医療現場の暴力と攻撃性に向き合う
考え方から対処まで
医療現場で起こる暴力と正面から向き合うために
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これまでほとんど正面から語られてこなかった暴力の問題。本書では、暴力や攻撃性に関する理論的な説明をもとに、対策のための具体的なポイントを幅広く紹介する。暴力問題に関連する理論や定義に加え、病院内でのマネジメント上の注意点や、いち早く対策が進んだ英国での取り組みなども紹介。「どう取り組んだらいいのか?」を知るために最適な1冊。
監訳 | 池田 明子 / 出口 禎子 |
---|---|
著 | Paul Linsley |
発行 | 2010年02月判型:A5頁:256 |
ISBN | 978-4-260-00811-2 |
定価 | 2,860円 (本体2,600円+税) |
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序文
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監訳者まえがき(池田 明子)/推薦の序(Dame June Clark )/序(Paul Linsley)
監訳者まえがき
看護職はこれまで長い間,患者の暴力に対して無防備な状態におかれていた。患者から暴力を受けても,「自分の対応が悪かったから」,「自分の看護が未熟だから」などと個人的な問題として受け止めがちであり,患者の暴力に対する組織的な取り組みもほとんど行われてこなかった。全日本病院協会(2008)の院内リスク管理体制に関する実態調査によれば,院内暴力の対象となった職員の約90%が看護職であり,被害を受けた職員に対してなんらかの支援を行っている病院は半数にも満たないのが現状であった。
こうした問題状況を改善するために,日本看護協会(2006)は『保健福祉医療施設における暴力対策指針─看護職のために─』を発行した。そこには暴力に関する基礎知識,リスクマネジメントのプロセス,具体的な対応策などが盛り込まれており,職場の暴力に対する組織的な取り組みを推進し,安全な看護サービスを提供することをねらいとしている。
本書は2006年に英国で出版された“Violence and Aggression in the Workplace”の全訳である。著者のポール=リンズレーは急性期精神保健看護のスペシャリストであり,著者の豊富な臨床経験や看護アドバイザーとしての多岐にわたる活動に裏付けられた本書は,初心者向けの手引書としても活用することができる。
本書の構成は,まず第1章では,暴力と攻撃の定義からはじまり,保健医療の現場における暴力と攻撃が職員に及ぼす影響とその範囲について述べ,次いで第2章では,暴力や攻撃について考える上で重要な生物学的理論,心理社会学的理論,認知理論などが紹介されている。第3章では,暴力のリスクを軽減し防止するための方策として,リスクマネジメント,予防活動などを解説している。
第4章,「攻撃的なインシデントの管理」では,暴力のリスクを認知し,警告の手がかりを見極める方法,攻撃的な人物への対応などの具体例が示されている。例えば,暴力に「どう対応するか」をとっさに判断できないときは,まずは危険から遠ざかる,つまり「その場から逃げる」というような現実的な対処法である。また,スタッフの言動が思わぬ患者の暴力の引き金となる例として,「侵入」という感覚をとりあげている。突然,なんの説明もなく身体的ケアを始める場合,患者側からすれば突然「侵入」された感覚になり,脅かされたと感じて暴力行動に至ることもあるなど,示唆に富んだ事例である。
第5章の「スタッフサポート」では,職場の暴力は直接暴力の対象となった人だけでなく,それを目撃した人々にまで影響が及ぶため,組織的なサポートシステムが必要であることが述べられている。また,デブリーフィングなど暴力を受けた人への直接的なサポートやコーピング方法から,クリニカルスーパービジョン,スタッフ教育など,幅広いプログラムが紹介されている。こうした英国での実例は,わが国の今後のサポートシステムづくりの参考になるところが多いのではないか思われる。
