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医療経済学で読み解く医療のモンダイ

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医療経済学の視点から医療の制度・仕組みを考察するユニークな“医療入門”。日本の医療費は高い? 今後病院数は増える? 減る? 後発薬の普及はなぜ進まない? DPCは医療費抑制に有効? 在院日数が減れば医療費も減る?等々、気になる論点を経済学者であり医師でもある著者がわかりやすく解説する。医療経済学のエッセンスに触れつつ、日本の医療の現状・問題点を把握することができる。
真野 俊樹
発行 2008年07月判型:A5頁:232
ISBN 978-4-260-00659-0
定価 2,750円 (本体2,500円+税)
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 医療経済学というのは,わかりにくいもののように思われている方も多いと思います.
 そのひとつの理由に,医療経済学のスタンスの混在があげられます.すなわち,医療を経済学の手法で考え,その結果を紹介する,いわば「医療に対する経済学的分析」と,医療において経済的な要素を解説する,いわば「医療と経済」といったスタンスの混在です.
 当然のことですが,医師や看護師さんをはじめとする医療従事者の方々は,医療に対する経済学的な分析について,知っていたほうがいいのですが,専門的に行う必要はありません.慣れていないので難しいからです.実は,この視点からの医療経済学についてわかりやすく書こうと試みたのが,私の『入門 医療経済学』(中公新書)でした.幸い版を重ねていますが,どちらかといえば文系の方に評判がいいようです.
 そこで,実際の医療の現場と経済の関係についてさらにわかりやすく,場合によっては経済学の守備範囲を逸脱しても現場に即した内容(先ほどの分け方でいえば,「医療において経済的な要素を解説する」スタンス)をめざしたのが本書『医療経済学で読み解く 医療のモンダイ』です.
 そのために,この本ではいくつかの工夫をしました.まず構成を「『医療費』のモンダイ」「『保険』のモンダイ」「『医療の仕組み』のモンダイ」「海外の医療」に分けました.
 「『医療費』のモンダイ」は,医療経済学の中心になる部分ともいえます.医療とお金の関係を示すものですから.ここでは,数学などを使わずに医療費に関係する問題を考えてみました.少しなじみにくい部分かもしれませんので,最後に読んでいただいてもかまわないと思います.
 「『保険』のモンダイ」も医療経済学の中心になるものです.日本では国が保険制度を運営していますが,他の国,たとえば米国では医療保険の多くは民営です.なぜそうなっているのか,といった理論的背景を学んでみましょう.
 「『医療の仕組み』のモンダイ」は,医療を提供する組織について分析する医療経済学ならではの分野です.どういうことかといいますと,他の分野では個別のサービスや商品を提供する組織の分析はあまり重要ではないからです.自動車経済学とかコンビニ経済学という分野は,少なくとも大学の講座ではないのです.ただし,農業経済学や交通経済学といったものはあります.そこには規制の強さや国の関与の度合いが関係しています.そうです.規制が強い分野では,その分野での特殊性がサービスや商品を提供する組織にも影響を与えるためで,個別の経済学がある場合があるのです.医療もそうですね.また,医療の問題はいまや国の問題ですから,国も放ってはおけないのです.なお,ここで医師や看護師,薬剤師といった人材について分析する場合もありますが,今回はそこまで踏み込まないことにします.
 最後に「海外の医療」を取り上げてみます.他の国の医療はどうなっているのでしょうか.はじめて医療経済学に取り組まれる方はここから読み始めてもいいかもしれません.皆さんが海外旅行に行くときに役に立つかもしれませんよ.ここでは,それぞれの国の医療の様子を紹介してから何が日本と違っているのか,それがなぜなのかを解説します.医療の問題は世界的な課題です.どの国でも一長一短ですが,良さ・悪さを学んで欲しいと思います.

 医療経済学.なんとなくとっつきにくいかもしれません.しかしこの本では,難しい数式を使ったりしていませんので,医療関係の皆さんが気楽に読めると思います.
 では,この本がぜひ皆さんに役立つことを念じつつ.

 2008年6月1日
 真野 俊樹

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はじめに 医療経済学の考え方

第1章 「医療費」のモンダイ
 1 社会保障とは何か
 2 日本の医療費は高いのか
 3 医療費はなぜ高くなるのか
 4 医療費が高いと何が問題なのか
 5 患者の自己負担増加は医療費を抑制するか
 6 日本の薬価は高いのか
 7 後発薬が普及しにくいのはなぜか
 8 なぜ医薬分業か

第2章 「保険」のモンダイ
 1 国民皆保険はなぜ生まれたのか
 2 民間保険と公的保険
 3 予防と保険の関係
 4 診療報酬の支払い方式あれこれ─包括払いへの流れ
 5 効率と公平の両立は可能か─DPCは医療費抑制に有効か

