ケースで学ぶ
子どものための精神看護
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- 書評
目次
開く
第1章 子どもの精神科の現状と課題
子どもの精神科のおかれている現状と看護の役割
第2章 知っておきたい子どもの精神疾患
子どもの精神科と関係する疾患
第3章 精神科に共通する対応
1 精神療法
2 作業療法
3 子どもの精神科における薬物治療
4 治療教育プログラム
5 認知発達的対応
6 思春期デイケアにおける援助
第4章 子どもの精神科に求められる看護師の役割
1 入院後の援助と観察
2 社会生活能力への援助
3 退院への援助
4 退院後の訪問看護指導
5 医療チームの調整役
6 安全な環境作り
7 人権の尊重・接遇
8 隔離・拘束
9 子どもの精神科におけるクリニカル・パス
10 家族支援
第5章 ケースで学ぶ子どもによくみられる精神症状
1 変な声が聞こえる,あり得ないことが頭に浮かぶ
(統合失調症の幻覚・妄想)
2 カッときて暴力をふるう(行為障害)
3 身体症状・身体的愁訴がある(不安状態)
4 高揚し他者を巻き込む(双極性気分障害の躁状態)
5 気力がなく入浴できない(統合失調症の意欲欠如)
6 昼夜逆転,朝起きられない(睡眠障害)
7 自傷行為がある(人格障害)
8 他害行為,他児への干渉
9 友だちとの関係がうまくとれない(統合失調症)
10 集団生活に参加できない(アスペルガー症候群)
11 言葉のない患者(自閉症・重度精神遅滞)
12 自殺企図がある
13 身体が動かない(統合失調症の昏迷)
14 社会との交流を避ける(緘黙症)
15 こだわりが強い
16 自閉症のこだわり
17 自閉症の自傷行為
18 集中力に欠ける,集団行動に適応できない(AD/HD)
19 母の関心を引くために極端にやせる(摂食障害)
20 引きこもり,過食に走る(統合失調症)
21 不登校
第6章 子どもの精神科におけるいくつかの問題
1 教育への関わり
2 福祉・保健との連携
3 小児科との連携
4 成人の精神科との連携
参考文献
索引
子どもの精神科のおかれている現状と看護の役割
第2章 知っておきたい子どもの精神疾患
子どもの精神科と関係する疾患
第3章 精神科に共通する対応
1 精神療法
2 作業療法
3 子どもの精神科における薬物治療
4 治療教育プログラム
5 認知発達的対応
6 思春期デイケアにおける援助
第4章 子どもの精神科に求められる看護師の役割
1 入院後の援助と観察
2 社会生活能力への援助
3 退院への援助
4 退院後の訪問看護指導
5 医療チームの調整役
6 安全な環境作り
7 人権の尊重・接遇
8 隔離・拘束
9 子どもの精神科におけるクリニカル・パス
10 家族支援
第5章 ケースで学ぶ子どもによくみられる精神症状
1 変な声が聞こえる,あり得ないことが頭に浮かぶ
(統合失調症の幻覚・妄想)
2 カッときて暴力をふるう(行為障害)
3 身体症状・身体的愁訴がある(不安状態)
4 高揚し他者を巻き込む(双極性気分障害の躁状態)
5 気力がなく入浴できない(統合失調症の意欲欠如)
6 昼夜逆転,朝起きられない(睡眠障害)
7 自傷行為がある(人格障害)
8 他害行為,他児への干渉
9 友だちとの関係がうまくとれない(統合失調症)
10 集団生活に参加できない(アスペルガー症候群)
11 言葉のない患者(自閉症・重度精神遅滞)
12 自殺企図がある
13 身体が動かない(統合失調症の昏迷)
14 社会との交流を避ける(緘黙症)
15 こだわりが強い
16 自閉症のこだわり
17 自閉症の自傷行為
18 集中力に欠ける,集団行動に適応できない(AD/HD)
19 母の関心を引くために極端にやせる(摂食障害)
20 引きこもり,過食に走る(統合失調症)
21 不登校
第6章 子どもの精神科におけるいくつかの問題
1 教育への関わり
2 福祉・保健との連携
3 小児科との連携
4 成人の精神科との連携
参考文献
索引
書評
開く
この本いかがですか?(雑誌『助産雑誌』より)
書評者: 岡本 美和子 (NPO法人びーのびーの・助産師/東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科)
