肝胆膵内科医長 奥坂拓志
 東京女子医科大学医学部講師・消化器外科 羽鳥 隆

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I 膵癌とは?
 1.疫学と危険因子
 2.膵腫瘍の病理組織分類─分類の視点─
 3.膵癌の進行度分類
 4.全国膵癌登録調査の概要
 TOPICS 膵発癌高危険度群捕捉への期待
 TOPICS プロテオミクスと新しい腫瘍マーカー開発への期待

II 診断
 1.膵癌を疑うとき
 2.フローチャート
 3.身体所見
 4.実施すべき血液生化学検査・腫瘍マーカーとその解釈
 5.US検査のポイント
 6.MRI/CT/PET検査のポイント
 7.内視鏡診断のポイント
 8.生検の実際
  A.US下生検
  B.EUS下生検(endoscopic ultrasound-guided fine needle aspiration; EUS-FNA)
 TOPICS 悪液質症候群と治療法確立への展望

III 治療
 1.治療のフローチャート
 2.切除可能例に対する治療
  A.術前評価
  B.インフォームド・コンセントのポイント
  C.膵頭部手術の実際
  D.膵体尾部手術の実際
  E.補助療法の選択肢
  F.切除例に対する術後管理・ケアの実際
  G.切除後のフォローアップのポイント
 3.切除不能例に対する治療
  A.治療前評価
  B.インフォームド・コンセントのポイント
  C.化学療法の選択肢および方法と実際
  D.局所進行膵臓癌に対する化学放射線療法
  E.化学療法の副作用対策
  F.薬剤管理指導と薬剤師の役割
  G.治療効果の判定とフォローアップ
 4.閉塞性黄疸に対する治療
  A.治療の種類とフローチャート
  B.EBDの適応と方法の実際
  C.EBDを受けた患者に必要な指導とケアの実際
  D.PTCDの適応と方法の実際とステント留置
  E.PTCDを受けた患者に必要な指導とケアの実際
 5.消化管閉塞に対する治療
  A.バイパス手術のよい適応と方法の実際
  B.消化管閉塞に対するIVR治療
  C.内視鏡治療のよい適応と方法の実際
 6.疼痛に対する治療
  A.ペインコントロール
  B.薬剤師の視点から
 7.心のケア
  A.膵癌患者に起こりやすい心の問題と治療
  B.膵癌患者の心のケアに必要なこと
 TOPICS 新規抗癌剤へ期待すること
 TOPICS 免疫治療の現状と展望

IV 患者のサポートと病診連携
 1.相談支援センターの機能とソーシャルワーカーの役割
 2.オンコロジーナース(がん医療における専門看護師・認定看護師)の役割
 3.膵がん教室の実際
 4.患者会について
 TOPICS 臨床試験とは
 TOPICS 膵癌遺伝子治療の現状と今後

付録
索引

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膵癌患者とその家族をサポートするための指針
書評者: 大松 重宏 (城西国際大准教授・社会福祉学)
 私はがん専門病院に相談職として勤務していたが,日々の業務の中で,膵臓癌の患者さんやその家族から鬱積した思いをうかがうことは少なくなかった。その多くは怒りであり,私自身に対して向けられたものではなく,「膵癌はなかなか早期に発見できないとは理解できたが,あんなに調子が悪いと訴えていたのに」(診断の困難性),「膵癌=難治性であるという以外に情報が少な過ぎる。ほかの癌はいっぱいあるのに」(情報の欠如),「治療の難しい局面で生活のこと(お金,仕事,家族)もたくさん決めていかなければならない」(心理社会的課題)という膵癌患者さんの置かれている状況が根底にあってのことと思われる。

 本書は,そのような膵癌患者さんや家族をサポートするための大きな指針となるであろう。研修医およびこれから膵癌を専門としようとする若手医師向けに書かれたものだが,医師にとってはもちろんのこと,癌を専門とする看護師,薬剤師,また膵癌の患者さんやご家族の相談にのる立場の者にとっても非常に役に立つ。それは単なるテキストではなく具体的な記述が多数盛り込まれ,最新のトピックスを取り上げるなど,膵癌治療を正しく理解するためにさまざまな工夫がなされているからである。例えば腫瘍マーカーの特徴や術前のICのポイント,化学療法に伴う副作用とその対策などは,大変わかりやすく解説されている。

