リハビリテーション序説

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リハビリテーション医療に携わるすべての人に向けて書き下ろされた入門書。「概論」「総論」「各論」の三部構成で、リハビリを実施するうえで医療者が心に留めておかなければならない問題や具体的な実践法、疾患や障害の解説にいたるまで、筆者のリハビリテーション医としての豊富な経験を盛り込んで、幅広く紹介する。読みきり可能なサイズでリハビリテーションの世界を一望できるテキスト。
安藤 徳彦
発行 2009年04月判型:B5頁:208
ISBN 978-4-260-00754-2
定価 3,740円 (本体3,400円+税)

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 わが国にリハビリテーション科の医師をはじめ各専門職種が誕生し,それぞれの学術集会も開催されるようになって50年が経過した。この間にリハビリテーション諸分野の専門性と技術水準も非常に高くなり,今では多数の書籍,専門誌が発行されている。時代の推移とともにリハビリテーションの対象疾患は四肢の運動障害から知的機能・内臓器の障害へと拡大し,急性期の救命救急センター,ICU,NICU室から維持期の地域在宅リハビリテーションまで,さらにまた社会の高齢化とともにわれわれの支援内容は広範で多様かつ包括的なものが求められるようになった。それに伴って支援の方法もそれぞれの障害特有の治療技術,接遇方法が必要とされている。一方で,専門職固有の高い知識と技術が求められることから,関心と知識がそれぞれの狭い領域に偏重してしまう傾向も危惧される。また非常に多数の専門職養成校が新設されている状況で,リハビリテーションが本来もっている思想を広く深く身につけてもらう必要性も痛感される。
 そのような状況を見ていると,これまでとは異なる切り口のリハビリテーション概論が必要ではないかと思われた。この領域では,先駆的な思想で多くの読者に感動を与えた上田敏先生の『リハビリテーションを考える』1),砂原茂一先生の深く鋭い思索を基盤にして的確に将来を見通した『リハビリテーション概論』2)と,リハビリテーションの理念を正しく見据えて概念を哲学的な視点から広範に論じた中村隆一先生の『入門リハビリテーション概論』3)がすでに出版されている。それを今さら浅学非才,無知蒙昧をさらけ出すには暴勇が要る。その愚を敢えて犯す理由は,リハビリテーションを志そうとする多くの方たちにリハビリテーションの領域に踏み入って専門知識に触れる前に,理念を踏まえてリハビリテーションの広い範囲の概念を少しでも多く知ってほしいこと,基礎医学や社会学を学ぶ理由をそれに接する前にあらかじめ伝えたいと思うこと,疾患を障害の概念から把握してほしいと願う気持ちなどからである。この目的のために無駄を極力省いて,できるだけ平易な表現で解説を進めるように努力したのであるが,書き上げて読み返してみると硬く読みにくい表現と言い足りていない箇所も随所にみられる。反省してできるだけ書き換え,書き加えはしたが,重大な欠陥をまだ修正しきれていないかもしれない。また,各論でも専門用語の羅列をできるだけ避けたのだが,まだ十分とは言い切れない。もし機会があれば,正したいと思っている。本書に対して,記述の誤りのご指摘やご批判をいただくことができれば望外の幸せである。
 本書の執筆にあたって医学書院の方々,特に入戸野洋一氏には惜しみないご協力を,また横浜市リハビリテーションセンター顧問伊藤利之氏には多くのご示唆を,特に記述が否定的,悲観的に片寄ることに対して肯定的,希望的内容に修正すべきことをご忠告いただいた。意に沿えない箇所が多いことを申し訳なく思いつつ,深甚の謝意を申し上げる。

 2009年2月
 安藤 徳彦


■引用・参考文献
1)上田敏:リハビリテーションを考える.青木書店,1983
2)砂原茂一編:リハビリテーション医学全書 1;リハビリテーション概論.医歯薬出版,1984
3)中村隆一編:入門リハビリテーション概論.第6版増補,医歯薬出版,2007

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 序

I リハビリテーション概論
 1 障害(者)を取り巻く環境の歴史
 2 障害を中心に据えた障害学
 3 リハビリテーションの理念確立の歴史
 4 生活機能分類(ICF)の概念
 5 QOL(Quality of Life)
 6 医学的リハビリテーションにおける倫理
 7 安全の確保
 8 社会保障
 9 教育と職業
 10 地域リハビリテーション

II 医学的リハビリテーション総論
 1 医学的リハビリテーションの意義
 2 評価総論
 3 心身機能の評価
 4 ADLの評価
 5 リハビリテーション治療総論
 6 職種間連携(チームワーク)

III 医学的リハビリテーション各論
 1 脳性麻痺
 2 脳卒中片麻痺
 3 脳外傷
 4 パーキンソン病
 5 脊髄小脳変性症
 6 筋萎縮性側索硬化症(ALS)
 7 進行性筋ジストロフィー
 8 脊髄損傷
 9 関節リウマチ
 10 切断
 11 虚血性心疾患

 索引

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知識や技術を身につける前に,理念を問う
書評者: 大橋 正洋 (神奈川リハビリテーション病院リハビリテーション局長)
 現代は,過去の人類が経験したことのない,重度障害者や高齢障害者の増加に直面している。こうした未曾有の事態へ,われわれはどのように対処すべきなのであろうか。

 この問題には,地域の障害者福祉および行政,医療,教育,産業,政府および国際機関,そして先天性・後天性を問わず障害を持つ当事者と家族など多数の人々が,それぞれの役割と思いを持ちながら取り組んでいる。

