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看護学教育評価の基礎と実際 第2版
看護実践能力育成の充実に向けて

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看護は現場で、人と人とのかかわりのなかで生まれる。看護そのものは複雑ではあっても、その構造を正しく理解すれば、教育やその評価につなげるのは難しくはない。一貫して、主体性・自主性を重んじる看護学教育、看護実践能力育成の充実を追及しつづけてきた著者の、腰を据えた教育の展開論および評価の方法論。初版発行後20年を経て、名著が蘇る。
田島 桂子
発行 2009年06月判型:B5頁:224
ISBN 978-4-260-00933-1
定価 3,080円 (本体2,800円+税)

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第2版の改訂にあたって

 本書の第1版が出版されてからすでに20年が経過している.その間には,看護職者の名称の変更,教育課程の改正など看護職者を取り巻く環境の変化や看護の現場における患者・クライエントへの対応の仕方が,いろいろな面で変化している.これまで本書を改訂してこなかった理由には,第1版が看護実践能力育成を重視して,看護の本質に基づく看護学教育評価の基礎にかぎって著したものであり,さまざまな環境の変化には影響されないと考えていたからである.
 しかし,近年において,看護の実践能力の育成過程や看護との取り組み方が多様化しており,それらから教育と評価にかかわるさまざまな課題が生じているので,関連する基本的な事柄への共通認識の必要性を感じ,改訂を行うこととした.看護と教育が人を対象としているかぎり,人々の毎日の営みにかかわる看護と教育の基本が,大きく変わることは考えにくい.したがって,看護および教育の本質に立ち戻って,教育の成果を得るための教育方法と評価のあり方の検討が必至であるように思ったからである.
 今回の改訂は,現在の看護学教育のあり方,看護の現場からの声などにより日ごろ感じている,次のような素朴で当たり前の視点への再認識の必要性からの取り組みである.
 ① 看護および教育は,目前の対象となる人々との直接的なかかわりの過程で成り立つものである.
 ② 看護学教育は,教育制度や教育課程の改正,教育内容にかかわる微細な基準・規準の作成では看護の質を高める成果は望めない.それに先立ち,看護と看護学教育の目的の明確化と教育担当者の看護実践能力の育成が不可欠である.
 ③ 看護学の教育を期待する看護の実践能力育成につなげるには,すべての教育の過程で既修(習)内容を組み入れた関連内容の統合・総合化と,それらの活用方法への動機づけをはからなければならない.
 ④ 看護の教育の過程では,最小限の基本とその多様な活用方法に基づく発展的な想像・創造力の育成が不可欠である.
 ⑤ 生涯学修が必要な看護専門職者の教育では,確実な基礎教育を行い,継続教育の充実・発展の素地づくりを行う必要がある.
 ⑥ 看護専門職者としての発展を望むには,基準や規準,指示待ちではなく,自ら活動できる主体性・自主性をすべての学修過程に並行して取り入れる必要がある.
 ⑦ 看護学教育の評価には,教育・指導者の看護実践能力による教育とその過程における評価する目が重要な意味をもつ.
 これらの内容は,第1版の「序にかえて」で述べている看護学教育評価を考える際の課題の内容に向けて,確かな見解をもっていなければならない事項である.したがって,本改訂では,看護学教育の現状をその変遷をふまえて振り返るための看護・看護学教育の基盤に必要な考え方,看護の考え方と看護実践能力との関係,教育の過程における看護実践の評価目標の考え方,統合・総合能力に関する評価方法および継続教育の過程における教育と評価の考え方などについて新たな項を加え,さらにこれらの考え方に基づいて第1版の全般の見直しを行っている.
 加えて,筆者の本書に託す気持ちを表現すると,①看護は現場で人と人とのかかわりのなかで生まれるものであること,②看護は形で規制されるものではなく看護職者・患者・クライエント,その他の人々との間で創造し実践されるものであること,③看護計画立案および看護診断の前に,人と直接的な関係のなかでのヘルスアセスメント(フィジカルアセスメントを含む)能力による人の総合的見方の強化の必要性,④総合・統合能力に関する評価方法の項で言及している「目標達成の過程を可視化し自信をもたせる」「思考ののぼりおりを活かした関連内容の統合・判断能力の育成」「他人との協調・対応能力の育成」などから主体性・自主性が芽生え,将来への発展が導かれる教育が,その基盤におかれることを切望していることである.看護実践能力は,その結果として自然に身につくものであると確信しているからである.