最後に「特に考慮すべき事項」として,第6章で「地域におけるケア」,第7章で「ジェンダー」,第8章で「法的問題」が取り上げられている。特に「ジェンダー」は家庭内暴力(DV)との関連で重視されている問題であり,この章は,メンタルヘルスおよびジェンダー理論の専門家であるジュリー=ディクスンが執筆している。また「法的問題」は,日本とは異なる英国の保健医療福祉関係の法制度について理解を深めることができる。例えば,1999年から全国的に展開されているゼロ・トレランス運動(職員は患者の暴力を容認すべきではない,暴力的な患者のケアは拒否できる,という考え方)などは,英国政府主導の組織的な取り組みとして示唆に富んだものである。
本書が患者の暴力に対する看護者の意識を高め,看護者の安全が守られる健全な職場づくりに少しでも役立つことができれば幸いである。
2010年1月
池田 明子
推薦の序
そのことが初めて起きたとき,私はただ呆然としていました。それはあまりにも期待を裏切るものだったからです。私は新米のヘルスビジター(訪問看護師)で,「立派」な中流階級の地域で働いていました。ある月曜日の朝,新生児のいる「立派」な家庭を訪問したときのことです。このとき夢にも思っていなかったのですが,こぎれいな衣服をまとったその家の父親から,面と向かって非難されたのです。「ヘルスビジターというのは,なんと鬱陶しい政府のスパイなんだ! 公務員なんて,国の財政にたかる下劣な寄生虫だ!」というのが彼の言い分でした。私は身体的に傷ついたわけではありませんが,完全に縮みあがってしまいました。このできごとは,その後の私のヘルスビジターとしての実践活動にかなり長い間,影響を与え続けました。
そうして今,私はこの本を読んでとてもうれしく思っています。みなさんにも,本書をおすすめします。当時は,暴力や攻撃が予測されるのは,急性の精神科病棟や大都会の救急部門などで働いている人たち,あるいは「怖い」地域のコミュニティ・ナースなどに限られていました。しかし近頃は,いつでも,どこでも,どの専門職でも,そうしたことが起こりうるようになっています。だから私たちはみな,ボーイスカウトのように「備えよ,常に」をモットーにする必要があるのです。
この本は,ポケットなどに入れて持ち運び,緊急時にさっと取り出すようなものではありません。むしろすべての専門職が,まずは訓練期間に読むべきであり,そして継続教育や現任教育の期間にも活用し,手近な参考書として持っておくべき本です。さらにこの本は,後になってから読んでみても,「なにが起こったのか? なぜ起こったのか?」について,自分自身の理解を深めて整理するのに役立つことでしょう。
ウェールズ・スウォンジー大学名誉教授
Dame June Clark DBE PhD RN RHV FRCN
2006年5月
序
この本は,患者や家族と接触するすべてのスタッフ(苦情処理担当のスタッフを含む)を対象としている。これまでに国民保健機関(NHS)などの組織で行われてきた,スタッフを暴力や攻撃の危険から守るための良い実践を検討しながら企画したものである。
内容は,できるだけ理解しやすくすることを目指しているが,多様な職場環境に生じる個別具体的な事情に沿うようにはなっていない。したがって,本書は参考図書および一般的な指針として活用した方がよいだろう。特定の介入方法や手順については,それぞれの職場で提示されるであろうし,インシデントが発生した際にはそれらを忠実に実行すべきである。
著者は,犠牲者という言葉を用いないように強く心がけている。この言葉はどこか救いのなさ,無力さを感じさせる。そこで代わりに標的という言葉に置き換えたい。この言葉は,個々人が攻撃を受けた過程のなかで自分自身の役割を見出すのに適切な表現である。ぜひ読者にも,この語を用いるようお願いしたい。
各章には,さまざまな種類の情報や活動が数多く盛り込まれており,それが本書の特徴となっている。またさらに,それぞれのトピックをめぐる思考や理解を組織化するのに役立つような,キーワードやコンセプトも含まれている。
Paul Linsley
2006年5月
監訳者まえがき
