FITプログラム
統合的高密度リハビリ病棟の実現に向けて

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藤田保健衛生大学七栗サナトリウムで2000年から実施されている,FIT(Full-time Integrated Treatment)プログラム。現在注目を集めている画期的なリハビリプログラムであるFITプログラムの詳細を体系的に示すとともに,“リハビリ医療”の本質をも鋭くついた,すべてのリハ関係者の進むべき指針を提起した書。
編集 才藤 栄一 / 園田 茂
発行 2003年10月判型:B5頁:152
ISBN 978-4-260-24421-3
定価 4,180円 (本体3,800円+税)

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  • 目次
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第1章 FITプログラムの概念
第2章 FITプログラムの概要
第3章 ハードウェア
第4章 ソフトウェア
第5章 FITプログラムの効果
第6章 FITプログラムの今後
第7章 FITプログラムFAQ
第8章 リハビリテーション医学・医療エッセンス
第9章 運動学習エッセンス
第10章 リハビリテーション心理エッセンス-動機づけの心理学-
第11章 障害白書
おわりに:FITプログラムの生い立ち
索引

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新しいリハビリテーション医療を築き上げるバイタリティーを感じる名著
書評者: 蜂須賀 研二 (産業医大教授・リハビリテーション医学)
 藤田保健衛生大学医学部リハビリテーション医学講座・才藤栄一教授,藤田保健衛生大学七栗サナトリウム・園田茂病院長の編集で,医学書院より『FITプログラム―統合的高密度リハビリ病棟の実現に向けて』が出版された。

 FITとはFull―time Integrated Treatmentのことであり,日本語に訳すと“統合的高密度リハビリテーション治療”となる。この本は152頁の手頃なボリュームの読みやすい本であるが,内容は大変革新的であり,著者らの独創的で進歩的な姿勢と思想が文面から伝わってくる。

 FITプログラムそのものについては,第1章から第7章にかけて,概念・概要,ハードウエアとソフトウエア,その効果,今後の展開について解説されており,最後にFAQが掲載されている。第8章「リハビリテーション医学・医療エッセンス」以降の章では,リハビリテーション医療の本質にまで話を発展させ,著者らのリハビリテーションに対する基本的な立場や思想が提示されており,そこからFITプログラムが生まれた背景やその根底にある理論を汲み取ることができる。

◆独創的なリハビリテーション施設

 FITプログラムの最も特徴的で重要なポイントは,独創的で進歩的な訓練室一体型病棟とリハビリテーション医療システムであろう。七栗サナトリウムでは訓練室と病室が一体となり配置され,訓練室と病室との間には横幅6m,縦50mの巨大な廊下があり,歩行訓練中の患者や車いすに座った患者,家族,訓練実施中の療法士,看護師が混在している。そこは訓練の場であり,実際の生活の場であり,休憩の場でもある。そして,これらの状況は,若くて活力のあるスタッフとLANを活用した緻密な情報交換や共有化により適切に管理運営されている。今まで,このようなリハビリテーション施設があったであろうか?

◆療法士システムの工夫で週7日の訓練を実現

 さらに賞賛すべきは,週7日訓練を実施するために考案された療法士システム―Triangle―Pairsである。従来,1人の療法士は十数名の患者の訓練に専従していたが,効率的な訓練が実施できる反面,患者の抱え込みあるいは閉鎖的な状況に陥ることもあり,また,療法士の休みの対応にはしばしば頭を悩まされていた。FITプログラムでは3人の療法士がチームを組んで18人の患者を担当し,1人の療法士は6人の患者を主担当として受け持ち,同時に他の2人の療法士の主担当患者をそれぞれ3人ずつ副担当として受け持つ。1人の療法士が休んでも他の2人の療法士が副担当として訓練を受け持つので,療法士が週2日ずつ交代で休みをとれば,1週間のうち2人勤務が6日,3人勤務が1日となり,週7日訓練を円滑に実施することができる。