 私自身は,医療の中にいる社会福祉専門職であるが,膵癌患者さんや家族が語ることを十分に理解するためにも大いに役立つであろうし,相談の中で膵癌やその治療に関する話を整理しもっと主治医やがん専門看護師に聞いたほうがよいことを一緒に考える際にも参考になる良書に違いない。

 さらに本書の秀逸なところは膵癌の患者さんやその家族が今までと同じように暮らしていけるようにするための種々のサポートを取り上げて,院内,院外にどのようなサポーターが存在するのか,またサポートとなるシステムについても理解できるように書かれているところである。相談支援センターの役割やがん専門看護師はもちろん,同じ膵癌を持つ仲間たちの集まりである患者支援団体の活動についても紹介されている点は実に新鮮である。そのほか,がん患者の医療的ケアを十分に保障するための地域連携などについてもかなり具体的に説明され,本書が患者さんとその家族が地域で生活する点にも十分に焦点を当てていることがわかる。

 最後に,この『膵癌診療ポケットガイド』を携帯し,日々の臨床に力を注ぐサポーターたちが一人でも多く増えることを望んでやまない。
第一線で活躍中の臨床医が治療のポイントを伝授
書評者: 中尾 昭公 (名大大学院教授・消化器外科学)
 このたび,『膵癌診療ポケットガイド』が刊行され,読ませていただく機会を得た。膵癌は21世紀に残された最も予後不良な消化器癌の一つであり,各方面からの研究が進みつつあるものの治療成績に反映されるまでに至っていない。日本膵臓学会では『膵癌取扱い規約(第6版)』ならびに『膵癌診療ガイドライン(第2版)』を昨年出版し,また膵癌登録も実施しており,これらは本邦における膵癌治療のための3つの大きな柱となっている。膵癌の治療成績はいまだに不良で十分なエビデンスも少ない。これらの3本柱の資料を上手に利用しながら第一線で活躍中の臨床医の意見をMEMOで取り上げており,執筆者の本音の意見がうかがえて大変面白い。

 また,膵癌治療は今後さらなる新しい治療法が開発されなければならないがTOPICSとしてこれからの展望についても述べられている。研修医あるいは若手医師が膵癌治療の現状を読み取っていただくことはもちろんであるが,さらなる治療成績向上のための新しい治療開発にもつながることを期待している。
膵癌診療に関するさまざまな問いに答えてくれる書
書評者: 元雄 良治 (金沢医大教授・腫瘍内科学)
 研修医が希望する本は,ポケットに入るサイズで,読みやすい,という条件がある。本書はまさにそれを満たしており,本書の読者対象である研修医や膵癌診療に携わっている若手医師には心強い味方である。

 特に豊富な図や写真は,要点が一目瞭然で理解でき,長い文章よりも効果的である。例えば,103~108ページの膵癌進展度評価では,「上腸間膜静脈浸潤を伴う膵頭部癌」と「上腸間膜静脈浸潤を伴わない膵頭部癌」のCT画像を横断像と3D像で比較しながら示している。

 ほかにも,ある所見を伴う例と伴わない例を図示しているので,日頃症例検討会で先輩医師が議論の対象にしている重要所見について,典型的画像を自己学習できる。内視鏡診断のポイントでは,鮮明な写真で内視鏡機器や内視鏡像が呈示されており,非常にインパクトがある。

 治療では切除可能例と切除不能例に分け,特に化学療法に関しては,各レジメンの図示,禁忌や休薬・再開の方法・副作用対策(192~194ページには患者説明用の記載あり)についての具体的な記述が大変参考になる。

 またフルオロウラシルやS-1とほかの薬剤の併用療法の中でオキサリプラチンを取り上げ,現時点ではまだ保険適用未承認ではあるが,最新情報を知ることができ,著者同様に読者も臨床試験の結果に注目したくなる内容である。治療効果の判定には2009年に改訂されたRECISTガイドラインver. 1.1の要点が表3-17として掲載されている。