看護職はこれまで長い間,患者の暴力に対して無防備な状態におかれていた。患者から暴力を受けても,「自分の対応が悪かったから」,「自分の看護が未熟だから」などと個人的な問題として受け止めがちであり,患者の暴力に対する組織的な取り組みもほとんど行われてこなかった。全日本病院協会(2008)の院内リスク管理体制に関する実態調査によれば,院内暴力の対象となった職員の約90%が看護職であり,被害を受けた職員に対してなんらかの支援を行っている病院は半数にも満たないのが現状であった。
こうした問題状況を改善するために,日本看護協会(2006)は『保健福祉医療施設における暴力対策指針─看護職のために─』を発行した。そこには暴力に関する基礎知識,リスクマネジメントのプロセス,具体的な対応策などが盛り込まれており,職場の暴力に対する組織的な取り組みを推進し,安全な看護サービスを提供することをねらいとしている。
本書は2006年に英国で出版された“Violence and Aggression in the Workplace”の全訳である。著者のポール=リンズレーは急性期精神保健看護のスペシャリストであり,著者の豊富な臨床経験や看護アドバイザーとしての多岐にわたる活動に裏付けられた本書は,初心者向けの手引書としても活用することができる。
本書の構成は,まず第1章では,暴力と攻撃の定義からはじまり,保健医療の現場における暴力と攻撃が職員に及ぼす影響とその範囲について述べ,次いで第2章では,暴力や攻撃について考える上で重要な生物学的理論,心理社会学的理論,認知理論などが紹介されている。第3章では,暴力のリスクを軽減し防止するための方策として,リスクマネジメント,予防活動などを解説している。
第4章,「攻撃的なインシデントの管理」では,暴力のリスクを認知し,警告の手がかりを見極める方法,攻撃的な人物への対応などの具体例が示されている。例えば,暴力に「どう対応するか」をとっさに判断できないときは,まずは危険から遠ざかる,つまり「その場から逃げる」というような現実的な対処法である。また,スタッフの言動が思わぬ患者の暴力の引き金となる例として,「侵入」という感覚をとりあげている。突然,なんの説明もなく身体的ケアを始める場合,患者側からすれば突然「侵入」された感覚になり,脅かされたと感じて暴力行動に至ることもあるなど,示唆に富んだ事例である。
第5章の「スタッフサポート」では,職場の暴力は直接暴力の対象となった人だけでなく,それを目撃した人々にまで影響が及ぶため,組織的なサポートシステムが必要であることが述べられている。また,デブリーフィングなど暴力を受けた人への直接的なサポートやコーピング方法から,クリニカルスーパービジョン,スタッフ教育など,幅広いプログラムが紹介されている。こうした英国での実例は,わが国の今後のサポートシステムづくりの参考になるところが多いのではないか思われる。
最後に「特に考慮すべき事項」として,第6章で「地域におけるケア」,第7章で「ジェンダー」,第8章で「法的問題」が取り上げられている。特に「ジェンダー」は家庭内暴力(DV)との関連で重視されている問題であり,この章は,メンタルヘルスおよびジェンダー理論の専門家であるジュリー=ディクスンが執筆している。また「法的問題」は,日本とは異なる英国の保健医療福祉関係の法制度について理解を深めることができる。例えば,1999年から全国的に展開されているゼロ・トレランス運動(職員は患者の暴力を容認すべきではない,暴力的な患者のケアは拒否できる,という考え方)などは,英国政府主導の組織的な取り組みとして示唆に富んだものである。
本書が患者の暴力に対する看護者の意識を高め,看護者の安全が守られる健全な職場づくりに少しでも役立つことができれば幸いである。
2010年1月
池田 明子
推薦の序
そのことが初めて起きたとき,私はただ呆然としていました。それはあまりにも期待を裏切るものだったからです。私は新米のヘルスビジター(訪問看護師)で,「立派」な中流階級の地域で働いていました。ある月曜日の朝,新生児のいる「立派」な家庭を訪問したときのことです。このとき夢にも思っていなかったのですが,こぎれいな衣服をまとったその家の父親から,面と向かって非難されたのです。「ヘルスビジターというのは,なんと鬱陶しい政府のスパイなんだ! 公務員なんて,国の財政にたかる下劣な寄生虫だ!」というのが彼の言い分でした。私は身体的に傷ついたわけではありませんが,完全に縮みあがってしまいました。このできごとは,その後の私のヘルスビジターとしての実践活動にかなり長い間,影響を与え続けました。