「おめでとうございます!」のその先では,母と子の生活が地域でスタートしている。助産師としての活動が地域に浸透していくに従い,我が子の成長に伴う不安について母親から相談されることが多々ある。「この子の個性」 「成長とともに落ち着く」と返すには躊躇する経験が少なからずある。
本書は,子どもが引き起こす社会問題の増加に伴い,「子どもの精神科看護に関する本が必要ではないか?」という医療現場の声のもと,都立梅が丘病院の看護師が中心となり臨床症例を中心に,病棟だけでなく一般生活上でも有用な対応について記したものだ。症例には,AD/HD(注意欠陥多動性障害)やアスペルガー症候群,睡眠障害,トゥレット症候群,統合失調症,摂食障害といったよく耳にする発達障害・精神障害が多数示されている。そして,その特徴的な症状,臨床場面での看護者の介入や子どもの反応,看護のポイントが,簡潔でありながら温かい気持ちの込もった子どもとのやり取りを通して示されている。
AD/HDと思春期の行為障害で入院して来た少年がいる。病棟で他児と揉め事を起こし暴力を振るう彼に対し,相手と引き離した後の看護師の第一声が「殴ったのにはそれなりに理由があったんだろう」であった。少年は,今まで頻回に起こしてきた暴力行為に対し否定と罰を科せられ続けてきた。社会的に孤立してきた彼にとって,気持ちを汲み取ってくれようとする大人の存在で,興奮が一気にクールダウンする。叱責はせず,しかし暴力に対する曖昧な対応はせず,共感しながら彼自身の振り返りのための援助を行なっていく。その後,彼は嫌なことがあっても「看護師さんと約束したから我慢できた。その時は辛かったけれど,今はそんなことはない」と,素直に気持ちを語る。「約束守ってくれているんだ,うれしいよ。辛い時,頭にきた時は私たちに話すといいよ」と返す看護師との間には,すでに信頼関係が築かれている。
何気ないやり取りであるが,子どもの琴線に触れる言葉はそう容易に発せられるものではない。心の不安を抱えた多くの子どもたちと接することで,日々研ぎ澄まされてきたものであろう。
子どもは皆,大人に褒められたい。しかし,発達障害のある子どもは,その行動の特徴から注意,叱責されることが多く,自己評価が低い。その結果,褒められ,他者との信頼関係を構築してきた経験が少ない。本書に登場する大人たち(医療者たち)には,子どもとの信頼関係を築こうとする一貫した強い意志が流れている。心を込めた対応と十分な時間をかける姿勢,その忍耐強さにはただ脱帽するばかりである。
本書では,心の健康に不安を抱えた子どもたちが回復するためのポイントについて述べられている。1つ目は,心の健康に不安がある時は小児精神科医療を身近に受けることである。「しつけがなってないからなのか」などの思い込みで対応することで,症状が悪化したり親子関係が崩れてしまう事例が少なくないという。2つ目は,家族の安定を図ることである。子どもの示す症状や問題行動で,子どもへの怒り・拒絶,自責の念などの重い荷物を背負っている家族(主に母親)が少なくない。家族の心の安定を図ることで,子どもに「勇気と安心」を与えることにつながるという。3つ目は,子どもの状態に合った環境(安心と自信が得られる場)を整備・提供することである。
子どもは「社会の子ども」である。少々語弊があるが,そういう意識を持つことで,発達障害を抱えた子どもとその家族のみならず,地域で生活する親子に対し,より優しい眼差しで社会における責任ある大人としてかかわりができるのではないだろうか。その結果,親子の心が社会から乖離し,孤立化することを少しでも防ぐことになると考える。
本書で示される子どもへの対応や,その親たちとのかかわり方は,決して臨床現場に限られたことではなく,普段のわれわれの日常生活の上にも広く応用できることに気付かされる。
子どものメンタルヘルスにかかわる方だけでなく,「その先の助産ケア」として地域社会で母と子に寄り添えるためにも,ぜひ多くの助産師に一読していただきたい本である。
(『助産雑誌』2005年8月号掲載)
小児精神科看護は子育ての原点
書評者: 野村 勝子 (多摩病院看護部長)
