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医学・保健医療系学生のレポート・卒論執筆、医学生のフリー・クオーターや研究室研修、コ・メディカルのはじめての病棟研究などをサポートする入門書。テーマ設定から文献検索・執筆・発表まで、心の負担は軽く保ちつつ、研究の質を高めることができる。指導教員との面会の仕方や心構えにはじまり、文献検索や倫理、「サンプルとは何か」「妥当性とは何か」といった基礎事項もカバー。コミカルな図や読みもの調の文体も取り入れられた本書は、手ごろな分量で手にとりやすい。ネット世代の学生の参考図書にも。
Stuart Porter
武田 裕子
発行 2011年03月判型:B6頁:256
ISBN 978-4-260-01181-5
定価 2,750円 (本体2,500円+税)
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訳者まえがき(武田 裕子)/推薦のことば(Rosie Hunt)/まえがき(Stuart Porter)

訳者まえがき
 本書は,学生が研究室で指導を受け,一定の成果を出すための具体的な取り組み方を示したものである。研究室の選び方,指導教員とうまくいかないときの対処法,研究テーマや研究手法を選ぶときの考え方など,研究という言葉に恐れを抱く学生がその世界に足を踏み入れるときの実践的な手引書となっている。医学・看護学領域にとどまらず,薬学や理学,農学をはじめ理系の研究を行おうとする学生・大学院生,医療専門職に広く役立つ内容といえる。訳者自身にも,論文作成の際に本書のチェック項目が参考になっている。
 本書の翻訳を依頼されたときには,実はかなり迷った。著者の意図が読者に伝わるよう日本語を選んで紡ぐ作業は,非常に時間がかかり根気のいる仕事であることを,これまでの翻訳経験で学んでいたからである。背中を押してくれたのは,当時私が教えていた三重大学医学部の1年生で,修士課程修了後に入学した手石方康宏さんであった。よい教科書なので,学生の勉強会として指導しながら一緒に読めば学生にも役立つし翻訳も進むのでは,という提案により翻訳友の会が結成された。学内のMLで参加者を募り,1年生から5年生まで13名が参加し,勉強会はほぼ1年にわたって不定期に開催された。これは非常に画期的な方法であることが後にわかった。なぜなら,本書の対象読者である学生とともに翻訳を試みることで,理解しやすい表現となっているか,専門用語は説明が必要かなどの確認作業を同時に進められたからである。結果的には1人で翻訳作業を進めるよりもむしろ時間がかかったが,しかしその過程は何倍も楽しかった。
 著者であるStuart Porterは英国の大学で医療系の学生を指導した経験をもとに,本書を執筆している。研究で悩んでいたご自身の学生に読者として原稿を読んでもらい,序文を依頼している。原書では,その学生の名前も推薦のことばの執筆者として表紙に印刷されており,著者がいかに学生教育を大切にしているかが示されている。また本書が,いかに学生・大学院生の気持ちを汲んで書かれているかは,各章に散りばめられているエピソードから伝わってくる。指導する立場にある研究者が読めば,自らの教育を点検する機会となるであろう。
 英国発の教科書であるため,教育のコンテクストの違いから翻訳に苦労した箇所も少なからずあったのだが,最終稿に取りかかる頃,幸いなことに私自身が学生としてロンドン大学大学院(London School of Hygiene and Tropical Medicine)に留学することとなった。そこで,例えば本書に出てくるessay writing(学術的小論文)がどのような場面で求められ,いかに重要かを自ら体験することとなった。日本の状況に合わせて翻訳することが可能となったと同時に,こちらでの学びにおおいに役立っている。
 社会科学領域の研究について本格的に学ぶのは今回が初めてであるため,特に質的研究に関する最終章の翻訳には,獨協医科大学医学部公衆衛生学講座准教授高橋都先生にご指導を頂いた。この場を借りて心よりお礼を申し上げる。翻訳友の会に参加してくれた当時の学生の皆さんからは,本書による学びが,早速に大学での研究室研修に役立っているという便りも届いている。感謝と共に今後の活躍を祈りつつ。

