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心臓病の診かた・聴きかた・話しかた
症例で学ぶ診断へのアプローチ

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本書は、日常よく遭遇する心臓病の診察・診断法について、左ページに症例とそれに関する対話、右ページに図表や基礎知識という構成でわかりやすくまとめた。対話では、医学部4年生、5年生、6年生、研修医1年目、2年目というさまざまなレベルに応じた質問を入れ、「どんな質問をすればいいのか」「何を確認するべきなのか」といった診療のポイントや診断への思考過程がみえてくる。
高階 經和
発行 2008年07月判型:B5頁:232
ISBN 978-4-260-00546-3
定価 5,280円 (本体4,800円+税)

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はじめに

 『心臓病へのアプローチ』の初版が出版されたのは,今から40年前の1968年です.その2年後に福岡で第1回日本リウマチ学会が開催され,招待演者として招かれたのが,心電図で有名なWPW症候群(Wolff-Parkinson-White syndrome)の発見者の一人であったポール・D・ホワイト先生(Dr. Paul D. White)でした.私はホワイト先生の通訳をしました(本書77ページ参照).先生は「バイコロジー」(自転車の運動生理学)の提唱者としても有名でした.帰国されたホワイト先生に『心臓病へのアプローチ』を1冊,記念にお贈りしたところ,先生から「大変すばらしい心臓病理解のためのアプローチの本だと思います」と丁重な礼状をいただき,その手紙は私にとって記念すべき書簡となりました.
 『心臓病へのアプローチ』は今日まで改訂第4版を重ね,またアプローチ・シリーズが医学書院の異色のシリーズとなり,多くの読者の方々に愛読していただきました.私は多忙に紛れ十数年,この本を改訂する機会を失っていましたが,6年前に医学書院の七尾清常務取締役から「新しい切り口でこのアプローチを書き直してはどうでしょうか?」との依頼を受けました.
 皆さまもご承知の通り,20世紀後半の臨床医学はハイテク技術の導入により,その進歩は目をみはるものがあります.しかし,それと同時に多くの医師がハイテク技術に依存するあまり,臨床の基本である医療面接や,身体所見を把握する診察手技を軽視したり,また無視する傾向があります.この傾向は世界的にみられる現象です.チュレーン大学医学部時代の私の恩師ジョージ・E・バーチ教授(Prof. George E. Burch)の言葉に「医学の歴史は過ちの歴史である」という言葉があります.ヒポクラテスの時代から医学は過ちを繰り返し,それを乗り越えて今日の医学が築き上げられたのです.
 本書の特徴は,私の臨床心臓病学に対する考え方を,「5人のメディック(medic:医学生や,若い医師たちのこと)」と称する医学生や研修医との対話を通して,具体的に紹介したところにあります。彼らは,私が講義などで接する学生さんや研修医の方々からヒントを得てつくりあげた,架空の人物です。本書はいわゆる心臓病学の教科書ではありません.しかし,心臓病患者へのアプローチから始まり,各疾患に対する診断の方法や,マネジメントについて,私と「5人のメディック」がディスカッションを展開しています.症例ごとに話が完結するように構成してありますので,読者の方々は本書のどこから読んでいただいても結構です.もう一つの特徴は偶数ページが本文で,奇数ページがそれを補充する役割を果たしていることです.
 臨床の現場では全く予期しないことが起こります.皆さんには,本書を読み進むうちに,彼らの会話の中に入って,「自分はそう思わない」,「むしろこの考え方のほうがよい」といったように考え方をフィードバックさせていただきたいと思います.では始めてみましょう.

 2008年春 神戸にて
 高階 經和

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第1章 胸痛を訴える16歳,男子
第2章 高血圧で胸痛を訴える82歳,男性
第3章 糖尿病および高血圧で胸痛を訴える49歳,男性
第4章 不定愁訴で来院した60歳,女性
第5章 胸部圧迫感と頭軽感を訴える65歳,女性
第6章 健診で心電図の異常を指摘された60歳,男性
第7章 心室中隔欠損と診断された65歳,男性
第8章 動悸と頻脈を訴える55歳,女性
第9章 鼻の閉塞感と咳を訴える70歳,男性
第10章 慢性うっ血性心不全治療中の65歳,女性
第11章 鋭い胸痛を訴える43歳,女性
第12章 生活習慣と心疾患

