これだけは知っておきたい 精神科の身体ケア技術
精神科はカラダの時代!
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「高齢化」と「身体合併症」――これが精神科の二大テーマであるといわれるほど、身体処置を必要とする精神疾患患者が激増している。しかしこれまで、身体ケア技術を“精神科の実態に即して”解説する本はなかった。イレウス・肺炎などの内科的処置、自傷・やけど・転倒転落の際の外科的処置、ECT・チューブ・点滴類などの扱い方を、“精神科ならでは”の具体例に即して解説していく。
編著 | 美濃 由紀子 |
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発行 | 2008年05月判型:B5頁:320 |
ISBN | 978-4-260-00581-4 |
定価 | 3,080円 (本体2,800円+税) |
更新情報
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- 序文
- 目次
- 書評
序文
開く
はじめに-精神科「ならでは」「だからこそ」の身体ケア
美濃由紀子
身体を看るのは苦手?
精神科病院に勤めている看護師から、「身体」を看ることの困難さについて、耳にすることがあります。特に身体科での臨床経験のない看護師や、初めての配属が精神科になった新人、育児や子育てなどでしばらく仕事を辞めてから精神科に再就職した看護師たちにとっては、深刻な悩みであるようです。
じつをいうと、私も新人から精神科に配属になった看護師の一人です。最初から不安をもっての入職でしたが、やはり、いざというときの処置にまごついたり、身体症状の重要な所見を見逃したりと、ほんとうに冷や汗をかく場面を何度となく体験しました。
特につらかったのは、私が看護師になって2年目のときのことです。おやつを咽喉に詰まらせて呼吸停止した患者にすぐさま適切な救急処置をしてくれたのは、たまたま病棟に研修で来ていた内科の看護師たちでした。声を掛けあいながら、テキパキと処置をこなす彼女たちの後ろで、ただオロオロするばかりの自分をとても情けなく感じたことを覚えています。患者に対しても申し訳なくて、私はほんとうに看護師なのだろうか? と自分のこれまでの精神科での看護経験を否定された気持ちにもなり、処置に対する苦手意識はつのるばかりでした。
このような身体ケアに関する不安や情けなさを味わう経験は、精神科の看護師であれば多かれ少なかれあるような気がします。「ふだんからフィジカルアセスメントをしっかりしなさい!」とか、「看護師としての勘を働かせなさい!」といわれても、いったい何をどうみればいいのかピンとこなくて焦ってしまったり、身体合併症と聞いただけで「ここでは看られないから、早く転院させなきゃ」と拒否反応がでてしまう方も、けっして少なくはないでしょう。
精神科ならではのむずかしさ
精神科で身体を看ることをむずかしくしている問題は、こうした看護師の苦手意識だけではありません。精神科の患者の場合、訴えから身体症状を見極めることがむずかしいことが、問題をさらにややこしくしています。
たとえば、こんな事例があります。病状が安定していたはずの長期入院の患者Aさんの精神症状が、急に悪化しはじめました。「身体に穴があいたから、食べたものが流れ出てしまう」といって食事をとらなくなり、しだいに体重も減ってきて、「毒をよこすな!」と薬も飲まなくなりました。そのうちにスタッフに対しても被害的になり、ついには険しい表情で一言も口をきかず、終始臥床がちの生活になりました。そんなAさんの精神症状を改善させるために医師は電気ショック治療を施したのですが、たいした成果はあがらず、ADLは低下する一方でした。
それもそのはずです。じつは、Aさんは胃がんだったのです。精神症状の悪化だと思われていた拒否的な行動や妄想的な言動は、うまく身体症状を訴えられないAさんなりの表現方法だったのでしょう。この医師は、後に身体合併症病院に患者を転院させる際、恥ずかしそうに、電気ショックを施したことを転院先のスタッフに申し送ったそうです。
このケースはちょっと極端かもしれませんが、身体症状を精神症状の悪化と勘違いしてしまうということは、臨床現場ではけっしてめずらしいことではないように思います。私はほかにも、恋愛妄想と妊娠妄想をもった卵巣がんの患者を知っています。
このように精神科の患者は、身体症状を妄想にからめて表現したり、身体症状に関連して新たな妄想を抱いたりすることがあります。さらに、不快な症状があってもうまく訴えられず、適切な求助行動がとれないことも多いので、医療者は的確な症状アセスメントをおこなうことが非常にむずかしいのです。
ポイントさえ押さえれば、やることが見えてくる
Aさんについて、「身体に何か異変があるのでは?」という視点から、もう一度振り返ってみるとどうでしょうか。
Aさんの言動のなかには、身体症状の潜在に気づくためのヒントがたくさん隠れていたように思います。患者の日常生活にもっともかかわることの多い看護師が、一つひとつでは見逃してしまいそうな小さなサインが同じ方向を指し示していることに気づくことができれば、もっと早いうちに適切な治療につなげることができたはずです。
