ギア・チェンジ
緩和医療を学ぶ二十一会

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避けられない死を目の前にした患者に必要な医療とケアは,それまで受けてきたものとは異なり,車の速度に合わせてギアを入れかえるように,切り換えが求められる。本書は,死にゆく患者に対応するすべての医師と医療スタッフに向けて,患者が人生最後の日々を迎えたときの対応を学ぶ一期一会を,21の教訓的な症例をもとに解説する。
シリーズ 総合診療ブックス
編集 池永 昌之 / 木澤 義之
発行 2004年06月判型:A5頁:232
ISBN 978-4-260-12723-3
定価 4,070円 (本体3,700円+税)
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  • 目次
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第一会 重症患者と生の終わりについて話し合いを始める
第二会 緩和中心の医療への移り変わりをサポートするとき
第三会 Whole Patient Assessment
第四会 治癒できない癌を伝えるとき
第五会 患者に残りの時間を伝えるとき
第六会 治癒できない癌の患者を持つ家族のサポート
第七会 ホスピス・緩和ケア病棟への紹介をいつ,どのように行うか
第八会 アドバンス・ケア・プランニング
第九会 代行意思決定と法的問題
第十会 患者および家族がセカンド・オピニオンを望むとき
第十一会 患者および家族が代替医療を望むとき
第十二会 患者が医学的に根拠のない治療を望むとき
第十三会 本人と家族の療養に対する希望が異なるとき
第十四会 進行癌患者に「死にたい」と言われたとき
第十五会 在宅での看取りをどのように家族と相談するか
第十六会 緩和ケアチームの役割
第十七会 進行癌患者のサイコオンコロジー
第十八会 緩和的放射線治療
第十九会 救急医療においてCPR(心肺蘇生)の中止を
     家族にどのように伝えるか
第二十会 救急医療におけるキュアからケアへの移行
第二十一会 緩やかなギア・チェンジを求めて
索引
付録(ラミネートカード) 悪い知らせをいかに伝えるか SPIKES

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患者が人生最期の日を迎える時のケアガイド
書評者: 馬場 玲子 (筑波大病院看護部)
◆死にゆく患者に対応するすべての医療者に

 この本を読み進めていくなかで著者の方々の,死にゆく患者へのコミュニケーション・ケアリングの実際にどんどん引き込まれていった。「編集のことば」のなかで,本書は緩和医療の専門医だけでなく,プライマリ・ケアの現場から救急病院や老人施設まで,死にゆく患者に対応するすべての医師と医療スタッフを対象としていると述べられている。内容は「重症患者と生の終わりについて話し合いを始める」「進行がん患者に『死にたい』と言われたとき」「救急医療においてCPR(心肺蘇生)の中止を家族にどのように伝えるか」などの21の症例からなり,各項目ともにコミュニケーションのエッセンスが凝縮された内容となっている。

◆看護者の悩みにも対応

 日々の臨床実践で出会う対応困難な場面で看護者がどのような態度やコミュニケーションのスキルを活用したらよいのか幅広い示唆を与えてくれる1冊である。患者,家族と共に過ごす時間が多い看護者の悩みに対応すべく,「返答に困る質問に答える」「とれない痛みにどう付き添っていくか」「看取りの時の言葉かけ」などの具体的な点にも触れられておりプロセスに寄り添うケアの実践のために役立つ内容が多く盛り込まれている。

 私たちは死にゆく患者から,決して避けて通ることができない人生の終末期,死について多くのことを日々学ばされる。これらの教訓が経験豊富な筆者らの手によって形となったこの1冊を1人でも多くの方々にぜひ読んでいただき,患者が人生最後の日々を迎える時のケアガイドとして活用することをお勧めしたい。

ギア・チェンジ―キュアからケアへの方向指示器としての1冊
書評者: 川畑 雅照 (虎の門病院 医学教育部)
◆日々の医療現場では試行錯誤で対応されている緩和医療

 ギア・チェンジ―緩和医療に直接携わるものでなければ,医療現場で聞くに少し耳慣れない感情を抱くかも知れない。ここでいうギア・チェンジとは,西洋医学による集学的な癌治療から緩和ケア中心の医療・ケアへ転換することである。