評者が,都立梅ケ丘病院に看護科長として就任した時の病院内の印象は,それまで看護師として勤務した病院とは異なり,時間がゆったりと流れているように感じた。それまでは1日が8時間では足りないと思うような勤務をしていたので,正直,看護師として「果たしてこれでいいのだろうか」と思ったものである。
小児専門病院に勤務していた時,今でいう「摂食障害」の中学生が入院してきた。家族に重大な疾患があるのではないかと心配され,入院となった患者さんである。食事の時間になっても頑なに拒否され,看護師は,ひたすら食事を勧める働きかけをしていたが,拒食は続いた。次に,心の内でどのような変化が生じたかわからなかったが,「やせすぎだから,食べなくては」と残飯入れの物まで口にするようになった。
現在,その当時のことを省みると,患者さんの心に目が向いておらず,身体症状,検査データで判断し看護をしていたように思う。「拒食」という行動が訴えていたものは何か,看護師に求めていたものは何かなど,この本の中に示唆されており,患者さんを理解することの難しさとともに看護の奥の深さを痛感させられる。
小児精神病院に入院してくる患者さんは,大なり小なり親子関係や家庭内の問題,または学校友人関係等で傷ついている場合がある。入院して,最初は見慣れぬ環境で戸惑い不適応な行動が見られることもあるが,やがて心が安定する場所であることがわかると,看護師の言葉に率直に応じるようになる。小児精神科看護師の役割は,患者さんにとって心安らかな癒しの環境作りであり,これから大人へと成長していくための成人のモデルとなることである。この本は,これらの活動への取り組みがまとめてあるが,小児精神看護に携わる看護師だけでなくとも活用できる内容である。
新任看護師の方,看護学生の方,また患者さんの対応に悩んでいる看護師の方々に,自分の行動について振り返りを行う時,足りなかった部分を省みる時,紐解く本として大いに役立つのではないかと思う。また,教育の場の先生方にも,理解し難い行動をとる児童・生徒の行動を理解する手引書として,大いに活用してもらえばと思う。
子どもの精神看護の流れの中で
書評者: 一瀬 邦弘 (都立豊島病院院長)
東京の世田谷区の住宅地にある都立梅ヶ丘病院は珍しい病院である。
広い中庭のずっと向こうに大きな桜と欅の木が,正面対になって並んでいて学校のようである。“学校のよう”であるのではなく,実は学校でもある。敷地内に分教室という都立学校の小,中学校のクラスがあって,院内学級と呼ばれている。病院に入院しながら,学校生活を過ごすことにもなる。
珍しいのは,子どもの精神科専門病院である点である。精神科専門病院は日本では大人用は32~33万床といわれていて世界でも多い方だが,子ども用は全部あわせても900床に足りず,米国の7分の1とその数は極端に少ない。そうした状況のなかで,梅ヶ丘病院は国内ではもちろん最大の病床数で,スタッフも揃っている。
入院する子どもたちのありようは,社会の歪みを映しだす鏡であると市川院長はいう。戦後の混乱期には“浮浪児”と呼ばれる住むところのない子どもがいて,その中から精神遅滞の子たちが入院の対象となっていた。第1次ベビーブームの子が親となった昭和40年代後半では,自閉症病棟は入院待ちの子どもで溢れた。その後“不登校”が社会的問題となり,家庭内暴力など思春期の問題が話題となった。“不登校”の子どもの多くは,時を経てやがて学歴社会の呪縛から解き放たれると元気に社会に復帰していった。
ここ数年はいわゆる“軽度の心理的発達障害”が社会問題となっている。少子化の現象の中で,家でも保育園でも学校でも子どもに対する周囲の者たち,つまり祖父母に親たち,保母さんたち,先生たちの注目はますます集中している。かつて中国でも一人っ子政策下で,小児の発達異常の検出力は異常に高まっていた。いま親たちのアイデンティティの不確かさを反映しているのか,こうした問題が増えているようである。そして親たちの過大な期待に応えようとする努力が挫折したとき,多くの問題が一挙に噴出する。
こうしたわけで都立梅ヶ丘病院への期待はますます高まっている。ここから巣立った人材,つまり小児精神科医や小児精神科看護師,児童心理学士への期待も増している。梅ヶ丘病院での看護の症例経験と実践が上梓されなければならない理由でもある。
