産科臨床ベストプラクティス
誰もが迷う93例の診療指針

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教科書の知識がなければ診療はできないが,教科書に記載されている基礎的知識のみでは診療の幅を狭めることになる。またエビデンスがしっかりしている事項は,それに立脚した診療方針を立てることが正道であるが,臨床の最前線では明瞭なエビデンスのない事態に遭遇することがまれではない。本書には,EBMの弱点を補完し,産科医師の日頃の疑問や悩みを解決する指針が示されている。
編集 岡井 崇
発行 2004年04月判型:B5頁:352
ISBN 978-4-260-13068-4
定価 8,580円 (本体7,800円+税)
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  • 目次
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I. 妊娠中のプロブレム
 (1) 初期の超音波所見
 (2) 初期の異常妊娠
 (3) 感染症の管理
 (4) 切迫早産・破水
 (5) 偶発徴候・合併症
 (6) 胎児の異常所見
 (7) 胎盤・臍帯・羊水の異常所見
 (8) 妊娠管理の方針
II. 分娩・産褥期のプロブレム
 (1) 分娩経過の異常
 (2) 胎児心拍数の異常
 (3) 分娩時の出血・裂傷
 (4) 分娩方針の決定
 (5) 帝王切開
 (6) 産褥経過の異常
 (7) 治療におけるトラブル
キーワード索引
和文索引
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産科医療に従事するすべての医療者が著者の経験を共有できる
書評者: 佐世 正勝 (山口大助教授・周産母子センター)
◆治療をうまく進めるための“こつ”

 これまで,若い研修医は先輩医師と昼食や酒席をともにするなかで,先輩の武勇伝を聞き,困ったときや緊急時の対応を耳学問してきた。しかし最近では,EBM(evidence based medicine)という言葉に象徴されるように,個人の経験よりも多くの症例から導き出された結果にしたがって医療を行うことが主流となっている。確かに方向性は間違ってはいないかもしれないが,実際の臨床事象におけるさまざまな細かな事柄は削ぎ落とされており,直接,結果を臨床に応用することには無理がある。この削ぎ落とされたもののなかに治療をうまく進めていくためのちょっとした“こつ”が含まれているように思う。一般化することは難しいかもしれないが,個々の症例に具体的に対応していく際に必要になる。本書は,診療を行っていくときに出会ってしまった「困った事柄」について,ベテランの先輩から“こつ”を聞くような本である。したがって,教科書のようにすべてが網羅されているわけではないが,診療をしながら困ったときに先輩に意見を求めるようなつもりで本書を開いたり,ちょっと時間が空いたときにお茶でも飲みながら拾い読みするのもよいかもしれない。

◆臨床現場ですぐに役立つ

 本書は,表題にあるように93の症例から構成され,妊娠中のプロブレムと分娩・産褥期のプロブレムの2つに大きく分けられている。「I.妊娠中のプロブレム」では,61症例が,初期の超音波所見,初期の異常妊娠,感染症の管理,切迫早産・破水,偶発徴候・合併症,胎児の異常所見,胎盤・臍帯・羊水の異常所見,妊娠管理の方針に大きく分類されている。また,「II.分娩・産褥期のプロブレム」には,残りの32症例が,分娩経過の異常,胎児心拍数の異常,分娩時の出血・裂傷,分娩方針の決定,帝王切開,産褥経過の異常,治療におけるトラブルに分けられている。このように,見出しから必要な項目を探すことができるだけでなく,巻末には豊富な索引が設けられており,キーワードからも求める箇所に到達できるように配慮されている。教科書にも負けないような充実した構成となっている。また,症例の記載形式は,「診療の概要」「治療方針」「対処の実際」「ここがポイント」といった具合に,必要に応じて拾い読みができるようになっていて,「とりあえず」あるいは「すぐに」知りたい場合にも役立つようになっている。

 具体的に説明すると,本書には日常臨床で出会いそうな症例やトラブルが重点的に採用されている。今,話題となっているHCVや風疹が最も新しい情報をもとに,直ちに臨床に応用できる形式で記載されている。また,産科診療のなかで最もやっかいな病態である切迫早産・破水についても臨床に即した適切な記載がなされており,すぐにでも臨床応用可能である。しかし,「破水の診断」「絨毛膜羊膜炎」「頸管長計測」のわずか3稿しかなく,preterm PROMの管理についての記載も欲しいところである。「II.分娩・産褥期のプロブレム」は,いずれの項目も臨床に直結しており,内容も充実している。特に,胎児心拍数の異常に対する対応は,臨床的に最も悩む判断の1つである。日母ME委員会の報告にしたがうことが基本であると考えるが,必ずしもいつも臨床的に正しいとはいえない。胎児心拍数の異常の稿では,さまざまな報告と著者の経験から,現実的な対応が導き出されている。

 ほとんどの症例で,実際に著者が行った経験などをふまえた“こつ”が呈示されている。解説には視覚的に理解しやすい写真や図表が用いてあり,読者への配慮がなされている。また,ポイントを押さえた適切な文献の引用は,読者がさらに詳しく知りたい場合の手がかりとなっている。本書は,産科診療に従事するすべての医療者に著者と同様の経験を共有させてくれる良書である。