付録 一心周期における左心系と右心系の循環動態

参考文献
おわりに
著者紹介
索引

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教え方上手の著者による心臓病のエキスパートになれる一冊
書評者: 齋藤 宣彦 (聖マリアンナ医大名誉教授・内科学)
 高階先生をご存じない方には「プロ野球選手のイチロー以前に『イチロー』を開発された方です」と紹介することにしている。臨床実習開始前のOSCEを経験してきた研修医や評価者を務めたことのある指導医ならば,国内の全医科大学のスキルス・ラボに設置されている世界に冠たる心臓病患者シミュレータ「イチロー」の名を知らない人はいない。

 しかし実は,高階先生はイチロー開発のずっと以前から,わが国屈指の臨床心臓病学者であるばかりでなく,尊敬すべき医学教育者として斯界ではよく知られていた。チュレーン大学医学部のProf. George E. Burchに師事されたとのこと,それを知って納得する読者も多いだろう。今回の著書は,臨床心臓病学と望ましい医学教育手法を融合させた切り口でまとめられているが,これは両方に精通した著者でなければできないことである。

 わが国の臨床医学の教科書には,初めに病名が掲げてあり,次いでその原因,症候,診断のための検査,治療,合併症と予後という古典的順序で書かれているものが,まだまだ多い。しかし,臨床家は,まず医療面接で主訴と病歴を聞き,そこから鑑別疾患を思い浮かべながら身体所見をとり,検査計画を立てて,それらを総合して病態を考え,治療計画をまとめて患者さんに説明する。縷々書くとそうなるが,普段はそれをほとんど瞬時に,いわば無意識のうちに行っているにすぎない。そう考えると,臨床医学の教育はcase-based learningで行うほうが学習効率は高い。これをシミュレートとすると,医学部の若い学年でまず医療面接の基本を学習し,そのすぐ後に病棟に出て患者さんに接し,主訴が胸痛ならば,胸痛をきたす疾患を調べて,狭心症という疾患名に出くわしたなら狭心症の病態生理を引き金として,関連する基礎知識の冠動脈の解剖や心筋代謝や筋収縮を学習し,次いで診断法や治療へと進めていく。このような手法で学習すればベッドサイドでも常に基礎医学に立ち返って考える習慣がつく。本書はそのモデルである。代表的な症例から入り,病歴と身体所見,鑑別診断を経て確定診断に至り,治療について左ページで言及する。そして右ページでは関連する発生学,解剖学,循環生理,病態生理,薬理などの基礎科学を解説し,さらに類縁疾患も説明するという切り口により,頭書の代表的症例以外の広範な病態をもカバーしている。理解を容易にするために若い研修医や学生と著者との対話形式を採用しているが,読み進めて気が付くと,教科書には書いてない著者の長年の経験から得たコツまでが身に付く仕掛けになっている。

 本書は,キャリアの長い臨床家には「なるほど」と思うことを,研修医には新知識を,学生には臨床実習や講義ではいまひとつ理解できなかったことを,あらためて教えてくれる。基礎医学系の教員に臨床側のニーズを知ってもらうためにも一読を薦めたい。
実践的精神が光る,ベッドサイド診療の指導書
書評者: 宮崎 俊一 (近畿大教授・循環器内科学)
 高階先生は本田宗一郎氏に似ていると私は思う。各界に偉人といわれる人々は多いが,高階先生は現在79歳であるにもかかわらず,間違いなく今も“現場”の人である。本田宗一郎氏の伝記を読むと彼が晩年まで“現場”で生きていたことが判るが,高階先生もしかりである。実際,高階先生の考案したタコ足聴診器からコンピュータをいち早く取り入れたシミュレータ“イチロー”の開発などをみていると,本田宗一郎氏が油にまみれながら原動機付き自転車からF1レーシングカーまで作っていった経緯と似ているように思う。両者には“自分自身の手によって現場で工夫する”という哲学が共通しているのである。昔の日本には上記のような哲学がさまざまな場所で多く存在したのではないかと思うが,現在の日本では少なくなったことは間違いない。私が高階先生を尊敬しているのはこのような哲学を持ち,実践し,他者を指導し,そしてそれを楽しんでいるからである。高階先生は,臨床医として活躍されているだけでなく,臨床心臓病学教育研究会(JECCS)を立ち上げられて医学教育に長年尽力されてきた。近年,医師不足または偏在による医療崩壊が叫ばれるようになって久しいが,これまで以上に医師の質を担保する卒前および卒後教育が重要となっている。このような状況を考えると,高階先生の実践的医学教育がまさに求められている時代だと思う。