 2011年2月
 武田 裕子


推薦のことば
 初めて会ったとき,Stuart Porterは教室の前の机に座って足をぶらぶらさせながら下肢の解剖学について話していました。これが私にとって生まれて初めての理学療法の講義でした。Stuartは何と私の脚全体に骨点や筋肉を描いてその授業を進めました。この新しい「タトゥー」を洗い落とすのには時間がかかりましたが,この最初の授業は忘れられません。Stuartは常に興味深く覚えやすく教えてくれました。それはいつまでも私たちの記憶に残るでしょう。

 理学療法士をめざす私たちは皆,解剖学や実践的なことがらを学ぶとわくわくします。そもそも,こうしたことがらに関する深い知識は将来,理学療法士として働くのに不可欠なのですから。といいつつ,「エビデンスに基づく医療」または「調査・研究」についての授業を受けた時の私は悲惨なものでした! しかし,そのおかげでこうやって推薦のことばを書くことになりました。エビデンスに基づく実践に関し非常にやっかいな課題を与えられ,指導を仰ぐためにStuartに再度連絡したところ,Stuartは親切にも新しい自著の校正刷りを読むように勧めてくれ,そして…今,皆さんにこの文章を読んでいただいているというわけです。

 はたして疑問は解決し,私は調査・研究のために何時間も費やすことがなくなりました。本書は研究に取り組む学生のよき友人となるでしょう。何せ研究の概念を,無理のない一口大に噛み砕いてくれるのですから。私は実際,その一口をとても楽しむことができました。本書の著者は,学生の気持ちに共感でき,研究がいかに難解かつ複雑で(理解に至るまでは)退屈であるかを十分に理解してくれています。本書は巧みに構成されているので楽に理解でき,利用しやすいです。Stuartは私たちの多くが調査・研究に嫌悪感を抱く理由を浮き彫りにしつつ,この道をこころざす者にとっての研究の重要性を強調し,学生に今後の道すじを示しています。調査・研究は,保健医療にとって非常に重要なものであり,私たち医療者が研究を通して診療に大きく貢献できることを実証してくれます。

 また本書には,興味深い事実や有用なヒントが随所に盛り込まれています。調査・研究に取り組むための簡単なステップを示し,時間の使い方に助言を与え,学生に何が求められているか理解できるよう助けてくれます。本書が読者の代わりに課題をこなしてくれることはありませんが…それでも役に立つのは確かなのです!

 Stuartは実生活と結びつけることで,調査・研究が大嫌いにならず親しい友人となるように手助けをもしてくれます。本書は読者が堂々巡りするのを防ぎ,調査・研究に対する恐怖を解消し,退屈や混乱を取り除いて,熱意を高めてくれるでしょう。

 本書を読み終わった後には,研究を面白いと感じ始めるだけでなく,自分自身で調査・研究に関する質問を投げかけ,答えられるようになれるのではないでしょうか。誰もがよく知っているように,優れた理学療法士になるには研究をおろそかにはできません。だからこそ,Stuartが私の調査・研究恐怖症を治し,自分が足を踏み入れることになるとは思ってもみなかった,まったく新しい素晴らしい世界を拓いてくれたことに感謝しています。

 2008年
 Rosie Hunt


まえがき
質問をする者は5分間は愚か者となる。質問をしない者は永遠に愚かなままである。

――中国の格言

調査・研究とは質問をすることにすぎない――そのくらい単純である。
 私自身の学生時代には,今日の多くの学生のような方法で調査・研究について学ぶことはなかった。実際に取り組んでみると,とにかく困難の一語で,外国語で書かれている場合もある何百もの論文,抄録,方法論の論文をかき分けていると自分が馬鹿に思えてきた──身に覚えがある読者もいるのではないだろうか。

