慢性うつ病の精神療法
CBASPの理論と技法

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2000年に『New England Journal of Medicine』で実証的研究の成果が報告されて、俄然注目されるようになった慢性うつ病の新しい精神療法CBASP(認知行動分析システム精神療法)の実践書。これ1冊でCBASPの概要が理解できる。世界標準の診療を目指す精神科医、心理臨床家の必携書。
監訳 古川 壽亮 / 大野 裕 / 岡本 泰昌 / 鈴木 伸一
発行 2005年11月判型:A5頁:360
ISBN 978-4-260-00099-4
定価 6,050円 (本体5,500円+税)

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第1部 CBASPと慢性うつ病患者の精神病理
 第1章 慢性うつ病患者の治療に際して治療者が遭遇する問題点
 第2章 慢性うつ病患者とCBASPプログラムについての序説
 第3章 慢性うつ病患者の精神病理を理解する
 第4章 経過のパターン,併存症,心理学的特徴
第2部 CBASPの方法と手順
 第5章 変化への動機付けを強化するための戦略
 第6章 状況分析の導入
 第7章 状況分析の修正段階
 第8章 行動を修正するために治療者-患者関係を用いる
 第9章 獲得学習と治療効果の般化の測定
第3部 CBASPの歴史など
 第10章 米国におけるCBASPの登場
 第11章 CBASP精神療法家のトレーニング
 第12章 Beckの認知療法やKlermanの対人関係療法モデルとCBASPとの比較
 第13章 よくみられる患者の問題と危機を解決すること
○付録
付録A 状況分析を施行するための促し質問(Therapist Prompts for
    Administering Situational Analysis;PASA)
付録B 遵守率をモニターし対人関係の質を評価するための評価尺度
付録C 最適なCBASP治療者の質と能力を評価するための評価尺度
○文献
○索引

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精神科臨床医必読書!臨床に役立つ慢性うつ病の精神療法
書評者: 伊豫 雅臣 (千葉大大学院教授・医学研究院精神医学)
 うつ病は近年一般の方々にも広く知られるようになってきました。その治療についても,抗うつ薬と休養により改善し,また周囲の人たちはうつ状態のときには励まさないということも知られてきています。そして,うつ病は一過性の「心の風邪」とも表現されることも多い疾患となっています。

 しかし,本当にそうなのでしょうか。確かに上記のように回復していく方々が多くいらっしゃる一方で,慢性化する方々も多く存在するのが現実です。監訳者のひとりである古川らは,うつ病患者の10―20%以上の人で2年以上持続し,慢性化すると報告しています。また薬物療法や休養が重要であるとともに,精神療法も重要であることが,特にBeckにより開発された認知療法が広まるにつれ認識されてきています。しかしそれでも治療に難渋し,限界を感じる精神科医は多くいると思われます。

 2000年にKellerらはNew England Journal of MedicineにCBASP(Cognitive Behavioral Analysis System of Psychotherapy)を用いた慢性うつ病の驚くべき治療成績を報告しました。また本書でも紹介されていますが,12週プログラムの完遂者は薬物療法との併用で85%において有意に効果的であったとされています。精神科臨床に携わる者として,この報告だけをもってしてもCBASPは身につけるべき技法であるとの印象を受けます。

 本書ではCBASPの考え方に基づいた慢性うつ病患者の精神病理と,その治療法についての理論が前半に記載されています。成熟発達の停止が病因であるうつ病を,「個人×環境」の相互作用という視点で捉え,治療として,社会的問題解決能力と,社会的相互作用の営みにおける共感的反応性を促進するという独自の特徴を持っています。確かに独自であるかもしれません。しかし,熟練した精神科医はこの理論に強い共感を抱くものであり,決して特殊な考え方ではないことにも気づくと思います。また,後半には治療方法と手順が記載されています。精神科医や臨床心理士が習得すべき技術として精神療法があるということに異存を唱える人はいないでしょう。しかし精神療法は対象患者や状況,治療者の特性や患者・治療者間の関係性などさまざまな要素が影響し,普遍的なものとして確立していくのは困難なものと思われます。本書では,治療方法と手順について,具体的で細やかな記載がなされています。技術の習得と実践においてきわめて有用であるとの印象を受けました。本来は,本書にもあるようにCBASPを身につけるには適切なトレーニングを受ける必要があるかもしれません。また,一般の外来などの治療場面でこれを実践していくには時間的制約もあり困難と考える方もいるかと思います。

 本書を読んだ感想ではありますが,すぐに受け持つ慢性患者全例に試みるのではなく,まず1例だけでも患者と話し合い実践してみてもよいのではないかと思います。そのことにより本書の理論の理解が深まり,また技術も身につき,忙しい臨床の合間にも応用していくことができるようになると思います。

 最後に,翻訳は丁寧になされており,読みやすくなっています。訳者たちの意気込みが感じられるのは私だけではないと思います。うつ病が一般に広く認識されてきている今,精神医療従事者にとって本書は必読の書と思います。