 最後ではあるが,長年,本書の第1版を愛用してくださった皆様と,本書の刊行に当たって,労をいとわずご配慮をいただいた医学書院の林田秀治氏に厚く感謝を申し上げたい.

 2009年5月
 田島桂子

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第1章 看護・教育・評価の関係
 1.看護・看護学教育の基盤に必要な考え方
 2.看護学教育の考え方
 3.教育の考え方
第2章 教育評価の基礎知識
 1.教育評価とは何か
 2.教育評価のための必要条件
第3章 教育目標と教育評価
 1.教育目標の作成過程と教育評価
 2.教育目標と評価の目標
第4章 看護学教育の教育内容と評価
 1.看護の考え方と看護実践能力との関係
 2.看護の内容とその教育内容
 3.看護技術と看護行為の構造と評価目標
 4.看護実践の評価目標の考え方
第5章 看護学教育評価の方法
 1.評価用具の種類と活用方法
 2.評価用具の組合せ方
 3.総合・統合能力に関する評価方法
 4.評価結果の処理方法
第6章 看護学教育における教育単位と教育目標
 1.教育単位の設定
 2.教育単位の学修過程と目標作成過程
第7章 看護学教育における教授-学修目標と評価
 1.教授-学修過程の教育内容と評価の関係
 2.「看護技術」の教育単位の目標設定過程と評価
 3.臨床実習における学習目標設定と評価
 4.臨地実習における看護過程の評価
第8章 看護学教育課程の評価
 1.評価の段階と評価内容
 2.評価の基準・規準
 3.授業評価とその活かし方
第9章 継続教育の過程における教育と評価の考え方
 1.看護基礎教育と継続教育との関係
 2.継続教育の教育内容の考え方
 3.施設内教育の指導過程と評価の考え方
 4.看護職者とキャリア教育・開発との関係

付録
索引

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時代を超える普遍性を追求した看護学教育評価論 (雑誌『看護教育』より)
書評者: 秋元 典子 (岡山大学大学院保健学研究科教授)
 本書は,初版発行後20年の時を経て改訂されたものである。このことは,不変であろう本質論を説いた初版の内容でさえ再検討せざるを得ないほど看護学教育を取り巻く状況が変化したことを意味していると解釈されるかもしれないが,実はそうではなく,変化したからこそそれを踏まえつつ今一度本質論に立ち戻る必要性がある,との著者からの警鐘であった。

 著者が言及する本質論の1つめは,教育内容の精選である。教育評価の根本的考え方は,教育者が学習者に対してこうなって欲しいというねがいを教育目標として掲げ,目標達成を意図した教育活動を行い,その結果学習者が目標を達成したかどうかを見極める,というものである。したがって教育評価を論じることは教育目標を論じることであり,教育目標を論じることは教育内容の精選を論じることにつながる。このことが著者が最初に強調している本質論である。

 教育内容の精選について著者は,第4章において看護技術及び看護行為の構造を論じ,看護技術を構成する最小単位としての『基本動作』という考え方を紹介している。一見教育評価論議ではないように読めるが,さまざまな看護技術を抽出してそれらを構成する基本動作を整理することが評価内容(教育内容)の精選につながるという主張である。最小単位として何を学んでおけば状況の変化に応じて看護を創造できるのか,すなわち看護実践能力の中核をなす「考えて創り出す」能力育成につながるのかを論じた,著者ならではの切り口だと思う。技術の定義においては多少異なった意見があるかもしれないが,複雑な看護行為を構造化して見せてくれる内容に「なるほど」と読者はきっと合点がいくだろう。

 本質論の2つめは評価方法である。第5章で実に多様な評価方法が具体的に紹介されている。しかも,認知領域・精神運動領域・情意領域の3つの領域ごとに主体的・自主的学びにつながるような評価方法が紹介されている。具体的ではあるが,決して評価のマニュアルではなく,本質論にもとづいた具体例であるゆえに,十分に応用が利く具体例となっている。

 本質論の3つめは「学修」「教授─学修過程」という表記である。なぜ「学習」「教授─学習過程」ではないのだろうか。著者の哲学に裏打ちされて展開される本書の本質論を探る読み手側の切り口にもなる。

 看護学基礎教育課程に学ぶ学生の評価だけでなく,教育課程の評価および学生による授業評価,継続教育の評価にまで言及した守備範囲の広い,しかし,徹底的に教育評価の本質を追究する本書は,看護学教育評価に携わる人々にとって,時代を超える普遍性を持ち合わせた有用な一冊となるだろう。

(『看護教育』2009年12月号掲載)

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