Aさんの場合、食欲減退や体重減少もみられていたので、精神症状の評価と同時に身体疾患も疑ってみる、というポイントが頭の片隅にあれば、熱型や便の色、採血データなどをチェックするといった行動につなげられたかもしれません。このように、患者の訴えてこない身体疾患をみつけることは、じつはそんなにむずかしいことではありません。「あれ、何かおかしいぞ?」と思うところから始めればよいのです。
処置もポイントを覚えてしまえば大変ではない
処置に関しても、同じことがいえます。要は、一つひとつの手技を、ちゃんとその都度、ものにしていけばいいわけです。体験することが、身体ケアを習得するいちばんの早道ですから、「よし、ここでしっかり覚えるぞ!」という気持ちで、身体ケアや処置に臨む心構えさえふだんからもっていれば、たとえ少ない機会であっても最大限に活用することができます。精神科によくある処置の基本と身体症状の見方のポイントさえ事前に押さえていれば、処置はけっしてむずかしくはありません。極端な言い方をすれば、処置はマニュアルさえ覚えてしまえば、なんとかなるのです。
精神科病院で働く看護師のなかには、「精神科病院では身体ケアを学ぶことができない」と思っている方も少なくないでしょうが、そんなことはありません。逆に、思春期から成人期、老年期までにわたる年齢層のいろいろな身体疾患をもつ患者が数多くいるわけですから、より広範囲に身体ケアを学ぶことができる絶好の環境ともいえるのです。しかも、ゆっくり自分のペースで覚えていけばよいのですから、身体科と比べるとうんと楽です。焦らず、気負わず、苦手意識を取り払いながら、覚えていけばいいのです。
できることとできないことを見極める
とはいうものの、精神科病院には、看護師が苦手意識を克服するだけではどうにもならない限界もたくさんあります。病院に、精密検査や治療の設備が整っていなかったり、常勤の身体科医師が配属されているところも、まだまだ多いとはいえない状況です。また、身体合併症治療や検査を受け入れてくれる病院の確保にはたいへんな困難をともないます。このような問題に対応するための全国的なシステムの不備が目立つなかで、精神科医療がかかえる身体合併症への大きな壁に、無力感を覚えることもあるかもしれません。
そこで、大切になってくるのは、「システムの限界を自覚しつつ、そのなかで、自分たちができることとできないことをはっきり見極めていく」姿勢です。
精神科病院ではかかえることのできない重篤な身体合併症に関しては、すみやかに専門機関の治療につなげることが望まれます。しかし、そのような緊急で重篤な場合を除けば、精神科病院でも、スタッフが身体ケアの力をつけていくことで十分に看ることができる身体合併症はたくさんあります。むしろ、精神疾患患者への対応に不慣れな身体科で治療するよりも、精神科で見たほうがより成果が期待できる場合もあるでしょう。精神科でできることを見極め、自信をもってやっていくことこそが、患者にとっていちばんの助けになるのです。
精神科ならではの身体ケアがある
最後に、精神科で働くみなさんにお伝えしたいことがあります。この本では、いざというときに困らないための身体ケアと処置の基本を紹介していくわけですが、大切なのはこれらをただ丸暗記することではありません。ほんとうに必要なことは、目の前の患者一人ひとりの言動や反応に隠されたサインに気づくための、感度のよいアンテナを自分のなかにもつことです。
そういった意味で本書は、みなさんのアンテナを磨くための一つのツールになります。このツールを活かすも殺すも、みなさん一人ひとりにかかっています。そこから何を読み取って、どう臨床現場で実行していくかが大きな鍵になるのです。
看護師のものの見方や看護のセンスは、最初にどの分野の臨床につくかによって、かなり規定されるように思います。処置や身体ケアの技術の習得は、慣れるまでは大変でも、一度覚えてしまえばなんとかなるものですが、人を見る感性を培うことはなかなかむずかしいものです。精神科は、そういった看護の本質ともいえる「人を見る感性」を磨くのに、もっとも適した分野であるように思います。
私は精神科で何年か勤務した後、身体科の病棟で働いてみてはじめて、自分が精神科で学んできたものの大きさに気づくことができました。最初にお話しした「精神科で何をやってきたのだろう?」という看護師としてのアイデンティティを揺るがされた体験に意味が見出せたことによって、気持ちも楽になりました。知らず知らずのうちに精神科で身につけていた「人を見る看護の感性」は、身体科においても十分に誇れるもので、引け目を感じる必要などなかったということがわかったのです。
私がみなさんに言いたいのは、「精神科の看護師でなければできないケア」に、もっと自信をもっていただきたいということです。精神科ならではの視点を大切にしながら、苦手なところは克服していこうと努力すること、つまり心身相関の観点から日々のケアを充実させていくことこそが、私たち精神科看護師に求められていることです。
美濃由紀子
身体を看るのは苦手?