実践に即した技法を集録 本格的CBASPテキスト
書評者: 野村 総一郎 (防衛医大・精神科学講座)
 昨今,「うつ病は心の風邪」という表現に象徴されるように,うつ病を広く軽く捉えようとする傾向が見られるが,実態はそのように簡単なものではなく,かなりの例が慢性化することは臨床家なら誰でも感じているところである。しかし,この問題に焦点を当てた精神療法は十分に研究されていなかった。本書は,慢性うつ病に正面から向き合った精神療法として最近注目されるCBASP(cognitive behavioral analysis of psychotherapy:認知行動分析システム精神療法)についての初めての本格的テキストである。

 CBASPは本書の著者McCullough博士により1980年ごろから徐々に形作られてきたが,わが国ではほとんど知られていない存在であり,まずCBASPとは何かを大掴みしたいと誰しも思うであろう。しかし本書は啓発的読み物の体裁をとってはおらず,むしろ実践マニュアルに近い形式となっており,行きつ戻りつ進められる技法の有様は具体的ではあるものの,本書を通じてCBASPの全体像を掴むのにはやや苦労する。本書をじっくり何回も読んでうっすらと輪郭を掴み,実践を積んで理解することが要求される。その点では,なかなかハードで本格的な入門書である。

 特に重要なのは,第3章「慢性うつ病の精神病理を理解する」であろう。ここでは「慢性うつ病は対人関係性―社会性発達の障害である」と規定され,「共感的に他者と関わる方法を学ぶことがCBASPの主なゴール」と述べられている。これは「他者配慮的で几帳面」というわが国の伝統的うつ病観の修正を(こと慢性うつ病に関しては)迫る考えである。さらに慢性うつ病では「思考過程が他人の論理的思考に影響されず,自己中心的で,言語交流は独白的で,対人交流に心から共感する能力がもてず,ストレス下で感情コントロールができない」との指摘が続くが,これは評者が日頃の難治性うつ病の治療で感じていることとまさに一致した実感であり,「我が意を得たり」の思いがした。問題はこれらをどう修正するかであるが,それこそCBASPの技法論である。

 本書第2部でその技法について述べられるが,中心となるのは「状況分析」である。これはある出来事を取り上げ,「それをどう考え,どうしたら,どんな結果が得られたか,どんな結果を望んだのか」を分析する。次に不適応的な考え方,行動の修正を行わせる作業を繰り返す。さらに将来起こりそうな出来事についての状況分析も行う。状況分析は繰り返し日常的に行うことにより学習すべきものであり,それを実行したかどうかは評価用紙により,点数化され,常にモニターすることが推奨される。CBASPのもう1つの大きな特徴は,行動修正のために治療者との関係を利用することである。慢性うつ病者は特に重要な他者との対人関係において,ホットスポットと呼ばれる問題パターンを繰り返す傾向があり,治療者との関係でもこれが出てくる。これを見定め,行動の修正を行う。これは精神分析の転移の考え方に近い部分である。

 以上,CBASPは認知療法,行動療法,対人関係療法,精神分析療法を取り入れた折衷的なもののように思える。本書はまさにCBASPの技法満載であり,ここで紹介した他にも多くの技法があり,また治療者への注意点,実践時のコツ,技法で用いるチェックシートなども附属している。翻訳は,新たな技法だけにあまり聞きなれない用語なども多く,かなりの苦労が感じられるが,今後これらの訳語も標準的なものとして用いられると思われる安心感がある。慢性うつ病が問題となるわが国の現状にあって,タイミングよく出版された意義の大きい好著であることは間違いない。
新しい精神療法CBASPを解説
書評者: 切池 信夫 (阪市大大学院教授・神経精神医学)
 うつ病の治療において,寛解しないうつ病を経験することはまれならずあります。

 この場合,性格の問題にしたり,遷延性や治療抵抗性の難治性うつ病としたりして,薬物療法と支持的精神療法を漫然と続け,楽観的にそのうちよくなる,「明けない夜はない」と思いつつ,治療的ニヒリズムに陥らないようにしながら,気の重い外来治療を継続しがちになります。皆さんもこのようなことを経験したことはないでしょうか。

 この本は,このような患者さんに対する治療法の1つとして,McCullough博士が提唱した新しい精神療法を概括した書です。Cognitive-Behavioral Analysis System of Psychotherapy(CBASP:シーバスプ;認知行動分析システム精神療法)と呼ばれ,認知療法と対人関係療法を統合したような治療法ですが,いずれでもありません。今回,この難しい大著を翻訳し,出版された古川先生や大野先生,ならびに諸先生方の努力に敬意を表します。

