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作業療法がわかる
COPM・AMPSスターティングガイド

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「作業療法って何だろう、作業が療法になるのは、どうしてだろう」―学生時代からずっと疑問を抱えてきた気鋭の著者が巡り合ったのは、作業科学のための評価ツール、COPM(シーオーピーエム:カナダ作業遂行測定)と、AMPS(アンプス:運動とプロセス技能の評価)だった。欧米から発し、世界各国の事情に根ざした発展を遂げ、作業療法の効果を他職種に示す基準となるこの臨床の物差しをわかりやすく伝える、すべてのOTの明るい未来のための1冊。
吉川 ひろみ
発行 2008年11月判型:B5頁:160
ISBN 978-4-260-00748-1
定価 4,180円 (本体3,800円+税)

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はじめに

 私は,作業療法士としての仕事に意味を見出すことが,なかなかできずにいました。
 病院や施設で,患者や利用者が“作業”をしています。彼らは自分がした作業の報酬を受け取るのではなく,逆に診療費や利用料を支払っています。そんな作業療法の現場を見て,私はおかしな光景だと思いました。作業ができない人は,病気であったり怪我をしていたりという状態なので,まずは病気や怪我を治して,それから作業をすればよいと思ったからです。誰でも病気や怪我をしたら,それまでしていた「作業」を休みます。学校や仕事を休んでも病気や怪我が理由なら世間では仕方がないと思われているので,怠けていると叱られることもありません。ところが,作業療法では,病気や怪我の状態でも,できる範囲で少しずつ作業をすれば,それが治療になり,早く健康になれるというのです。
 学生時代も作業療法士になってからも,かご編み,積み木,ぬり絵などが本当に治療になると,本気で信じることはできませんでした。デイケア利用者と一緒にバレーボールやトランプをして遊んでいるように見えることをして給料をもらうのは悪いように感じていました。それでも,木片にやすりがけをする漸増抵抗運動や,絵を描いて深層心理を表現することが一種の治療なのだとすることに慣れ始めた頃,COPM(シーオーピーエム:カナダ作業遂行測定)とAMPS(アンプス:運動とプロセス技能モデル)に出会いました。どちらも1993年のアメリカの「作業療法雑誌」(American Journal of Occupational Therapy)に紹介されていたものです。

 COPMは,「クライエントに何をしたいかを聞く」という単純な手法です【第1章,第3章】。目新しい概念ではありませんでしたが,COPM開発グループの代表者であるマリー・ロー(Mary Law)のADL評価に関する論文や,COPMマニュアルを読み進めるうちに,カナダの作業療法士たちの真摯な取り組みに感心しました。そしていざCOPMを実際に使ってみると,さまざまに気がつかされるポイントがあったのです。「作業療法が目指すものは何なのか」を考え,これまでの自分とクライエントの関係を見直すことにも繋がりました。その後,1998年にみずからCOPMマニュアルの原著第2版を翻訳することになり,周囲とともにCOPMを本格的に臨床で使い始めてから,本当にじわじわと“クライエント中心の作業療法”を知ることができたように思います。

 AMPSは,クライエントが自身のやり方で料理や掃除などの日常生活の動作をしているところを観察して,行為の円滑さの度合いを点数で表す評価法です【第2章,第3章】。
 1997年にカナダのトロントで開催された5日間に及ぶAMPS講習会参加後の達成感や充実感は格別でした。AMPSを開発したアン・フィッシャー(Ann Fisher)は,作業に焦点を当てたトップダウンアプローチを強力に推進していました。2000年からは日本でもAMPS講習会が開催されるようになって,私も講師を務めるようになってから,作業療法という領域独自の視点と,ここにある確実な技術を感じることができるようになりました。
 COPMとAMPSを知ってから,作業療法士はよい仕事だと心底思えるようになりました。COPMとAMPSを1人でも多くの作業療法士に知ってほしいという気持ちから,この本を書きました。さらに,COPMやAMPSを使うこと(図,本サイトでは省略)を通して,作業療法全体を見直す視点をもつことができたので,作業療法の捉え方についても書いてみました【第4章】。

 COPMもAMPSも,それぞれ1つの測定手段に過ぎませんが,この事柄を測る道具を使って,考え,実践することで,将来の作業療法が発展していく可能性を感じています。

 2008年10月  吉川ひろみ

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はじめに

第1章 好きこそものの上手なれ―幸せを感じる作業を見つけるCOPM
 I COPM開発の背景
  クライエント中心の実践
  クライエントと作業療法士の協働
  人─環境─作業モデル
  カナダ作業遂行モデル
  COPMの価値
 II COPMの実施手順
  第1段階 重要な作業の探索
  第2段階 優先順位の決定(10段階で重要度評定)
  第3段階 これから取り組む作業の決定と遂行度と満足度の評定
  第4段階 遂行度と満足度の再評価
  COPMの日常的使用
 III COPMの適応と不適応
  介護者がCOPMの回答者の場合
  クライエントの言っていることが信用できないと思われる場合
  クライエントがCOPMに不快感をもっていると思われる場合
 IV COPMでわかる作業の問題
  COPM Q&A