精神科病院に勤めている看護師から、「身体」を看ることの困難さについて、耳にすることがあります。特に身体科での臨床経験のない看護師や、初めての配属が精神科になった新人、育児や子育てなどでしばらく仕事を辞めてから精神科に再就職した看護師たちにとっては、深刻な悩みであるようです。
じつをいうと、私も新人から精神科に配属になった看護師の一人です。最初から不安をもっての入職でしたが、やはり、いざというときの処置にまごついたり、身体症状の重要な所見を見逃したりと、ほんとうに冷や汗をかく場面を何度となく体験しました。
特につらかったのは、私が看護師になって2年目のときのことです。おやつを咽喉に詰まらせて呼吸停止した患者にすぐさま適切な救急処置をしてくれたのは、たまたま病棟に研修で来ていた内科の看護師たちでした。声を掛けあいながら、テキパキと処置をこなす彼女たちの後ろで、ただオロオロするばかりの自分をとても情けなく感じたことを覚えています。患者に対しても申し訳なくて、私はほんとうに看護師なのだろうか? と自分のこれまでの精神科での看護経験を否定された気持ちにもなり、処置に対する苦手意識はつのるばかりでした。
このような身体ケアに関する不安や情けなさを味わう経験は、精神科の看護師であれば多かれ少なかれあるような気がします。「ふだんからフィジカルアセスメントをしっかりしなさい!」とか、「看護師としての勘を働かせなさい!」といわれても、いったい何をどうみればいいのかピンとこなくて焦ってしまったり、身体合併症と聞いただけで「ここでは看られないから、早く転院させなきゃ」と拒否反応がでてしまう方も、けっして少なくはないでしょう。
精神科ならではのむずかしさ
精神科で身体を看ることをむずかしくしている問題は、こうした看護師の苦手意識だけではありません。精神科の患者の場合、訴えから身体症状を見極めることがむずかしいことが、問題をさらにややこしくしています。
たとえば、こんな事例があります。病状が安定していたはずの長期入院の患者Aさんの精神症状が、急に悪化しはじめました。「身体に穴があいたから、食べたものが流れ出てしまう」といって食事をとらなくなり、しだいに体重も減ってきて、「毒をよこすな!」と薬も飲まなくなりました。そのうちにスタッフに対しても被害的になり、ついには険しい表情で一言も口をきかず、終始臥床がちの生活になりました。そんなAさんの精神症状を改善させるために医師は電気ショック治療を施したのですが、たいした成果はあがらず、ADLは低下する一方でした。
それもそのはずです。じつは、Aさんは胃がんだったのです。精神症状の悪化だと思われていた拒否的な行動や妄想的な言動は、うまく身体症状を訴えられないAさんなりの表現方法だったのでしょう。この医師は、後に身体合併症病院に患者を転院させる際、恥ずかしそうに、電気ショックを施したことを転院先のスタッフに申し送ったそうです。
このケースはちょっと極端かもしれませんが、身体症状を精神症状の悪化と勘違いしてしまうということは、臨床現場ではけっしてめずらしいことではないように思います。私はほかにも、恋愛妄想と妊娠妄想をもった卵巣がんの患者を知っています。
このように精神科の患者は、身体症状を妄想にからめて表現したり、身体症状に関連して新たな妄想を抱いたりすることがあります。さらに、不快な症状があってもうまく訴えられず、適切な求助行動がとれないことも多いので、医療者は的確な症状アセスメントをおこなうことが非常にむずかしいのです。
ポイントさえ押さえれば、やることが見えてくる
Aさんについて、「身体に何か異変があるのでは?」という視点から、もう一度振り返ってみるとどうでしょうか。
Aさんの言動のなかには、身体症状の潜在に気づくためのヒントがたくさん隠れていたように思います。患者の日常生活にもっともかかわることの多い看護師が、一つひとつでは見逃してしまいそうな小さなサインが同じ方向を指し示していることに気づくことができれば、もっと早いうちに適切な治療につなげることができたはずです。