本書でもっとも力を注いでいるのが,“ケースで学ぶ子どもによくみられる精神症状”の章である。量的にも全体の56%を占めている。どの精神症状もやさしい症例の紹介,場面の説明,看護の視点,看護のポイントの順に説かれている。
こうした具体的な精神症状の対応を,空気のような治療的雰囲気をかもしながら“流れの中で”説明してある点が,本書を推奨する最大の理由である。
心理療法の泰斗である河合隼雄氏が,“赤い自転車を買ってもらったことを転機にして学校に行きだした事例を読んで,うちの子にも赤い自転車を買ってやったのにちっとも学校に行かないと苦情を言われた”と述べていた。本書では“赤い自転車”が,どのような子に,どのようないきさつで,誰によって,どのような口調で,どのように,いくらで買ってもらったかが,くどいようにその“流れの中で”書いてある。
ここまで,懇切丁寧に一般の状況と,個別の特殊性が説明されているので,“赤いのではく,青い自転車”でもよいのか悪いのかは自ずと明らかになる。精神科看護の実践についての本では,読者である看護師が,自分の病院の,自分の受け持ちの患者さんに,この本の中身の台詞を応用してもよいかどうか,こうした点がもっとも重要なのである。
子どもの精神科から離れて,大人の精神科ばかりやってきた評者は,ちょうど長屋の熊さんと同様の門外漢であるが,こうした本書を読んで,昨夜入院してきたあの娘さんはひょっとして元々の発達障害であったのではないかなどと,考えさせられるきっかけとなる本である。一読を推奨したい。
小児精神看護の道標
書評者: 白石 洋子 (都立松沢病院看護部長)
現代社会が抱える複雑な環境や社会が,大きなひずみとなって現われる児童期・思春期にある子どもたちの「心の病」は,今,大きな社会問題となっています。
子どもの場合は,必ずといってよいほど親子の問題や家庭内の問題に突き当たります。そこで,子どもの感情・思考・行動特性を正しく理解し,保護者との関係を良好に保つことが看護していくうえで大切となってきます。
小児・児童精神看護は,成長発達途上にある子どもたちが,それぞれの発達課題を達成できるよう親や教師と協力し合いながら,子どもたちが自立できるよう関わっていかなければならない大変な仕事です。
本書は「子どものための精神看護」を詳しく解説してくれています。著者は,児童・思春期の小児精神医療を専門とする都立梅ヶ丘病院に勤務する医師・看護師等です。子どもの精神医療の場合,専門病棟を持つ病院はあまり多くなく,専門スタッフも少ない状況にあります。そこで多くの経験から得られた知識・看護技術を系統的にまとめた本であるといえます。
本書は,6章から構成されており,1章から3章までは,子どもの精神科を取り巻く現状や子どもの精神疾患とその対応等について,4章では,求められる看護師の役割,5章では,子どもにみられる精神症状への対応がケースを通じてまとめられ,6章は子どもの精神科における様々な問題についての構成になっています。
各章は,それぞれ独立しているようですが,順に読み進めていくうちに,子どもの精神症状への関わりへの理解が深まっていくように構成されています。特に,5章は,子どもの様々な精神症状に対して,臨床現場で応用できる看護の視点と具体的なプランや看護のポイントが詳細に表記されています。
つまり,よくみられる精神症状の色々な場面を設定して,その時看護者がどのように介入していけばよいかが,わかりやすく表現されているのです。
統合失調症,気分障害,神経性障害,発達障害など,子どもの「心の病」は,同一疾病でも,その現われる症状には統一性がなく,まったく違う症状を示すことが多いと言われています。そこに,小児精神医療の難しさがあり,一人ひとりの症状やその背景が違うなかで,これまで試行錯誤的に,看護者の工夫でもって子どもたちに関わってきた方々には,この本は真の道標となるでしょう。
小児・児童精神医学の分野は,今後ますますその重要性は増してきます。児童・思春期の精神科の看護において,発達途上にある子どもたちが,健全に発育していくことをサポートし,子どもたちとの心の交流を深めることの重要性をこの本から学ぶことができると思います。
書評者: 岡本 美和子 (NPO法人びーのびーの・助産師/東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科)