第3章 「医療の仕組み」のモンダイ
 1 財前と里見はどちらが正しいのか─費用対効果の分析法
 2 平均在院日数が短縮すれば医療費も減るのか─効率とは何か
 3 かかりつけ医と地域医療連携
 4 病院数は増えるのか減るのか
 5 医療と人件費の関係
 6 公立病院の組織は何が問題か
 7 7対1看護はなぜ必要なのか
 8 市場の失敗とは何か
 9 診療報酬はなぜ公定価格なのか
 10 医療は特殊な商品・サービスなのか
 11 医療の質をどう判断するのか

第4章 海外の医療
 1 米国の医療
 2 イギリスの医療
 3 ドイツとフランスの医療
 4 シンガポールの医療
 5 タイの医療
 6 韓国の医療

索引

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医療経済学に基づく医療経済論
書評者: 田中 滋 (慶應義塾大学大学院教授・経済学)
 世の中,特に医療人の間では「医療経済」を扱う議論はすべて「医療経済学」に属すると思われているのではなかろうか。本書はその違いを知るとともに,経済学の考え方を学び,専門家や官僚と医療政策論議を交わすための基礎能力を与えてくれる解説書である。

 前者,つまり「医療経済論」は,医療費をめぐる論争,医療制度改革のうちファイナンスのあり方,および医療提供体制にかかわる政策論など広範な分野が当てはまる。医療経済論は,医療経済学の技法を使っても使わなくてもこの世に役立つ(役立たない)議論が可能である。ただし実際のところ,経済学の素養を持つ人たちにとっては,客観的な理論体系からは程遠く,思いつきを並べているだけとしか見えない粗雑な医療経済論が目立つことも否定できない。

 これに対し後者,すなわち医療経済学は,厳密に言えば,経済学分野で発達し,世界中の多くの経済学者に共有されている分析概念や技法をさらに進歩させようとする研究,およびそれらを用いた分析のみを指す。こちらは,物理学や一般の経済学と同様,国籍を超えて,専門家によって共通に認知されている分析用具の使用が「医療経済学」と呼ばれるための条件となる。ただし,医療経済を論ずる経済学者の中には,現実の医療経済・制度・政策にはまったくうとい者も散見される。反対に,医療経済学の研究(主に技法)に時間を捧げつつも,中途半端な医療経済論は語らない,正しく身を律する学者も存在する。

 本書では,これまでもたくさんの興味ある医療経営分野の書物を世に問うてきた著者が,以前の『入門医療経済学』(中公新書)の言わば実用編として,短いページ数で重要政策分野をほぼ網羅する見事な腕前を見せ,「医療経済学に基づく医療経済論」を述べた分かりやすい記述を展開している。

 第1章においては,日本の医療費および薬価は高いのか否か,患者自己負担と受療抑制の関係,後発品普及の遅さなどのテーマが取り上げられている。続く第2章は,保険制度の持つ意味合いの説明と,診療報酬支払い方式のさまざまなパターンを扱う。第3章では,2003年に放映された『白い巨塔』(山崎豊子)の場面の引用という巧みな導入部から始まり,医療提供体制に関する諸問題の経済分析が語られる。最後の第4章においては,海外医療が紹介されているが,比較的よく目にする欧米のみならず,シンガポール,タイ,韓国の医療を知ることができ,これからの政策協調を探るために大いに役立つと思われる。以上を読み終えた後に,冒頭に置かれた「医療経済学の考え方」に戻ると,他の科学と医療経済学の比較が簡潔かつ的確に説明されていることが一層よく分かるかもしれない。

 医師,看護師を始めとする医療職の方々,医療機関経営者,そして医療経済論・医療経済学を目指す学生たちに本書を推薦したい。
医療のモンダイを経済の視点からみた,ひと味変わった解説書
書評者: 山内 一信 (藤田保衛大教授・医療管理情報学)
 現代の医療界にはさまざまな問題,課題がある。特にその仕組みを社会学的,経済学的,さらには医療機関のマネージメント機能からとらえる視点は良質の医療を行ってゆくための医療提供体制を考える上で重要である。このほど,これらの問題を分かりやすく解説した『医療経済学で読み解く医療のモンダイ』(真野俊樹著)が医学書院から発刊された。
 
 医療経済学の多くの成書は「経済学とは」という解説から大上段に振りかぶり,経済を成立させている需要・供給の問題に触れ,市場経済,統制経済の解説,そして医療は市場経済にはなじまないので統制経済の要素が強いにもかかわらず医療費は増大し続けることを述べ,少子高齢化が進み負債が増大する日本の経済基盤の中で,どのように良質で効率的医療を達成したらよいのかという流れが一般的である。このような論旨の展開では,まず経済学とは何かという難関に立ち向かうことになる。

 そこで著者・真野は医療が抱える現実の問題は何かということを設定し,その問題を経済的要素からとらえるところから切り込む。「はじめに―医療経済学の考え方」では,経済学は自然科学と異なり真実を定めにくい学問であることを指摘し,その考え方として,(1)計画経済と,(2)合理的経済人をベースにした方法論的個人主義,市場経済を,さらに新しい考え方として非経済的動機を重視した経済社会学を取り上げている。第1章では医療費はどう成り立ち,なぜ増大するのか,また医療費が高くなることは問題なのかどうか,といったテーマを扱い,第2章では保険の仕組みを解説し,第3章で医療の仕組みを経済学の論理から切り込んでゆく。