 私自身の研究の旅が進むにつれて,霧は晴れ,調査・研究は「魅力的」で「エキサイティング」に成りうるとわかったが,私が読んできた本ではそれを知ることはできなかった。それで,誰もが調査・研究方法の基礎を学ぶことができ,調査・研究は恐れるに足らないことを証明するために本書を書くことにした。今やあらゆる学生が非常に早い段階で調査・研究について教わるが,残念ながら多くの学生は私と同様,それを不可解で恐ろしいものと感じている。

 本書は,混乱して堂々巡りをし,何の成果も得られずに方向を見失っていると感じている学生を対象としている。調査・研究のプロセスを学ぶことで研究課題に着手するための基本的な武器を与え,学生が非常によく陥る落とし穴や行き詰まりを避ける手助けをする。思考の整理から,研究テーマの選択,さらには十分に練られ倫理学的・方法論的に正当かつ適切に提示された最終レポートや学位論文の作成まで学生を導く。

 本書は,平易な言葉を用いて実生活に即した例を挙げており,予備知識は前提としていない。読者を難なく,調査・研究方法というやっかいにもみえる世界へと誘うものである。

 2008年3月
 Stuart Porter

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献辞
著者について
訳者まえがき
推薦のことば
まえがき
謝辞
執筆協力者一覧

第1章 最初の一歩
 研究の世界に出てみよう
 ではなぜそれほど多くの学生が研究を苦手としているのか
 なぜ研究について知らなければならないのか
 さあ,研究を始めよう
 研究者とはどのような人たちか
 最初の一歩を踏み出す-研究を行ううえで一番の困難を乗り越える
 指導教員とともに研究に取り組もう
 指導教員とうまくいかなくなったらどうしたらよいか
 研究プロジェクトに対するあなたの考えを押し進める
 よいリサーチ・クエスチョンに必要なものは何か
 テーマ(課題)選び
 研究計画と時間管理
 要約
 結論
第2章 研究者はどう考えるのか:研究におけるパラダイム
 パラダイムとは何か
 パラダイム・シフト
 研究者は世界の何について知ることができるのか
 あなたの研究プロジェクトはどのようなパラダイムに基づいているのか
 全部まとめると
第3章 文献レビューと学術的小論文(レポート)の書き方
 文献レビューってなんだろう
 自分の主張を裏づける
 価値ある文献レビューとは
 文献レビューを締めくくる
 文献を自分の仕事に組み合わせる
 文献を読む
 まずい文献レビューとは
 正しい参考文献の書き方
 英語論文におけるハーバード方式の出典表記法
 論文盗用
 学術的小論文(レポート)について
 結論
第4章 どのようにデータベースを用いて論文を探すか
 何を読むかを決める
 学術誌を効率的に調べる
 MEDLINEで効率的に探す
 CINAHLで効率的に探す
 コクラン・ライブラリのレビュー文献を効率的に探す
 PEDro で効率的に探す
 結論
第5章 研究における倫理
 研究の意義と研究を行ううえで陥りやすい過ち
 最近の研究環境
 倫理と研究倫理
 倫理的枠組み
 実践例
 研究倫理委員会の検討事項
 研究倫理委員会によってどのような決定がなされるか
 情報提供用紙
 検体の採取
 結果の開示
 余剰組織
第6章 サンプリング,妥当性,信頼性
 サンプル(標本)とは何か
 なぜサンプルを使うのか
 サンプルの抽出の仕方
 調査対象者の選び方
 妥当性
 信頼性
第7章 研究成果の発表とプレゼンテーション
 要点を理解してもらう
 会場
 聴衆をリードしていこう
 批判にどのように対処するか
 プレゼンテーション全体の構成を決める
 ポスター発表
 教員の視点で見てみると……
 パワーポイントを使うコツ
第8章 質的研究
 質的研究の目的
 自分のリサーチ・クエスチョンは何か?
 どのようにして質的データを集めればよいのか?
 データをどのように解釈すればよいか?
 リサーチの結果の科学的正確さを確認するには?
 データの提示
 結論