第2章 習うより慣れろ―できてる加減を測るAMPS
 I AMPS開発の背景
  AMPSの課題
  技能項目
  AMPS概念モデル
  測定値の算出方法
  AMPSの価値
 II AMPSの実施手順
  環境整備
  面接準備
  面接による課題選択
  環境設定
  課題契約
  観察
  採点
  コンピュータ入力
  AMPSの日常的な使用
  AMPS実施のために
 III AMPSの適応と不適応
 IV AMPS技能項目
  スタビライズ(Stabilizes)
  アラインズ(Aligns)
  ポジションズ(Positions)
  リーチズ(Reaches)
  ベンズ(Bends)
  グリップス(Grips)
  マニピュレーツ(Manipulates)
  コーディネーツ(Coordinates)
  ムーブズ(Moves)
  リフツ(Lifts)
  ウォークス(Walks)
  トランスポーツ(Transports)
  キャリブレーツ(Calibrates)
  フローズ(Flows)
  エンデュアーズ(Endures)
  ペーシズ(Paces)
  アテンズ(Attends)
  ヒーズ(Heeds)
  チュージズ(Chooses)
  ユージズ(Uses)
  ハンドルズ(Handles)
  インクァイアーズ(Inquires)
  イニシエーツ(Initiates)
  コンティニューズ(Continues)
  シークエンシズ(Sequences)
  ターミネーツ(Terminates)
  サーチズ・ロケーツ(Searches/Locates)
  ギャザーズ(Gathers)
  オーガナイズ(Organizes)
  レストアーズ(Restores)
  ナビゲーツ(Navigates)
  ノティス・レスポンズ(Notices/Responds)
  アジャスツ(Adjusts)
  アコモデーツ(Accommodates)
  ベネフィッツ(Benefits)
 V AMPS技能項目を使った観察と記録の作成
  技能項目を使った観察
  技能項目から観察記録を作成
  AMPS Q&A

第3章 案ずるより生むがやすし―まずはやってみるところから
 I はじまりは作業ニーズの発見から
 II プロセスモデル
  作業遂行プロセスモデル(OPPM)
  作業療法介入プロセスモデル(OTIPM)
  作業療法実践枠組み(OTPF)のプロセス
 III 理論の役割
  還元主義と全体主義
  トップダウンアプローチとボトムアップアプローチ
  国際分類:ICIDHとICF
  人間作業モデルとカナダ作業遂行モデル
  精神分析理論と行動療法
  中枢神経系感覚運動障害の治療理論:ブルンストロームとボバースのアプローチ
  倫理学の理論:功利主義と義務論
  客観主義と主観主義
  クライエント中心主義と障害中心主義
  チームアプローチの形態:他職種連携チームと多職種混合チーム
 IV クリニカルリーズニング
  手続き的(procedural)リーズニング
  相互交流的(interactive)リーズニグ
  状況的(conditional)リーズニング
  叙述的(narrative)リーズニング
  実際的(pragmatic)リーズニング
  倫理的(ethical)リーズニング
  作業療法士の成長とクリニカルリーズニング
 V 成果測定
  介入前後の変化
  経過のモニター
  研究との比較
  費用対効果
  評価のレベル
  数値以外の成果

第4章 旅は道づれ―偶然と発見が後押しする作業療法の道のり
 I 「作業療法」と呼ばれなかった作業療法
  団体旅行への参加
  ラジオ作り
 II 広がる作業
  車の運転と体験記執筆
  掃除
  パソコン教室
 III 別の作業
  うこっけい
  釣りに行く
 IV 特別な才能
  日本地図
  ピアノ
 V 変わる環境
  幼稚園での作業
  家の改築
 VI 作業療法の歴史:作業の治療的利用から人生の作業へ

おわりに
索引

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作業の力強さと魅力を感じられる一冊
書評者: 宮崎 宏興 (特定非営利活動法人いねいぶる理事長)
 本書についての感想を一言でいえば,「クライアント中心の作業療法を学ぼうとする者にとって,(実践の内容を)感じとりやすく・読み手にやさしい一冊」である。

 COPMやAMPSを用いた作業療法の実践に関して,背景となる理論や評価概要の説明にとどまらず,その手順やQ&Aも含めてわかりやすく,またクライアントとのかかわりにおけるアイディアも具体的に例示されているため,実践の参考となる点も多い。加えて,読み手にわかりやすいように用語説明や文献紹介が配置されていたり,用いられている挿絵も楽しく,随所に読み手に学びやすいような工夫がなされている。まるで,学ぶ者が自らの力で“読む作業”が行えるように本書が作成されているようにさえ感じる一冊である。