「おめでとうございます!」のその先では,母と子の生活が地域でスタートしている。助産師としての活動が地域に浸透していくに従い,我が子の成長に伴う不安について母親から相談されることが多々ある。「この子の個性」 「成長とともに落ち着く」と返すには躊躇する経験が少なからずある。
本書は,子どもが引き起こす社会問題の増加に伴い,「子どもの精神科看護に関する本が必要ではないか?」という医療現場の声のもと,都立梅が丘病院の看護師が中心となり臨床症例を中心に,病棟だけでなく一般生活上でも有用な対応について記したものだ。症例には,AD/HD(注意欠陥多動性障害)やアスペルガー症候群,睡眠障害,トゥレット症候群,統合失調症,摂食障害といったよく耳にする発達障害・精神障害が多数示されている。そして,その特徴的な症状,臨床場面での看護者の介入や子どもの反応,看護のポイントが,簡潔でありながら温かい気持ちの込もった子どもとのやり取りを通して示されている。
AD/HDと思春期の行為障害で入院して来た少年がいる。病棟で他児と揉め事を起こし暴力を振るう彼に対し,相手と引き離した後の看護師の第一声が「殴ったのにはそれなりに理由があったんだろう」であった。少年は,今まで頻回に起こしてきた暴力行為に対し否定と罰を科せられ続けてきた。社会的に孤立してきた彼にとって,気持ちを汲み取ってくれようとする大人の存在で,興奮が一気にクールダウンする。叱責はせず,しかし暴力に対する曖昧な対応はせず,共感しながら彼自身の振り返りのための援助を行なっていく。その後,彼は嫌なことがあっても「看護師さんと約束したから我慢できた。その時は辛かったけれど,今はそんなことはない」と,素直に気持ちを語る。「約束守ってくれているんだ,うれしいよ。辛い時,頭にきた時は私たちに話すといいよ」と返す看護師との間には,すでに信頼関係が築かれている。
何気ないやり取りであるが,子どもの琴線に触れる言葉はそう容易に発せられるものではない。心の不安を抱えた多くの子どもたちと接することで,日々研ぎ澄まされてきたものであろう。
子どもは皆,大人に褒められたい。しかし,発達障害のある子どもは,その行動の特徴から注意,叱責されることが多く,自己評価が低い。その結果,褒められ,他者との信頼関係を構築してきた経験が少ない。本書に登場する大人たち(医療者たち)には,子どもとの信頼関係を築こうとする一貫した強い意志が流れている。心を込めた対応と十分な時間をかける姿勢,その忍耐強さにはただ脱帽するばかりである。
本書では,心の健康に不安を抱えた子どもたちが回復するためのポイントについて述べられている。1つ目は,心の健康に不安がある時は小児精神科医療を身近に受けることである。「しつけがなってないからなのか」などの思い込みで対応することで,症状が悪化したり親子関係が崩れてしまう事例が少なくないという。2つ目は,家族の安定を図ることである。子どもの示す症状や問題行動で,子どもへの怒り・拒絶,自責の念などの重い荷物を背負っている家族(主に母親)が少なくない。家族の心の安定を図ることで,子どもに「勇気と安心」を与えることにつながるという。3つ目は,子どもの状態に合った環境(安心と自信が得られる場)を整備・提供することである。
子どもは「社会の子ども」である。少々語弊があるが,そういう意識を持つことで,発達障害を抱えた子どもとその家族のみならず,地域で生活する親子に対し,より優しい眼差しで社会における責任ある大人としてかかわりができるのではないだろうか。その結果,親子の心が社会から乖離し,孤立化することを少しでも防ぐことになると考える。
本書で示される子どもへの対応や,その親たちとのかかわり方は,決して臨床現場に限られたことではなく,普段のわれわれの日常生活の上にも広く応用できることに気付かされる。
子どものメンタルヘルスにかかわる方だけでなく,「その先の助産ケア」として地域社会で母と子に寄り添えるためにも,ぜひ多くの助産師に一読していただきたい本である。
(『助産雑誌』2005年8月号掲載)
小児精神科看護は子育ての原点
書評者: 野村 勝子 (多摩病院看護部長)