索引

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徹底的に初学者の視点に立った研究の入門書
書評者: 前野 哲博 (筑波大大学院教授・地域医療教育学)
 研究は研究者がやるもので,臨床医がやるものではない――学生時代・研修医時代,私はそう思っていた。大学の先生からは,「臨床医だからこそ研究に取り組むべきである」とよく言われていたが,当時はどうしてもそう思えなかった。

 そんな私も,後期研修が終わるころ,次第に研究に少し興味を持つようになり,軽い気持ちで研究に取りかかった。実際に取り組んでみると,その奥の深さに驚き,研究とはこんなに大変なものかと愕然とした。ようやく一つの論文を仕上げてみて,やっと臨床医が研究に取り組む意義を実感できたが,もし,こんなに苦労することを最初から知っていたら,研究をやってみようとは思わなかったかもしれない。

 思えば,研究のプロダクトである論文はいくらでも読む機会があるが,そのプロセスについて学ぶ機会は少ない。研究の進め方について書かれた本もあるが,研究をライフワークにしている研究者が,同じような道を選ぼうとしている人に向けて書かれたものが多いのではないだろうか。

 本書は,まさに昔の私のような,初めて研究に取り組むことになった臨床家を対象に書かれている本である。その特徴は,何といっても徹底的に初学者の視点に立っていること。なぜ研究するのか,なぜ苦手にしている学生が多いのかというテーマに始まり,指導教員との上手なつきあい方,研究テーマの選定,研究方法の考え方,レビューの書き方,先行研究の探し方……というように,研究のプロセスに沿ってわかりやすく述べられている。特に,研究倫理や質的研究については多くのページを割いて,丁寧に説明されている。

 本書の特筆すべき点は,研究の入門書であるのに,研究に苦手意識のある人向けに書かれていることである。初学者はどこでつまずくのか,どこで不安に感じるのかを筆者が熟知したうえで,極めて実践的でツボを押さえたノウハウがふんだんに記載されている。ユーモアにあふれた比喩もわかりやすく,こなれた読みやすい訳文と相まって,初学者でも肩肘張らずに読み通すことができるだろう。

 医師に限らず(本書の著者は理学療法士である),臨床にかかわるすべての医療者で,研究に興味を持ったら,まず気軽に手にとってみてほしい。本書はそういう一冊である。
研究者をめざす者が最初に読んでおきたい好書
書評者: 北村 聖 (東大医学教育国際協力研究センター主任/教授)
 2004年の臨床研修必修化によりほとんどの医学生が,臨床研修から専門研修へ進み,基礎医学の研究者になる人が減ったとされる。その一方で,学部教育のガイドラインである「医学教育モデル・コア・カリキュラム(2010年度改訂版)」において,医学教育の大きな柱の一つに『基礎と臨床の有機的連携による研究マインドの涵養』がうたわれている。すなわち,「進展著しい生命科学や医療技術の成果を生涯を通じて学び,常に自らの診断・治療技術などを検証し磨き続けるとともに(中略)背景となる基礎的課題を解明するなどの研究マインドの涵養」が教育目標の一つとされている。

 医師にとって基礎医学の研究のみならず,臨床の実践者になるにしても常に向上心を持って学び続けることが重要で,その中には常に研究課題(リサーチクエスチョン)を発見し持ち続けることや,それを解決する能力を身につけることなどが含まれる。しかし,実際の医学教育の現場では,なかなかこのような研究心の涵養を教育することは難しいのが現状である。多くの大学では,一定期間,実際の研究室に配属されて研究室の課題の一部を担ってみることが行われているが,自ら研究課題を見つけるといったことはほとんど教育されない。また,研究方法についても系統だった教育は少ない。

 このような状況の下,前・三重大学教授で現在ロンドン大学大学院に留学中の武田裕子先生が訳された本書は,まさに時宜を得た好書である。

 本書の特徴を挙げると,まず具体的であることがある。第1章は「最初の一歩」で,第2章は「研究者はどう考えるのか」と続く。学生や院生が研究に取り掛かるときの視点で具体的に書かれている。第二の特徴は読みやすいということである。この種の本は,研究者が読んでわかるものが多く,研究者を志すもの(まだ研究者ではない)が読んでわかりやすいものは少ない。その点,本書はもともと三重大学の学生グループ(翻訳友の会)が自分たちにも理解しやすいものを作ることを目標に翻訳に参加したため,きわめて理解しやすい表現で述べられている。