Aさんの場合、食欲減退や体重減少もみられていたので、精神症状の評価と同時に身体疾患も疑ってみる、というポイントが頭の片隅にあれば、熱型や便の色、採血データなどをチェックするといった行動につなげられたかもしれません。このように、患者の訴えてこない身体疾患をみつけることは、じつはそんなにむずかしいことではありません。「あれ、何かおかしいぞ?」と思うところから始めればよいのです。
処置もポイントを覚えてしまえば大変ではない
処置に関しても、同じことがいえます。要は、一つひとつの手技を、ちゃんとその都度、ものにしていけばいいわけです。体験することが、身体ケアを習得するいちばんの早道ですから、「よし、ここでしっかり覚えるぞ!」という気持ちで、身体ケアや処置に臨む心構えさえふだんからもっていれば、たとえ少ない機会であっても最大限に活用することができます。精神科によくある処置の基本と身体症状の見方のポイントさえ事前に押さえていれば、処置はけっしてむずかしくはありません。極端な言い方をすれば、処置はマニュアルさえ覚えてしまえば、なんとかなるのです。
精神科病院で働く看護師のなかには、「精神科病院では身体ケアを学ぶことができない」と思っている方も少なくないでしょうが、そんなことはありません。逆に、思春期から成人期、老年期までにわたる年齢層のいろいろな身体疾患をもつ患者が数多くいるわけですから、より広範囲に身体ケアを学ぶことができる絶好の環境ともいえるのです。しかも、ゆっくり自分のペースで覚えていけばよいのですから、身体科と比べるとうんと楽です。焦らず、気負わず、苦手意識を取り払いながら、覚えていけばいいのです。
できることとできないことを見極める
とはいうものの、精神科病院には、看護師が苦手意識を克服するだけではどうにもならない限界もたくさんあります。病院に、精密検査や治療の設備が整っていなかったり、常勤の身体科医師が配属されているところも、まだまだ多いとはいえない状況です。また、身体合併症治療や検査を受け入れてくれる病院の確保にはたいへんな困難をともないます。このような問題に対応するための全国的なシステムの不備が目立つなかで、精神科医療がかかえる身体合併症への大きな壁に、無力感を覚えることもあるかもしれません。
そこで、大切になってくるのは、「システムの限界を自覚しつつ、そのなかで、自分たちができることとできないことをはっきり見極めていく」姿勢です。
精神科病院ではかかえることのできない重篤な身体合併症に関しては、すみやかに専門機関の治療につなげることが望まれます。しかし、そのような緊急で重篤な場合を除けば、精神科病院でも、スタッフが身体ケアの力をつけていくことで十分に看ることができる身体合併症はたくさんあります。むしろ、精神疾患患者への対応に不慣れな身体科で治療するよりも、精神科で見たほうがより成果が期待できる場合もあるでしょう。精神科でできることを見極め、自信をもってやっていくことこそが、患者にとっていちばんの助けになるのです。
精神科ならではの身体ケアがある
最後に、精神科で働くみなさんにお伝えしたいことがあります。この本では、いざというときに困らないための身体ケアと処置の基本を紹介していくわけですが、大切なのはこれらをただ丸暗記することではありません。ほんとうに必要なことは、目の前の患者一人ひとりの言動や反応に隠されたサインに気づくための、感度のよいアンテナを自分のなかにもつことです。
そういった意味で本書は、みなさんのアンテナを磨くための一つのツールになります。このツールを活かすも殺すも、みなさん一人ひとりにかかっています。そこから何を読み取って、どう臨床現場で実行していくかが大きな鍵になるのです。
看護師のものの見方や看護のセンスは、最初にどの分野の臨床につくかによって、かなり規定されるように思います。処置や身体ケアの技術の習得は、慣れるまでは大変でも、一度覚えてしまえばなんとかなるものですが、人を見る感性を培うことはなかなかむずかしいものです。精神科は、そういった看護の本質ともいえる「人を見る感性」を磨くのに、もっとも適した分野であるように思います。
