栄養塾
症例で学ぶクリニカルパール

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適切な栄養投与はすべての医療の基本である。しかし卒前の栄養学教育は乏しく、臨床で先輩の話を鵜呑みにするのも少々危うい。ならば正しい知識を「塾」で学ぼう。本書では、栄養管理のエキスパートが練習問題(症例)をもとに、Q&A方式で「目からウロコ」のクリニカルパールを伝授する。資格認定試験にも役立つ「栄養管理に必要な生化学の知識」も収録。栄養学が、そしてベッドサイドが、好きになる1冊!
編集 大村 健二
発行 2010年02月判型:A5頁:280
ISBN 978-4-260-01014-6
定価 3,080円 (本体2,800円+税)
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 開塾にあたって

 欧米では,適切な栄養投与がすべての医療の基本であると広く認識されている。医療行為を,疾病や外傷から回復しようと戦っている生体に対する「援護」と考えればわかりやすい。戦いに,適切な物資の補給は必要不可欠なのである。
 翻ってわが国の医学教育では,ほかの先進国と比較して栄養学が軽視されてきたことは否めない。現在,臨床講義の多くは疾病の診断学と治療学に費やされている。敵を察知し,敵と戦うことばかりが教えられているのである。一方,治療の合併症予防のみならず生体の恒常性維持にもかかわる栄養学の講義はほとんど行われない。戦っているうちに兵糧が尽きてしまうことの恐ろしさを医学生が学ぶ機会はほとんどないのである。
 臨床の現場では,高カロリー輸液用の製剤が市販されてから,栄養学の知識を持たなくても栄養管理らしきものを施行できるようになった。完全静脈栄養が全盛期を迎えた1980年代以降は,卒前教育のみならず卒後教育の場でも栄養学を学ぶ機会がほぼなくなったのである。
 そもそも動物に過ぎないヒトの体にとって,摂食の意思とは無関係に,強制的に栄養を投与されることは想定外である。ヒトが意識下に行う摂食量の調節は精緻であり,大半の人の体重は中期的にみてもプラスマイナス数%の範囲に収まる。静脈栄養や経管的に投与する経腸栄養は,その調節能を無視したものであることをまず理解しなくてはならない。さらに,個々の症例にとって真に適切である栄養投与量はピンポイントに近い。その小さな的を射ないまでも,許容できる範囲の栄養の投与を行う意義はきわめて大きい。何も考えずに判で押したように行う大雑把な輸液を「栄養管理」と呼ぶことはできないのである。
 残念ながらわが国では,間違った「栄養管理」がいたるところで行われているのが現状である。本書は,栄養学に関する必要最低限の正しい知識,ミニマル・リクワイアメントをみつけてもらうことを目標とした。研修医やNSTスタッフが日々の臨床に役立てることができるように,2章以降では最初に症例を提示し,学んでもらいたいことを「クリニカルパール」として明確に示している。
 また,1章「栄養管理に必要な生化学の知識」では,生化学の教科書の中から容易にはみつけることができない臨床に結びつく部分をわかりやすくピックアップした。医学生は,すばらしい基礎医学の授業を受けている。しかし,その価値を見出せないまま医師となり,ほどなくそれらの知識は忘却の彼方へと去る。もし栄養学の講義がしっかり行われたら,生化学と臨床医学の架け橋になるであろう。先人が積み上げた生化学の分野の多くの知見は,分子生物学全盛の今日でもその輝きをいささかも失ってはいない。健康状態であれ病的状態であれ,生体内で営まれる生命反応を理解するために生化学の知識は必須なのである。ここでまとめた生化学の知見が臨床栄養学の知識に厚みを加えることは確実である。なお,第2章以降を読まれたのちに第1章に戻ると,より理解が深まると確信する。

 本書で,栄養学の奥の深さを味わっていただきたい。

 2010年2月
 大村健二

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1章 栄養管理に必要な生化学の知識
 1 糖質の消化・吸収と代謝
 2 脂質の消化・吸収と代謝
 3 蛋白質の消化・吸収とアミノ酸代謝
 4 微量栄養素の生理活性とその欠乏
2章 臨床栄養 基礎編
 1 栄養アセスメント
 2 栄養管理のプランニング
 3 栄養投与ルートとその管理
 4 モニタリング
 5 周術期の栄養管理
 6 低栄養患者の栄養管理
 7 過栄養患者の栄養管理
3章 臨床栄養 応用編 病態・ライフサイクル別
 1 糖尿病
 2 肝硬変
 3 急速進行性糸球体腎炎
 4 SIRSを伴った急性腎不全
 5 COPD(慢性閉塞性肺疾患)
 6 炎症性腸疾患
 7 脳血管障害
 8 摂食・嚥下障害
 9 心不全
 10 癌化学療法時の消化管毒性
 11 終末期癌
 12 短腸症候群
 13 認知症高齢者
 14 妊娠
 15 小児
 16 加齢に伴う代謝変動
4章 栄養管理のピットフォール
 1 特殊病態用栄養剤のピットフォール
 2 Refeeding症候群
 3 糖尿病性ケトアシドーシス・高血糖高浸透圧症候群
 4 カテーテル関連血流感染症(CRBSI)
 5 胃瘻のトラブル