 そして最後の特徴は,研究の指南書でありながら,研究の周辺の重要なことがかゆいところに手が届くように記載されていることである。第4章のデータベースの使い方,第5章の研究の倫理などがそれに相当する。従来の類書ではあまり述べられていなかったものと思う。これらに加えて,賛辞に追補が許されるかは不明だが,本書の第8章「質的研究」について一言加えたい。医学生にとって質的研究という用語は聞き慣れないかもしれないが,社会科学の研究手法として重要であり,社会医学や医学教育の分野で盛んに行われている。この質的研究を取り上げていることに加え,きわめてわかりやすい説明がなされていることにさらなる賛辞を送りたい。

 本書は小ぶりながら,研究者をめざすものが最初に読む本として,すべての医学生に強く薦めたい。
研究の壁を越えてゆくために必携のコンパス
書評者: 網本 和 (首都大東京大学院教授・理学療法学)
◆研究のカベ

 看護師や作業療法士,あるいは理学療法士を目指し,医療系の専門学校や大学に籍を置いて日々勉学にエネルギーを費やしている学生は,いまや日本ではかなりの数になっている。その多くの教育課程で,「卒業研究」が必修あるいは推奨の単位とされている。つまり大変多くの学生が卒業するための「卒業研究」を積極的に行う場合もあるが,強制的に参加させられている場合も少なからずあり,この単位修得に喜びよりも苦しさを感じた学生は「研究」を卒業してしまうことになる。

 研究のカベである。このカベに悩むのは学生ばかりでなく,指導する教員もまた,どのようにカベを乗り越えその先の「おもしろさ」を伝えることができるか思い煩うことになる。そんなカベを見上げるとき,本書『ここからはじめる研究入門』を手に取ったあなた(読者)は幸いにもそのカベを越えてゆくための道筋を発見するだろう。

◆パンの生地

 本書の著者Stuart Porterは理学療法士で大学教員でもあり,学部学生への卒業研究指導の過程でこのテキストを著したという。全体の構成は,1.最初の一歩,2.研究者はどう考えるのか,3.文献レビューと学術的小論文(レポート)の書き方,4.どのようにデータベースを用いて論文を探すか,5.研究における倫理,6.サンプリング,妥当性,信頼性,7.研究成果の発表とプレゼンテーション,8.質的研究,という8章から成っている。

 本書の特徴として随所にわかりやすい比喩が用いられており,例えば第1章において,「研究プロジェクト」を進める過程は「パンの生地」をこねるのに似ていて,アイディアを固める前にはしっかりと考えを練って絞る必要がある,という。さらに,研究課題についての記述はなるほどと思えるもので,例えば研究テーマの選択・決定において,いくつかの失敗例が挙げられている。すなわち「自分ではできないテーマを選ぶ」「現実離れした研究内容を選ぶ」など,このような場合の解決法について触れられているのはかなりうれしい。極端な例として「何を研究したらよいかわからない」学生への対処法も掲載されているが,紙数が尽きそうなので詳細は本文をぜひ参照されたい。

◆学生にはもちろん教員にも

 第3章以降は基本的かつ不可欠な,研究を具体的に進めてゆく方法について述べられている。特にプレゼンテーションの章では,いくつもの「成功の秘訣」が惜しげなく提供されている。またこのような入門書ではあまり扱われない第8章「質的研究」もまさに入門編として適している。

 ロンドン大学大学院留学中の武田裕子先生の軽妙洒脱な訳出が,醸し出すユーモアを余すところなく伝えている本書は,学部学生,大学院学生だけでなくその指導教員にとっても,研究という峰々をゆくための必携のコンパスになるであろう。本書を読破したとき(それほど長くないが),目の前にあったカベが,実は緩やかな丘に思えてくるに違いない。

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