 本書は心臓病について架空の医学生および研修医(メディック)をシミュレートして心臓疾患について質疑応答を行うことで,病態,ベッドサイドでの診療,検査法,治療を学んでいくという形式で書かれている。つまりオムニバス形式なので最初から読む必要はない。読者のレベルや関心の度合いによって適当な箇所から読み始めてよいのである。記述されている内容はベッドサイドでの診療を想定して書かれているので,基本的事項が中心となっている。つまり,循環器専門医を志す若い医師または医学生を対象とした書籍内容ということができる。ところが実際に読んでみると高階先生の哲学である“実践的”な精神が発揮されており,ベテラン循環器専門医にとっても役に立つ情報が随所に出てくる。このため,本書はむしろ臨床の現場で患者さんと向き合っている先生方の役に立つのではないかと思う。研修医と一人前の臨床医の双方にお薦めしたい書籍である。

患者との向き会い方をアタマとココロで学べる本
書評者: 山科 章 (東医大教授・循環器内科学)
 評者が医学部5年生のときに勉強した医学書に,そのころ出版された医学書院のアプローチシリーズがある。高階經和先生の『心臓病へのアプローチ』,本多虔夫先生の『神経病へのアプローチ』,天木一太先生の『血液病へのアプローチ』などである。穴埋め形式の問題を解いていくうちに,疾患や病態の理解が進むので大変に役立った。特に『心臓病へのアプローチ』は筆者が循環器を初めて勉強するきっかけになった本でもあり,その著者の高階先生は学生の私にとって憧れであった。

 その後,評者が循環器科医となり,先生の講演やセミナーで直にお話を聞く機会があり,先生の“スマートさ”に感激したことをよく覚えている。流暢な英語,豊かな表現力,論理的で理路整然として分かりやすい話の進め方など,学生のころに抱いていたイメージ通りであった。医学生あるいは医学教育関係者なら誰でも知っているシミュレーターの“イチロー”の開発者,あるいはAsian Heart Houseの開設者としても先生は世界中から注目されている。2002年に京都で開催された第26回国際内科学会でも学会場に循環器シミュレーション・ステーションを開設されたが,そのとき以来,評者は親しくさせていただいており光栄と思っている。

 ところで読者の皆さんは,僧帽弁閉鎖不全症(MR)や大動脈弁閉鎖不全(AR)などの患者さんを診察して,心音・心雑音を適切に口(音)で表現できるだろうか。日ごろから,身体所見を大切にし,その所見を正確に表現および記載し,しかもこういった診察法を分かりやすく指導しようという姿勢を持っていないと難しいと思う。ちなみにMRはDHAAta(ダハータ),ARはDHaTaaaa(ダハッタアア)と表現され,こういった心音や心雑音を口まねする方法を心音擬似法(cardiophonetics)という。口まねすることによって,その仕組みが実感できる(本書94―95頁)。そういった心音の表現だけでなく,スプーンを使って心尖拍動を明瞭に見せるなどの魅力的なBSTができるドクターが高階經和先生である。

 その高階先生が,心臓病診療のあり方をまとめ,『心臓病の診かた・聴きかた・話しかた―症例で学ぶ診断へのアプローチ』として上梓された。5人の仮想の研修医・学生を相手に,症例ベースで指導する形で書かれており,あたかも高階教室の学生になった気分で,心臓病の病態や身体所見やアプローチの方法を学べる。高階先生の診療の根幹はあとがきにもあるように,臨床で不可欠な三つの言葉(spoken language, body language, organ language)を聞き取る姿勢である。私たちは,患者さんの体から発する言葉を軽視しがちである。口から発する日常語だけでなく,表情やジェスチャーなどの身体語や心音・心雑音や呼吸音,心電図所見など臓器が発する言葉(臓器語)も重要である。この三つの言葉を大切にして患者さんにアプローチする。そうすれば心臓病の理解も飛躍的に進み,患者さんのことも分かるようになる。そういった先生の信念が12の章にまとめられている。

 それぞれの章は症例ベースのPBL(problem based learning)形式で書かれ,随所に気配りがなされている。例えば,左ページと右ページは独立しており,左ページでは患者の問題点,診かた,考えかた,アプローチの方法が,右ページには関連した知識,データ,アドバイス,あるいは解説が記載されている。PBLのproblems, hypothesis, need to knowを左ページに,learning issueを右ページにという感じである。胸痛,高血圧,弁膜症,心筋症,先天性心疾患,虚血性心疾患,心不全,不整脈などの代表的な心臓病だけでなく,心臓神経症,生活習慣病なども,病態をまず理解し,どう考えて,どうアプローチすべきかが書かれている。

 学生,研修医だけでなく,循環器領域の指導的立場にある方々に,ぜひ読んでいただきたい。高階イズムが体感でき,心臓病診療の原点に戻る良いチャンスになるはずである。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任に置きまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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