そうして今,私はこの本を読んでとてもうれしく思っています。みなさんにも,本書をおすすめします。当時は,暴力や攻撃が予測されるのは,急性の精神科病棟や大都会の救急部門などで働いている人たち,あるいは「怖い」地域のコミュニティ・ナースなどに限られていました。しかし近頃は,いつでも,どこでも,どの専門職でも,そうしたことが起こりうるようになっています。だから私たちはみな,ボーイスカウトのように「備えよ,常に」をモットーにする必要があるのです。
この本は,ポケットなどに入れて持ち運び,緊急時にさっと取り出すようなものではありません。むしろすべての専門職が,まずは訓練期間に読むべきであり,そして継続教育や現任教育の期間にも活用し,手近な参考書として持っておくべき本です。さらにこの本は,後になってから読んでみても,「なにが起こったのか? なぜ起こったのか?」について,自分自身の理解を深めて整理するのに役立つことでしょう。
ウェールズ・スウォンジー大学名誉教授
Dame June Clark DBE PhD RN RHV FRCN
2006年5月
序
この本は,患者や家族と接触するすべてのスタッフ(苦情処理担当のスタッフを含む)を対象としている。これまでに国民保健機関(NHS)などの組織で行われてきた,スタッフを暴力や攻撃の危険から守るための良い実践を検討しながら企画したものである。
内容は,できるだけ理解しやすくすることを目指しているが,多様な職場環境に生じる個別具体的な事情に沿うようにはなっていない。したがって,本書は参考図書および一般的な指針として活用した方がよいだろう。特定の介入方法や手順については,それぞれの職場で提示されるであろうし,インシデントが発生した際にはそれらを忠実に実行すべきである。
著者は,犠牲者という言葉を用いないように強く心がけている。この言葉はどこか救いのなさ,無力さを感じさせる。そこで代わりに標的という言葉に置き換えたい。この言葉は,個々人が攻撃を受けた過程のなかで自分自身の役割を見出すのに適切な表現である。ぜひ読者にも,この語を用いるようお願いしたい。
各章には,さまざまな種類の情報や活動が数多く盛り込まれており,それが本書の特徴となっている。またさらに,それぞれのトピックをめぐる思考や理解を組織化するのに役立つような,キーワードやコンセプトも含まれている。
Paul Linsley
2006年5月
目次
開く
第1章 暴力と攻撃
はじめに/暴力と攻撃の定義/攻撃のもつ多様な形態/
攻撃者の分類/ヘルスケアにおける攻撃的行為/
ヘルスケアの現場における暴力と攻撃の発生状況/
暴力と攻撃がスタッフに与える影響/影響を与える要因
第2章 攻撃に関する諸理論
はじめに/攻撃に関する生物学的理論/攻撃に関する心理社会的理論/
認知理論/敵意的攻撃と道具的攻撃/怒りの役割
第3章 暴力と攻撃の管理:リスクの軽減と防止
暴力と攻撃への対処/業務上の安全システム/監査/スタッフとの相談/
個人のリスクアセスメントに焦点を当てる/リスクマネジメント/
予防/報告/環境因子/効果的なチームワーク/保護的な業務管理システム
第4章 攻撃的なインシデントの管理
暴力のリスクへの認識/切迫した攻撃の警告となる手がかりの認識/
即座の対応/攻撃的なインシデントの阻止:攻撃のサイクル/介入/
攻撃的な人への対応/攻撃的な人と話す:非言語的コミュニケーション/
境界/ボディゾーン/侵入/面接/攻撃的な人へのさらなる対応
第5章 スタッフサポート
インシデント後のサポート/コーピングの方法/暴力と攻撃への対応/
攻撃を受けた後のフォロー/クリニカルスーパービジョン/
ストレスと心理的バーンアウト/スタッフサポート:開発と教育
第6章 特に考慮すべきこと:地域におけるケア
地域における業務/「バディシステム」の活用/携帯電話の活用/
携帯アラーム/車での訪問/クライアントの移送/個人宅への訪問/
動物/組織的な要因/家庭訪問(よい実践例)
第7章 特に考慮すべきこと:ジェンダー,暴力,健康,ヘルスケア
はじめに/一般的な事実と概観/氏か育ちか/
フェミニズム,男性性,権力/暴力と虐待/行動の指針/女性の健康/