 大きなテーマであるから類書も多いが,本書は「リハビリテーション医」の視点から,この問題に切り込んでいる。

 内容に入る前に,安藤先生の立ち位置を紹介しておく。「誰が書いたかよりも,何が書いてあるかのほうが大事」との思いからだろう,中表紙に横浜市立大学リハビリテーション科・前教授とあるだけで,そのほかには一切,安藤先生ご自身の情報を示していない。

 安藤先生は大学卒業後,早い時点でリハビリテーション医となった。1960年代は米国帰りの医師たちによる,リハビリテーション医学の啓発が開始されたばかりであったから,先生は「純日本製・リハビリテーション医」の第1号である。日本リハビリテーション医学会の理事や監事,横浜市立大学教授などの要職を歴任された後,最近は学識経験者として各種委員会に参加され,さらにPTやOT養成校の教壇にも立っておいでである。

 先生がリハビリテーション医を志した当初に比較すると,この領域の知識や技術は格段に進歩し,そして関連職種の人数も著しく増加した。まさに隔世の感がある。しかし,冒頭に記したようにわれわれを取り巻く環境は厳しさを増している。ノウハウ的な技術書が多く出版される中で,障害とは何か,歴史的に障害者が社会の中で体験してきたのはどのようなことであったか,わが国の社会保障はどうなっているのか,リハビリテーション医学の役割は何か,といった原点を確認して,考察結果を世に問いたいとお考えになったのであろう。理念を問うことや,歴史観を含む長期的視点に立って方向性を示唆する勇気は,疎まれがちな風潮がある。この中で,安藤先生の提言は,実は求められていたものである。

 以上から,多種の分野の人々が手にとって良い本である。しかし序文によると著者の本音は,リハビリテーション医学にかかわる初学者に,臨床の場で障害を持つ人を診る前に,本書を通じてリハビリテーションに関する理念を理解してほしい。そういう思いである。例えば医師が,良かれと思って作成する障害者診断書すら,考えてみれば障害者というラベルを貼る作業であり,それを不当と考える人々がいるということ,それを知った上で診断書作成を続けるべきである,と。

 しかし初学者には,本書で理念に触れた後,ぜひ最新の知識・技術も身につけていただきたい。医療の現場では,冒頭に記したように先進的医療を受けた後,図らずも発生した障害に苦しむ人々は数多い。リハビリテーションの志を共有する多職種のスタッフと良いチームワークがあれば,障害を持って地域に戻ることへの不安が軽減され,障害を受け入れて環境に適応する力を取り戻す人々が確実に存在する。正しい理念に,知識と技術が伴えば,自分たちの支援が誰かの役に立つ,そう実感できる。そうした経験を励みとしてリハビリテーション支援を行えるチームを作り,維持すること。それが,今後ますます求められている。
本来あるべきリハビリテーション理念と実際
書評者: 奈良 勲 (神戸学院大教授・理学療法学)
 本書『リハビリテーション序説』(医学書院,2009)は,リハビリテーション専門医および前横浜市立大学医学部リハビリテーション科教授として,長年リハビリテーション医学・医療に貢献されてきた安藤徳彦氏の業績の集大成ともいうべき名著の一つである。

 これまでも「リハビリテーション入門・概論」に関する著書はいくつか出版されている。しかし,単著としての本書には,安藤氏自身の実践的臨床・教育・研究活動を通じて実感され,思索してこられたもろもろの課題に関して,時には鋭く,そして全体的には親身なスタンスで言及されており,これまでの安藤氏の真摯な足跡が随所に記述されている。

 さらに,世界的視点に立ち,障害のある人々が社会の中でいかに捉えられてきたかとの内省を含め,過去・現在・未来の時空間を踏まえて,本来あるべきリハビリテーション理念と実際とについてバランスよくまとめておられる。単著として一冊の著書を仕上げることの苦労を体験している者の1人として,そのご苦労に心より敬意を表したい。

 本書の大枠は,「I リハビリテーション概論」「II 医学的リハビリテーション総論」「III 医学的リハビリテーション各論」からなる。それぞれの大枠は,リハビリテーションの神髄を一望するために欠かせない細部にわたる項目から構成されている。

 よって,本書は,医師や関連職種としてリハビリテーション医学・医療を志向する初学者はもとより,既に保健・医療・福祉現場をはじめ,教育・研究,さらに行政職として活躍してこられた方々にとっても,今後の課題を展望し,実践していく上で大きな示唆を与えるものと確信する。

 しかし,文中に「訓練」という用語が多用されていることが気に掛かる。安藤氏とは『PTジャーナル』(医学書院)の編集委員として,十数年ほど一緒に仕事をさせていただいた。ジャーナルの企画内容をはじめ,投稿論文の査読についても,たいへん厳格でありながら,温かみとユーモアのあるパーソナリティに,リハビリテーション専門医としての深みを感じていたことが想起される。これは,医師だけに限らず,関連職への情熱と期待が込められていたためと思える。

 その過程で,PTジャーナル編集室では行政用語としての「機能訓練事業」「職業訓練」などを除き,原則として「訓練」という用語の使用を自粛する方針で編集してきた。「訓練」という概念は,戦前・戦中の日本における軍国主義を反映して,上位から下位の者に対する規範を強要する印象が強いこと。馬や犬などの訓練・調教やテロリストの訓練などと使用され,リハビリテーションの理念と相反するからである。

 専門および俗称の用語の問題は,教育・実践現場での刷り込みの要素もある。初学者が手にする『リハビリテーション序説』としての影響力は大きいだけに,こうした用語に関しては慎重であってほしかった。

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