 FITプログラムの概要,実施上のコツ,治療成績に関しては,本書に詳しく述べられているのでこれ以上の紹介はしないが,是非,購入して一読することを勧める。新しいリハビリテーション医療を築き上げるバイタリティーを感じる名著である。
「多障害時代におけるリハビリ医療」の充実のために
書評者: 上月 正博 (東北大教授・リハビリテーション部)
 FIT(Full―time Integrated Treatment)プログラムとは,才藤栄一教授が主宰する藤田保健衛生大学リハビリテーション部門で考案され,七栗サナトリウムリハビリテーションセンター(園田 茂病院長)で実行されている「より効果があり,より効率の良い脳卒中リハビリテーション(以下,リハビリ)プログラム」の名称である。本書はそのFITプログラムの取り組みの内容と効果を藤田保健衛生大学のスタッフが解説した労作である。

◆日本のリハビリテーションが持つ課題に果敢に挑戦

 わが国は食生活の改善,環境対策や医療対策の充実などにより,世界きっての最長寿国となったが,脳卒中後遺症患者などが増加しており,一生の中で活動性の高い生活が行なえる期間を少しでも長くすることが重要な課題になってきている。医療の現場では薬物療法や食事療法は休日なく行なわれているが,ことリハビリ(理学療法,作業療法など)に関しては,スタッフ数の問題で休日・祭日にはほとんど行なわれておらず,脳卒中リハビリ患者の自主訓練に任されているのが現状である。さらに本邦では,昨今の祭日や振替休日の増加により,リハビリ患者が非活動的に過ごす時間が増えて,リハビリ効果がさらに減弱する可能性も指摘されている。たとえば,リハビリ施設における脳卒中患者の平均入院期間は,集中訓練を行なう米国に比較して,本邦では大幅に長い。

 FITプログラムではこの問題に果敢に挑戦し,病棟から訓練室への動線を排除した訓練室一体型病棟を建築し,療法士に週休2日の休日を与えてもリハビリ患者の週7日訓練を維持できるだけの療法士の多数雇用と複数担当制を行ない,チーム内の連絡の頻度を増やすことなどにより,「毎日・全日訓練」,「コミュニケーション増強」,「単純化による役割整理とアフォードする環境」を課題としたリハビリを施した。その結果,在院日数の短縮,同一ADLレベルへの到達の早期化,最終到達ADLの高度化,費用対効果比の向上などの成果をあげ,しかも経営的にも成功している。

 本書の構成は11章から成り立っている。130頁あまりの本なので2,3時間で通読が可能であるが,時間のない場合には各章の冒頭の要約と第7章の「FITプログラムFAQ」を読むだけでもFITプログラムの内容の概略が理解できるようになっている。第8章以降がFITプログラムとは直接関係ないリハビリや運動学習の総論であったりはするものの,全体を通して現状のリハビリに対する飽くなき改革のための両編者の意欲や志の高さが迫力をもって迫ってくる。

◆経済的側面からも解説

 回復期リハビリ病棟で50人の患者が1人6単位(上限)のリハビリを受けると,週40時間勤務の療法士が20人必要であり,この条件であると最大の診療報酬上の恩恵を受けられる。一般病棟,療養型病棟,外来を持つ施設などで実際に回復期リハビリ病棟に携わる療法士が極端に少なくなる病院ではリハビリの出来高を上限まで算定できないので,診療報酬上の恩恵を受けられない可能性もあるといったことなど,経済的側面まで立ち入って詳細かつ丁寧に分析している点も本書の特徴の1つといえよう。

 本来,薬物療法や食事療法と同様にリハビリ(理学療法,作業療法など)も連日休みなく継続的に行なわれるべきである(「医療の毎日性」,「訓練の毎日性」)。本書をきっかけに本邦のリハビリスタッフや診療報酬制度のさらなる充実が図られ,21世紀の「多障害時代におけるリハビリ医療」がさらに充実することを期待したい。