子どもの健康/「男性主流」サービス/ヘルスケアの現場における暴力/
訓練と発展/結論
第8章 特に考慮すべきこと:法的問題
はじめに/法令/刑法/判例法または慣習法/民法/起訴/
裁判所/過失/自己防衛/患者または個人の拘束/治安妨害/
1975年 性差別法および1976年 人種関連法/1986年 公共秩序法/
1997年 ハラスメント防止法/安全衛生に関する法令/ゼロ・トレランス/
2005年 精神能力法/1998年 犯罪および秩序違反法
索引
はじめに/暴力と攻撃の定義/攻撃のもつ多様な形態/
攻撃者の分類/ヘルスケアにおける攻撃的行為/
ヘルスケアの現場における暴力と攻撃の発生状況/
暴力と攻撃がスタッフに与える影響/影響を与える要因
第2章 攻撃に関する諸理論
はじめに/攻撃に関する生物学的理論/攻撃に関する心理社会的理論/
認知理論/敵意的攻撃と道具的攻撃/怒りの役割
第3章 暴力と攻撃の管理:リスクの軽減と防止
暴力と攻撃への対処/業務上の安全システム/監査/スタッフとの相談/
個人のリスクアセスメントに焦点を当てる/リスクマネジメント/
予防/報告/環境因子/効果的なチームワーク/保護的な業務管理システム
第4章 攻撃的なインシデントの管理
暴力のリスクへの認識/切迫した攻撃の警告となる手がかりの認識/
即座の対応/攻撃的なインシデントの阻止:攻撃のサイクル/介入/
攻撃的な人への対応/攻撃的な人と話す:非言語的コミュニケーション/
境界/ボディゾーン/侵入/面接/攻撃的な人へのさらなる対応
第5章 スタッフサポート
インシデント後のサポート/コーピングの方法/暴力と攻撃への対応/
攻撃を受けた後のフォロー/クリニカルスーパービジョン/
ストレスと心理的バーンアウト/スタッフサポート:開発と教育
第6章 特に考慮すべきこと:地域におけるケア
地域における業務/「バディシステム」の活用/携帯電話の活用/
携帯アラーム/車での訪問/クライアントの移送/個人宅への訪問/
動物/組織的な要因/家庭訪問(よい実践例)
第7章 特に考慮すべきこと:ジェンダー,暴力,健康,ヘルスケア
はじめに/一般的な事実と概観/氏か育ちか/
フェミニズム,男性性,権力/暴力と虐待/行動の指針/女性の健康/
子どもの健康/「男性主流」サービス/ヘルスケアの現場における暴力/
訓練と発展/結論
第8章 特に考慮すべきこと:法的問題
はじめに/法令/刑法/判例法または慣習法/民法/起訴/
裁判所/過失/自己防衛/患者または個人の拘束/治安妨害/
1975年 性差別法および1976年 人種関連法/1986年 公共秩序法/
1997年 ハラスメント防止法/安全衛生に関する法令/ゼロ・トレランス/
2005年 精神能力法/1998年 犯罪および秩序違反法
索引
書評
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いますぐ現場で役立つヘルスケアスタッフのための「暴力対策の教科書」 (雑誌『看護教育』より)
書評者: 友田 尋子 (甲南女子大学看護リハビリテーション学部教授)
医療現場の暴力と攻撃は,被害を受ける対象者が多種で,暴力と攻撃内容も加害者の数だけ存在し,被害はさまざまに深刻である。しかしこの問題は昔からあって新しいことではない。だが,語られてこなかった。なぜかを問うことさえ封印されてきた。
本書は,このテーマについてまず冒頭で警告し,「適切な介入がなされることで暴力と攻撃の多くは予防することも可能であり,被害を最小限にとどめることができる」としている。暴力についての定義を多角的多面的に捉えまとめており,読者が“暴力”の理解を深め整理することのできる内容であり,その技法は圧巻である。ただ本書の依拠する暴力定義が明文化されていないことから,その難しさを改めて知ることができる。
本書の優れた特徴は,暴力と攻撃に対する予防と被害を受けた場合最小限にするためのその内容についてである。内容が具体的であり,かゆいところに手が届くほどに詳細である。
例えば,『個人のリスクアセスメントに焦点を当てる』はそのまま別ファイルにして持ち運べそうだ。私は大学で学生の臨床実習開始前の実習オリエンテーション時に「患者等からの暴力」についての講義を担当しているが,実習期間中に被害に遭う学生を目の当たりにし教員が困ったという相談も少なくない。教員も必見の内容なのである。
