リンパ浮腫の治療とケア

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リンパ浮腫は主に,婦人科がん(乳がんを含む)患者の手術・照射療法後に症状が現れるもので,現在5万人の患者がいるといわれる。治療法は複合的理学療法(スキンケア+医療リンパドレナージ+圧迫療法+運動療法)が世界的にメインとなっている。本書はわが国の専門セラピスト第一人者が複合的理学療法の理論と実践を詳細に解説した書である。
編集 佐藤 佳代子
執筆 小川 佳宏 / 佐藤 佳代子
執筆協力 後藤学園リンパ浮腫治療室
発行 2005年04月判型:B5頁:176
ISBN 978-4-260-33403-7
定価 3,520円 (本体3,200円+税)
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  • 目次
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1. リンパ系の解剖・生理

  A. はじめに

  B. リンパの成分

  C. 血液循環とリンパ循環

  D. リンパ管系とリンパ生成の場の微小構造

  E. リンパ管の走行

  F. リンパ輸送の特徴

  G. 圧迫時のリンパ管への影響

2. リンパ浮腫とはどういうものか

  A. 浮腫とは

  B. リンパ浮腫治療への取り組み

  C. リンパ浮腫の定義

  D. リンパ浮腫の発症原因

  E. リンパ浮腫の分類

  F. リンパ浮腫の病期

  G. リンパ浮腫の症状

  H. リンパ浮腫の合併症

  I. 心性浮腫について

  J. 慢性静脈機能不全症(CVI)について

3. リンパ浮腫治療の概要

  A. 保存的治療法

  B. 手術的治療法

  C. その他の治療法

4. フェルディ式複合的理学療法とは何か

  A. 治療法の概要

  B. 症状に応じた2段階の治療ステップ

  C. 適応と禁忌

  D. 複合的理学療法の治療施設

5. 医師との連携

  A. リンパ浮腫治療開始時に必要な情報

  B. 専門セラピストが作成する記録

  C. 専門セラピストから医師への報告

6. 治療方針決定のプロセス

  A. 施術の対象

  B. 主治医との連携

  C. 問診

  D. 視診

  E. 触診

  F. 悪性の徴候

  G. 計測記録について

7. スキンケア

  A. スキンケアの基本

  B. 皮膚トラブル時の対応

8. 医療徒手リンパドレナージ-フェルディ式マッサージ

  A. マッサージ手順の考え方

  B. 基本知識(考慮すべきリンパ管システム)

  D. その他の手技

 I. マッサージの実際[基礎編]-リンパ節の機能が正常な場合

  A. 準備

  B. 基礎マッサージ

 II. マッサージの実際[臨床編]

   -リンパ節の機能が低下または不全の場合(リンパ連絡路の活用)

  A. 個別の対応の必要性

  B. 前処置と後処置の重要性

  C. マッサージの基本的手順

  D. マッサージの時間配分

  E. 具体的な治療

9. 圧迫療法

 I. 弾性包帯によるバンデージ療法

  A. バンデージ療法の特長

  B. 弾性包帯の基本の巻き方

  C. バンデージ療法の注意とポイント

  D. スポンジの扱い

  E. バンデージ療法に使用する用具の洗い方

 II. 弾性圧迫衣

  A. 種類

  B. 着用時のポイント

  C. 注意事項

  D. 洗い方

10. 排液効果を促す運動療法

  A. 上肢の運動法

  B. 下肢の運動法

11. セルフケアの指導法

  A. セルフマッサージの指導

  B. セルフバンデージ療法の指導

  C. 新しい生活スタイルづくりの提案

12. 統計からみた患者像

13. 治療症例

  A. 原発性晩発性右下肢リンパ浮腫

  B. 乳がん術後右上肢リンパ浮腫

  C. 子宮がん術後左下肢リンパ浮腫

  D. 子宮がん術後両下肢リンパ浮腫

  E. 前立腺がん術後左下肢リンパ浮腫

資料

  A. リンパ浮腫治療を行っている医師および医療機関

  B. リンパ浮腫サポートグループ

  C. NPO日本医療リンパドレナージ協会

  D. NPO日本医療リンパドレナージ協会セラピスト(正会員)リスト

あとがき

索引

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この本いかがですか? (雑誌『助産雑誌』より)
書評者: 長岡 淳子 (大阪大学医学部附属病院 副看護師長)
 がん治療のための手術後リンパ浮腫で悩む患者を前に,医療者はずっと以前から,なんとかその苦痛を取り除いてあげたいと考えてきた。本書の筆者は「リンパ浮腫は,いったん発症すると完治させることは非常に難しく,一生付き合う必要がある疾患である」と述べており,臨床の経験から「発症早期から生活指導などの教育を行なうとともに,(中略)セルフケアの方法を早く習得してもらうことが最善と考えている」とも述べている。

 現代の疾病構造に慢性疾患の占める割合が増えるなかで私たち医療者がするべきケアは,患者の痛みを理解し,患者自身が一日も早く疾病とうまく付き合うライフスタイルを見つけられるように共に考えることではないだろうか。本書はリンパ浮腫を長年治療し,患者の悩みやそれをケアする医療者が抱く疑問を知りつくしたうえで執筆されたものであるといえる。