統合的高密度リハビリ病棟の実現に向けて
書評者: 里宇 明元 (慶應大助教授・リハビリテーション医学)
◆日本の集中的リハビリテーションの現状

 最近公表された脳卒中関連の5学会による脳卒中合同ガイドラインにおいては,機能障害および能力低下の回復をより促進するために,リハビリテーションの量を増やし,集中して行なうことの必要性が勧告されている。事実,欧米では1日3―4時間,週7日間のリハビリテーション医療が当たり前のように行なわれ,短期間でより大きな機能的利得が得られている。

 一方,わが国では,現行の診療報酬体系のもとでは,保険請求が認められている量は,理学療法,作業療法,言語療法をあわせて,最大でも1日6単位(120分)である。さらに,多くの施設では(特に公的医療機関においては),週休2日制のもとに,訓練は週5日しか行なわれていないという現実があり,集中的なリハビリテーションという観点からみると,わが国の現状は,まだまだ欧米に遅れをとっている。診療報酬上,病棟での生活訓練を重視するという名目で設けられている日常生活動作(ADL)訓練加算についても,病棟の構造上の問題,病棟と訓練室間の移送の問題,実際に行なっている日常生活動作(ADL)と訓練室でできるADLとの解離,リハビリテーションスタッフ間の認識や相互コミュニケーションの不足,家族の関与の不足などの問題があり,必ずしも真の意味で生活の中での集中的リハビリテーションに結びついていない。したがって,われわれリハビリテーション医療者がこれまでのやりかたを踏襲し続ける限り,十分な量と質のリハビリテーションを提供することは困難な状況にあるといえよう。

◆従来の問題を解決するための具体的なプログラム

 このような中で,集中的かつ高密度のリハビリテーション医療を効率的に提供し,最大限の効果を最短期間で達成するための具体策として提案されたのが,Full―time Integrated Treatment(FIT)プログラムである。FITの開発は,従来のリハビリテーション医療に内在していた,1)運動学習には患者の能動性が必要,2)治療には長時間の繰り返しが必要,3)多職種のコミュニケーションとチームワークが必要,という3つの弱点の洞察からはじまった。これらの問題をトータルなシステムとして解決するために,1)能動性に働きかける(アフォードする)環境の整備,2)週7日,一日中の訓練による訓練量の確保,3)IT技術を駆使した情報の共有化を核として,訓練室一体型病棟,6m幅の大廊下,LANデータベース,ADLに対する作業療法士―看護師の協調,療法士の複数担当制,週末の家族教室などといった,ハードとソフトが一体になったきわめてユニークなプログラムが創出された。

 本書ではFITの考え方やノウハウが分かりやすく解説されており,一見するとすぐにでも日常臨床に取り入れられそうな内容に思われるかもしれない。ただし,FITは藤田学園という全学的にリハビリテーション医学・医療を強力にサポートする土壌がある中で,才藤教授,園田教授の強力なリーダーシップのもとに,熱意に溢れた創造的スタッフたちが一体になって作り上げたプログラムであることを押さえておく必要がある。すなわち,読者が自らの置かれた環境において「集中的,高密度リハビリテーション医療」を展開していこうとする際には,単に本書からFITの具体的なノウハウを吸収するだけでなく,FITが誕生した背景にある運動学習の原理,動機づけの心理学およびチームの理論を十分に理解し(本書ではこれらのエッセンスが分かりやすく解説されている),自らの実情を踏まえた上で,実現可能性のあるプログラムを創造していくことが求められるであろう。

 理念やスローガンばかりが先行しがちな日本のリハビリテーション医療において,きちんとした理論的枠組みのもとに,いつ,どこで,誰が,何を,どのように行なうかという,きわめて具体性のあるプログラムを提案したという意味で,本書の果たす役割は大きい。今後,FITに負けないような具体性かつ実効性のあるプログラムがどんどん開発され,実践されていくことが,日本のリハビリテーション医学・医療を健全に発展させていく上で重要であり,その大きな一石を投じた本書を心から歓迎したい。

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