 医療費については国際的にみて高くないことを示し,増加の原因として人口高齢化,技術開発,出来高払い,サービス産業としての特異性などを挙げている。保険については,その根本は所得再配分(移転)であることを指摘。保険者の役割として予防医療,疾病管理の重要性を挙げた。DPCは包括評価ではあるが,基本的には出来高制であり,医療費抑制への効果は少ないものの,ベンチマークを通してミクロ的効率化に役立つ可能性を指摘した。

 第3章では前章からの効率化の論点を受けて費用対効果などの経済性分析の解析法,効率化の意味,機能分化・医療連携の方向性,病床数削減,医療従事者の増加,人件費と疲弊の問題,公立病院での官僚的組織の構造的問題と統合・再編・民営化への課題,さらに市場の失敗が起こる原因と診療報酬が公定価格であることの意味,医療サービスを行う側の差別化の必要性,そして最後に医療の質・評価をどう判断するのかを示し,評価には患者満足度だけでは不十分であるとして,臨床評価の重要性を説く。

 最終章では,米国,英国,フランス,ドイツ,さらにはタイ,韓国,シンガポールの医療制度を紹介し,日本の医療制度を見直す機会を与えている。

 本書の特徴である医療のモンダイを経済学的に解析するという視点は,著者が今までの多くの著作を通して考えついた視点であろう。本書の特徴は図や表が多く,それが最新のもので分かりやすくまとめてあることである。また各項の終りにはその項で述べた論点を要領よくまとめている。したがって,ある程度経済学を理解し,かつ忙しい方はこのまとめと図表とをじっと見ることにより,著者の言いたいことが分かるのではないかと思う。またコラム欄は最近もっとも話題性の高い内容,例えば「保健指導」「医療訴訟」「医療機器業界」などについて経済学的解釈を加えて解説している。

 本書は,医療の仕組みは経済学的観点からこうあるべきであるという論点よりも,医療のモンダイを経済学からみるとこう解釈されるという視点が貫かれ,経済学的に読み解くための有用な成書であると確信している。

医療をめぐる「お金」の問題を丁寧に解説
書評者: 福田 秀人 (立教大大学院教授・危機管理学)
 コーネル大学医学部留学中に経済を学ぶことの大事さを痛感し,京都大学で経済学博士号を得た医師であり,また医療経済学者でもある筆者は,出来高払いの保険制度は,医師と患者にとっての天国をもたらすものと説く。患者のために高度な診療をするほど,病院や医師に多額の報酬が支払われるからである。しかし,これでは医療費に歯止めがかからず,また,医師と患者の間の情報・知識の格差が,過剰な診療を誘発する。

 さらに,高齢化社会の到来による患者増で,医療費は急増していくとの政府予想と財政赤字の深刻化を受けて,医療費の抑制が重要な政策課題となり,包括払い制度,在院日数の短縮,病床数削減,診療報酬引き下げ,ジェネリック薬品の奨励,レセプトの審査強化などが推進されるようになった。延命治療も問題視されるようになった。

 しかし,医療費がGDPに占める比率はOECD加盟国の中で22位,8.0%(1位米国は15.3%),一人あたり年間医療費(購買力平価換算)は19位に留まっている。患者数や病床数に対する医師や看護師の比率も,先進国の中で格段に低い。そこで筆者は,包括払い制度は医療費の抑制に有効かつ妥当な制度であるが,医療費をもっと増やしてもよいのではないかとし,また,その他の医療費抑制策の前提や効果に,概略,次の疑問を呈している。

 医療費の増加は高齢者の増加ではなく,医療技術の進歩による可能性もある/ジェネリック薬品の普及には,値段,品質,安定供給,的確な情報提供などの課題がある/低コスト,良質の医療,医療への好アクセスの3つを同時に達成することは難しい/医療費の単価をコントロールできても,受診総量をコントロールできない/平均在院日数の短縮が医療費の削減につながるには,患者数,同じ疾患に投入する個別医療,支払い方式が変わらないという非現実的な前提が必要/入院医療の多くを在宅医療でできるのかという疑問が存在する/医療の専門分化が進み,必要な医師の数が増え,新たな知見が新たな医療サービスを喚起し,医師の仕事が多くなる/医療は専門職が担うため,政府の政策どおりに実行されるとは限らない。

 本書は,以上のような医療費,保険,医療の仕組みについて,多岐広範にわたる問題を,用語をきちんと定義し,最新の理論や研究成果を用いて簡潔に解説している。また,経済・経営の観点から,病院,医師,看護師などが取り組むべき課題を示している。さらに,欧米やアジアでの,各国各様の状況と深刻な問題を紹介している。それは,発熱すれば解熱剤を投与すればよしとするに等しい短絡的な発想に陥らず,医療のモンダイを大局的に理解し,解決策を誤らないための手引き書である。なお,本書はどこから読んでもよいが,3章1節「財前と里見はどちらが正しいのか」から読むことを勧める。

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