 疾患の良性・悪性の如何を問わず,すべての病んだ人々を治癒させることはできない。そして,治癒が不可能となり死に至ることが明確となった際,積極的な治療法から緩和的な治療へ切り替えていかねばならない。治癒をめざす医療においては,ガイドラインばやりの昨今,標準化やマニュアル化が進んでいる。一方,緩和医療の世界でも,モルヒネの使用法やコミュニケーション技法の書籍についても枚挙に暇がない。しかし,どうやって積極的な治癒をめざす医療から緩和ケアを中心とした医療に切り替えていくか? 治癒を願ってつらい手術や化学療法に耐えてきた患者さんに,これ以上積極的な治療ができなくなったとき,どんな言葉をかけてあげたらいいのか? 多くの教科書には,ほとんどページが割かれておらず,日々の医療現場では医療従事者と患者さんや家族が大きなストレスを感じながら試行錯誤で対応しているのが現状ではなかろうか。

◆看取りにかかわるすべての医療者に

 ギア・チェンジ―いかにスムーズにキュアからケアへシフトチェンジさせていけばいいのか? 本書では,タイトルの「二十一会」にあるように,21の緩和医療の現場における患者さんとの出会いを通して,21人の新進気鋭の若手の実践家たちが,その真髄を熱く語っている。ともすれば,困惑しがちなギア・チェンジの場面で,方向指示器となる数少ないガイドブックと言えよう。看取りにかかわるすべての医療従事者にとって,一読すれば必ず参考になる1冊である。

 本書は,プライマリ・ケア医のみならず,研修医,専門医そしてコメディカルにも好評を博している総合診療ブックスの1冊である。これまでにない切り口で,われわれが困っていたすき間の部分にスポットライトをあててきた本シリーズの真骨頂ともいえる1冊である。このシリーズは21世紀を迎え「はじめよう在宅医療21」「総合外来初診の心得21か条」「糖尿病外来アップグレード21原則」など21シリーズで良書を世に送り出してきた。次はどんな“21”で来るのかと期待していたところ,この内容と「二十一会」にはまったく感服した。そして,実は21冊目となる次の総合診療ブックスの“21”も楽しみにしたい。

がん診療に携わるすべての医療者に必要なキーワード
書評者: 平方 眞 (諏訪中央病院内科)
◆すべての医療者が常識として知っておくべき概念

 現状では,医療の世界で「ギア・チェンジ」という言葉を聞いたことのある人は多くないと思う。しかしこの概念は,すべての医療者が常識として知っておくべきである。本書の副題は「緩和医療を学ぶ二十一会」となっているが,がん診療に携わるすべての医療者に一度は読んで欲しい内容となっている。

 ギア・チェンジとは,病状が変化してそれまでの治療方針のままで進むことが適切でない時や,認識のずれが問題になった時に,車のギア・チェンジをするように,適切なギアに切り替えていくためのコミュニケ―ションである。

 本書は厳選された執筆者と症例によって,ギア・チェンジの必要性とそのポイントがはっきりと認識でき,身に付く構成となっている。日常よく直面する問題が網羅されていると同時に,ギア・チェンジの難しい症例も複数含まれており,日々の診療にすぐに役立つ記述が目立つ。

 車はオートマ車ばかりになったが,がんで治ることが望めなくなった場合は,オートマで走り続けてはいけない。医療者が中心になって,適切なギア・チェンジをお膳立てしていく必要がある。適切なギア・チェンジは医療に対する信頼を,大きく高めてくれる。

◆ギア・チェンジをせずに命が終わるのは不幸なこと

 ギア・チェンジは,その必要があればいつでも行われるべきであり,日本の現状から考えると緩和医療を受けはじめてからギア・チェンジをしたのでは遅すぎる場合が多い。その意味からも,がん診療に携わるすべての医療者に必要なキーワードとして認識されるべきであろう。

 ギア・チェンジには治らない見込みを告げるなど,重大な事項が含まれることが多いが,現状ではその認識は不十分である。逃げてしまって問題意識すら感じていないがん治療医は少なくないと思われる。しかし,ギア・チェンジをまったくしないで命が終わってしまうことは不幸なことであると,本書を読めば実感していただけるものと思う。

 命に直面する問題を抱えたことで必要になるコミュニケーションのポイントと手法を学ぶには絶好の書である。

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