評者が,都立梅ケ丘病院に看護科長として就任した時の病院内の印象は,それまで看護師として勤務した病院とは異なり,時間がゆったりと流れているように感じた。それまでは1日が8時間では足りないと思うような勤務をしていたので,正直,看護師として「果たしてこれでいいのだろうか」と思ったものである。
小児専門病院に勤務していた時,今でいう「摂食障害」の中学生が入院してきた。家族に重大な疾患があるのではないかと心配され,入院となった患者さんである。食事の時間になっても頑なに拒否され,看護師は,ひたすら食事を勧める働きかけをしていたが,拒食は続いた。次に,心の内でどのような変化が生じたかわからなかったが,「やせすぎだから,食べなくては」と残飯入れの物まで口にするようになった。
現在,その当時のことを省みると,患者さんの心に目が向いておらず,身体症状,検査データで判断し看護をしていたように思う。「拒食」という行動が訴えていたものは何か,看護師に求めていたものは何かなど,この本の中に示唆されており,患者さんを理解することの難しさとともに看護の奥の深さを痛感させられる。
小児精神病院に入院してくる患者さんは,大なり小なり親子関係や家庭内の問題,または学校友人関係等で傷ついている場合がある。入院して,最初は見慣れぬ環境で戸惑い不適応な行動が見られることもあるが,やがて心が安定する場所であることがわかると,看護師の言葉に率直に応じるようになる。小児精神科看護師の役割は,患者さんにとって心安らかな癒しの環境作りであり,これから大人へと成長していくための成人のモデルとなることである。この本は,これらの活動への取り組みがまとめてあるが,小児精神看護に携わる看護師だけでなくとも活用できる内容である。
新任看護師の方,看護学生の方,また患者さんの対応に悩んでいる看護師の方々に,自分の行動について振り返りを行う時,足りなかった部分を省みる時,紐解く本として大いに役立つのではないかと思う。また,教育の場の先生方にも,理解し難い行動をとる児童・生徒の行動を理解する手引書として,大いに活用してもらえばと思う。
子どもの精神看護の流れの中で
書評者: 一瀬 邦弘 (都立豊島病院院長)
東京の世田谷区の住宅地にある都立梅ヶ丘病院は珍しい病院である。
広い中庭のずっと向こうに大きな桜と欅の木が,正面対になって並んでいて学校のようである。“学校のよう”であるのではなく,実は学校でもある。敷地内に分教室という都立学校の小,中学校のクラスがあって,院内学級と呼ばれている。病院に入院しながら,学校生活を過ごすことにもなる。
珍しいのは,子どもの精神科専門病院である点である。精神科専門病院は日本では大人用は32~33万床といわれていて世界でも多い方だが,子ども用は全部あわせても900床に足りず,米国の7分の1とその数は極端に少ない。そうした状況のなかで,梅ヶ丘病院は国内ではもちろん最大の病床数で,スタッフも揃っている。
入院する子どもたちのありようは,社会の歪みを映しだす鏡であると市川院長はいう。戦後の混乱期には“浮浪児”と呼ばれる住むところのない子どもがいて,その中から精神遅滞の子たちが入院の対象となっていた。第1次ベビーブームの子が親となった昭和40年代後半では,自閉症病棟は入院待ちの子どもで溢れた。その後“不登校”が社会的問題となり,家庭内暴力など思春期の問題が話題となった。“不登校”の子どもの多くは,時を経てやがて学歴社会の呪縛から解き放たれると元気に社会に復帰していった。
ここ数年はいわゆる“軽度の心理的発達障害”が社会問題となっている。少子化の現象の中で,家でも保育園でも学校でも子どもに対する周囲の者たち,つまり祖父母に親たち,保母さんたち,先生たちの注目はますます集中している。かつて中国でも一人っ子政策下で,小児の発達異常の検出力は異常に高まっていた。いま親たちのアイデンティティの不確かさを反映しているのか,こうした問題が増えているようである。そして親たちの過大な期待に応えようとする努力が挫折したとき,多くの問題が一挙に噴出する。
こうしたわけで都立梅ヶ丘病院への期待はますます高まっている。ここから巣立った人材,つまり小児精神科医や小児精神科看護師,児童心理学士への期待も増している。梅ヶ丘病院での看護の症例経験と実践が上梓されなければならない理由でもある。