 私は日ごろ,地域活動や就労に関する支援を行っているが,障害を持ちながら地域社会で暮らす人々にとって,クライアント自身が希望する作業に取り組むことの大切さを日々感じる。暮らしは,住環境,食,経済,医療などの自己維持的な基本的側面から,やりがい,楽しみ,恋愛,仲間,愛着など,人生を生きているという証しのような側面まで幅広い作業が連なりをもって営まれている。日々の生活を営むことへの希望や悩みを持つクライアント,現在や将来の生活に対して希望や悩みをもつクライアント,自分の生きる意味や人生観に対して希望や悩みをもつクライアントなど,今の暮らしのあり様や,回復の“深み”によって,“どんな作業ができるようになりたいか”もさまざまである。その作業を共に考え,探していくことがCOPMで,また,今までの暮らしやその経験を最大限に活かして“自分の行いかたのクセ”を確認し合い,自分にとって,より少ない努力で,効率的で,安全で,自立的で,なおかつフィットする上手な行いかたを見つけていくのがAMPS。この2つの評価法は,作業療法がクライアントにどんな援助を行うのかを実に的確に示しており,クライアント自身の力で健康になろうとすることを保障し,力づけ,作業し続けることを促進するだろう。

 著者である吉川ひろみ氏が,クライアントと共に歩む作業療法を学び実践しようとする者の苦労やコツについて常に敏感で,またご自身の経験を重ねる中から多くの知見を得られていることが随所から伝わり,氏から読者への熱いエールのようにも感じとれる。

 クライアントのできるようになりたいことを知り,クライアントと共に考え,共にチャレンジできること。また,クライアントは自身の専門家として,作業療法士は作業の専門家として,共に力を出しあってクライアントが望む健康さに向かって歩んでいく……。またその実践は,クライアントがもつ社会や役割の広がりを育み,次第に多くの仲間を作りながら,有能なチームとして成熟されていく……。そんな作業の力強さと魅力をも感じられる一冊である。
オーダーメードの作業療法を実現するために
書評者: 辻 薫 (大阪発達総合療育センターリハビリテーション部)
 2000年,日本での第1回AMPS(運動とプロセス技能評価)講習会が広島大学で開催され,アメリカとオーストラリアから講師が訪れ,このグローバルスタンダードな評価法を学ぶチャンスを得た。後にAMPS日本人講師となる著者,吉川ひろみ氏との出会いの場でもあった。引き続き,COPM(カナダ作業遂行測定)翻訳者として,新時代の作業療法の視点とカナダ作業遂行モデルについて存分に伝達していただく機会を経て,彼女がわが国の作業療法のリーダーとなることを確信した。現在,作業科学研究会にも籍を置き,世界トップレベルの学際的シンクタンクである先進国,アジア諸国の作業療法士と肩を並べ,作業療法の素晴らしい効用を唱え,また誰よりも作業療法を熱く語る作業療法士である。その彼女が,クライエント一人ひとりの個性に合わせたサービス提供を可能にする評価法,COPMとAMPSについて,大変わかりやすい解説書として書き上げたのが本書である。

 内容は,スターティングガイドとして,クライエントを想像しつつ,作業療法の旅,人生の旅を共に楽しむことができるような章立てがなされている。全4章のテーマは,第1章「好きこそものの上手なれ―幸せを感じる作業を見つけるCOPM」,第2章「習うより慣れろ―できてる加減を測るAMPS」,第3章「案ずるより生むがやすし―まずはやってみるところから」,第4章「旅は道づれ―偶然と発見が後押しする作業療法の道のり」であり,作業療法の魅力を存分に発信し,読み終えれば,人の生活の豊かさを作業的にとらえる意識変換を迫ってくる。人の理性には惜しみなく文献考察から理論的根拠を提供しつつ,豊富な事例とエピソードを紹介することで,人の感性にも満足感,達成感をもたらす構成となっている。本文中には読者が抱く疑問に語りかけるように,随所に吹き出しで丁寧な説明があり,使う前に抱く不安や,使いながら突き当たりそうな壁にはQ&Aが用意されているという周到さである。

 21世紀の医療はオーダーメードが提唱され,医学研究分野での遺伝子解析の進歩により,個人の遺伝子にあった予防や治療法の研究が始まっている。同じくクライエント中心の実践,その人にとって意味のある作業をどのようにするかを決めていくオーダーメードのカナダ作業遂行モデルとその測定方法としてのCOPMは時代の先端ツールである。また,見えにくい作業療法士の専門性をわかりやすくするために開発された,自然の日常生活で行う作業能力を観察測定できるAMPSも,コミュニティベースの医療サービスには欠かせないツールである。

 これからの予防保健,地域医療,子育て支援,特別支援教育において,本書が活用されれば,その人にとって生きづらいと感じる作業を,COPMで幸せレシピへ,AMPSで好みの味へ仕上げる作業療法が可能となり,三ツ星作業療法士が誕生するにちがいない。

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