私は精神科で何年か勤務した後、身体科の病棟で働いてみてはじめて、自分が精神科で学んできたものの大きさに気づくことができました。最初にお話しした「精神科で何をやってきたのだろう?」という看護師としてのアイデンティティを揺るがされた体験に意味が見出せたことによって、気持ちも楽になりました。知らず知らずのうちに精神科で身につけていた「人を見る看護の感性」は、身体科においても十分に誇れるもので、引け目を感じる必要などなかったということがわかったのです。
私がみなさんに言いたいのは、「精神科の看護師でなければできないケア」に、もっと自信をもっていただきたいということです。精神科ならではの視点を大切にしながら、苦手なところは克服していこうと努力すること、つまり心身相関の観点から日々のケアを充実させていくことこそが、私たち精神科看護師に求められていることです。
目次
開く
はじめに-精神科「ならでは」「だからこそ」の身体ケア
I 自傷・事故の対処法
1 自傷
2 事故
3 精神科で必要な「一次救命処置法」
II 複雑なチューブ類の操作を確認
1 チューブ、カテーテル
2 点滴
focus 身体治療や処置を拒否する患者のケア
III 精神科で抜けがちな身体観察の基本
1 バイタルサインの見方
2 採血データの読み方
focus バイタルサイン測定の意味
IV 精神科でよく起こる「身体問題」にどう対処するか
1 イレウス
2 誤嚥性肺炎
3 糖尿病
4 肺血栓塞栓症
5 薬剤性錐体外路症状
6 悪性症候群
7 水中毒
8 アルコール離脱症候群/肝性脳症
9 褥瘡
10 白癬
11 電気けいれん療法(m-ECT)
索引
あとがき
I 自傷・事故の対処法
1 自傷
2 事故
3 精神科で必要な「一次救命処置法」
II 複雑なチューブ類の操作を確認
1 チューブ、カテーテル
2 点滴
focus 身体治療や処置を拒否する患者のケア
III 精神科で抜けがちな身体観察の基本
1 バイタルサインの見方
2 採血データの読み方
focus バイタルサイン測定の意味
IV 精神科でよく起こる「身体問題」にどう対処するか
1 イレウス
2 誤嚥性肺炎
3 糖尿病
4 肺血栓塞栓症
5 薬剤性錐体外路症状
6 悪性症候群
7 水中毒
8 アルコール離脱症候群/肝性脳症
9 褥瘡
10 白癬
11 電気けいれん療法(m-ECT)
索引
あとがき
書評
開く
精神科でも身体ケアが重要な時代になりました (雑誌『看護教育』より))
書評者: 長嶺 敬彦 (清和会吉南病院内科部長)
精神科病棟では,身体処置を要する患者さんが急激に増えています。これはそうした現状にマッチした優れた本です。精神疾患に罹患すると身体疾患を併発しやすく,精神科看護では精神症状だけでなく,適切な身体観察が求められます。この本は精神科看護での身体観察のポイントを網羅しています。それも「自傷・事故の対処方法」「複雑なチューブ類の操作を確認」「精神科で抜けがちな身体観察の基本」のように具体的に解説してあり,今までの精神科看護の本にはなかった視点です。
そもそも精神科薬物療法は,イレウス,誤嚥性肺炎,肥満・糖尿病などの身体合併症を誘発しやすい危険性をもっています。精神科薬物療法を安全に効果的に行うには,身体観察の知識が欠かせません。この本は,精神科でよく起こる身体問題を11項目あげ,観察ポイントと具体的な対処方法が記載してあり,辞書的な使い方もできます。もちろん看護教育のテキストとして使用すると教育効果が上がると思います。
従来「精神科」というと,精神を扱う特殊な科というイメージがありました。この特殊性は,精神疾患に対する偏見(スティグマ)と表裏一体でもあります。つまり精神科では,我々の日常的な苦悩を精神症状とラベリングします。すると我々の苦痛体験は「精神」という視野に狭小化されるあまり,偏見を生み,さらには身体問題へのケアが抜け落ちるのです。病的体験や心の問題をすべて「精神症状」に還元する手法は,結果として精神疾患を脳に閉じ込め,患者を精神科病院に閉じ込めることになるのです。しかし実に当たり前のことですが,人間の精神を身体から分離して抽出することは不可能です。精神と身体は,相互依存的に全体として存在するのです。だから精神科もすべての医学の分野と同じように,身体に目を向けなければならないのです。
