今日の小児診断指針

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子どもの病気を正確に診断するために必要な知識,ノウハウ,ガイドラインや診断基準などを読者に的確に提示することを目的とした書。第一線の専門家が豊かな経験を開示し,加えて,心の問題,慢性疾患患児のcarry overにおける問題など,現代の小児科医ならではの新しい問題にも答えた。新編集・執筆体制による全編書き下ろし。
編集 五十嵐 隆 / 大薗 惠一 / 高橋 孝雄
発行 2004年07月判型:B5頁:716
ISBN 978-4-260-11924-5
定価 17,050円 (本体15,500円+税)

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  • 目次
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Chapter1 正常発達の評価
Chapter2 バイタルサインの見方・取り方
Chapter3 症候編
 A 全身症候
 B 頭部・中枢神経系の症候
 C 心因性の症候
 D 顔面・頸部・口腔の症候
 E 脊椎・四肢・関節系の症候
 F 呼吸・循環器系の症候
 G 腹部・消化器系の症候
 H 腎・泌尿器系の症候
 I 外性器と性成熟の症候
 J 新生児の症候
Chapter4 検査編(検査値・検査結果)
 A 血液検査
 B 髄液
 C 尿
 D 各種培養
 E 細菌・ウイルス感染症の迅速診断
 F 生理検査
 G 病理検査
 H 画像検査
 I 心理検査
 J 知能検査
付録 診断基準
索引

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21世紀の小児医療の方向性を示す改訂版
書評者: 松尾 宣武 (国立成育医療センター名誉総長)
 医学書院の「今日の小児治療指針」の姉妹書,「今日の小児診断指針」は,東京慈恵会医科大学小児科,前川喜平教授を中心に,白木和夫,土屋裕両教授の企画・編集により,昭和63年2月,第1版が刊行された。爾来十数年,広く人口に膾炙し実地医家の標準的テキストとしての評価を確立したことは欣快に堪えない。

 このたび,わが国の小児科学会の新しいリーダーである,五十嵐隆教授,大薗惠一教授,高橋孝雄教授を企画・編集者として,「今日の小児診断指針 第4版」が刊行の運びとなったことは,小児医療の国際化・標準化が強く求められる現在,まことに時宜に適うものであり,関係者の労に敬意を表したい。

 一読して,本書は,新しい企画・編集者の意図や計画が相当程度生かされた意欲的なテキストであると思う。第一に,小児医療の新しい問題,いわゆるsocial morbidityやco―morbidities,carry―overを含む,小児精神保健に関連する問題がより強調されている。この視点は症候編,検査編,診断基準のすべての章にわたる。第二に,検査編において,臨床検査の構成が見直され,血液検査以外の分野がより強調された。このため,一層実用性の高い情報源となったと思われる。第三に,各種疾患の診断基準について,広汎な情報が集約されている。この情報の包括性は,general pediatricsの診療に従事する一般小児科医にとっても,また種々の専門分野の診療に従事するサブスぺシャリストにとっても有用である。本書の個性・魅力の主要部分と思われる。

 最後に,本書改訂版を一層informativeにするため,2,3提案したい。第一に,基準値について日本人の基準値を可能な限り採用することを目指していただきたいと思う。日本人小児の基準値が存在しない項目が決して少なくないことは,われわれ小児医療に従事する関係者全員の責任であるが,本書が問題解決の起爆剤となることを期待したい。第二に,臨床検査の基準値に関わる,検査方法,検査施設を併記することが望ましいと思う。いうまでもなく,臨床検査の基準値は,採用した検査方法,実施検査施設により,大きく異なる。各執筆者が記述する基準値が何を意味しているか,明確にする必要がある。原則的に,施設の基準値が確立した医療機関に所属する医師を執筆者とすることを考慮すべきかもしれない。第三に,本書の中核読者層を明確にすることが望ましいかもしれない。中核読者層を,小児科専門医とするのか,小児医療に従事する内科・小児科医を含む家庭医とするのか,本書の進化・発展に期待したい。

 本書は,21世紀のわが国小児医療をリードする三教授による,極めて意欲的な小児の診断指針に関するテキストである。わが国の小児医療の方向性を示す好著として,ここに,広く推薦したい。

小児患者に接するあらゆる場面で役に立つ
書評者: 横田 俊平 (横浜市大教授・発生成育小児医療学)
◆質の向上が期待されている小児科医

 最近の合計特殊出生率は1.29にまで落ち込み,少子化対策は待ったなしの状況にあるが,この事態は母親から子育ての経験がどんどん奪われていることを示しており,その分小児科医が子育て支援に大きくかかわる状況を生んでいる。したがって小児科医の“質の向上”が期待される世の中となり,小児医療は学問的にも実践的にも身近な症候から病態,診断を探し当てていく姿勢と,一方で高次先端医療に必要とされる知識,医療技術を身に付けていく姿勢との両方が求められるようになった。