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NSTスタッフと“かみ合う”チーム医療リーダーとなるために
書評者: 鷲澤 尚宏 (東邦大医療センター大森病院 栄養サポートチーム・チェアマン/専任准教授)
 1980年代には完全静脈栄養法(以下TPN)が全盛であったが,90年代の終わりになると積極的な腸管利用が推奨されるようになった。TPNがあたかも悪い栄養法であるかのごとく評価されるという,米国栄養教育の内容が日本に入ってきた時代である。この結果,無理に経腸栄養を勧めたり,非現実的な経口摂取を叫んだりする状況が医療現場につくられてしまった。これは,医師の卒前教育が行われないままに応用医学が普及した結果である。

 2006年の診療報酬改定で「栄養管理実施加算」が導入され,2010年からは「栄養サポートチーム(NST)加算」が始まった。これにより,栄養サポートチームの看護師や管理栄養士,薬剤師が,受け売りではなく,自ら栄養管理を立案する立場を得ることとなった。医師とコメディカルが栄養管理の方針を話し合うときには客観性のある判断が必要となるが,本書は多くの医療者らが疑問に感じていた部分に明快な解答を示してくれている。

 2章「臨床栄養 基礎編」では,「TPNが栄養管理として最適である病態は多数ある」(57頁)と言い切っており,「問題なのは,適応を考慮せず漫然と施行するTPNである」(同頁)ことを明らかにすることにより,現状に警鐘を鳴らしている。また,高カロリー輸液製剤は汎用性が高いため,「そのまま投与すると,グルコース過剰かアミノ酸不足のいずれかになる」(61頁)と指摘し,具体的な処方計画で対策を示している。周術期の患者が持つ退院への不安に対し,「退院して日常に戻ろうとすることが何よりのリハビリで,体力をつける早道であると説明」(96頁)するアドバイスは,そのまま応用できる。

 3章「臨床栄養 応用編」では,多くの疾患を例に理論的な解説をしている。栄養学の知見を臨床現場で応用することが目的であり,「食べるためのPEG」(153頁),「栄養ケアなくしてリハなし,リハなくして栄養ケアなし」(159頁)など,栄養療法を受ける生身の人間が主体となっている内容に感銘した。続く4章「栄養管理のピットフォール」では,特に過剰な栄養素を投与することへの注意を促すために「Refeeding症候群」の項に9頁を割いている。Refeeding症候群については,3章に含まれる「低栄養患者の栄養管理」の項でも言及しており,正しいアセスメントに基づく適正な栄養療法の重要性を強調している。

 ここまで症例をもとにしたQ&A形式のレクチャーを読んだあとで1章「栄養管理に必要な生化学の知識」に戻ると,糖質・脂質・蛋白質の消化吸収と微量栄養素の生理活性について凝縮された解説を行っており,成書のどこを読み直せばよいかがわかった。

 編者の序文を読み返すと,読者対象を「研修医やNSTスタッフ」と定めており,未来のチーム医療リーダーである若手医師もターゲットであることが謳われている。編者と分担執筆した著者らは,1990年代に医師である私をこの分野に導いた先輩たちである。NSTのコメディカルと担当医師の議論がかみ合わない原因は,コメディカルの力量不足のみならず,私を含めたチーム医療のリーダーたる医師の知識不足が背景にあると指摘されているかのようだ。若手医師の育成,さらにはチーム医療の成熟をねらいとして本書は上梓されたのではないかと感じる。

“真珠のように輝く”臨床栄養の知恵をNSTナースに
書評者: 矢吹 浩子 (医療法人明和病院副看護部長/日本静脈経腸栄養学会理事)
 NST(Nutrition Support Team;栄養サポートチーム)設置の必要性が謳われ始めたのはほんの数年前のことだが,あっという間にNSTは全国的に普及した。NSTの活動によって栄養管理の効果と必要性があらためて認識され,ついに今年度の診療報酬改定においては「栄養サポートチーム加算」の新設に至った。私自身も栄養管理に足を踏み入れてすでに10年以上経過したが,ケア提供者である看護師にとって栄養学や生化学は現場の看護に直結しにくい学問で,症例を重ねるほど,栄養管理の奥の深さと広さを実感している。同じような思いの看護師はたくさんいるだろう。