本書でもっとも力を注いでいるのが,“ケースで学ぶ子どもによくみられる精神症状”の章である。量的にも全体の56%を占めている。どの精神症状もやさしい症例の紹介,場面の説明,看護の視点,看護のポイントの順に説かれている。
こうした具体的な精神症状の対応を,空気のような治療的雰囲気をかもしながら“流れの中で”説明してある点が,本書を推奨する最大の理由である。
心理療法の泰斗である河合隼雄氏が,“赤い自転車を買ってもらったことを転機にして学校に行きだした事例を読んで,うちの子にも赤い自転車を買ってやったのにちっとも学校に行かないと苦情を言われた”と述べていた。本書では“赤い自転車”が,どのような子に,どのようないきさつで,誰によって,どのような口調で,どのように,いくらで買ってもらったかが,くどいようにその“流れの中で”書いてある。
ここまで,懇切丁寧に一般の状況と,個別の特殊性が説明されているので,“赤いのではく,青い自転車”でもよいのか悪いのかは自ずと明らかになる。精神科看護の実践についての本では,読者である看護師が,自分の病院の,自分の受け持ちの患者さんに,この本の中身の台詞を応用してもよいかどうか,こうした点がもっとも重要なのである。
子どもの精神科から離れて,大人の精神科ばかりやってきた評者は,ちょうど長屋の熊さんと同様の門外漢であるが,こうした本書を読んで,昨夜入院してきたあの娘さんはひょっとして元々の発達障害であったのではないかなどと,考えさせられるきっかけとなる本である。一読を推奨したい。
小児精神看護の道標
書評者: 白石 洋子 (都立松沢病院看護部長)
現代社会が抱える複雑な環境や社会が,大きなひずみとなって現われる児童期・思春期にある子どもたちの「心の病」は,今,大きな社会問題となっています。
子どもの場合は,必ずといってよいほど親子の問題や家庭内の問題に突き当たります。そこで,子どもの感情・思考・行動特性を正しく理解し,保護者との関係を良好に保つことが看護していくうえで大切となってきます。
小児・児童精神看護は,成長発達途上にある子どもたちが,それぞれの発達課題を達成できるよう親や教師と協力し合いながら,子どもたちが自立できるよう関わっていかなければならない大変な仕事です。
本書は「子どものための精神看護」を詳しく解説してくれています。著者は,児童・思春期の小児精神医療を専門とする都立梅ヶ丘病院に勤務する医師・看護師等です。子どもの精神医療の場合,専門病棟を持つ病院はあまり多くなく,専門スタッフも少ない状況にあります。そこで多くの経験から得られた知識・看護技術を系統的にまとめた本であるといえます。
本書は,6章から構成されており,1章から3章までは,子どもの精神科を取り巻く現状や子どもの精神疾患とその対応等について,4章では,求められる看護師の役割,5章では,子どもにみられる精神症状への対応がケースを通じてまとめられ,6章は子どもの精神科における様々な問題についての構成になっています。
各章は,それぞれ独立しているようですが,順に読み進めていくうちに,子どもの精神症状への関わりへの理解が深まっていくように構成されています。特に,5章は,子どもの様々な精神症状に対して,臨床現場で応用できる看護の視点と具体的なプランや看護のポイントが詳細に表記されています。
つまり,よくみられる精神症状の色々な場面を設定して,その時看護者がどのように介入していけばよいかが,わかりやすく表現されているのです。
統合失調症,気分障害,神経性障害,発達障害など,子どもの「心の病」は,同一疾病でも,その現われる症状には統一性がなく,まったく違う症状を示すことが多いと言われています。そこに,小児精神医療の難しさがあり,一人ひとりの症状やその背景が違うなかで,これまで試行錯誤的に,看護者の工夫でもって子どもたちに関わってきた方々には,この本は真の道標となるでしょう。
小児・児童精神医学の分野は,今後ますますその重要性は増してきます。児童・思春期の精神科の看護において,発達途上にある子どもたちが,健全に発育していくことをサポートし,子どもたちとの心の交流を深めることの重要性をこの本から学ぶことができると思います。
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