 本書でいう慢性うつ病とは,単極性の気分障害で,2年間以上持続し,その間に症状のない期間が2か月以上続かない状態とされています。そして治療することなしに自然寛解に達することはあまりなく,寛解しても再発することが多いといわれています。そして経過のパターンから,(1)思春期に発症して2年間以上続く軽度から中等度の気分変調性障害,(2)重複うつ病(エピソード間に回復を伴わない反復性大うつ病で,気分変調症に重複),(3)エピソード間に回復を伴わない反復性大うつ病,(4)2年間以上続く慢性大うつ病,(5)重複うつ病と慢性大うつ病の重複,の5タイプに分類されています。

 この治療法は人生早期の対人関係の学習が,現在の対人関係に不適応的に働き,自己主張できず受身的,服従的,無力で苦渋に満ちた人生状況を,現在の治療者-患者関係の中で自己主張的な態度に修正していくことにより,自信にあふれ,うつ気分から解放された状況に変化させていくこととされています。

 この本は,大きく3部に分かれています。第1部ではCBASPと慢性うつ病患者の精神病理と題して,慢性うつ病の定義,精神病理,経過などが記載されています。第2部ではCBASPの方法と手順と題して,実際の手技が記載されています。その内容は,治らない,変わらないとあきらめている患者に対して,変化への動機づけをしてそれを強化する戦略,状況分析,状況分析の修正段階,治療者-患者関係の中で過去の対人関係を修正していくこと,治療効果の判定などが具体的に述べられています。第3部ではCBASPの歴史と題して,CBASPの開発されてきた経緯,認知療法と対人関係療法との違いなどが記載されています。

 この本を読む場合,第1部の4章「経過のパターン,併存症,心理学的特徴」を読み,まずこの治療法の適応となる患者群を知り,次いで2部の実際的の治療法にすすむのがよいかもしれません。そしてまた1部に戻れば,また2部を繰り返し読みたくなります。そして3部については,認知療法や対人関係療法について知識や経験のある人が読めば,それぞれの治療法についてより理解が深まるものと思います。

 CBASPは治療困難な慢性うつ病の精神療法でありますが,内容からして応用範囲が広く,今後慢性うつ病だけでなく,適応がさらにひろがる可能性があります。したがいまして,気分障害の治療に携わる人はもちろん,精神療法に興味を持っておられる多くの精神科医や臨床心理士にお勧めしたい本です。

慢性うつ病への新しいアプローチ
書評者: 井上 和臣 (鳴門教育大教授・精神医学)
 『慢性うつ病の精神療法CBASPの理論と技法』はCognitive Behavioral Analysis System of Psychotherapyという,慢性うつ病のために開発された新しい治療法を紹介した訳書である。邦訳では「認知行動分析システム精神療法」となるが,古川壽亮教授の監訳者序にCBASP(シーバスプ)とあるので,ここでもそう表現したい。

 昨年あるシンポジウムの準備中にnefazodoneとCBASPの併用に関する論文に出会ったものの,CBASPがわからずに困惑し,出版されたばかりの本書を手にとった。

 第3部「CBASPの歴史など」から読む。CBASPは1994年秋まではバージニア州立大学で原著者James P.McCullough教授と数人の同僚たちだけの精神療法にとどまっていたが,慢性うつ病を対象とする大規模臨床試験の際に,Beckらの認知療法とKlermanらの対人関係療法を凌いで選択されたという。その経緯は第10章「米国におけるCBASPの登場」に詳しい。

 次は第12章である。認知療法と対人関係療法との比較精神療法論が,病因学/精神病理学と治療目標,さらに治療者の役割,転移の使用,変化を促す動機付け要因の使用,知覚の焦点と行動変容技法から詳述される。結論として,「CBASPの独自性は,慢性うつ病の成人が持つ特有の病理と切り離して理解することはできない(太字:評者)」となる。

 第1部「CBASPと慢性うつ病患者の精神病理」に戻る。慢性うつ病に特有の病理とは認知・情動成熟過程の停止である,とされる。患者は,正常な小児が発達途上で示す,Piagetの前操作的思考の段階に留まっている。前因果論的に考え,周囲の論理的思考から影響を受けず,自己中心的で,共感が欠如し,情動制御が不可能で,自分の行動と外界への影響の関連を認識できない。早発性の慢性うつ病では成熟過程での虐待が病因論的に関与している。そして,患者は自らのうつ病に対し責任がある,という。

 CBASPの概要を読み終え,第2部「CBASPの方法と手順」に進む。前操作的思考を形式操作的思考へと修正し,「こうすれば,ああなる」という思考法に習熟するため,状況分析がなされる。何ごとにも始まりと終わりがある。4コマ漫画を描くように,患者の対人関係場面は切り取られ,登場人物の台詞が書き込まれる。次に,患者の解釈(認知)と行動が確認される。患者の行動がもたらした現実の結果を,患者が期待した結果と比較する作業がこの後に続く。そして,第7章「状況分析の修正段階」となる。

 予定の紙数が尽きそうである。紹介の筆の届かなかった部分を含め,第3世代の認知行動療法CBASPのAからZまでを自家薬籠中の物としたい臨床家に,多くの訳者が関わりながら,大変読みやすい文章になっている本書をぜひ勧めたい。

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