 膵癌患者では他の臓器の癌患者と同程度かそれ以上の頻度でうつ病や適応障害などの心の問題が認められるが,本書では治療の中に「心のケア」という項目を設け,膵癌患者の心のケアに必要なこととして,基本的な姿勢・傾聴・共感をはじめ,希望を支えるなどの重要な点が詳しく記載されている。また「膵がん教室の実際」,「患者会PanCAN日本支部」,「膵癌啓発パープルリボンキャンペーン」などが紹介されており,膵癌診療の最前線に立つ医師には患者・家族への対応において非常に参考になる。

 本書の表紙や本文が紫色を基本に統一されているのは,パープルリボンキャンペーンを意識しているのかもしれないが,きれいで落ち着いたデザインであり,目次からすぐ読みたいページを探すことができる。さらに引用文献が正確に記載されているので,文献検索・学会準備・論文作成などにも必ず役立つであろう。

 本書の随所にちりばめられた7つのTOPICSは,「新規抗癌剤へ期待すること」,「免疫治療の現状と展望」,「臨床試験とは」などについて詳しく書かれ,39のMEMOでは,「我が国の宝,膵癌登録」,「CA19-9の思い出」,「局所評価のみにとらわれるな」など,思わず読んでしまう項目である。以上のようにポケットガイドという名前からは想像できないくらいの濃縮された内容を満載し,膵癌診療に関するさまざまな問いに答えてくれる本書を日々の診療に活用していただきたい。
膵癌診療のオールラウンダー書
書評者: 小松 嘉人 (北大病院腫瘍センター副センター長/化学療法部部長)
 『膵癌診療ポケットガイド』という書籍が,編集部から送られてきた。読んで書評をとの依頼であった。「膵癌マニュアル」とか,「膵癌~~」というのはちまたにたくさんあるので,また同様のものであろうと思いながら読ませていただいたところ,そうではなかった。ポケットガイドなどという題名のため,広く浅くの内容を想像していたが,これも間違いであった。学生や,研修医向けの初心者向きの記載が多いのかと予測していたが,まったく異なるものであった。

 さすが,国立がんセンター中央病院・肝胆膵内科医長の奥坂拓志先生と東京女子医科大学消化器外科講師の羽鳥隆先生というわが国の膵癌診療をリードするお二人が編者としてまとめただけあって,すでに経験のある先生方にとっても大変有用な書となることは間違いないものと思われる。現場での,今日の臨床に必要でかつ正確な情報を外科から内科的治療に至るまで網羅的に記載されており,忙しい臨床現場での医療スタッフがこれをポケットに入れて膵癌という困難な敵に戦いを挑むには最適の本といえるのではないだろうか。まさに実践向きのマニュアル本である。

 このポケットガイドは,今日新患として目の前に進行がん患者さんがいらした際に,診察室の机の上に1冊あれば,すべて事足りる内容となっている。まずは,最新の統計を用いた疫学情報や診断について詳しく書かれているため,患者さんおよびご家族への説明が十分かつ容易になるものと思われる。その後も,治療に至るまでの画像診断から細かな生検のこつなどが記載され,かつ診断のフロチャートまで書かれているので,その通りに実施するだけで治療方針も明確になるものと思われる。内科,外科両方の編者がいるため,外科的治療も内科的治療もかなり詳細な説明がなされており,外科医,内科医いずれにとっても最新の治療が大変わかりやすく解説されている。

 膵癌といえば,“早期発見と手術しかない!”とのことで,抗がん剤治療の項は,お情け程度に1~2ページ付いているというのが多いと思うが,本書では,少ないながらも繰り広げられてきた各種臨床試験とそのEBMを網羅的にレビューし,標準治療から,分子標的やその他の新薬を用いた試験的治療などまでを,標準療法と区別しながら詳細に説明してくれており,ポケット本とは思えない内容となっている。

 また,膵癌ならではであるが,積極的治療が不能となった後の支持療法から,がん疼痛治療,緩和医療術に至るまでもしっかりと解説されている。さらに本書特有の素晴らしい点としては,医師だけでなく,薬剤師,看護師,ソーシャルワーカーなどチーム医療を担うメンバーの執筆もあるため,疼痛緩和から患者さんの心のケア,膵癌教室や患者会(PanCAN)のことまでが書かれている。医師だけでなくすべてのメディカルスタッフ必携の膵癌診療のオールラウンダー書といえるのではないだろうか。

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