残念なことに,精神科では身体をあまり重視しない時代がありました。しかし,21世紀の精神科はもっと身体に目を向け,人間の全体像を見る(診る)医学にならなければなりません。そういう意味でも,精神科での身体ケアに焦点を当てたこの本は,21世紀の精神科医療に必須な情報を提供しているといえます。
身体処置は,時として侵襲的です。しかし,患者さんとのコミュニケーションの機会でもあります。処置は「手当て」です。正しい身体処置の手技が身についていれば,余裕をもって「手当て」ができます。心をこめた「手当て(身体処置)」は患者さんを安心させ,時として精神療法になるのです。身体処置は単に身体ケアの次元にとどまりません。ぜひこの本に書いてある手技や知識をマスターして,患者さんとのコミュニケーションに役立ててほしいと思います。
(『看護教育』2008年7月号掲載)
書評者: 長嶺 敬彦 (清和会吉南病院内科部長)
精神科病棟では,身体処置を要する患者さんが急激に増えています。これはそうした現状にマッチした優れた本です。精神疾患に罹患すると身体疾患を併発しやすく,精神科看護では精神症状だけでなく,適切な身体観察が求められます。この本は精神科看護での身体観察のポイントを網羅しています。それも「自傷・事故の対処方法」「複雑なチューブ類の操作を確認」「精神科で抜けがちな身体観察の基本」のように具体的に解説してあり,今までの精神科看護の本にはなかった視点です。
そもそも精神科薬物療法は,イレウス,誤嚥性肺炎,肥満・糖尿病などの身体合併症を誘発しやすい危険性をもっています。精神科薬物療法を安全に効果的に行うには,身体観察の知識が欠かせません。この本は,精神科でよく起こる身体問題を11項目あげ,観察ポイントと具体的な対処方法が記載してあり,辞書的な使い方もできます。もちろん看護教育のテキストとして使用すると教育効果が上がると思います。
従来「精神科」というと,精神を扱う特殊な科というイメージがありました。この特殊性は,精神疾患に対する偏見(スティグマ)と表裏一体でもあります。つまり精神科では,我々の日常的な苦悩を精神症状とラベリングします。すると我々の苦痛体験は「精神」という視野に狭小化されるあまり,偏見を生み,さらには身体問題へのケアが抜け落ちるのです。病的体験や心の問題をすべて「精神症状」に還元する手法は,結果として精神疾患を脳に閉じ込め,患者を精神科病院に閉じ込めることになるのです。しかし実に当たり前のことですが,人間の精神を身体から分離して抽出することは不可能です。精神と身体は,相互依存的に全体として存在するのです。だから精神科もすべての医学の分野と同じように,身体に目を向けなければならないのです。
残念なことに,精神科では身体をあまり重視しない時代がありました。しかし,21世紀の精神科はもっと身体に目を向け,人間の全体像を見る(診る)医学にならなければなりません。そういう意味でも,精神科での身体ケアに焦点を当てたこの本は,21世紀の精神科医療に必須な情報を提供しているといえます。
身体処置は,時として侵襲的です。しかし,患者さんとのコミュニケーションの機会でもあります。処置は「手当て」です。正しい身体処置の手技が身についていれば,余裕をもって「手当て」ができます。心をこめた「手当て(身体処置)」は患者さんを安心させ,時として精神療法になるのです。身体処置は単に身体ケアの次元にとどまりません。ぜひこの本に書いてある手技や知識をマスターして,患者さんとのコミュニケーションに役立ててほしいと思います。
(『看護教育』2008年7月号掲載)
更新情報
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更新情報はありません。
お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。