 本書は,そういう看護師にとって,かゆいところに手が届くテキストである。

 なんと言っても本の判型がよい。第1章は生化学の講義から始まるが,多くの看護師は化学式が苦手で分子レベルの学問には消極的である。大きな本の見開きページ一面に化学式が広がっていては通読する根性がくじけてしまうが,本書のA5サイズのページは目に入ってくる化学式の量が少なく,化学式アレルギーの私でも抵抗なく読み進めることができる。

 第2章の臨床栄養の基礎編,第3章の応用編では,具体的な症例を練習問題として提示し,要点をQ&Aで答えてくれている。まるでNST回診で症例を検討しているかのようなQ&Aには臨場感があり,NST回診で優秀な医師から直接教育を受けているような学びができるだろう。できれば症例を見ながら第1章の生化学にページを繰り直してもらいたい。難しい生化学も症例を通じてなら覚えやすく,楽しく学習が進められると思う。本書で練習問題に取り上げている症例は決して複雑な病態ではなく,NST活動をしている看護師であれば,おそらくかかわったことのある病態だろう。私自身ももちろんかかわった病態である。そのときにアセスメントしたことが本書では科学的に説明されてあり,自分自身の知識をひとつひとつ再確認できるだけでなく,そのときに気づかなかったことを発見することもできる。また,その発見は新たに学習する入り口にもなり,栄養管理の研鑽へと広がっていくだろう。第4章では,注意を怠ると患者の重症化につながりかねない重要なピットフォールが集められており,栄養管理にかかわる医療者は必読と言えよう。

 塾長の大村先生は,本書のサブタイトルにある「Clinical Pearl」を「“真珠のように輝く”臨床の極意,絶対外してはいけないポイント」とされた。真珠は,貝の中で自己防衛して育まれる宝石で,石言葉は「健康・長寿・富」である。「Clinical Pearl」はまさに臨床で培われた大切な臨床栄養管理の知恵と言えるだろう。本書は,医師はもちろんのこと,NST活動を行う看護師であれば必ず読まれることをお勧めしたい良書である。
「栄養の勉強に良い本はありますか?」と研修医に聞かれたら
書評者: 片多 史明 (亀田総合病院卒後研修センター長/神経内科部長代理)
 どの診療科が専門であっても,臨床医として修得しておかなければならない基本的事項が,いくつかある。栄養管理は,感染症の診断・治療や,水分電解質管理と並ぶ,患者マネジメントの基本であり,臨床医必須の知識・技術である。しかし,栄養管理法・臨床栄養学について,卒前に十分な教育を実施している大学は,まだまだ少ない。卒後教育においても,各種疾患の診断・治療に重きが置かれる中で,栄養管理が長い間軽視されてきたことは否めない。専門学会を中心とした,臨床栄養の卒後教育の取り組みが実を結び,各施設でも栄養管理についての教育に目が向けられるようになったのは,まだつい最近のことである。

 研修医に臨床栄養の講義をしていると,「栄養について勉強するのに,何か良い本はありますか?」という質問を受けることが多い。この質問を受けるたびに,いつも私は困っていた。分厚い臨床栄養学の専門書は確かにある。しかし,この分野の専門家を目指すわけではない医師の,限られた研修時間を費やすには効率が悪く,またよほどの心構えがない限り通読は困難である。内科学の教科書にも栄養管理の項目はある。だが全体のページ数のごく一部であり,そのほとんどが総論的事項である。2-3日で通読できて,臨床栄養学の全体を俯瞰することができ,なおかつ実践的な内容の本は……と考えると,答えに窮してしまうことが多かった。

 このたび,大村健二先生編集の,『栄養塾 症例で学ぶクリニカルパール』が発刊された。編者の大村先生は,優れた外科医であり,外科代謝学,臨床栄養学の専門家である。本書の内容は,生化学から最新の臨床栄養学の知見,臨床で陥りがちなピットフォールまで,多岐にわたる。大村先生自らが執筆した生化学の章では,学生時代にはその意義が十分に理解できなかった生化学の知識が,臨床的な視点からのスポットライトを浴び,活き活きと輝いている。

 臨床栄養の基本事項を概観した基礎編,病態ごとの栄養管理のポイントをまとめた応用編では,現在の日本の臨床栄養学をリードする豪華な顔ぶれが“塾講師”として筆を取っている。各項とも,具体的な症例を通じて,時々刻々と変化する病態に応じた,臨床栄養のダイナミズムを追体験できるよう工夫されており,要所に配置された「塾長のひと言」は,まるで栄養を専門とする指導医に,じかに指導を受けているかのようである。

 「栄養について勉強するのに,何か良い本はありますか?」という質問を受け,今後私が答えに窮することはないだろう。本書は,自身の栄養管理の次元をひとつ高めたいと考えているすべての医師にとって,進化のきっかけになる一冊である。研修医のみならず,上級医の口伝と独学で栄養管理を学ばざるを得なかった世代の医師にも,ぜひ“入塾”を薦めたい。

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