 何事もその業を専門とするには基礎が大切である。私自身助産師になってさまざまな経験をしてきたが,そのどれをとっても基礎学習の大切さを感じないものはない。日々行なう採血や筋肉注射にも基礎看護の知識が必要であり,助産師として妊婦にかかわる場合でもレオポルド触診法や妊娠週数に合った基礎知識・診断技術が必要となる。とくに新人指導をする場合には,基礎知識の確認をしながら臨床技術を教えなければ,適切な技術と判断力を備えた助産師を育てることはできない。

 本書によると,がんの手術後のリンパ浮腫をケアする専門セラピストが徐々に養成されているそうである。専門職がその学習や自己研鑽をすることは当然の努力であるが,本書はリンパ系の基礎からリンパ浮腫の定義,スキンケア,医療徒手リンパドレナージ(フェルディ式マッサージ),セルフケア指導についてもわかりやすく記載してある。これからリンパ浮腫の学習をしようとする人も,すでに臨床で活躍されているセラピストの方々にも,すぐに実践に利用できる内容であると感じる。

 私は大学病院で勤務しているため,悪性腫瘍を合併した妊産婦をケアすることがある。妊娠中にがんの手術を受け分娩後に化学療法を受けたある褥婦さんは,転棟先の病室からパンパンにむくんだ右足を引きずりながら,自らの治療のために早産した我が子の授乳をするためNICUに通ってきていた。むくみのために曲げることのできない片足を通路に投げ出して授乳する姿が印象的だった。あの頃の私にもう少しリンパ浮腫に対する知識があれば,その母のいる病棟の担当看護師と連絡を取り合い何らかのケアを考えられたのではないかと思う。本書にはフェルディ式マッサージや弾性包帯による圧迫療法を行なう前後の写真が掲載されているが,その見事な改善に目を見張った。患者本人は言うまでもなくケアを行なった側の喜びまでもが想像できるほどである。

 助産師が働く環境は施設によってさまざまであろう。産科が他科との混合で構成されている施設も少なくない。助産師が女性の一生のライフサポーターである以上,乳がんや子宮がんの手術後に起こりやすいといわれるリンパ浮腫にも目を向け,患者の痛みを理解し適切なケアを提供するために本書を活用してほしい。

(『助産雑誌』2005年11月号掲載)
がん患者の浮腫の苦痛にナースはここまでできる!! (雑誌『看護学雑誌』より)
書評者: 祖父江 由紀子 (聖路加看護大学大学院博士前期課程)
◆フェルディ式複合的理学療法とは何か

 本書は、リンパ浮腫の治療やケアに携わる医療者を対象に、フェルディ式複合的理学療法の基礎と臨床について解説されている。フェルディ式複合的理学療法とは、1930年代にデンマークの生物学者エミール・フォルダーが創始した健康と美容のためのマッサージ法の流れを汲み入れて、ドイツのミヒャエル・フェルディによって医療のためのリンパ浮腫療法に体系化されたものである。欧州において(また、筆者が見学したアメリカの医療施設においても)行なわれている代表的なリンパ浮腫治療の1つであり、現在ではメインの保存療法として評価されている。

 治療の実際においては、患者それぞれの症状に応じた個別の対応を必要とするため、安全性と細心の配慮が求められる。具体的手法は、「スキンケア」「医療徒手リンパドレナージ」「弾性包帯や弾性圧迫衣(スリーブ・ストッキング・マスクなど)による圧迫療法」「排液効果を促す運動療法」の4つから構成される。治療ステップは、浮腫の症状に応じて、第1段階(集中的排液期)、第2段階(現状維持・改善期)に大別され、これに並行して自宅でのセルフケアや自己管理の指導が行なわれる。

 本書の構成は、1人ひとりの患者がリンパ浮腫に至った原因を理解するために必須の知識となる「リンパ系の解剖・生理」から始まる。次に、リンパ浮腫の発症原因や症状、合併症について、リンパ浮腫との鑑別が必要な「心性浮腫」「慢性静脈機能不全症」にも触れながら詳しく記述されている。そして、リンパ浮腫治療について概観した後、フェルディ式複合的理学療法の具体的プロセスについて、丁寧に解説している。さらに、実際の治療について、写真を示しながら症例を解説している。本書全体を通して、豊富な図表や写真を用いて、リンパ浮腫治療・ケアの初学者がわかりやすいよう工夫されている。
ナースは専門的知識の習得が急務

 リンパ浮腫の症状は、それだけで致命的となることは少ないが、患者にとっては苦痛を伴うため、時には日常生活に大きな支障を与えることもあり、完治することが困難とされている。しかし、症状を徐々に改善させ、リンパ浮腫とうまく付き合って生活していくことは可能である。そのためには、専門知識と技術を習得しているセラピストによる治療と指導を受けることが重要となる。

 現在、日本各地の病院内で、看護師が主体となってリンパ浮腫治療室がつくられたり、患者向けの学習会や講演会が行なわれたりするようになってきた。しかし、まだ十分な対応とは言えず、セラピストも不足しているといった状況である。だからこそ、本書のような臨床的ですぐ役に立つ内容が盛り込まれた、基礎から臨床までが学べる参考書を、多くの看護師に読んでいただきたい。

(『看護学雑誌』2005年9月号掲載)

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