産婦人科医にとっての日頃の診療の悩みを解決する
書評者: 岡村 州博 (東北大教授・産婦人科)
◆「臨床は奥が深い」

 昭和大学医学部産婦人科 岡井崇教授の編集になる『産科臨床ベストプラクティス』を読む機会を得た。特に副題にある「誰もが迷う93例の臨床指針」,また帯にある「産科臨床におけるベストプラクティスを実現させるために」という言葉に興味を抱いて開いてみた。

 “まえがき”の最初に「臨床は奥が深い」とある。臨床に携わる誰しもが持っている実感である。昨今,世界的な流れとして,EBMに基づく診療が強調されている。EBMは大切な概念であり,EBMのレベルまで決められ,それがあたかも診療行為のスタンダードであるかのように考えられている。しかし,果たして臨床がすべてEBMで解決するかというと,そのようなことはない。

 まえがきの中段から岡井教授が述べているように,エビデンスというには症例が少なく統計的な処理ができないけれども,大変大切な診療行為があることは誰しも認めることである。診療の“コツ”と称していいかもしれない。臨床に長く携わっている医師であれば,このコツを1つや2つは必ず持っているものであり,これは実際にその医師のもとで学ばなければ奥義は明らかにできないものもある。誰もが迷う症例のなかにスタンダードでは解決できない問題が多々あるわけであるが,本書では各領域のスペシャリストと称される方々が惜しげもなくこのコツを披露し,EBMとともにこのコツを包含した診療指針を述べている。まさに,“ベストプラクティス”と呼べるものであろう。

◆臨床現場で常に参照できる

 特に使いやすい点は,各項目にキーワードがあり,これに加えて実際に困った事項が具体的に記載されていることである。これは岡井教授が自身の長い臨床経験から実際の現場で困った内容をそのまま言葉として表したものと拝察した。若い産婦人科医が患者さんを目の前にして,考えに困窮したときに本書を開いてみると,そこには解決策があり,“ほっ”とする気持ちになるのではないだろうか。

 また感心した点は,各項目の最後に「ここがポイント」として記載されている事項が大変有用であるということである。特に昨今は,どのような診療行為に対してもインフォームド・コンセントの徹底などが周知されているところであるが,患者さんの立場に立って,どのような説明をすべきか,またどのような行為は避けるべきであるかなど,実際の診療行為を補完する大切な事項も盛り込んである。さらに,それぞれの内容を深く理解するうえで末尾に参考文献が記載されている点は,若い医師には都合がよい。

 以上のような新しい視点を持って書かれた本書を臨床現場で常に参照できることは,日頃の診療の悩みを解決する有効な手段であると確信し,推薦するものである。

産科学のほぼ全領域を網羅
書評者: 武谷 雄二 (東京大教授・産科婦人科)
 医学は歴史的には個々の症状,病態,その経過を集約し,帰納化して大系としてまとめたものである。その過程で個別的なバラツキや多様な背景といったことは敢えて捨象せざるを得ないことになり,これゆえ逆に,いわゆる教科書に整然と分類化され記述されている“医学”は,いわばあらゆる食材を取り揃えた貯蔵室ではあるが,実際に個々人に食してもらうには加工・調理が必要ということになる。

 昨今重視されているevidence based medicine(EBM)も,多様な個別的状況に恣意的なバリエーションを持たせた対象において,厳格な疫学的手法を用い,得られたデータをもとに診療を行うというポリシーであり,そのデータ自体の意義には学術的,科学的には異をさしはさむものではない。しかし見方をかえて,そのようにして得られた“データ(エビデンス)”が個々の事例にそのまま適用できるかというと,“エビデンス”を作出したプロセスからみても否といわざるを得ない。

◆臨床現場で高頻度にみられる実例に則した解説

 本書は現存の成書が抱えるこのような共通の問題点に対して発想の転換をはかったものであり,臨床の現場に日々従事する者にとって久しく待望されていた臨床に直結する指南書といえる。前述の比喩を用いるならば,美味しく調理された,そのまま食べられる料理といえる。

 特に産科学は母体と児の両者を同時に扱い,妊娠週数によって状況は激変し,さらに妊娠,分娩時,産褥といった非連続の現象が順次進行するといった他領域に例をみない特徴を有している。したがって,必然的に産科学の診療指針は本書の構成のようにやや分散的にはなるが,臨床の現場で高頻度にみられる実例に則して解説するほうがより実践的といえる。

 本書の内容は,具体的には妊娠初期の異常と超音波診断,母児感染,切迫早産,妊娠の合併症,胎児およびその付属物の異常,妊娠・分娩管理のdecision making,分娩の異常,帝王切開,産褥期の問題といった産科学のほぼ全領域を網羅したものである。

 産科学の実践は特に経験を積むことが不可欠であるが,本書の執筆者はいずれもこの領域の経験豊かな専門家諸氏であり,各自の豊富な経験に基づいたオーソドックスな見解を示しており,産科診療のゴールドスタンダードといえるものである。

 本書は産科の研修医のみならず産科医,助産師,看護師など産科診療に従事する者すべてに活用できるものと確信している。

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