ここで要望がある。1つは─膨大な翻訳であったことが窺い知れるが─できることなら時々によって必要箇所が違ってくるため,レイアウトや改頁等の工夫でさらに見やすくできないかと,贅沢な思いが浮かんだ。2つは,全翻訳であることに意味はあるが,できれば付録として私たちが活用できる日本の法律等が掲載されているとより活用しやすく,この問題が他国のことと思われないのではないか。
注目はさらに続く。本書の対象はヘルスケアスタッフとしつつ,看護師を意識している。その理由に患者の身近な存在であることや直接的ケアの頻繁さ等をあげながら,控えめだが第7章でジェンダーパフォーマンスを強調している。私も『看護職が体験する患者からの暴力』(日本看護協会出版会)を執筆している。ジェンダーについては編集過程で多くの削除を余儀なくされたが,本書はこの点を恐れず,ぶれていない。女性の職業の代表であった看護職に与えられた地位や役割は,女性の比率の高い職業の社会的地位の低さと性役割意識の高い男性優位社会の中で人間性を顧みられることの少ないお世話をする人とされていることを根底に,看護職への暴力と攻撃は隠蔽され増加するだけであることを明文化している。看護職に勇気を与える内容が本書の28頁で凝縮されていた。
(『看護教育』2010年10月号掲載)
書評者: 友田 尋子 (甲南女子大学看護リハビリテーション学部教授)
医療現場の暴力と攻撃は,被害を受ける対象者が多種で,暴力と攻撃内容も加害者の数だけ存在し,被害はさまざまに深刻である。しかしこの問題は昔からあって新しいことではない。だが,語られてこなかった。なぜかを問うことさえ封印されてきた。
本書は,このテーマについてまず冒頭で警告し,「適切な介入がなされることで暴力と攻撃の多くは予防することも可能であり,被害を最小限にとどめることができる」としている。暴力についての定義を多角的多面的に捉えまとめており,読者が“暴力”の理解を深め整理することのできる内容であり,その技法は圧巻である。ただ本書の依拠する暴力定義が明文化されていないことから,その難しさを改めて知ることができる。
本書の優れた特徴は,暴力と攻撃に対する予防と被害を受けた場合最小限にするためのその内容についてである。内容が具体的であり,かゆいところに手が届くほどに詳細である。
例えば,『個人のリスクアセスメントに焦点を当てる』はそのまま別ファイルにして持ち運べそうだ。私は大学で学生の臨床実習開始前の実習オリエンテーション時に「患者等からの暴力」についての講義を担当しているが,実習期間中に被害に遭う学生を目の当たりにし教員が困ったという相談も少なくない。教員も必見の内容なのである。
ここで要望がある。1つは─膨大な翻訳であったことが窺い知れるが─できることなら時々によって必要箇所が違ってくるため,レイアウトや改頁等の工夫でさらに見やすくできないかと,贅沢な思いが浮かんだ。2つは,全翻訳であることに意味はあるが,できれば付録として私たちが活用できる日本の法律等が掲載されているとより活用しやすく,この問題が他国のことと思われないのではないか。
注目はさらに続く。本書の対象はヘルスケアスタッフとしつつ,看護師を意識している。その理由に患者の身近な存在であることや直接的ケアの頻繁さ等をあげながら,控えめだが第7章でジェンダーパフォーマンスを強調している。私も『看護職が体験する患者からの暴力』(日本看護協会出版会)を執筆している。ジェンダーについては編集過程で多くの削除を余儀なくされたが,本書はこの点を恐れず,ぶれていない。女性の職業の代表であった看護職に与えられた地位や役割は,女性の比率の高い職業の社会的地位の低さと性役割意識の高い男性優位社会の中で人間性を顧みられることの少ないお世話をする人とされていることを根底に,看護職への暴力と攻撃は隠蔽され増加するだけであることを明文化している。看護職に勇気を与える内容が本書の28頁で凝縮されていた。
(『看護教育』2010年10月号掲載)
更新情報
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更新情報はありません。
お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。