 学生や研修医が,小児科学の膨大な知識をすべて吸収することは不可能である。教育の場で成し得ることは,診察技術を徹底して身に付けさせ判断の足場を確立させること,病態の説明を論理的に行いその論理に普遍性をもたせること,細かな知識ではなく曖昧な所見や情報からおおづかみに疾患の流れる方向を把握でき,その流れから疾患の細部へ攻め込む能力を磨いていく姿勢を培うこと,などかと考えている。

◆基礎的かつ実践的知識の辞書的役割を果たす

 知識は力である。しかし知識として大切なことは,疾患の全体を見渡せる洞察力に直接かかわる知識であることであり,末梢的な知識はつねに流れていくものであってそれはその場その場で,例えばインターネットで検索すれば済むことである。また多忙な小児科医にとって,基本的な知識の確認をつねに実行していく姿勢が重要であり,臨床の現場で間違いのない判断を下していくに際して,その確認をしようとする努力は大切である。そしてその確認に耐え得る辞書的書物はおおいに助けになるはずである。

 本書はすでに第4版を上梓し,これまでこのような基礎的かつ実践的知識の辞書的役割を果たしてきた唯一の書物である。本書は初版より大きく2部の構成で,「症候編」と「検査編」とから成り立っており,その内容はさらに充実したものとなっている。さらに今回は,付録として小児疾患に用いられる種々の「診断基準」が加えられていることに特徴がある。現在,諸専門分野で用いられている「診断基準」が一挙に掲載されていることにより,本書の辞書的役割が飛躍的に向上している。編者の方々の慧眼に敬意を表すべきであろう。

 本書は小児科外来,あるいは病棟の手の届くところに置いて使うものであり,その方法で用いることにより真価を発揮するものである。また必ずしも小児科外来だけでなく,救急医療の現場や,他科専門医が子どもの患者に接してあらためて手にする場面でもおおいに力を発揮するだろう。「症候編」は鑑別疾患を見逃さないためにきわめて有用であろうし,「検査編」は小児に特有の変化を確認するのに必須である。大幅に改善された第4版の本書を推す。

小児の症候学,臨床検査医学の教科書としての風格
書評者: 山野 恒一 (大阪市大教授・発達小児医学)
◆第3版に感じた物足りなさを払拭

 本書は「今日の小児治療指針」とペアで企画され,1988年2月に初版が発行された。本書第4版は5年ぶりの改訂である。これまで本書の編集企画は小児科学会のベテランの先生が携わってこられたが,今回は若さあふれる新進気鋭の先生が担当され,随所に新しい企画が盛り込まれ,新鮮な思いで本書を読ませていただいた。

 書名のごとく,本書は臨床の場で小児疾患の診断に役立つ書として世に出された。多くの小児科医は目前におられる患者さんの診断に関する知識を確認するために本書をよく利用されてきたのではないかと思う。確かに,本書第3版は限られたスペースに小児疾患の診断に役立つ項目を的確に選び,明瞭簡潔に記載されているが,実際使用してみると何か不足を感じていたのは私だけではなかったと思う。

 第4版の構成は“正常発達の評価”,“バイタルサインの見方・取り方”,“症候編”,“検査編”の4章からなり,小児の139疾患の診断基準,診断の手引きが付録として掲載されている。第4版で特筆すべき点は検査編の中に,各種培養,細菌・ウイルス感染症迅速診断,生理検査,病理検査,心理検査,知能検査の6項目が新たに追加されたことである。これらは小児科臨床の現場で重要な項目であるが,第3版では取り扱われていなかった。第3版で抱いていた物足りなさはこの点であった。

◆追加された重要項目

 新しく追加された項目をもう少し詳しくご紹介したい。一般小児科臨床で頻度の多い疾患は感染症である。「各種培養」の項目では検体採取から検査室へ検体を届けるまでの方法,および各検査で検出された細菌,真菌の解釈について具体的に記載されている。また,疑われる疾患に対して,検査材料をどこから採取すればよいのか,どのような起炎菌が多いかを示す一覧表は臨床現場で働く小児科医に有益な診断的情報を提供してくれるものと思われる。また,「細菌・ウイルス感染症迅速診断」の項目では日常の小児科診療においてベッドサイドで使用頻度の高い迅速診断キットについて,ていねいに説明されている。「生理検査」の項目では心電図,呼吸機能検査,脳波,筋電図―神経伝達速度,起立試験が取り上げられ,異常所見とその解釈について理解しやすく説明されている。「病理検査」の項目では骨髄,肝,腎,筋,皮膚,消化管粘膜,気管支・肺の生検材料の処理の仕方,所見の解釈の仕方,各疾患の特徴的所見について記載されている。心理検査は一般の小児科医にとっては馴染みの薄いものが多い。しかし,「心理検査」の項目ではどのような子どもにどのような検査を施行すればよいのか,また,その解釈についても,比較的理解しやすく説明されている。

 このほか第3版でも取り上げられていた画像診断の項目はページ数が増加し,45ページとなっており,各疾患に特異的画像とその説明がなされている。本書第4版は小児科の臨床現場での知識確認に使用するだけでなく,知識を整理する意味で通読することもお勧めしたい。また,本書は小児の症候学,臨床検査医学の教科書としての風格を漂わせているように私には感じられた。

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