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脳性麻痺リハビリテーションガイドライン

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脳性麻痺治療は、わが国ではこれまで施設ごとにさまざまな手法が採用され、一定の評価がなされてこなかった。そこで本書は、日本リハビリテーション医学会により、エビデンスに基づいた脳性麻痺のリハビリテーション治療がどこまで可能か、関係医療チームや一般医家にひとめでわかるようにまとめられた。臨床場面で即活用可能なガイドラインとなっている。
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はじめに本リハビリテーションガイドラインを読んでいただく方のために

 これまで脳性麻痺治療は,特にわが国では施設ごとにさまざまな手法が採用され,一定の評価を生み出されるまもなく生まれては消えていった.手術療法は一時神経発達学的アプローチを行う方々からは否定的な評価を受けていたが,新しい技術の台頭とともにまた支持されるに至っている.時代は,エビデンスに基づいた治療がどこまで可能なのかが関係医療チームや一般医家にひとめでわかる「ガイドライン」を必要としているのではないかと考えられた.そこで,現行最新のエビデンスによる推奨治療方法について,改訂することを前提に作成しようと本ガイドラインは企画された.
 脳性麻痺リハビリテーションガイドライン策定委員会では,2005年9月に第1回委員会を開き,委員会の進め方について審議,リサーチクエスチョンのリストアップを行うことから始めていった.その後,既存エビデンスの確認(Cochrane,AACPDM,NGC,PEDroなど)と候補にあがった多くのリサーチクエスチョンの選定をnominal group techniqueを用いて行い,委員の合意から計114のリサーチクエスチョンを得た.翌年から,協力委員の選定,メーリングリストの立ち上げ,文献入手を開始した.集まった文献事情によりリサーチクエスチョンを再検討し,裏づけとなる質の高い論文があるかないかによってリサーチクエスチョンの内容は若干変更となった.ブリーフケースをネット上に開設して各委員のガイドラインの仕上がりをここに集め,2008年9月中旬から1ヶ月間日本リハビリテーション医学会ホームページ上で,パブリックコメントを募集,それを受けて2008年11月に最後の編集会議を終えた.
 網羅的に調べたリサーチクエスチョン関連論文は,『脳卒中治療ガイドライン』(協和企画,2004)で用いられたエビデンス分類(Ia,Ib,IIa,IIb,III,IV)を適用し,推奨グレードを決定した(表1,2;本サイトでは省略).エビデンスレベルの高い文献だけから推奨グレードを決定すると,リサーチクエスチョンによっては発表論文が十分でないことがあり(特に本邦の論文にはエビデンスレベルからみて取り上げにくいものが多く見られる),また英文論文では文化的背景や社会制度が異なるわが国の実際の臨床場面では十分に役立つものにならないことも予測されるため,解説の項にその補足をすることとした.
 最後に,策定委員・協力委員の多くがこうした作業に不慣れで,文献検索,エビデンスレベルづけ,推奨グレードの決定等に多くの時間がかかった.しかし,このことは改訂に向けて大きな力になってくれることと思う.本ガイドラインは日常臨床の場面で頻回にご利用いただけること,また現行のエビデンス集めはここまででしたという性格のものでもあり,今後発展的に改訂が重ねられることを願う.

謝辞
委員会活動の流れを示唆していただき,また技術指導を多くいただいた里宇明元先生,園田 茂先生,生駒一憲先生に感謝申し上げます.

 2009年4月
 脳性麻痺リハビリテーションガイドライン策定委員会
 委員長 岡川 敏郎

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第1章 脳性麻痺の早期介入と診断・予後
 1-1 ハイリスク児への早期介入
 1-2 ハイリスク児に対する評価
 1-3 脳性麻痺の診断
 1-4 脳性麻痺の定義と評価
 1-5 ライフステージに応じた本人,家族支援
第2章 運動障害へのリハビリテーションと合併症への対策
 2-1 運動障害のリハビリテーション
 2-2 痙縮に対するリハビリテーション
 2-3 脳性麻痺の筋骨格系障害へのアプローチ
 2-4 嚥下障害に対する評価法とその対応
 2-5 コミュニケーション障害に対する対応
 2-6 機能障害に対する保存的療法および手術的療法
 2-7 移動のアシスト・座位保持
 2-8 痙攣発作への対応は?
第3章 就学と福祉サービス
 3-1 多職種から成るチームによる包括的アプローチ
 3-2 学校に関する諸問題
 3-3 社会福祉サービスの利用

索引

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専門分野を掘り下げる糸口
書評者: 陣内 一保 (財団法人 復康会 沼津リハビリテーション病院顧問)
 本書は,日本リハビリテーション医学会の脳性麻痺リハビリテーションガイドライン策定委員会(委員長・岡川敏郎先生ほか委員6名)により編集された。執筆者は,協力委員を加え32名に及んでいる。いずれも脳性麻痺リハビリテーションの第一線で活躍されている医師(リハビリテーション科,整形外科,小児神経科など),理学療法士,作業療法士,言語聴覚士の方々である。

 ガイドラインの策定作業は,脳性麻痺リハビリテーションに関するリサーチクエスチョンのリストアップから始まり,114の候補の中から60に絞り込み,それらを3つの章に分け,各クエスチョンごとに推奨グレード,関連論文とそのエビデンスレベルを示し,解説を加えている。各章では下記のような事項を含むリサーチクエスチョンが取り上げられている。以下,( )内の数字はリサーチクエスチョンの数を表す。

 第1章 脳性麻痺の早期介入と診断・予後(21):ハイリスク児への早期介入(5)では新生児個別発達的養育および評価計画(NIDCAP)の導入,カンガルーケア,呼吸理学療法,NICUからの哺乳訓練・ポジショニングなどは行ってもよいが長期的な改善効果は不明で,十分な科学的根拠はない(ポジショニングはグレードB,ほかはグレードC1または2)とされた。ハイリスク児に対する評価(3)では危険因子を認めた新生児の慎重な経過観察は勧められる(グレードB)としている。Prechtlのビデオ記録による運動発達評価はエビデンスレベルが高く強く勧められる(グレードA)が,研究の規模が小さいとのことである。検査としては,経頭蓋エコーとMRIの推奨度が極めて高い。

 第2章 運動障害へのリハビリテーションと合併症への対策(35):粗大運動や上肢機能に対する神経発達学的治療(NDT)をはじめとするいわゆる機能訓練(3),上肢・下肢・体幹に対する装具療法・キャスティング(3),および手術療法(6),選択的後根切断術(1),歩行補助具・車いす・シーティング(3),フェノールブロック・ボツリヌス毒素・バクロフェン髄腔内投与(4),嚥下障害に対する評価とその対応(6),コミュニケーション障害に対する対応(2),痙攣発作への対応(1)などの項目があり,35のリサーチクエスチョン(延べ109項目)の推奨度をみるとグレードA:12項目,B:30項目,C1・2:66項目,D:1項目である。グレードAの一部を挙げると,持続的ストレッチングによる関節可動域の改善と痙性の減少,短下肢装具による歩容改善,ボツリヌス治療による動的な尖足変形の改善,口腔ケアの効果,シーティングの呼吸や上肢機能への好影響などである。

 第3章 就学と福祉サービス(4):多職種からなるチームによる包括的アプローチ(1)ではチーム内のキーパーソンの重要性,教員の参加が少ないことが指摘されている。学校に関する諸問題(2)では,就学先の選択,医療的ケアに触れているが,社会福祉サービスの利用(1)も含めて地域の社会的背景や当事者の価値観の影響が大きく,論文数の少ないこともありエビデンスレベルづけに苦慮したことがうかがわれた。

 本書では,「脳性麻痺」の診断を行うにあたり,厚生省脳性麻痺研究斑会議で定められた定義(1968)またはWorkshop in Bethesdaにおいて設定された定義(2004)のいずれかの定義を用いることを勧めている(グレードC1)。しかし,脳性麻痺の概念は非常に包括的で,医療・教育・福祉政策など使われる分野によってもその意味合いに差異があり,国際生活機能分類(ICF)との関係も含めて専門家の合意の上で決められるべきであるとしている。

 本ガイドラインは,脳性麻痺リハビリテーション体系の概観よりも各専門分野を掘り下げる糸口としての意義が大きい。A4判という大サイズとともに存在感のある1冊である。
わが国の療育環境の特殊性も十分考慮されたガイドライン
書評者: 野村 忠雄 (富山県高志リハビリテーション病院院長)
 評者の書棚には国内の学会が策定した「診療ガイドライン」がいくつかあります。その多くは特定の疾患に対するもので,国内外の科学論文を広範囲に収集し,治療法などに対するエビデンスレベル,推奨グレードが提示されており,医師が治療法を選択する際の参考にされています。脳性麻痺のリハビリテーション(以下,リハ)においても以前から「根拠に基づいた医療」(EBM)が提案されてきました。

 しかし,脳性麻痺自体がさまざまな原因で発症した症候群で障害の種類や程度が極めて多彩であること,小児特有の発達と治療効果の区別が困難であること,さらには倫理的な観点から対照群を作り比較検討することができないことなどから,医療,教育,地域ケアなどの各種支援の効果を実証することは極めて困難な作業と考えられてきました。今回,岡川敏郎委員長を中心とした脳性麻痺リハガイドライン策定委員会が,こうした困難な作業に立ち向かい,本書を完成されましたことにまず敬意を表します。

 読者はこのガイドラインを一読したとき,今までのガイドラインと趣が異なっていることに気づくと思います。本書の特徴の一つは,リサーチクエスチョンが医学的問題にとどまらず,障害告知,両親の療育への参加,教育・福祉的サービスなど脳性麻痺児・者の生活全般にわたっていることです。このことは,WHOの国際生活機能分類ICFの考え方がガイドライン作成の根底にあるものと推察しました。第二の特徴は,エビデンスレベルの高い文献や海外論文からだけで推奨グレードを決定したわけではなく,わが国の療育環境の特殊性をも考慮し,実際の臨床場面に沿った指針が丁寧に解説されていることです。

 本書の第1章では,ハイリスク児の早期介入の効果や予後予測の問題,脳性麻痺の定義と評価,あるいはライフステージに応じた本人・家族支援についての問題などが取り上げられています。第2章では運動障害,痙縮,嚥下障害,コミュニケーション障害,痙攣発作などに対する評価と対応が解説されています。

 第3章では多職種による包括的アプローチや学校での諸問題,福祉サービスが適切に利用されているかについての問題が取り上げられています。このように脳性麻痺の療育に関係しているすべての人たちの関心のある問題が網羅されており,医療関係者のみならず,教育・福祉関係の方々にとっても必読の書といえます。

 本書を読み進めているうちに,私たちの日ごろの脳性麻痺児・者へのアプローチがいかに科学的根拠の乏しいものであったかに驚かされます。いつまでも,経験だけに頼った治療・ケア・教育では患者・家族のみならず,私たちの後輩にも支持されなくなるでしょう。私たちのリハの実践をさまざまな客観的尺度で眺め,そのことが本当に患者の機能改善に結びつき,彼らの生活を豊かにしているのかを検証していくことは,これからの療育に携わる者の責務です。このガイドラインは「発展的な改訂」を前提に作られている,と岡川委員長が巻頭で述べておられますが,本書を「改訂」する作業はまさに私たち自身に託されているのです。

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